2日は2話、3日は3話ずつ更新することにします。
更新数を増やすと言うガッツをする事にしました。
2話連続でお楽しみ頂ければ幸いです。
メニュー95 祭りの準備 その1
竜王国とビーストマンの国との和平に向かっての第一歩。和平を記念しての祭りと言うのは間違い無くいいアイデアではあった。
だが問題は、操られていたとは言え、やはりビーストマンと祭りなんて……と言うわけではない。スレイン法国のクアイエッセの暴走でスレイン法国の悪事が明らかになり、ビーストマンには確かに恨みはあるが、本当に悪いのはスレイン法国という流れになりつつある。では問題は何かと言うと……祭りを行うような設備が何も無いと言うところにあった。
「全く貴方達は釘1つ打つことが出来ないのですか?」
「「「す、すいません」」」
「私は謝罪が欲しいのではありません。与えられた仕事くらい成し遂げろと言っているのです」
小さくなっている竜王国民、そしてビーストマンに私は眉を顰めた。アインズ様とカワサキ様の素晴らしいアイデアを活かす為には、祭りを楽しむ為の舞台……つまり屋台が必要なのですが、竜王国やビーストマンに大工はおらず、与えられた仕事もまともに出来ない無能ばかりで溜め息が出る。
「こうやって木材を押さえて、釘を打つ。これだけです、これくらいはやってください」
「「「は、はい……」」」
私は自分の分の屋台を作り終えたので、木材に布を打ち付け見た目を整える。
「おいおい、もう少しちゃんと押さえててくれ」
「わ、分かってるけど、俺の指さっき打ちかけたじゃないか!」
「それは謝っただろ!?」
後ろで口論をしている大工達に苛立ちばかりが募る。何故、カワサキ様とアインズ様が人間と作業をせよと命じた理由が判らない。私1人で1時間ほどで4つの屋台の素組みが出来ているのに、まだ1つも出来ていない。私1人なら……
「そうか、そう言うことですか……」
シズ・デルタはカルネ村で人間社会に紛れ込むことを学び。
エントマ・ヴァシリッサ・ゼータはカワサキ様の元で人に必要な物をどのように与えるかを学んだ。
そしてコキュートスは人間の限界、そして強さを調べた。
(つまりこれは私への試練と言うことですか)
シズ、エントマ、コキュートスはその場にカワサキ様やアインズ様が着いていて、その様子を見ていた。だが私はそうではないのは、私ならば自分で考え、そして正解を導き出すと言う事を期待してくれているからではないか?そう考えれば、苛立ちは消え、カワサキ様とアインズ様の試練を無事に成し遂げて見せようと言う意思が湧いて来る。
「いいですか、いきなり最初から打とうとするから駄目なのです」
かなづちを振りかぶっている人間の手からかなづちを取り上げ、板と板を上手く繋ぎ合わせ、軽く金槌で打ってみせる。
「これくらいまで打てば押さえなくても、自然に打つ事が出来ます。さらにそんなに力を入れる必要も無いので、もっと軽く打つのです」
「「「は、はいッ!!!」」」
私の指導を聞いて笑みを浮かべる人間達。この程度で笑みを浮かべるとは何とも、単純な生き物なのでしょうか。
(……教えるときは相手の力量を考えて)
行き成り高レベルな物を要求しても初心者はそれに対応出来ないので、それを踏まえ、自分で考えて馬鹿らしいと思うほどに簡単な内容から教えていく。
(これで合っている筈です)
相手が出来なくて当然、無能が最初から私の求めるレベルの仕事が出来ないのは当然。だからそれに怒りを覚えず、そう下等生物に芸を仕込んでいるような気持ちで見ていれば怒りを覚える事は無いと私は悟るのだった。
「……デミウルゴス様が凄い目をしてますが、大丈夫でしょうか?」
「……大丈夫だろう。デミウルゴスも馬鹿ではない……カワサキ様のご命令通りに無事に仕事を成し遂げるだろう」
「めちゃくちゃ不安そうな顔をしてますが、本当に大丈夫だと思っていますか?」
「……実は駄目じゃないかと心配はしている」
人間を完全に見下しているデミウルゴスが大工作業をしているのを見てコキュートスは正直気が気ではなかったのだが、カワサキの命令である岩塩プレートの切り出しを行う為にゼロ達を連れて、再び竜王国を後にするのだった……。
デミウルゴスがそんな事を考えながら、大工作業を指導しているとは夢にも思っていないカワサキはアイテムボックス、そしてグリーンシークレットハウスからガチャの外れアイテムの縁日セットをどう使うかと考えながら配置していたのだが……。
「私の方が大きく作れるぅッ!」
「……大きさじゃない、形」
「よーし、良い子だからそろそろ綿菓子を作るのをやめようか?」
「「はいッ!!」」
シズとエントマが競い合うように作っていた綿菓子の山に俺は頭を抱えていた。練習しておいてくれとは言ったけど、これはやりすぎだろう。
「お祭りで作る料理だから、味見してくれて構わないから」
「「「あ、ありがとうございます!」」」
竜王国とビーストマンの中で料理が出来ると言う面子に綿菓子を味見しても良いと言う名目で押し付ける。正直綿菓子は砂糖の塊なので、俺には少々厳しい物がある。
(さてとこの後はどうするかな)
祭りなのでエ・ランテルでも好評だった串カツとかも全然OKなんだが、今回はリュクとドラウディロンに料理を作らせるというのをメインイベントにしようと思うので余り派手なものはない方が良い。
(お好み焼き、焼きそばくらいなら……多分大丈夫だろう)
2人に教える料理となれば、見た目がある程度派手で演出しやすいお好み焼きと焼きそばを岩塩プレートで焼いてみると良いだろう。そうなれば、シズやエントマ、そして料理人達に教える料理は決まったといっても良いだろう。
「鯛焼きの作り方を教えるので全員集合ー」
食べ歩き出来るデザート系で行こうと俺は決めて、全員を呼び寄せて鯛焼きの生地の作り方から教えることにするのだった。
「まずはボウルに粉と重曹を合わせて泡立て器で混ぜる」
手帳などを手にしているシズ達を前に実演してみせる。まずは目で見て覚えさせて、そしてその後で自分達で試行錯誤しながら作るのがベストだからだ。
「良く混ざったら、砂糖と塩を加えて更に混ぜ合わせる」
1度に入れて混ぜても良いのだが、上手く混ざってないと味がバラける理由になるので、段階的に混ぜるようにと教える。
「粉が良く混ざったら、合わせた水と牛乳を少しずつ加えて混ぜる。一気に混ぜるとだまになるので少しずつだ」
水と牛乳を合わせた物に粉を溶かすイメージでと言って泡立て器で混ぜ合わせる。
「3段階くらいで注ぎ入れて、良く混ぜるのだが、混ぜすぎると粘りが出てしまうので、これくらいを目安にする」
持ち上げた時に生地が零れ落ちるくらいの目安で混ぜる。
「事前準備の時は冷やすが、作るのが間に合わない時はそのまま使ってくれても構わない」
「はい、何故生地を冷やすのですか?使うのならばそのままでも宜しいのではないでしょうか?」
シズとエントマだと言う通りにするだけで、質問をしてこない。だからこうして質問されるのは新しいなと思いながらその理由を説明する。
「小麦粉と水を混ぜるとグルテンと言う成分が生まれるが、これが強いと生地の弾力が強くなりすぎてしまう。だから寝かせる事でグルテンの成分を弱くして、サクリとした焼き上げにする為だ」
「では。夜の内に大量に作り、冷やしておくのが最善と言う事でしょうか?」
「そうなるが、残ってしまうのも問題なので、そこら辺は難しい所なんだ、まぁアレンジの方法が無い訳ではないんだがな」
中にベーコンを入れるとか、目玉焼きとチーズを入れるとか色々あるが、それは最終手段にしたいと思う。
「次に餡子をこうやって、細長く伸ばしていく、これが出来たら、後はこの鯛焼き器に油を塗って、生地を尻尾のほうから流し入れて、餡子を真ん中に乗せる。そして餡子が隠れるように生地をさらに上から掛けて蓋をして焼き上げる」
凄いジッと見られていてやりにくい物を感じながら、俺は丁寧に鯛焼きの焼き方を指導するのだった……。
皇女殿下に言われ、カワサキ殿の元でお祭りに使う料理の練習をしているのだが、やはりカワサキ殿は料理だけではなく、菓子に対する知識もずば抜けていると驚かされた。
(これは面白い。まるでくもを食べているようだ)
(そうですよね……これは子供に人気が出そうです)
綿菓子と言う白いふわふわは甘く、口の中に入れると一瞬で解けてしまうのだが、それでいてふんわりとしている。この奇妙な食感と甘みは見た目も相まって子供に人気が出そうだ。
「ほい、焼き上がりだ。ちょっと熱いから気をつけろよ」
そして今焼かれた鯛焼きと言う菓子は魚の形をしていて、綿菓子同様見た目で子供を楽しませてくれるというのが良く判る。
「美味しいです!」
「ぱりぱりしてて……甘いです」
シズさんたちが食べたのを確認してから私達も鯛焼きに齧りついた。口の中に響くパリッとした食感とすぐに口の中に広がる小麦特有の甘さとモッチりとした食感に驚いた。口の中で食感が変わるとは中々珍しい体験だと思う。
「これは面白い食感ですね」
「パリッとしているのにモチモチとしている……」
「これは凄い……色んなアレンジが出来そうですね」
この生地自体が凄いのだと驚いた、この生地の食感を考えれば色々な料理に応用が利くだろう。食べ進めていると餡子と言う豆を甘く煮た物が口の中に入ってくる。
「ん!これは……美味しい」
「なんと上品な甘さか」
「私達の知る甘味とは全然違いますね」
私達の知る甘いというのはもっとこう、口の中に残る甘さなのだが……これはさっぱりとして後味も悪くない。これは私達の知る甘みとは全くの別物だ。
「気に入ってもらえたようで何より、はい、エントマ」
「ありがとうございますぅ!」
鋏ではみ出た生地をカットしてエントマさんに渡しているカワサキ殿を見ながらも、私はこの鯛焼きと言うものを観察していた。
(この生地ね……甘すぎず、しかし甘くないわけではない)
パンとはまた違うが素材の味を良く活かしている。この味があるから、餡子と言う豆と非常に良く合うのだ。
「餡子が入ってない部分が丁度良い口休めなんですね」
「ああ、それは間違いない」
餡子は鯛焼きの中心部にしかないから食べると餡子のない部分がある。だがそこを食べる事で、口の中に満ちた甘さを1度さっぱりとさせることが出来る。
「それにこれはビーストマンでも美味い。これは十分にありですよ」
「見た目、味どれも完璧とは恐れいった……これは良い菓子だ」
準備さえ済ましていれば、3分ほどの焼き時間で仕上がる、しかも一度に10個近く作れるとなれば祭りに適した料理と言えるだろう。
「あとはこんなものも面白いと思うんだがどうだろうか?」
カワサキ殿が次に持ち出したのは小さな林檎、菓子にするにも、そのまま食べるには些か甘みも大きさも足りないそれで今度は何を作るのか。私は半分ほど残っている鯛焼きを持ちながら、カワサキ殿の手元に視線を向けるのだった……。
ビーストマンでも美味いと思う甘味を振舞ってくれたカワサキは次の料理をすぐに作り始めた。
「まぁ、これはそんなに大したものじゃないんだが……」
小さな林檎を水洗いし、水気を良くふき取った後に竹串を刺す。
「これで下拵えは終わりだ」
林檎に竹串を刺すだけで下拵えが終わりと言うカワサキに驚いた。これではとてもではないが、菓子とは言えないと思う。
「鍋に砂糖と水、赤い食紅を入れて混ぜ合わせる」
砂糖に水……それに赤い色染め……駄目だな。これで何を作ろうとしているのかまるで想像がつかない。
「良く混ぜ合わせたら、火に掛けてふつふつとしてきたら弱火にする」
「何もしないんですか?」
「何もしない、強いてやることすればくっつかないようにシートを引いておくだけだな」
本当に何をしようとしているのか判らない。鍋から漂う甘い香りを嗅ぎながら次に何をするのかをジッと見つめる。
「よしこんなものだな」
カワサキはそう言うと竹串を刺した林檎を鍋の中に入れ、くるりと回転させシートを引いたバットの上に乗せる。
「これは……」
「いや、驚きですね」
「綺麗……」
林檎の赤を際立たせる赤い飴に包まれたまるで宝石のような林檎がそこにはあった。
「林檎飴って言うんだ、まんまだろ?でも子供受けはすると思うぜ」
小さな林檎に赤い飴……確かに子供が喜びそうだ。
「ほい、味見をどうぞ」
差し出された竹串を手に取り持ち上げる。どこから見ても赤い飴で包まれていて、見た目も美しい。
「ん、これは美味しいですね」
「甘みと酸味のバランスがいい」
確かにその通りだ、飴の部分のぱりぱりとした食感の部分は甘く、そして林檎は甘みもあるが酸味が強い。それにそのまま食べるには甘みが足りないこの林檎の特徴を活かした飴と言える。
「作るのも簡単ですし、これは良いですね」
「それに飴さえ作れば、これなら誰でも作れる」
「さっきの鯛焼きも分量と焼く時間さえ間違えなければ失敗する事もない」
竜王国と我が国はさほど人口が多いわけでは無いが、それでも祭りとなれば今まで抑制されていただけに、祭りを存分に楽しもうとするだろう。そうなれば、しっかりと準備をしなければ祭りは失敗してしまう。新しい第1歩を歩き出す前に失敗してしまったのでは、意味が無い。新しい歴史を作るのだ、華々しく大成功を収めなければ……。
「ちょっと癖があるが、次ももっと面白い物を作るぜ。ただこれは難しいからなあ、作れるかどうかは皆の感覚次第だな」
沢山のくぼみがある鉄板を用意するカワサキを見て、今度はどんなものを見せてくれるのか俺達はワクワクとした気持ちを感じながら、どんな料理を見せてくれるのかを楽しみに待つのだった……。
メニュー96 祭りの準備 その2へ続く
やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない