ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜   作:ブルー人

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ちょっとした解説回です。



第64話 真実のパラドックス

自分は何者なのか。そんなことばかりを考えながら毎日を生きていた。

 

いつまで経っても答えは出なかったが、代わりに本能が「やるべきこと」を教えてくれる。

 

 

 

「…………」

 

 

 

かぶりついた果実の形、色、食感、味…………あらゆる情報がインプットされていく。

 

酸味と甘味が共存するオレンジ色のフルーツ————共に暮らしている少女が「みかん」と呼ぶそれは、とても優しい味がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐは……っ!!」

 

 

拳から伝わる鈍い感覚。これは以前にも経験したことがある。

 

……そうだ。抵抗してくる奴は誰であろうと始末してきた。

 

あらゆる星で……か弱い女性も、子供も……この汚れきった手で、例外なくだ。

 

 

 

「戦兎……お前……!いったいどういうことだ……!?」

 

蓄積されたダメージによってライダーシステムが強制解除され、仮面の下から戸惑いと困惑に満ちた表情を浮かべた少年の顔が露わになる。

 

「戦兎」と呼ばれた青年は、こちらを見上げる彼にひどく冷ややかな視線で返した。

 

「本当の名前がエボルト……って、意味わかんねえぞ……!」

 

「難解なことを言った覚えはないぞ。突然のことで脳が理解しきれていないだけだ、落ち着けばすぐにわかるさ」

 

「ざっけん————!」

 

立ち上がろうとしたタクミの横顔を蹴り飛ばし、転がった彼の背中を思い切り踏みつける。

 

「がぁ……っ!」

 

「無駄なことはよせ猿渡、お前達は敗北したんだ。これ以上戦いを続けても自滅するだけだぞ」

 

「ぐあぁぁああぁあ……!!」

 

今度は踵を彼の背に叩きつけ体力を削ぐ。

 

無駄な抵抗をされればこちらの時間まで奪われてしまう。意味のない戦闘は避けなくては。

 

「やめて……ください……!!」

 

横から腰に飛びついてきた少女へと視線を移す。

 

彼女も戦闘のダメージが影響したのかローグの装甲は解かれており、その弱々しい瞳を真っ直ぐに向けてきた。

 

「どうしちゃったんですか……!?ユイちゃんみたいに、エボルトに身体を乗っ取られたんですか!?」

 

「違うな」

 

「ぅ————!」

 

少女————氷室ミカの首を鷲掴みにし、高く持ち上げる。

 

「やっと取り戻したんだよ……俺の本当のパーツ()を。もう自分が失われることに怯える必要はない。なぜなら今ここに……俺という本当の自分が存在するんだからな……ッ!!」

 

「ぐ……ぅ……!」

 

眼球だけを動かして何かを訴えかけてきたミカを放り投げ、兎の面を被った怪物がゆっくりと“箱”のもとへ踏み出す。

 

タクミとミカとのやりとりを腹を抱えながら眺めていたスタークは、パンドラボックスとその横に眠っている千歌に歩み寄るキリオへと目を移すと、興味深そうな様子で顎に手を添えた。

 

 

 

 

「…………ん」

 

 

近付いてくる気配に気がつき、意識を失っていたはずの千歌は重い瞼を開けるとそばに立っていた異形を呆然と見上げた。

 

「キリオ……くん……?」

 

寝ぼけているようなはっきりしない声で名前を呼んだ彼女の横を素通りし、キリオはジュラルミンケースに入っていた全てのフルボトルを取り出し、同じく収納されていたパネルへとはめ込んでいく。

 

欠けていた箇所が残らず埋まると、彼はそのパネルをエボルトの用意していたパンドラボックスへと勢いよく叩きつけた。

 

「きゃっ……!?」

 

直後に台風の如き凄まじい突風が吹き荒れる。

 

付近に建っていたパンドラタワーが再び変形を始め、周囲のスカイウォールを取り込みその全長をさらに圧倒的なものへと積み上げた。

 

「…………」

 

同時にパンドラボックス内部にあったフルボトル全ての成分が消え去り、代わりに何もない空間から何かが現れる。

 

キリオはそのアイテムを掴み取ると、傍らに座り込んでいたスターク、もといエボルトに向けて投げ渡した。

 

「“エボルトリガー”……!ついにここまできたか……!!」

 

「使えるか?」

 

受け取ったソレを観察しだしたエボルトがおもむろに上部にあるスイッチを押す。……が、特に目立った変化は起きない。

 

「いいや、オレ達が一体化して完全体に至るにはまだお前自身のハザードレベルが足りないようだ」

 

「そうか。……なら出直そう、ちょうどいい相手がいる」

 

「オーケー、ひとまずオレ達の()も完成したことだし、ここは一旦引くとするか」

 

 

 

 

「……えっ……!?」

 

何も口にしないままエボルトのもとへ歩いていくキリオの後ろ姿を見つめ、千歌はわけがわからないといった様子で呼びかけようとする。

 

「キリオくん……!?」

 

ほんの少し肩を揺らしたキリオだったが、彼は振り向きもしないまま無言で暴風のなかに姿を隠し、その場を去っていった。

 

「高海!!」

 

「……!猿渡くん!ミカちゃん!」

 

遠くから身体を引きずりながらこちらへ駆けてくる2人を見つけ、千歌も咄嗟に立ち上がる。

 

パンドラタワーが組み上がり、完成形を見せても尚暴威のような風は収まらず…………生身で行動していた3人は、瞬く間に地面から引き剥がされてしまった。

 

「ぐっ……!」

 

吹き飛ばされた2人の少女と自分を引き合わせようと手を伸ばすタクミ。

 

届かない————そう諦めかけた時、

 

 

 

 

「……!?ベルナ————!?」

 

全身が黄金色の輝きに包まれ…………数秒後には目の前の景色が一変していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫……?」

 

「うん……平気」

 

月から手当てを受けたミカが消えそうな声で答える。

 

十千万旅館…………その地下室に帰還したタクミ、ミカ、千歌の3人は、再び梨子の身体を借りて顕現したベルナージュに向けて疑念に満ちた瞳を向けた。

 

「なあおい、キリオはどうしたんだよ?」

 

「…………」

 

帰ってきた頭数が合わないことに疑問を持ったリュウヤが何気なく尋ねるが、それに返答する者は誰一人としていなかった。

 

「お、おい……どうして黙るんだよ……?」

 

「万丈くん、ちょっと」

 

「おい猿渡……!いったい何があったんだよ!?」

 

「落ち着いて」

 

静かになだめてくるミカを見て我に帰るようにリュウヤがそばにあった回転椅子に腰を下ろす。

 

「……全部知ってたのか?」

 

タクミの問いに王妃が閉じていた瞳を開く。

 

重苦しい空気に皆が俯いているなか、ベルナージュは梨子の長髪を整えながらゆっくりと語り始めた。

 

「ワタシは以前お前達に言ったな、かつてこの手でエボルトの()()()()()()()()()()()と。……もうわかっているとは思うが、戦兎キリオはかつてその肉体部分の役割を果たしていた」

 

「……なんだよ……それ……」

 

「……っ!」

 

淡々と話すベルナージュを見て、冷静さを失ったように髪を浮き上がらせたタクミが立ち上がる。

 

「全部知ってたんだな……?……真実をわかってた上であんたは……!!」

 

「どうして今まで……黙っていたんですか?」

 

横から飛んできた曜の問いに、王妃は相変わらずな調子で無機質な返しをする。

 

「奴が記憶を取り戻すことでエボルトとして覚醒するのを危惧したからだ。……そして、その事態は現実として起きてしまった」

 

「………………」

 

ベルナージュは千歌達と共に回収したパンドラボックスと、空になった大量のフルボトルの方に視線を移しながら続けていく。

 

「どうやら奴はエボルトとしての記憶を失いながらも、この星のエレメントを集めるという役目を果たしていたらしい」

 

「ち、ちょっと待ってよ……!それじゃまるで……最初から……!」

 

「……仮面ライダーとして戦ってきたことですら、エボルトの野郎にあらかじめ設定されていたプログラムに過ぎないってわけかよ」

 

ベルナージュの口から次々と明かされていく真実に、その場にいた全員が絶句する。

 

文字通り最初からだ。……最初から、エボルトの思惑通りに事が運んでいたんだ。

 

 

 

キリオが仮面ライダーとして戦ってきたことも。

 

彼が千歌達と共に過ごすなかで……リュウヤやタクミ、ミカに出会うことも。

 

そして、このタイミングで奴自身が復活を遂げることも。

 

全部————エボルトが望んだ通りに動いていただけなんだ。

 

 

 

 

 

「キリオくんは…………私達のことを、ずっと騙してたの?」

 

先ほどから黙り込んでいた千歌が初めて言葉を発した。

 

それを聞いた皆は一瞬口ごもるも、フォローするように横から代弁を添えていく。

 

「そうじゃないんじゃないかな……」

 

「記憶を失ったふりとか……そういうのじゃなくて、本当に先生自身も知らなかったんだよ」

 

「……でもあいつは俺達から離れた」

 

室内にリュウヤの声音が反響する。

 

記憶を取り戻したキリオがどのような行動に出たのか……その場にいなかった彼でも想像はついた。

 

パンドラタワーを完成させ、エボルトと共に去ったキリオは————間違いなく自分達と敵対するつもりだろう。

 

エボルドライバーを使ってエボルへと変身したことがそれを証明している。

 

「お前達に忠告しておこう」

 

ベルナージュは再度口を開き、受け入れ難い事実に打ちひしがれている皆に向けて冷たく言い放った。

 

「奴らが一つになり、完全体としての力を取り戻せば……それこそ取り返しのつかないことになる。打倒できる可能性があるとすれば、それはこのタイミングに他ならない」

 

「それってつまり……」

 

不安げな顔を浮かべた曜は、ぼんやりと輝きを放っている翡翠色の瞳を視界の中心に捉えて言葉を詰まらせた。

 

 

 

 

 

「戦兎キリオを倒せ。……それ以外に、地球を救う方法はない」

 

 

 

 

◉◉◉

 

 

「それにしても、お前の正体を知った時のあいつらの顔……あれは傑作だったなぁ」

 

薄暗い空間のなか、兎の仮面に表情を隠した青年と怪物が向かい合う。

 

「力を取り戻した後……どうするつもりなんだ?」

 

「そうだなぁ……まずは手駒を揃えるとしようか。親玉がいなくなって大パニック中の難波重工辺りを叩けばすぐに戦力も揃うだろうよ」

 

「……エボルトリガーがあればそんなもの必要ないだろう」

 

「わかってねえなぁ、すぐに星ごと破壊するんじゃ芸がねえだろ?じわじわと……楽しみながら壊していくんだよ」

 

邪悪な笑みを漏らしながらエボルトがそう語る。

 

「……変わったな、お前()

 

「お互いにな」

 

以前の自分は破壊行為に楽しみなんか見出すようなことはなかった。

 

地球で暮らしていくなかで……エボルトとしての思想にも変化が起きたらしい。

 

「抜け殻だったお前はあのスクールアイドル達と共に過ごすことで、オレは葛城ユイの身体に憑依したことでそれぞれ“感情”を取得した。……最初は余計なものまで守ろうとするお前にヒヤヒヤさせられたもんだが……今の様子を見るに、かつての使命を果たすには支障はなさそうだな」

 

膝に頬杖をつきながらこちらを見上げてくるエボルトに、キリオは沈黙で返答した。

 

 

 

 

 

「…………」

 

不意に腰元をまさぐり始めた彼が動きを止める。

 

常に肌身離さず持ち歩いていたはずの物がなくなっていることに気がついたキリオは…………仮面の下で動揺するように眉を震わせた。

 

 

 




キリオは自分の意思でエボルト側に……。
これはまたリュウヤが可哀想になる展開です()

次回、ついにクローズのあの形態が……!?

完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?

  • 後日談として日常もの
  • シリアス調のもの
  • 両方
  • 別にいらない。

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