生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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下拵え 進む理由

下拵え 進む理由

 

いますっげえ怖かった、多分カワサキさんが切れる一歩手前だったと思う。ツアーもリグリットに怒られてしょんぼりしている……なんだろうな、この親近感……凄くツアーと仲良くなれそうな気がする

 

「腹も一杯になっただろう、そろそろ真面目な話をしよう。俺達が竜王国を目指す理由とかな」

 

確かに何時までものんびりとしている場合ではない、カワサキさんの言う通り本当に真面目な話をしよう

 

「んんっ! 竜王国を目指す理由だが、ツアー、リグリット。ビーストマンの国について違和感を覚えたことは無いだろうか?」

 

俺やカワサキさん、そしてアルベドやデミウルゴスはその違和感の正体が何かは判っている。だがそれをこの世界の住人が感じているのかと言う疑問がある、特にツアーとリグリットと言うこの世界を見守る2人が気付かないのではそれは相当深刻な問題だろう。俺の問いかけに2人が返事を返さないので、カワサキさんに視線を向けてから本題を切り出す

 

「ビーストマンの本国はどうなっているのだろうな」

 

「「あっ!」」

 

俺の言葉に2人が同時に声を上げる。1人では辿り着く事が出来ないが、こうしてヒントを出すことで違和感を覚えさせ、そしてその先に進める事が出来る。俺の言葉で2人は知らずに掛けられていたスレインの影に潜む何者かの呪縛から逃れる事が出来た

 

「そうだ、ビーストマンの本国は人間との共存を掲げていたはず」

 

「大分前にそうなったはずだね、じゃあ何で竜王国は……いや、何でなんていう必要はないね?」

 

俺に尋ねるように言うリグリットに頷く、やはりツアーとリグリットは優秀だ。少ないヒントで真実に辿り着いた

 

「恐らくだが。この世界の住人は気付かないレベルで思考誘導を受けている。俺とアインズさんは少なくともそう考えている」

 

ニグン達もそうだが、スレインの人間は直接的に、そう人格を変えるほどの洗脳を受けている。俺達はそれは他の国は違うと考えていたが、それもまた違う。洗脳ではない、違和感を理解できず、そうある事が当然だと思うように思考誘導を受けている

 

「……なるほど、君達が竜王国に向かう理由が判ってきたよ。竜王国かビーストマンの国に、敵がいると考えているのだね?」

 

「可能性の段階だけどな。俺達はそれを危惧してる、生かさず、殺さず。長い間苦しめて何をしようとしているのかとな」

 

ワールドアイテムの中には、発動条件が極めて厳しい物もある。俺も全てのワールドアイテムを把握しているわけではないが……20の中に設置型で人の恨みや絶望を吸収する事で発動する物があった記憶がある。配置型で、しかも人間が対象と言う事で、発動させるのは難しい部類になるアイテムだが……ゲームの中ではなく、この世界では十分に効果を発揮するアイテムだろう

 

(しかし、となると八欲王の正体は一体……)

 

パンドラのメッセージでは、八欲王のギルド武器はヴァルキュリアの失墜前のレアアイテムで構成されているらしい。となると、相当初期のギルド、もしくはクランになる。だが洗脳の配置型のアイテムも、人間を生贄にするワールドアイテムもそのどちらもヴァルキュリアの失墜の後に実装されたアイテムだ。一体どうやって入手したのだろうという疑問は残る

 

「君達が望むのならば、僕達も同行しても構わないが」

 

「……いや、それは止めておこう。また洗脳、もしくは思考誘導されてはまた手間が掛かるだけだ」

 

俺とカワサキさん、そして守護者と連れて行くメンバーには対策用のアイテムを渡すことにしている。だが、洗脳に対応するアイテムはそう多くない、更に言えば思考誘導対策のアイテムなんて何を装備すれば良いのか判らない

 

「最悪の事を想定しているんだね?」

 

「ああ。私はこの世界を滅ぼすつもりは無いが、ツアーと戦うとなるとその余波がな……」

 

今こうして思考誘導を解除することは出来た。だが2回目となると解除出来ると言う確信もない、そして思考誘導ならまだしも、洗脳され有無を言わさず戦闘となり、カワサキさんは勿論、ナザリックや、NPC達に大きな被害が出れば俺は怒りを抑える自信がない

 

「……なるほど、それは避けたほうがよさそうじゃな。お前達が連れて行くのもさほど強い相手では無いと言うことか?」

 

中々頭が良い、竜王国に連れて行くのはゼロ達5人、それとクレマンティーヌとワールドアイテムを持たせたコキュートスと、カワサキさんたっての願いでエントマを予定している。

 

「最悪の場合簡単に取り押さえることが出来る相手で無ければ、私達も危険ですからね」

 

「……そうか、だが何も協力しないというのは僕も心苦しい。ドラウディロン・オーリウクルスに手紙を書こう」

 

帝国と王国の兵士も同行してくれるので、そこまで必要性は無いが……ツアーの心遣いを無碍にするのも心苦しい。俺はその申し出をありがたく受ける事にし、日付が変わるまでの間ツアー達との話し合いを続けるのだった……

 

 

 

 

6階層のログハウスと闘技場を行ったり来たりする生活。教官のコキュートス様は確かに厳しかった、だがそれ以上に強くなっていると言う実感が凄かった……初日のデミウルゴス様とアルベド様のナザリックで暮らす上の教育は、出来ればもう2度と思い出したくはないが……そんな事を考えながら今日の訓練の為に闘技場に向かうとコキュートス様の他にもう1人の姿があった。俺達に気付いて、目だけが全く笑っていない笑顔で手を振る女……クレマンティーヌに背筋が凍るような物を感じた

 

「やほー」

 

見た目だけはフレンドリーだが、その全身から俺達への敵意と殺意を感じる。これはプレアデスのシズ様と同じだ……カワサキ様の店で働いていた2人は俺達じゃないと言え、俺達が所属していた八本指がカワサキ様の店を焼いた事を許してはいないのだ

 

「アマリ敵意ヲ向ケルナ」

 

「判ってますよー、私は伝言を伝えに来ただけですしー……早くて2日後に竜王国に出発する。そこでお前達の真価を見せなければ、他の八本指と同じになると知れだってさ。

ま、これはカワサキは関係してないけど……死ねるだけ幸せと思える苦痛を受けたくなかったら、頑張るんだね。私はどうでも良いけどさ」

 

竜王国でのビーストマンとの戦いで自分達の行った悪行を償えと言われていたが、思ったよりも早い。大分強くなったという実感はあるが、俺もぺシュリアンもエドもマルムヴィストも、そしてレベルアップの為に人化の指輪を与えられているデイバーノックもその顔に不安の色が浮かぶ

 

「……アルベドトデミウルゴス……カ?」

 

「ううん、アインズ様の命令だよ。役に立たないなら必要はないってね、優しいけど、厳しいでしょ?」

 

契約はした、だがそれは俺達の命を保障する物ではない。ビーストマンとの戦いで死ねばそれで終わり、生き残っても求められている能力でなければカワサキ様の知らない所で排除される……完全に逃げ道を断たれた形になるが、むしろこれくらい追詰められた方がいっそ吹っ切れるという物だ

 

「それとアインズ様が玉座の間に集まれってさ」

 

「ソウカ、伝言御苦労……オ前達ハ修行ヲ再開シテオケ」

 

冷気と炎を撒き散らし歩き去っていくコキュートス様と俺達を一瞥してから、コキュートス様と共にクレマンティーヌは闘技場を後にする。俺達は修行を再開する前に全員で集まる

 

「俺は正直ビーストマン相手でも何とかなると思ってるが、お前達はどうだ?」

 

油断しているわけでもない、そして慢心している訳でもない。ただここでの修行のやり方は俺にとても合っていたと思う、ただひたすらに戦い続けるこのやり方は俺の故郷のやり方に良く似ていた、修行僧であり、己の体を痛めつけるやり方に慣れている俺は少なくとも、この10日間で相当なパワーアップをしたと言う確信がある

 

「俺は正直少し不安だな」

 

「……お前は師匠が悪かった」

 

「いや、異形種だけど案外良い人だったとは思うよ。ただなあ……クレマンティーヌを見るとな」

 

俺達と同じだが、既にナザリックに受けいられ一定の地位を持つクレマンティーヌ。カワサキ様の護衛を務めている理由も、こうして伝言役を任される事もあることから相当な地位を既に確立しているのだろう。同じレイピア使いだからこそ、越えられない壁を感じてマルムヴィストが不安そうな声を出す

 

「……心配はないだろう。お前は珍しく真面目になっていた」

 

「そういうことだね、情けない事をいうなら竜王国に行く前に諦めますとでも言ったらどうだい?」

 

励ますぺシュリアンと発破を掛けるエドにマルムヴィストは冗談じゃないと叫ぶ、あの様子なら大丈夫そうだな

 

「お前はどうだ?デイバーノック」

 

「まだ身体の調子になれていない、以前のような戦いには期待しないで欲しい」

 

人化の指輪で人になっているデイバーノックはやややせ気味の目付きの鋭い男だ。人間になった事で魔力の出力が格段に上がったが、その反面強力になってしまった魔法の制御に四苦八苦している。

 

「連携を考えなければ問題ない。全員で生き残ろう」

 

「……ああ、そうだな」

 

サキュロントはもう2度と会うことは無いだろう。だが、六腕と呼ばれる前の5人で行動していた時、俺はこの面子なら絶対に負けないと確信していた。全員で生き残る…それを目標にして進もう、全員で力を合わせればそれも不可能ではない。八本指にいた時とは違う、確かな安心感と確信が俺の中に芽生えているのだった……

 

 

 

 

「至高なる御身よ。我らの忠義全てを御身に捧げます」

 

なんかアルベドの前口上がパワーアップしてる気がする。顔は上げられていないが、その翼が一生懸命考えましたと言わんばかりにぱたぱた動いている。これが尻尾なら犬の姿を幻視したような気がする、まぁ、犬は写真でしか見たことがないのだが……

 

「面を上げよ」

 

とりあえず、今回の事で俺は特に言うこともないので、モモンガさんの後ろに控えながら竜王国で何をするか考える。やっぱりビーストマンとの戦いが続いているわけだし、普通に店を構えるよりも軽食の……

 

(あ、ドライブスルーだっけ、あれも面白そうだな)

 

注文を受けて、店を出るころに料理渡すシステムが昔あったらしいし、それを再現してみるのも面白いかもしれない。もしくは難しいことは承知だが、インスタントラーメンとかも作れないだろうか……ここの所格式ばった料理ばかりをしているので、もっとこう手抜きではないが雑な料理を作りたいと思ってしまう。大衆料理ってのが多分一番俺の性にあっているのだと思うし

 

「バハルス帝国、リ・エスティーゼ王国に同盟を結ばせたが、最終的な目的はそこに竜王国、ローブル聖王国、アーグランド評議国、エルフの国を加え、6各国同盟を作る事にある」

 

あれぇ?何時の間にそんな話になったんだ?デミウルゴスか?アルベドか?パンドラではないよな、誰がそんなことを提案したんだ?

 

「スレインを孤立させ、疲弊させる。そうなれば必ず相手は動く、決して焦るな。我らに時間は腐るほどあるのだからな」

 

短期決戦ではなく、長期戦か……俺はそういう立案には関わっていないが、考えた上の結論なのだと思う事にする

 

「竜王国には帝国、王国と共に向かうが、ナザリックとしても支援を行う。それに伴い、階層守護者からコキュートス。今回はお前に同行を命じる」

 

「ハ……必ズヤ御身ノ御役ニ立ッテ見セマス」

 

コキュートスを連れ出すことを決断したと言うことは戦闘が長期になる、もしくはかなりの戦力差があるということか……シャルティアは強いが、その性質上人間と一緒に戦うことは難しいし、アウラとマーレも外見上の問題でそれも難しい、アルベドとデミウルゴスはナザリックに残しておきたい

 

(パンドラの名前を出さないのは、アレか)

 

アインズ・ウール・ゴウンとして竜王国に、そしてパンドラはナーベラルと共にモモンとナーベと言う事で王国側から竜王国に入ると言うことか

 

「カワサキさんは竜王国でも料理を振舞う事を希望している、今回はエントマ。お前を付き人とするそうだ、カワサキさんに迷惑を掛けるなよエントマ」

 

「は、はい。が、頑張りますッ!」

 

シズが若干ショックを受けた表情をしているが、精神年齢が近い2人だ。どっちかを優遇すると、それこそ姉妹同士で喧嘩をしかねないので、それを避けるべきだろう。あと、竜王国では炊き出しがメインになる可能性があるので、丁寧に料理をするシズよりも若干大雑把だがエントマの方が適していると思う

 

「シズ・デルタ、こちらへ」

 

「は、はい」

 

モモンガさんがシズを呼び、アルベドに何かを手渡す。勿論それが何かと言うことは俺が一番把握している、何せ俺が用意したものだからな

 

「それはカワサキさんが用意してくれたシズに向いている料理を纏めたレシピ本になる。それと包丁とエプロン、基本的なことはもう既に習得しているのだから、より発展させて見せて欲しいということで良いですね?」

 

「あんまり付きっ切りで教えても駄目になるからな。戻って来たときを楽しみにしてる」

 

シズは勤勉だから、レシピ本を渡せばその中の何品かは確実に習得しているだろう。もう基本的な切り方、下拵え、煮方、焼き方は教えてあるので、そこからはシズが自分に向いている料理を見つけることが大事だ

 

「……ッ!あ、ありがとうございます」

 

宝物の様に胸の中に抱きしめるシズとそれを若干羨ましそうに見ている他のNPC。だけど、こればっかりはそのNPCの性格とか、技能も関係してくるのである程度は我慢して欲しい。本人にやる気があっても、向き不向きと言うのはあるしな

 

「アルベド、デミウルゴスはナザリックで有事に備え、他の守護者達は最悪の場合に備えて置いて欲しい。では以上だ、出発は2日後……準備を怠るな」

 

モモンガさんはそう言うと、守護者やNPC達に玉座の間を出るように告げ

 

「カワサキさん、俺にはデミウルゴス達の暴走を止めれませんでした」

 

「やっぱりか……」

 

頭が良いって言うのも考え物だよな、頭の良い馬鹿って言うのはいるものだ。モモンガさんも全力は尽くしたのだろう

 

「竜王国では王国や帝国以上に大変な事になりますよ」

 

「だろうな」

 

帝国と王国よりも遥かに竜王国は追詰められている。それは今まで以上に、敵の尖兵が潜んでいる可能性が高いと言うことだ

 

「これからだな」

 

「そうですね、これからです」

 

竜王国、そこで間違いなく何かが起きる。俺とモモンガさんは口にはしないが、虫の知らせとも言うべき嫌な予感を抱いていた。だが今更立ち止まることは出来ない、前に進むと決めたんだ。立ち止まるつもりは俺も、モモンガさんにもないのだから……

 

 

メニュー81 すいとんへ続く

 

 




と言う訳でシナリオ編は終了で、次回からは料理メインでシナリオを少しと言う感じでゲヘナの前の話の感じで展開して行こうと思います。大分前に募集したリクエストの話をメインで書いていこうと思いますので。これからもどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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