生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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生きたければ飯を食えIF その3

 

 

飯を食えIF 煉獄槇寿郎とカワサキさん

 

 

森の中に倒れこんでいるコックスーツ姿の黄色の異形は口に入っている葉っぱを吐き出しながら立ち上がる。

 

「どこだ……いや、もう0時は過ぎてるよな?なんでまだゲームの中なんだ?」

 

DMMOーRPG「ユグドラシル」をプレイしたはずの男……ゲームの中でもっとも不憫と言われるジョブ「クックマン」でプレイしていた「川崎雄二」ゲームの終了日にギルドマスター会いに訪れた筈なのに、気が付いたら森の中にいた。

 

「ぺっぺ……苦い……苦い?」

 

ゲームなのに味がする。その事に驚きながらゆっくりと立ち上がり、手足を確認すればゲームの中の己の身体。そして空を見上げれば、澄んだ星空……。

 

「新しいゲームって訳じゃないな……ううーむ」

 

何で自分が森の中にいるのか、そしてここがどこなのかも判らない。だから情報を集める為に、カワサキは薄暗い森の中を歩き出した。

 

「色々判ったなあ」

 

夜間を通し森の中を歩き回ったカワサキが得たのは、まるで時代劇のような古い家屋、そして着物姿の住人。新しいゲーム……なんて事はカワサキは考えていなかったが、自分がどうなっているのかはまるで理解出来ていなかった。

 

「タイムスリップ、世界線を超えた……訳わかんね」

 

とりあえずどうなっているのかなんてことはまるで判らず、そしてクックマンの姿で歩き回れば化け物として扱われると判断したカワサキは人化の指輪を装備し、人の姿となって森の中でキャンプの準備をしていた。

 

「アイテムボックスは使える、スキルも健在。ますます訳がわからない」

 

ゲームの中で出来た事が全て出来るが、ログアウトも出来ない。そしてGMコールも使えない、それはカワサキをますます混乱させていた。

 

「まぁとりあえずは飯だな。飯、人間飯を食ってれば何とかなるさ」

 

生きたければ飯を食え。何が起きているのか判らなくても、どうすればいいのかと困惑していても飯を食べていれば何とかなる。カワサキはそう呟きながら夕食の支度を始めるのだった……。

 

 

 

 

滅の羽織を着た鮮やかな金髪をした男が森の中を駆ける。男の名は「煉獄槇寿郎」人を貪り喰らう鬼を倒す組織「鬼殺隊」の最高戦力である柱。その中で炎柱と呼ばれたその男は森の中を駆け続け、そして力尽きたように膝を突いた。

 

「はっ……はっ……ぐっ……」

 

膝を突いた槇寿郎の着物は己から流れ出る血で真紅に染まっていた。

 

「ふ、不覚……」

 

鬼が出ると噂の山に来た槇寿郎は確かに鬼を切った。だがその鬼は異能の鬼と呼ばれ、人を何人も食い殺し特殊な力に目覚めた鬼だった。頸を切られた鬼は信じられない事に眼球だけを打ち出し、血の匂いに誘われた熊へと寄生し槇寿郎へと襲い掛かった。頸を切られている事もあり、鬼に操られた熊は鬼もろとも死んだが、熊の爪に引き裂かれた槇寿郎は重症を負っていた。

 

「藤の家……まで持たぬか……」

 

人間が鬼と戦うための術、呼吸法で止血してここまで駆けて来たが山の麓まではまだ遠い、薄れ行く意識の中死を覚悟した槇寿郎の前の茂みが揺れる。鬼かと震える手で刀を抜こうとした槇寿郎だが……

 

「こっちから声が……おい!?あんた大丈夫かッ!?」

 

茂みから現れたのは動物でも、鬼でもなく白い服を身に纏った人間の姿。鬼ではなかったと言う事に緊張の糸が切れ、槇寿郎の意識は闇に沈んだ。

 

「うっ……くっ」

 

目を覚ました槇寿郎は自分が手当てされている事に気づき、顔を歪めながら上半身を起こした。

 

「お、起きたのか、良かった良かった」

 

「お前が助けてくれたのか、感謝する」

 

「なーに、困っている時はお互い様だ」

 

焚き火の前に腰掛けていた男が鍋をかき回しながら気分はどうだ?と尋ねてくる。

 

「身体中が痛い、それと腹が減った……」

 

「腹が減ったって言えるなら大丈夫だな。飯を食える間は死なねえよ」

 

男は立ち上がり俺に何かを差し出してきた、白く濁った汁だった。

 

「これは?豆腐か?」

 

「いやいや、違う違う。シチューだ、あーっと……洋食だ」

 

洋食……洋食を作れる料理人が何故こんな山の中へと言う疑問はあった。だが差し出された椀から香る匂いに我慢出来ずその椀を受け取る

 

「かたじけない」

 

「なーに気にするな、飯は1人で食うより2人の方が美味い」

 

そう笑い俺の隣に座った男は匙でシチューと言う汁を掬って飲む、俺もそれから遅れて汁を口に運んだ。

 

「美味い!あっつつつ……」

 

そんな大声を出すからだと苦笑する男だが、思わず声が出てしまったのだ。具沢山と言う事で豚汁に似ているのだが、それよりも味に深みがあってそしてまろやかな味がする。

 

「野菜も良く煮られている、柔らかくて美味だ」

 

「喜んで貰えて何よりだ」

 

洋食は早々食べる事が出来ない。俺も数度口にしただけだが、これほどの味を口にしたことは無い。

 

「美味い、本当に美味い」

 

「お代わりあるぞ?食べるか?」

 

その言葉に申し訳ないと頭を下げ、俺はあっという間に空になった椀を男に差し出すのだった……

 

「重ね重ね申し訳ない」

 

俺1人で鍋を全て食べてしまった事が申し訳なくてならない。だが男は気にするなと笑い、視線を上に上げる。

 

「夜明けだ、これで山も下れるな。ああ、自己紹介が遅れたな、俺はカワサキ。料理人をしている、今は店を持つ為に旅をしている」

 

店を持つ為に旅……旅をしながら己の料理の腕を鍛え上げているのだと解釈し、俺も姿勢を正す。

 

「俺は鬼殺隊炎柱煉獄槇寿郎と申す、今回はまこと助かりました」

 

あのままでは俺は妻も子供も残して逝く所だった、カワサキ殿に会えた事が俺の命を繋いだのだ。

 

「鬼殺?なんだいそれは?」

 

「人を食う化生と戦う者があつまる場所です。俺も鬼と戦い負傷したのだ」

 

カワサキに簡単に鬼の事、そして鬼殺隊の事を説明してから本題を俺を切り出した。

 

「もし店を探しておられるのならば、是非俺と共に来てはくれまいか?」

 

鬼殺隊には専属の料理人と言うものはいない、鬼殺隊の妻や家族、そして鬼に家族を殺された者が善意で料理をしてくれるが料理を専門にすると言う者はいない。店を持つ為に旅をしていると言うのならば、鬼殺隊の事情を知る料理人として店を持って貰えば良い。

 

「店を持たせてくれるのか?」

 

「親方様にカワサキ殿を紹介しよう、きっと親方様ならば御力になってくれるはずだ」

 

「頼る宛も無いし、会って見るのもいいか。うっし!槇寿郎と一緒に行くぜ」

 

「おお、それは良かった。では行き……うっ」

 

「無理するなよ、ほら。肩を貸すぜ」

 

「すまない」

 

「気にするなよ、旅は道連れ、世は情け。行こうぜ」

 

こうして俺はカワサキ殿に肩を借りて、山を下った。槇寿郎がカワサキに出会った事、そして鬼殺隊へと誘った事。それが鬼殺隊の命運を分ける事となることを今の槇寿郎は知るよしも無いのだった。

 

 

 

カワサキ様IN鬼殺隊のルート、槇寿郎が炎柱なのでまだ妻が死ぬ前。原作前のルートですね、なんで槇寿郎にエンカウトかと言うと煉獄さん生存ルートとかやりたいですしね。まあ思いつきなので続くかは判りませんが、もしかすると本編が行き詰った時に更新するかもしれません。それでは次回は本編をちゃんと更新するので、今回はこれにて失礼いたします

 

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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