メニュー86 ハンバーガー その1
昼食のスペアリブは大変に好評だった。かなりの量を仕込んでいたのに、それが全てなくなったのは俺としても非常に喜ばしい。だが問題はスペアリブを食べたので夕食をさほど食べる事が出来ないであろうと言う点だ。
(スープだけじゃ力もでないだろうし……)
おにぎりと豚汁の組み合わせはもうやったし、続けてやるのはやはり不評となるだろう。おにぎりのように簡単に食べる事が出来、そしてある程度のボリュームもある……
「サンドイッチ……ってのもなんだしな、うしッ!決めたハンバーガーにしよう」
「ハンバーガーですかぁ?」
「俺らしくないと思うか?」
「い、いいえ、そ、そういうことじゃないんです」
エントマが違いますと手を振る。別に俺は凝った料理にこだわりがあるわけじゃない、手軽に作れて味も良ければそれに文句はない。それにハンバーガーって言うのは案外奥が深いものだ。
「パンに具材を挟むというが、これが案外奥深いんだよ」
ハンバーグを挟むと言うのが一般的だが、ハンバーガーと言うのはいろんな国で生まれ、そして愛されてきた。
「信じられないと思うが、ドーナッツで挟むハンバーガーもあるんだぞ?」
「ドーナッツってあの甘いドーナッツですか?」
「その甘いドーナッツに肉を挟むんだよ」
「……美味しいんですか?」
「それは知らん」
俺自身は食べたいと思わないが、それでもそう言う物もあると言う話だ。それにもっと面白いので言えば
「アイスクリームを挟んだ物や、焼いた玉葱、揚げた玉葱、生の玉葱を挟んだ物もある。つまりだ、ハンバーガーって言うのは自由なんだよ」
「……自由ですか?」
「そう、自由なんだ。こうじゃなきゃいけない、これを挟んだらいけないなんて決まりは無い。本当に自分の好きな物を挟んで良いんだよ」
結局の所、自分が美味いと思うものを食べるのが一番美味いのだ。だからこうしたらいけない、こうしなきゃいけないなんて決まりは無いんだというとエントマは少し考える素振りを見せてから、おずおずを手を上げた。
「じゃあ……ステーキとかも挟んでも良いんですか?」
「いいじゃないか、ステーキ。ボリュームたっぷりで面白いと思うぞ?そうだな……そこにチーズとかも入れてみるか!」
ハンバーガーのバンズは前に何かの食材ガチャに外れ扱いで大量に引き当てているので色々試す事が出来る。
「おはよー……何の話してるの?」
クレマンティーヌが起きて来て、何してるの?と尋ねてくるので、好きな食材でハンバーガーを作るって話だと説明すると、眠そうに目を擦っていたクレマンティーヌの目がきらりと光る。
「じゃあさ、海老!あれ美味しかったんだよねー」
「海老バーガーか、それも面白いな。良し、1回食材を書き出してみるか」
「「はーい」」
声を揃えるクレマンティーヌとエントマに紙を渡して自分が食べたいと思う物、こんな物を挟んだら美味しいんじゃないかと思う食材の名前を3人で紙にメモする。そこまで沢山作っている余裕はないので、ある程度絞り込むがやはり意見の交換と言うのは大事だ。
(コロッケとかも挟んだら美味いよなあ……後はそうだなあ……白身魚とか)
肉系はクレマンティーヌとエントマが選ぶだろうし、俺はちょっと変わり種のネタを書いてみるかな。後、個人的にコロッケとか、カレーコロッケとか食べたいと思っていたし。コロッケとカレーコロッケっと……。
「やっぱりお肉食べたいですねえ」
「肉は美味しいですしねー、私は海老とか食べたいです」
「海老……あんまり食べた事無いかなあ」
「美味しいですよ、凄く」
「じゃあ海老って書いてみるぅ」
楽しそうに意見を交換しながらハンバーガーに挟む物を話し合っているクレマンティーヌとエントマが姉妹に見えるなと思いながら、俺はアイテムボックスからバンズの入った袋を次々取り出すのだった……。
カワサキ様に命じられてじゃがいもをどんどん洗って鍋の中に入れて茹でていく、色々挟んでみたい物はあったけど時間の都合上1人2つがハンバーガーの中身になった。
「これ茹でるだけで良いんですかぁ?」
「ああ、1度茹でてそこからだからな。どんどん茹でてくれ」
沸騰している鍋の隣でじゃがいもを洗ってどんどん放り込んでいく。全部入れ終わったら1回蓋をしてカワサキ様に渡されたタイマーのスイッチを入れる。
「他にお手伝いする事はありますか?」
「じゃあ野菜を洗って、手で千切って貰おうかな。包丁が大丈夫と思ったら使ってくれてもいいから」
「判りましたぁ!」
料理を教えて貰えて、カワサキ様のお役にも立てる。シズがこんないい仕事をしていたのかと私は本当に驚いた。それと同時にシズが料理が出来るようになった理由も判ったので、カワサキ様のお手伝いをしている間にシズ以上に料理を覚えてやると思った。だけど、まずは出来る事からだ。トマト、レタス、玉葱を洗ってボウルの中に入れる。一番大事な食材を洗う事、私は最初洗剤を使うと思ったのだけど、料理をするときは洗剤を使ってはいけないというのは驚愕の事実だった。
「猫の手猫の手。よいしょ」
包丁の扱いに慣れないと次の料理を教えてもらえないので、昨日教えてもらった猫の手で野菜を押さえて、包丁で切り分ける。
「カワサキー、これくらい?」
「それくらいだな、ある程度形を残したほうが食感がいいぞ」
りょーかいっと気の抜けた返事をするクレマンティーヌ。だけど、カワサキ様の許可がでているのならばシモベがそれに意見する事は出来ないので、喉元まで出てきた言葉をぐっと堪える。
「カワサキさーーん、ステーキはそのまま挟むんじゃないんですか?」
「そのままだと硬いからな、こうやって包丁の背で叩いて筋切りと柔らかくするんだ」
簡単そうに見えるが、これが結構難しいと笑いながら包丁の背でステーキの肉を叩くカワサキ様。適当に叩いているように見えるけど……多分、これは私に理解できないだけで高度な料理法なのだと思った。
「良し、じゃあエントマはハンバーグの準備をしてもらおう」
ハンバーグ……ナザリックの食堂でも出るメニューだ。潰したお肉を丸めた奴、柔らかくて噛み応えは無いけど……肉汁たっぷりで美味しい奴。
「……氷水も料理に使うんですか?」
氷水の入ったボウルと空のボウルを差し出され、氷水も料理に使うのかなと言う素朴な疑問が浮かんでカワサキ様にそう尋ねる。
「手を冷やすのに使うんだ。挽肉を混ぜる時に手が暖かいと脂が溶け出してしまうからな。そこに飴色の玉葱があるだろ?」
「は、はい。あります」
大きなお皿に入った良く焼かれたみじん切りの玉葱を手に取る。
「それをボウルの中に入れて、その隣の牛と豚肉の合い挽きを入れて、卵を割るんだけど……卵割れるか?」
「大丈夫です!頑張りますッ!」
基本的な下拵えはできるので卵だって割れる……力加減を頑張ればだけど……カワサキ様に出来るかと言われて出来ないなんて言えないので、頑張ってやりますと返事を返す。
「卵も入れて、氷水で手を冷やしながら玉葱と卵を混ぜ合わせるんだ。ちょっと冷たいけど頑張ってくれ」
「はい!判りました」
冷たい氷水で手を冷やして、お肉を混ぜ合わせる。お肉も冷たくて、氷水も冷たい。手が指先から冷えてくるのが判る……だけど今まで気にせずに食べていた料理にこれほどまでの工夫がされている事を知り、料理って面白いと思うのだった。
エントマ様が時々氷水に手を浸して、顔を歪めながら挽肉をこねている姿を見ながら私もカワサキに教わりながら、海老の調理を進める。
「ボウルに海老を粗く切ったのと、すりつぶした物を加える」
さっきまですり鉢で潰していた海老のミンチと粗く切った海老を加える。
「カワサキは何をしてるの?」
「これか?コロッケだ」
コロッケ……芋を揚げた奴だけど、カワサキのはまた別物に見える。それを見るとやっぱりカワサキよりも前のプレイヤーの伝えた料理はちぐはぐだったんだなあと思う。
「バターで炒めてるんだ、良い香りだね」
「味に深みが出るからな、後は塩コショウとナツメグで味を調えて終わりっと」
カワサキの料理は本当に工程が多い。煮るとか焼くだけじゃなくて、細かく味を調えて完成した後の味に合わせて濃過ぎないように本当に丁寧に味を調えている。
「カワサキさーーん。出来ましたぁ」
「良し、上出来上出来。じゃあこれを形を整えて、揚げる準備と焼く準備をしような」
ボウルやバットの上に並べられた肉や魚の半身、そして私が今作った海老のミンチや、エントマ様の……。
「ちょい待ち。カワサキ、それカレー粉でしょ?」
「大丈夫だって、これは辛くない……よ?」
「何で疑問系なの?」
「……危ない所だった、甘口と辛口を間違えていた」
……カワサキってたまにこういうポカをする。わざとなのか、それとも自分基準で大丈夫って考えているのか……辛い料理以外ではこんな事はないから、多分辛いのは自分が平気だからこう言う事をしてしまうのだと思う。
「気を取り直して、これだ。甘口カレー粉、コロッケとカレーコロッケに分けたいと思ったんだ」
瓶を確認して甘口と書いてあるのを改めて確認してからカワサキに返す。出撃前に全員ダウンとか本当に止めて欲しいから、やっぱり確認する事は大事だと思う。
「油を引いて、こうやって真ん中をへこませてフライパンの上にそっと置く」
「……はい。判りました!」
エントマ様に見本を見せてハンバーグの焼き方を教えるカワサキ、今度は私の方に来て小麦粉と卵とパン粉の入ったボウルを机の上に置いた。
「小麦粉、卵、パン粉の順番で形を整えた海老を付けて少なめの油で揚げ焼きにするんだ」
「……これ全部?」
「そ。それ全部」
「……ちょっと気合入れすぎたかな?」
「俺も似たようなもんだ。ま、ちゃっちゃか焼いて行こうぜ」
カワサキに判ったーと返事を返し、海老カツを平べったく……ってはやあッ!?
「ほいほいほいほいっと」
カワサキが凄い勢いでコロッケの形を整えて、小麦粉、卵、パン粉の順番で付けて油が入っているフライパンの中に入れていく。おかしいな、今残像とか見えたんだけど……
「カワサキさーーんが4人見えるッ!?」
「あ、やっぱりですか?私もそう見えます」
カワサキの姿が複数に見えたのはどうやら私だけではないようだ。カワサキって本当に料理に関するところは凄い能力があると思う……と言うか、人間の姿をしているからクックマンの技能じゃなくてカワサキ自身の特技って事になるわけで……
(神の国とかじゃないんだなあ)
カワサキに聞いて、スレインの言う神の国なんて言うものが存在しないと言うのは知っていたけど……こういう技能が必要になるとか、神の国じゃなくて修羅の国なんじゃってたまに思う時がある。
「あ、良い感じの色になって来た」
「そろそろかな?」
「そろそろだと思いますよ、ゆっくりひっくり返しましょうか」
少ない油で揚げ焼きにしているので、焼き加減が本当に良く判る。私の海老カツの色が変わって来た所でエントマ様のハンバーグも丁度良い焼き色になったので一緒にひっくり返す。
「むふうー」
「上手に焼けてますね」
「バッチリ」
シズ様と違って表情豊かなエントマ様、でもそんなことを考えているとばれてしまうと命が危ないので、一瞬浮かびかけた微笑を気合を入れて我慢する。
「焼きあがったらどんどん次のを焼いてくれよー、まだ時間はあるけど作る量が多いからなあ」
……私達の倍くらいの量を既に仕上げているカワサキに絶句する。だけど、折角色々作ってみるのだからと思い1つ良い事を思いついた。
「エントマ様、少し交代してみましょうか?」
「……私が揚げるの?」
「そうそう、私もあんまり料理しませんし、お互いに勉強って事でどうでしょうか?」
エントマ様は私の提案に少し考え込む素振りを見せてから、少しだけそっぽを向いた。
「私は揚げるの初めてだからちゃんと教えて」
「勿論です。私も焼き料理は初めてだから、カワサキに教わった事を教えてくださいね」
少しだけ壁があるかなと思ったけど……今日の料理でその壁は少し少なくなったかなと思いエントマ様に微笑み返し、立ち位置を交代するのだった。
「良い傾向だな、やっぱりクレマンティーヌの社交性は高いな」
明るい笑顔良しだけではなく、人の心を掴む能力に長けている。そうでなければエントマとああも簡単に話す事は出来ないだろう、暗部なんかに所属しなければ本当にもっと明るい未来があったんだろうなとカワサキは小さく呟きながら、バンズを袋の中から取り出す。
「1度試食してもらうかね」
今頃セーフハウスの中で会議をしているであろうモモンガ達の事を思い、ハンバーグ、魚のフライ、海老カツ、ステーキなどのハンバーグの試作を差し入れとして持って行こうと思いバンズをトースターにセットするのだった。
「全く……食えと言っても食べないと言うから困ったもんだ」
スペアリブを一応持って行ったカワサキだが、会議中なので後にしてくれと言っているうちにお代わりで確保していた分もなくなってしまった。だが流石にこの時間帯なら嫌でも食べるだろと呟き、焼きあがったバンズに野菜とハンバーグを挟みセーフハウスに運ぶ準備を始めるのだった。
ニグンがやっと戻ってきたのだが、竜王国に潜んでいたスレインの人間は15人、そしてその内洗脳されているのは3人と全体の約二割ほどだった。
「洗脳されている者もいるが、それ以上に嬉々として異形種狩りをしていると言うものもいると言うわけか……」
「度し難い国とは言い難いでしょうな」
洗脳されている者がいると一言で言うのは簡単だが、考えても欲しい。洗脳された親に育てられた子供もまた洗脳されるという図式は判る……判るが、洗脳された者とそうではないものを区別するのは審判の料理しかない。
「対処法は他に無い訳だ。ならば対処法は変わらない」
「処分すると言う事でよろしいですね?アインズ様」
軍師として参加しているデミウルゴスの言葉に頷く。洗脳されている者ならば助けてやろうと言う仏心も沸く、だが親が洗脳されていたとしても、異形種を殺すと言う決断をしたのはその者達だ。其処にかける慈悲は無い、俺の決定にデミウルゴスが満足そうに頷く。
「では戦況ですが、竜王国側が圧倒的に有利となっております。これはコキュートスとパンドラズ・アクター、そしてナーベラルの活躍が大きいですね」
ここら辺周辺の地図に印を打つデミウルゴス、赤と青で印を打ってくれているので俺にも判りやすくて本当に助かる。
「それで本日はゼロ達をビーストマンの国へ向かわせると聞いておりますが、一応護衛を付けますか?」
「シャドウデーモンを3体だ。かなりの戦果を上げてくれている、このまま処分するつもりは無い」
八本指だったが、その罪はこの活躍で大分償う事が出来ただろう。ビーストマンの国へ向かわせるのも相当のリスクがあるが、ナザリックから放した食材モンスターに手を付けない辺り、きな臭くなってきた。それにスレインの人間がいるのもおかしいので、1度ビーストマンの国に向かう必要はあるのだ。
「ゼロ達ならば、無事にやり遂げてくれるでしょう」
「……ゴミにしては、まずまずの活躍をしてくれています」
コキュートスとナーベラルもゼロ達の事はそれなりに認めてくれてる。あくまで、それなりと言う話だが……敵意が少しでも収まった事をよしとするべきだろう。
「判りました、では安全なルートの模索、それと護衛の件はこちらで進めておきます」
「頼んだぞ、デミウルゴスよ」
「はっ、お任せください」
魔法でブッパとか俺でも出来るんだが、綿密な作戦はやっぱりデミウルゴスに頼んだ方が良いだろう。
「会議は一区切り付いたかー?昼飯を持ってきたぜー」
「カワサキさん、ありがとうございます」
最初に持ってこられた肉の塊は確かに食べたいと思ったが、その為に会議を中断する訳には行かず、無理と言ってしまったが、今度運ばれてきたのは丸いパンだった。
「おう、デミウルゴスもお疲れ様」
「いえいえ、アインズ様とカワサキ様にお仕え出来る事が私の喜びです」
あの社畜思考。本当に何とかならないかな?カワサキさんが凄く渋い顔をしているから本当にそう思う。
「カワサキ様、お手伝いします」
「ああ。すまんな、ナーベラル。1つ受け取ってくれ」
大皿を3つ運んでいたカワサキさんから1つを受け取り机の上に置くナーベラル。その皿の上には山盛りのパンが乗っていた、見た所片手でも食べれそうで、会議の事を考えてくれているのは明らかだった。
「今回の出撃前に出す料理のハンバーガーだ。中に色々挟んであるから色々食べてみてくれ」
カワサキさんはそう言うと料理の準備があるからと会議室を出て行く。その姿を見送り、机の上の大皿に置かれたハンバーガーに手を伸ばす。
(これはステーキか、面白いな)
小さく切ったステーキをそのまま挟んでいるとは面白い、しかも色々あるから色んな味を楽しめるのがいいな。
「お前達も遠慮せずに食べるといい」
食べていいのかと悩んでいる様子のデミウルゴス達にそう声を掛け、手に取ったハンバーガーに齧り付く。
(うん、これはいい)
レタスのシャキっとした食感とトマトの酸味、そしてその後に口に広がる肉の旨み。ステーキだから硬いと思ったのが簡単に噛み切れるほどに柔らかく、しかしステーキの食感は損ねていないにも関わらず、まるで高級なハンバーグを食べているような感覚だ。
(本当にカワサキさんは凄い)
ステーキでハンバーグのような食感を出すとか、俺には想像もつかない。カワサキさんの技術と料理の知識がこの味を作るんだろうなあと思いながらハンバーガーに齧りつく。
「む、これは魚ですね。タルタルソースの味がいいです」
「……ん、これは海老ですね。食感が面白いです」
「ほほう、チーズ入りですか、ハンバーグと良く合いますね」
「チーズがあるのか、私のは普通のハンバーガーだったぞ」
楽しそうに自分達がどんな味だったかと話すデミウルゴス達、その楽しそうな雰囲気に俺も楽しい気持ちになりながら、2個目のハンバーガーに手を伸ばす。
「む、これはカレーか、だが甘口だから美味いな」
カレーと聞いて肩を大きく震わせたデミウルゴスとパンドラズ・アクターにトラウマになっているじゃないかと思いながら、カレーコロッケバーガーの芋の味と、その芋の味にアクセントを加えるカレーの風味と僅かな辛味を俺は楽しむのだった。
~シズちゃんのわくわくお料理日記 INカルネ村 その6~
今日は普段より少し早めに来て調理を始めていた。と言っても凝った料理を作るのではない、カワサキ様がハンバーガーと言うサンドイッチの仲間を竜王国で振舞っていると言う話を聞いたので、私もサンドイッチを作ってみようと思ったのだ。
「……準備出来てる?」
「はい、お昼には焼きあがると思います」
エンリに今日はパンでお昼ご飯にするので、皆自分で食べれる大きさで欲張らずにパンを焼くようにと伝えて貰ってある。だから私はそのパンに挟む具材を用意するだけなのでそこまで大変と言うわけでもない。
「凄い沢山ありますね」
「……これくらいでも足りないかなって思う」
千切った野菜に厚切りのハムと薄くスライスしたハム、それにモーサのソテーとか、挟んだら美味しいだろうなあと思うのを色々用意してある。
「この黄色いのは?」
「……卵を潰したソース」
「卵でソースを作ったんですか!?」
驚いているエンリにその通りと返事を返す、カワサキ様がパンには卵のソースと言っていたので私もそれを作ることにしたのだ。
「……そろそろ来る」
籠に入ったパンを運んでくるネム達が見える。今日は決して派手ではない、だけど良く晴れた日なのでこうやって皆でわいわい食べるのも面白いし、何よりも自分で作ると言うのがいい経験になると思う。
「シズ様ーパン焼けたよー」
「むふー頑張った!」
ネム達を先頭に子供組みがきゃきゃっとはしゃぎながら広場にやってくる。籠に入っているパンは私が作るようにと言ったロールパン、これの真ん中を切って自分の食べたい具材を挟むようにと言うとあちこちから歓声が上がる。
「この大きい燻製肉も良いの?」
「……良いよ。だけど、残すのは駄目。ちゃんと食べれる量にしてね」
はーいと元気よく返事を返し、自分の食べたい具材の乗った皿に順番に並ぶ。横入りとか人を押したりしたら注意しようと思ったけど、そんな事をしようとする相手がいなくて良かった。
「お魚をはさむとおいしい!」
「野菜と燻製肉もおいしいよー♪」
「卵のソースなんて初めて食べたー」
「お肉が厚くておいしい」
きゃっきゃっと楽しそうな声が響くだけで私も楽しくなってくる。
「シズ様もどうぞー」
「がんばった」
「ネム達が焼いたんだよー」
ネム達が自分達が焼いたパンにハムとレタスをはさんで持ってきてくれた。パンの間からはみ出ていて、パンにタルタルソースが零れている。決して綺麗とは言えない仕上がりだ……だけどそれが私にはとても綺麗な物に見えた。
「……ありがとう」
「「「うん♪」」」
ネム達が作ってくれたというのが嬉しくて、なによりも胸の真ん中が暖かくなった。にこにこと笑うネム達の隣に腰掛け、私はネム達が作ってくれたサンドイッチを口に運ぶのだった。
「なんかシズ様、明るくなったわよね」
「うん。アインズ様もカワサキ様もこれを見越していたんじゃないかな?」
カルネ村で暫くシズを預かって欲しいと言われてエンリは驚いたが、こうして村に馴染んでいる姿を見るとこれをも見通してエンリにシズを預かってくれと頼んだような気がしていた。
「えっさーほいさー」
「おーい、大漁でござるよぉ」
ゴブリン達とハムスケ、そしてリザードマンの猟師達が巨大な台車を押してくる。
「大漁なのは良いが、これをどうしようか」
「使い道がないんですか?」
「あーっと言うか、これはよく乾かしてすりつぶして「……それ、私が使う」シズ様?いや、それはいいんですけどねえ……これ食いもんじゃねっすよ?」
「……違う、これは食べ物。そして凄く美味しい」
台車の中に入っている籠の中に入っている生き物。両腕が鋏で強固な殻を持つ生き物を見て、シズはその目を輝かして笑みを浮かべるのだった。
メニュー87 ハンバーガー その2へ続く
次回はガゼフやクライム君、バジウッドなどの視点で今回作ったハンバーガーの全種類の味の感想を書いていこうと思います。
ちなみにメニューは
「ステーキバーガー」
「ハンバーガー」
「フィレオフィシュ」
「コロッケ」
「海老カツ」
の5つで行こうと思います。ちょっとボリュームのある話になると思いますが、次回の更新もどうかよろしくお願いします。
やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない