生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

144 / 236
メニュー101 祭り その5

メニュー101 祭り その5

 

俺の計画した祭りと言うのは案外好評だった。やっぱり何の心配も無く、わいわいと話しながら食べ歩きが出来ると言うのは面白い物だし、楽しい物である。そして俺もその祭りを存分に楽しんでいた

 

「……へえ、アイデアがいいなあ」

 

鯛焼きの生地を小麦粉を多めにしてもっちりとした食感にして、中に挽肉を詰める。ちょっと違うが、ハンバーガーに似通った物を独自で考えていると言うのはやはり料理人の閃きと言うものだ。

 

「カワサキでも驚く事あるんだね?」

 

「そりゃあ、あるさ。料理は閃き、なるほどなるほど悪くない」

 

手にしていた挽肉入りの鯛焼きを全て頬張り、今度はっとがさがさと鯛焼きの入った袋の中に手を入れる。

 

「私も頂戴」

 

「何がでるか判らんぞー?」

 

「外れじゃなきゃいいよ」

 

変り種の鯛焼きばかりを買って来たので当然外れもある。さっきの良く判らん、発酵食品を突っ込んであるのはくそ不味かった。

 

「ばぶうっ!?まっず!?なにこれ不味いッ!!」

 

「あーそれ俺も食べた、不味いよな」

 

「不味すぎて目、覚めるよ!?」

 

クレマンティーヌが無理無理と叫んでいるのは俺も食べたけど、実に酷い味だった。だが竜王国の人が普通に食べているのを見る限りでは、竜王国では伝統的な発酵食品なのかもしれないと思いながら、クレマンティーヌの手からそれを取り、一口で頬張る。

 

「あ……」

 

クレマンティーヌが何か驚いているが無視して飲み込む。発酵食品特有の癖のある香りと粘り気のある食感が口の中一杯に広がる。

 

「やっぱり不味いよなあ、これ」

 

「そ、そそ、そだねー」

 

なんかしどろもどろできょときょとしてるけどどうしたんだろうなと思いながら、林檎飴の屋台を見つけた。

 

「口直しに林檎飴でも食うか」

 

「う、うん」

 

なんか借りてきた猫みたいになったクレマンティーヌを連れて俺は林檎飴の屋台に並んだ。

 

「へえ、林檎以外も作ってるのか、感心感心」

 

俺が教えた料理だけでは無い、自分達で考えて料理を工夫して考えている。あの発酵食品の鯛焼きは他の国の住人には不評だが、竜王国の人間には人気と言う事を考えると、くさやとか、そう言う感じの癖はあるけど人気があると言う食品なのかもしれない。

 

「どうもカワサキさん。林檎以外で色々作ってみたんですよッ!」

 

「いや、その向上心は良いぞ。どれ、どれか貰おうかな……」

 

 

 

 

これはなんだろうか……自信満々な様子は判る。判るんだが……果物の種類がまるで判らない。

 

(これはスイカ……スイカなのか?これは……キウイ?)

 

黄色くて紅い種がある果物はスイカに良く似ている。白いキウイみたいな物……確かに果物である事は認めよう。だがこれは……味の予想がまるでつかない上に買うのが怖いんだが……。

 

「どうしました?どれも新鮮で美味しいですよ?」

 

「そ、そうなのか……」

 

新鮮で美味しい果物と勧められるが、俺の知っている果物とは余りにも違っていて、正直食べたいと思うより怖いと言う気持ちの方が強い。

 

「ドゴラン2個」

 

「はい、今袋につめますねー」

 

クレマンティーヌがドラゴンフルーツに似ているのを指差して注文する。見た目はドラゴンフルーツに似ているんだが、果肉が緑で正直退いていたそれを差し出される。

 

「美味しいよ、ドゴラン。竜王国の特産品なんだ」

 

「そ、そうなのか。じゃあ貰うとしよう」

 

料理人なのだから未知の食材は食べてみると言う勇気が必要だ。飴にコーティングされた果肉を小さく齧る。

 

「……これは甘いな、めちゃくちゃに甘い」

 

想像以上に甘い、これほど甘い果物は初めて食べたかもしれない。

 

「種が少し酸っぱいから種を齧ると丁度いいよ」

 

クレマンティーヌに言われて種を齧ると確かに葡萄のようなほのかな酸味が口の中の甘みを上手く相殺してくれる。

 

「なるほどな、面白い」

 

「でしょ。ほかに面白い食材も色々あるよ、カワサキが好きそうな奴」

 

「そうか、じゃあ、それを色々と教えてもらおうかな」

 

「良いよー、こっちこっち」

 

太陽の中明るく笑うクレマンティーヌに手を引かれ、俺は屋台街をゆっくりと歩き出すのだった。

 

 

 

 

デミウルゴス達がカワサキさんの屋台の営業をしている中。俺はツアーと鉄板を挟んで話し合いをしていた。

 

「牛肉はわさび醤油が美味しい」

 

「なるほど、それは試さないといけないね!」

 

誰が何と言おうと話し合いだ。決して腹ペコドラゴンに引かれる形で焼肉パーティをしているわけでは無い。

 

「それでスレイン法国はどうだ?」

 

「そだね。んぐっ!今の所は静観を決め込んでるけど、結界で街全体を覆っているのを見る限りだと暫くは表立って動かないと思うよ」

 

ツアーの言葉を聞きながら鉄板の上に肉を並べ、ビールではなくコーラの蓋を開ける。

 

「お酒?」

 

「いや違う、これはコーラと言う飲み物だ。酒では無いが、炭酸酒のような味わいがある」

 

ツアーのグラスにも注ぎ、コーラを口にしながら鉄板を見つめる。

 

「ツアーはどう見る?」

 

「そうだね、動くべきか、動かざるべきか……悩む所かな、街を封鎖して、外に聖典達がいないとも限らない」

 

「そうか。ああ、生肉で食べるのはどうかと思う」

 

「もう少し焼かないと不味い?」

 

「不味いというか、当たると思うぞ。多分、牛肉なら大丈夫だが、豚と鶏は良く火を通すべきだ」

 

毒消しで治療できる可能性はあるが、それでも十分に火を通しておくべきだと思う。

 

「竜王国の一件が終われば私達はアゼルリシア山脈に向かうつもりだ」

 

「あー……そっか、うんうん……あー」

 

何かを言おうとしていて、口ごもるツアーに何か知っているのか?と尋ねる。

 

「竜王の中でも変わり者って多いんだよね。例えばさ、七彩の竜王【ブライトネス・ドラゴンロード】……ドラウディロンの先祖との間に子供を作ったドラゴンとか」

 

それは何と言えばいいんだ……性癖?性癖を拗らせたドラゴンがいたと思えばいいのか?

 

「アゼルリシア山脈には強欲で強さに固執するオラサーダルク=ヘイリリアルって言う霜の竜の王【フロスト・ドラゴン・ロード】がいるんだけど……ちょっとあれなんだよね……ちなみにアゼルリシア山脈に行く理由は?」

 

「ドワーフに用がある」

 

「OK、判った。オラサーダルクが、クアゴアを配下にしてドワーフを攻撃してる。それとスレインと繋がりもありそうだから……なにか良い情報があるんじゃないかな? でも常闇の竜王【ディープネス・ドラゴンロード】がいる地下洞窟には行かない方が良い、君達でも苦しい戦いになるだろう」

 

ツアーの言葉に思わず眉を吊り上げ、焼きあがった肉を皿の上に移す。

 

「私達が負けるとでも?」

 

「……20とか言うアイテムを持つプレイヤーを抹殺した竜王だからね。あいつに殺されたら誰も蘇生出来ない、そういう能力を持つんだ」

 

20……20のワールドアイテムを持つ蘇生封じ能力。

 

「なるほど、聞いておいて良かったよ。性格はどうなんだ?」

 

「んんーものぐさで、食い意地が張ってるかなあ……500年前の八欲王との争いでは動かなかったけど、300年前に餌場をプレイヤーにあらされて怒り狂ってたし……」

 

「それカワサキさんがいれば何とかなるんじゃ?」

 

「……いや、そうなると多分カワサキの奪い合いになるよ?だからやめといたほうがいいよ」

 

「そうか、では止めておくとしよう。今は……な」

 

20のワールドアイテムを持ち、蘇生封じのドラゴンロードと、強欲で強さだけを求めるドラゴンロード……ツアーから有意義な情報を聞けたのでこれを軸に作戦を決めていく事にしよう。

 

「待て、それは私の骨付きカルビだ」

 

「えーさっき僕の牛タンを食べたじゃないか」

 

「知らないな」

 

「じゃあ僕も知らない」

 

目の前で骨ごと骨付きカルビを食べるツアーに心底むかついた。だがクールに、クールになれと言い聞かせる。

 

「アルベド、すまないが肉の追加を頼む」

 

足りなければ頼めば良いのだ、アルベドに肉の追加を頼んだのだが……。

 

「アインズ様の妻のアルベドです」

 

「うおおいッ!?」

 

「なんだ、アインズはとても綺麗なお嫁さんがいるじゃないか、お嫁さんは大事にしないと駄目だよ?」

 

「くふううーッ!!」

 

「違う!アルベドは私の友の娘だッ!」

 

「でも凄く慕ってるじゃないか、その気持ちには応えるべきだよ」

 

駄目だ、ツアーに悪意は無い、悪意が無いがそれゆえに邪悪だッ!にまあっと笑い翼を羽ばたかせるアルベドに落ち着けと声を掛けながら防御姿勢に入る。アルベドのたった一言で収拾がつかなくなった事に俺は絶望するのだった……。

 

 

 

 

 

カワサキが私の食べかけの鯛焼きを頬張ったのには驚いたが、カワサキが何も特別な感じを見せず不味いと笑っているので、私もあえてそれには触れず、屋台に持ち寄られている珍しい食材をカワサキに紹介していた。

 

「……これは魚なのに、肉っぽいな」

 

「そうそう、ここら辺はこういう珍しい食材が多いよ?野菜なのに肉の味がするとか」

 

「……俺そんなの紹介してもらってない」

 

「あれじゃない?癖があり過ぎる食材だからだと思うよ」

 

竜王国の人間じゃないと扱いきれないから紹介しなかったと思う。ここは何故か本当に不思議な動植物が多い国だから……。

 

「なるほど……待てよ、じゃあ今日ドラウディロンが作るお好み焼きにはそれらの食材が……」

 

「使われるんじゃない多分」

 

一国の女王が何をと思うが、これが新しい融和と平和の証と言われれば誰も何も言えない。

 

「行こう!そんな面白おかしい食べ物は食べなければッ!」

 

「はいはい、行こうね」

 

なんだろうなあ、普段のカワサキは頼れる大人と言う感じなのに、今のカワサキは子供のようだ。

 

「おお、カワサキ殿も食べに来てくれたのか?」

 

「珍しい食材を使っていると聞いて!」

 

カワサキの言葉にドラウディロン女王は楽しそうに笑い、お好み焼きをパックの中に入れる。

 

「これじゃ、全部違う食材を使っているぞ」

 

カワサキが面白いくらい目を輝かせているのを見て思わず噴出した。

 

「どうした?」

 

「いや、別に?」

 

意外と言うか、全然知らなかったカワサキの一面が知れて面白いという気分だ。2人で大量のパックを手に机の方に移動する。

 

「これ全部食べるの?」

 

「食べるぞ、全部」

 

10個近いのを全部食べると聞いて、本当に食べれるのかなあと思って見つめているとカワサキは突然噴出した。

 

「不味ぅッ!!!!これあれだ、あの鯛焼きの中の奴ッ!?」

 

「あははっ!なにやってる……まずっ!?これもぉ!?」

 

さっきの発酵食品とは違うが、青野菜の青臭さが口いっぱいに広がり思わず吹いた。視覚情報と味覚が完全に混乱している。

 

「そうそう、慣れてないと不味いのよねえ」

 

「でもこれが癖になるんだよ」

 

と言う声が聞こえてくるが、正直私とカワサキはそれ所ではなく、水をがぶ飲みして口の中をさっぱりとさせる。

 

「いやあ、はははッ!面白いなあ」

 

「えー面白くないって」

 

カワサキの料理を食べているからお好み焼きが美味しいっていうイメージがあったのに、これだと嫌いになりそうだ。

 

「お、これは美味いぞ、肉の味がする」

 

「野菜なのに肉の味って正直どうよ?」

 

「面白いから良いんじゃない?」

 

カワサキと笑い合う。それが楽しくて仕方ない、それからも竜王国の特産品である奇妙な食べ物を食べて、けらけら笑いながら私とカワサキは漸く活気を取り戻した竜王国の街並みを歩いて見て回るのだった……。

 

 

 

メニュー102 シズちゃん 料理チャレンジ その1へ続く

 

 

 




と言う事で、ここで消えてしまったデータの分は最後まで書くことが出来ました。正直言うと、消える前の話よりも薄いと感じておりますが、これ以上は無理でした。すまぬ……102からはまた1から考え直すので、きっとボリュームとか料理の描写戻ると思います。

そのためにも今月は全部オバロ版になりますが、次回の更新もどうかよろしくお願いします。

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

  • 間違っている
  • 間違っていない

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。