ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜   作:ブルー人

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また少し忙しくなる時期がやってきました。
しばらくは書き溜めた分をちょこちょこ投稿していく予定ではありますが、以前よりは間隔が空いちゃうかもしれません。


第57話 パンドラボックスの開錠

「みとねえーーーー!!しまねえーーーー!!」

 

 

人も、建物も、突然空へと伸びた壁によって何もかもが吹き飛んでいく。

 

まだ幼かった少女は周囲から聞こえてくる悲鳴に耳を塞ぎながら、訳も分からず街中を逃げ惑っていた。

 

「なんなの……これ……」

 

やがて地鳴りが収まると同時に天を仰ぐ。

 

神話の1ページでも見ているかのような、とても現実味のない光景が————そこに広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また……同じことが……」

 

変形していくスカイウォールを視界に入れた千歌がふと呟く。

 

バスの中から見えるその光景は5年前と同じ……“スカイウォールの惨劇”、その再来と表現する他ないものだった。

 

「くそっ……!氷室、千歌達を頼む!万丈——は故障中だったか。行くぞ猿渡!!」

 

「ああ!!」

 

「あ……!ちょっと!?」

 

停車したバスの窓から飛び降りたキリオ、タクミの2人が瞬時にドライバーを装着し、目標である壁を睨みながら変身を遂げる。

 

「「変身!!」」

 

《鋼のムーンサルト!ラビットタンク!!》

 

《ロボットイングリス!ブラァ!!》

 

タクミはヘリコプターフルボトルをツインブレイカーに装填しプロペラを形成、キリオはビルドフォンをバイク形態へとチェンジさせそれに跨る。

 

「待て、俺も————!!」

 

「うおっ……!」

 

発進しようとアクセルを捻るキリオ。その直後にリュウヤが強引に同行しようと背後へと飛び移ってきた。

 

「お前な……!」

 

「葛城があの壁を操ってるんだろ!?だったら俺も一緒に行く!……頼むキリオ!今度こそ……あいつの目を覚まさせてやりてえんだ!!」

 

必死にそう弁明するリュウヤを見て、キリオは「相変わらずだな」と小さくため息をついた。

 

「万丈くん、あの……!」

 

バスから身を乗り出し、詰まるような調子で何かを伝えようとするミカ。

 

リュウヤはヘルメットを被りつつ、彼女に対して微かに笑みを見せると安心させるように言った。

 

「氷室は高海達を守ってやってくれ。……大丈夫だ、葛城は絶対に……俺が連れ戻してみせるから」

 

「————行くぞ!!」

 

リュウヤが言い終わると同時にマシンビルダーの車輪が高速回転。瞬く間にバスから離れると猛スピードでスカイウォールのある方向へと走り去っていった。

 

残された少女達は再び黒い壁へと目を移し、改めてその不気味な外観に小さく身体を震わせるのだった。

 

「……梨子ちゃん?」

 

不意に隣に立っていた梨子へ視線を流した千歌が口を開けたまま硬直する。

 

彼女の瞳は————ぼんやりとした翡翠の輝きを帯びていた。

 

 

◉◉◉

 

 

あちこちで飛び交う人々の悲鳴と騒音。

 

「ハハッ……!」

 

形成されつつあるタワー付近で指揮棒を振るうかのように舞っているスタークには、それらがオーケストラのように調和のとれた美しい音色に思えた。

 

「フハハハハ……っ!ハハハハハハハ!!ブラボォー!!」

 

芸術品を褒め称えるように両手を掲げる。

 

混乱し散り散りになっていく人々を背景にして行われたその仕草は、奴だけが別世界にいるかのような錯覚を覚えさせた。

 

 

 

 

 

 

「葛城ッ!!」

 

「んん……?」

 

背後から投げられた声に反応し、スタークは抱えていたパンドラボックスを地面に置きつつ身を翻す。

 

並び立つビルドとグリス、そして1人の少年を見やり、奴は大げさに腕を広げては言った。

 

「おおっと……これはこれは仮面ライダー諸君。お早い到着だ」

 

「お前……スカイウォールに何をした?」

 

身構えながら尋ねてくるキリオと視線を交わし、スタークは静かに口を開く。

 

「手元にあったボトルとパネルを使って、パンドラボックスの力をちょっとばかり解き放っただけさ。……ま、これじゃあ星を滅ぼすには足りないがな」

 

中途半端な段階で組み上げられたタワーを指しながら得意げに語るスタークに対し、キリオ達の疑問は増えるばかりだった。

 

以前パンドラボックスの研究をしていた際に箱が二重構造であることはキリオ自身もわかっていたが……スタークはそれをどこで知った?

 

「……その赤と青のパネルは……」

 

「赤いパネルは西都から、青いのは北都から頂戴したものだ。……あとはお前らが持つパネルとボトルが揃えば塔は完成する」

 

元々箱を保管していた東都でなければ知り得ないはずの情報を、スタークは最初からわかっていたかのように言ったのだ。

 

赤と青、各2枚。

 

奴が抱えている1枚と、足元に置かれたパンドラボックスにはめられた3枚、計4枚のパネル。おそらく戦争が起こった際の混乱に乗じて奪い去ったものだろう。

 

……いや、それよりも————

 

「星を滅ぼす……?どういうことだよそれ……!説明しろよ葛城!!」

 

今にも飛びかかりそうな勢いで前へと出たリュウヤが困惑と怒りの混ざった表情で問う。

 

「言葉通りの意味だよ。……地球も火星と同じ運命を辿る、それだけだ」

 

「あぁ……?」

 

怪訝な顔でスタークのマスクの下を見据えたリュウヤは、苦しそうな声音で奴に語りかけた。

 

「もう戦争は終わったんだ……!それなのに……これ以上、なにをやろうってんだよ……!?」

 

バスの中で見た少女の涙を思い出し、彼は拳を強く握りながら続ける。

 

「氷室も、高海達も……みんな全部元通りになることを願ってる。前みたいに楽しく……笑い合いながらスクールアイドルができる日々を心の底から望んでるんだ……!だから……わけわかんねえこと口走ってないで、お前も————!」

 

「くだらねえ」

 

「……は?」

 

「くだらねえって言ってんだよ。お前らが言うスクールアイドルってもんは……まさに1人じゃ何もできない人間共が好みそうな文化だ」

 

リュウヤの言葉を遮り、スタークは低くそう言い放つ。

 

「前にも言っただろう、スクールアイドルはオレにとって破壊のための手段でしかない。……オレの求めるものは純粋な力だけだ、勘違いしてもらっては困る」

 

「お前……なんで……!どうしてだよッ!!」

 

「……!万丈よせ————!」

 

キリオの制止を振り払い、リュウヤはドラゴンフルボトルを片手に駆け出す。

 

「ふっ……」

 

予想通りだとでも言うかのように小さく笑ったスタークがパンドラボックスを踏みつけた直後、

 

「なっ……!?」

 

箱から一直線に伸びた熱線がリュウヤの身体に直撃し、横倒れになった彼はその場で意識を失ってしまった。

 

「万丈!!」

 

「スタークてめぇ……!」

 

走り出したグリスがツインブレイカーを構えながら奴へと接近。素早く奴へ打撃を繰り出すが、その全てが難なくいなされてしまう。

 

 

 

「万丈!……万丈ッ!!」

 

グリスとスタークの戦闘を尻目に、キリオはすぐさまその場から駆ける。

 

リュウヤの意識を取り戻そうと呼びかけるが、いくら叫んでもピクリとも動かない彼に狼狽の汗をにじませた。

 

「……?」

 

ふと倒れ伏した彼から転がり落ちた物が視界の端に映る。

 

それは周囲の空間が歪むほどの高熱を帯びた————1本の黒いフルボトルだった。

 

 

 

闘牛の如き勢いで放たれるグリスの攻撃を受け流しながら、スタークは自らの余裕をアピールするように饒舌な物言いで伝える。

 

「ハザードレベル4.4か。ただの人間にしてはかなりのものだが……お前じゃこれ以上の成長は望めない。元々強引にハザードレベルを引き上げていたんだしな」

 

「それがどうした……!言っとくが俺は……万丈(あいつ)みたいに情けをかけるつもりはねぇぞ……ッ!」

 

空気を切り裂きながら突き出した打撃が奴の顔面に迫る。

 

が、しかし。

 

《ライフルモード!》

 

「…………!?」

 

攻撃が当たる直前、不気味なほど柔軟な動きでグリスの懐に潜り込んだスタークは流れるような手つきで銃と剣を連結させ、その銃口を半透明の装甲へと突きつけた。

 

《スチームショット!コブラ!!》

 

赤いオーラをまとった毒々しいエネルギー弾がゼロ距離で炸裂。

 

「ぐああああああ…………ッ!!」

 

放物線を描きながら後方へと吹き飛び、そのままキリオ達のいる場所まで転がるとグリスのスーツが粒子となって消滅。苦悶に満ちたタクミの表情が露わになった。

 

「猿渡……!——くそっ!!」

 

ただ1人動ける者となったキリオは前方に立つスタークを捉え、じりじりと距離を詰めていく。

 

型落ちのシステムでスクラッシュドライバーを装備したタクミを容易くあしらうとは……。

 

間違いない、スタークはトランスチームシステムとは別に、何かしらの“力”を備えている。

 

(まさか本当に……超能力とかいうやつなのか……!?)

 

奴がどれだけの実力を持っているのか未だわからない以上、全力でかかる以外の手はない。

 

ハザードトリガーを取り出し、そのスイッチに指を乗せたその時————

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあ!?」

 

唐突な光と共に姿を現した少女達に驚愕する。

 

「はっ……!?」

 

あまりに突然な出来事に思わず標的から意識を逸らしてしまう。

 

黄金色の輝きをまといながらその場に瞬間移動してきたのは……バスに残っていたはずの千歌達だった。

 

バングルの巻かれた左腕を掲げた梨子が先頭に立ち————微かにその口元を動かす。

 

 

 

 

「————エボルト」

 

 

 

 

「んん……?————ぐぅ!?」

 

彼女が佇んでいたスタークに向けて地面が抉られるほどに強烈な衝撃波を放つ。

 

奴が吹き飛んだ隙を狙い再度バングルが発光。今度はキリオ、リュウヤ、タクミを巻き込みながらその場から姿を消失させた。

 

 

 

 

 

「ははっ……!きゃははははは……っ!!」

 

災害じみた爪痕の上に少女が横たわる。

 

ブラッドスタークの外装が解除され、小柄な身体で仰向けになりながら、少女————葛城ユイは掠れた笑い声を上げた。

 

 

 

 

「…………面白くなってきた」

 

 

◉◉◉

 

 

「うおぉぉおっ!?」

 

またも放り投げられるようにして街道にワープ。

 

打ちつけた腰をさすりながら周囲を確認してみれば、そこには見覚えのある風景が広がっていた。

 

「ここは……」

 

「千歌ちゃんの家……だね」

 

十千万旅館。高海家が経営している宿がすぐ目の前にあったのだ。

 

わずか数秒の間で起きた突然の事態に混乱しつつも、キリオは自分達をここへ運んだ人物であろう女性へと顔を向ける。

 

「……ベルナージュだな?」

 

1人静かに立っていた梨子————もとい火星の王妃に全員の視線が集まる。

 

彼女は口を開く前に、旅館の入口へ向かおうと音も立てずに両足を動かし始めた。

 

「えっと……ベルナージュ……さん?」

 

黙り込んだまま敷地内へ踏み入れたベルナージュの背中に千歌が呼びかける。

 

彼女は威厳に満ちた眼をキリオ達に向け、依然冷たい口調で言った。

 

「ワタシに残された時間は多くない。……これからお前達に、エボルトに関する情報を可能な限り教授しよう」

 

「そのエボルトっての……さっきも言ってたよな?誰かの名前か?」

 

そう問いかけてきたキリオに対し、ベルナージュはなぜか疑念を含んだ瞳を注いだ。

 

数秒の沈黙の後————彼女は長髪を軽くなびかせながら言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「エボルトは星々を喰らうことで自らの糧とする生命体。……お前達が“スターク”と呼んでいる者の、真の正体だ」

 

 

 

 




ついに出ましたねエボルト。
ここからはもうクライマックスまで一直線ですよ。
以前語った通り今作ではエボルトの設定が結構変更されています。
それと今後出てくる強化アイテムに関しても物語の都合上少しだけ設定が変わってくることがあると思います。

P.S
パンドラタワーは内浦付近に現れた設定でいきます(笑)

完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?

  • 後日談として日常もの
  • シリアス調のもの
  • 両方
  • 別にいらない。

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