ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜 作:ブルー人
タイガスパークのデザインが好みすぎて購買欲が揺らいでいます……。
————知らない光景が流れ込んでくる。
身動きがとれない闇のなかは、まるで独りきりの映画館のようだった。
他に何もできることはない。だからあたしは上映されている映像を見続けることしかなかった。
大きなスクリーンに映し出されているのは————きっと“彼”がその手でしてきたこと。
破壊。
絶望。
恐怖。
そして愉悦。
これらにはっきりとした名前が付けられたのは、彼にとってつい最近のことだった。
それまでに彼はあらゆる星を喰らい、多くの生命を奪い尽くしてきた。
あたしはそれを……とても悲しいものだと感じた。
被害に遭った星の住人が?…………確かにそれもある。何も知らないまま一方的に命を奪われるなんて普通じゃない。想像しただけで胸が張り裂けそうになる。
けれど頬に伝っているこの涙はきっと————
(——————)
彼に対しての感情だ。
◉◉◉
『はぁいローグ、元気してた?』
「ユイ……ちゃん?」
スマホ越しに聞こえてくる少女の声にミカと月は息を呑む。
代表戦の直後に行方をくらませたユイが…………今になって連絡を。
『今って東都にいたりする?』
「そ……そうだけど……」
『…………もしかして浦女?』
「えっと……その……」
そばで様子を見守っている月を一瞥し、ミカは迷うように答えるのを渋る。
正直言って……ユイが難波重工に対して絶対的な忠誠心を抱いているわけではないことは薄々わかっていた。むしろ何か別の目的のために利用しようとしている節があったことも。
そして代表戦の際に彼女が起こした行動を見て、それは確信に変わった。
ユイはまだ何かを企んでいる。もしかしたらまた…………AqoursやSaint Snow、スクールアイドルに対して攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
今ここで浦の星女学院の名前を出してしまえば————
『ねー聞こえてるー?どこにいるのって聞いてるんですけどぉ』
————『お互いの良いと思えるところを尊重し、悪いと思うところを補い合う……!それが友達————仲間ってもんだろうが!!』
不意に、青年の声が頭に響いた。
「ゆっ…………ユイちゃんは……今どこにいるの?」
動悸が激しくなり、全身から汗が吹き出てくる。
精一杯の勇気を振り絞り、ミカはユイに対して質問を投げ返した。
『はい……?先に聞いたのはこっちなんですけどー?』
「か、会長まで裏切って……この先どうするつもりなの……!?」
『ねえ、なに?うざいんだけど……さっさと今いる場所を教えてくれればいいんだって』
「だ……ダメ……!先に……ユイちゃんがどこにいるのか……教えてよ……!」
じっとりとした手で強くスカートを握りながらそう返答する。
ユイの意思への叛逆。これまでの自分なら罪悪感に負けて言いなりになってしまっただろう。
だが今は……違う。変わろうと努力しなければならない。
なぜなら間違いを指摘できるのが————“友達”だから。
『…………』
従おうとしないミカに戸惑っているのか、ユイはそれ以上なにも言い返そうとはしなかった。
「ねえ、ユイちゃん……もうやめようよ。今までユイちゃんがなにを考えて行動してきたかはわからない…………でも、こんなのダメだよ」
自分達を囲む環境が大きく変わってしまった日のことを思い出す。
Bernageというグループを結成した後も、多くの人を騙し弄んできた。
ファンの人をスマッシュにし、自作自演でライブをめちゃくちゃにし、挙句スクールアイドルそのものを壊そうとした。
……許されないことをしたのはわかっている。けど、だからこそ————
「誰かを利用したり、傷つけたりするのはいけないことなんだよ。与えるのは絶望じゃなくて……希望じゃないと。だってわたし達は…………スクールアイドルでしょう……?」
————これ以上過ちを繰り返すわけには、いかないんだ。
『————仕方ないか』
「……え?」
ぶつり、と通話が切れる音が耳に滑り込んでくる。
最後に残した言葉を最後に、ユイが連絡してくることは…………2度となかった。
「ま、ともかく……これで一件落着だね」
背もたれに寄りかかりながら身体を伸ばした千歌がその場にいた全員と順に顔を見合わせる。
「戦争が終わったってことは……理亞ちゃん達も北都に帰れるね」
「そうね。……お尋ね者も見つかったことだし」
「……」
肘でつついてくる理亞にタクミは居心地の悪そうな顔で見返す。
「せっかくですし、少し観光でもしていきますか?」
「え、いいの姉様?」
「あっ!なら私がこの辺案内しますよ!」
「ルビィも!」
「もうこの際、みんなで遊びに行っちゃおうか」
「それいい!……あ、じゃあやっぱり東京行こうよ!トーキョー!!」
曜の言葉に賛同するように明るい表情が広がっていく。
窓の外を見てみればもう日は沈みかけ、夕焼けの光が差し込んでくるのが見える。
穏やかな寝顔を浮かべている梨子のそばで、千歌達は開放感に溢れた会話の花を咲かせていた。
「あれ……まだいたのか?」
賑やかな雰囲気で満たされた部室にキリオが舞い戻ってくる。
「あ、キリオくん聞いてよ!今度みんなで東京の方に行くんだけどキリオくんも————!」
詰め寄ってくる千歌に圧倒されつつも、キリオは嬉しそうに語り始める彼女の顔を見て自然と口元を緩めた。
「……よかったな」
その様子を眺めていた少年がひとり呟く。
戦争の終結を見届けた者達がようやく羽を休める時間を得たんだ。舞い上がってしまうのも無理はない。
少年————リュウヤは猫のように大きなあくびをした後、改めてキリオ達の憑き物が落ちたような表情を見て小さく笑った。
◉◉◉
「さて…………」
暗闇に紛れて巨大な施設を狙う影がひとつ。
物陰に潜みながら政府の保有する研究施設を観察するその影の手には…………大量のフルボトルがはめ込まれた“パネル”が握られていた。
「さよなら〜」
「じゃあねみんな」
「ああ、気をつけて帰れよ」
夕焼けの光も闇色に変わってきた頃。
次々とバスを降りていく生徒達を見送り、最後まで車内に残っていたのはキリオ、リュウヤ、タクミ、千歌、曜、梨子、月……Saint Snowの鹿角姉妹。そして今日加わったばかりのミカ、計10人。
「火星の王妃……?どういうこと……?」
「あー……梨子ちゃんは記憶してないパターンか……」
「ま、詳しいことはいずれ話すよ」
まだ不安要素が完全になくなったわけではないが、帰りのバスの空間には戦争が起こる以前の和気藹々とした空気が戻ってきた。
……このまま順調に千歌達がいつもの生活に戻れることを強く願いたい。
「そういえば……氷室はこれからどうするつもりなんだ?」
終始うつむき加減なミカにリュウヤが何気なくそう尋ねる。
彼女は目を合わせないまま、辛うじて聞き取れる声量で返答した。
「……明日には……西都に戻ろうと思ってる」
「え、そんなすぐに!?」
通路を挟んでミカの横の席に座っていた千歌が上体だけを彼女に寄せてそう問う。
「だって……いつまでもここにいる理由もないでしょ……?」
「えー!?ミカちゃんも一緒に東京行こうよ!」
「は……?」
「そうだぜ氷室!俺ももう少しはキリオのとこで世話になるつもりだしよ!」
「えぇ?お前まだ居座る気だったのかよ?」
「あ?悪いかよ」
やがてギャーギャーと言葉の投げ合いが始まると、賑やかだった車内をさらに騒がしくする笑いが充満していく。
「…………」
自分に対して一切の非難をぶつけようとはしない皆の様子を見て、ミカは自然と表情を呆然としたものに変えた。
ふと視界に入った月と目が合う。
「ほらね?」と月の口が動き、彼女はミカに対して小さく親指を立てつつそれをひっそりと示した。
「そういえば……ミカさんは泊まる場所の当てはあるんですか?」
奥の席に腰を下ろしていた聖良が前方に座るミカに向けて問いかける。だがミカが「ある」と答えるわけがないことはこの場の全員が承知していた。
するとキリオが前の席から顔を覗かせ、よそよそしく身体を縮ませているミカに向けて口を開く。
「俺の部屋で眠ればいい。万丈とも共有になるが……そこそこ広いし3人程度なら余裕だろ」
「えっ……」
「うわっ……!キリオくんったらナチュラルに女子高生を自室に連れ込もうとしてる!?」
「鞠莉ちゃんに言っちゃおー」
「ちげーよ!善意で提案してんのにそういうこと言われると傷つくでしょうが!!」
ただでさえ聖良と理亞が十千万の部屋を特別に使わせてもらっているんだ。これ以上高海家に迷惑をかけないためにも、万丈と同じく自分の地下室に滞在してもらったほうがいいと思っただけだ。
それと
「客室に使ってない空き部屋はまだあるんだし、万丈くんだってそっちにいればいいのに」
「いや、俺は
「そっか。……ねえミカちゃ————」
もう一度ミカに話を振ろうと千歌が横に顔を向け直すが、同時に硬直。
ミカの目元から流れ落ちる雫に気がつき、千歌達は戸惑いの混じった顔を見せながら引き波のように静まり返った。
「ミカ……ちゃん……?」
「え……?————あれっ……やだ……どうしてわたし……なんで、泣いて……!」
慌てて頬を伝う涙を拭おうとするミカだったが、いくら払拭しても絶え間なくそれは溢れてくる。
「氷室……」
真っ赤になった目元を擦る少女の姿を見つめ、リュウヤはじんわりと広がってくる熱い感情に瞳を潤ませた。
つり上がっていた目つきが下がり、戦争が始まる以前の彼女を思わせる臆病な表情を露わにしている。
「そう……だよね。ずっと辛い想いしてきたんだよね」
「へ……?」
千歌は両手を伸ばすと、震えているミカの右手を優しく包み込みながら囁くように言った。
「あんなことして平気なわけないよね。……人を傷つけて、傷ついて……戦争の道具として使われるなんて普通じゃないよね。そんなの……スクールアイドルの君がやりたいと思うわけないもんね……!!」
それはまるで自分の身に降りかかったことを悲しむかのような、目の前で涙を流している女の子に対しての励ましだった。
ミカの悲しみを分かち合うように…………千歌は同じように心を痛める。
「でも、もういいんだよミカちゃん。もう無理しなくていい。これからは自分の心に聞いて、自分がしたいと思えることを全力でやろうよ」
「……っ……う……!」
————その瞬間、やっと理解できた。
自分に絶望し、生きる気力も失ったまま瓦礫の下敷きになることを選ぼうとしたあの時……どうして自分は最後に立ち上がれたのか。
たとえ全てをかなぐり捨てたとしても、
どれだけの痛みを心に刻み込まれようとも、
……やりたい。自分はまだ————生きてスクールアイドルがやりたいんだ。
「ごめん……なさい……!ごめんなさい……っ!!」
ミカにとって嬉し涙を流しながらその呪文を唱えるのは————生まれて初めてのことだった。
(……もう、心配する必要はなさそうだな)
泣きじゃくるミカを抱き寄せる千歌を見て微かに笑う。
後ろで和解を終えた少女達から目を離し、キリオはふっと一息ついた後で深く座席に座り直した。
……そう、戦争は終わったんだ。もう彼女達が傷つく必要はない。
(ようやく……俺の求めていた平穏が帰ってくる————)
沈みゆく太陽の光を反射して輝いている海を窓から眺め、穏やかな気分に浸る。
キリオは疲れ切った身体をシートに預け、十千万に到着するまで一眠りしようと瞼を閉じた。
……その時、
「……首相?」
またも塔野首相からの着信がビルドフォンに入り、渋々耳元へそれを持っていく。
「はい?」
『まずいことになった。今すぐ出動することは可能か?』
「え?一体なにが————」
「うおっ!?」
「わあっ!?」
詳細を尋ねようとしたところで突如として大地が揺れ出し、走行していたバスの進路が狂う。
「……!なんっ……だ……あれ……!?」
ふと視界に入った光景に目を奪われる。
蛇行する車両に翻弄されながらも、キリオは咄嗟に反対側の席へと移り窓の外を覗いた。
「スカイウォールが————!」
「変形してる……!?」
遠方に見える黒い壁。見慣れていたはずの障壁が周囲の建物を巻き込みながら大きく移動している様子が僅かに確認できる。
千歌達もそのことに気がついたのか、窓際に近づいてはその信じられないような光景に目を見開いていた。
「なにが……起こっているんだ……!?」
『……奴だ』
キリオが吐露した疑問に対し、通話越しに塔野首相が口を開く。
『ブラッドスタークに……パンドラボックスを奪われた』
「なんですって……!?」
『おそらく奴が箱の力を解放し、壁を操っているのだろう』
徐々に組み上がり、塔のようなシルエットを形成していくスカイウォール。
その景色はさながら————キリオ達に世界の終焉を連想させた。
ミカとの和解を経て明るい日常へと戻る……ことはなく、再び行動を起こしたスタークがパンドラボックスの力を一部起動。ついにタワーが姿を表しました。
エボルの登場も近い……。
完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?
-
後日談として日常もの
-
シリアス調のもの
-
両方
-
別にいらない。