生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー124 シズちゃんとエントマちゃんのチーズオムライス ビーフシチューソース その2

メニュー124 シズちゃんとエントマちゃんのチーズオムライス ビーフシチューソース その2

 

目の前でうーっと唸っている2人を見てどうするかなあっと私は頭を悩ませていた。2人で協力しながら料理をさせると言うのは私の誘導で正直何とかなっていた。だがもうじき完成となると……大きな問題が浮上したのだ。

 

「私の方が美味しいぃ」

 

「……違う。ご飯がメイン」

 

チーズオムライスも味が濃いメイン料理で、ビーフシチューも当然味が濃いのでメイン料理だ。それらを1つにする場合どちらかの味を抑えなければならない、それがシズ様とエントマ様の喧嘩の理由になっている。

 

「「うううーーーッ!!」」

 

「ストップストップ! キッチンで喧嘩したら危ないですよ!?」

 

つかみ合いの喧嘩を始めようとしている2人を慌てて制止し、1度コンロの火を止めて話し合いましょうといって2人をキッチンから連れ出すのだった。

 

「クレマンティーヌはビーフシチューだってメインになると思うよねぇ?」

 

「……メインはご飯だってクレマンティーヌも思うよね?」

 

……ここは極めて難しい場面だ。返答によっては今まで築いて来た関係性が全部崩れかねない……それを本能的に感じ取り返答に悩む。

 

(うーん……どうしたものか)

 

カワサキ基準で考えればパンでもご飯でも、それこそパスタでも何でもいい。お腹が膨れ、美味いと思って貰えればカワサキ的にはOKで、これじゃなきゃ駄目というのはない。今回のメインか、メインじゃないか? という言い争いの根底は自分の作った料理の方を沢山食べて欲しいと言う子供のような感性が原因だろう。とは言え、私もその気持ちは解らない訳でもなくて……少し考えてみて私的にはこれしかないかなあと思う。

 

「シズ様はオムライスを少なくしてみたらどうですかね?」

 

シズ様が信じられないと言う顔をし、エントマ様が勝ち誇った顔をする。だけど私は別にエントマ様を立てている訳ではない、普通に考えてカワサキの言葉を聞いての判断だ。

 

「チーズオムライスは凄く腹持ちが良い筈です。余り多いとカワサキとアインズ様でも辛いのでは?」

 

「……あ」

 

米と野菜と肉にチーズと卵――普通に考えて凄まじく重いはずだ。しかもそこにビーフシチューを掛けるのだから凄まじいカロリーになる筈だ。

 

「だから少量にした分材料を良く吟味して、食材の切り方とか味付けを良く考えてみてみるのはどうですか? それなら普段使えない食材とかも使えると思うんですけど」

 

「……一理ある」

 

シホやピッキーにもカワサキは珍しい食材を渡している。だけど量が少ない上に新しく入手するのが難しいので使用に著しく制限が掛かっているが、作る量を少量にすればそれらを使う事も可能だと思う。

 

「エントマ様はチーズがビーフシチューに溶け出すと思うので、パンも作ってみたらどうですか?」

 

まずはオムライスにビーフシチューをかけて出して楽しんで貰い、食べ終わる頃合にはチーズオムライスのチーズがビーフシチューに溶けるので、そこにパンをつけて貰えばオムライスもビーフシチューも十分に主役に出来ると思う。

 

「面白そうぅ……それでやってみても良いよぉ?」

 

「……うん。これがベストかもしれない」

 

とりあえず納得はしてくれたみたいだ。でも凄い疲れたな……これ下手をしていたら首から上が物理的に飛んでいたわけで……。

 

「どうかしたぁ?」

 

「……疲れた?」

 

「あ、いや、そういうわけじゃないですよ? それよりも仕上げを頑張りましょう!」

 

「「おー」」

 

小さな握り拳を掲げる2人の姿は可愛いけど、その小さな拳が片手間で私を殺せるのを知っているわけで……そこまで考えた所で冷たい汗が流れ、体が小さく震えた。

 

(とりあえずカワサキにはもう2人に協力させて料理をさせないようにって言っておこう)

 

カワサキなりにシズ様とエントマ様を仲良くさせるためのアイデアだったかもしれないけど、余りにも私に掛かる負担が大きいので今後は絶対に2人で料理してくれなんて冗談でも言わないように頼んでおこうと思う……それに今回の事は決して無駄にならないと思うし……。

 

(喧嘩するほど仲が良いって事でしょ。これは)

 

今も口論はしているが、それでも2人で協力して料理をしているのを見て、シズ様とエントマ様はこれで良いのだと私は思うのだった……。

 

 

 

 

シズとエントマが2人で協力して料理を作っていると聞き、それをアルベド達に絶対に言うなと命じて、今日の夕食に持ってくるようにとユリに念を押してから、俺とカワサキさんはランポッサ三世達の話を2人の間で噛み砕いて情報整理をしつつ夕食が届けられるのを待つことにした。

 

「スレイン法国は今も結界を張って反応がないらしいな」

 

「その通りです。シャドウデーモンの話では生命拒否の繭(アンティライフ・コクーン)に似ているそうですが、少し違うようなので生命

拒否の繭(アンティライフ・コクーン)をベースにタレントで強化された物ではないかと……」

 

スレインはかなり前から神人と呼んでプレイヤーの子孫を集めていた。その中にはタレントを開眼するものもいるかもしれない、そうなればプレイヤースキルとタレントを共有した、あるいはプレイヤースキルとタレントの融合した物を開眼していてもおかしくはない。

 

「やっぱり禄でもないな。スレイン」

 

本当にその通りである。クレマンティーヌの話では神人の男には何十人も妻を娶らせ、女は常に妊娠させ続ける。そんな国がまともとは思っていないが、想像以上にクソな国である。これで宗教国家というのだから驚きを通り越して呆れさえ覚える。

 

「蒼の薔薇の面子が近日戻ってくるので、アゼルリシア山脈には2週間もあれば出発になる筈です。まぁその間に魔法学園の開校などもありますが……向こうが動かないうちに動くつもりです」

 

俺がそう言うとカワサキさんはグッと握り拳を作り、嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「そうか、やっとか……ドワーフに会うのが楽しみすぎる」

 

「……本気でついてくる気なんですか?」

 

俺達としてはカワサキさんはエ・ランテルに残ってもらうつもりだったんだが、調理器具などを作らせる為にドワーフに会いに行くと言うカワサキさんに考え直しません? と言うがカワサキさんは首を左右に振った。

 

「モモンガさんは調理器具判るのか?」

 

「判りませんけど……見本を受け取ってそれを複製させれば……」

 

俺の提案にカワサキさんは分かって無いなと指を左右に振った。

 

「形だけ似ていても意味がないんだよ。作りとか、角度とか、本当に細かい微調整が必要なんだ」

 

「そういうものなんですか……」

 

「そういうものなんだよ」

 

俺には解らない世界だが、これはきっと俺のアイテムコレクターと似たような感覚だろう。

 

「待ってろよ、中華鍋に蒸し器にオーブン……ッ」

 

(蒸し器とオーブンに中華鍋ってナザリックであるのじゃ駄目なんだろうか……)

 

尋常じゃない気迫を見せているので下手に触れるとやばいと判断し、俺はカワサキさんがドワーフに作って貰おうとしている物については触れない事を選択した。

 

「それで聖王国はどうするつもりなんだ?」

 

「彼女に戻るつもりがないそうなので、現段階では保留ですね」

 

若返り、記憶を取り戻したカイレの扱いは下手をしなくてもとんでもない爆弾だ。そもそも若返りが可能という段階で相当な混乱と詳しい説明を求められ、切り札中の切り札なので容易に使えないと説明し、説得するのに相当苦労した。

 

「今度はもう少し計画してからにしましょう」

 

「そうだな。思いつき絶対駄目としよう」

 

1番思いつきで行動しているのカワサキさんなんだけどなあと思っていると扉がノックされ、ユリの入室を求める声が響いた。机の上を片付けて、入ってくる様にと声を掛ける。

 

「失礼いたします」

 

キッチンワゴンを押してユリが部屋の中に入ってくるが……シズとエントマの姿はない。

 

「シズとエントマはどうした?」

 

「根を詰めすぎたようでダウンしてしまいまして……申し訳ありません」

 

料理を作りすぎて気絶するとかあるのか? と俺が首を傾げているとカワサキさんは解る解ると頷いた。

 

「解るんですか?」

 

「解るぞ? 細工料理をしていたりするとな、意識が飛ぶ時がある」

 

料理で意識が飛ぶってどういうことだよ……料理って実は危険なものなんじゃ? と俺が恐怖しているとユリがキッチンワゴンの下からナプキンなどを用意し、てきぱきと食事の準備を初め赤ワインのボトルのコルクを開けて、俺とカワサキさんのグラスに丁寧に注いでくれる。

 

「さて、シズとエントマは何を作ってくれたのかな?」

 

「楽しみにしていたからな」

 

犬猿の仲の2人が何を作ったのかと期待しながらクロッシュを持ち上げる。湯気と共に鼻をくすぐった香りには嗅いだ覚えがあった……。

 

(この香りはビーフシチュー?)

 

カワサキさんが作ってくれたビーフシチューの香りに良く似ている。2人でビーフシチューを作ったのか? と思いながら皿の上を見ると小さなオムライスがあり、その周りにビーフシチューが並々と注がれていた。

 

「チーズオムライスのビーフシチューソースです」

 

ほお……オムライスにビーフシチューを掛けるとか凄い発想だな。少し小さめなのはオムライスとパンを食べろと言うことなのか? と思いながらスプーンを手に取る。

 

「「いただきます」」

 

出来ればシズとエントマに食べた感想を伝えたかったが、それは次の機会にするとしよう。そんな事を考えながらスプーンをオムライスの中に入れる。

 

「ほお。これは凄いな」

 

「工夫が生きているな」

 

卵を破り、チキンライスを持ち上げるとチーズが溶け出て来る。それがチキンライスとビーフシチューに混ざる光景を見てこれは面白いなと思いながら口に運ぼうとするとカワサキさんが待てと声を掛けて来た。

 

「ビーフシチューにつけて食べるんだぞ?」

 

「あ、そうなんですね」

 

チキンライスに半分ほどビーフシチューをつけて改めて口に運んだ。チキンライスのケチャップの味が口の中に広がると思いきや、口の中に広がったのは豊潤なビーフシチューの香りと味だった。

 

「ほう、これは美味いな」

 

「良い味だな。チキンライスの味を少し薄めにしているのか」

 

なるほど、だからチキンライスのケチャップ味よりもビーフシチューの味を感じたのかと1人納得する。俺の好きなオムライスの味とは違うが、これも美味いと思う。

 

「……ベジタブルブロス……それと」

 

なんかカワサキさんがぶつぶつ言ってて怖いなと思い、1度赤ワインを口にするとビーフシチューの味に良く似ていると思った。

 

(そういえば赤ワインを使うって言ってたな)

 

飲むワインとシチューに使うワインを同じにしているのかな? と思いながら半熟卵とチキンライスだけを口に運ぶ。半熟卵とチキンライスの間からチーズがあふれ出して来る。

 

(思ったよりも食べやすいな)

 

チーズの味はかなり濃いのだが、卵とチキンライスの味が薄めになっているからかそれほど気にならない。それに味が薄いといっても香辛料の香りや具材にかなり気を使っているのか食感で舌を楽しませ、その上に香りで2度美味しい。

 

(なるほど、これは確かに美味い)

 

ビーフシチューで味を変えたり、あえてチキンライスのみで食べたり、チーズとビーフシチューを絡めたりと一皿で複数の楽しみ方が出来る。実に面白いオムライスだと思いながら俺は心配そうな顔をしているユリに視線を向けた。

 

「実に美味い、シズとエントマにとても素晴らしい料理だと伝えてくれるか?」

 

「は、はい。確かに言付けをお預かりいたしました」

 

ユリも安堵した様子で笑みを浮かべるのを見て、ユリも2人の料理を俺達が気に入るか心配だったんだなと思いながら、俺は再びオムライスを口に運ぶのだった……。

 

 

 

 

少量のオムライスにしたのはビーフシチューとパンの兼ね合いだけではなく、稀少なユグドラシル産のスパイスや食材を使っているからだった。

 

(なるほど、良く考えている)

 

ロックバードの臭み消しにビーフシチューに使っている香辛料を使い臭み消し、それにバジルなどのハーブも使いロックバードの強い獣臭さを消している。

 

「……うん。美味い」

 

ロックバードの食感はかなり固いのだが、これはかなりやわらかいな。何か特別な下処理をしたのかもしれないな……俺が何もかも料理を知っているとは言わないが、これは俺の知らない下処理が施されているようだ。

 

「うん。美味い」

 

モモンガさん、それ気付いているかい? それAランクのキノコだぞ? ドラゴンの背中に生えるのをペロロンチーノが死にそうになりながら回収したものだ。龍茸という食材で龍に寄生し育つ特別な茸だ、養殖は割りと楽なんだが、ドラゴンのランクに応じてその味が大きく異なり、効能も変るので高ランクの飛龍に植えた時の地獄絵図を思い出す。なんせ別のギルドに狩られたら龍茸なんてゴミ扱いだからな、それを手にするのに駆け回ったのも今では良い思い出だな。

 

(……牛テール肉か)

 

ビーフシチューのメインは普通の牛テール肉、頬肉ではなく食べ応えがあるテールを選んだのは実にエントマらしい。スプーンで押すだけで簡単に崩れるのを見て教えていないのに良くここまで仕上げたなと感心しながら口に運んだ。テール肉なので血の処理が済んでいないと血生臭いが、血の感じはない。それに噛み応えと味のしみこみ具合を両立させているのを見る限りでは煮る時間だけではなく、煮方も色々と試行錯誤をしたのだろう。

 

「もう俺が教える事はないかもなぁ」

 

シホとピッキーよりも先にそう思うのがシズとエントマとは夢にも思ってなかったわけだが……教えられた事を教えられたとおりにしか出来ないシホとピッキーと違い、自分で考えてアレンジを加えているシズとエントマはまだ腕が未熟だったとしても、その1点においてはシホとピッキーを超えていると言ってもいいかも……。

 

「とは言い切れんなあ……」

 

「はは、でもこういうの俺は嫌いじゃないですよ?」

 

「俺もだよ」

 

切り方が中途半端で繋がっている人参とかビーフシチューで逆にどうやったんだ? と尋ねたくなる。だけどうん、シズとエントマの成長が目に見えて俺もモモンガさんも大満足と言っても良いだろう。

 

「パンでチーズとビーフシチューを掬って綺麗に食べるんだぞ?」

 

オムライスを食べ終えた頃合でビーフシチューは半分くらいになっているので、パンをつけるのに丁度良い量だと思い目の前の籠の中のパンに手を伸ばした所で、もう食べれないと言う雰囲気を出しているモモンガさんをジト目で見つめる。

 

「いや、俺実は結構お腹一杯で……」

 

おいおい、成人男性の一般的な食事量の半分も行ってないのに……ビーフシチューとチーズオムライスはカロリーが高いとは言え、小食が過ぎる。

 

「食うんだ」

 

「いや……本当にお腹一杯でして……」

 

「食うんだ、シズとエントマに残したと言えるのか?」

 

俺がそう言うとモモンガさんは苦虫を噛み潰したような顔をした。俺達の為に作ったものを残されたらシズとエントマはどれほどショックを受けるだろう? それを想像したのだろう。

 

「食べます」

 

意を決した表情でパンに手を伸ばすモモンガさん、俺もパンを千切りビーフシチューをパンに吸わせて口に運ぶ。

 

(パンも手作りか、カルネ村かな?)

 

柔らかくもっちりとした独特の食感のパンだ。少なくともナザリックのパンじゃないし、俺の作るパンでもない。カルネ村の住人に作り方を教わり、向こうで作ったのだろう。俺達の為にここまで頑張ってくれたのがひしひしと伝わってくる。腹だけではなく、心が満たされる料理だ。

 

(やっぱり料理の魔法って凄いよなあ)

 

いがみ合うものも、反発しあうものも、憎み合う者も、仲がいい者も、そうじゃないものも……全てを繋げてくれる料理の力はやはり偉大だと俺は思う、誰かを思って作る料理の素晴らしさはやはり言葉に出来ない物がある。

 

(もっと精進しないとな)

 

料理の道に終わりはないと言うのを改めて思い出させてくれる。本当に素晴らしい料理だった……俺は心からそう思いながらスプーンを皿の上に置き手を合わせ、ご馳走様でしたと口にするのだった……。

 

 

下拵え 魔法学園開校/開拓のススメ/蒼の薔薇調査中へ続く

 

 




シズとエントマの料理でカワサキさんのパワーアップフラグです。料理の道を究める為に更に進化してくれるかもしれません。

次回は幕話的な話をメインにして行きたいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

12月は鬼滅版の投稿予定ですが、クリスマスを控えているので特別番外編も考えて見たいと思いますので、更新が変則になるかも知れませんが、ご容赦願います。

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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