生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー11 カレーを作ろう(スパイス編) byモモンガ

メニュー11 カレーを作ろう(スパイス編) byモモンガ

 

第9階層を歩く小柄な影。和服をアレンジしたようなメイド服にその髪をシニョンにした少女……見掛けこそは見目麗しい少女だが、ナザリックのメイドである以上彼女もまた人間ではなく、その髪もその顔も蟲が擬態した物である蜘蛛人(アラクノイド)のエントマ・ヴァシリッサ・ゼータは掃除の作業中、ある異変に気付いた。

 

「だぁれ?」

 

まだ日も昇る前の時間なのに光が零れている部屋がある。しかもそれはカワサキの専用厨房からだ……

 

「明かりを消し忘れたのかなぁ~」

 

それなら電気を消さないとと呟きエントマがキッチンの中に足を踏み入れる。だがエントマは1つ失念していたのだ。料理人の朝が早い事、そしてゲーム中であった時と異なり、NPCも生きている今。自分達の分だけではなく、NPCの分も料理を用意しようと考えたカワサキの思考を理解していなかったのだ……つまり明かりの消し忘れではなく……

 

「か、カワサキ様!?」

 

「ん?おう、エントマか。おはよう」

 

そこではカワサキが平然と料理を行っていたのである……

 

 

 

 

料理人の朝は早い。早朝から料理の仕込みに、スープの作成などやる事は山ほどある。現実での習慣とは恐ろしい物で、目覚ましなどなくても俺は5時前に目を覚ましていた。

 

「んーんー、よく寝た」

 

まどろみタイムなど知らんと言わんばかりに布団から這い出したカワサキは、手早く普段のコックスーツに身を包み。机の上に朝食は戻るまで待ってるようにとクレマンティーヌへの置手紙を残し、自分の城である厨房に足を向けた。

 

「さてと……何を作るかな」

 

朝早くから働いていると言うプレアデスと、大きな動きはするなと厳命こそされているが、情報収集に出ることのある階層守護者。持ち運びが出来る軽食が良いかと冷蔵庫から鶏胸肉を取り出す。

 

「うん、これなら良いか」

 

リアルでは手に入れようも無い上質の肉。これなら最高だと笑い、鶏肉を引っくり返し、切り込みを手早く入れる。皮には切れ込みをいれず、肉のみに手早く切れ込みをいれ。トレーに皮を下にして入れ塩胡椒で下味をつけ、料理酒を振るう。これを何回か繰り返し、15枚ほどの下ごしらえを10分ほどで終わらせる。

 

「次はっと。酒と醤油と蜂蜜」

 

小鉢ではなく、小さめのボウルに酒、醤油、照りをつけるための蜂蜜をいれ混ぜ合わせる。これで鶏肉を焼くタレの準備は完了だ

 

「簡単でボリュームもある。朝飯には少し重いかもしれんが……」

 

ま、朝はガッツリ食うほうが良いだろ。俺はそう呟き、調味料と酒で味付けした鶏肉を油を引いたフライパンに皮を下にして焼く。

 

「今の内にちゃっちゃっとこっちの準備も済ませるか」

 

キャベツを2玉千切りにし、マヨネーズとからしを混ぜ合わせからしマヨネーズも準備する。照り焼きサンド……朝食にはやや重いが、ずっと身体を動かしている事を考えればこれくらいでも大丈夫だろう。

 

「よしよし良い具合」

 

鶏肉を引っくり返すと良い具合に焼き目が付いている。それを見て良い具合良い具合と呟き、今度は蓋をして身を焼き上げる。両面しっかり焼き目が付いたら、鶏肉から出た油をキッチンペーパーでふき取り。最初に作ったタレを加え蓋を閉めて弱火で丁寧に焼き上げる。

 

「トースターがいくつもあるのは便利だなぁ」

 

動力は判らんが大量のトースターに時間差で食パンを入れ、電源を入れる。パンを焼いてる間に肉を仕上げればいい、タレが煮詰まり鶏肉に美しい光沢が出るまで何度か鶏肉を引っくり返す。タレにとろみが付けば仕上がりだ。

 

「よっと!」

 

トースターから飛び出たパンを振り返らずに掴み、からしマヨネーズを塗る。そしてからしマヨネーズを塗った部分にキャベツの千切り、照り焼きチキンの順番で乗せパンで挟み大きめに切り分ける。

 

「ほいっと!」

 

サンドイッチが仕上がったタイミングで焼きあがるパンを先ほどと同じように振り返らず掴み、同じようにサンドイッチにしているとガチャリと厨房の扉が開く音がした。

 

「か、カワサキ様!?」

 

聞こえてきた声に振り返る、ピッキーかシホだと思っていたのだがどうも違ったようだ。和服を改造したメイド服に小柄な外見の少女……に見える蜘蛛人(アラクノイド)のエントマが俺を見て驚いている。朝っぱらから料理してたのに驚いたのか?と思いながら、

 

「ん?おう、エントマか。おはよう」

 

エントマに向かって手をひらひらと振りながら、再び焼き上がり飛び上がったパンを振っていないほうの手で掴み、サンドイッチに仕上げ、ラップに包んでバスケットに詰め込む。ユリと、ナーベラルと、エントマと、ルプスレギナ、それとペストーニャ。悪いけど、一般メイドと今ナザリックにいないソリュシャンと、人化させても味がいまいち判らないというシズを除いた5人分をラップに包みバスケットに丁寧に詰め込み。エントマにおいで、おいでと手招きする。おっかなびっくりと言う感じで近づいて来たエントマは頭を下げる。

 

「エントマ、これお前達の朝飯な?ペストーニャの分も入ってるから、業務連絡の時にでも食べてくれ」

 

「カワサキ様のお料理をシモベが食べるなんて許されないです」

 

許されるとか、許されないとかそうじゃないんだがな……俺は苦笑しながら、

 

「じゃあこれは捨てるしかないな、お前達の分で作ったから食べないって言うなら捨てるしかない」

 

えっと驚くエントマ。だが正直、プレアデスの分として作ったのだから、残っても困るのだ。若干パワハラだが強引にでも持って帰らせないと。

 

「だから持って行ってくれるよな?」

 

「……はい。判りました、カワサキ様のお慈悲に感謝します」

 

両手で宝物のようにバスケットを抱えて厨房を出て行くエントマ。と言うか料理人が飯を作って慈悲とか言われても困るんだがな……

 

「NPCの認識も変えないと駄目かもしれないなあ」

 

料理を作って恐れ多いとか言われたら料理人はどうすれば良いんだよと苦笑し、俺は再びサンドイッチ作りを再開した時にふと気付いた。

 

「あ、ペンギンいたな」

 

そう言えば執事助手とかでペンギンがいたな。エクレアだっけ?もし出会って照り焼きサンドを渡すのはちょっとな。共食いになるなと気付き、鮭を魚焼き器の中に放り込み鮭おにぎりの準備を始めるのだった……

 

「これはこれはカワサキ様。おはようございます」

 

「イーッ!」

 

サンドイッチとおにぎりの準備を終え、バスケットと鞄に詰め込みキッチンを出ると、早速仮面を被ったスーツ姿の異形に抱き抱えられたエクレアに遭遇した

 

(デザイン凄いな)

 

カールになっている金髪が目を引く。ペンギンの外見に丁寧な口調って言うギャップも凄いけどな。

 

「おう、おはよう。俺に何か用か?」

 

どう見ても厨房に入ろうとしているので何か用事があったのか?と尋ねるとエクレアは丁寧に頭を下げ、

 

「私はナザリックの掃除を任されているのでカワサキ様の厨房の掃除に参ったのです」

 

……そ、そうなのか、しかし料理人にとって掃除は基本。既にある程度掃除を終えているが……今までのNPCの反応を見る限りでは、終わってるとか言うと嘆きそうだな。

 

「じゃあ頼む」

 

頼んでおいたほうが無難だなと思い、厨房への道を譲り、通路を歩き始めた所で振り返り、おにぎりの包みを鞄から取り出す。

 

「エクレア」

 

「はい?……っとこれは?」

 

俺の投げたおにぎりを翼?多分翼で受け止め首を傾げるエクレアに

 

「握り飯、朝飯だ。仕事の前には飯を食えよ」

 

「おおお……心より感謝します」

 

断られず受け取ってもらえた事に安堵し、俺は手を後手に振りながらその場を後にするのだった……

 

「こ、これがナザリックの至宝。カワサキ様の……。お前、静かにな。一緒にいたから分けてあげましょう」

 

「イー」

 

他の使用人が来る前にとこっそりとおにぎりの包みを解き、頬張るエクレアと使用人が感動に身を震わせていた事をカワサキは知らない……

 

「これはカワサキ様。デミウルゴス様に御用でしょうか?」

 

7階層のデミウルゴスの居城「溶岩」に到着すると何処から現れたのか、鳥の頭にボンテージ姿の女性の悪魔が俺の目の前に舞い降りてきた。

 

「えーっと……イビルロード……エンヴィーだっけ?」

 

その通りですと頭を下げる女性型の悪魔。7体存在するイビルロードシリーズと言うのは覚えていたが、名前がうろ覚えで確かめるように名前を呼ぶとその通りですといわれ安堵した。

 

「デミウルゴス様は灼熱神殿においでですが、ご案内いたしましょうか?」

 

「いや、構わん。他の階層にも用事があるし、モモンガさんと会議もあるから時間の余裕は無いんだわ」

 

それに言ったら悪いが、俺は少しばかりデミウルゴスが苦手だ。俺みたいな料理馬鹿に『何か深い考えがあるのだ』、そう言わんばかりの視線を向けられるのは少し心苦しい、鞄からおにぎり3個とバスケットからラップに包んだ照り焼きサンドを2個取り出す。

 

「これ、デミウルゴスに渡しておいてくれ。お前にはちょっと悪いけど、作ってないのは許してくれ」

 

「滅相もありません。シモベにそこまでしてくださらなくても」

 

恐れ多いですと頭を下げるエンヴィー。お使いを頼むのに、何も無いのはなぁ……良し、おにぎりをもう一個取り出して、

 

「これは運んでくれる礼だ。1個しかないから隠れて食えよ?」

 

「か、カワサキ様!?」

 

俺の名前を呼ぶエンヴィーに手を振り、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで俺はその場を後にし、アウラとマーレがいるジャングルへ転移するのだった……

 

「何ですって?カワサキ様がおいでになっていたですと?」

 

「はい」

 

運が良いのか、悪いのか、カワサキに遭遇したエンヴィーの報告にデミウルゴスの眉が吊上がる。漆黒聖典への作戦を完璧な仕上がりにしようといくつもの立案し、それを見直していたデミウルゴスの姿はひどい物で、普段の出来る男と言う服装から着崩したスーツに解けたネクタイがその苦労を物語っている。

 

「何故私に報告を通さなかったのですか?」

 

「そ、その、ほかの階層にも用事があると、アインズ様との会議もあるとの事で」

 

アインズとの会議もあるから時間が無いと言われれば、無理に引き止めている時間は無い。デミウルゴスは小さく息を吐き、椅子に背中を預ける。

 

「判りました、下がってよろしい」

 

「は、は!失礼いたします」

 

頭を下げて出て行くエンヴィーを一瞥したデミウルゴスは、彼女が運んで来たサンドイッチとおにぎりを見て、

 

「……1度休憩しましょう、きっとカワサキ様はそう仰りたいのです」

 

根を詰めても意味は無いと仰っているに違いない。そう呟いたデミウルゴスは休憩に入る為に机の上の資料などの片づけを始めるのだった……

 

「ユリ姉様、ペストーニャ様。これ……カワサキ様から朝御飯だって」

 

「エントマ。これどうしたの?」

 

「カワサキ様の厨房の掃除をしようと思ったらぁ、カワサキ様が料理をしててぇ……貰ってくれないなら捨てると仰られるので……」

 

「あーそりゃ貰うしか無いっすよねえ。と言う訳で、中身はなん……ふぎゃあ!」

 

ユリの拳骨を貰い潰れた蛙のような声を出すルプスレギナ。ユリ達は机の上のバスケットを見て、

 

「カワサキ様がお優しいのは知ってましたが、正直身に余る光栄ですね」

 

「そうですね。カワサキ様のお料理は本来、御方達の為の物ですから……わん」

 

使用人である自分達にここまでしてくれなくても良いのにと呟くユリとペストーニャ。

 

「ではお返しするのですか?」

 

ちらちらとバスケットを見ているナーベラルが残念そうに呟く。だが貰った以上当然捨てる訳にも、捨てさせる訳にも行かない。

 

「カワサキ様の慈悲に感謝して、心していただきましょう」

 

プレアデス達はサンドイッチと言う軽食を食べる雰囲気ではなく、重苦しい緊張感の中サンドイッチを口に運んでいた……

 

 

 

 

 

 

朝食は朝8時00分と聞いていた。そして俺の部屋に持ってきてくれるとも聞いていた。

 

「どうかなさいましたか?アインズ様?」

 

「い、いや。なんでもない」

 

何故アルベドがここにいる……!?人化して寝てたから、俺を起こしに来たアルベドの肉食獣めいた視線に絶叫し、起きてからもプレッシャーが半端無いんだが!と言うかなんでカワサキさんはアルベドに俺の部屋で一緒に朝食なんて話をしたんだ!?

 

「何か御飲みになりますか?紅茶でもご用意しましょうか?」

 

「いや、大丈夫だ。カワサキさんを待とう」

 

何か混ぜ物をされそうで怖い。人化で寝る事も、食べる事も出来るようになったのは嬉しいが……アルベドが怖い。俺は設定を変えた事を心底後悔していた。

 

「モモンガさん、アルベド。おはよう」

 

鞄とバスケットを手にしたカワサキさんがのほほんと笑いながら入ってくる。その姿に俺は助かったと安堵の溜息を吐くのだった……

 

「遅かったですね、どうしたんですか?」

 

「ん?階層守護者とプレアデスにも朝飯を作ったんでな。運んでた」

 

さらりととんでもない事を口にしたカワサキさんに俺が口を開く前に、アルベドが口を開いた。

 

「そんなカワサキ様。シモベにそこまでしてくださらなくても」

 

「良いんだよ。俺は料理人だから飯を作るのが仕事、んでお前らは飯を食って、モモンガさんの手伝いをするのが仕事。自分の仕事はきっちりやるだけだ」

 

そう笑うカワサキさんは机の上に朝食を並べていく、サンドイッチとおにぎりだ。手早く食べれるメニューだが、サンドイッチの具の肉の塊のインパクトがかなり大きい

 

「鳥の照り焼きを作ったんだ。パンとよく合うぞ」

 

味が少し濃いがなと笑うカワサキさんにありがとうございますとお礼を口にし、手を合わせいただきますと口にしてから朝食になるのだった……

 

「この照り焼きサンドって言うのは美味しいですね。鶏肉の甘さが何とも……」

 

塗られているからしマヨネーズの辛味と、千切りにされたキャベツ。そして甘く煮られた鶏肉……シンプルなのに信じられないほどに美味い。

 

「今日はサンドイッチにしたが、飯と一緒に食っても美味いぞ」

 

「それは楽しみですね。また今度よろしくお願いします」

 

料理人だと言うカワサキさんの料理はどれだけの幅があるのだろうか?洋食に和食……この感じだと中華も作れそうだなと思う。

 

「カワサキ様。あの……そのですね。前のその……料理のお勉強は再開とかしてくれるのでしょうか?」

 

「あ、ああ。そうだな……そういう約束だったな。時間のある時に連絡するから俺の厨房に来てくれれば良い」

 

ぱぁっと華の咲くような笑みで笑うアルベド。約束?何の事だ?と首を傾げているとメッセージで、

 

(タブラさんがな、アルベドの設定に俺に料理を教えてもらってるって追加したいって言っててOKしたんだよ。花嫁修業だそうだ、美人で良いんじゃないか?)

 

隙あれば、アルベドを嫁にって推すカワサキさんを無視し、俺は食後のコーヒーに手を伸ばすのだった……

 

「セバスとソリュシャンは今どこにいるんだ?」

 

食後にセバスとソリュシャンの事を尋ねてくるカワサキさん。情報収集、そして武技を使える人間の捜索と言う事でシグマ商会と言う商会の娘とそのお目付け役の執事として送り出した2人。今はイメージをつけることで馬車でゆったりと移動している……

 

「目的地は王都ですが、現在は城塞都市エ・ランテル周辺の辺りだと思われます。恐らく今晩には到着すると思われますが?」

 

アルベドの言葉にカワサキさんはふむっと頷いてから、俺を見て、

 

「エ・ランテルとやらについたら2人を1度ナザリックに戻して欲しいんだ」

 

「それは構いませんが……何か理由があるのですか?」

 

2人を戻すことについては異論は無い、カワサキさんの帰還を伝える必要もあるからだ。だがそれがカワサキさんの口から出た理由がなんだろうか?

 

「料理の事を調べて欲しいと思っている、地方によって味が変わるからな。料理人として味に興味があるんだよ、もし外に出ることがあれば外の味とある程度あわせないといけないだろ?」

 

外!?カワサキさんが外で活動するのは正直許可出来ない。戦闘力に問題があるからだ、合流した際に店を持ちたいと言っていたが、まさかそれを言い出すとは思ってなかった。

 

「カワサキ様。それはシモベとしては賛同出来かねます」

 

「だが資金稼ぎに料理を提供するのは良いだろう?それに俺に相応しいと思わないか?」

 

確かに相応しいし、ピッタリだとは思うが、それとこれとは話が違う。

 

「セバスとソリュシャンを戻すのは構いませんが、カワサキさんが店を持つというのは保留です」

 

安全を確保し、更に拠点に相応しい場所を見つけてからですと言うが、カワサキさんは納得していない様子で、

 

「じゃあ人化して俺も情報収集に出て良いか?自分の舌で味を確かめたいんだが?」

 

別の案所か、さっきの要求よりもどう考えても許可出来ない事を言い出した。

 

「「駄目です」」

 

俺とアルベドの声が重なった。気持ちは判るが、それもやはり許可出来る物ではない。

 

「過保護すぎるだろ?」

 

なんと言われようが駄目だ。許可など出来る訳が無い。少なくとも、漆黒聖典。そいつらを何とかするまでは絶対に許可出来ない。

 

「ちなみにシモベを連れても駄目?」

 

駄目ですと言う俺とアルベドの声が再び重なった。外に出たいのは俺も同じだが、まずは周囲の情報をしっかり集めるまでは絶対に駄目ですと念入りに釘をさすのだった。カワサキさんは妙にアグレッシブな所があるので、気をつけないといつの間にか外に出ているなんて事もありえるからな……これはナザリック全体に通達しておこう。外に出ようとしているカワサキさんを見つけたら止めるようにと……

 

「ではアインズ様。私は到着した頃にセバスとソリュシャンに1度ナザリックに戻るようにと通達致します。では職務につきますので」

 

御用があれば御呼びくださいと頭を下げて出て行くアルベド。カワサキさんがいるから暴走しなかったなと安堵する。

 

「カワサキさん、今度大森林で皆食材になれの実験をしたいのですがいいですか?」

 

ナザリックの外と中で実験してこそ情報が集まる。だから今度はトブの大森林で実験しましょうと提案する。

 

「……なら俺も1度王国と帝国を見たい。うろちょろするわけじゃないから良いだろ?」

 

「……状況次第です」

 

よっぽど外の味を知りたいんだな。料理人って言うのはこういうところがあるんだなっと初めて知るのだった……

 

「あ、そうそう、これ」

 

「なんです?」

 

写真を見せられるのだが、空っぽの机と料理の残っている机。これはなんですか?と尋ねるとカワサキさんはにやりと笑い、

 

「富裕層の料理人に完全勝利してきた」

 

「おお!!流石ですね!!」

 

料理勝負の結果だったらしく、流石ですねと笑う。カワサキさんなら負ける事は無いと思っていたが、こうして見ているとやはり凄い人だなと実感した。

 

「ウルベルトとかに見せたら笑うと思ったんだがなあ……」

 

「確かに笑いそうですね」

 

富裕層が嫌いなウルベルトさんなら笑いそうですねと返事をし、俺は腕を組んで

 

「他のギルメンはいると思いますか?」

 

「……可能性は低いだろうなあ。あの時ログインしてたの、俺とモモンガさんだけだろ?ログインしてればいるかもって思うんだけどな」

 

ログインしていれば可能性があるが、厳しいだろうなと俺と同じ結論を出されたのは残念だが、それが事実だと俺も思っている。

 

「可能性は低いがゼロじゃない、情報が集まって拠点を定めたら情報を集めるのも良いかもしれないな」

 

俺を励ますように言うカワサキさんに小声でありがとうございますと呟く。ギルメンは恐らくいない、それでも会いたいと思ってしまう。カワサキさんがいなければ狂ったように捜し求めていただろう……本当にカワサキさんが居てくれて良かったと俺は心からそう思うのだった……

 

「じゃあモモンガさん、カレーを作るか」

 

「え?今からやるんですか?」

 

昼くらいからだと思っていたんですが?と言うとカワサキさんは真剣な表情で

 

「それで間に合うと思うか?守護者とメイド部隊だぞ?」

 

ホムンクルスは種族特性で食事量が増えているのを思い出し、俺はなるほどと呟いてから

 

「間に合いませんね。判りました、直ぐ準備します」

 

判ってくれて嬉しいよと笑うカワサキさんと共に俺は私室を後にし、カワサキさんのキッチンへ向かうのだった……

 

 

 

 

 

予備のエプロンとバンダナをモモンガさんに渡し、2人で厨房に入るのだが、モモンガさんの表情は浮かない物だった。

 

「どうかしたか?やっぱり料理は嫌か?」

 

無理に誘ってしまったかな?と思い、嫌なら戻ってもいいぞ?と声を掛けるとモモンガさんは違いますと手を振りながら

 

「俺も色々実験をしたんですけど……覚えてないスキルは実行すら出来ないんですよ」

 

「と言うと?」

 

「ファイターなどのスキルがないと剣を装備出来ないとかそういうのです。多分料理と認識するとお手伝い出来ないのではっと……」

 

あーなるほどなぁと頷き、そして俺は思わず笑ってしまった。

 

「大丈夫大丈夫。俺もモモンガさんが料理なんて出来るって思ってないし」

 

クックマンが不人気だった理由はその戦闘能力の無さもそうだが、まず料理がリアルで出来なければクックマンのスキルを使えないと言う所に問題があった。ゲームでも料理シーンをスキップする事が出来ないのだ、そして料理でバフを使えなければ料理のスキルを取る意味は無い。だからユグドラシルのプレイヤーで「料理」「調理」のスキルを持っていたプレイヤーはクックマンを取っていて、料理が出来る人に限られていた。

 

「そこで俺のスキル「調理指導」の出番と言う訳だ」

 

「調理指導?」

 

ユグドラシルのスキルに詳しいモモンガさんでも、マイナーすぎるクックマンのスキルは判らないのか不思議そうに首を傾げる。

 

「厨房で、俺の視界の範囲内にいるプレイヤー、もしくはNPCに俺の料理系スキル以下の料理と調理のスキルを一時的に与えるんだよ。クックマンは指導で自分のスキルを貸し与える能力を持ってるからな」

 

俺の場合だと「板前 LV10」「シェフ LV10」「炎の鉄人 LV10」「パティシエ LV10」の合計40以下の料理に関するスキルを与える事が出来る。どれだけスキルの補正が低くても5か、10くらいの料理のスキルがモモンガさんに付与されるはず。

 

「だから俺の厨房に居て、俺の視界の範囲内に居てくれれば料理出来るはずだぜ?」

 

「本当ですか?」

 

嬉しそうなモモンガさん。内心俺は多分なと付け加えた。スキルのフレーバーテキストではそう書いてあっただけで、この世界でも適用されるか判らないが、まぁ多分大丈夫だろう。

 

「じゃあ、さっそくモモンガさんにはスパイスを炒めて貰うかな」

 

炒めるのも料理の工程だ。これで出来るかどうかを確かめる事が出来る。そう思いカレーのスパイスを見せるとモモンガさんは驚いた表情で、

 

「カレーってカレールーを使うんじゃないですか!?」

 

「違う。まぁカレールーを使うのが普通だが、スパイスがあるんだ。スパイスから行こうぜ」

 

カレーはスパイスとハーブの芸術と言われる程の料理だ。ルーで作るカレーは手っ取り早いが、ここはやはりスパイスから拘りたい。だからモモンガさんにすり鉢を手渡す。

 

「あの?なんですかこれ?」

 

「すり鉢」

 

すり鉢だが?と返事を返しスパイスに手を伸ばす。まだ粉末にされる前の材料をいくつか磨り潰すんだよと言うと、そこからですか!?とモモンガさんが驚く。

 

「そこからだよ。色々作らんといかんからな、細かい調整が必要だ」

 

レッドチリ、ターメリック、クミン、コリアンダー、例を挙げればきりがないが、最低この4種があればカレーにはなる。カレーにはなるが……それではやはり物足りなさがある。

 

「すりこぎでこうやって軽く潰して、そこから摩り下ろす。零さないように気をつけてな」

 

えーっとカイエンペッパー、シナモン、カルダモン、ローレル……とスパイスの名前を呟きながら、戸棚からスパイスを取り出している。

 

「あの何種類作るんですか?」

 

「ん?まぁ少なくても4種類だな」

 

4種類!?と叫ぶモモンガさん。今日だけでかなり驚いているなと苦笑しながら、

 

「モモンガさん。本格の辛いカレー食べれるか?口の中が痛いくらい辛いぞ?」

 

「え?そんなに?」

 

そんなにだよと返事を返す。アウラ、マーレ辺りは甘口だろうし、デミウルゴスは辛口だろう。リアルで食事に興味の無かったモモンガさんは多分と言うか確実に辛口は厳しいだろう。甘口か中辛がベストだと思う。

 

「それにだ。このクローブって言うのはビーフカレーに適している」

 

香りが強く入れすぎると駄目だが、ビーフカレーの深い味わいに適したスパイスだし。こっちの……

 

「このシナモンは挽肉を使うカレーに適している。材料によって適したスパイスの組み合わせが違うんだよ」

 

挽肉から出る油や旨味を生かすにはシナモンが多い方が良いのだ。

 

「そんなに複雑なんですね」

 

慣れればどうって事は無いけどなと言いながら、ガーリックパウダーも取り出す。これをやや多めにする事で旨味の強いカレーになる。

 

「まずはカイエンペッパーなしで行こうか」

 

小さめのフライパンを用意し、モモンガさんが磨り潰したスパイスを俺が計量し、それをモモンガさんに炒めて貰う。カレー自体を作る際も勿論手伝って貰うがまずはスパイスだ。こいつを用意しない事には始まらない。

 

「カイエンペッパーってなんですか?」

 

と質問してくるモモンガさん。カイエンペッパーはカイエン種と言う種類の極めて辛味の強い唐辛子の事だが、そこまで専門的な話をすることも無いかと思いざっくりと説明する。

 

「辛さの元。まずは甘口から用意しようと思ってな」

 

辛いのは辛いのでスパイスの配合が難しい。だからまずはカイエンなしだ、クミン、カルダモン、シナモン、クローブ、ローレル、オールスパイス、コリアンダー、ガーリック。ここら辺がまず香りをつけるスパイス。

 

「弱火でゆっくり炒めるんだ。焦げたらアウトだからな?」

 

「プ、プレッシャーですね。でも頑張ります」

 

明らかに身体に力が入っているモモンガさんに苦笑する。だがそれは決して悪い傾向ではないと思う、人間らしさが出て来て良いんじゃないか?と思うレベルだ。カレーの独特の色をつけるのはターメリックだ。やや土っぽい香りがするが、それは火を通せば気にならない。辛味をつけるのはジンジャー、ブラックペッパーの2種。本当はカイエンペッパーを使うのだが、甘口なのでそれは無しだ。

 

「あ、段々良い香りがしてきました」

 

「そうそう良い香りだろ?」

 

カレーって言う感じがしてきたら後少しだ。入れ物を用意してスパイスを冷ます準備をする。

 

「よし、それくらいで良い」

 

モモンガさんからフライパンを受け取り、それを容器に移して冷ます。

 

「本当は1ヶ月くらい熟成されると美味いんだが……ま、これでも十分だろ」

 

粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やせばOKだ。次はっと……クミン、コリアンダー、ターメリック、カルダモン、カイエンを用意してフライパンに入れる。

 

「今度はさっきより大分少ないですね?」

 

「ああ、シーフードカレーだからな」

 

魚介は旨味が強い、下手にスパイスを効かせると不味くなるんだと言うとモモンガさんはへーっと呟きながらスパイスを炒め、

 

「料理って色々あるんですね」

 

「ああ、色々あるさ。カレーだけでこれだけあるんだ。俺が外の料理を知りたいって言うのも分かるだろ?」

 

だから許可をくれよと言うと、モモンガさんはそれとこれは話が別ですよと笑う。ちっ、駄目だったかと舌打ちするが、楽しそうに笑っているのでこれでも良いかと思い、俺はモモンガさんが炒めている間に次の辛口のスパイスの準備を始めるのだった……

 

 

メニュー11 カレーを食べよう(甘口) byモモンガ

 

 

 




次回はナザリックに帰還する事になったセバス、ソリュシャンから始まり。モモンガさんのカレー作りへの奮闘、そしてカレー(甘口)の実食となります。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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