生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー109 うな重とうな丼

メニュー109 うな重とうな丼

 

ホルモンうどんが想定以上に好評で俺の分が無くなってしまったので、俺は昼食を黄金の輝き亭に食べに来ていた。注文したのはカツ丼と味噌汁の2品だ。

 

「どうだろうか?」

 

「いや、正直良くここまでレシピだけで作ったと思うぜ」

 

竜王国に旅立つ前にレシピを預けて行った黄金の輝き亭の料理長はやはり腕の良い料理人だった。この世界にはないレシピを見て、試行錯誤をしたのが良く伝わってくる。

 

「世辞は良い。正直に教えてくれ、完成度はどれくらいだ?」

 

「……んー俺のカツ丼と比べたら半分くらいじゃないか?」

 

豚カツは豚バラを重ねたミルフィーユ――柔らかさとジューシーさを両立させている。これなら安い肉でも美味く仕上げれるし、工夫として中に大葉に似たハーブを挟んであるので見た目より油っぽくないし、重くない。米はふんわりと盛られているので出汁も良く染みている。それに対して卵は半熟に仕上げれていないのがやや減点要素ではあるが、それは好みの問題だ。カツ丼の卵は半熟が苦手という人も居るので、別に固くなっていても問題はないし、緑黄色野菜を使って彩りも鮮やかにしているが……。

 

(これはカツ丼じゃねえな)

 

カツ丼にしては小奇麗に纏まりすぎている。カツ丼って言うもんはもっとこう――下品で良い。山盛りの米に分厚い豚カツにたっぷりの煮汁と卵でがっつりと食べれるのがベストだと俺は思っている。しかしなんと言うか、黄金の輝き亭のカツ丼はカツ丼というよりもカツ丼風の別物という感じが強かった。

 

「やはり卵か?」

 

「うんや、出汁だな。豚カツも柔らかくて、さくさくで美味いし、卵も半熟じゃないのが好きって言う人もいる。だけど一番は出汁だな、味が弱い」

 

出汁の取り方と鰹節、昆布を預けて行ったが、やはり文化の違いだろう。出汁が随分薄い……そのせいで醤油の辛さと砂糖の甘さだけが際立ってしまっている。それにどうも鰹節と昆布以外の味もしているのが気になる。

 

「出汁……出汁か。ブイヨンとは違うのだな」

 

そういうことかと納得した。この世界の料理は全体的に中途半端だが、強いて言えばフレンチに近い洋式の料理が多い。後は中途半端にプレイヤーから伝えられたであろう和食・洋食・中華モドキで溢れ返っている。出汁=ブイヨンと認識をしてしまったのだろう、この肉ややけに強い香味野菜の香りでなんだろうと思ったが、まさかまさかのブイヨン風にアレンジしているとは思っていなかった。

 

「南方特有の文化だしな。レシピだけじゃ判らないのは当然だ。詫びもかねて出汁の取り方を1回やって見せるよ」

 

「それは助かる。厨房に来てくれ」

 

料理を教えた側の責任として俺は料理長と共に厨房に向かい、正しい出汁の取り方と使い方をガウス料理長に実演しながら説明する事にした。

 

「勉強になった。料理の代金は気にしないでくれ」

 

「いやそれは悪い」

 

「いいや、代金はいい。南方の料理を教わっただけで十分に価値がある。むしろこちらが払わないといけないと思っている位だ。だから気にしないでくれ」

 

代金を受け取って貰えず、それ所か出汁の取り方と使い方を教わったという事で金を逆に払いそうな勢いの料理長を見て、そういう事ならと代金を支払わず俺は黄金の輝き亭を後にした。

 

「なんか悪い事をしたような気分だなあ……」

 

なんか食い逃げをしたような居心地の悪さを感じながら店へと引き返し、明日の昼間に出す料理の準備をする為に準備中の立て看板を出してナザリックへと帰る事にするのだった……。

 

 

 

 

 

カワサキさんは俺が王国、帝国、竜王国、ビーストマンの4ヵ国同盟の事で頭を悩ませている時、エ・ランテルの修復された自分の店で料理をしていた。らしいと言えばらしいのだが、1度放火された事で店の警護が凄い事になっている事をカワサキさんは知っているのだろうか? シャドウデーモン、エイトエッジアサシンが合計で3桁エ・ランテルに詰めているのだが……それを教えるかどうかは凄く悩む事になるのだが、それよりも今俺を悩ませているのは帝国と王国で建築途中の魔法学校とドワーフの件だった。

 

「~という風に考えておりますが、アインズ様。こちらの計画でよろしいでしょうか?」

 

「うむ。良く考えられているが、少々講師のレベルが高すぎるな。もう少し程度の低いシモベで構わない、ああ。デイバーノックは講師側に編成してやれ、未熟な相手に教える事でデイバーノック自身のレベル上げにも繋がるだろうからな」

 

アルベドとデミウルゴスの講師の選抜ではこの世界の相手にはレベルが高すぎる。もっとレベルの低い魔法職のシモベにするように命じるのと同時に、デイバーノックを講師陣に加えることで、奴自身の魔法の知識を深める事にも繋がる。

 

「アインズ様。デイバーノックの魔法の知識は余りにも浅いですが……それでもよろしいのですか?」

 

「アインズ様のお求めになるレベルには遠く及びません。デイバーノックの代わりのシモベは多数おりますが、本当にデイバーノックでよろしいのでしょうか?」

 

こうやってアルベドとデミウルゴスが自分の意見を口にしてくれるのは本当にありがたい。一方的に自分の意見を押し通すだけではなく、見解が大きく広がるからな。

 

「私は確かに強い戦力を求めている。しかしだ。この世界の人間にそのレベルを求めるのは酷というものだ」

 

突出戦力は確かに欲しい。特に言えば階層守護者に代わるレベルの戦力がいればなお良い。だがそのレベルになるまでの時間を考えれば、その間にスレインが戦力を整えるか、それとも再び洗脳されてスレインの手駒が増えることに繋がりかねない。

 

「今から始まるのは戦争だ。戦争に必要なのは安定した戦力、そして適度なブラフと戦力分散だ」

 

一点突破もありだろう。しかしだ、それだけではどこから覆されるか判らない。この状況はギルド同士の大型イベントバトルで経験している

 

(攻め込まれる側だがな)

 

あの時はアインズ・ウール・ゴウンを倒す為に何十というギルドが協力し合った。その時と逆で考えればいい、俺達がやられて嫌だったのは多面的な戦力の展開だ。簡単に退ける事が出来てもPOP沸きのモンスターに加えて金貨召喚の傭兵モンスターまでやられては主力をそちらに向ける必要が出て来る。そうなってくると別の所から本陣に切り込まれる可能性が余りにも高くなる。

 

(正直な所、ランポッサ三世達には悪いが目晦ましになってもらう必要がある)

 

アルベド達を失う訳には行かない以上、アイテムや蘇生呪文で復活させられる現地人を戦力の中心に据えた方が俺達の戦力が削られることも無く、そして相手の出方を見てそれにメタを張った装備を整えて相手を封殺する事も出来る。リスクと被害は最小にする為には囮が必要だ。そしてその囮の数が多ければ、相手は先に切り札を切ってくる。それを封殺することで相手に動揺を与え、アドバンテージを毟り取って行けば良い。

 

「なるほど、適度な捨て駒を作ると言う訳ですね」

 

「その言い方は良くないねアルベド。私達が有利に戦えるように協力してくれる同志だ」

 

「物は言い様という事ですね。アインズ様」

 

物凄い悪役ムーブしていると思うけど、相手の出方を調べる為に、そして俺達に被害が出ないように他の国には貧乏くじを引いて貰おう。確かに友人ではある、良い関係を築きたいと思ってはいるが、それはそれ、これはこれだ。俺にとって最も優先するべき物はカワサキさんの安全確保であり、その次にギルメンの皆の作ったNPCを守る事。彼らに被害が出ないようにする為ならば、俺はどんな非道な手も使うだろう……と以前の俺ならば思っていただろうが、今は少しだけ違う。

 

「しかし、すぐに死なれても目覚めが悪い。適度な装備を取り繕っておいてくれ」

 

それでも、現地人にも死なれては目覚めが悪い。囮であるにはあるが、すぐに死なない程度の装備くらいは貸し与えても良いだろうと思い、アルベドとデミウルゴスに装備の厳選を行なうように命じるのだった……。

 

 

 

 

 

 

カワサキに助っ人を頼まれて、エ・ランテルのカワサキの食堂の開店の準備を手伝っていたんだけど……。

 

「これ綺麗だね。職人技だね」

 

外は黒く、そして中は紅い。綺麗な入れ物の中を拭きながらカワサキにそう言うとカワサキは苦笑する。

 

「……まぁ、職人と言えば職人かな? 大量生産の匠」

 

私の問いかけに何とも言えない返事を返したカワサキはどんどんヌルを捌いている。たまーに、流通している蛇のような謎の生き物がヌルだ。表面はぬるぬるしていて、太くて黒いことから。貴族とかには精力増強とか言われて、焦げ焦げになるまで焼いて磨り潰して薬にするのは知っているが、あのヌルの中があんなに白くて綺麗なんて初めて知った。

 

「でもさ、それ本当に美味しいの?」

 

「美味いぞ。俺達の方だと高級品さ」

 

「ふーん……」

 

プレイヤーの間では超がつく高級品と聞いても、ヌル自体薬という印象が強くて、どうしても美味しそうとは思えなかった。リザードマンの所から持ってきた瓶と大量に捕獲されていたヌル……正直販売して大丈夫かなあというのが私の感想だった。

 

「本当にこの値段で良いの?」

 

「おう、頼むぞ」

 

丼で銀貨2枚

 

うな重で銀貨4枚

 

それぞれに銅貨1枚で味噌汁と漬物が付いてくる。そして飯の量を大盛りにする時は更に銅貨1枚……っと私から見てもかなり強気すぎる値段設定だし、カワサキがヌルを捌いているのを見て、嘘だろって顔をして、目の前を通り過ぎていく通行人を見て今回は失敗なんじゃないかなと思った。

 

(まぁ偶にはそういうときもあるよね)

 

カワサキだって流行とか、好かれていない食材で料理をする時もあるだろう。仮に下拵えしたのが残っても従属神様なら喜んで食べてくれるだろうし、私もカワサキ達が言う高級食材ならば、苦手でも食べてみようかなと思う。

 

「良し、準備完了。始めるか」

 

黒い木――確か炭と言うのを並べて、金串を刺されたヌルの身が焼かれ始めた。身の面を下にし炭から上がる炎でゆっくりと焼かれるヌル。

 

(うわ。すご)

 

ヌルの身から滴り落ちた脂が火の上に落ちてバチバチと音を立てる。その音の凄まじさに通行人が足を止めるが、ヌルかと呟いて歩いていってしまう。

 

「やっぱり難しいんじゃない?」

 

「大丈夫。これからだ」

 

身の部分を焼き終え、皮を今度は下にして焼き始めるカワサキ。すると身側よりも凄まじいバチバチという音が響き始める……その音自体は悪くないんだけど、まだ昼食の時間には早いから通り過ぎてしまうのか、それともヌルだから通り過ぎてしまうのか……どうにもその判断が私にはつかなかった。多分圧倒的に後者だとは思うんだけど、気持ちとしては前者の方が嬉しいんだけど……。

 

「本当に大丈夫?」

 

「大丈夫だよ。うまくやれば鰻の集客力は半端じゃないんだ。今は準備段階だ」

 

焼きながらヒレとかを取り除いて食べやすいようにしているんだけど……本当に大丈夫かなと思いながらカワサキの作業を見つめていると、カワサキが足元に用意していた瓶の蓋を開けた。

 

「それって醤油?」

 

「違う。クルシュから借りてきたタレだ。リザードマン達に作り方を教えておいたから何回も継ぎ足しされて、良い仕上がりなのさ」

 

カワサキが満足そうだから良いんだけど、醤油と何処が違うのかが私には全然判らなかった。だけどそれはカワサキが焼いたヌルを瓶の中に入れた瞬間に判った。

 

「ふわあ……」

 

「良い匂いだろ?」

 

タレを付けられたヌルが炭の上に置かれた瞬間。何とも言えない食欲を誘う香りが辺り一面に広がったのだ。その香りは凄まじく、ヌルかと言って歩き去ろうとした冒険者や交代の兵士達でさえも足を止めた。

 

(いやあ、これは卑怯だわ)

 

タレが炭の上に落ちてじゅわっと言う音と共に湯気が上がる。そしてそれをカワサキが団扇で扇ぐ、ヌルが焼かれる音とタレが焦げる香り……その香りを嗅ぐだけで唾が沸いてくるのが判る。

 

「なぁ、カワサキさんよ。ヌルは美味いかい?」

 

「美味いとも、俺が作る料理は何だって美味いよ、どんな食材だって美味くして見せる」

 

ヌルという事で通り過ぎようと思った冒険者だが、その香りに魅了されたのか悩む素振りを見せてから振り返りカワサキにそう声を掛けた。そして自信満々で言うカワサキの言葉を聞いて、銀貨を2枚と銅貨1枚を取り出した。

 

「うな丼。味噌汁と漬物付き1つ」

 

「まいど、クレマンティーヌ。飯をよそってくれ」

 

「はーい!」

 

注文が入ったので丼に白米を盛り付けて、小皿にキュウリと大根の漬物を3つずつ盛り付け、味噌汁を御椀に盛り付ける。

 

「はい、カワサキ」

 

「おう」

 

ヌルがまな板の上に乗せられ包丁で2つに豪快に切り分けられ、飯の上に乗せられる。見た目がとんでもなく悪いのだが、その香りのせいでご馳走に見えてくるのか、冒険者が随分と葛藤しているのが見える。そしてたっぷりのタレがその上から掛けられ、カワサキが冒険者に御盆ごと差し出す。それを受け取った冒険者は広場に設置されていた机に座る。

 

「大丈夫かな?」

 

「大丈夫だよ。間違いない」

 

焼きあがったヌルをどんどん串から外し、新しいヌルに串を刺しているカワサキ。正直1回焼いていた分でも残るかもしれないと思っていたのに2回目を焼く準備をして大丈夫かな? と思ってみているとうな丼を食べていた冒険者の美味いっと言う声が広場に広がる。遠目で見ていた冒険者や組合の従業員、そして兵士達がその声を聞いてぞろぞろと集まってくる。

 

「な? 大丈夫だろ?」

 

「大丈夫なのはいいけどさ、これ大丈夫? 2人で大丈夫?」

 

2人でなんとかなるの? と尋ねるとカワサキはそっと目を逸らした。うん、絶対これ駄目な奴だと私は確信し、腕捲りをしてしゃもじをその手に握り締めるのと、注文の声が響くのは殆ど同じタイミングなのだった……。

 

 

 

 

俺は馬を馬小屋に預け、久しぶりのエ・ランテルの街を歩いていた。その理由はレエブン候が昼食の弁当を俺に受け取ってくるよう命じたからだ。

 

「カワサキがエ・ランテルで食堂を再開したそうだ。持ち帰りを頼んできてくれ」

 

突然呼び出され、金貨3枚と持ち帰りを頼むと言われた俺の気持ちを少しは考えて欲しい。

 

(元・オリハルコン級に頼むことじゃねえぞ……)

 

聖騎士であり、デビルスレイヤーとまで呼ばれたこの俺「ボリス・アクセルソン」も落ちた物だなと思わず苦笑……はしなかった。なんせ、あのカワサキ殿が食堂を再開しているのだ。それをレエブン候の仕事という大義名分を抱いて食べに来れるのだ。その事を考えれば使いぱしりだったとしても我慢出来ると言うものだ。

 

「くあ、空きっ腹に染みるなあ」

 

広場から漂ってくる食欲を刺激する香ばしい香りと何かが焼かれる音。そして美味いと言う声を聞きながら、俺は早足で広場に足を向けるのだった。

 

「はい、うな丼2つと漬物と味噌汁ねッ!」

 

「うな重ね。まいど!」

 

クレマンティーヌと2人で慌しく接客をしているカワサキ殿。立てられている看板にはうな丼銀貨2枚、うな重銀貨4枚。それに銅貨1枚で漬物と味噌汁がセットとカワサキ殿の店にしては随分と高い値段設定だ。だがその値段でもあれだけ繁盛するって事は、相当な美食だと判断する。

 

「お? ボリスさんか。久しぶりだなあ」

 

「おう、お前も元気そうだな。えっと、持ち帰りで料理を3つ頼む」

 

「うな重になるけど大丈夫か?」

 

「全然大丈夫だ。ところで、うな丼とうな重はどう違うんだ?」

 

レエブン候の家族の分の持ち帰りを頼みながら、うな重とうな丼はどう違うんだ? と尋ねる。

 

「うな丼はヌルを半分使って、飯の上に乗せてる。うな重は米と米の間に1匹分、更にその上にもう1匹分乗せてるぜ」

 

ヌルは精力剤として一部の貴族に人気だ。だがこうやって食い物にしても美味いって言うのは初めて知ったな。

 

「うな丼1つ。漬物と味噌汁付き」

 

ヌル2匹分というのは食べてみて美味かったら注文しようと思い、まずはうな丼を注文する。すぐ用意されたうな丼を受け取り、空いている席に腰掛ける。

 

(見た目は……あれだ。うん)

 

冒険者時代に作った蛇を開いて焼いた奴。それと大差ないな……違うのは香りと香ばしく焼き上げられている所か。机の上のスプーンを握り、ヌルを小さく切って持ち上げた。

 

(へえ、こんな風なのか)

 

タレの染みていない部分は白くてふわふわしている。ヌルというと黒い体表の蛇みたいな生き物だが、中は白いんだなと感心しながらヌルを口に運んだ。

 

「ッ!」

 

言葉も無いと言うのはこの事だろう。表面はサクリと噛み応えがあるのだが、中はふんわりとしていて口の中で溶けるようだ。

 

「美味いなッ! こいつはいいッ!」

 

甘辛いタレが口の中に広がり、米を食べたくさせる。そして米を食べるとヌルが食べたくなると絶妙な味付け、しかもヌルには小骨1つ無く、皮はサクリとしていて名前の由来にもなっている滑りは一切無い。しかし何よりも俺が驚いたのはその脂だ。

 

(信じられん。こんなのは初めてだ)

 

たっぷりと脂が乗っているのだが、それは決してくどくない。普通これだけ脂が乗っていれば肉であれ魚であれ、うんざりする物だが、さっぱりと滑らかな口当たりだ。丼を持ち上げて、スプーンでかき込むと焼かれたヌルの香ばしい香りが鼻の中を突き抜けていく……ヌルと言う事で正直怖いという気持ちはあったが、それは間違いだった。これは間違いなく、1級品のご馳走だ。

 

「持ち帰りでうな重2つ! 大盛りでッ!」

 

「俺も持ち帰り大盛り1つ!」

 

「あいよー、ちょっと待っててくれよ」

 

ヌルの想像外の美味さに持ち帰りの飯の量を増やしてくれという声があちこちから上がる。しかしこの美味さなら納得だし、冒険者ならこれくらいは楽に食べ切るだろう。久しぶりに飲む味噌汁を飲み干し、漬物を齧りながら立ち上がる。

 

「うな重1つ、ここで食べて行くぞ! 後持ち帰りでうな重を5つ! 全部大盛りだ!」

 

「まいどッ!」

 

自腹を切ってもいい、ロックマイヤー達にも持ち帰ってやろうと思い。自分の分のうな重を頼むと同時に、ロックマイヤー達の分のうな重も追加注文を決めたのだが……。

 

「どうやって持ち帰るか」

 

計8つに及ぶうな重の入った四角の器を見て、俺は困り果て、余りよろしくないと判っていたがアインザックに頼んで馬車を貸して貰うことにするのだった……。

 

 

 

 

 

 

カワサキ殿からの昼食の差し入れ。それは余り馴染みの無いヌルを使った料理だった……最初は誰もなかなか手を伸ばさなかったが、ナザミ殿が食べ始めてから全員が差し入れ――うな重に舌鼓を打っていた。

 

「美味い! いやあ、ヌルがこんなに美味いなんて知らなかったな」

 

「俺は初めて見る食材だな。しかしこれほど脂の乗った魚? 魚だよな? それを食べたのは初めてだ」

 

スレインと戦争になるのは最早回避出来ない。そのために4ヵ国同盟軍の戦力向上と技術の交流という事で、王国の訓練場には帝国、竜王国、そしてビーストマンの3ヶ国の兵士が国の垣根を越えて己の武を磨く事に務めていた。

 

「ヌルなぁ、俺は精力剤って言うので知ってたけど、これこんなに美味いなんて知らなかった」

 

「確かに偶に聞きますね」

 

リザードマンの住む湖のヌルという生き物が精力剤になると言う話しは貴族の間ではそれなりに有名な話だ。ただそれは黒焦げになるまで焼いて、磨り潰した物で酷くにがいという噂だったが、これは全くの別物だった。

 

「精力剤か。まぁ俺には関係の無い話だ。美味ければいい、それだけだ」

 

全く持ってその通り。大事なのは美味いと言うことだ、不味い飯を食うほど辛い物はない。

 

(おや?)

 

四角の弁当箱にぎっしり詰まっている米をヌル2切れで食べるのは厳しいなと思っていたその時だった。米の下にまた焼かれたヌルが姿を見せたのだ。

 

「へえ? 中にもヌルが入ってるのか」

 

「これは助かる。流石に二切れで食べるには米の量が多かった」

 

スプーンで米と米の間に挟まれていたヌルを米と一緒に食べた。その瞬間、全員が無言で入れ物を顔に近づけてスプーンで勢い良くかきこみ始めた。

 

「これは美味い! たまらんな!」

 

「米の間に挟んでいるだけでこうも違うか!」

 

「美味い! 最高だなッ!」

 

米と米の間に挟まれているヌルは米の上に置かれていたヌルとは異なり、口に入れた瞬間にまるで雪のように溶けた。口の中でタレと脂になったと言っても良いだろう。上に置かれているヌルと同じなのに、全く異なる食感と味わいに全員が魅了されたのだが……。

 

「「「「たりねえ……」」」」」

 

満腹になるには程遠い。しかしカワサキ殿の店に追加を頼む訳には……しかし、まだ食べたいと葛藤していると新しく馬車が修練場にやってきた。

 

「お代わり持ってきました! 1人3つまで食べれるそうですよ!」

 

カワサキ殿の連絡で弁当を取りに行った若い兵士の1人3個食べれるという報告に、修練場にいる全員が歓声を上げるのだった……。

 

 

 

メニュー110 ラム・チョップへ続く

 

 




ちょっと暫く私のリハビリを続けるので、おまけはなしです。申し訳ない、1回消えてやる気が無くなって、その間にこうなんと言うか小説の方向性を見失ったといいますか、料理の描写が今一に感じるので少しここで感覚を取り戻して行きたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

なお、活動報告でお昼ご飯に食べたい料理のリクエストを募集しておりますので、そちらにも顔を出していただけると嬉しいです。

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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  • 間違っていない

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