生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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皆様からの温かいコメントで、今まで自分が書いたのを見直して、旧作の続きを書いてみました。

元来想定していた話と展開が異なり、前回の話とは少々差異があるかもしれませんが、これが今の段階での私のベストになります。


前までの投稿と文の雰囲気が違いと思いますが、リハビリ作と言う事で温かい目で見ていただければ幸いです。




下拵え 砦攻防戦 第二夜

下拵え 砦攻防戦 第二夜

 

 

出陣前に振舞われた茶色いスープと握り飯、お昼の筑前煮のアレンジだと聞いたが、その味は全くの別物で身体に活力が漲るのが判った。

 

「隊長本当にやるのですか?」

 

不安そうに副官が尋ねてくる。確かに俺も不安はある……だがそれも当然の事だと思う。今までは防戦一方だったビーストマンとの戦いに俺達は自ら打って出る事を選択したのだ。砦の防衛隊に2割、残りの竜王国の戦力とそして帝国、王国、そしてモモンとナーベ、そしてコキュートスとクレマンティーヌとゼロ達5人で長い攻防戦の中で初の自ら打って出る事を選択したのだ。

 

「本当に大丈夫なのだろうか?アインズ殿」

 

「心配ありませんよガーランド殿。アンティライフ・コクーン【生命拒否の繭】で竜王国の首都を全て覆いますから、ビーストマンが攻め込んでくる事はありません。しかし、貴方達も撤退する時に弾かれると言う事をお忘れなき用に」

 

「ああ。撤退する時は、このアイテムを使えばいいのだろう?」

 

渡された奇妙な木の棒……それを割る事で拠点である城の前の広間に戻れるという、但し周囲の人間を巻き込んでの撤退になるので使う前に連携をとることを忘れるなとの注意を受けている。

 

「良しッ!出陣だッ!!全員続けえッ!!!」

 

馬はビーストマンを恐れて使い物にならない、締まらないが自らの足で駆け出す。今まで防戦一方だったビーストマンとの戦い……だが俺達は戦えるのだと、決してビーストマンの餌ではないと言う事を証明する為……そして、ビーストマンに怯えて暮らす都民に安心感を与える為に、この戦いには勝てるのだと証明する為に俺達は先陣を切って砦から飛び出すのだった……。

 

 

 

 

 

両手に持ったグレートソードを振るいビーストマンを切り裂き、あるいは吹き飛ばしながら私は戦況の観察を続けていた。

 

(牛の頭部はミノタウロスですね、あとはタイガーマン、ジャガーマン……ふむふむ)

 

……正しくはビーストマンの観察ですが、ビーストマンと一言に言ってもその姿は実に多種多様。まぁ、異形種に分類されるのでそれは当然なのですが……私が観察しているのはそこではない。

 

(ふむ、やはりデミウルゴス様の推察は当たっていたと言うところでしょうか?)

 

飛び掛ってきたジャガーマンの顎を蹴り上げ、グレートソードを一閃し両断する。ビーストマン、読んで字の如く獣人間。その性質上肉食が多いそうですが、ビーストマンの上流階級は草食系の動物をベースにしたケンタウロスや、ゼブラマンらしい。では肉食のビーストマンは?と言うと言葉を話せるようになったことにより、人間を食べる事を良しとしなかった者を除き全ては辺境部族、もしくは犯罪者であると言うことだ。

 

「……考え事をしてないで戦ったらどうですか?」

 

「いや、すみませんね、これは私の癖のようなものでしてね」

 

ジト目で睨んでくるナーベラルにすみませんねと頭を下げながらも、私は率先して前に出ることはしなかった。ナーベラルや、コキュートス様には申し訳ないとは思いましたが、私には私のやるべき事があった。

 

(……ビーストマンは獣だ。私達の力が判らないわけが無い)

 

獣の世界は弱肉強食、だがそれはひっくり返せば自分よりも強者にこのように狂ったように攻撃してくるのは違和感しかない。

 

「むんッ!!」

 

「ぎゃんッ!?」

 

炎を扱う訓練として実戦で使うと良いとのモモンガ様の指示に従っているコキュートス様でさえも、その動きに些かの疑問を抱いてている様子だ。

 

「コキュートス、どう見る?」

 

パンドラズアクターではなく、モモンの口調でそう尋ねる。コキュートス様は両手の剣を軽く振るい、私の背中合わせになるようにして死角を隠す……と言っても、私達のレベルでは奇襲で攻撃を受けてもろくなダメージにはならないんですけどね。どこで見られているのか判らないので、一応演出と言う奴です。

 

「正気ではないと判断している」

 

「やはりか」

 

私もこのビーストマンは正気ではないと判断した。確かに肉食であるビーストマンは肉を主食としているだろう……だがビーストマンの体格的に人間を食べてそれで腹が満たされるか?と言われるとそうではないだろう。それにモモンガ様の指示でやった実験に何の反応もなかったことも正気ではないという私達の推測を真に迫らせていた。

 

(あれを食べてないというのはおかしいですからね)

 

6階層に自然沸きするモンスターの中でも低レベルかつ、ナザリックでは稀少な食材モンスターを送り出したが、狩られた反応も無い。つまりあのビーストマンは意図的に人間を襲うように操られていると言う可能性が極めて高いという事だ。

 

(ニグンが何かを見つけてくれると良いんですけどね)

 

元々ビーストマンが操られているかもしれないという前提で行動をしていましたが……やはり今回の事でそれは確信へと変わりましたね。

 

「コキュートス、作戦変更だ」

 

「判っている」

 

どこで何が見ているか判らない以上手の内を明かす事は無い、コキュートス様は刀身に宿る炎と氷を消し、片方の剣を鞘に収める。

 

(さて、まずは掛かりましたね)

 

力尽きたという演出ではない、少し手数を減らす事で相手の注意を引き付ける。相手が観察しているのならばこちらも十分に観察させていただきましょう。わざと誘き寄せ、そして峰打ちで意識を奪いナザリックへ送る。相手の出方を調べる為に、貴重なサンプルとして回収しておくことにする。ニグンが法国の人間を見つけてくれれば良いんですけど、相手も馬鹿ではないのでそう簡単に見つけることは出来ないだろう。

 

「コキュートス、あれを狙うぞ」

 

「指揮官か、良い線だな」

 

装備の質がいいのと、他のビーストマンと比べて自我があるように見えた。私とコキュートス様はそのビーストマンを生け捕りにすることを決め、少しずつ前に出始めるのだった……。

 

 

 

 

 

ビーストマンの顔面を捉えた自身の握り拳を見て小さく息を吐く。ナザリックでの地獄の訓練を連想させるビーストマンの群れ群れ群れ……だが、その脅威度は低く、囲まれているのに冷静に周りを見る余力さえある。

 

「……ビーストマンってこんなに弱かったっけ?」

 

「慢心するな、マルムヴィスト」

 

ビーストマンは人間では戦う事の厳しい相手だ。だが今の俺達の敵ではない事は事実だが、慢心して良い相手ではない。

 

「火球【ファイヤーボール】」

 

デイバーノックの魔法で相手がひるんだ瞬間に地面を蹴り、踵落としで相手の頭蓋を砕く。徹底して一撃必殺、もしくは相手の足を狙い機動力を削ぐのが俺の戦いの全てだ。

 

(関節技……だったか)

 

セバス様に教わった俺の新しい戦闘スタイル。力任せではない、計算された一撃。人間の間接や動物の関節にはこれ以上曲がらないというポイントや軽く締められただけでも激痛が走る場所がある。現に、頭を締められた時は死ぬかと思った。

 

「シャアアッ!」

 

「ふっ!」

 

力任せに振るわれた腕を避けて、手首を掴んで捻りあげる。力づくで捻りあげたのでゴキリと言う嫌な音と共にビーストマンの腕が垂れる。肩の関節を破壊することに成功したのだと思うが、今もなお関節を極めるという感覚が判らない。

 

「マルムヴィストッ!」

 

「判ってるッ!」

 

俺達が身に付けた技術はどれも未知の物で、使いこなせているとはいえない。だがその中でマルムヴィストとぺシュリアンは基本的な技術の向上に務めていた。トドメと言えば聞えはいいが、後始末を任せて次のビーストマンに照準を合わせる。

 

「そら、早く感覚を掴みな」

 

「エド、すまんッ!」

 

エドの周りを滞空する直剣が射出され、相手の太腿を貫いた。相手の動きが止まった所で飛びつくようにして相手の腕を掴んで身体を使って相手の腕を伸ばす

 

「ギギャアア!?」

 

乾いた音を立ててビーストマンの腕の骨が砕けた。腕ひしぎ……だったか、今のは大分感覚を掴めたと思う。

 

(ひたすら練習するしかないからな)

 

セバス様は俺に関節技を掛けさせてくれたが、俺の筋力ではセバス様の関節を折り曲げると言う事は出来なかった。つまり俺は関節技の知識を身に付けただけで、技術は全くと言って良いほど習得出来ていないのだ。

 

(次は……なんだったか)

 

足の関節技はビーストマン相手では自分を傷つけるリスクがある。それに関節技は体が柔らかい相手には効果が薄い。

 

(考えろ)

 

何かあるはず、何かもっと有効な……教えられた技術と自分が元から持っていた技術……それを噛み合せる事で新しい何かが生まれるはずだ。

だ。

 

「カアアアアーーーッ!!」

 

「ぬっぐっ!」

 

突如空中から急降下してきたバードマンの強襲に反射的に反応出来たが、相手は攻撃を加えて上空に離脱してしまった。

 

(ちっ、空を飛ぶ相手か……)

 

接点は急降下してきて、攻撃を繰り出そうとした瞬間。そのタイミングは非常にシビアだ。しかも、あの高度ではエドの直剣も、デイバーノックの魔法も射程外だ。

 

「カアアアアッ!」

 

「せいッ!!」

 

急降下に合わせて拳を突き出す、相手の鉤爪と俺の拳が交差する。だがやはり膂力の差は大きいのか、俺の攻撃は浅く相手の攻撃は俺の腕に深い切り傷を残した。

 

「ゼロっ!」

 

「気にすんな!それよりも俺の相手だ!邪魔をするなッ!」

 

何か、何かが見えてきそうな予感がする。それを邪魔されるわけには行かず、心配したぺシュリアンにそう怒鳴り返し拳を強く握り締めた。

 

「カアアアアーーッ!!!」

 

「おせえッ!!」

 

相手が反転して急降下してきようとした瞬間に地面を蹴り、体当たりの要領でぶつかると同時にバードマンの顎と足を掴む。

 

「行くぜおらあああああーーーッ!!」

 

バードマンに再び飛翔されないように力を込め、全体重をかけてバードマンを肩に担いだまま地面に着地する。

 

「げばらあッ!」

 

骨を砕く音……そしてこれ以上に無い手応えを感じた。これが自分が身に付けるべき技術なのだと確信した。

 

「これだ」

 

関節技と打撃技の複合……まだまだ荒いが、これを突き詰めれば俺はもっと強くなれる。今の感覚を忘れないうちにと俺は次のバードマンを探して走り出した。

 

一方その頃竜王国の首都ではろくな休憩も取らず動いていたニグン達は竜王国に潜む法国の人間を発見していた。

 

「ニグン、お前……どうして……いや、それよりも生きていたのか!?」

 

「ガイウス、お前も元気そうで何より」

 

「元気がとりえみたいなもんだからな俺は、それよりもカルネ村の後から何をしていたんだ?」

 

カルネ村の殲滅と破滅の竜王の捜索、それが任務だった筈だとガイウスはニグンに問いかける。

 

「まぁ積る話もあるだろうが、まずはこれを飲んでくれないか?」

 

「ん?スープ?寒いからありがたいが……なんだその筒は?」

 

「スープが冷めなくなる水筒さ、まずは飲んでくれ寒いだろう?」

 

ニグンが飲んだのを確認してからガイウスも口に含み……ニグン達がそうであったのと同じ様に凄まじい涙を流し始める

 

「な、なんだ……ああ、違う……違う……俺、俺は……ぐっ!?」

 

「すまんな、ガイウス。目覚めたらまた話をしよう、同期の友人としてな」

 

自傷行為を始められるわけには行かぬとニグンの拳がガイウスの腹に突き刺さった。

 

「これで2人か、望み薄だな」

 

「ですね。10人中2人ですからね」

 

「……正直、ビーストマンの中に投げ捨てるのは辛かったです」

 

「仕方ない、街の中で怪死体を残すわけには行かぬからな。1度アインズ様とカワサキ様の元へ向かうぞ」

 

「「はいッ!」」

 

気絶したガイウスを荷物のように担ぎ、ニグン達は闇夜に紛れて動き出すのだった……。

 

 

 

 

~その頃王国では~

 

 

ロ・レンテ城の奥、ラナーの私室。本来ならば部屋の主であるラナーとクライム、そして部屋つきのメイドしか訪れないその部屋にはとても珍しい客人の姿があった。

 

「さ、飲むなんし」

 

「まぁありがとうございます。シャルティア様」

 

流れ星の指輪の利用方法を考えていたアルベドとシャルティアだが、どうしても3つと言うのに自分の邪な願望が混じってしまうので、アルベドが認める才人であるラナーの元に訪れていたのだ。

 

「押しかけたのは私達ですから、ある程度の手土産を持ってくるのは当然ですわ」

 

「それでもありがとうございます。クライムもいなくて、正直暇だったのです」

 

アルベド様達に笑いかけるが、私の本心は炎のように怒り狂っていた。何故クライムを竜王国なんて場所に派遣しなければならないのか、何故貴族階級を与えるなどと言い出したのか。判ってはいる、判ってはいるのだ。お父様は私がクライムに懸想しているのを知っている。クライムに貴族の階級を与え、どこかの土地を与えて私の幸福を望んでいると言うのは判っている。だけどそれは私の思い描いている幸福ではないのだ。2人だけでひっそりと暮らしたいのに、何故領土などを与えられなくてはならないのか……だがクライム自身が相応しい男になって戻ると言ったのだ。ならば、私はそれを待つしかないのだ。

 

「大丈夫なんし、ちゃんと見守っているから、お前は私達に知恵を貸せばいい」

 

「……はい、判ってます」

 

アインズ様達と共にいるのならばクライムが死ぬ事は無い。クライム自身が無茶をしないことを祈ればいいだけだ。

 

「それでその流れ星の指輪と言うものは奇跡を起こせると言う認識でいいのですか?」

 

「まぁ、そんな感じでありんすね。それで人間はどんな物を望むでありんす?」

 

人間が何を望むと言われても、それは人によって違う。権力が欲しい、金が欲しい、あれが欲しい等と物欲と権力欲は人間と切っても切れない物だろう。

 

「そう難しく考えなくてもいいの、何かそうね……貴女にとって些細な願いでも良いのよ」

 

「……そう……ですね。もしも願いがかなうならと思ったことはあります。永遠が欲しい」

 

永遠とアルベド様達がおかしな物を見るような目で私を見るが、異形種だから寿命と言う物にとんちゃくしないお2人には理解出来ないかもしれない。だけど、人間からすれば永遠は欲しくて仕方ないものだ。

 

「好きな相手と永遠に、それこそ世界が終わるまで2人で居れるというのは……とても幸せだと思います」

 

「……んー、確かに同意は出来るでありんすね」

 

「永遠と言うのはやりすぎかもしれないけど、確かに時間と言う物で考えればそれは間違いではないかもしれないわね」

 

どんなに金があっても買えない物……時間は人間ならば誰だって欲しい物だと思う。後は……やっぱり人間なら1度は思うことだ思うけど……

 

「若返りたいと思うのも人間だけだと思いますよ」

 

年老いて、老い先短いと知った時。若返りたいと人間なら思うと思いますと言うと紅茶を口にしていたお2人の目の色が変わった。

 

「シャルティア」

 

「判ってるでありんす、ラナー。ちょっといい考えが纏まったので私らは帰るでありんす。また、今度ゆっくり話しに来るなんし」

 

何か私の言葉が2人にいい考えを齎したのか、現れた時と同じ様に黒い渦の中に消えて行った。

 

「またのお越しをお待ちしています」

 

私の考えを認めて、そしてそれをアインズ様に伝えると考えているのならば、もしそれを妙案として受け入れてくれたのならば、何か褒美がもらえるかもしれない。

 

「クライムと2人の永遠なら、それもいいかもしれないわね」

 

クライムが嫌だと言っても、永遠を手にする機会があるのならば、それを望んでも良いだろう。クライムと共に過ごせるのならば、人で無くなったとしてもそれはきっと幸福な事だと思うから……。

 

「くしゅん!」

 

「なんだークライム、冷えたか?なんか温かい物でも淹れてやろうか?」

 

「よろしいのですか?」

 

「かまやしねえよ。俺を護ってくれてるしな」

 

ちょっと冷えたかもしれないから温かい物を淹れてやると言ったカワサキだが、その寒気がラナーによる物だという事を感じ取っていた。そしてラナーを崇拝しているクライムに伝えるか悩み、伝えない事を選択した。それが後に間違いだったと言う事を知ることになるのだが、今のカワサキはそれを知る良しも無いのだった……。

 

 

 

メニュー85 スペアリブへ続く

 

 




22時1分に料理回も予約投稿しておりますので、そちらの方もよろしくお願いします。

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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  • 間違っていない

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