生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

109 / 237
メニュー76 茶会 その2

メニュー76 茶会 その2

 

前回の客間ではなく、緑に溢れたアインズ達の城。紛れも無く城だと私は思っているが、大墳墓……つまり、ここは墓所なのだろう

 

(いや、おかしくはないのか)

 

異形種である2人にとってはそれほどおかしいものではないのだろう。地下と言っていたから、地中に向かって建造された城と言うことなのだろうか

 

「ゴウン殿、ここはやはり南方だったりするのでしょうか?」

 

「いえ、ここはトブの大森林の近くですね」

 

その言葉に思わず噴出しかけたが、それを寸前で堪えた自分を褒めてやりたい所だ。だがそれである意味納得したとも言える

 

(運が良かったのだろうな)

 

トブの大森林の近くだから、カルネ村に来ていたガゼフを助けてくれた。そして王国を拠点として決めたのも、自分の拠点から近いという理由だろう

 

(本当に運が良かった)

 

カワサキ殿のおかげで膝の痛みも無くなり、王国の闇の切除も出来た。異形種とか人間とか、そうじゃない、ゴウン殿とカワサキ殿は異形種であれど人の心がある。敵対関係ではなく、こうして友好関係を築けた。それが何よりの幸福だったのだろう……異形種とは人類の敵、今はありえないが、敵として戦っていた可能性だって0ではないのだから……

 

「次はきんつば、これも餡子を使った菓子になるんだが、今までの菓子とはちょっと一風変わってると思う」

 

小さな朱塗りの皿に載せて差し出されたのは餡子の塊に白い膜のような生地がついた菓子だった。

 

「随分と変わった菓子だな」

 

「でも味は格別と言っておこうかな」

 

ジルクニフの言葉ににやりと笑うカワサキ殿。今までの菓子は餅と言う柔らかく弾力のある生地に包まれていたが、これは見た感じ焼かれていると思う。果たしてどんな味なのかと期待しながら、小さく切り分けてあるそれを口に運ぶ

 

「ほう、これは実に面白い食感ですね」

 

カワサキ殿がそうだろう?と笑い、自身もきんつばと言う菓子を頬張る。もっちりとした良く焼かれたパンのような、いや、これはピザの生地の食感に近いかもしれない、サクサク食感の生地に包まれた餡子。それは今まで食べた物と良く似ているが、中に豆が入っていて食感に変化を与えている。

 

「む、これは美味い」

 

「この生地は些か食べにくいがの」

 

フールーダがむうっと呻くが、この生地がいいと私は考える。このサクサクとしているのに弾力のある独特の生地、これ自体には味が無いのだがそれが餡子の濃厚な甘みに満ちた口をさっぱりとしてくれる

 

「同じ餡子でもこれほどまでに味に変化があるのですね」

 

「まぁな、餡子は粒餡と漉し餡って言う二種類があって、これは粒餡。餅に使っていたのは漉し餡、漉すか漉さないかの違いだけど、大分味が違うだろ?」

 

漉し餡は口の中で滑らかな食感と柔らかい甘みを与えてくれた、これは餡の中に粒が混じっており、それが僅かに口の中に残る。だがそれは茶を口に運べば流される

 

(実に良く考えられている)

 

茶と菓子をバランスよく食べれるように作られている、ケーキなどのただ甘い菓子等とはまた違う味と食感。正直に言うとケーキなどでは辛いと思っていたので、この和菓子と言う菓子は実に私には食べやすい菓子であった。例えこの後に、カワサキ殿達が帝国と王国の和解に尽力した理由……それを知る為に私達はここに来たのだ。……決してカワサキ殿の美食に吊られて来たわけではないのだから……

 

 

 

 

みたらし団子に餡団子、それに蓬餅と言う餅に、今出されたきんつばも間違いなく絶品だった。そう、最初に感じていたカワサキへの僅かな警戒心も薄れていた。それが狙いなのか、この茶会はとても和やかな雰囲気となっている。だがその空気に何時までも甘えている訳には行かない

 

「カワサキよ、帝国と王国を1つにしようとした理由を聞こう」

 

「そうですね、それが今日お呼びした理由ですし」

 

ワシの言葉に返事を返したのはカワサキではなく、アインズだった。なるほど、根本的な部分はアインズが決めていると言うところか

 

「前も話しましたが、私達の国を滅ぼした邪竜のシモベがこの世界にいると考えております、そしてあいつらの手段はこれでもかと把握しています。それは騒乱を起こし、戦う者達の力を削ぐ為の騒乱を起こすのです。それは極めて長期にわたり行われます」

 

極めて長期……アインズ達のような異形種が言うのだ、それは間違いなく10年……100年……いや、それとも1000年単位か……想像するだけでも恐ろしい年数が使われているのかもしれない

 

「私達はこの世界でまず色々と情報を調べました。魔神や八欲王……それらは私達と同じく偶発的に招かれた住人かもしれない、ですが、現れた以上間違いなく、何らかの影響を受けていると思います」

 

憶測ですけどねとアインズは慎重な様子で語る。怪しいとは思っているが、確固たる証拠が無いから断言出来ないと言う所か

 

「そして帝国と王国が2つに分かれたのは間違いなくやつらの仕業と考えています、何故ならば分裂した理由が無い」

 

そう、そこだ、アゼルリシア山脈にある元帝国と王国が1つの国だった名残、だが歴史書を見ても戦争があったわけでもない、疫病がはやったわけでもない、本当に突然国が2つに分かれたのだ

 

「人の不信感を煽る、それとも人を操るのかは不明ですが、そうすることが奴らにとって都合のいい世界なのでしょう。だから私達は分裂した国や、争っている国を止める。そして1つの軍隊を作ろうと考えています」

 

「だがそれは間違いなく妨害が入るだろう」

 

ジルが待ったを掛ける、今の状況が都合が良いのだ。そこに間違いなく妨害は入るだろう

 

「ええ、それは私達も先刻承知です。ですが、相手が妨害してくると判っているのならば、それすらも織り込んで計画するのが当然と言うものでしょう」

 

その自信に満ちた表情を見れば、何か勝算があるのだろう。それが何かは判らないが、とりあえずはそれに従うのも1つの手かもしれない

 

「では私やジルクニフ皇帝に頼むこととは……?」

 

「はい、簡単な話です。いがみ合わず、かつての国のように再び力を合わせて欲しいという事、そして私とカワサキさんを竜王国に紹介してほしいということですね」

 

竜王国……あのビーストマンに襲われている国を何故と思ったが、それは少し考えればそう不思議なことではない。ビーストマンの国と言っても理知的な者もいる。今竜王国を襲っているのは文明を拒んだ一部族と言う話もある

 

「ビーストマンが竜王国を襲っているのは操られていると?」

 

「あくまでその可能性を考慮してと言う事ですがね。だから直接乗り込んで……か、カワサキさん!貴方なんて物を使っているんですか!?」

 

机の上に置かれた菓子に真剣な話をしていたのに、その菓子に全員の目が釘付けになった。それを食べたい、それを口に運びたいということしか考えられない

 

「何って黄金の卵とか蜂蜜」

 

「それ使うの禁止って言いましたよね!?」

 

「俺の所持品だぞ?」

 

「それでもですよ!?」

 

なにかとんでもない食材を使われた菓子らしい、冷静なアインズが激昂していることからそれは間違いないだろう。

 

「黄金のドラ焼き、これが俺とアインズさんからの最上級の友好の印だ。どうか食べて欲しい」

 

カワサキ達でも滅多に入手できない食材をふんだんに使った菓子、アインズの嘆きも判る。だがこの思考全てを支配するような菓子を口に運ばないと言うことは出来ず、ワシ達は無言で菓子に手を伸ばすのだった……

 

 

 

黄金の卵と蜂蜜とかマジで貴重品だから止めて欲しい、だけどそれを友愛の印と言って出した以上。いまさら駄目とはいえないよなあ……少し取り乱したが、まぁ十分修正できると思いたい

 

(マジで黄金だなぁ)

 

キラキラと輝くドラ焼きに手を伸ばす。それは信じられないほどに柔らかく、指先がすっとドラ焼きの中に吸い込まれるような感じがする。乱暴に扱うとつぶれてしまいそうなそれを丁寧に持ち上げ、半分に割る

 

(黄金小豆……)

 

前にシャルティアへの褒美で出したザイトルクワエの葉の草餅にも使われた黄金の小豆。黄金の蜂蜜に卵、そして小豆……その全てが他を圧倒する存在感に満ちていた

 

「美味い……これはなんと言う美味……」

 

「これほどの味は今まで……いや、きっと生涯味わうことは無いでしょう」

 

呆然としているが、これがきっと正しい反応なのだ。と言うか、これで不味いとか言ったら俺は容赦なく、全力でひっぱたくと思う

 

「いただきます」

 

凄まじい緊張感を感じながらドラ焼きにかじりつく

 

(……美味い)

 

生地は唇で触れるだけで簡単に噛み切れる、まるで雲か綿菓子のような食感だ。良く焼かれた香ばしい香りも実にいい

 

「柔らかいのに、しっかりと存在している、なんだこれは!?なんなんだこれは!?」

 

ジルクニフがパニックになっているが、これはきっと正しい反応なのだろう。食べ物として、これは破綻している。食べ物ではあるが、それとは全く違う次元に存在しているといっても過言ではないだろう

 

(……舌が溶けるような)

 

黄金の小豆に辿り着くと、その甘みが全身に広がっていくのが判る。生地と合わせて、舌だけではない全身を包み込むような幸福感……これ人間が食べて大丈夫な奴なのかと本当に心配になってくるような味だ。

 

「これが天上の美食なんですね」

 

なんか戦士長殿がナザリックのシモベみたいな事を言い出したけど大丈夫かな?まぁカワサキ……あ、駄目だ、やべえって顔をしてる。たぶんと言うか確実にここまでの影響が出るのは予想してなかったんだろうな

 

(カワサキさん達には悪いけど、ここで話を決めてしまおう)

 

洗脳をするつもりは無いが、結果的に洗脳するみたいな形になってしまった。だがこれを利用しない手は無い、俺はそう判断して2人の王に向かって言葉を投げかけるのだった……

 

「カワサキさん、あんまり効果がありすぎるのはやめましょうか?」

 

「そうだな、俺もこれは予想外すぎた」

 

呆然としている間にトントン拍子で話をまとめ、お土産を渡して送り返した。正直このままナザリックにおいておくとやばいと思ったのと、黄金のドラ焼きをお代わりと言われても困るし、とりあえずあれは封印級のレシピと言うことにしておこう、今回はペストーニャの治療で何とかなったが、あれは下手をすると麻薬とかそういうレベルかもしれない。精神汚染と言ってもいいかもしれない

 

「でも、レイナースの呪いを解除するのはどうしようか?」

 

「知りません、そこはカワサキさんが考えてください」

 

状態異常を解除して、お土産を手渡して返そうとしたんだけど、しっかりと覚えていた。でもそれはカワサキさんが言い出したのだから、俺は貴重な食材を使わないでくれればいいですよと返事を返して、6階層を後にする。

 

(とりあえず、王国と帝国の協力は得れた)

 

少し想定外もあったが、十分に結果オーライと言えるだろう。後は、少し時間をおいて……

 

「モモンガ様」

 

「む?どうしたパンドラズ・アクター」

 

俺の執務室で沈鬱な表情で待っていたパンドラズ・アクター。多少の想定外はあったが、基本的にはデミウルゴスやアルベドの計画通りだったと思うのだが、何故、そんなにも不安そうな顔をしているのか?と尋ねる。パンドラズ・アクターはトレードマークとも言える軍帽を外して

 

「これほどの状況になるまで気付けなかったのが私達の不覚でした」

 

「待て、それほどの問題が起きているのか?」

 

ここまで焦燥しきる問題……一体何が起きているんだと尋ねるとパンドラズ・アクターは目を伏せて

 

「この世界で使うお金がありません」

 

「うえ?」

 

その予想外すぎる言葉に間抜けな声が出る、だがパンドラズ・アクターの深刻な表情を見て大変なことになったと悟るのだった。

 

下拵え 資金難へ続く

 

 




今回は前回の話を2分割したので短めの話となりました。次回は少しギャグテイストで話を書いて行きたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

  • 間違っている
  • 間違っていない

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。