生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー80 会食(ナザリック)

メニュー80 会食(ナザリック) その2

 

シーフードピラフを食べ終え、スプーンを机に上に戻す。それなりの品数を食べているが、まだ腹には余裕がある。

 

(俺の食事量に合わせてくれているのが本当に助かる)

 

大分食べる量が増えていることは認めるが、それでも俺はそこまで沢山物を食べれるわけではない。カワサキさんとツアーの量は多いが、俺の料理の量は2人の半分くらい……恥ずかしい話だが、リグリットといい勝負かもしれない。そんな事を考えながらグラスに口をつける。アルコールの味は一切しない、それも当然。俺は酒が余り得意ではないので、これは葡萄ジュースだ。お子様と言われるが、苦手な物はやはり苦手だ。それに真面目な話をしないといけないのに、酔っ払って素が出てしまったら元も子もないのでこれで丁度良いのだ

 

「満足感のある料理だよ。たっぷりと海鮮が入っているのが良い」

 

「シーフードピラフだからな。米よりもシーフードが主役さ」

 

確かに米料理と言えば、米がメインに来るのが当然だと思える。だけど、今の皿は明らかにシーフードの比率の方が多かったような気がする。

 

「カワサキ、次のバロティーヌと言うのはどんな料理なのかな?正直鶏肉で挽肉を包んでいると聞いても、あまりピンと来なくてね」

 

ツアーが次の料理が運ばれてくるまでの間にカワサキさんにそう問いかける。

 

「伸ばした腿肉に野菜のみじん切りなどを混ぜ込んだ挽肉を包み、丸く形を整えオーブンレンジでじっくりと焼き上げた料理になる。本来はやや薄めのソースで食べるのだが、今回は特製の照り焼きソースで濃い目の味付けにしてある」

 

濃い目の味付けかぁ、パーティ会場の肉の旨みを引き出すソースも美味しかったけど、濃い口のソースで旨みを際立たせるのもありなのかな

 

「若鶏のバロティーヌ、照り焼きソースになります」

 

シクススが運んできてくれた皿がまず俺の前から並べられる。バロティーヌ自体の見た目は前回と変わってないが、盛り付けが大きく変わっている。薄くスライスされた玉葱と細くカットされたにんじん、そしてやや大きめに切られたキャベツの上にバロティーヌが3枚並べられている。そして皿の横に出された小さな小鉢に黒いソースが入れられているが、これが恐らく照り焼きソースなのだろう。

 

「照り焼きソースは味が濃い、自分である程度調整しながら掛けてくれると丁度良いだろう」

 

カワサキさんはそう言うと、肉の周りに照り焼きソースを回しかける。なるほど、あんまり肉には直接掛けない方が良いのか……カワサキさんの真似をして肉の周りに照り焼きソースを掛け、ナイフとフォークで小さく切り分けて照り焼きソースにつけて頬張る

 

「美味しい、凄く美味しいですよ。カワサキさん」

 

「うん、確かにこの甘くて辛い?何ともいえない味のソースが丁度良いね」

 

「私はあんまりこのソースを掛けないほうが好みだよ」

 

バロティーヌ自身にも味があり、照り焼きソースと組み合わせるとその味をよりしっかりと感じられる。だけどそれは俺やカワサキさん、そしてツアーのような男には丁度良い味なのだが、リグリットのような老婆には味が濃すぎたのかもしれない。本当に少しだけソースをつけている姿を見て、最初から照り焼きソースを掛けていなかったのは相手に考慮しての事だと言う事が判った

 

「このソースは本当に美味しい、ああ、勿論肉が美味しいから余計に美味しいと感じるのは判っているけど……このソースは一体何で出来ているのかな?」

 

「これか?これは醤油と砂糖、それとみりんと酒だ」

 

これだけ深い味だから、もっと色々入っていると思っていたのだが……カワサキさんが告げた調味料は初歩的な調味料だけだった。それでこれだけの味が出るとか……本当にカワサキさんの料理への知識には驚かされているなと思う

 

「醤油……そっか、これが醤油なのか……うーん、全然違うね」

 

「醤油を知ってるのか?」

 

「リーダーから聞いていてね、リーダーがこれが醤油と言っていたソースを知ってるけど、あれとは全然味が違うなあと思ってね」

 

リーダー……13英雄を束ねていたというプレイヤーか、リアルでは調味料自身も非常に高価なものだった。それを知っていると言うことは最低でも中流階級の家のプレイヤーだったのだろう……既に死んでいるので会う事は無いが、そういった情報からどんなギルドだったのかと言う推測を立て対策を練る事が出来る。ユグドラシルには突如姿を消すギルド、クランと言う噂話があったが……もしかするとそれらのギルドはこの世界に転移していたのかも知れない。俺はそんな事を考えながら口直しのジュースを口に含む、しかし本当に酒でなくて良かったと思う。酒だったらもう酔い潰れていると思い、俺は思わず苦笑するのだった……

 

 

 

 

 

バロティーヌと言う料理は実に美味しかった。歯応えのある腿肉に包まれている挽肉にはたっぷりの香味野菜が練りこまれていて、同じ肉でありながらも食感と味わいに大きな変化があった。腿肉はやや脂が足りないと感じたが、中の肉は逆に脂がたっぷりで、口に運ぶと実にバランスが取れていた。そこに甘辛く、肉に掛けるととても良い色艶になる照り焼きソース。それを掛ける事で全く別の味になるというのは実に面白かった……そして次に運ばれてきた料理で僕もリグリットも驚愕に目を見開くこととなる

 

「シーフードグラタンだ。ツアー達の住んでいる所にもグラタンはあるかな?」

 

グラタン……これが……?僕とリグリットの知っているグラタンと言えば、チーズを練りこんだ薄いパイ生地を牛乳をベースに作ったスープの上に被せたものだ。こんな風に焦げ目のついたチーズが乗せられた料理ではない

 

「これがプレイヤーの知るグラタンなんだね。私達のはスープの上にパンが乗っているんだよ」

 

「カップスープかな?なんか微妙に間違って伝わってるのかな。あの双子忍者もそんな事を言っていたし……」

 

微妙に違うとカワサキは言っているけど、微妙所か香りも味も全然違うようにしか思えない。本当のグラタンがどれだけ美味なのか……僕はそんな事を考えながらスプーンを手にして、グラタンの中にスプーンを入れる。

 

「おお……」

 

「こりゃ全然別物だねえ」

 

スプーンで持ち上げると白いソースとチーズが絡み合い尾を引く、中には大きく切られた海鮮……今掬ったのは多分蛸だと思うけど、それがたっぷりといれられているのが良く判る

 

「あち、あちち、ふーふー」

 

口に運ぼうとすると思ったよりも熱く、良く息を吹きかけて冷ましてから口の中に入れる。大分冷ましたつもりだが、口に入れるとまだ熱く、口の中で必死に冷ましながら、ゆっくりと噛み締める。牛乳をベースにしているから牛乳臭いはずだが、牛乳の臭みは一切無く、牛乳の濃厚な旨みにチーズの塩辛さと独特の味が加わる。蛸のコリコリとした食感とグラタンの味が実に良く合う

 

「私達の食べていたグラタンはなんだったんだろうねえ……」

 

「本当だね……心からそう思うよ」

 

カワサキの作るグラタンは僕達の知っているグラタンと違ってスープって感じじゃなくて、トロリとしていて食べていると言う感じがある

 

「はー、なんかこれほっとするんですよね」

 

「判る。チーズとホワイトソースって相性良いんだよなあ」

 

カワサキとアインズがのんびりとした話をしているが、僕達の知っているグラタンを食べてホッとすることなんてありえない

 

(出てきたら嫌そうな顔をするもんなぁ)

 

グラタンとシチューは人気の無い料理の代名詞と言える。確かに腕のいい料理人の出してくれるグラタンはそこそこ食べれる味と言えるが、カワサキのと比べるとまるっきり別物だ

 

(それに下拵えも丁寧だ)

 

海鮮特有の臭さもない、これは本当に別物だと思わずにはいられない。こんなに美味しいグラタンならば、評議国でも食べたいと思ってしまうよ

 

「さてと最後だが、デザートは2つ用意してみた。まずはロールケーキから食べてもらおうかな」

 

差し出されたのは生クリームを柔らかいスポンジ生地が包み込んだケーキだった。生クリームの中にフルーツが埋め込まれていて、見た目も実に鮮やかだ、それと茶色いクリームを巻き込み、板チョコが載せられた2つのロールケーキと紅茶がデザートして出される

 

「ん、美味しい。ふわふわのスポンジケーキですね、生クリームと本当に良く合います」

 

「喜んで貰えて何より」

 

ケーキか、僕の知ってるケーキはもう少し硬そうだけど……フォークで触れるだけで簡単に切れるそれだけでこのケーキの柔らかさがよく判る

 

「おいしっ!?なにこれ!」

 

中に入っているフルーツの酸味と、生クリームの柔らかく甘みのある後味。そしてそれを包んでいるスポンジのなんと柔らかい事か

 

「僕の知ってるケーキってもう少し、いやもっと硬いんだよね」

 

「ケーキって柔らかい方が美味しいと思うんだが?」

 

「僕もそう思うよ」

 

偶に食べるケーキのあの硬い食感とぼんやりと甘い味。それでも美味しいと思っていたんだけど、これを食べてしまうとあのケーキはもう食べたいとは全く思えないなあ

 

(……クリームもたっぷりだし)

 

スポンジケーキよりも中のクリームが主役のケーキなんて初めて見たし、初めて食べた。生クリームの味は良く似ているけど、量が全然違う

 

「はー、美味しい」

 

真剣な話をしに来たのに、僕の中ではもうそんな話よりも、カワサキにまた料理を作ってくれないかと頼む方がよっぽど有意義なんじゃと思えてきていた

 

(いや、カワサキなら評議国でも……あ、でも……うーん)

 

むしろカワサキとアインズを評議国に迎え入れる方が……でも、永久評議員であってもそこまで僕の発言力は高いわけじゃないし……うーん。仮に評議国に紹介するとしてどんな風に紹介すれば……僕はロールケーキを口に含みながら、いつの間にかどうやってアインズとカワサキを評議国に紹介するのかと言うことを真剣に考え始めているのだった……

 

 

 

 

隣で唸っているツアーを見て小さく溜め息を吐く、元々あんまり食事が出来ないツアーがカワサキの料理を食べるとこうなるのはある程度予測していたが、それを完全に上回っている。小声でぶつぶつ評議国とか呟いているから、本気でカワサキとアインズを評議会に紹介するつもりなのかもしれない

 

(当初の目的を忘れてないか)

 

もう一度溜め息を吐いて、板チョコが載せられているロールケーキをフォークで小さく切って口に運ぶ

 

(完璧だね、こりゃ)

 

スポンジケーキが甘いので生クリームはやや苦味の効いた味。それがスポンジケーキの甘みと実に良く合っている、最初のフルーツロールケーキはフルーツの甘みを生かした味になっていたが、これはスポンジケーキを前提にした味だ。同じ様な料理で味にここまで変化を与える、それにこの紅茶もかなり上質な物だ。勿論今まで使ってきた食器も桁違いに高級品なのは明らか

 

(力と財力を見せ付けられた形になるか)

 

会食と言っていたが、これはアインズとカワサキが自分達の力を見せ付けたという形になる。それに洗脳されていた可能性もゼロではなく、この後の話し合いの内容では隠居所ではなく再び表舞台に立つ必要もある

 

(そうなるとギルド武器はアインズ達に預けることになるだろうし、文献も調べなおさないとならないね)

 

記憶違いではなく、意図的に間違った記憶を植えつけられていた。ギルド武器を守る為にツアーが動かなくなったのも、その可能性がある。そもそも、考え直せば、ギルド武器を守る為にツアーが1人山奥に身を隠す必要は無かった。探知系のアイテムや結界を使うという手もあるし、アンデッドを幾つも配置して守らせるという手もあった

 

(これは相当厄介な相手だね)

 

少しずつ、少しずつだけど私達の認識を変えて、そしてそれに違和感を感じさせない。恐ろしいほどの執念深さを感じる

 

「次はタルトタタンになる、少し珍しいケーキだが、これも美味いぞ」

 

メイドの運んできたタルトタタンと言う料理に視線を向ける、鮮やかな黄色のケーキの土台に暗褐色に固められたりんごが乗せられている

 

「珍しいケーキだね」

 

「ケーキと言うか、これはタルトって言う種類になる。土台はチーズケーキ、上はりんごのキャラメリゼになってる」

 

キャラメリゼと言う言葉は理解出来ないが、そういう調理法なのだろうと推測する。どんな味なのかまるで想像出来ないが……不味いと言うことは無いだろうと思いフォークで小さく切ろうとするが、思ったよりも硬く少し力を入れてやっと切る事が出来た

 

「凄いね、チーズのお菓子なんて初めて食べたよ」

 

「良い香りです」

 

アインズとツアーがカワサキを絶賛する。確かにチーズのお菓子なんて初めて食べるね……さてとどんな味かと思いながら、ゆっくりと口へと運ぶ

 

(……業腹だけど、美味い)

 

りんごの酸味と芳醇なバターの風味が口一杯に広がり、その次に酸味を帯びた濃厚なチーズの旨みが口に広がる。

 

(食感も良い)

 

一番下はサクサクとした生地となっており、柔らかいチーズケーキとやらの食感に変化を与えている。それにフォークで切るには些か硬いが、歯で噛み切る事を考えればキャラメリゼとやらはそこまで硬い訳ではない。程よい硬さと言う奴だ

 

(それにこれは酒か)

 

僅かに残る酒の風味。それがりんごとチーズの香りをよりよい物にしている、王都や帝都のお菓子専門店のお菓子よりも遥かにカワサキのほうが知識と技術が高いという事を思い知らされる

 

「美味しいけど、もう少しケーキって感じの方が良いな」

 

「俺もですね、これなら普通のチーズケーキの方が好きですね」

 

馬鹿2人がとんでもなく失礼な事を言っている。ただ甘く見た目だけを追求したケーキなんかよりも、よほどこのタルトタタンと言うケーキの方が技術がいると言うのに……

 

「まぁ人の好みはそれぞれだからな」

 

(めっちゃ気にしてるッ!)

 

憂いを帯びた横顔に気付かない馬鹿2人に正直頭痛を覚えた。いや、下手をするとラキュース達も同じ反応をしそうで怖い、このタルトタタンと言うのは物の味をしっかり把握している人間でなければ味の良さを理解出来ないだろうから

 

「喜んで食べてくれるのが俺は一番嬉しいよ」

 

善人過ぎる……普通なら怒っても良いレベルなのに、笑顔でそんな事を言える。カワサキが善人なのは判っていたが、想像を遥かに越える善人っぷりだ。正直長い事生きているが、心配になってくるレベルだよ。

 

「んんっ、じゃあそろそろ、本題の話をしようか。何故、お前達は竜王国に向かう事を決めたんだい?」

 

忘れてたと声を揃える馬鹿2人。ちょっと久しぶりの食事と、外出でツアーが馬鹿になってる気がする。戻ったら数発頭を殴るべきかもしれないね、アインズは……多分元々ちょっと抜けているのだと思う。頭が良くても少し抜けていると言うことは良くあることだ

 

(パーティにいたしな)

 

頭は恐ろしく良いのに突撃思考馬鹿とか、魔法詠唱者なのにまず最初の選択肢が殴るの馬鹿もいた。アインズもそいつらの仲間だと思う事にする、優秀な者の私生活が充実してるとは限らない。むしろ冒険者として優れているほど、私生活は残念な物になると言うことを私はよーっく知っているのだから

 

「そうだな、食事も終わったから、少し真剣な話をしようか」

 

えーっと言う顔をしている馬鹿2人、私とカワサキは殆ど同時に溜め息を吐き、互いに苦労している事を理解し、息を少し吸い込みやる気が完全にOFFになりかけている2人に同時に怒鳴り声を浴びせた

 

「しゃんとする!真面目な話なんだからな!」

 

「お前もだ!ツアーッ!」

 

「「はいっ!」」

 

私とカワサキの一喝で背筋を伸ばす2人……どうも2人とも優秀であることは否定しないが、ポンコツである。それが私がアインズに抱いた感想であり、そしてカワサキもまたツアーがぽんこつだと言う感想を抱くのは仕方のないことなのであった

 

 

下拵え 進む理由へ続く

 

 

 




ツアーがポンコツ属性でも良いと思うんだ(キリッ!)優秀だからこそどっか抜けてるって面白いなと個人的に思うので、久しぶりの外出及び、食事で元来のポンコツさが表に出てしまったと言う感じのツアーさんになってもらいました。モモンガさんは元々妖精さんなので大差はあんまりないですが、ツアーとどうレベルのポンコツと言う事で1つ。次回は真面目な話、その次に玉座の間での会議を行い、竜王国編に入っていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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