生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー108 ホルモンうどん

メニュー108 ホルモンうどん

 

エ・ランテルの冒険者組合……いや、冒険者組合だけではなく、魔術師組合や、薬師達の店の従業員や職員、そして冒険者達はある一時期から元気を失っていた。

 

「ああー、カツ丼くいてぇなあ……」

 

「黄金の輝き亭の高いしなぁ……」

 

「くそ、今月も金欠だ……」

 

「「「カワサキさんの店があればなあ……」」」

 

安くツケも許してくれていたカワサキの店があればという声があちこちから聞こえる。その声を聞いてアインザックもその通りだと思っていた。カワサキの店が炎上し、それらは有志によって再建築されたが肝心の店主であるカワサキがモモンと共に帝国、王国の騎士、兵士と共に竜王国に赴いていてはもう一度作られたカワサキの店も開店など出来ない。故に空き店舗だけがそこにあり、冒険者組合に来る途中に店がやってないか? と覗き込んで、伽藍としている店を見て肩を落とす。それがここ最近のエ・ランテルの住人の間で数多目撃されている光景だった。

 

「ああ、カツ丼が食べたいな」

 

書類仕事をしながら心から私はそう呟いた。カワサキ君が竜王国に行く前に黄金の輝き亭の料理長に自分のレシピを託して行った。だから黄金の輝き亭ではカツ丼や牛丼といった丼物を口にする事が出来るが、カワサキ君の物と比べると些か味が落ちる上に値段が高い。どうしても食べたくなれば行くが、あの時のように毎日とは行かない。

 

「ふう……しょうがないな」

 

今日は軽くサンドイッチでも食べるかなと思いながら、帝国と王国で共同で作る魔法学校や、帝国の冒険者を受け入れる為の書類を作っていると組合長室の扉が叩かれた。

 

「アインザック組合長。その、お客様です」

 

「事前の約束も無しにか? 貴族か? 帝国の人間か?」

 

事前の約束も無しに尋ねてくるのは貴族か帝国の人間のいずれかだろうと思い尋ねると、秘書は嬉しそうな顔を浮かべた。

 

「カワサキさんです、戻ってきたので挨拶にと」

 

「今行くッ!!」

 

仕事の手を止めて、組合長室を飛び出して冒険者組合の受付に走る。

 

「カワサキさん! おかえりなさい!」

 

「いやあ! 待ってたぜッ!!」

 

「また、美味い飯を作ってくれよ!」

 

冒険者や、組合の従業員に声を掛けられ笑みを浮かべているカワサキ君の姿を見て、私も手を上げた。

 

「すまない。待たせたようだな、カワサキ君」

 

「すいませんね。先に連絡するべきだとは思ったんですけど」

 

約束を取り付けようとしたら凄い騒ぎでと肩を竦めるカワサキ君に組合長室で話をしようと告げ、私はカワサキ君を組合長室に招きいれるのだった。

 

「良く無事で戻ったな。モモン君は?」

 

「ガゼフ戦士長達と話をしてますよ。俺はそういうのは良いんで、こうしてまた旅に出るまで店でもやろうかなと思いまして」

 

「またかね?」

 

「ええ、今度はアゼルリシア山脈のドワーフの集落に、包丁とか鍋をつくってもらおうかと」

 

態々そんな所に行ってまでと思ったが、この料理に関しては何処までも真摯に向き合っているのがカワサキ君だと思い。その言葉は飲み込む事にした。

 

「ではどれくらい滞在するのかね?」

 

「そうですね。魔法学校が出来て、竜王国とビーストマンの国を含めた4カ国同盟が成立するまでですかね」

 

「竜王国はわかるが、ビーストマンの国までかね?」

 

「近いうちに発表があると思いますよ。それでその、またあの店は使えますか?」

 

「ああ、勿論だとも。あの店は君の物だ」

 

現に冒険者組合の前の店と言う事であの店を使いたいという人間はいたが、カワサキ君の腕前を知っている以上。並みの料理人ではあの店で料理をすれば非難殺到だろう。故にあの店は完成してからもずっと空けてある。

 

「いや、助かります。店が無ければ営業出来ないですからね」

 

「鍵はこれだ。明日からでも「いえ、今日から営業しますよ」ほう? ではカツ丼も食べれるのかな?」

 

今日から営業すると聞いて、早速カツ丼を食べれるか? と思ったのだが、カワサキ君は私の問いかけに苦笑した。

 

「ロフーレさんの所で食材の注文とかもあるんで、流石に直ぐに前みたいに営業は出来ないですよ」

 

「む、それはそうだな。うん」

 

「1週間もあれば、前みたいに営業出来ると思いますけど、しばらくはそうですね。店の前で昼食限定でどどーんっと料理をするつもりなんですよ、注文とか無しで1品物で、戻ってきたぞって言う挨拶をしたいと思ってます」

 

「そうかそうか、うん。カワサキ君の好きにしてくれたまえ、今日の昼食を楽しみにしているよ」

 

「ええ、ご期待に添える物を作りますよ」

 

にこにこと笑うカワサキ君を見送り、今日の昼食を存分に楽しむ為に山積みになっている書類に手を伸ばすのだった。

 

 

 

 

 

久しぶりに帰ってきたエ・ランテルの店の厨房に立ち、手早く下拵えを始める。竜王国でコキュートス達が切り出してくれた岩塩プレート、これは大勢に料理を振舞う時に最適で、エ・ランテルの知り合いに帰ってきたぞとアピールにするのに役立つ。

 

「ハツ、マルチョウ、シマチョウ、センマイっと」

 

折角のホルモンうどんなのにホルモンを1種類だけなんていうせこい真似はしない。たっぷりと豪快に使う、塩水で綺麗に洗い、薄皮や血脂を綺麗に取り除き、冷水で洗い流したらハツを除いて鍋の中に入れて、長ネギとしょうがを入れて臭み取りを兼ねて1度下茹でする。内臓類は脂が多いので1度下茹でして余分な脂を落としておくのが大事だ。

 

「キャベツ、玉葱、ネギ、もやし」

 

そして野菜もたっぷりと豪快に使う。キャベツはざく切りにして歯応えと食感を、玉葱は薄切り、白ネギは斜め切りと切り方も工夫を凝らす。

 

「たまにはこういうのも良いな」

 

クレマンティーヌもシズもエントマもいない、自分1人で黙々と作業する。手伝って貰えるのはありがたいが、やはりこうして1人で作業するのもそう悪くない。むしろ、こっちの方が慣れていると言っても良いかもしれないなと苦笑する。

 

「赤味噌、合わせ味噌、醤油、砂糖、おろしにんにく、おろししょうがを調理酒で伸ばす」

 

調味料を混ぜ合わせた物を調理酒で伸ばして味噌ダレを作る。赤味噌と合わせ味噌を使い複数の味噌の風味を生かしつつ、薬味の香りで食欲をそそる。俺としては豆板醤を加え辛さも付け加えたいのだが、辛い料理は余り人気がないので、砂糖と調理酒でやや甘めの味噌ダレに仕上げる。

 

「あちちち」

 

茹で上がったホルモン達を鍋からあげて、冷水で1度締めて水気を良く切る。今度はうどんを茹でるのだが、どうせ焼くので少し短めに茹でて、鍋から取り出し、保存を掛けてまたうどんを茹でる。これを数回繰り返したっぷりのうどんを用意した所で顔を上げる。

 

「そろそろ良い頃合かな」

 

正午の鐘がなる少し前。時間的には丁度良いなと思い店の前に出て、コンクリートブロックなどを積み上げて、その上に岩塩プレートを準備する。

 

「さてと始めるとするか」

 

別にやろうと思えばカツ丼だろうが、日替わり定食だろうが準備は出来る。だが1度街を離れれば客足は遠のく、もう1度店をやるには強烈なインパクトが必要だ。岩塩プレートをしっかりと加熱し、4種類のホルモンをその上に落とす。ホルモンから出た脂で周囲に肉を焼く音が響く、本当は塩胡椒をするのだが、岩塩プレートの塩味があるので塩はあえて使わず、香り付けの胡椒を軽く振る程度に留める。

 

「良し」

 

ホルモンから脂が出てきたタイミングでキャベツと玉葱を加えて全体を良く混ぜる。ホルモンの脂をキャベツと玉葱に纏わせるイメージで下から上にホルモンを野菜の上に上にと乗せ、炒めた事でたっぷりと出るホルモンの香りと味と脂をキャベツと玉葱に移す。玉葱が透明になって、キャベツがしんなりしてきたら長ネギを加えて、軽く下味をつける程度の気持ちで味噌ダレを掛ける。

 

(行け)

 

味噌が加熱されて焦げる香り、それが一気に街中に向かって広がっていく。この香りを嗅いだら、止まっていられないはずだ。

 

「良い香りだぁ……」

 

「ああ、早く鐘ならないかなあ」

 

「お、おい!? カワサキさんが料理してるぞ!?」

 

「マジかッ!!」

 

帰ってきた冒険者が俺を見て、慌てて駆けて来る。それに早番の冒険者組合の従業員や納品に来たであろう薬師が俺の姿を見て、足を止める。だけどまだまだ、これからだ。野菜とホルモンに味噌ダレが良く絡んだら茹でておいた麺を加えて、その上にもやし、そして味噌ダレをたっぷりと掛ける。

 

「うっし、行くぜッ!」

 

両手にヘラを持って匂いが広がるように、大きく腕を動かして匂いを広げるように良く混ぜる。味噌ダレの焦げる香り、焼かれている野菜等の音、それら全てを広場全体に広がるように混ぜ合わせ始めた直後。正午の鐘が鳴り響き、あちこちから顔を見せる住人達を見て俺の計算通りのタイミングで仕上がったと確信し、1つ息を吸って声を上げる。

 

「さぁー! カワサキ特製のホルモンうどんだよ! 今日から飯処カワサキ復活だよーッ!!」

 

匂いに釣られて出てきた所に声を掛ける。俺の姿を見て駆け寄ってくる冒険者達を見ながら俺は盛り付ける準備を始めるのだった……。

 

 

 

 

昼食時に漂ってきた強い香り――それに釣られるように俺達は目を覚ました。

 

「なんだ、すげえ良い匂いだな」

 

「祭りでもなんでもない筈なのになんだろうな?」

 

昨日夜遅くまで依頼の成功祝いで酒を飲んでいた事もあり、全員が夕方まで起きる事はないと思っていたのだが……その余りに強い香りに目が覚めてしまった。

 

「あっちは冒険者組合のほうだよな?」

 

「まさかカワサキさんが帰って来たのか?」

 

冒険者組合の前で店をやるなんて言う勇気がある人間はいない。しかし冒険者組合のほうから現に匂いが漂って来ている――それはカワサキが帰って来たのかもしれないという事を示していた。

 

「見に行ってみるか」

 

「「「賛成」」」」

 

俺の提案に反対する者はおらず、服を着替えてから冒険者組合の方に足を向けた。

 

「うめえッ!」

 

「美味い美味いッ!」

 

「お代わり!」

 

「あいよー」

 

カワサキの店のほうから聞こえて来る美味いと言う声と風に乗って漂ってくる食欲を誘う香り……それが全てカワサキが帰って来たという事を現していた。

 

「カワサキ。何時戻ってきたんだ?」

 

「おう、イグヴァルジ。久しぶりだな、1週間くらい前になる。4ヵ国同盟の件でばたばたしててな」

 

噂に聞いていたが、本当に竜王国、ビーストマンの国とも提携するのかと驚きながら、カワサキが調理している鉄板に視線を向けた。

 

「美味そうだな。なんだこれは?」

 

「ホルモンうどんって言う料理だ。銅貨3枚、食うか?」

 

銅貨3枚。本当にカワサキの料理の値段は安いなと苦笑し、4人分で銀貨1枚と銅貨2枚をカワサキに差し出す。

 

「まいど」

 

「それでホルモンって言うのはなんだ? 肉なのか?」

 

麺と肉、そして野菜をたっぷり使っている料理を見てホルモンって何だ? と尋ねる。

 

「牛と豚の内臓」

 

「内臓!? んなもん食って大丈夫なのか?」

 

「大丈夫だよ、下拵えはちゃんとしてる。それに周りを見ても大丈夫だろ?」

 

あちこちから聞こえて来る美味いと言う声に大丈夫とは思うが……もう注文してしまっているので完全に後の祭りか。

 

「はい、お待ちどう。熱いから気をつけてな」

 

カワサキの店特有の白くて軽い入れ物に入った麺料理を受け取り、広場に設置されているベンチに腰掛ける。

 

「内臓か……いや、マジだな」

 

「見た目すご……」

 

茶色いソースに絡まっているので色は良く判らないが、こう決して食欲を誘う形ではない。しかし、この匂いで駄目だなと思い、フォークを麺に刺して持ち上げて頬張った。

 

「美味いッ! やっぱり美味いな」

 

「ほんとだな、やっぱりカワサキさんの料理は美味いって良く判る」

 

「うんうん、麺だけでもめっちゃ美味い」

 

もっちりとした歯応えのある麺にしっかりとソースが絡んでいる。このソースがかなり強い味をしているのだが、決して辛くは無くにんにくやしょうがの香りが食欲を誘い、ほんのりと甘い深みのある味が俺達の胃袋をがっつりと掴んだ。

 

「酒が欲しくなるな」

 

「判る」

 

「これ絶対酒に合うわ」

 

この強い味は良く冷えたエールと一緒に食べるとますます美味く感じるだろうな。

 

「おい、イグヴァルジ。逃げんな」

 

「お前だってそうだろ?」

 

野菜や麺を食べても、内臓には中々フォークが伸びない。それを指摘され、言い返すが全員にお前から食べろと視線で言われ、溜め息を吐いて皿の中で1番肉っぽい内臓にフォークを刺した。

 

「……あぐ」

 

フォークがかなり刺さりにくかったから判っていた事だが、かなり弾力が強い肉だ。歯を跳ね返す、強い弾力を感じる。ぐっぐっと噛み締めていると肉に染みこんでいるソースが口の中に溢れてくる。そうなると麺にも自然にフォークが伸びる。

 

「めちゃくちゃうめえ。少し歯応えが独特だけどよ。すげえ美味いッ!!」

 

麺と一緒に食べるとなおの事うまい。しんなりするまで炒められているキャベツと玉葱、しゃきしゃきとしているもやし。そしてそれらの中に隠れているホルモンの歯を跳ね返す弾力――それら全てが抜群に美味い。

 

「これ、これが美味いな」

 

ちょっとぶよぶよした脂が付いていて見た目は決して良くないんだが、歯応えと口の中で蕩けるような脂の味わいがたまらなく美味い。

 

「おお! ほんとだ。美味い!」

 

「味が濃いなあ。いや、美味いんだけどさ!」

 

鶏肉や牛肉とは違う。濃厚なコッテリとした旨みは最初に怖がっていたのが何だと思うくらいに俺達を魅了した。

 

「これ、これ美味いぞ」

 

「マジで? 見た目やばいぞ?」

 

「いや、美味い。凄く美味いぞ」

 

噛んでも噛んでも噛み切れない強い弾力、しかし噛み締めれば噛み締めるほど味が出て来る。しかし本当にこれはいくらかんでも噛み切れないな小さい粒粒が付いている奇妙な薄い肉。こんなに薄いのに何で噛み切れないんだよと思っていると鉄板の前からカワサキの大声が響いた。

 

「噛み切れない? はは! ホルモンは飲み込んでも大丈夫なんだよ。噛み切れなかったら飲み込めッ!」

 

飲み込んで大丈夫なのだと判り、ぐっと飲み込み野菜と共に麺を頬張る。野菜にも麺にも肉にも良く絡んでいるソースが美味い。それに鉄板で焼かれているから広がってくる香りがますます食欲を誘う。

 

「これなんだろうな? 内臓って言ってたけど」

 

「美味ければいいだろ? 気にするなよ」

 

内臓と聞くと食欲が減るのを感じるが、そんな事がどうでも良い様に思えるくらいに味が良い。

 

(確かにどれかは気になるけどな)

 

どれもこれも大きくて見た目は最悪なのだが、味が最高に良い。見た目と味が比例しないと言うのは驚きなのだが、これが銅貨3枚で食べれれば安い物だ。

 

「やべえ、全然足りない」

 

「お代わり行こうぜ!」

 

「今度は奢らんぞ」

 

最初の1杯は奢ったが、そう何度も奢っていては俺の財布が空っぽになる。ええーっと言う仲間に五月蝿いと一喝し、空の皿を手に持ち再び列に並び始める。

 

「ホルモンだけが欲しいって? おう、良いぞ良いぞ。保存を掛けて、皿に入れようか。ホルモンだけは、銅貨2枚。酒の摘みに良いぞ、注文してくれたら後でホルモン炒めも販売するぞーッ!」

 

酒のつまみとしてホルモンだけも販売すると聞いて、列に並んでいる酒飲み連中から歓声が上がる。良く見ると魔術師組合のラケシルとアインザック組合長も声を上げている。

 

「こりゃ良い、今日は酒盛りだな」

 

「2つ……いや4つだな!」

 

「母ちゃんに小遣いを貰って来ないと!」

 

「ふっ、これは良い手土産だ」

 

昼飯にホルモンうどん、そして夜はちびちびと酒を飲みながらホルモンを食う……。固い乾し肉を良く噛みながら飲むのも悪くないが……こうやって美味いホルモンで酒を飲むのも悪くないな。

 

「ホルモン持ち帰るか!」

 

「賛成! じゃあ俺は酒を買うぜ」

 

「そうか? じゃあ俺もホルモンを買うか」

 

「しゃあッ! 今日も酒盛りだッ!!」

 

満場一致でホルモンうどんをお代わりした後にホルモン炒めを持ち帰る事を決めるのだった。

 

 

 

 

 

薬草集めとモンスターの討伐の依頼を無事に終えて、エ・ランテルに戻ると検問所の所でも判るくらい良い匂いが漂って来ている事に気付いた。

 

「おかえり、今回も無事に戻って来たみたいだなペテル。昇格も近いんじゃないか?」

 

「はは、まだまだです。所で随分と良い匂いですが……何かあったんですか?」

 

検問所の所で手続きをしながら、この香りの事を尋ねる。

 

「おうよ、カワサキさんが帰って来てな。今料理をしてるんだよ、お前達も早く組合に依頼達成したって伝えにいかないと食えなくなるぞ」

 

本人はからかうつもりだったが、私達にはそれこそ死活問題で手続きを終えて、慌てて冒険者組合へと走る。

 

「おいおい、マジかよ。カワサキさんが戻って来てるとか聞いてないぞッ!」

 

「文句を言う暇があったら走るのである!!」

 

「お腹空いたのにぃ! まだ走るの!?」

 

久しぶりのカワサキさんの料理となれば、皆も食べたいと思うのは当然の事。早く依頼達成の報告をしなければならないと思い、広場を抜けるとカワサキさんが鉄板の上を掃除していた。その姿を見て売り切れと思って思わず肩を落としたのだが……。

 

「よう、ペテル、ダイン、ニニャ、チャラ男。久しぶりだな」

 

「なんで俺だけ名前じゃないの!?」

 

「冗談だよ、冗談。元気そうだなルクルット」

 

カワサキさんがルクルットをからかう姿は前と同じで、数ヶ月会っていないだけなのに、もう何年も会っていないような懐かしさを感じた。

 

「もう終わりですか?」

 

「うんやあ、2回目の準備だよ。思ったより盛況で、準備した分が終わったから下拵え中。また直ぐ再開するぜ」

 

まだ料理をしてくれると聞いて、私達は慌てて冒険者組合に走り依頼終了の報告して、カワサキさんの店の前に戻る。

 

「さーて始めるか、ホルモンうどんが出来上がるまで並ぶのは無しだぜ! 順番に渡すから横入りとかは駄目だぞ!」

 

「「「おおおーッ!!」」」

 

カワサキさんがヘラを手にしてそう言うと、あちこちから歓声が響いた。広場に机や椅子を持ってきて、冒険者や薬師、それに検問所の兵士や神官までもが手を叩いて待ってましたという声を上げる。

 

「うほお、すげえ熱量。これはめっちゃ楽しみだな!」

 

「何を食べさせてくれるのか楽しみである!」

 

これだけ盛り上がるのはカワサキさんが料理してくれるというのもあるが、間違いなくその料理が美味いからだろう。出来上がるまで並ぶのは待つようにといわれたので、用意されていた椅子に座り場所取りをする。

 

「ふああ……良い匂い」

 

「これは空きっ腹に響きますねえ」

 

見たことの無い肉――恐らくホルモンという肉なのだろう。それが鉄板の上に置かれて周囲に肉が焼かれる音が響いた。

 

「冷たいエールは如何ですかー」

 

「銅貨3枚だよー」

 

「「「「買ったぁッ!!!」」」」

 

強かな物で、カワサキさんが料理をしている所で酒を売れば売れると踏んだのか、酒売りに来ている酒屋街の店主に思わず苦笑した。

 

「他の店より早くだぞ! 急げ急げ!」

 

「こっちも冷たいエールがありますよー♪」

 

馬車で乗りつけ、美人、美少女の給仕がエールを売り始める。これが普通の店ならばエールに飛びつく。だけど今はカワサキさんの料理がメインなので、エールは片手間という感じでしか売れていない。酒飲みは冒険者に多いが、あくまでカワサキさんのホルモンうどんが仕上がるまでは酒をぐっと我慢している人が非常に多い。

 

「おおお……やっべえ、めっちゃ腹減ったぁッ!!」

 

「本当であるなあ。早く食べたいのである」

 

野菜をたっぷり肉の上に乗せて、茶色いソースを掛けて炒めるカワサキさん。ヘラが動くたびに良い香りが広がり、私達だけではなく、座っている全員が腰を浮かせ、まだかまだかとそわそわと待っている。

 

「ほいっと」

 

炒められた野菜と肉の上に太くて白い麺が乗せられ、また茶色いソースが掛けられる。ソースの焦げる音と焼かれた事で広がる香りに口の中に唾が溜まって行くのがわかる。

 

「はい、出来たよー! 喧嘩せずに並んでくれよーッ!」

 

カワサキさんのその呼び声に全員が弾かれたように立ち上がり並び始める。流石に高位の冒険者の動きには勝てなかったが、それでも列の中ほどに並ぶ事は出来た。

 

「1人前銅貨3枚だよ。用意しておいてくれよー」

 

なるほど、先に値段を用意しておいて直ぐ料理と交換出来るようにすると言う訳かと判り、私達はそれぞれの財布から銅貨を3枚取り出して自分達の番が来るのを今か今かとそわそわと待ち続けるのだった……。

 

 

メニュー109 うな重とうな丼 へ続く

 

 




ホルモンうどんの作られている香りって言うのはある意味暴力だと思う(暴論)しかも、野菜もホルモンもたっぷりなんて美味いに決まっている! という事で今回はホルモンうどんで無差別テロを決行しました。そして次回は黒狼@紅蓮団様のリクエストで「うな重」。エ・ランテルの住人に鰻が焼かれる香りで更なる飯テロを仕掛けて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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