メニュー117 保存食作り その1
鍋の中に湯を沸かし、昨日作ったジャーキーを入れて煮込む。ジャーキーがしんなりして、お湯にジャーキーに染みこんでいる調味料が溶け出した段階で、塩を軽く振って味見をして見る。
「……可も無く、不可も無く……って所か」
味は悪くは無いが全体的に薄い。にんにく、しょうが、醤油で濃い目に味付けをしてあるので十分に味がある。それにジャーキーを出汁取りに使っているので味自体はそう悪くないし、お湯で煮るだけでそれなりのレベルのスープが飲めるって言う点は十分に妥協点だ。
「少なくとも、この段階で竜王国のスープよりは美味い」
野菜を入れてぐずぐずになるまで煮た出汁? なにそれ? 美味しいの? って言うレベルのスープよりかは上だ。ただそれは底辺を知っているからの妥協点で俺としては到底納得出来る物ではない。
「うーん……干し野菜でも作ってみるか」
要は持ち運びが出来て、それなりの味ならば良いのだ。ただ、栄養価や栄養バランスも妥協出来ないって所なら、簡単に改善出来る所で改善すれば良い。
「よっと」
じゃがいもと人参は皮を剥いて乱切りにし、玉葱とキャベツはくし切りにする。
「……塩振っておくか」
塩を入れすぎて辛いとか言って騒いでいる兵士が容易に想像出来たので、ジャーキーの味と考えて適量の塩を振って、ザルの上に広げて日当たりの良い場所に野菜を並べて、その上から虫がつかないようにカバーを被せる。
「……カワサキ様、何をしているんですか?」
「ん? シズか? 干し野菜を作ってるんだよ」
「……干し野菜ですか?」
「そうそう、持ち運びが楽で簡単に作れるスープの材料って事だな」
肉だけでは栄養バランスが非常に偏る……栄養価を加味した上で作りやすさと味を両立させなければならない。
「お、ついでだからドライフルーツも作ってみるか」
どうせ干し野菜を作るのだから、ついでにドライフルーツも作っておこう。お手軽で作れる保存食と言えばドライフルーツだ、ドライフルーツを作ってフルーツバーを作れば携帯できて、保存も容易。そして糖分も補給できると携帯食と言えばこれっと言われる物も作れる。そうと決まればドライフルーツは何が良いだろうか?
「バナナ、林檎、キウイ、マンゴー……ブルーベリー……」
ぱっと考えただけでもドライフルーツに良く合う果物というのは結構思い浮かぶ物だ。シズに悪いなと声を掛け、俺は再び厨房に足を向けるのだった……。
「……カワサキ様でもあんなにお考えになるんだ」
残されたシズは料理の神様であるカワサキでも、人の話を聞かないほどに思い悩み。様々工夫をしているのだと知り、自分はまだまだ工夫も、料理を試す事もしていないと思い、もっと勉強をしなければと考えその場を後にするのだった……。
カルネ村に移住して貰ったンフィーレアとリィジーの所を久しぶりに訪れたのだが、恐ろしいほどの成果を上げていた。
「アインズ様。今の所ではこれが限界ですじゃ」
恭しく差し出されたポーションは薄い、本当に薄いが赤味を帯びたピンク色をしていた。
「素晴らしい、私の求めるポーションに限りなく近いと言っても良いぞ」
もっと青みを帯びていると思いきや、これは限りなく完成に近いのではないか? この世界でもユグドラシル産のポーションが生成できる日も近いかもしれない。
「これはどのようにして作ったのだ? 今まで試作品と出されていた物は青紫色だったと記憶しているのだが」
1ヶ月ほど前のレポートでは青紫色だった。それが一気にピンク色にまで進化したことは素晴らしいと思うのと同時にどうやって作ったのか? という興味が沸いた。
「は、はい、そのシズ様とエントマ様のお蔭なんです」
「シズとエントマ? 彼女達は錬金術とかの知識はない筈だけれど……」
シズとエントマのお蔭というンフィーレアにアルベドが不思議そうに首を傾げながらそう呟いた。俺も同じ意見だ、シズとエントマには薬学系の知識もスキルもない、人化をして料理を習得しているようだが……薬系のスキルは覚えれていない筈だ。
「昼食をお2人が振舞ってくれる時があるんですが、その時の調理を見ている時に閃いたんです。ね、お婆ちゃん」
「うむ。スープを作る時とかに複数のスープを作り、それを混ぜ合わせるのを見まして、薬草に錬金術を使い、作った溶液、鉱物に錬金術を作った溶液、そして動物などの材料を作った溶液の3種類を作りまして、それをそれぞれの効果を損ねないレベルで混ぜ合わせ作った溶液に薬草と鉱物を使い作り上げた物がそちらになります」
料理で溶液を作り出すアイデアを考え出すか……これは正しく天才の発想と言わざるを得ない。しかもその製法は限りなく、ユグドラシルのポーションの生成方法に近いと言っても良い。
「でもアインズ様が与えた材料のお蔭ではないかしら?」
アルベドが材料が良いから作れたのではないか? と言うとンフィーレアとリィジーは小さく笑った。
「ご安心くだされ、お預かりした材料は一切使っておりません」
「はい、僕達で入手出来る材料だけで作り上げました」
俺が与えたユグドラシルの材料を一切使わず。それでここまでの物を作り上げた……その言葉に俺は思わず笑い出した。
「素晴らしい! 期待以上だ。ンフィーレア、リィジーッ! この世界の材料でここまで作ったのだ。私の求めるポーションは7割は完成したと言っても良いだろう!」
この世界の材料でここまで仕上げたのだ。ユグドラシルの材料を使えば、最早赤いポーションは完成したも同然だ。
「褒美をとらそう、今度私がカルネ村を訪れるまでに何が欲しいか考えておくと良い。私の用意出来る物になるが、望み通りの品を用意しよう」
これからの戦いに性能の良いポーションは必要不可欠だ。この功績は賞賛に値する、ユグドラシルのアイテムを与える事になっても良いと思うほどに俺は最高の気分だった。しかしだ、リィジーは眉を細めていた。そしてそれをアルベドは見逃さなかった。
「リィジー、アインズ様のお言葉に何か不服かしら?」
「い、いえ、そういうことでは……ただ」
「ただ、何かしら?」
アルベドの鋭い視線に冷や汗を流しながらリィジーは自分の手を俺に向けた。
「私には最早、さほど時間はありませぬ。褒美をくれるというのならば、ンフィーレアにお願いしたいのです」
そうか、リィジーは高齢だ。恐らく赤いポーションが完成するまで生きる事が出来ないと既に覚悟しているのだろう……。
「リィジー。私から1つ提案がある」
「なんでございましょうか?」
星に願いをと強欲と無欲を平行利用し願いをかなえると言う物で、アルベド、パンドラ、デミウルゴスの3人が共通し、そして人間が最も喜ぶであろう1つの方法には俺も共感が出来た。
「若返るつもりはないか? 無論これは実験段階で今1人に試そうかという物だが、その者が成功したらお前も若返ってみるつもりはないか?」
若返るの言葉にリィジーとンフィーレアは信じられないと言わんばかりに目を見開いた。
「ははは、まさかそこまでの奇跡が出来るとは驚きですじゃ……お願い出来ますかな?」
「うむ、その願い聞き届けた。良い結果が出るのを待っているが良い、ではな。ンフィーレア、リィジー息災でな。アルベド、行くぞ」
アルベドを伴って2人の家を出る。今はカイレで実験中の若返りだが、恐らく完成は近い。それにリィジーも若返らせるだけの価値がある。
「ナザリックで作戦会議だ。これから忙しくなるぞ」
「はい、アインズ様」
リィジーのポーションが完成に近いとなると現地人の回復量も上がる。そうなると無理な行軍も可能になるし、それに何よりもポーションを作れる相手、もしくはポーションを大量に貯蔵している相手と言う事で現地人と別の場所にいるかもしれないというミスリードも出来る。今回の計画しているアゼルリシア山脈への行軍も俺達が混ざっていると思わせない事も出来る……たった1つの情報で全てを乱す事が出来る。これからは騙しあい、そしてこちらにはこれだけの道具があると思わせる情報戦になるだろう。その中での赤色に近いポーションというのは回復の面だけではなく、相手を困惑させる情報戦の武器にもなる事を俺は確信するのだった……。
半日ほど干して干し野菜とドライフルーツが出来た。袋の中にビーフジャーキーと干し野菜を入れてしっかりと袋詰めする。
「よし、これで良いはずだ」
これをお湯の中に入れて茹でるだけなのだ、どんな馬鹿だって失敗する訳がない。むしろ、これで失敗するとか不器用を極めすぎだろって言うレベルだ。
「……失敗する可能性があるとすればお湯の量か」
お湯が多すぎれば失敗する可能性はあるが、そうなると味の濃い・薄いくらいのレベルなので、そこら辺は自分達で塩・胡椒で微調整してくれれば良いだろう。出来る範囲で俺は知恵を振り絞った。ある程度は自分達で何とかしてもらう事としよう、と言うか流石の俺もそこまでは面倒見切れない。王様連中に渡す前に、誰かに渡して実験してみるのも良いかもしれないか……。
「さてと次だ」
塩味の次はやっぱり甘みだろう。保存出来て、色々出来るとなればやっぱりフルーツバーだ。まずは薄力粉と全粒粉をふるってボウルの中に入れる。
「胡桃を使うのも面白いかもな。栄養価も高いし」
ドライフルーツを荒めに刻んでいる所で胡桃を使うのも面白いと思い、砕いてある胡桃を取り出してドライフルーツとざっと混ぜる。
「次はバターと」
ボウルの中にバターを入れて泡たて器で滑らかになるまで混ぜる。少し固いので、根気を入れて混ぜクリーム状になったら砂糖を加えて、今度は白っぽくなるまで混ぜる。
「良し、こんな感じだな」
全体的に白っぽくなったら少量の塩を加えて味を調えて、振るっておいた薄力粉、全粒粉、そして刻んだドライフルーツを入れて全体をさっくりと混ぜ合わせる。
「後は蜂蜜と卵」
このままだと砂糖だけの甘みになるので、蜂蜜で自然な甘さと卵で更に栄養価をプラスして、全体を良く混ぜ合わせる。そしたら生地に濡れ布巾を被せて、少し生地を休ませる。
「良し今のうちだな」
即席スープの入った袋を2つほど手に取り、ヘッケラン達の家に向かう。
「ヘッケランいるかー?」
扉の向こう側からどたどたという音が聞こえ、ヘッケランが肩で息をしながら姿を見せた。
「はぁ……はぁ……な、なんでしょうか?」
「おう。悪いな。ちょっとこれを味見して欲しくてな」
ビーフジャーキーと干し野菜を入れた袋を見せるとヘッケランは不思議そうな顔をした。
「なんすか? これ」
「これか、これは即席スープだな。試しに作ってみたから味見してみてくれ」
そう言いながらヘッケランの家の中に足を踏み入れる。
「えっと、これはどうすれば?」
「鍋にお湯を沸かして、袋の中を煮るだけで良い。簡単だろ?」
「それは確かに簡単ですね。俺でも作れそうだ」
ヘッケランは小さくそう笑うと鍋にお湯を沸かし、その中にビーフジャーキーと干し野菜を入れ興味深そうに鍋の中を見つめている。
「お、色がついてきた!」
「ジャーキーを濃い目に味をつけてあるんだ。煮るとスープになるように」
「なるほど、それはありがたいですね。細かく具材を入れるとかしなくて良いとか楽で良いですよ。これはどれくらい煮れば?」
……そっか、時間の単位は考えてなかったな。とは言え15分とか言っても判らないだろうし……細かく切ってあるから火の通りは悪く無いだろうし、少し考えてからじゃがいもを指差した。
「フォークがスッとじゃがいもに入れば頃合だ」
じゃがいもを目安にするのが1番良いだろうというとヘッケランはフォークを手にして、じゃがいもを時折突き始める。
「お、これくらいですか?」
「そうそう。後は皿に移して飲んでくれれば良い」
皿皿と言いながらヘッケランは食器棚から皿を取り出して、鍋の中のスープを移す。
「じゃあ、いただきます」
スプーンでほんのり黄金色のスープを掬い口にしたヘッケランは目を開いた。
「どうだ? 美味いか?」
正直俺も初の試みなので不安要素はある。美味くて目を開いたのか、不味くて目を開いたのか、その判断が付かなかった。
「いや、これめちゃくちゃ美味いですよ! 煮るだけで作れるって言うのも最高ですね!」
ヘッケランの絶賛の言葉に安堵し、小さく息を吐いた。正直無理ゲー過ぎるだろうと思っていたので、美味いと言われて心底安堵した。
「そいつは良かった。味見してくれて助かる、これ、まだ少し置いておくから使ってくれ」
「すんません、ありがとうございます」
ぺこぺこ頭を下げ、玄関まで見送ってくれたヘッケランに手を振り、厨房に帰っていると珍しい人を見かけた。
「ガゼフさん!」
「おお! カワサキ殿。お久しぶりですな!」
ガゼフさんがカルネ村に来ていた。だが軽装とは言え、鎧を装備しているので何かあったのかと心配になった。
「別に何かあった訳ではないですよ。鎧を着て、馬に速駆させる訓練です。カルネ村の近くまで来たのでどんな様子かと見に来たのです。ゴウン殿からカワサキ殿が無理難題にカルネ村で頭を抱えているとお聞きしたので」
ああ、俺の保存食作りが無理難題だから心配して来てくれたのか。
「まだまだ試作段階だけど1つは出来た。味見してみるかい?」
俺がそう尋ねるとガゼフさんは残念そうに首を振った。
「いや、日暮れまでにエ・ランテルに戻る訓練なので時間が無いのです」
「そうか、じゃあ、作り方を教えるからこれ持っていって、バジウッド達と食べてくれよ。ちょっと待っててくれ、すぐ持って来るから」
後10袋あるので慌てて厨房に走り、小分けした即席スープの袋を持ってくる。
「これは? 干し肉ですか?」
「まぁ干し肉の仲間だな、後野菜を味付けして干した奴。これをお湯の中に入れて煮るだけで良い、煮る目安はじゃがいもが柔らかくなるまでだ。それで美味いスープになる。味が足りないと思えば、塩胡椒で味付けをしてくれれば良いから」
「煮るだけでスープに、しかもこれは軽く嵩張らない。携帯食と考えれば破格ですな、判りました。エ・ランテルに持ち帰り、味見させていただきます」
「味の感想とかはアインズさんに伝えてくれれば良いから」
「判りました。では失礼!」
馬を反転させ駆けて行くガゼフさんを見送り、今度こそ厨房に戻った。
「良し良し、良い具合良い具合」
しっかり寝かせた生地をクッキングシートの上に出して、その上からもう1枚クッキングシートを乗せて、麺棒で8ミリ程度に伸ばしたら、上面のクッキングシートを外して砕いた胡桃を埋め込むようにそっと押し込んで、引っくり返して反対側も同じ様に胡桃を埋め込んで加熱したオーブンの中に入れる。
「さてと焼きあがったらネム達のおやつに出してみるかな」
果樹園から果物を持ってくるエンリ達と彼女達の手伝いをしていたであろうネム達を見て、今日焼き上げた分はネム達のおやつにする事を決め、即席スープをもっと作る為に漬け汁の中に牛肉をどんどん入れて、ジャーキーの準備を始めるのだった……。
シズちゃんのわくわくお料理日記
カワサキ様だってあれほど考えて悩んで、色々工夫して1つの料理を作っている。だから私だって色々と工夫して、そして色々と作らないと美味しい料理が作れないって言うのがよく判った。カワサキ様がくれたヒント……「チーズ」それを使った美味しいオムレツを私は作ろうと色々と試行錯誤をしていた。
「……うーん。これはあんまり美味しくない」
食べて自分の舌で美味しいと思えない料理を人に出せる訳が無い。だからまずは自分で作って食べる卵を1つだけ使って作った最初のオムレツ……これは正直失敗だと思う。
「……生でも食べれるチーズでも、そのまま包むのは駄目」
手帳にメモをして、残りのオムレツを食べる。生のままでも食べれるチーズだから完成する寸前のオムレツの真ん中に薄いチーズを入れて、卵で包み卵の余熱でチーズを溶かしてみた。確かにチーズは溶けていてトロリとした食感はあったけど、卵と全然味が馴染んでいない。これではトロリとしたチーズの味が不協和音にしかなってないので、これは駄目。多分チキンライスの上に乗せても、卵とも味が馴染まないし、チキンライスとも味が合わないという最悪の味になりそうだ。
「……次」
卵を割って、塩胡椒で味付け、そしてそこにチーズを入れて、よく熱したフライパンの中に流し込み、菜箸でかき混ぜながらオムレツの形に整える。
「……これくらい」
綺麗に形を整えるのではなく、卵が半熟になり、チーズが溶けて半熟卵とチーズが絡んだ段階で皿の上に移す。
「……うん、今度は美味しい……かな?」
半熟卵とチーズが良く絡んでいる、さっきの様にチーズと卵の味がバラバラではないから1つの料理になっていると思う。
「……うーん」
チキンライスとは合うかもしれないけど……これはケチャップと合うかなあ……。
「……もっと美味しいソースじゃないと駄目」
このチーズの味に勝てるソースじゃないと美味しいオムレツとは全然噛み合わない。
「……難しい」
1つ美味しいのが出来ても、それを複数組み合わせたら美味しいとは限らない。カワサキ様が思い悩んで料理を作る理由を1つだけ判ったような気がする……。
「……そうだ。今度は生クリームを試してみよう」
シホがオムレツに生クリームか牛乳を入れると滑らかになると言っていた。今度はそれを使ってオムレツを作ってみよう……私はそう考えて、冷蔵庫から生クリームを取り出して、また新しいオムレツを焼き始める。こうして試行錯誤をするのが少し面白いと私は思い始めるのだった……。
メニュー118 保存食作り その2へ続く
次回も引き続き、保存食作りです。今回は黒狼@紅蓮団様様のビーフジャーキー、竜神 レイ様の美味しい携帯食で考えて見ました。
次回も引き続き、保存食で考えて行きますので、どんな料理が出てくるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……
-
間違っている
-
間違っていない