生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー123 シズちゃんとエントマちゃんのチーズオムライス ビーフシチューソース その1

メニュー123 シズちゃんとエントマちゃんのチーズオムライス ビーフシチューソース その1

 

カワサキ様からのアドバイス――私の作った牛テールスープをビーフシチューへと変える為、私はシホとピッキーに助言を求める事にした。

 

「ど、どうかなぁ?」

 

ナザリックの食堂のキッチンで作った牛テールスープを2人に試飲してもらい、その感想を求める。

 

「……香味野菜が足りてないですね」

 

「些か獣臭いですね、臭み取りが少し足りなかったと思います」

 

カルネ村で作ったテールスープはもうないので、新しく作ったんだけど2人の意見はやはり厳しい物だった。

 

「テール肉を煮た後はどうしましたか?」

 

「えっとぉ? 水を捨てて洗って、また水を入れて野菜と一緒に煮たよぉ?」

 

流水で揉むようにして血管の中の血液を押し出すように洗い、そこからまた綺麗な水で煮出したというとシホはそれでは駄目ですねと言ってくれた。

 

「野菜の切れ端や皮と酒を入れて煮て、漉して作るベジタブルブロスを使うと良いですよ」

 

「ベジタブル……ブロス?」

 

聞き覚えのない単語だ。作り方をシホは教えてくれたけど、それが何なのかがいまいち良く判らない。

 

「野菜の出汁ですね、にんじん、玉葱、キャベツの芯やセロリの茎と言った料理の過程で出る野菜の余りを弱火で煮て作るんです。水で作るよりもビーフシチューやテールスープの旨みがグッと深くなります」

 

「なるほどぉ……」

 

水で作ったのでテールスープの旨みが薄くなり、ビーフシチューにするには適さなくなったという事だと思う。

 

「後はテールスープになさるのならば、香味野菜を増やせばいいですが……作りたいのはビーフシチューなのですよね? エントマ様」

 

「うん、ほんとにほんとに嫌だけどぉ……シズと一緒に1つの料理にして見せて欲しいってカワサキ様に言われてるからぁ……」

 

正直2人で1つの料理なんて想像出来ないし、やりたくないけどカワサキ様とアインズ様が楽しみにしてくれているのならば……なんとしても成し遂げなくてはならない。

 

「それでしたら、牛テールをベジタブルブロスで煮る前に小麦粉を塗して、小麦粉が白くなくなるまで焼いてからベジタブルブロスを入れて煮るといいでしょう」

 

「後はオムライス用に調整したデミグラスソースとトマトペーストを使うといいでしょう。後はシズ様とよく話し合ってください」

 

突っぱねるような口調のシホとピッキー。だけどこれ以上教わったら多分シホとピッキーの味になってしまう……教えてもらったヒントを手に、私は2人に感謝を告げ、教えて貰った事をメモした手帳を胸に抱えてナザリックの食堂を後にした。

 

「上手く行きますかね?」

 

「カワサキ様はそこを計算していると思うわよ。シズ様がオムライスを作っているからエントマ様にビーフシチューを作るようにヒントを出した。後は2人が協力できるかどうかだと思うわ」

 

「……不安ですねえ」

 

仲が悪い事で有名なシズとエントマが協力し合えるのか? ピッキーは一抹の不安を抱きながら、シホに促され夕食の準備を始めるのだった……。

 

「おお……」

 

シホとピッキーが教えてくれたベジタブルブロスというものが出来たかもしれない。野菜の切れ端や捨てる部分を煮て、漉した汁は赤っぽい茶色の色をしていて味見をしてみる。

 

「……美味しい」

 

野菜の旨みと香りが溶け出している。これは確かに美味しい、ベジタブルブロスを煮ている間に隣で煮詰めていた牛テールを煮ている鍋を持ち上げて、お湯を捨てる。

 

「よいしょ、よいしょ」

 

流水で洗いながら血管の中の血を綺麗に押し出す。これが残っていると生臭くなるので、しっかりと丁寧に行い、牛テール肉に塩胡椒を振って、しっかりと揉みこんでから小麦粉を塗して焼く。

 

「あわわッ!」

 

強火だと焦げ付いてしまうと気付き、中火に落として引っくり返しながら丁寧に焼き色をつけたら鍋の中に戻し、ベジタブルブロスを牛テール肉が沈むくらい入れる。

 

「残りは野菜を煮るのに使おぅ」

 

シチューやカレーを作る時に野菜を別々に煮ると食感が残るとカワサキ様が仰っていたので、別の鍋に残りのベジタブルブロスを入れる。

 

「玉葱、にんじん、じゃがいも~」

 

玉葱は繊維に沿ってくし切り、じゃがいもと人参は皮を剥いて、じゃがいもは芽も綺麗に抉り取ってから乱切りにする。

 

「よいしょっとぉ」

 

切った野菜をベジタブルブロスの中に入れて、牛テール肉と一緒に弱火で火に掛ける。

 

「にんにくとぉ、赤ワインをいれてぇ……あ、ローリエ」

 

潰したにんにくと赤ワインを入れて蓋を閉めようとした所でローリエを入れていないのを思い出して、ローリエを入れて今度こそ蓋を閉める。煮込んでいる間はやることがない……。

 

「う、ううう……」

 

本当はシズと一緒に料理をするなんて嫌だけど、アインズ様とカワサキ様が楽しみにしているのならば好き嫌いをいっている場合ではない。嫌で嫌でしょうがないけど、シズと一緒に料理をする為に私は厨房を後にし、ログハウスへと足を向けるのだった……。

 

 

 

 

ログハウスの厨房はカルネ村やカワサキ様の手伝いをしていない時、そしてプレアデスとしての仕事が終わった時、ずっと私がいる場所でもある。

 

「……美味しい?」

 

「チキンライスはもう本当完璧だと思うよ?」

 

私の料理を試食してくれているクレマンティーヌの言葉を聞いて小さく笑う。チキンライスはやっと満足いく仕上がりになったと思う、ニグンとかザリュース、ゼンベルに加えてアウラ様とマーレ様も美味しいと言ってくれたから最早チキンライスは習得したといっても良いと思う。

 

「……次がある」

 

「ふわふわのオムレツですねー」

 

「……そう」

 

カワサキ様のオムライスを食べたけど、卵がふわふわかつとろとろで私の物よりも遥かに美味しかった。カワサキ様の料理が美味しいのは当然だけど、どうすればあれに近づけるのかというのを私は知りたい。

 

「……と言う訳でこういうのを用意してみました」

 

「チーズ?」

 

「……チーズ」

 

カワサキ様がチーズを使うと良いとヒントをくれたのでチーズを色々と用意してみた。粉チーズ、ぺらぺらの板チーズ、ピザとかに使う小さい長方形の奴に固まりの奴。

 

「どう使うつもりなんですかね?」

 

「……とりあえず最初はそのまま全部突っ込む」

 

クレマンティーヌが何かドン引きしているけど、とりあえず作業を始める。卵を割ってほぐし、1度漉して、牛乳を加えて塩胡椒で味付けする。

 

「……良し」

 

小さめのフライパンの中にバターを落として、溶けた段階で卵液を入れる。

 

「……どのタイミングで入れたらいいの?」

 

「え? いや、わかんない」

 

どのタイミングでチーズを入れれば良いか判らず、とりあえず普通に美味しいオムレツが完成してしまった。

 

「……これはゼンベルに上げよう」

 

「ゼンベル達卵好きですからねー」

 

リザードマンは卵が好きなので、これはゼンベルかザリュースに上げる事にして、卵を割る前に作戦会議を行なう。

 

「……どのタイミングで入れよう?」

 

「卵を入れてすぐじゃないですかね?」

 

「……ん、判った。それでやってみよう」

 

とりあえずクレマンティーヌの言った方法でオムレツを1つ作ったのだが……。

 

「んー美味しくない」

 

「……普通に不味い」

 

卵がとろとろなのにチーズが固い、食感が違いすぎていて美味しくないのでこれは駄目。

 

「卵液の段階で粉チーズ混ぜて見ましょうか」

 

「……そっちの方がいいかもしれない」

 

卵液を作った段階で粉チーズを入れて、良く混ぜてフライパンの中に流し入れる。

 

「……普通」

 

「チーズの意味あんまりないね、これ」

 

「……うん」

 

チーズの味があんまりしない段階でチーズを入れる意味がないので、粉チーズは失敗である。

 

「んーどうしたら良いんだろ? 溶かしてみる?」

 

「……なんでも試そう」

 

今度はチーズを湯煎して、溶かして卵に混ぜてみようと話をしているとログハウスの扉が開いた。誰かと思い振り返るとそこにはエントマがいて、私は思わず眉を細めた。

 

「……何?」

 

「いやだけどぉ、アインズ様とカワサキ様が楽しみにしてるなら、一緒に料理するしかないからぁ……来た」

 

本当は嫌だけど、アインズ様もカワサキ様も私とエントマが作る料理を楽しみにしていると仰っていた。

 

「「むむむむうう……」」

 

2人で顔を見合わせ唸りあい、自分の誇り、嫌いな相手、アインズ様とカワサキ様のお言葉……頭の中でグルグルと言葉が回り、私はコンロの火を止めて、そっちの厨房に行くと返事を返した。アインズ様とカワサキ様の言葉はすべてにおいて優先される、好き嫌いを言っている場合ではない。

 

「……クレマンティーヌ、どこに行くの?」

 

「え? 私いらないんじゃ?」

 

「……駄目、クレマンティーヌが居ないと喧嘩になる」

 

「クッション材はいるよぉ」

 

「あ、はい」

 

逃げようとしていたクレマンティーヌを捕獲し、クレマンティーヌを間に挟んで私とエントマはログハウスを後にするのだった……。

 

 

 

 

 

 

休みは大事と言って本人が全く休まないカワサキに言われ、不本意ながら休みを取る事になったのだが……まさかまさかシズ様とエントマ様の喧嘩の緩衝材にされるとは思ってなかった。

 

(でもなぁ……実際仲良いんじゃない?)

 

自分はまともな兄妹関係ではなかった。と言うかそもそもあの二重人格かと言いたくなるような外面の良いクソ兄貴は殺しても飽き足らないほどに憎んでいるし、何よりも自分が出世する為に妹を強姦させようとする屑など憎んで当然であり、そんな兄を素晴らしいと絶賛する両親も当然憎んでいる。

 

「……トマトはもっと大きく潰さないと」

 

「丁寧に潰した方が美味しいんですぅ!!」

 

シズとエントマは仲が悪いが、それはクレマンティーヌから見れば微笑ましい物だし、喧嘩していると言うよりも子供同士が張り合っていると言う感じで従属神に抱く感想では無いが、愛らしさの方が強いように思えていた。

 

「じゃあ半分半分やってみたらどうですかね?」

 

2人の衝突は確かにあるが、それは丁寧な料理をしたいシズ様と大雑把な料理をするエントマ様の意見の相違だ。そう言う時に、私がこうして助言の言葉を口にする。

 

「……半分ずつ」

 

「試してみるぅ」

 

2人だけでは絶対に衝突するが、私がこうして意見を言う事で第3者の意見が入る。そうするとシズ様はエントマ様の意見を受け入れ、エントマ様はシズ様の意見を聞き入れる。

 

(たまにはこういうのも……悪くないかもしれないね)

 

何もせずに見ているだけだけど……こう、なんというか精神と言うか気持ちが和らいでくる気が……。

 

「……なんでオムレツにチーズを千切って入れるのッ」

 

「溶かすよりこっちのほうが良いぃ!」

 

「「ふしゃあああーーーッ!!」」

 

前言撤回、これは休みじゃなくて精神的、肉体疲労がマッハだわ……だけどまぁ……うん。

 

「シズ様、千切って入れたら溶けるのが早いかもしれないですよ?」

 

「……う、そ、そうかな?」

 

「大きいなら小さくすれば良いぃ!」

 

「でもエントマ様もお肉を触った手でチーズを触るのは良くないと思いますよ?」

 

「うっ!」

 

こうやって2人の喧嘩を時折仲裁しながら、2人が良い方向に進むように誘導するのは……悪くないかもしれないと私はそう思うのだった……。

 

「お、おー」

 

「んん? どうしました? カワサキさん」

 

「シズとエントマが2人で料理を作って完成が近いそうだ」

 

「へえ、それは楽しみですねえ」

 

「クレマンティーヌが頑張ってくれてるみたいだ」

 

「……休みなのに休めてないじゃないですか……」

 

「それは謝ろう。でもシズとエントマの料理って興味あるよなあ、モモンガさんは?」

 

「まぁ……俺も気になるところではありますね」

 

クレマンティーヌの奮闘により、完成間近という知らせを聞いたカワサキとモモンガはどんな料理が仕上がったのかと楽しそうに話をしながら、ナザリックへと戻っていくのだった……。

 

 

 

メニュー124 シズちゃんとエントマちゃんのチーズオムライス ビーフシチューソース その2へ続く

 

 




今回は料理の下準備、次回は完成とカワサキさんとモモンガさんが食べると言う話にしようと思います。クレマンティーヌが2人をどうやって協力させてシズちゃんとエントマちゃんのチーズオムライス ビーフシチューソースも辿り着いたかを書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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