白竜に憑かれた少女も異世界から来るそうですよ?   作:ねこです

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第5話

 ―――境界壁・舞台区画。大祭運営本陣営、大広間。

 ゲームが中断され、参加者達は宮殿内の大広間に集められていた。負傷者も多数いる中、黒ウサギとジンは十六夜を見つけると心底心配したかのように駆け寄っていく。

 

「十六夜さん、ご無事でしたか⁉」

 

「こっちは問題ない。他のメンツは?」

 

「残念ながら、十六夜さんと弥白さん、黒ウサギを除けば満身創痍です。飛鳥さんに至っては姿も確認できず、今は弥白さんに探してもらっています。………すみません、僕がもっとしっかりしていれば………!」

 

 責任を感じているのか、悔しそうに頭を下げるジン。耀とレティシアは敵との交戦で疲弊し、すぐに戦いを始められる状態ではない。黒ウサギは状況を確認し苦々しい声を漏らした。

 

「白夜叉様の伝言を受け取り、すぐさま審議決議を発動させたのですが………少し遅かったようですね」

 

「そもそも審議決議ってのはなんのことだ?」

 

「〝主催者権限〟によって作られたルールに、不備がないかどうかを確認する為に与えられたジャッジマスターが持つ権限の1つでございます」

 

「ルールに不備?」

 

 YES、と頷く黒ウサギ。伝言の内容は「今回のゲームは勝利条件が確立されていない可能性がある」というものだ。真偽はともかく、ゲームマスターに指定された白夜叉に異議申し立てがある以上、〝主催者〟と〝参加者〟でルールに不備がないかを考察せねばならないらしい。それに一度始まったギフトゲームを強制中断できる審議決議は、奇襲が常の魔王に対抗するための権限という側面もあるそうだ。

 説明を聞いた十六夜は感心したように声を上げるが、黒ウサギは複雑な表情で首を振る。審議決議を行ってルールを正した以上、これは〝主催者〟と〝参加者〟による対等なギフトゲーム。つまり〝このギフトゲームによる遺恨を一切持たない〟という相互不可侵の契約が交わされる。よってゲームに負けても、他の〝サウザンドアイズ〟や〝サラマンドラ〟は報復行為を理由にギフトゲームを挑むことが出来なくなるとの事。

 

「ですので、負ければ救援は来ないものと思ってください」

 

「ハッ、最初から負けを見据えて勝てるかよ」

 

 失笑する十六夜。話が終わると、ジンは十六夜の袖を引き顔を寄せるよう催促する。

 

「………何だよ御チビ様」

 

「言いそびれましたが、弥白さんからも伝言があります。とりあえず端に移動しましょう」

 

 訝しみながらジンと大広間の端まで移動し、十六夜は小声で問いかけた。

 

「それで? 周りに聞かれるとマズイような話なのか?」

 

「はい。弥白さんによると、黒死斑の魔王と名乗った少女のギフトは〝対象を殺すことに特化した伝染性の呪い〟だそうです」

 

「伝染性?」

 

 ジンの話に十六夜は片眉を歪ませながら聞き返す。

 

「はい。〝罹ったら確実に死ぬ風邪〟と認識してくれれば大体あっていると。参加者の中にも既にやられている者がいるかも知れないので、十六夜さん以外は迂闊に人混みには近づかないように、と」

 

「アイツは俺を何だと思ってやがるんだ? いや、それよりも」

 

 敵の正体を考察する十六夜。ジンも思い当たる節があるのか、顔を歪ませている。その表情には、出来れば外れていてほしいという感情が見て取れた。

 

「十六夜さん………敵の、〝黒死斑の魔王〟の正体は」

 

「ああ、お前の予想通りだろうよ。奴の正体は―――〝黒死病(ペスト)〟だ」

 

 

 

 

 

『ギフトゲーム名〝The PIED PIPER of HAMELIN〟

 

  ・プレイヤー一覧

   ・現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ(〝箱庭の貴族〟を含む)。

 

  ・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター

   ・太陽の運行者・星霊 白夜叉(現在非参戦の為、中断中の接触禁止)。

 

  ・プレイヤー側・禁止事項

   ・自決及び同士討ちによる討ち死に。

   ・休止期間中にゲームテリトリー(舞台区画)からの脱出を禁ず。

   ・休止期間の自由行動範囲は、大祭本陣営より500m四方に限る。

 

  ・ホストマスター側 勝利条件

   ・全プレイヤーの屈伏・及び殺害。

   ・八日後の時間制限を迎えると無条件勝利。

 

  ・プレイヤー側 勝利条件

   一、ゲームマスターの打倒。

   二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

  ・休止期間

   ・一週間を、相互不可侵の時間として設ける。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                        〝グリムグリモワール・ハーメルン〟印』

 

 その後、〝黒死斑の魔王〟との審議決議の結果、ゲームに不備・不正は一切なかった。交渉により黒ウサギの参戦許可、ゲームの再開は一週間後、その後24時間経過と同時に主催者側の無条件勝利、という条件で審議決議は終了した。

 弥白は割り当てられた十六夜の私室で契約書類を見た後、飛鳥は敵に捕まったと聞き沈鬱な表情でベッドに座っている。

 

「そうですか………」

 

「ああ。………そう暗い顔すんなよ。奴らは少しでも多くの人材を無傷で手に入れたいと思ってる。捕まってるなら黒死病にやられることもないだろうし、お嬢様は無事のはずだ」

 

 椅子に腰かけながら励ます十六夜。弥白はかぶりを振り、いつもの無表情に戻った。

 

「それで、ゲームの謎解きの方はどうなっているのです?」

 

「大まかには分かってる。『偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ』の一文、この伝承とは一対の同形状であり、〝砕き〟〝掲げる〟事が出来る物と推測される。なら考えられるのはハーメルンの碑文と共に飾られた、ハーメルンの()()()()()()()だ。街中にステンドグラスが飾られてたのはお前も見ただろ?」

 

「………? ああ、言われてみればそんな物もあった気がします」

 

 首を傾げた後、弥白は思い出したかのように頷く。思い出すのに時間がかかったあたり、彼女にとっては興味を惹かれるものではなかったらしい。

 

「ふむ、あの4人はハーメルンの伝承を元にした悪魔という話でしたね。ならペスト、シュトルム、ヴェーザー、ラッテンの中から本物を見つけ、それに対応するステンドグラスを掲げて、それ以外は砕けばいいわけですか」

 

「理解が早くて助かる。問題はどれが本物でどれが偽物かだ。俺はこれからそれを調べに行くが、お前はどうする?」

 

 十六夜は椅子から立ち上がり問いかける、が弥白は固まったまま反応しない。不審に思っていると、弥白が冷めた口調で質問してきた。

 

「………そのステンドグラスも出展物なのですよね」

 

「ああ。サンドラに確認したが、俺達とは別枠の〝ノーネーム〟名義で100枚以上登録されてたみたいだぜ」

 

「なるほど、出展物枠なら白夜叉の主催者権限にも引っかからない。………ところで十六夜、今回の一件は何処かの誰かが裏で糸を引いているそうですが、実際には〝サラマンドラ〟の―――」

 

「弥白、その事はゲーム終了まで忘れてろ」

 

「………………。分かりました」

 

 分かったとは言ったものの、弥白は未だに不服そうな様子でベッドから降りて立ち上がり、そのまま扉へと向かう。

 

「謎解きの方は任せます、わたしは役に立たないでしょうし。それに街中にあるステンドグラスを砕いて回るなら頭数が必要でしょう? こっちで何とかしておきます」

 

「了解。黒死病にやられないように気を付けろよ」

 

「そっちの心配はいりません。手は打ってあります」

 

 やや乱暴に扉を開け歩き出す弥白。相変わらず無表情だが、傍目から見ても明らかに苛立っていた。十六夜はそんな弥白を見送った後、やれやれと肩を竦める。

 

「アイツの事だから馬鹿な真似はしないだろうが、一応気を遣ってやるか。ったく、こういうのはお嬢様の役割だろうが」

 

 今はいない友人に文句を言いながら、十六夜も行動を開始するのだった。

 

 

 

 ―――境界壁・舞台区画。大祭運営本陣営、隔離部屋。

 交渉から5日後、〝ノーネーム〟の同士の中で唯一黒死病を発症した耀は隔離部屋で十六夜達とは別行動になっていた。耀はサンドラの取り計らいで特別に個室を与えられているが、発症した者の殆どは雑魚寝状態という有り様である。

 発熱で頭は霞がかかったように鈍く、意識がはっきりとしない状態でぼんやりと天井を見ていると、ガチャリと扉が開かれ、

 

「おや、起きていましたか」

 

「………弥白?」

 

 弥白が部屋に入ってきた。隔離部屋であるにも拘らず、堂々と入ってきた弥白はそのまま耀に近づいていく。耀は呆れ半分、心配半分に問いかけた。

 

「何しに来たの? それと大丈夫なの?」

 

「黒死病なら問題ありません。強いて言うなら医者の真似事です」

 

 上体を起こし、首を傾げ疑問符を浮かべる耀。まさか黒死病をどうにかできるのだろうか、と考えていると弥白はベッドの隣まで椅子を持ってきて腰かける。

 

「横になっていていいですよ。すぐに済みます」

 

「分かった」

 

 言われた通りに横になる。弥白は耀に手を翳すと、ブツブツと何かを唱え始めた。数分間それを続けた後、

 

「―――『呪抵抗』」

 

「………。なんだか楽になった………?」

 

 弥白が魔術を発動させると、耀は身体が幾分か楽になったのを感じた。怠さは残っているものの、心なしか熱も引き意識もはっきりしてきたようだ。再び上体を起こし、体を伸ばしながら弥白に問いかける。

 

「今のも魔術?」

 

「はい。対黒死病用に術式を調整したのですが、全体の83%も書き換える羽目になりました」

 

「それってもう別物なんじゃ」

 

 少し遠い目をする弥白と冷静にツッコミを入れる耀。彼女自身魔術に詳しいわけではないが、全体の8割も変更すればそれはもうほとんど別物だろう。

 

「でも数日でそこまで出来るなんてすごい」

 

「すごいかどうかは分かりませんが、悪魔の呪いなんてその程度という事でしょう。現物があったというのも大きいです」

 

 懐から黒く染まった結晶の塊を取り出す。耀はそれを手に取り眺めながら首を傾げた。

 

「これが?」

 

「はい。以前の戦闘の時に確保しておきました」

 

 敵のギフト解析の為に確保したものだが、今回はそれが大いに役に立った。これが無ければ黒死病対策も出来ず、弥白自身も黒死病で倒れていたかもしれない。そうなれば元々虚弱な彼女の命はかなり危うかっただろう。

 耀の容体回復を確認した弥白はそそくさと立ち上がると出口に向かう。

 

「一眠りしたら十六夜の所にでも行ってください、謎解きが手詰まりで頭を抱えていたので。わたしは後の予定が詰まっているので次に行きます」

 

「うん。でも正直意外、十六夜でも解けないなんて」

 

「その意見にはわたしも同意します。詳しい話は本人から聞いてください」

 

 部屋から出ようとする弥白の背中に、耀は照れくさそうに言葉を投げかけた。

 

「弥白、その、ありがとう」

 

「ん、どういたしまして」

 

 弥白は首だけ振り返って返事をし、部屋から出ていく。ベッドに潜り込みながら、耀は行方不明の友人の事を考えていた。

 

(飛鳥………絶対に助けに行くから)

 

 飛鳥は自分を守る為に敵に捕まった。今度は私が飛鳥を助ける番だと、耀は決意を新たに眠りに就くのだった。

 

 

 

 交渉から6日、弥白は割り当てられた私室で飛鳥、ではなく黒ウサギに髪の手入れをしてもらっていた。

 

「ふっふーん。どうです? 黒ウサギのブラッシングは」

 

「………飛鳥の方が上手いですね」

 

 んなっ⁉ と黒ウサギはショックでウサ耳をヘニョらせる。献身の象徴とすら謳われる月の兎相手にこんな事を言うような者はそうそういないだろう。そうでなくとも黒ウサギはブラッシングには自信があった、200年も毎日自慢のウサ耳の手入れをしていたのだから当然自信も付くだろう。

 彼女の名誉の為に言っておくと、別に黒ウサギのブラッシングが下手なのではなく、弥白の個人的な補正と今の彼女にはあまり精神的な余裕がないだけである。

 

「そもそも頼んでいませんが」

 

「弥白さん自分でやらないじゃないですか。また荒れてる髪を見たら飛鳥さんが悲しみますよ?」

 

「………………」

 

 その通りだと思ったのか、弥白は無言で目を伏せる。それに善意でやってもらっているというのに今の言い方は無いだろう、という自覚もあった。

 飛鳥がいなくなってから精神状態が不安定で、普段なら気にもしないような事で苛立ち周囲に当たりがちだ。最低限やるべき事はやっているが決して良い状態とは言えないだろう。

 謝ろうとした弥白だが、それより早く黒ウサギが、

 

「………すみません。こうなったのも全て黒ウサギの責任なのです」

 

「なんで黒ウサギが謝るんですか」

 

「………弥白さんは、白夜叉様の忠告を覚えていますか? 『魔王のゲームの前に、力を付けろ。お前達の力では―――魔王のゲームを生き残れない』、と」

 

 黒ウサギは手を止め、声を震わせていた。十六夜達が箱庭に来てからの一ヶ月、黒ウサギはこの言葉を軽んじ、コミュニティの生活の為だけにギフトゲームを紹介してきた。その行いがこの結果、耀は黒死病で倒れ、飛鳥は敵に捕らえられるという事態を招いたのだと、申し訳なさそうに言う。

 自責の念に駆られる黒ウサギに、弥白は首を横に振った。

 

「黒ウサギだけのせいではありません。認識が甘かったのはわたしも同じです。それに耀の黒死病は対処可能でした」

 

 白夜叉がいるから問題ない、と高を括っていたのは弥白も同じだ。それに、飛鳥達に護衛でも付けていれば捕らえられることもなかったかもしれない。プライドの高い彼女がそれをよしとするかどうかは分からないが。

 しかし、黒ウサギはそうではないのです、と続ける。

 

「この修羅神仏が集う箱庭で生まれ育った黒ウサギだからこそ、教えられたことがもっとあったはずなのです。先の先まで見据えた計画を立てねばいけなかったのに、なのに、魔王と対峙するまで安穏と過ごして………!」

 

 自分の情けなさに泣きそうになる黒ウサギ。弥白がどう返そうか悩んでいると、バタン! と勢いよく扉が開かれ、笑みを浮かべた十六夜が部屋に飛び込んできた。ここ数日はゲームの謎が解けず十六夜は十六夜で苛立っていたのだが、今は晴れやかな様子だ。

 

「ここに居やがったか黒ウサギ! 春日部のおかげでゲームの謎が解けた。今から説明するからサンドラ達を呼んで来い!」

 

「本当でございますか⁉」

 

 一転、先程までとは真逆の表情を浮かべた黒ウサギは十六夜と二、三言葉を交わした後、嬉々として部屋を飛び出していく。相変わらず喜怒哀楽の激しいウサギです、と思いながら弥白は十六夜に問いかけた。

 

「正直駄目なんじゃないかと思っていましたが、なんとかなったようですね」

 

「ああ。けど完全に騙されてたぜ。春日部が居なかったら解けなかった」

 

 サンドラ達が集まる前にザックリとした説明を聞いた弥白は、心底呆れながら妙なものを見るような目つきで十六夜を見る。

 

「やはり十六夜はおかしいです。ギフトだけでなく頭の作りも」

 

「頭の出来に関してはお前にだけは言われたくねえよ。お前に足りないのは知識であって、単純なスペックはお前の方がよっぽどおかしいだろうが」

 

 不機嫌そうに返す十六夜。これは耀がたまたま見つけたチェスが十六夜達の間で流行ったのを切っ掛けに判明した事だが、弥白は演算処理能力が異常なほどに高い。チェスやオセロなどの二人零和有限確定完全情報ゲームでは十六夜以外には百戦百勝を誇る程だ。その十六夜にしても、奇策や心理戦を仕掛けて漸く五分といった有り様である。ちなみに現在の勝率は4/4/2である、正確には十六夜がわずかに勝ち越しているが。

 その後、集まった主力陣に十六夜が考察を披露し、ゲームに向け行動方針を決める為の打ち合わせを行うのであった。

 

 

 




 とても遅くなりました、本当にすみません。残業と休出なんて滅びればいいのに。
 呪抵抗とかいうゲーム中じゃ(ry つまりフロムはこのクロスを予想していた………?
 ちなみに弥白の人間電算機設定にも理由がありまして、ぶっちゃけ能力を運用する上で必須なんです。数百のユニットと双方向通信してRTSやるような娘ですし。
 それと今回も耀の活躍カットされてますが次回こそは耀の出番あります。あるはずです。

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