持たざる者の悪足掻き   作:栗尾
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投稿遅くなってすみません。


3話:無力な者

10月11日、朝

 

「廸、ちょっといいか」

 

仕事の支度をしている親に話しかけられた。

 

「大丈夫だけど……何?」

 

「既に2ヶ月ほど大赦に触れているから理解していると思うが、大赦は人類全体を守ることを重視している組織だ。お前の目的と必ずしも合致するとは限らない」

 

「もちろん分かっているよ。それでもやっぱり、大赦にいなきゃできない事もたくさんあるから」

 

「ああ、そうだな。私達が何が言いたいかっていうとだな……」

 

一拍おいて父さんが再び口を開く。

 

「大赦で自分のやりたいことをするのは簡単ではない。もしかしたら家族に迷惑をかけるかも、なんて考えることもあるだろう」

 

大赦の情報を自分の目的の為に使うのだ。大赦の意にそぐわない事もあるだろう。

そうなったら俺個人だけではなく、家族全体が責任を負わされるかもしれない。

しかし父は言った。

 

「だが構わない。私達のことなど気にする必要は無い。廸の好きなようにやればいい」

 

「父さん……」

 

「これは母さんも賛成してくれている。なあ母さん」

 

そばで聞いていたらしい母も来る。

 

「ええ。貴方はもう十分すぎるほど(つら)い思いをした。それは私達大人のせいでもある。だから、私達への迷惑なんて考えずに自分が正しいと思った事をやりなさい」

 

「母さん……」

 

なんて、いい人たちなのだろうか。この人たちを責め立てていた自分を殴り飛ばしたい。

そんな事を考えているともう時間がきた。

 

「では、私達はそろそろ行ってくる」

 

「わかった。……二人ともありがとね」

 

「いいのよ。じゃあ廸、帰りは明日の夕方頃になるけど、ちゃんとご飯食べるのよ」

 

「大丈夫だよ、心配しなくても」

 

「じゃあ行ってきます」

 

「いってらっしゃい」

 

バタン、と扉の閉まる音が家に響く。

俺もそろそろ学校へ行く支度をするか、と自分の部屋に戻った。

 

 

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大赦の勉強をしているからといって、学校の勉強を疎かにするわけにもいかない。

何より、放課後忙しいので学校(ここ)でしか友人達にも会えない。

 

「廸、お前最近なんかすげぇ頑張ってるよな」

 

「その……今崎君、頑張って!でも体には気をつけてね」

 

たまに友人達からそんな応援や励ましを受ける。

こういうこともあり、俺にとって学校は少し楽になれる場所でもあった。

 

放課後になればすぐに家に帰り、大赦の勉強をする。

ただ今日は両親が帰って来ないので風呂掃除などの家事をした。

慣れないことなので、少し時間がかかってしまった。

 

その他にも色々とやり終わったら、一息つこうとなんとなく居間のテレビをつける。

特に見たいものもないので適当なニュース番組を見ていた。

すると、

 

今まで聞いたことの無いような、とにかく凄まじい音が外から響いた。

 

「な、なんだ!!?」

 

それと同時に、世界が揺れた────。

 

 

 

 

 

どれくらい続いただろうか、しばらくすると、()()は収まった。

 

「何が起こったんだ……?」

 

急いで外に出ると、近所の人達も外に出て互いの無事を確認し合っていた。

 

「そっちは大丈夫でしたか!?」

 

「大丈夫です!そちらは!?」

 

そんな声が飛び交う。

俺も知り合いの無事の確認をする。

数分経った頃、その中の一人が大慌てしながら大きな声で皆に呼びかけた。

 

「み、皆!大変!テ、テレビ!ニュース見て!ニュース!」

 

(なんだ!?)

 

その尋常で無い慌てぶりに、俺を含め外に集まっていた人達が急いで確認しに行く。

 

家に入り、急いで居間に向かう。すると付けっ放しだったテレビからアナウンサーの緊迫した声が流れてきた。

 

「まだ詳細はわかっておりませんが、瀬戸内海沿岸部を中心に大規模な災害があった模様です。また、まだ未確認ではありますが、瀬戸大橋が崩れている、という情報も入ってきております。近隣に住んでいる方々は落ち着いて避難してください。決して橋に近づかないようにしてください。繰り返します────」

 

「は────?」

 

今、何て言った?大橋が、なんだって?

真っ白になった頭に父の言葉がよぎる。

 

『明日はずっと大橋にいなくてはならなくなった』

 

呼吸が乱れる。心臓が激しく脈打つ。

嫌な予感が体中を襲い、居ても立ってもいられなくなり、俺は家を飛び出した。

 

(そんなはずない。そんなはずがない……!)

 

そう自分に言い聞かせて頭の中にまとわりつく最悪な考えを抑え込み、全力疾走で大橋へ向かう。

大丈夫、大丈夫だ。明日の夕方に帰って来るって言っていたじゃないか。だから、絶対に──────

 

焦りと不安と全力疾走による疲労に耐えて、やっとのことで大橋にたどり着く。

そこで目にしたものは、

いったいどうしたらこうなるのか、というくらいに崩れた大橋。

そして、想像よりもはるかに凄惨なその周辺だった。

 

「なんだよ、これ……」

 

辺りには救急車と大赦関係と思われる車が数台停まっていて、救急隊員と大赦の人達が協力して救助活動を行っていた。

 

「君、危険だから近づかないで!」

 

制止の声も聞かずに両親を探し始める。

 

「父さん!母さん!どこだ!」

 

必死に叫ぶ俺の声が、崩れ去った大橋にこだました。

 

 

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死亡者四名、負傷者十二名。

それがこの災害による被害だった。

犠牲になったのは大赦に勤めていた夫婦二組で、いずれも民間人を避難させていて自分達は逃げ遅れてしまった。

一組は犬吠埼夫妻。

そしてもう一組は今崎夫妻。

つまり、俺の両親だった。

 

 

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俺が大橋に駆けつけた時には、もう既に両親は病院へ運ばれていたらしい。

その場にいた大赦の人が教えてくれた。

その人が病院まで連れて行ってくれたとき、両親の手術はもう始まっていた。

そして結局、俺が生きた親の姿を見ることは二度となかった。

 

 

 

葬儀の手続きとはずいぶん手間がかかる。

おかげでそれが終わるまでは忙しさで気を紛らわすことができた。

手続きのために何度か大赦へも行ったが、その時にいろいろな話が耳に入ってきた。

 

どうやらこの災害はバーテックスが樹海を侵食したことで発生したらしい。

そして、バーテックスが関係しているのなら、当然それと戦う勇者たちにも関わってくる。

今回の戦いで、勇者二人はバーテックスを追い払うことには成功したようだが、二人とも重傷を負い、入院しているらしい。

 

また、俺の両親以外の犠牲者である犬吠埼夫妻には中学一年と小学五年の二人の娘がいる、ということも誰かが言っていた。

 

忙しさを盾に現実を見ることを放棄していた俺は、葬式の最中(さいちゅう)も「犬吠埼家の子供たちはこれからどうするのだろうか」と、そんな余裕はないはずなのに他人の心配をしたり、まるで他人事のように、「この間も葬式やったばかりだなあ」なんて考えたりしていた。

 

そして今、いろいろ終わった俺は両親の墓の前にいる。

 

「とりあえずひと段落ついたよ。父さん、母さん」

 

墓に語り掛けるが、当然返事はない。

そして、言葉にしてしまったことで気づく。やらなければいけない事は、ほぼ終わった。

必死に逃げていた現実に、今追いつかれてしまったのだと。

 

「ああ、そうか死んだのか。父さんと母さんは」

 

俺は、独りになってしまったのだ。

これからどうしようか、とりあえず今日やることだけでも考えなくてはならない。

しかし、考えなどまとまらなかった。

そもそも、俺はいつも何してたっけ。

 

「食って寝て、あとは……勉強か。学校のと大赦の……あれ?」

 

いままで日常でやっていたことを挙げていると、ふと疑問が出てきた。

そもそも、なんで大赦に入りたいと思ったのだったか。

 

「そうだ、勇者たちの力になってやりたかったんだ」

 

思い出す。同時に今の状況も。

一度意識してしまったが最後、怒りがこみ上げる。

 

「それなのに……なんだ、これは……」

 

ずっと一緒にいたかった銀は死んだ。

 

「なんなんだ、このザマは!」

 

両親も死んで俺は独り。

 

「……っざ……るな……」

 

せめて守りたいと願った須美ちゃんと園子ちゃんも重症。

 

「ふざけるな……」

 

俺はまた、何もできなかった。

そして俺にはもう、何も残っていない。

 

ふっっっっざけるなぁぁぁああああ!!

 

俺は叫んだ。

ここは死者たちが安らかに眠る場所。

大声で騒ぐなど本来もってのほか。

しかし、俺はこの状況の元凶であるバーテックスへの怒り、この世に降りかかるすべての理不尽への怒り、そして何より、何もできなかったあまりに無力な自分に対する怒りを抑えきれなかった。

 

「どうすればよかったんだっ!どうすれば……っっ!」

 

いったい、俺は何をするのが正解だったのか。

 

「もっと必死になればよかったのか!!?」

 

頑張ってきたつもりだった。少なくとも、あの夏祭りの日からは。

毎日、それまでの俺では考えられないくらい勉強をして知識をつけた。できうる限り大赦で手伝いをした。大赦に少しでも早く近づけるように。

あれでもまだ、必死さがたりないというのだろうか。

 

「それとも、もっと早くから始めれよかったてのか!!?」

 

銀が死ぬずっと前から、お役目の存在を知ったその時から始めていれば今のような事態は避けられたのか。

しかし、お役目が危険を伴うことすら知らなかったのに、どうやって「彼女たちのために大赦へ入ろう」なんて思えるのだろうか。

 

「なら、もっと疑問を強く持っていればよかったのか!?」

 

お役目の具体的な内容は教えられない、と言われた時、諦めずに相手が答えるまで質問するべきだったのだろうか。実際に両親は銀が死んだとき、すべてを話してくれた。

あの時と同じくらい強い気持ちで質問すれば、もっと早くに教えてくれて、大赦に入る決意も早くに持てたかもしれない。

 

「いや、そういう問題じゃないのか?」

 

もっと根本的な話、大赦に入ったとして、意味はあるのか。

もし大赦がなんとかできるのなら、そもそもこんな事になっていないのではないのか。

 

「そうか……」

 

──そもそも、目標地点が間違っていたのだ。

 

「ちくしょう……」

 

結局のところ、すべてが樹海という、勇者以外は入ることすら許されない場所で起こる以上、バーテックスが侵入してしまったが最後、いくら巨大な組織である大赦であっても彼女たちの手助けなどできないのだ。

 

「ちっっくしょおおお!!駄目だ!大赦じゃ足りない!」

 

俺はまだまだ大赦についてはほんの少し触れた程度しか関わっていない。

しかし、それでもわかる。今回のような事態において、大赦ではまるで力不足。

 

「要る……もっと別の何かが!勇者のように、戦える力が!」

 

最初から、その方法を模索しなければならなかった。樹海に入る前のサポートでは何も守れない。

 

「誰か!誰でもいい!神樹様だろうが、そうじゃなかろうかどうだっていい!力をくれ!もしくはそれを手に入れる方法を!そのためなら、なんだってくれてやる!」

 

こんな事を願っても意味は無い。

何より、今更力を手に入れても遅すぎる。

それでも、願わずにはいられなかった。

 

「欲しい……彼女たちみたいな、戦う力が……」

 

自分の無力を嘆く無様な声が響いたその時、俺はある事に気づく。

 

「なんだ……?」

 

地面が、俺の立っている周辺だけ、微かに──だが確かに光を発していた。

 

「これは……いったい……」

 

しかも、その半径1mほどの光は、どんどんと強くなっていく。

俺は不気味に思って後ずさった。

すると、

その光る地面から、唐突に「何か」がすごい速さで、飛び出すように生えてきた。

 

「うぉあ!?」

 

俺は驚きのあまり後ろに転んで尻もちをついてしまった。

 

「痛た……っいったい何が……?」

 

もう一度、地面から生えてきた()()を確認する。

()()は「木」だった。

正確には木の根……いや、枝……?

 

「なんで、何も無いところから急に……」

 

俺は立ち上がると、恐る恐るその、自分の背丈ほどに伸びた木の枝に近づく。

何もない地面が光りだし、そこから木の枝が生えてくる。

そんなあまりにも常識からかけ離れた、不気味で、謎の現象。

しかし、心が落ち着いた頃、俺が感じたのは恐怖ではなく、そんな現実離れした事への期待だった。

 

もしかしたら何かが起こるかもしれない。

そんな考えが頭をよぎってしまった。

 

(いざな)われるようにその『枝』に触れる。

その瞬間、

 

「ぅぐあぁぁああ!?」

 

突如として激痛が頭を襲った。

 

「あ……頭に……っ何かが……」

 

それと同時に何かが頭の中に流れ込んでくる。

 

「な……んだ……っこれは……っ……き、おく?」

 

そう。それは人の記憶だった。

今の俺のように己の無力を嘆いた者たちの。それでも必死に足掻き続けた者たちの人生の記憶。

 

「うぅっ!?……ぐっ……がぁぁああああ!!?」

 

激痛により薄れてゆく意識で、俺は確かに覗いた。

 

はるか昔、西暦の時代から始まるそれを。

「持たざる者」たちの、後悔と決意の記憶を。

 

 




今回までは序章のような位置づけです。
廸にとってはあまりにハードな序章ですが。








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