白竜に憑かれた少女も異世界から来るそうですよ?   作:ねこです

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第13話

 ―――吸血鬼の古城・城下街。

 今後の方針が纏まった後、子供達を集めたジャックは瓦礫の山の中心で陽気な声を上げていた。何でも子供達が楽しく協力できるようにしたいらしい。

 こんな廃墟の中心で何を始めるのかと、瓦礫に腰掛けていたガロロや弥白達はジャックの行動に疑問を感じながらも静観に徹している。

 

「ヤホホ! さあて、皆さん御立ち会い! ここにありますは我が友の作りたる魔法の傘! 高名なる睡魔・オーレ=ルゲイエ老の作り出した逸品でございます!」

 

 懐から一本の傘を取り出し、子供達の前に掲げながら陽気に笑うジャック。アーシャは魔法の傘を受け取るとクルクルと回して弄ぶ。

 しかしガロロはオーレ=ルゲイエの名前が出た途端、驚いたように呟いた。

 

「おいおい………オーレ=ルゲイエの傘だと………?」

 

「知ってるの?」

 

「あ、ああ。聞いた話じゃ、様々な夢を見せる魔法の傘だというが………しかしあのカボチャ頭。あんな貴重品を何処で手に入れたんだ?」

 

「夢を見せる傘ですか。ふむ………」

 

 うーむ、とガロロが腕を組んだまま小首を傾げる横で、弥白はその傘を興味深そうに眺めていた。どこか物欲しそうにしていたのは気のせいではないだろう。

 そんな弥白達を余所に、両手を広げたジャックは大きなカボチャ頭を揺らして宣言した。

 

「ヤホホ! これから行う城下街の散策に協力してくれたのなら! このオーレ=ルゲイエ老の作った夢見の傘を、みんなにプレゼントしようと思います!」

 

「ふふーん、大奮発だぜ?」

 

 ジャックとアーシャの言葉を聞いた子供達はずっと暗かった顔を一転させ、明るい表情を見せ始める。

 その中の1人、水精と思われる少女が挙手をしてジャックに問いかけた。

 

「あの、カボチャ頭さん。その傘は好きな夢を見ることが出来るものですか?」

 

「ヤホホ? まあ、そう言えなくもありませんが………差し支えなければ、どのような夢が見たいか教えていただけますか?」

 

 カボチャ頭を傾げて問うジャック。

 少女は少し恥ずかしそうにはにかみながら、

 

「〝アンダーウッド〟に………旗が靡いている、夢が見たいです」

 

「………………?」

 

「〝アンダーウッド〟は今、〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟の庇護下にあります。だから旗は宝物庫にしまってある状態で………本当なら、収穫祭が成功したら、その時に掲げるはずだったんだけど………収穫祭、駄目になっちゃったから」

 

 だから、夢の中だけでも〝アンダーウッド〟に旗を靡かせたい。少女はそう言ってはにかみ、周囲の子供達も頷き合う。

 思わず黙り込み、反応が遅れたジャック。

 痛烈な面持ちで顔を背けるガロロ。

 何とも言えない様子で彼らを見る弥白。

 〝ロスリック〟の2人も思うところがあったのか、やるせない表情をしていた。

 ただ1人、耀だけは子供達の姿を真摯に見つめ続けた。

 

「………ガロロさん。子供達にとっても、やっぱり旗印って大事なものなのかな?」

 

「ああ。箱庭の子供はみんな、コミュニティの旗印を見上げて育つ。己の旗に恥じぬ様に、己の旗に見合うようにと、旗を見上げて育っていく。………あの子達にとって、収穫祭は将来を左右するほど大事な儀式だったはずだ」

 

 そっか、と耀は小さく相槌を打ち、子供達を見つめる。

 ジャックは子供達の顔を1人1人見つめ、快く頷いて返した。

 

「………ヤホホ! ええ、勿論ですとも! しかしズルをして勝っても意味はありませんよ? この夢見の傘は良い子に幸せを、悪い子に悪夢を見せる傘。もしズルをして勝った子には、もれなくカボチャの悪夢が待っていますからねぇ?」

 

 パチン、とジャックが指を鳴らす。すると周囲をキャンドルスタンドとランタン人形の使い魔が飛び交い、子供達は悲鳴にも似た歓声を上げた。

 その様子を目を細めながら見つめるガロロと、何かを考えるかのように俯く耀。

 弥白が不思議半分、心配半分で耀の顔を覗き込むと、耀はポツリと言葉を漏らした。

 

「………好きじゃないな、そういうの」

 

「え………?」

 

 顔を覗き込んだことを咎められたと思い、動揺して声を上げる弥白。耀も何か勘違いさせるような言葉だったと気付いて慌てて訂正した。

 今の呟きは弥白に向けたものではなく、今回の一件を仕組んだ心無い者達の手口に対してだ。

 それを説明しても耀自身の口下手も災いし、弥白はまだ些か不安そうな様子を見せる。耀にとって先程の言葉は無意識で出たものだったが、それ故に弥白には強烈だったのかもしれない。

 困ったなと苦笑した耀はふと、思いついたように弥白の頭を撫でてみた。彼女の透き通るような白い髪に触れればサラサラと、引っかかることなく指の間をすり抜けていく。飛鳥が日頃から世話を焼いている成果だろう。

 

「ん―――なぜ頭を撫でるのですか?」

 

「うーん。なんとなく?」

 

 くすぐったそうにしながら問いかける弥白に小首を傾げて返す耀。弥白も突然の行動に疑問を抱きながらも大人しく撫でられる。

 嫌がるかとも思ったがそれなりに効果はあったらしく、先程までの不安そうな様子は消え弥白はいつもの調子に戻っていた。

 

(………飛鳥の気持ちが分かったかも。ちょっと可愛い)

 

 そんな事を思いながら友人の不安を解消した耀は改めて勢いよく立ち上がる。そしてコホンと咳払いをし、隣に座って一部始終を見ていたガロロの前に立った。

 

「ガロロさん。ガロロさんは昔、ドラコ=グライフと一緒に魔王と戦ったと言っていたけど………もしかして〝階層支配者〟の1人だったの?」

 

 今の流れから全く関係ない話題に飛ぶのか、とガロロは苦笑しながらも首を振って否定した。

 

「はは、まさか。〝階層支配者〟はドラコの奴で、俺はその参謀の1人。吸血鬼の話や〝全権階層支配者〟のこともドラコからこっそり聞いた話さ」

 

 ガロロの物言いは謙虚だったが、それでもどこか自慢げな様子だ。

 そして、耀にとってはそれで十分だった。

 

「ガロロさんは、色々な事を知っている。だから私に教えて欲しい。魔王と戦う為のノウハウや、必要な知識を」

 

「そういう事ならわたしもぜひ聞きたいです」

 

 今回も含め、今後も魔王と戦っていく為に。と耀は真剣な眼差しでガロロを見つめる。内容が内容だけに静観していた弥白も話に乗ってきた。

 当のガロロは目を見開いて驚いていたが、次の瞬間には厳しい表情を浮かべて2人を睨む。

 

「………駄目だな」

 

「え?」

 

「まずその考え方が駄目だ、って言ったんだよ。………いいか、お嬢ちゃん達。そもそも『魔王と戦う』という考え方が間違っている。魔王のゲームを勝ち残るための定石はな、『()()()()()()()()()()()()()』を考えるのが大前提なんだぜ。今から話すのは、箱庭じゃ常識レベルのルールだ。耳の穴をかっぽじって聞きな」

 

 目を丸くして驚く2人。対してガロロはやや前傾に腰掛けて語り始めた。

 曰く、魔王のゲームには必ず2種類以上のクリア条件・ゲーム終了条件が提示される。具体的には、

 〝魔王を倒すことでゲームクリア〟

 〝魔王を無力化することでゲームクリア〟

 の2つだ。

 クリア数や時間制限を指定されない限り、1つクリアするだけで参加者の勝利となる。もしも3つ以上の勝利条件が提示されている場合は、魔王側に有利なペナルティルールが敷かれているか、()()()()()()()()()()。勝利条件が多いということは、それだけ参加者が有利ということだからだ。

 魔王の霊格にもよるが、〝参加者側の勝利条件の数〟と〝主催者側の勝利条件の数〟、それに加え〝ペナルティの数〟は比例するものだと彼は語る。

 魔王との直接対決はあくまで最後の最後、それ以外手が無くなった場合の最終手段であり、まともに戦おうなんていうのは本物の馬鹿かルーキーのすることだと。

 

「………はい」

 

 少ししょんぼりして頷く耀。だが彼の言い分は尤もだ。名のある魔王は多くが最強種、独自の世界を体現した真正の修羅神仏である。そうでなくとも下層・中層クラスでさえ大悪魔や神霊クラスがゴロゴロといるのだから。

 

「でも、ガロロさんは〝階層支配者〟の隣で魔王とのゲームを生き残って来た。ならその経験だけでも教えて欲しい」

 

 ぐぐっ、と耀がガロロに迫る。これだけ積極的な耀は珍しいですね、と隣に座っている弥白は内心で呟きながら返答を待った。

 

「ま、まあ………そういう事なら、教えられる事もないことはないが………」

 

「なら、お願い」

 

 ぐぐぐっ、とさらに迫る。今日の耀はどうしたのでしょうか、と弥白は首を捻った。それ程までに珍しい光景だったのだ。

 そんな彼女の気迫に押されたのか、観念したように両手を上げてガロロは降参の意を表す。

 

「分かった、分かったよ。役に立つかは分からんが、俺に教えられる事なら教えてやる」

 

「………本当?」

 

 ああ、と頷くガロロ。

 しかし彼が言うには、全ての魔王に共通した戦い方は本当に僅かであり、当然魔王もそれは心得ている。つまり教えられる戦い方は古い戦法で、無駄な努力で終わるかもしれないと。

 

「ううん、それでもいい。私は、まず知るところから始めないといけないと思うから」

 

「わたしからもお願いします」

 

 頭を下げて頼み込む2人に対し、ガロロもそれ以上は拒まずに笑って快諾した。

 丁度ジャックとアーシャも子供達への説明が終わったらしく、弥白達は雷雲の取り巻く吸血鬼の廃都で本格的な探索を開始するのだった。

 

 

 

 方針が決まり、一同はまず城の外郭を一周することを目標に探索を開始した。弥白としては中心にある古城を確認したかったのだが、集団行動を乱す訳にもいかない。

 廃墟は荒れ果てていることもあり思うように探索は進まなかったが、それでも成果らしいものはあった。

 城下街は城を中心に十二分割されており、工業区や商業区の名残のようなものが残っていたのだ。

 

「十二分割された都市………ますます以て〝獣帯(ゾディアック)〟と関係がありそうですねえ」

 

「うん。もしかしたら各区画に何か秘密があるのかも」

 

「ヤホホ! ありえますねえ! では私は空から探してみますので、御2人はアーシャと一緒にお子様達と探索してください!」

 

 外郭の門を手で擦っていたジャックはカボチャ頭と襤褸切れを揺らし、空へと飛んでいく。

 子供達を任された弥白と耀だが、アーシャが1人で纏めてしまっているため出番はなかった。〝ウィル・オ・ウィスプ〟は子供の霊を引き取っているそうで、彼女も子供の世話は手馴れているのだろう。瓦礫の撤去等は弥白の自動人形だけで十分である。

 ジークバルトとパッチも子供達から少し離れた場所で警戒を続けている。一方、ガロロは古い館の門の下に座り頭を抱えていた。

 対魔王の戦略を立てる為に〝生命の目録〟を見せたところ、彼は顔色を真っ青にし少し1人にしてくれと集団から離れていったのだ。

 耀は心配そうにガロロを見ていたが、弥白は彼の死角にこっそりと自動人形を忍ばせていた。やっている事は紛れもなく盗聴だが、先程の反応が反応だけでにそのまま放置という訳にもいかない。

 

(フェイスレスに〝生命の目録〟について聞くのはタイミングを逃しましたが。あの反応、まず間違いなく何か知っているはず。どこか適当なタイミングで2人きりになりたいところですが)

 

 さてどうしましょうか、と盗み聞きを続けながら考える。改めて冷静に考えると、フェイスレスに〝生命の目録〟のことを先に聞くべきだったが、やってしまったものは仕方がない。この反省は次に活かそう。

 しばらくし、素知らぬ顔で戻ってきたガロロは耀に木彫りのペンダントを手渡した。丁度周囲の探索も一段落付いたらしく、一同は次の区画に移動するのであった。

 

 

 

 

 

 ―――〝アンダーウッド〟の大樹、貴賓室。

 空中城塞に囚われた弥白達が探索を開始した頃、カラミットは蛟劉に宛がわれていた部屋へと戻って来ていた。

 大樹に出来た瘤を刳り貫いて作られた部屋は木目が全て繋がっており、不思議な一体感のある場となっている。高価そうな家具や装飾品も置かれているが、あまり使用されている形跡は見られなかった。

 ノックもなしに部屋へと上がり込んできたカラミットに対し、椅子に座って寛いでいた蛟劉は不愉快そうに顔を顰めて苦言を呈する。

 

「せめて許可を取ってから入ったらどうや、カラミット。お里が知れるで」

 

「心配せずとも俺とて相手は選ぶ。今のお前相手にそこまでする必要性を感じなかった、それだけだが?」

 

 皮肉な笑みを浮かべながら橙の瞳で蛟劉を見下すカラミット。………嘗ての蛟劉ならここまでされれば殺し合いにでも発展していたのだが、どうやら今の彼にその気はないようだ。

 〝アンダーウッド〟に向かう道中での一件や先日の会話にしても、この男は本当に()()()()()()()()()()らしい。

 それなりに長い付き合い故に思うところがない訳ではないが、まあコイツの勝手かとカラミットは思考を放棄する。

 

「………それより、昨日のアレは一体どういう風の吹き回しや。わざわざ〝瞳〟まで使って〝アンダーウッド〟を助けるなんてらしくもないな」

 

「別に助けた訳ではない。基本的に俺の行動は俺と龍種(我ら)の利益の為のものだ。それは人間や神霊、幻獣や悪鬼羅刹共も変わらんだろう」

 

 さよか、と投げやりに相槌を打つ。何処ぞの猫に誑かされてカラミットの前に出てきた蛟劉だが、正直相手をするのも面倒になってきていた。かといって蹴り出すのも容易ではないため、適当に受け流そうと考えながら酒瓶を取り出す。

 一方のカラミットは漆黒色のギフトカードから道具を一式取り出すと、我が物顔でコーヒーを淹れていた。コーヒーの独特な香りが漂わせながら、蛟劉の対面の席に腰掛けたカラミットはコーヒーカップを片手に口を開く。

 

「そういうお前こそ、暇をしているなら手助けでもしてやったらどうだ? あの程度の()()()()()を片付けるだけなら片手間で済む。宿代分の仕事ぐらいはするべきだろう」

 

「僕は昔の恩を一時の宿り木として返してもらってるだけや。穀潰しみたいに言われるのは心外やな」

 

「そうか、お前がそう言うならそういう事にしておくが。しかしなんだ、最近はあの程度の有象無象が〝巨人〟を名乗っているのか? アレではただ図体がデカいだけの人間と変わらん」

 

 世も末だな、とつまらなそうに鼻を鳴らして砂糖も何も入っていないブラックコーヒーに口を付ける。この〝アンダーウッド〟を襲撃している巨人達は箱庭に逃げ込んできたケルトや北欧の巨人族の末裔、その混血達だ。

 混血が進めば種として劣化するのは道理だが、アレはもはや巨人と呼ぶのも憚られる。少なくともカラミットの知る巨人族とは別物だ。

 杯を呷っていた蛟劉はカラミットの言葉を聞き、彼に冷ややかな視線を向けた。

 

()()()()()()が下層をうろついてたらそっちの方がよっぽど不味いやろ」

 

 何言ってるんやコイツ、と内心で付け足しながら杯に酒を注ぎ―――大樹が激しく揺れた。普通の人間なら立っていられない程の激震だったが、蛟劉は器用にバランスを取り杯から酒が零れることはない。

 方やコーヒーの香りを楽しんでいたカラミットは不快そうに眉を顰めて呟いた。

 

「なんだ? 今のは」

 

 一瞬巨人族の襲撃かとも思ったが、巨人達は先の戦闘で大打撃を受け現在は大河上流の高原まで後退している。そもそも巨人が襲撃してきているならそれを知らせる鐘の音が鳴らされているはずである。

 なら一体誰が? と訝しむカラミットに対し、隻眼を閉じて震源を探っていた蛟劉がケラケラと胡散臭い笑みを浮かべて答えた。

 

「地下の大空洞で誰か戦ってるみたいやな、気になるなら見に行ったらどうや?」

 

 厄介払いが出来て丁度いいとばかりに提案する蛟劉。僅かに考える素振りを見せるカラミット。今の〝アンダーウッド〟でこんな事が出来そうなコミュニティは〝例の名無し〟ぐらいしか思い当たらない。少なくとも〝龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)〟ではないだろう。

 暇潰し程度に見に行くのもいいかと一瞬考えたが、あの白い娘と鉢合わせした場合のことを考えて思考を改めた。

 

「いや、止めておこう。〝龍角を持つ鷲獅子〟がゲーム攻略に動き出すまでは此処に居座らせてもらう」

 

「………さよか」

 

 コイツの前に出てきたのは完全に失敗やったな、と面倒くさそうに酒を呷る。しかし、今の発言から察するにゲーム攻略に協力するつもりなのだろうか。

 一体何があったのか気にはなるが、わざわざ確かめようと思う程のやる気は今の蛟劉にはない。

 不可解な面持ちの蛟劉の視線を受け流し、カラミットは二杯目のコーヒーを飲み始める。大樹が再び激しく揺れたのはその直後のことだった。

 

 

 




 仕事が落ち着いたと思ったらまた忙しくなっていた、何を言っているか(ry
 いい加減誤字脱字をどうにかしたいんですが、どうしたらいいんですかね。毎回報告してくれてる方、本当にありがとうございます。
 話は変わりますが、今オリジナルゲームだの主催者権限だの作ろうと四苦八苦してるんですけど、これめちゃくちゃ難しいんですよね。実際に作れてる方々は本当に凄いと思います。

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