生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー90 鉄板焼き その2

メニュー90 鉄板焼き その2

 

ドラウディロンとリュクの話を聞きながら次のメニューの準備を始める。玉葱をくし切りにし、ピーマンは乱切りにする。食感を良くする為にやや大きめに切るのがコツだ。

 

(キャベツと……まいたけは止めておくか)

 

茸はこの世界の住人は余り良い反応をしないのでキャベツも食べやすい大きさの3~4cm角に切り分けて野菜の下拵えを終える。

 

(味噌、醤油、酒、砂糖、みりんっと)

 

味噌大さじ3、酒、みりんを大さじ1、そして醤油と砂糖を小さじ1ずつ。味噌の味と風味を生かす、特製のタレを作る。

 

「我が国としては竜王国に対してどんな支援も行うつもりです」

 

「リュク殿よ、私はビーストマンの国も被害者であると思っておるのだぞ」

 

「それでも償わなければならぬ罪と言う物はあります」

 

「頭の固い男だ」

 

「よく言われます」

 

竜王国とビーストマンの国を争わせていたのはやはりスレイン法国だった。クレマンティーヌの兄が盛大に自爆してくれたのでビーストマンへの風当たりは少しは弱くなっているが、それでもやはり家族を失った遺族の思いを考えるとそう簡単に解決といえないのが問題だな。

 

(うーむ、どうしたものか)

 

俺に出来る事ならば何でも協力するが、俺に出来るのは料理を作ることくらいだ。そこから先に俺が出来る事は無い、どこまで行っても俺は料理人であり、それ以上の知識は決して豊富とは言えない。

 

(難しい問題だよな)

 

感情は自分では制御しきれない、加害者であり被害者でもあるビーストマン。そしてそれを行ったスレイン法国――怒りの矛先はスレイン法国に向いていたとしても、直接的に殺したのはビーストマン。やはりここら辺の気持ちの整理は難しいだろうなと思いながら下茹でしたホルモンを鉄板の上に落とす。

 

「カワサキ殿、見た事が無い肉じゃが……?」

 

「これは内臓ですか?」

 

俺が調理を始めたので尋ねて来る2人。ドラウディロンは何か判らない様子だったが、リュクはビーストマンだけあって何かを一瞬で理解したようだ。

 

「内臓!?……それは大丈夫なのかの?」

 

「大丈夫ですよ、身体に良いですし、私の見立てだとお2人とも随分と中の調子が悪いように見える」

 

内臓関連が弱っているように見えたのでホルモン炒めを選択したのだ、見かけはアレだがホルモンは人間に必要な栄養素を全て兼ね備えている。そこに俺のバフを加えれば疲労回復だけではなく、弱っている2人の臓器もある程度は回復出来るはずだ。

 

「牛肉と豚のホルモンですが、部位の説明はしたほうがいいですかね?」

 

「……いや、良い。知ると食べにくそうじゃ」

 

「私は見れば大体判りますので平気ですよ」

 

内臓系はやっぱり反応が良くないか……でもまぁこれは薬とでも思って貰って食べて貰おう。ヘラでホルモンを炒めて、ある程度焼き色が付いたら野菜をホルモンの上に乗せる。鉄板と野菜でホルモンを包み込んで蒸し焼きに近い状態にするのだ、水気の多い野菜を使っているので野菜から出る水分が鉄板の上に落ち蒸発して包み込んでいるホルモンを丁寧に蒸し焼きにしてくれる。

 

「野菜が随分と多いですね……」

 

「ホルモン炒めは野菜をたっぷりと食べれますからね」

 

「私としてはホルモンよりもそっちじゃなあ」

 

野菜を食べたいドラウディロンとホルモンを食べたいリュクに思わず苦笑する。人それぞれ好みはあるが、ホルモン炒めならばホルモンも野菜も美味しく食べれると俺は思っている。

 

「口に合わなかったら謝りますけど、これは絶対に美味しいですよ」

 

野菜がしんなりしてきたら作っておいた特製タレを上から回し掛ける。この時使うのは半分だけにして、まず野菜全体にタレを馴染ませながらホルモンと混ぜ合わせる。味噌と砂糖を使っているので鉄板の熱で焼けて食欲をそそる香りが周囲に満ちる。

 

「そして仕上げにもう1度タレをかける」

 

タレが野菜に絡んで色が変わって来た所で残りのタレを全部入れて、ホルモンと野菜とよく絡めれば完成だ。

 

「特製ホルモン炒めになります」

 

皿の上に半分ずつ取り分け、鉄板に魔力を通して綺麗にしたら次の料理であるステーキの準備に取り掛かる。

 

(後はガーリックライスで仕上げだな)

 

ステーキとガーリックライス、〆にアイスクリームでメニューとしては良いだろう、俺はこの後に出す料理の事を考えながら準備を続けるのだった……

 

 

 

 

内臓を炒めた料理と言うのは初めてかもしれない、怖くはあるので行き成り内臓を食べる事はせずに野菜を口に運んだ。

 

(うん、美味い)

 

甘くそして辛い、だが風味が凄く良い。カワサキ殿の作る料理はどれも味が複雑だが決して不味くは無い。むしろ美味い、そして知らない味を知れるのが何よりも面白い。

 

(野菜だけでもご馳走じゃな)

 

柔らかくタレがよく染みこんでいる。正直これだけでも幾らでも食べれるし、そして満腹になると思う。

 

「腸か、うん。美味い、ぜんぜん血生臭くないね?」

 

「血抜きしてますからね。味も良い物だと思いますよ」

 

「内臓がこんなに美味しいと思ったの初めてだよ。このタレもおいしいね」

 

リュク殿と朗らかに会話しているカワサキ殿。この料理はホルモン……つまり内臓が主役なのだが、思わず腹に手を当てる。

 

(大丈夫かの?)

 

内臓は外からは見えないが生きるのに必要だと聞いている、そしてそれを食べる。肉や魚を食べる事はあるが内臓を食べる……正直恐ろしくはある、それに見た目も決して良いとは言えない。

 

(ええい、女は度胸!)

 

怖くはあるがこれを食べなければ次のメニューは出てこない。覚悟を決めて、内臓を口に運んだ。

 

「……美味しい」

 

「ホルモンは美味しいだけじゃなくて身体にもいいんですよ、ああ、無理に噛み切らないで飲み込んだほうがいいですよ」

 

歯を跳ね返す弾力が凄まじくとても食べ物とは思えないのだが美味しい。食べ物と思えないのに、美味しいと感じる。初めての体験に驚き、噛み切らずに飲み込んだほうがいいと言われてある程度噛んでから飲み込む。口の中にタレの味とホルモンの風味、そして野菜の甘さが後味として残っている。

 

「あ、野菜美味しい」

 

「ホルモン、美味しいの」

 

自分達が苦手と思っていた物がおいしいと判り思わず声に出た。さっきまで怖いと思っていたんじゃが、今度は自分から進んでホルモンを口に運ぶ。

 

「この食感が面白いの」

 

「ホルモンはそれが売りみたいな所がありますから」

 

固いわけではない、だが柔らかい訳でもない。そして肉とも違う独特の風味があるんじゃが、それがとにかく美味い。

 

「噛まずに飲み込んでも大丈夫なのかの?」

 

「大丈夫ですよ。それにホルモンを噛み切るのは少し難しいでしょう」

 

リュク殿は歯が強靭なので噛み切っているが、確かに私には噛み切るのは少し厳しい。噛んでも噛んでも噛み切れない、だが、噛めば噛むほど旨みが滲み出てくる。

 

「美味い、正直内臓を食べると言うのは恐ろしかったが、これは実に美味だ」

 

「喜んで貰えて何よりです」

 

味がよく身体にもいいと言われれば見た目の不気味さえ我慢すれば本当に美味な食材だ。

 

「これは味付けが良いのですね」

 

「ホルモンと言うのは旨み成分こそ凄いがさほど味のある食材ではないですからね」

 

なるほど内臓と言うのはさほど味がないのか、だからこれほどまでに強烈な味付けをしているのだと判った。

 

「うむ、少々物足りんが美味かった!」

 

「とても美味しかったです」

 

内臓料理と言うのもそう悪い物ではないのかもしれない、今後はもう少し食べる食材を増やしてみてもいいかもしれない。

 

「所でカワサキ殿よ、この鉄板焼きと言うものは大人数には向いておらんのか?」

 

「いえ、本来は大人数向けですね。本来はもっと、雑と言うか量を作れる料理に使います」

 

もっと量が作れる……か。これはもしかすると色々と利用できるかもしれない。無論、悪い意味での利用と言う意味ではないがな。

 

「リュク殿よ、大量の食材を持って竜王国に訪れるという事は可能かの?」

 

「はい、可能ですよ」

 

リュク殿も似たような考えなのだろう、いがみ合う国を1つにするのは難しい事だ。そしてそれが操られていたとは言え、戦争を仕掛けていた国であり、そして家族を食い殺された遺族の恨みは決して小さい物ではない。だがいがみ合ったままでは竜王国とビーストマンの国を争わせ続けていたスレイン法国の思いとおりになってしまう。恨みの連鎖を断ち切ることは難しい、だが手を取り合わねばスレイン法国の暗躍に私達は太刀打ち出来ないだろう。

 

(アインズ殿達がいなければ気付く事も出来なかった)

 

まさかスレイン法国の使者がビーストマンを操り、そして竜王国の民を襲わせているなんて思っても見なかった。何の為に重い税をとり、スレイン法国に金を送り民を守ってもらえるように戦力を借り受けていたのか? 自分達がこれではとんだ道化である。

 

「カワサキ殿、その鉄板を使って竜王国、そしてビーストマンの国の民全員に料理を振舞ってもらえぬだろうか?」

 

何千人と言う相手に作る料理だ、それは決して簡単なことではない。断る事だって出来るだろう、だが私には頼む事しか出来ないのだ。

 

「1人では無理ですので、協力して貰いますよ。お2人にもね」

 

「あ、ああ!私に出来る事なら何でもしよう」

 

「私もです、カワサキ殿」

 

私達の返事を聞いてカワサキ殿は笑顔を浮かべ、無理な頼みを聞いてくれた。遺恨を完全に断ち切ることは難しい、だがそれでも手を取り合う必要があるのだ。難しい事は判りきっている、それでも竜王国とビーストマンの国を1つにする為に行動に移さなければならないのだ。その為にカワサキ殿の力を借りる事が今一番早いと私もリュク殿も感じているのだった。

 

 

 

 

 

鉄板の上で分厚い肉が2枚置かれ丁寧に焼かれているのをじっと見つめる。元々ビーストマンと言うのは余り食事に重きを置かない、だがカワサキ殿の食事にはビーストマンでさえも抗えない何かがある。

 

「にんにくか、随分とたっぷり行くのだな?」

 

「牛肉にはにんにくが良く合いますからね」

 

スライスされたにんにくと潰されたにんにく、そしてバターの欠片を肉の上に乗せるカワサキ殿。肉を焼くだけと思っていたのだが、見ているだけで唾液が出てくる。ただ肉を焼いているだけと思うのは私の知識が足りないのだろうが、本当に驚かされる物だ。

 

「仕上げはこれ」

 

酒瓶を逆さにして肉に振り掛けるカワサキ殿、その瞬間火柱が上がり思わず仰け反る。パフォーマンスと言うのはわかっているが、驚くなと言うのは無理な話だった。

 

「お待たせしました、リブロースステーキになります」

 

スライスされた肉が皿の上に乗せられる。リブロースと言う部位は判らないが、肉の形などを見れば肩の近くだという事は判る。

 

「カワサキ殿、中が赤いんじゃが……」

 

「レアと言う焼き方です。大丈夫ですよ、火は通っていますから」

 

中が赤いのに火が通っていると言うのか……こういう調理があるのかとただただ感心する。

 

「美味い、良い肉ですね」

 

にんにくとバターの香りが食欲を誘う、外側は噛み応えが良く中は柔らかい。火が通っているがまるで生肉のような味わいだ。

 

「うん、確かに美味いなぁ。これは簡単に出来るものなのかの?」

 

「見極めが大事ですね、誰にでも出来ると言うものではないですよ」

 

失敗するとお腹を壊しますしねとカワサキ殿は笑った。ビーストマンならば腹を下す事はないが、確かに生肉は人間には無理だろう。

 

「美味いのになあ。うちの料理人では無理かの……」

 

「何時まで竜王国にいるかは判りませんが、いる間は指導しますよ」

 

カワサキ殿の言葉に真かと顔を輝かせるドラウディロン殿。これは私も驚いた調理の技術はその人にとっての宝だ、それを簡単に伝授するというとは……カワサキ殿は人格者でもあったようだ。

 

(余り焼いた肉は好きじゃないんだが、これは好きだな)

 

火を通すと炭臭くなり苦手だったが、これは美味い。肉が上質なだけではなく、味付けや切り方にまで注意を払い、味を高める為の工夫が施されているのが良く判る。

 

(また料理をしているのか)

 

肉を食べている私達の前で白い粒を炒めるカワサキ殿。肉を焼いていた脂をそのままにしていたのは、あの粒を炒める為だったのだと今判った。

 

(あれもきっと美味い、美味いに決まっている)

 

これだけ美味い肉の脂を使って炒めるのだ、私にとって馴染みがなくても美味いと言うのは判っている。

 

「うーん、美味いが全体的に量が少ないな?」

 

「それは勿論最後のガーリックライスの為ですよ。お待たせしました」

 

食欲を抑えきれないのかドラウディロンの催促の言葉にカワサキ殿は嫌な顔1つせずに料理を振舞ってくれる。

 

「どうぞ。お待たせしました」

 

「ああ。ありがとう」

 

馴染みのない粒だが、一緒に差し出された匙で掬って口に運ぶ。それは予想通りたっぷりのにんにくのパンチの効いた味と香りに加え、肉の旨みが染みこんでいる。馴染みのない食材だが、美味いと素直に言える。

 

「美味しいですよ、カワサキ殿」

 

「お褒めに預かり光栄です、この後はデザートの準備をしますね」

 

にこやかに笑うカワサキ殿に私達も笑みを返し、カワサキ殿の用意してくれた食事に舌鼓を打つのだった……。

 

 

 

 

竜王国とビーストマンの国への対応でナザリックを離れている間の報告書に目を通す、ビーストマンとの戦いが終わったので、ある程度竜王国に滞在するがその後の予定もある。

 

「やはりアゼルリシア山脈か」

 

ドラゴンがいると言う山脈、そしてドワーフの村と黄金などの財宝だけではなく、古い時代の遺跡もあるらしいので可能ならばそれも見ておきたい。だが星に願いをと強欲と無欲を使う実験案もかなりの数が揃っているのでそれも試したい。

 

(そろそろ動いてくるだろうしな)

 

スレイン法国の暗躍は既に竜王国中に知られ、王国と帝国にも知られた。これでこの4国でスレイン法国の話を聞こうとする者はいないだろう、本格的に物事が動く前に出来るだけ準備をしたいなと考えているとセーフハウスの扉が吹き飛んだ。

 

「か、カワサキさん!?どうしたんですか?」

 

俯きがちで扉を蹴り開けたであろうカワサキさんに何かあったんですかと尋ねる。するとカワサキさんは肩を震わせている。

 

「怒っているんですか?」

 

カワサキさんが会食の準備に出ていることは知っていたが、その場で何かあったのかと尋ねる。だがカワサキさんは小さな声で違うと呟き、顔を上げた。

 

「酒だ!酒飲むぞッ!!!酒えーッ!!!」

 

「……どうしたんですか一体」

 

急に酒と叫び出したカワサキさん。ストレスか何かを溜め込んでいたのかと不安が胸を過ぎる。

 

「竜王国とビーストマンの住人全員の料理を振舞って欲しいって言われたんだよ」

 

「それ無理げー」

 

「んなもん判ってる!だが断れないだろう!?」

 

1000人とかじゃきかない量だ、それを作るのは幾らなんでもカワサキさん1人では無理があると思う。

 

「それに作る料理も思いつかねえ!こういう時は酒だ!酒を飲んで気分転換だ!ガゼフさんやバジウッドを呼んで酒飲むぞーッ!パンドラとコキュートスもだッ!」

 

完全に目が据わっている、これはよほど耐え難い何かがあったのだと思い、俺は判りましたと返事を返すのがやっとなのだった。

 

 

メニュー91 酒宴 その1へ続く

 

 




次回は酒と酒に合うつまみで書いて行こうと思います。リクエストは「ぺらぺら人生」様の燻製やチーズと「.ワックス.」様の焼き鳥の二つを交えながら3話ほど話を書いていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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