生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー81 すいとん

メニュー81 すいとん

 

帝国の騎士、そして王国の兵士とランポッサ国王から連れて行って欲しいと言って預けられた戦士長殿とクライム、俺達の仲間として付いて来た認識阻害を装備したゼロ達とコキュートスとモモンに化けたパンドラとナーベラル、最後にエントマとクレマンティーヌは竜王国に辿り着いていた。馬車で2~3日程掛かったが、これが普通の旅と言うものと思い、良い経験が出来たと感じていた。

 

「……これが竜王国……か、王国と言うには少し厳しい気がするな」

 

カワサキさんが周囲を見ながらそう呟いた、それは俺も感じていた。荒れ果てた大地……あちこちに残る血痕とビーストマンの攻撃の爪跡……それには流石の俺も心が痛い

 

「ゴウン殿、私達と共に城へと来てくれますか?ランポッサ3世からの書状をお届けする必要があるのです」

 

「俺も陛下の手紙を届けないといけないからな」

 

これ断れない奴じゃないですか……胸の内で深く溜め息を吐きながらも、表面上はにっこりと笑い

 

「勿論ご一緒しますとも」

 

ツアーからの手紙をどうやって渡すかを考えていたから、これは渡りに船と思いバジウッドと戦士長殿と城に行く事を了承する

 

(パンドラ、コキュートス、カワサキさんを頼んだぞ)

 

メッセージで2人にカワサキさんの事を頼む、もうてきぱきと料理の準備をしているので周りに対する警戒は薄れている。カワサキさんの警戒が薄れている分、護衛の2人にカワサキさんの警護を頼み、広場で料理の準備をしているカワサキさんと、野営の準備をしている騎士と兵士へ背を向けて、3人で竜王国の城へと向かう

 

「よく来てくれた、まさか帝国と王国が同盟を結ぶとは思っても見なかったが、こうして助けに来てくれたことに感謝する」

 

俺達を出迎えたのは兵士ではなく、女王であるドラウディロン・オーリウクルス本人で少しばかり驚いた。後ろで大臣らしいのが頭を抱えているので、多分反対を押し切ったのだろう

 

「ドラウディロン女王陛下、こちらリ・エスティーゼ国王ランポッサ3世からの書状になります」

 

「ドラウディロン女王陛下、バハルス帝国皇帝、ジルクニフ様よりの書状になります」

 

「うむ、大臣」

 

「はっ」

 

自身で受け取らず大臣に受け取るように告げるドラウディロン、なるほど、これが王としての行動なのか……俺も覚えておこう。そんな事を考えているとドラウディロンの目が俺に向けられる。殺意があるわけでもない、敵意があるわけでもない、だが俺の心を見通すようなそんな視線だ

 

「こちらの方は?私は見覚えがないのだが?」

 

「アインズ・ウール・ゴウン殿です、帝国と王国の橋渡しになってくれた人物です」

 

「それと竜王国への支援を行うべきと陛下に進言した人物でもあります」

 

「ほぉ……それは失礼した、ゴウン殿のおかげで帝国と王国の支援が来たと言うことに感謝する」

 

カリスマと言う奴だろう、俺とは違う。生まれながらの王としての気迫、女性だが紛れもなく彼女は王の素質を持つのだろう

 

「いえ、私達は旅の途中でして、竜王国に用があったと言うのもあります」

 

「それは全てを吸い込むモンスターとやらか?」

 

くすくす笑うドラウディロン、相当な情報通と見て間違いないだろう。帝国と王国の同盟の事も把握していたようだし

 

「はい、そのとおりです。こちらの方角に逃げてきたのを確認しておりますので」

 

「今の所は見ておらぬが……目撃情報があれば伝えよう」

 

まぁ目撃情報なんて出ないのは判っているが感謝はしておこう、最終的に星の戦士の腕輪でビーストマンを一掃することは決めているが、それは話すつもりはないしな

 

「ドラウディロン女王、城の前の広場を使わせていただいておりますが、宜しかったでしょうか?」

 

「広場? 野営としては聞いておる。他に何か使うのか?」

 

「はい、我が友は料理人でして、そちらで腕を振るわせていただきたいと」

 

「料理人が同行か、ふふ、面白そうじゃな。大臣、私達も後で見に行ってみるか」

 

「……職務を忘れなければ大丈夫です」

 

大臣の言葉にドラウディロンは楽しみだと笑い、玉座に腰掛けようとして、目の前で子供の姿になる。思わず目を見開くと

 

「ふふふ、大人の姿が私の本来の姿なんじゃがな、子供の姿の方が都合が良いのじゃ」

 

いたずら成功と言う感じで笑う幼女の姿のドラウディロンに俺は面白い人間と言う評価をした

 

「と言うわけで、私も大臣も後で見に行かせて貰うからの」

 

「カワサキさんと共にお待ちしております」

 

この場ではツアーからの手紙を渡せないので、そちらの方が好都合と思い俺は微笑み返し、そのまま始まったビーストマンへの対策会議に参加する事になるのだった……

 

 

 

 

やっと来れた竜王国だが、俺の想像以上にくたびれていた。血痕や破壊の後を見る限りでは、完全に首都の近くまで攻め込まれているのだろう、昼前に到着したが、人の数も少ないので余計にそう感じた

 

「砦の数が減ってるし、それに街も小さくなってるよ」

 

「そうか……」

 

法国の任務で来たことがあると言うクレマンティーヌの言葉を聞いて、ビーストマンを何とかしなければと考えて、思いついたのは1つ。多分俺として非常に冴えた方法だと思う

 

「香辛料投げ付けてみようか?」

 

「みんな瀕死になるから駄目」

 

即座に却下、解せぬ。確かに瀕死になる可能性はゼロじゃないが……動物なら効果は抜群だと思ったんだけどな

 

「カワサキ様、こんな感じでよろしいでしょうか?」

 

「バッチリバッチリ、でも様はいらないぜ?クライム」

 

俺の料理の手伝いでかまどを作ってくれていたのは、あのやばいお姫様の付き人のクライムだ。正直何故と思っている

 

「ランポッサ国王のご命令ですから、それに……その……あ、いえ、や、やっぱり良いです」

 

手をぶんぶんと振り、顔が耳まで真っ赤だ。なんと言う判りやすい反応……あのやばいお姫様に関することで何かあったなと俺でも悟れるレベルだ

 

(……とりあえず、彼が無事であることを祈ろう)

 

「じゃ、エントマ。しっかり、手を洗おうか?」

 

「はい」

 

弾ける笑顔のエントマ。人化を使っているけど、昆虫成分は何処に消えてしまったのかと色々と思うことはある。だけど、それを口にしないのが大人の対応と言うものだと思う

 

「あの、カワサキさん。私もお手伝いした方がよろしいでしょうか?」

 

「いや、クライムも行軍で疲れているだろう。少し休んでおけ、夜に出陣するんだろ?」

 

ビーストマンの襲撃が多いのは夕暮れから夜だ、その前に少しでも身体を休めておけと言うとクライムはしぶしぶと言う様子でテントへ向かう。なんと言うか、やる気にあふれる青年って感じだな……嫌いではないが、空回りをしないかが心配だ

 

「じゃあ、エントマはこれを頼もうか」

 

「……粉ですか?」

 

身も蓋も無いが粉である。5つ用意したボウルの中身は片栗粉と薄力粉と塩を混ぜ合わせた物だ

 

「これにこうやってだな、水を少しずつ加えて混ぜ合わせる」

 

水を少しずつ加えては混ぜ、加えては混ぜを繰り返し、耳たぶくらいの硬さまで練り上げる

 

「これでOKだ。やってみてくれるか?」

 

「頑張りますぅ」

 

やる気のある事は良い事だ、ただやる気が空回りして、粉をぶちまけないが心配ではあるけど

 

「じゃあ、クレマンティーヌは俺と一緒にこれな」

 

「ああ……うん、大体判ってた」

 

にんじん、さつまいも、だいこん、ごぼう、えのきにしめじ、野菜の山を見て若干遠い目をしているが、これは必要なことだ。俺達に同行してくれた帝国の騎士、王国の兵士、そして竜王国の防衛をしている兵士、そして消耗している竜王国の住民に出す料理なのだから

 

「肉は?」

 

「今回は使わない、代わりにこいつを使う」

 

「なにこれ?」

 

油揚げを見て困惑するクレマンティーヌ、そう言えばクレマンティーヌの前で見せた事はなかったかも知れない

 

「油揚げと言って、豆を加工して作る物だ。栄養価が高いし、昔に宗教上の問題で肉を食べれない人の為に開発された食材だ」

 

肉を食べれないと聞いて俺が何故油揚げを使おうとしているのかを理解したクレマンティーヌは小さく頷いてくれた。ビーストマンが肉食で人間を喰らうなら、目の前で友人や家族が喰われた者もいるだろう。そういう人間の前で肉料理を出すのは、不躾と言う物だ。だが人間は食べなくては死んでしまう、それは人間に限らず生きている者全てに等しい事実。それなら肉を使わなくても栄養価が高く、そして身体を温める料理を作ろうと思うのは当然だ

 

「……できましたぁ」

 

鼻の頭やほっぺに粉をつけて出来ましたと笑うエントマからボウルを受け取り、中身を確認してみる。

 

「うん、良い感じだ。この調子で後3つ頼むな」

 

笑顔で頑張りますと頷くエントマを見ながら、俺とクレマンティーヌも野菜の下拵えを始める。ごぼうは皮を剥いたら斜めの削ぎ切り、にんじんと大根は皮を剥いて小さめのいちょう切りに、えのきとしめじは石づきを取り除き、さつまいもは水洗いをしてから丁度良い大きさに切り分ける

 

「油揚げは少し、下拵えが手間なんだ」

 

「少し?下拵えにお湯を使わないといけないのに?」

 

俺にとっては少しだが、この世界ではこれは大きな手間なのかもしれないと思い、苦笑しながら油揚げにお湯をかけて、油抜きをしてから1cmほどの幅で切り分ければ下拵えは完了だ

 

「鰹出汁を鍋に入れるから、にんじんと大根とごぼうとさつまいもを入れてくれ」

 

「りょーかい♪」

 

ナザリックで作ってきた鰹出汁を大鍋に入れて、水を少し加えておく。そのまま煮詰めると味が濃くなりすぎるからだ、クレマンティーヌに鍋の横から野菜を入れてもらい、巨大なおたまでかき混ぜながら中火で煮ていく。野菜に火が通ったら、油揚げとしめじを加えて更に煮ていく

 

「エントマも手伝ってくれ。こうやって、灰汁をすくって捨てる」

 

「はい!」

 

油揚げを入れたので浮いてきた灰汁をおたまで掬い捨てる、これを何度か繰り返し完全に灰汁が出なくなったらエントマが準備してくれた粉……このスープのメインのすいとんの出番だ

 

「これを1口大にちぎって、手のひらで押し潰して鍋の中に入れる」

 

「へー、こうやって食べるんだ。何にするのかなって思ったよ」

 

「……お団子ですか?」

 

「ちょっと違うな、似ていないとは言わないけどな」

 

甘くない団子と言えなくも無いから、似ていないとは言えないなと苦笑し、3人ですいとんを鍋の中に次々入れる。俺は一定の大きさだが、クレマンティーヌとエントマは一定の大きさに揃わないが、それもまた食感の変化になって面白い筈だ

 

「すいとんが浮いてきたら、醤油、みりんで味をつけて完成っと、良いタイミングだろ?」

 

昼前になって砦に詰めていた兵士達が戻ってくるのが見える、戻って来て行き成り料理を提供されて困惑するか、それとも空腹だから食べるかは判らないが、俺のやる事は変わらない。美味しい料理を腹いっぱい提供する、それだけだ。アイテムボックスから出しておいた使い捨ての発泡スチロールの御椀と先割れのプラスチックスプーンを準備して声を張り上げる

 

「さーカワサキ特製のすいとんだよー!美味しいからよっておくれーッ!!」

 

炊き出しの勝負はいかに人を引き寄せるか、2人が耳を塞いでいるのをみて、耳を塞ぐように言うべきだったと苦笑し、もう一度声を張り上げるのだった……

 

 

 

 

ビーストマンとの戦いを終えて、首都に戻ると帝国と王国の国旗が掲げられ、城の前の広場にテントが幾つも並んでいるのが見えた。正直それを見て俺は安堵した、兵士長などと呼ばれているが、なんてことは無い。前の兵士長が死に、階級が一番上の俺が兵士長になっただけで、俺がそんなのに向いていないのは百も承知だった。

 

「法国じゃなくて、帝国と王国なんですね」

 

「俺は法国は好かんから、帝国と王国のほうが好感が持てる」

 

法国の人間に助けを求めていたが、あの傲慢な態度。そして人を見下す視線はどうしても好きになれなかった。まぁ、それで何故、帝国と王国の兵士が揃って救援に来たのかは謎だが、疲弊している今。あの大人数での応援はありがたい

 

「さーカワサキ特製のすいとんだよー!美味しいからよっておくれーッ!!」

 

広場から聞えてくる男の大声、それに耳を澄ませると美味しいという声が聞えてくる。

 

「もしかしたら帝国か王国の料理人が料理を振舞ってくれるかもしれないですね」

 

副官が嬉しそうに笑う、確かにそれだとありがたい。竜王国の財政はギリギリだ、兵士と言えど食事は硬い黒パンとチーズで終わりと言うことも多い、王国から来てくれるならまともな料理にありつけると思い広場に向かう

 

(……む、あれか)

 

屈強な大男が白い服を纏い鍋を混ぜている。料理人と言うよりも兵士や騎士と言ったほうが良いかもしれない、筋肉もよく付いていて、腕周りなんて俺と良い勝負かもしれない

 

「おじちゃん、美味しい!」

 

「そっか、良かったな、いっぱい食えよ、坊主」

 

「うん!」

 

「ありがたや、ありがたや」

 

「気にすんなよ、爺さん。困ってるときはお互い様だ、さ、スープを飲んで温まってくれよ」

 

「……本当、美味しいです。悲しくても、お腹は空くんですね」

 

「生きてる限り腹は減る、生きたければ飯をくいな。生きてりゃ、そのうち良いこともあるさ」

 

料理を渡しながら1人1人に声を掛ける大男。見た目と反して思いやりの出来る男なのかもしれない、近づくとそのテントには帝国とも王国とも違う旗が掲げられ、漆黒のフルプレートの大男と、青い髪の男が護衛のように立っていた。いや、護衛のようではなく、実際に護衛なのだろう

 

「竜王国兵士長ガーランドと申す」

 

「竜王国……お疲れ様です。私はモモン、王国の冒険者です。カワサキさんの料理は絶品です。食べて身体を休めてください」

 

声の感じからして若い男、その若さであの装備……並大抵の冒険者ではないな、プレートもアダマンタイトだった

 

「失礼する、すいとんとやらをいただけるか?」

 

「はーい、カワサキー、竜王国の兵士さん達が帰って来たよー」

 

金髪の給仕……だが、これも並みの戦士ではないな。掲げている旗もあり、王国でも帝国でもない、傭兵かと当たりをつける

 

「はあい、どうぞーカワサキ様のすいとんですよー」

 

小柄なメイドが御椀を差し出し、俺の部下が次々受け取り列から抜けていく。一番最初に頼んだはずなんだが……何故俺が最後なのだろうな

 

「お待たせしました、すいとんになります」

 

「ああ、ありがとう」

 

見た所野菜が多く使われたスープだ、肉は正直ビーストマンのせいで余り食べたいとは思えないので、これは実にありがたい

 

「貴方達は傭兵か?それにあの旗は?」

 

「あの旗は俺達の滅んだ国の国旗でね。一応帝国でも王国でもないって言う証で立てているんだ」

 

「……生まれは南方か?」

 

そんな所と肩を竦めるカワサキと言う男、旅をしていて、竜王国に辿り着いたのだろうか?それとも帝国か王国の要請でこちらに来ているのだろうか?と色々と考えてしまう

 

「夜のビーストマンとの戦いに備える時も料理をさせてもらう、すいとんが気に入ったのなら是非来て欲しい」

 

「……ありがとう。感謝する」

 

暖かいスープが飲めるだけでもありがたい、カワサキに感謝を告げて無作法だが広場に座って、部下と一緒に食事にする

 

「あつっ!ああ、あったけえ……」

 

「ありがたいなあ、身体に染み渡るみたいだ」

 

まともな食事が出来るだけでもありがたい、俺もスープを飲むとしよう。先が割れている珍しいスプーンだ、これなら具材も食べれるし、スープも飲める。実に良く考えられていると思う

 

「ん……美味い」

 

あまり味わったことの無いスープの味だが、野菜の甘みが溶け出していて実に美味い。スープ全体の色は薄いのに、しっかりと味が染みているのも良い

 

「ふーふー、あつ、あちち」

 

野菜は小さくて食べやすい大きさだが、大根の中にはたっぷりとスープがしみこんでいて、噛み締めるとスープがあふれ出し火傷するのではないかと思うレベルだ。だが美味い、食い殺された住人や仲間を思い出し食事が出来なくなる者は多かった。俺も正直その口だが、今では慣れた……いや慣れてしまったというべきか、そんなこと慣れて良い物じゃないのにな

 

「むっ、これも美味いな」

 

見慣れない黄色く細長い何か、油が浮かんでいるのを見る限りではこのスープの味を決めている食材と言うのは判る。だがこれが何なのか皆目見当もつかない

 

「柔らかい、パンかな?」

 

「ばっか、パンがこんなに柔らかいわけあるか」

 

「じゃあなんだよ、これ」

 

「わからねえ。南方の保存食かな?」

 

保存食……確かにそうかもしれないな、何かを乾燥させて保存させやすくした食材かもしれない。しかし、あれだな。今の俺達には脂が足りないと分かっていたが、肉を食べたいと思えない、そう思っていたが……この油なら抵抗無く食べれるな

 

(……美味い)

 

身体に染み渡る熱と旨み、そして野菜の甘さと油……1口スープを口にする度に、全身に栄養が駆け巡っている気がする。これで夜の出撃が無ければ酒が欲しい所だと思っていると、1人の兵士が大声を上げた。

 

「うおっ!うめえ!これ、この白いの……めちゃくちゃ美味い」

 

白いの?ああ、スープの中に沢山沈んでいるこれか……どんな味なのか興味を持って、俺も口に運んでみる。見た事の無い食材だが、さっきの黄色いのと同じで決して悪い物ではないと思ったが、口にして思わず目を見開いた。料理を食べて驚くなんて初めての体験だったが、本当に驚いたのだ。

 

「むっ、これは面白い」

 

もっちりとした食感と、麺のような滑らかな食感。その2つが同時に楽しめる料理なんて初めてかもしれない、しかしこれは美味い。味が殆ど無いのに美味いと思う

 

「ですよね、兵士長もそう思いますよね」

 

我が意を得たと最初に声を上げた兵士が笑みを浮かべる。俺も食べたことで、他の兵士も口に運び、その何とも言えない味と食感にその顔を目まぐるしく変えていく

 

「もっちり?」

 

「つるつるかな?」

 

「何とも言えないけど面白い!」

 

スープの味がしみているだけで、さほど味があるわけではない。だが噛み締めるともっちりとした独特の食感がして、飲み込むとつるりとした喉越しが喉を楽しませる。今まで色々と食べてきたが、喉で味わう料理と言うのは初めてかもしれない

 

「……夜はまた死闘となるだろう。だが今までの竜王国だけの戦いではない、帝国と王国も協力してくれる。誰1人死なずに夜を越えるぞ、また美味い料理を食べる為にな」

 

国を守るなんて大義名分を掲げれば体が動かなくなる。何気ない日常に戻る為に戦うのだと告げる、人は特別な記念日よりも何気ない日常の方が素晴らしいと思うのだ。今ビーストマンに襲われ、日常とは遠い日々を過ごしているからこそ全員がそう思うのだ。全員で生き残って、美味い飯を食べる。久しぶりに、心の中で日常に帰れるという安心感が芽生えた瞬間だった……

 

一方その頃、ドラウディロンも執務室ですいとんを口にしていた

 

「大臣!酒!」

 

「執務中です」

 

「じゃからあ、子供の文を書くには素面は無理なんじゃ」

 

それでも駄目ですと取り付く島も無い大臣にドラウディロンは溜め息を吐きながら、スープを口にする。財政が苦しく、まともな食事を取ることすら難しい竜王国でこれほどの食事を食べるのは王族であっても久しぶりの事であった

 

「大臣も貰えば良かったのに」

 

「ご心配なく、保存してもらった物を確保しております」

 

ずるいと言うドラウディロンと念の為の保険ですと冷静に告げる大臣、感情の起伏の激しいドラウディロンと冷静な大臣、その組み合わせは存外悪い物ではないのかもしれない

 

「味は薄めじゃが、肉も無いのに、これだけ味わい深い料理を作るとはな、流石ツァインドルクス=ヴァイシオン殿も絶賛した料理人じゃな」

 

「……失礼、今何と?」

 

「ツァインドルクス=ヴァイシオン殿が絶賛した料理人らしい、ほれ、これが証拠じゃ」

 

悪戯っぽく笑うドラウディロンが懐から出した、書状にはツァインドルクス=ヴァイシオンの紋章が刻まれていた

 

「あの2人は何者なのですか?帝国と王国の人間ではないようですが」

 

「ツァインドルクス=ヴァイシオン殿の話では、ぷれいやーだそうだ」

 

ぷれいやーの言葉に大臣がそのポーカーフェイスを大きく歪める、13英雄、八欲王もまたぷれいやーであったことはドラウディロン達も周知の事実だが、まさかぷれいやーが2人も自国にいるなんて、大臣は想像もしていなかった。

 

「大丈夫なのですか?」

 

「温厚な性格らしいから、大丈夫である事を祈るしかあるまい。それに、今のままでは我が国は滅ぶ、民を守るためならば、私は悪魔にでも魂を売る」

 

民を守る、それがドラウディロンの王としての矜持であり、絶対に捨てる事の出来ない誇りであった。例え、それが竜王国を失うことになったとしても、民だけは救うと言うドラウディロンの信念であった

 

「所で、大臣。カワサキから、お近づきと言う事で好きな料理を作ってくれると言われたんだが、何故かこの写真を渡されたのだ」

 

「……外見のせいですな」

 

写真には「お子様ランチ」「オムライス」「カレーライス」の3つが写されており、ドラウディロンは酷く複雑そうな表情をしていたが

 

「ちなみに一番食べたいのは?」

 

「……お子様ランチ」

 

「子供じゃないですか」

 

「混じりけ1つ無い子ども扱いは複雑なんじゃ……」

 

子供と言う姿は庇護欲とごく一部の性的嗜好を持つ人間に好かれるようにとっている姿だが、完全に子ども扱い、そして邪な気配も何も無い混じりけの無い視線にドラウディロンはやきもきしながら、お子様ランチの写真に丸をつけるのだった……。

 

 

 

 

~シズちゃんのわくわくお料理日記 INカルネ村~

 

カワサキ様が普段カルネ村で炊き出しをするときに使う簡易キッチンの前に立つ。ナザリックをでる前に何を作るか決めてきたので、カワサキ様から下賜されたレシピ本は重しで私が作る料理のページで押さえてある。

 

「……牛乳、小麦粉、溶けやすいチーズ」

 

鍋の中に必要な食材を確認しながら入れて弱火で煮詰める。時々焦がさないようにヘラでかき混ぜながら、チーズを溶かして伸ばしていく。

 

「……うん、OK」

 

ヘラで持ち上げた時にとろりと零れる。これで丁度良い具合のはずだ、保存のスクロールでこの状態を維持しておく。

 

「……ケチャップ、ソース、砂糖、酒、コンソメパウダー」

 

今度はフライパンの中にどんどん調味料を入れて、中火でかき混ぜながら煮詰める。全体的にトロリとしてきたら火を止めて味見する。

 

「……程よく、甘い。出来た」

 

これも保存のスクロールで状態を維持しておく、これで冷えてしまう事や味がおかしくなる事は無くなるだろう。

 

「……卵、塩、砂糖、マヨネーズ、牛乳」

 

大き目のボウルで卵を割って、砂糖、塩、牛乳、マヨネーズを加えて泡立て機でよく混ぜ合わせる。全体が良く混ざったらフライパンの横において、すぐ使えるように準備する。

 

「あ、シズ様だー」

 

「シズさまーこんにちわー」

 

「なにしてるのー」

 

ネム達が私に気付いて何をしてるの?と尋ねて来る。私は1度火を止めて振り返り、食べに来てくれる人にご飯を作っていると説明する。

 

「ご飯~私達も食べていいですか?」

 

「駄目ですか?」

 

「……良いよ。座って待ってて」

 

わーいっと両手を上げて走っていくネム達を見送り、フライパンにサラダ油をひいて、卵液をゆっくりと注ぎこむ。

 

「……ジッ」

 

ゴムベラを手にして卵の状態をじっと見つめる。底が固まってきたら火を弱くして、ヘラでフライパンから卵を引き剥がしながら混ぜ合わせる。

 

(……タイミングが大事)

 

フライパンにくっついてしまうと失敗なのでくっつかないように注意しながら混ぜ合わせる。そして全体が半熟になってきたら卵の形をラグビーボール?とか言う楕円形の形に整える。

 

「……よいしょ」

 

形が整ったら全体的に火を通す為に上面と裏面を何度もひっくり返しながら加熱する。中が固まってないとひっくり返す度に卵液が零れるので、卵液が出なくなるまでそれを繰り返す。

 

「……出来た」

 

お皿の上に出来上がったオムレツを乗せて、ウレイリカとクーデリカの分も続けて焼きに入る。

 

(……1個出来るまで3分。回転は早く出来る)

 

ナザリックの食堂で私の稚拙な料理を出す訳には行かないので、アルベド様に許可を得てカルネ村のカワサキ様の厨房を使わせてもらっている。何人食べに来てくれるか判らないが、このペースなら問題なく料理が出来ると思う。

 

「……出来た、チーズのソースとデミグラスソースどっちが良い?」

 

「チーズ」

 

「茶色いの」

 

「茶色いの」

 

クーデリカがチーズ、ネムとウレイリカがデミグラスソースと言うのでオムレツの上に掛けてスプーンとバターロールを2つ添えて3人の待つ机に運ぶ。

 

「「「いただきまーす」」」

 

カワサキ様もシホも居ない、私だけで始めて作る料理なので不安を感じていたが、オムレツを口に運んで目を輝かせるネム達に良かったと安堵する。

 

「おいしー♪」

 

「シズ様すごーい!」

 

「おいしーよー」

 

美味しいと言うネム達の声がとても嬉しい、これが料理を作る時に美味しいって言って貰えるのが一番嬉しいというカワサキ様の言っていたことなんだろう。

 

「シズ様?何をしているんですか?」

 

「……ご飯を作りに来た。これから暫く、お昼に顔を見せに来る。エンリも食べる?」

 

「良いんですか?」

 

「……うん、私の勉強をかねてるから、カワサキ様ほど上手じゃないけれど……頑張って作る」

 

「それじゃあ、私もお願いしていいですか?」

 

エンリも食べるというので任せてと返事を返して、エンリの分のオムレツを焼く準備を始める。

 

「あれ?シズ様、どうも」

 

「お料理ですか?」

 

「……うん、ヘッケランとイミーナも食べる?」

 

よろしくお願いしますという2人に頷いて卵を追加で取り出し、ボウルの中に割るのだった。

 

この日からカルネ村の昼食時にシズが現れ料理を振舞うようになり、ネム達だけではなくカルネ村の住人がシズに負担を掛けないペースでシズのお手製の昼食を食べるのに集まるようになるのだった。

 

 

 

 

メニュー82 ラーメン①へ続く

 

 

 




ドラウディロンさんの口調と性格、良く判りません!ごめんなさい!ですが、石を投げないでください。私とのお約束です。今回は「ミスターサー」様のリクエストで話を書かせていただきました、リクエスト本当にありがとうございます。次回は「デンスケ」様のリクエストで「ラーメン」の話にしたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

そしてシズちゃんのお料理日記はカルネ村で開催中。大天使シズちゃんと天使ネムちゃん達で最強に見える布陣でお送りします。

シズちゃんの料理はあんまり難しい料理ではなく、簡単に作れる料理をメインにしてほのぼのでお送りします。

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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