生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー99 祭り その3

メニュー99 祭り その3

 

竜王国とビーストマンの国の和解を祝う祭りはカワサキが教えた料理のおかげもあり、食べ歩きをしながら芸人を見て笑う。笑顔に満ちた素晴らしい祭りとなっていた。

 

「んー、そろそろ昼だな」

 

「じゃあ、そろそろちゃんとしたのを食べましょうか」

 

午前中はフランクフルトや綿菓子、そして鯛焼きといった食べ歩きに適した料理、そして正午からは満腹感のある料理を提供すると聞いていて、芸を見終わった竜王国の民や、ビーストマン達がぞろぞろと広場に足を向ける。

 

「こ、これかあ……」

 

「だ、大丈夫かしら?」

 

たこ焼きと書かれた看板と、その横に描かれている8本足の生き物を見て引き攣った顔をする人達。これは引き返そうとかと話し始めるのも当然の事だったが、既に購入して列を抜けてきた人達の反応を見て、引き返そうとした足を止める。

 

「あふっ、あひいっ! うはあ、美味いッ!!」

 

「最初はモンスターの料理なんて思ったけど美味しいわ!」

 

漂ってくるソースの香りと美味しいと言う声に何事も試してみるかと思い再び並び直す人達。これこそが、カワサキの計算通りだったのだった。

 

 

 

カワサキが鉄板の前に立ち、両手に針みたいのを持って鮮やかにたこ焼きを引っくり返しているのを見て、私は素直に感心していた。

 

(いや、本当カワサキは凄い)

 

私も練習したけど、両手持ちは全然出来なかった。どうしても半生で引っくり返してぐしゃぐしゃにしてしまったり、焦がしてしまったり酷い有様だったのだが、カワサキのたこ焼きは綺麗に丸く焼かれていて、こげている部分も殆ど無い。1つずつ作るなら私も上手に作れるんだけどなと思いながら、仕上げの準備をしているとあちこちから声が掛かる。

 

「船くれ、船!」

 

「はいはーい!」

 

船と言う独特の形の入れ物をカワサキに渡すと、カワサキは器用に船の中にたこ焼きを8個詰め、それを机の上に流してくる。

 

「ソース、鰹節、青海苔っ! はい、お願いしまーす!」

 

カワサキに船を渡すのと、鰹節とかを振りかけるのは私とナーベラル様の仕事で、アルベド様とエントマ様が接客をしている。

 

「はい、銅貨4枚ですわ」

 

「へへ、どうもどうも」

 

「銅貨4枚ですよ~」

 

「はい、ありがとうね。お手伝いして偉いね」

 

アルベド様の美貌と小柄なエントマ様が接客と会計をしているので人がどんどん集まってくるから大忙しだ。

 

「……駄目、均等じゃない」

 

「いや、もう少し雑くてもいいんだよ?」

 

「……それは許さない、カワサキ様の料理を台無しにするなんて……」

 

ナーベラル様も仕上げ担当なのに、鰹節と青海苔のバランスが悪いとか、ソースが綺麗にかかってないとかで物凄く慎重に作業しているので、全然完成していない。

 

「えいえいえいえいえい」

 

「「「おおおー……」」」

 

とてもカワサキ1人では回せない人数が並んでいるがシズ様が凄い勢いでたこ焼きを引っくり返している。カワサキに教えられた中でシズ様が1番たこ焼き焼くの上手だったんだよね……

 

「……はい、クレマンティーヌ。お願いね、あと……船頂戴」

 

「こっちも船くれー」

 

「で、出来た……完璧」

 

あれ?もしかしてこの中で1番忙しいのって私? そう気付いた時にはもう遅くて……私は大忙しで鰹節やソースを持ってたこ焼きの仕上げに駆け回ることになるのだった……

 

 

 

 

シズ様が焼いているたこ焼きを4人前と焼きそば2人前を受け取り、広場に配置されているベンチに腰掛ける。

 

「見て見て、お姉さま、まん丸!」

 

「まんまるー♪」

 

綺麗な丸のたこ焼きを見てはしゃぐクーデ達。その顔は本当に楽しそうで、見ている私も楽しくなってくる。

 

「熱いから気をつけて」

 

「「「はーい♪」」」

 

帝国で偶に食べる事が出来るたこ。まさかそれを生地に包んで焼くと言う発想は無かった。

 

「ふーふーはむッ! ん、んー♪」

 

「あふっあふっ……おいひい……♪」

 

「おいしいね!」

 

たこ焼きを夢中で食べている3人をみながら、私もたこ焼きに刺されている爪楊枝を摘んで持ち上げる。

 

(け、結構重いのね……)

 

爪楊枝だから重いというわけでは無い。見た目は小さいのだが、ギッチリと詰まっているのが理由なんだろう。見た目よりもかなり重みを感じる。

 

「ふーふー」

 

「ふーふーするー!」

 

「私も」

 

「ふーふー!」

 

私が冷ましているとクーデ達が私が冷ますーと言って息を吹きかけて冷ましてくれる。

 

「ごぶうっ……なんだよあれ…楽園かよ……」

 

「はいはい、馬鹿言ってないで行くわよ」

 

「みるだけ、見るだけなら良いだろ?」

 

「駄目だ。お前を宿から出したのは失敗だったな……」

 

「そんな後生なあーー……」

 

……なんだろう、今凄く寒気がした。振り返ると、屈強な大男が暴れている若い男の首に腕を回していた。

 

「「……」」

 

「けこッ!?」

 

私とその大男は無言で見つめあい、私が目を逸らすと大男は腕を捻り、男を締め落として引きずっていった。

 

「お姉さま何を見てるの?」

 

「大丈夫、気にしないで」

 

きっとあれが竜王国にいると言う変態なのだろう。優秀な冒険者と聞いているが、年下趣味の変態はやはり自由に出歩かせるべきでは無いと思う。

 

「あむ……ふっふっ……」

 

大分冷ましたつもりだったけど、まだ大分熱かった。口の中で転がして、熱を冷ましてから改めて噛み締める。

 

「ん、美味しい」

 

「うん、おいしいー!」

 

「シズ様すごい!」

 

美味しい料理を作ったシズ様凄いと喜んでいるクーデ達。でも確かにこれは凄く美味しい、外はカリっとしているのに中はトロトロとしていて、2つの食感を楽しむ事が出来る。

 

(ん、美味しい)

 

そして中に入っているたこも大振りで、コリコリとした食感がたこ焼きに良いアクセントを加えている。

 

「むふうーおいしー♪」

 

「おいしいね♪」

 

「美味しいし、お祭楽しいね♪」

 

嬉しくて、楽しくてしょうがないという表情をしているクーデリカとウレイリカ、そしてネムを見ていると心から思う。あの時、ヘッケランが見つけてきた依頼……あそこでもしトラップに掛からなければ、私はどんな生活をしていたのだろうかと……

 

(今ならあの遺跡に感謝してもいいかも……なんてね)

 

カワサキ様に出会う切っ掛けになったあの遺跡……今思い出してもあの毒の痛みと苦しみは凄まじかった。だけど、その痛みと苦しみのおかげで今の平穏があるのならば……あの遺跡に感謝してもいい、今の私にはそう思えるのだった……

 

 

 

 

バジウッド殿と戦士長殿が城の授与式に参加しているので、私は1人でのんびりと祭りの会場を見て歩いていた。

 

(凄いものだな……)

 

私は武芸の道を歩んだが、芸人もまた1つの道を究めようとしている……何かを傷つける術と人を喜ばせる術……それは全く異なる物ですが……それを極める難しさと辛さには共感できると思う。

 

「すいません。えっとたこ焼きを4つ、それと焼きそばとお好み焼きを3つずつお願い出来ますか?」

 

「はいはーい、ちょっと待っててね」

 

正午の鐘の音を聞いて、近くの屋台によって目に付いた物をとりあえず頼んでみる。戦士長殿達に強くなるにはまず食事を多めにするように言われているので、少し多いかもと思う量にしてみた。

 

「はい、銀貨10枚ね」

 

「はい、ではこれでお願いします」

 

「毎度、はい、銅貨3枚と銀貨4枚のお返しね」

 

金貨で支払いを済ませ、どこで食べようかと辺りを見回していると兄弟の芸人を見つけた。

 

「すいません、ご一緒しても宜しいですか?」

 

他に座るところも無いので、申し訳ないと思いつつその芸人の座っているベンチに一緒に座ってもいいですか? と尋ねる。

 

「ん? ああ、どうぞどうぞ」

 

「かまやあ、しねえよ。座りなよ」

 

案外愛想よく座って良いと言われたのでありがとうございますと頭を下げて、大量に持っている料理を机の上に並べる。

 

「あ、宜しければどうぞ」

 

ちょっと買いすぎたかもしれないと思っていたので、芸人のお2人にたこ焼きを1つずつとお好み焼きと焼きそばを渡す。

 

「あんた、いい奴だな」

 

「ありがたく貰っておくぜ」

 

「いえいえ、座らせてもらいましたから」

 

他に座る所も無いので、座らせて貰えただけでも嬉しいから気持ちだけでもと言う事でお渡ししたのが良かったと思っている。

 

「「「いただきます……んん?」」」

 

いただきますと口にするとお2人とも声が重なった。

 

「あの、失礼ですが、カワサキさんのお知り合いでしょうか?」

 

「あ、ああ……俺達はアインズ様の国の芸人さ」

 

「なるほど、道理で」

 

いただきますと言うのはカワサキさんの店でのマナーであり、他の所ではあまり聞かない。しかし、世の中は狭い物だなと思いながらたこ焼きに刺さっている木の棒を持ち上げる。

 

「ふっふ……あふっ、あちち……」

 

「ははは、なにやってるんだ、あちいっ!?」

 

「お前こそなにやってるんだよ。ブラザー」

 

たこ焼きを頬張り熱いと目を白黒させている太ったピエロに痩せている……恐らく兄が水を差し出している。私も口の中が熱いので水を飲んで一息ついた。

 

「お、思ったより熱いですね」

 

「熱いって言われてるだろ? 良く冷ましてから食べるんだな」

 

そう笑いのっぽの方は息を吹きかけてよく冷ましたたこ焼きを頬張る。

 

「美味い、流石カワサキ様のレシピだ。最高だな」

 

「ああ、本当に美味いなあ」

 

お2人が絶賛するのも良く判る。このたこ焼きと言うのは本当に美味しい。鰹節?とか言う干した魚を削った物も噛み締めるといい味がするし、酸味のあるソースの味もたこ焼きの生地に混じるとその味を格段にいい物にしてくれている。

 

「なによりも、この蛸って言うのが美味しいですね」

 

あまり馴染みのない食材なのですが、身が厚くてコリコリとした独特の食感と噛み締めるとサクリとした独特の食感が本当に美味しいと言うと、2人は信じられない物を見る目で私を見つめた。

 

「あん? たこ焼きなんだから、蛸が美味いのは当たり前だろ?」

 

「お前大丈夫か?」

 

「は、はは、そうですね。確かに料理に名前の入っている食材が美味しいのは当然ですね。失言でした」

 

それ自身は大したことが無い言葉だったのですが、ラナー姫様付きの騎士と言う事で遠巻きで見られているだけで、裏で悪口を言われている事に慣れている私に取っては、その普通の言葉がとても嬉しく感じてしまった。

 

「それよりもだ、たこ焼きは案外腹が膨れるから、お好み焼きを食っとけ」

 

「これは肉も野菜もたっぷり入っていて、美味いぜ」

 

「そうですか、ではそちらもいただきたいと思います」

 

私は勧められるままにお好み焼きの入れ物の蓋を開けた。今までこんな風に食事をした事は数えるほどしかなくて、芸人さん2人とこうして食事が出来て良かったと思った。

 

「私はクライムといいます。貴方達はなんと言うのですか?」

 

「あ。あー……おらあ……エドだ」

 

「ゲイン……よろしくな」

 

「はい、エドさんとゲインさんですね、よろしくお願いしますね」

 

こうして名前を交換するだけで友達が増えたような……そんな気がして私は本当に嬉しく思うのでした。

 

 

 

 

 

 

城の中の食事と言っても机の上に並んでいるのはたこ焼きやお好み焼きといった料理ばかりだ。

 

(いや、それなら外で食えよ……)

 

さっきから何回も買いに行っている下っ端がかわいそうに思えてきた。

 

「あふあふ……んふふ、美味い! どの店も味が少し違って面白いな」

 

「そうですね。でもやはりカワサキさんのお店のが1番美味しいですね」

 

それは当然の事だ、カワサキさんの料理が美味しいのは当然の事である。

 

「あっち、でもうめえな……これ今度陛下に作って貰えないかね?」

 

「カワサキさんに頼んで見ましょうか」

 

ジルクニフは蛸が好きだといっていた、その蛸をぶつ切りにして入れているたこ焼きならばさぞ気に入る事だろう。

 

「……ゴウン殿、しかし竜王国とビーストマンの国だけでこうして祭りをしたとなると国王陛下も何か言い出すかもしれません」

 

「……俺の所もだな」

 

バジウッド殿と戦士長殿の視線を向けられ、俺は食べようとしていたたこ焼きを皿に戻した。

 

「そうですね、カワサキさんに相談して見ましょう」

 

多分今この瞬間、帝国と王国が作っている魔法学校の開校記念でカワサキさんが何かを作らないといけないという事が決まったけど、うん……カワサキさんなら出来ると俺は信じている。

 

「しかし……あれですな」

 

「言わなくても判るぜ、ガゼフ」

 

「「「違和感が凄い」」」

 

俺も戦士長殿達が何を言おうとしているのか判り、特に打ち合わせをしたわけでは無いが――俺達の声が重なった。

 

「だよな、いや、美味いんだぜ? めちゃくちゃ美味い」

 

「ですが……その……このような場で食べる品ではありませんよね?」

 

「それは確実ですね。間違いないです」

 

たこ焼きも林檎飴も綿飴も、そして焼きそばとお好み焼きは少し違うと思うが……基本的に食べ歩きをするための料理だ。こんな風に上品に机に腰掛けて食べる料理では無いと思う。

 

「はふはふ……うんうん、美味い!」

 

「あの絵を見てモンスターを食べるのかと思いましたが……」

 

「いやいや、これは悪くないですな。いや、むしろ最高です」

 

……でもその違和感に気付いているの多分俺達だけなんだろうなあ……数少ない竜王国の貴族に合わせていると思うんだけど、ミスマッチ感が半端無い。

 

(いやいや、ないないない)

 

たこ焼きをナイフとフォークで食べるとかありえないから! 俺達3人が爪楊枝で食べているのが間違ってるみたいな感じで見ないでくれ、間違っているのはそっちなんだから……。

 

「やべえな。居心地が悪い」

 

「……ですね」

 

「これなら外でビールとかと一緒に食べたい」

 

「「判る」」

 

何だろう、この男子高校見たいなノリ……今まで以上にバジウッド殿達と仲良くなれそうな気がする。

 

「竜王国とビーストマンの和解と聞いてきたよ。ドラウディロン殿」

 

会場の扉が開きツアーが入ってくる。その後ろで私ちゃんとやりましたよっとドヤ顔をしているシャルティア……うん、良くやってくれたと思うし、本当に良くここまで連れてきてくれたと思うんだけど……

 

(((いや、ないわー……)))

 

ツアーは片手に林檎飴と綿飴を持ち、もう片方の手にたこ焼きやお好み焼きが入った袋を提げている。どう見ても祭りを満喫した後ですね……ありがとうございます。

 

「アインズ様。しっかりと連れてまいりました」

 

「うん。ご苦労様、シャルティア」

 

「はいッ!」

 

良く自分で考えて行動してくれたと思う、ツアーのあの姿を見れば間違いなく、この場に連れて来るのに相当苦労しただろう。良くキレずにここまで連れてきてくれたと思う。だけど、間が絶妙に悪すぎたと俺はそう思うんだ……

 

「バハルス帝国からニンブル殿がジルクニフ皇帝からの書状を持っておいでになりました」

 

「リ・エスティーゼ王国から蒼の薔薇のラキュース殿がランポッサ3世国王からの書状を持っておいでになりました」

 

……ツアーだけでもキャパオーバーなのに、そこに更に帝国四騎士のニンブルと蒼の薔薇のラキュースが来るとか本当に止めて欲しいんだけど……

 

「なんでしょうねえ……大変なことになって来た気がします」

 

「いや、間違いなくなってるよ……」

 

「……何かすいません……」

 

絶対これ収拾つかなくなる……俺達はそれを確信し、少し痛み始めた胃を無意識に撫でているのだった……

 

 

 

メニュー100 祭り その4へ続く

 

 




うーん。やっぱり1度消えてしまった話を書くのは難しいですね……上手く書きたい物が書けないという状態です。今回もちょっと期待はずれの内容になってしまっていたらすいません……竜王国編に決着をつけたら、また暫く王国編で書いていた感じで書いて勘を取り戻そうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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