メニュー83 筑前煮
エプロンと三角巾を頭に巻いてやる気満々のエントマの姿に微笑ましさを感じながら、出発前に王国で買い揃えた食材を机の上に並べる。どうしても王国で入手できない物は、俺のアイテムボックスから使うつもりだ。
「……お肉は無いんですか?」
「まぁこの料理には無いな、でも後でエントマには肉を焼いてやろう」
肉がないとしょんぼりしているので、後で肉を焼いてやるというと目を輝かせるエントマ。
「だから今はこの料理を頑張ろうな」
「はいッ!」
クレマンティーヌは昨日のビーストマンとの戦いに参加していたので、今は寝ている。なので俺とエントマでの料理になる。一応、俺とエントマも砦にはいたが、モモンガさんを含めて、帝国と王国……さらに竜王国の兵士までにも護られていたので疲労なんて物はない。
(ちょっと想定外だったかなあ)
基本的なバフ、腕力UP、敏捷UPとかを付与しておいたんだけど……それが思った以上に効果を発揮して、俺がいればビーストマンとの戦いに勝てるという風になっているらしい……解せぬ。
「さてと、では今から筑前煮を作ります」
「おーっ」
ちっちゃい握り拳を掲げるエントマ、実にやる気に満ちている。本人も覚える気満々なので、シズと同じくらい料理を仕込んでやっても良いと思う。
「まず、簡単なものからな。厚揚げはこうやって、1口大に切る。1口大でも、やや大きめでこれくらいの大きさだ」
肉の代わりに使うので、大きめにして食べ応えを出す。勿論これも炊き出しで大量に作るので、切る量は200枚近い。なお、これは俺がアイテムボックスから取り出した食材となっている。
「これくらいですか?」
「んー、もう少し小さめでも良いな」
判りましたとやる気に満ちているが、俺が10枚切る間に1枚くらいだ。まぁ、これは慣れてくれば早くなるだろう。
「次はしいたけ、軸を切り落として4つに切る」
しいたけも肉厚に切り分けて、油揚げと同じく食べ応えがあるようにする。本当は鶏肉を入れるのだが、肉はまだ控えた方が良いだろうと言う俺の判断だ。モモンガさんか、ガゼフさん達が肉を食べたいと言い出したら、その時に考えようと思う。
(あーでも案外そろそろ言って来そうだな)
新兵や、ビーストマンの脅威に晒されている竜王国の人間は肉を食べたいという事はないかもしれないが……もしかするとそろそろ肉を食べたいと言い出すかもしれないな。ごぼうをささがきにしながら考える、エントマも肉を食べたいと言ってるし、筑前煮を配る時に尋ねてみても良いかもしれないな。
「出来ました!」
「おー、上手に出来てるぞ」
形はやや不恰好だが、十分すぎる。考え事をしている間に皮を剥いたにんじんをエントマの前に置く。
「これは斜めに切りながら、1口大な?」
具材でお腹一杯になって貰う為にやや大きめでもかまわないと告げて、エントマの感性で野菜を切らせる。
「さてと……」
エントマが野菜を切っている間に水に昆布をつけて、昆布出汁を取る。それと平行して、こんにゃくは手で、1口大に千切り、皮を剥いた里芋も塩水で洗って下味をつけているし、こんにゃくも今は茹でている、後は蓮根を酢水につけて水洗いをすれば基本的な下拵えは終わりだ。
(少し危ないかな?)
エントマに炒めさせるのは難しいかなと思ったが、前にカルネ村でリゾットを作った事もあるから大丈夫だろうと考え直して、俺はエントマ用の巨大なお玉の準備を始めるのだった……。
カワサキ様にお料理を教えて貰えるのは本当に楽しい、私でも判るように本当に優しく教えてくれる。
(シズが料理が出来るようになった理由が判る)
これだけ丁寧に教えてもらえば、多分ルプーだってちゃんと料理が出来るようになると思う。
「じゃあ次は野菜を炒めていこうか、これをまず全部入れようか」
「はい!」
瓶に入った油を全部大きな鍋の中に入れる。カワサキ様はその間にしゃがみこんで火球で鍋を暖め始めた。
「油揚げ以外を入れる」
ざるの中の沢山切った野菜を鍋の中に加える、細かい作業が多いとわからなくなるのでこれくらい大雑把だと私も凄く楽だ。
「焦げないように丁寧に炒めるだけで良い、量が多いからちょっと大変だけどな」
「全然平気です♪」
カワサキ様と向かい合って、鍋の中をかき混ぜる。野菜の焼ける音と匂いが出てくるんだけど……やっぱりお肉が無いと寂しいなあと思うのは仕方ない事だと思う。
「よし、野菜に火が通ったら水を入れるぞ」
「はい!」
無限の水差し【ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター】で両サイドから大量の水を加える。野菜が全部水の中に沈んだらストップと声を掛けられたのでそこで傾けるのを止める。
「昆布が入ってる水があるだろ?それも全部入れるぞ」
私の側に置いてある4つのボウルの中も全部鍋の中に入れて、2~3回かき混ぜる。
「油揚げを入れて、沸騰するまで置いておくぞ」
「判りました!」
大量の油揚げを鍋の中に入れて、踏み台の上から降りる。
「次は味付けだ、砂糖、醤油、酒、みりんをボウルの中に入れる」
「あのそんなに適当で大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ、問題ない。これだけでかい鍋だぞ?少ないと味にすらならない」
そういうものなんだ……じゃあ小さい鍋ならもっと細かい味の調整があるんだなと思った。私もカワサキ様の真似をして、ボウルの中に調味料をどんどん入れて軽くかき混ぜる
「よし、これを鍋の中に入れたら、蓋をして煮込んで終わり……じゃない、おにぎりを作るぞ」
おにぎり……お米を握る料理と言うことは覚えているけど、カワサキ様みたいに上手に握れるか不安だ。
「今回はエントマでも上手に出来る物を考えているぞ」
「本当ですか?」
勿論だと笑ったカワサキ様はお米に塩を振りかけて、大きなしゃもじでお米を切りながら混ぜ合わせる。その姿を見ながら、どんな作り方を教えてくれるのだろうかと期待する。
「このお茶碗の中にご飯を入れて、中に鰹節か、魚のフレークを入れる」
カワサキ様が鰹節を入れたので、私はフレークを入れる。でもこれでどうやっておにぎりになるのだろうと思ってカワサキ様を見ていると、カワサキ様はもう1つのお茶碗を取り出してお茶碗同士を重ねる。
「こうやって何回か振ってやると、ほら」
「真ん丸です!」
お米は真ん丸くなっていた……その光景に思わず大きな声が出る。
「そしたら海苔の真ん中にご飯をおいて、海苔を巻き付ければ爆弾おにぎりの完成だ」
これなら、私でも上手に出来そうだ。カワサキ様の真似をして、私はお茶碗を重ねて上下に振るのだった……。
「アインズ様、エントマがとても可愛いです」
「そうか、良かったな」
お茶碗を両手で持って笑顔で腕を振るエントマにモモンガとナーベラルがほっこりとした表情をしているのだが……エントマがそれに気付くことはないのだった……。
俺が目を覚ましたとき、既に太陽は中空を指していた。完全に寝過ごしたと気付き、ベッドを跳ね起きようとして……。
「そうか、いつもと違うんだな」
普段ならば犠牲になった兵士の家族への謝罪行脚で、早朝から起きる。だが昨晩の戦いは犠牲者ゼロ、負傷者はいるがそれでも死に至る怪我の者は誰もいなかった。
「……勝利と言っても良いだろう」
毎晩の砦の攻防戦、それは死者が大量に出る悲惨な戦いだった。だが、今回は犠牲者ゼロと言う事で、寝る前に酒を飲んだのが寝過ごした理由だな。顔を洗い、服を着替えてから宿舎を出る。
「おはようございます!隊長!」
俺に気付いてあちこちから声が聞えてくるが、彼らの前には御椀と黒い塊が2つ置かれている。
「ああ、おはよう。所でそれは?」
「は!カワサキ殿が昼食にと振舞ってくれております!筑前煮と爆弾おにぎりと言うそうです!」
また聞いた事のない料理だな……それにしても爆弾おにぎり……か、確かに見た目は爆弾っという感じだな。
「そうか、では俺も貰ってくるとしよう」
カワサキ殿への感謝の言葉を告げる必要もある、俺はそう考えて広場へと足を向けた。
「美味しいね!」
「そうだね、本当に美味しいね」
ビーストマンとの戦いで国民には大きな負担を掛けている。やせ衰えた姿を見て、申し訳ないという気持ちがこみ上げてくる。だが、今はカワサキ殿が料理を振舞ってくれているからか、あちこちから美味しいねと言う声と子供の笑い声が満ちている。
「はい、筑前煮と爆弾おにぎりですよー」
「ありがとう、ありがとうございます」
「いえいえー、お代わりもありますからまた来てくださいね」
カワサキ殿と彼の助手なのだろう、紫の髪の少女が笑みを浮かべながら料理を手渡している。その姿に子供を連れた母親が目に涙を浮かべながら、何度も頭を下げて料理を受け取っている。
「いらっしゃい、ガーランドさん」
俺に気付いて頭を下げてくるカワサキ殿、だが頭を下げるべきなのは俺の方だ。
「昨晩の戦いの前の食事、心より感謝する。ガゼフ戦士長に聞いたのだが、料理に補助魔法を掛けてくれたと」
「はは、俺は戦えないからな。戦ってくれる人に協力するのは当然だ」
戦えない……か、正直その言葉は嘘だと思うが、それを追求する事はしない。恩人を疑うような真似はしたくないし、不穏の種火を作る必要もない。
「この料理も肉は使ってないけど、やっぱり肉は厳しいかな?」
「俺はそうでもないが、新兵は些か厳しい物があるな」
俺はこれでもかなりの年数ビーストマンと戦っている。だから肉料理に抵抗は無いが、竜王国の新兵と帝国と王国からの応援の年若い兵士にはまだ肉料理は厳しいと思う。
「なるほどなるほど、ガーランドさんはやっぱり肉を食べたいか?」
「……食べれるならばな」
肉は活力になる、ただビーストマンのせいで肉は高騰していて、早々食べれる物じゃないのが事実だ。
「そっか、じゃあ、今日の夜また砦に行くけど、肉を食べれる兵士の名前とかリストアップしておいて欲しい」
「今日の夜か?」
「今日の夜は豚汁とまたおにぎり、本格的な肉料理は明後日だな」
腹いっぱい食べたら戦いにならないだろう?とカワサキ殿が笑う。確かにその通りだと俺も笑い、筑前煮とおにぎりを受け取り宿舎に足を向けた。
「……はむ」
黒い何かに包まれたおにぎりとやらは、中に麦の仲間だと思うがそれが包まれていた。塩気が良く利いていて、実に食べやすい。それに黒いのもしっとりとしていて、独特の食感なのだがそれも美味い。
「む……これは魚か」
魚の身がほぐされておにぎりの中に包まれていた、これも塩気が利いているのと、魚の脂でおにぎりの味が格段に良くなったと思う。
「ふー、ふー……うむ、美味い」
汁気のない煮物と言う料理、甘辛く、そして良い香りがする。おにぎりと非常に良く合う味付けだ。
「……どれもこれも食感が面白いな」
穴の空いた野菜はしゃきしゃきと歯応えがよくざく切りにされたにんじんは良く煮られているのだが、しっかりと歯応えを残している。
「む、これは面白いな」
ゼリーのような黒い塊、柔らかいのに歯応えがあると言う独特な食感に笑みが零れる、すいとんに入っている黄色い何かも今回は甘辛く、そして分厚く切られているので歯応えも良い。
「これほど充実した食事は久しぶりか」
ただ食べるだけの食事ではない、楽しみながら食べる事の出来る食事は活力と気持ちを落ち着かせてくれる。そしてそれは、今夜の砦の攻防戦も死傷者を出さずに全員で切り抜けると言う強い決意へと変わるのだった……。
筑前煮はドラウディロンの元へも届けられていた、王城の一室に似つかわしくない和風な煮物とそれを食べる幼女……違和感しかないのだが、本人は上機嫌で筑前煮をフォークで口に運んでいた。
「うむ、美味い」
「野菜の味を実に上手に生かしておりますな」
「本当じゃな」
煮る事で野菜の味は消えてしまうか、ほんのりと残るだけなのだがこの筑前煮と言う料理は野菜の味を生かしながらも、甘辛い味をしている。
「あー少し酒が欲しいのー」
「駄目ですよ?」
大臣の冷ややかな視線にふうっと小さく溜め息を吐いたのだが、ことりと小さなグラスに酒が注がれた。
「だ、大臣!!」
「素面じゃ激励文が書けないというからですよ、この一杯だけです」
厳しい事を言っていても、やはり甘い所がある大臣に笑い、酒を口に含む。
「くはあー。やっぱり、思ったとおりじゃな。筑前煮は酒に良く合う」
「カワサキ殿はちゃんと夜の晩酌用に筑前煮を残してくれているのでしっかり仕事をしてください」
大臣の言葉に私は笑う、これで辛い執務にも張り合いが出てくるというものだ。全部終わった後に、楽しみがあると言うことは実にいい。
「……このおにぎりと言うのは悪くないな」
「どうです?カワサキ殿に頼んで作り方と材料を分けてもらうのは?」
大臣の言う通りかもしれない、子供の拙い文章での激励に加えて不恰好なおにぎり。これは子供を持つ兵士には十分な効果を発揮すると思う……。
「それにしても昨晩の攻防戦は被害者ゼロだったそうじゃな」
「はい、カワサキ殿の料理には補助魔法と同じ効果を持つものがあるらしいです」
食べるだけで補助魔法と同じ効果……か、食べる事は生きている以上避ける事の出来ない事だ。
「カワサキ殿に王城に貯蔵している食材を提供する」
「……英断ですな」
「しかたあるまい」
このままでは竜王国は滅びる、だがカワサキ殿が料理をする事で犠牲者が減るのならば、城に務めている人間の食材を切り詰めてでも、提供するべきだ。
「使いの者を出しておいてくれ」
「かしこまりました」
絶望するしかなかった状況が僅かに変わり始めている、そしてその切っ掛けが判っているのならそれに希望を託したい……そう思うのは当然の事だ。帝国と王国の援軍にカワサキ殿が付いてきてくれたことに、心底感謝しながら筑前煮を口に運ぶ。
「……本当に美味い」
後は心から笑えるようになってから、この美味い料理を食べたい……私はそう思わずにはいられないのだった。
若い騎士はカワサキの配慮で肉の無い料理を食べて喜んでいる……だが俺とナザミは正直物足りなさを感じていた。
「……動物でも狩に行くか?」
「止めとけ止めとけ、どうせいねえよ」
ビーストマンがいるんだから草食動物は軒並み竜王国周辺から逃走している。仮に狩に出かけたとしても獲物なしで体力を消耗するだけに終わるだろう。
「うっし、ナザミ行こうぜ」
「どこへだ?」
筑前煮は確かにいい香りをしているが、今の俺は食べたいと思えない。となれば、俺のやる事は1つだ。
「カワサキに直談判しよう」
「……それは正直どうかと思うぞ」
ナザミの言葉はもっともだが、俺も飽き飽きしている……栄養価が高いのはわかるが、もっとこう肉って感じの物を食べたいのだ。駄目元でカワサキに直談判してみようと思い広場に足を向けると、ガゼフと鉢合わせた。
「……お前も肉が食べたいとか?」
「……バジウッド殿もか……実は私もなのだ」
だよなあ、カワサキの店でカツ丼とか、唐揚げとか食べてると肉が美味い物だって判ったからなぁ……。
「駄目元で聞いて見ようと思うんだ」
「私もそのつもりでした」
これはいい、ナザミはカワサキの肉料理を知らないから乗り気ではないが、ガゼフも共に来てくれるならカワサキも作ってくれるかもしれない。
「おお、丁度良い所に、今から焼肉をするんだが、一緒に食べるか?」
駄目元で頼むつもりが、カワサキから焼肉をするけどと声を掛けられ、俺達は断る訳もなく、その誘いをありがたく受ける事にした。
「ですが、カワサキ殿。広場で肉料理を作るのは……」
「ちゃんと対策はしてる、まぁ付いて来てくれ」
カワサキがテントの中に入るので、付いていくとテントの中はテントではなく、どこかの建造物になっていた。そのことに驚いているとカワサキは楽しそうに笑う、悪戯成功と言う感じで笑っていて、これを知っていて言わなかったなと悟った。
「アインズさんも肉を食べたいって言ってるし、クレマンティーヌとかも野菜飽きたーって騒いでるからお昼は焼肉にするつもりだったんだ」
焼肉……名前はとてもシンプルだが、肉を食べれるのならば俺達に文句はない。通路を進んでいくカワサキ後に付いて行く事にする……。
「ちょっとだけ酒も飲んだりするか?」
「マジで?貰う貰う」
「……気持ちだけいただこう」
酒を飲むかと誘ってくるカワサキにナザミが顔を顰める。これから戦いがあるのにとその顔は訴えているが、カワサキは説明が悪かったなと笑う。
「俺の持ってる食材で酔いは短時間で回復するんだよ。身体に負担もない、まぁ無理にとは言わないが……焼肉を食べると酒が欲しくなるぞ」
これ以上話しても想像出来ないだろうから、まずは見てくれと笑うカワサキ。空きっ腹を抱えているのは俺達3人とも同じだ、ここで話をするよりもまず焼肉がどんな料理なのかそれを見てみようと思い、俺達はカワサキの後をついて奥の部屋と足を向けるのだった……。
~シズちゃんのわくわくお料理日記 INカルネ村 その3~
麺棒で豚肉の腿ブロックを叩きながら心から思う、料理は難しいと……シホとピッキーにサラダうどんを作ったと言う話をしたのだが、お昼に麺類と言うのは女性には良いが、働き盛りの男には些か物足りないだろうと指摘された。
(あんまり脂っこく無いと良いって言ってたのに)
確かに脂っこくないというのも重要らしいが、ある程度の油も人間には必要らしい。そう言われてみると、カワサキ様もさっぱりとした野菜炒めとかを作ると言っても豚バラ肉とかを入れてある程度油と肉を加えていたのを思い出す。
(……これならバッチリ)
腿ブロックが柔らかくなったら食べやすい厚さに切り分けて、包丁の先で食べやすいように隠し包丁と言うのを入れたら、付け合せのキャベツの千切りと味噌汁の具材の玉葱はくし切りにしてざるの中に入れておく。
「……えい」
バットに小麦粉とパン粉を入れて、ボウルの中に卵を割り入れる。フライパンに少なめに油を入れて暖めておく、沢山の油だと跳ねて怖いので、少なめの油で揚げ焼きと言う奴にしてみようと思う。
「……よいしょ」
シホが持たせてくれた鰹と昆布の出汁を鍋の中に入れて油と同様に加熱し、ある程度温まったら玉葱を入れて弱火に変える。後は様子を見て、味噌を入れるタイミングを図ろうと思う。
「……小麦粉、溶き卵、パン粉」
つける順番を口にして間違えないように豚腿をバットの中にくぐらせる。パン粉は優しく、ふわりとつける程度にして、一つまみだけ持ち上げて油の中に落とす。
「……良し」
浮いてきたら豚腿肉を入れる。肉が浸るくらいの油だけど、揚げ焼きってこんな感じで良いのかな……?
「シズさまー来たよー」
「ごはーん!」
「こんにちわー」
お昼の準備をしているとネム達がきゃっきゃっとはしゃぎながらやってくるので手を振ってあげるとネム達も楽しそうに手を降り返してくれる。
「……エンリ達は?」
「野菜を洗ったりするから、先に行ってって」
「危ないからだめだってー」
確かに川の近くで洗うからネム達には危ないだろう、先にこうしてやってきてくれてよかったと思う。
「……じゃあ、先にスープをあげる」
お手伝いをしていたのなら手も冷えているだろう、トンカツはまだあげ始めたばかりで無理だけど……味噌汁なら大丈夫だと思い、お玉に味噌を入れて味噌を溶かしながら全体を混ぜ合わせて味を馴染ませたら3人分のお椀に入れて机の上に運ぶ。
「……熱いから気をつけて」
「「「はーい!」」」
声を揃えて返事を返すネム達の頭を撫でて厨房に戻る。衣の縁が狐色になっているのを確認しひっくり返す。
「……うん。大丈夫そう」
カワサキ様の作るトンカツよりは少し色が淡いけど……たぶん大丈夫。ひっくり返してもう半分の面に火を通している間に更にキャベツの千切りを盛り付けて、ネム達用の小さいお椀に少しだけご飯をよそう。
「あたたかーい」
「それに面白い味だねー」
「でもおいしー」
味噌汁をにこにこと笑いながら飲んでいるネム達に胸が温かくなるのを感じる。ナザリックにいるときは感じれない感覚だけど……この感じは嫌いじゃない。
「……良し。出来た」
両面にこんがりと焼き色がついたのでフライパンから取り出してクッキングペーパーの上で油を切ってからまな板の上に乗せる。
「今日のご飯は何かなー」
「お肉かなー?」
「お魚も美味しいよねー」
何がでてくるかなーと楽しそうに話をしているネム達。その声を聞きながら腿肉のカツ4枚をネム達にも食べやすい大きさへと切り分ける。喜んでくれるかな、美味しいって言ってくれるかな……私の頭の中はネム達の反応を考える事だけで一杯になってしまう。
「……美味しいって言ってくれたら嬉しいな」
不安はある、だけど美味しいって言って喜んでくれたら良いな。それが私の嘘偽りの無いただ1つの気持ちなのだった。
メニュー84 焼肉へ続く
次回の話はリクエストなしで私のいれたい話となります。シナリオと料理の両立でちょっと料理と食事の描写が弱くなっていると感じたので、ここで1発焼肉を入れたいと思います。それと今回の話のリクエストは「黒龍なにがし」様でした!リクエストに参加していただき、どうもありがとうございました。
やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない