生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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下拵え 魔法学園開校/開拓のススメ/蒼の薔薇調査中

下拵え 魔法学園開校/開拓のススメ/蒼の薔薇調査中

 

バハルス帝国とリ・エスティーゼ王国の共同政策としてエ・ランテルの近郊に開設された魔法学園は、帝国魔法学院とは根底から異なる教育施設となっている。

 

『今は才能無くとも、おいおい才能に開花するかもしれない。それに魔法を扱う知識が無くとも、魔力の効率的な運用や魔道具、スクロールの作成に秀でている者も居るかもしれない。タレントや目に見える魔法だけで評価するのはどうかと思う』

 

というアインズの意見を組み込み、魔法学科、魔力運用学、魔道具の作成などの複数の学科を用意し、そこで学んでいる間に自分に向いている学科に移る事が可能としたのだ。

 

「ほほう! ほほう!! これがアインズ殿が連れて来られた講師の方々かッ!!」

 

「フールーダ翁。近い」

 

人化を施して連れてきたクラフト系のスキルを持つシモベを見て大興奮のフールーダ翁に近いといって下がるようにと声を掛ける。

 

「デイバーノックだ。魔法は独学だが魔力の運用を教えることに関してはそれなりに自信がある」

 

1人はデイバーノック。魔法を極めたいと言う本人の意志を尊重し、他人に魔法を教える事で自分の理解を深める為に俺の推薦した教師という事でこの場にいる。

 

「エル。専門はスクロールの作成だ」

 

「アール。魔法具の作成が専門」

 

「ドミュナス。低位魔法を全員均等に覚えれるように教えるようにアインズ様に命じられている」

 

「ヘカテーよ、デイバーノック、エル、アール、ドミュナスが教えれる事は全部私も教えれるわ。後は6位階以上の魔法もね」

 

エルダーリッチを召喚する際にアイテムを消費し、ある程度方向性を定めて作り出し、それを全て人化させて用意した4人も教師としては最低限のレベルは有している筈だ。

 

「流石アインズ殿は良い人材を多数抱え込んでいるようですな」

 

フールーダ翁も満足してくれたようなので教師を連れてきたのは正解だったようだ。フールーダ達が開校式に出るために部屋を出ると入れ代わりで礼服に身を包んだジルクニフ達が部屋の中に入ってきた。

 

「これから開校の挨拶をするが、アインズはどうする?」

 

「そこまで表に立つつもりはありませんよ。では私はこれで」

 

にやにやと笑うジルクニフに呼び止められる前に転移でナザリックへと帰るのだった。

 

「やれやれ、功労者が逃げてしまうとは……」

 

「仕方なかろう。アインズ殿はスレインからすれば国敵と言っても良いからな、間者らしいのはどうした?」

 

「無論捕えてあるさ、しかしまさか堂々と入ってくるとはな……アインズから魔道具を借りてなければどうなっていたか……」

 

魔法学園が開校する前日に堂々とスレイン法国が乗り込んでくるとはジルクニフ達も想定外だったわけだが……姿を消すアイテムで見つからないと高を括っていたのだろうが……それでもあれだけ堂々と入ってくるのはジルクニフ達にとっても想定外だった。

 

「こうやって今まで侵入を許し、国の情報を抜かれていたのだろうな」

 

「宗教国家だから寄付や援助というのも自分達に都合が良かったという事か……」

 

姿を消して国にどうどうともぐりこみ、そしてそこで情報操作を行い。自分達に有利になるように立ち回っていたと想像するとランポッサもジルクニフもゾッとした。いままでの帝国と王国の鍔迫り合いも全てスレインに誘導されていると知らず、戦争の後に治療や物資の援助を行なわれ、国同士の外交をしていたのは全て自分達の利益の為と判れば、ランポッサもジルクニフもスレインへの怒りを覚える。

 

「今はとにかく魔法学園の開校を派手にアピールするぞ。こちらにスレインの注目を向けさせなければな」

 

「こちらも御前試合を行なう。これで大分アゼルリシア山脈への視線をこちらに向けることが出来るだろうからな」

 

4ヵ国同盟の騎士・兵士を集めての御前試合、そして魔法学園の開校。その何れもスレインの注目をエ・ランテルに向ける為の物だ、エ・ランテルに注意を向けさせ、その間にアゼルリシア山脈のドワーフを4ヵ国同盟に加えるという目的を遂行する為に、今日の開校式は必要以上に豪華なものになっている。

 

「ではそろそろ行くか」

 

「うむ」

 

鳴り響く花火の音を聞きながらジルクニフとランポッサ三世は並んで歩き出す。4ヵ国同盟、そして魔法学園――これらが今まで歴史、そして国の中で暗躍して来たスレインの牙城を打ち崩す為の小さな一歩ではあるが、それと同時にこの世界を変える大きな一歩となるのだった……。

 

 

 

 

 

今日は魔法学園の開校式と言う事でカワサキは店を休みにし、カルネ村へと訪れていた。その理由は本格的なカルネ村の開拓――それ即ち、料理の為の食材を安定供給する為の畑などをリアルの知識を元にこの世界の住人に行なわせると試みだった。

 

「ここら辺までがハムスケの縄張りなんだな?」

 

「そうでござるよ!」

 

「なるほどなるほど……ふーむ」

 

マーレとアウラを連れ、2人が作成した地図とハムスケの縄張りの位置を確認する。

 

「カワサキ様、どうします? ここら辺から私達の領域にしますか?」

 

「い、いつでも大丈夫ですよ」

 

アウラとマーレにありがとなと返事を返し、地図に印を打ち、カルネ村とナザリック、そしてリザードマンの集落への距離関係を計算する。

 

(……縄張りギリギリで考えるとリスクがあるから……)

 

元々カルネ村は一定期間でトブの大森林のモンスターの襲撃を受けていたと聞く、今はクルシュ達リザードマンや定住を求める帝国のワーカーや引退した冒険者達の終の棲家として住人が増えているが過度に居住区を増やそうとすると他のモンスターとの衝突を呼びかねない。

 

「良し、戻るぞ」

 

「え? 戻るんですか?」

 

「おう。縄張りギリギリって事は奪い合いとかになってる可能性が高いからな。ここから果樹園の近くまで戻って暫くはそこら辺までにしようと思う」

 

果樹園はカルネ村の貴重な収入源の1つでもあるので、モンスターに荒らされたりしたら都合が悪いし、何よりもナザリック以外でも黄金の果物や野菜が作れるかの実験中なのでそこを基点にする。

 

「ここら辺にアウラがテイムしてるモンスターを配置してくれ、ここを基点にして……リザードマンの集落に続く道とカルネ村周辺にぐるっと輪を描く感じで」

 

地図に円を書きアウラに見せる。まずはここら辺が強力なモンスターの縄張りと言う事にして、トブの大森林に元から棲んでいるモンスター達を遠ざける。これを何日も続けて、エンリ達が出歩ける安全圏を作り出す。

 

「判りました。襲ってきたモンスターはどうしますか?」

 

「……可哀想だが殺してくれて構わない。その後はカルネ村に運んで保存食等に加工する」

 

手負いの獣にすると危険なので俺達の領域に入ってきたモンスターは処理せざるを得ない。

 

「だから縄張りを主張するモンスターは強めにな?」

 

「了解です!」

 

とは言え無益な殺生は俺としても容認できる物ではないので、トブの大森林に棲むモンスターよりも強いナザリックのモンスターを使うようにアウラに指示を出し、果樹園と畑の方に足を向ける。

 

「良い具合に育っているな」

 

「あ、ありがとうございます! 僕もお手伝い頑張ってます」

 

「そうか、偉いぞマーレ」

 

わしわしとマーレの頭を撫でて果樹園と畑で忙しく働いているエルフとカルネ村の住人に視線を向ける。俺が見ているのに気付いて頭を下げるエルフ達に手を振り踵を返す。

 

「中に入らないんですか? カワサキ様」

 

「ああ、俺は料理はするが栽培まで詳しい訳じゃないからな。餅は餅屋、専門家に任せることにするさ」

 

ガチャで当てた野菜の種は沢山あるし、農作業をしている専門家が上手に育ててくれた方が良いし、素人考えで専門家と張り合おうとするのが土台無理だと俺は思う。

 

「それに俺がやりたいのは果樹園とかじゃないしな」

 

「田んぼでしたっけ?」

 

「そうそう、カルネ村は川が近いし田んぼで稲作をやりたいんだ」

 

この世界にも米はあるが少量だし、余り流通していないので値段も高い。米を育てるよりも、小麦や粟を育ててるほうが手間暇が少ないらしい。しかしだ、如何にガチャで大量に米があるとは言えその消耗量はかなりの物だし、何よりもダグザの大釜で毎回作るのも面倒だ。それならばカルネ村で稲作をしたほうが良いと言う考えになるのは当然の事だ。

 

「で、でもカワサキ様は稲作出来るんですか?」

 

「はは、出来んな!! だから最初は失敗前提だな」

 

最古図書館で調べはしたが所詮は素人知識、最初は失敗するだろうがそれもまた良し。何事も成功する前には失敗するものだからな、まぁカルネ村に移住してきた者に稲作経験者がいないかな? と期待はしているが望み薄だろう。

 

「だから色々やってみよう。えっと、これとこれとこれ。アウラとマーレはどれがいいと思う?」

 

「え? 私が意見してもいいんですか?」

 

「……無礼じゃ?」

 

「良い良い、そんなの気にしなくていいから、そうだな。俺の畑とアウラとマーレので3つ作ってみるか、ハムスケ穴掘り頼むぞ」

 

「お任せでござる!」

 

誰のが1番良いか、ちょうど本によって紹介している田んぼが違うので、それを試してみるのも面白いなと思いながら俺はトブの大森林からカルネ村へと引き返すのだった……。

 

 

 

 

アゼルリシア山脈の中での偵察は想像以上に辛い物だった。常に凍傷に警戒せねばならず、誰か1人は寝ずの番をして火を見守り続けねばならない……そして凶悪なモンスターの出現に戦闘中の雪崩と警戒すべき物は山ほどあり、更にアゼルリシア山脈の生態系の頂点である霜の竜(フロスト・ドラゴン)や霜の巨人(フロスト・ジャイアント)に遭遇した時ほどイビルアイが一緒にいてくれて良かったと思う、そうでなければ確実に死んでいた。それほど過酷な偵察任務だった。それでも成果は確実に私達は得始めていたのもまた事実……定期的に現れるスレインの神官、その行き先はクアゴアが制圧しているドワーフの集落だった。

 

「どう見る? ラキュース」

 

「そうね。スレインの十八番が洗脳ってことを考えると、クアゴアとドワーフの争いも演出された物の可能性があるわね」

 

そもそもクアゴアとドワーフはアゼルリシア山脈の広大な土地で棲み分けしていたはずだ。それなのに急にクアゴアがドワーフの襲撃を始めたのもきな臭いものがある。

 

「ドラゴンの事を忘れるな。全てがスレインと思えば足元を掬われるぞ」

 

イビルアイの警告を聞いて、それも考えられると認識を改める。スレイン法国がアゼルリシア山脈で暗躍しているのは間違いないが、ドワーフとクアゴアの争いには関係ないかもしれないし、そうではないかもしれない……。

 

「とりあえず1回戻りましょう。ティナ達も戻っていると思うし」

 

私とイビルアイとガガーラン、そしてティナとティアの別口で行動しているがそろそろ雪の中で活動するのも限界だ。シェルターにしている洞穴へとイビルアイの転移で戻る事とした。

 

「あ、おかえり」

 

「いまお湯を沸かしてる」

 

既に洞穴の中にいた2人が焚き火とお湯を沸かしてくれているのを見て、着ていたマントを脱いで岩肌に掛けて乾かす。

 

「さむ……お湯沸いたら即席スープにお湯を入れてくれ」

 

「ん、了解」

 

「私は麺を貰う」

 

カワサキさんが作ってくれたという持ち運び出来る食料――お湯を注ぐだけで作れるスープとパスタとは違う麺料理、それと米を使ったオートミールのような物はとてもありがたいものだった。お湯を入れるだけで良いと言うのが本当に便利だ、なんせ私達の中に料理は出来ても、美味しいか? と言われると微妙という面子ばかりが揃っているからだ。

 

「リーダーは?」

 

「とりあえず、今はフルーツバーとスープでいいわ。メモしておきたいの」

 

鞄から取り出したフルーツバーを口に咥え、ティナ達の偵察のメモを受け取り、自分達の偵察した時のメモと合わせる。

 

(遠くだとこれが限界かもしれないわね)

 

乾燥した果物が練りこまれたこのフルーツバーは糖分も取れて、お腹も膨らむ。後少し焚き火で炙っても美味しいし、嵩張らないし実に便利な食べ物だと思う。

 

「ほれ、ラキュース」

 

「ん、ありがと。ガガーラン」

 

即席スープの入ったカップを受け取り1口啜る。冷えた身体に野菜の甘みが溶け出したスープの味が実に心地良い、岩の上にカップを置いてペンを走らせる。

 

「やっぱりこれ以上は無理か?」

 

「うん。これ以上知りたかったらドワーフの都に侵入しないといけないけど……行ける?」

 

イビルアイはドワーフの首都に行った事があるので転移出来るはず。行けそう? と尋ねるとイビルアイは首を左右に振った。

 

「スレインの神官が侵入してる可能性があるのなら転移は避けるべきだ。転移封じをされて囲まれたらどうにもならんぞ、女を嬲り者にするのが当たり前と考えている連中の所に行くのはお勧めしない」

 

竜王国でスレインの神官が女は子供を生む為の道具に過ぎないと言っていたのは有名な話だ。転移封じされ、その上操っているモンスターで囲まれて体力を削り取られて強姦される可能性があると言われれば、流石の私も二の足を踏む。

 

「仮にスレインがいなくともドラゴンが巣食っているから避けるべきだわな」

 

「ん、目的のドワーフの集落の入り口が判ったからそろそろ撤退してもいいと思う」

 

即席麺を啜りながらティナがそう提案する。確かに目的であるドワーフの集落の入り口は見つけているけど……。

 

「もう少し雪山を調べてからにしましょう」

 

「……ちなみにその理由は?」

 

嫌そうにしているティアを見て、そんな顔をしないでよと思いながらまだアゼルリシア山脈を調べる理由を口にする。

 

「魔法学園の開校と、4ヵ国同盟でエ・ランテルにスレインの注目を集めてるのに、スレインが残ってる間にアゼルリシア山脈に乗り込んだら意味がないわ」

 

今回の最大の目的はスレインがいない間にドワーフを4ヵ国同盟に組み込むことだ。その真意を気付かれて、ドワーフを全滅させられたら意味がない。

 

「つまりまだ雪山生活ってことか」

 

「……いい加減にカワサキのご飯が食べたい」

 

「……美味しいけど、これには飽きてきた」

 

「確かにな……」

 

「そんなに落ち込まないでくれる? 私も同じ気持ちなんだから……」

 

のんびりとお風呂に入りたいし、固い地面で寝続けるのも流石にしんどくなってきてる。それでも依頼として受けたのだからまだ頑張らないといけないのだ。だけど皆の士気が下がり始めているのも事実で……。

 

「イビルアイ、今度物資の補給に行く時にカワサキさんの店を予約してくれる?」

 

ぱぁっと顔を輝かせるイビルアイとティナとティアの3人に苦笑する。これだけでテンションを上げてくれるのは嬉しいけど、アゼルリシア山脈を出るのはまだ先なのだ。

 

「皆頑張ったしね。全部終わったらカワサキさんの店でぱーっとパーティをしましょうか」

 

「はは、それは良いな!」

 

「……頑張れる!」

 

「好きな物を頼むのも良いな」

 

「……肉ッ!」

 

さっきまでの暗い顔を一転させる皆に釣られて笑いながら、私は偵察の内容をメモしたノートを鞄の中にしまい焚き火の近くに腰掛ける。まだまだアゼルリシア山脈の捜索と偵察は続くが、皆と一緒なら大丈夫。心からそう思うのだった……

 

 

メニュー125 山賊焼き へ続く

 

 




ちょっとここでインターバルを挟みました。大きな動きはありませんが、これでも大分色々物事が動いているという感じです。
次回からはまた料理メインで話を書いて行こうと思いますので楽しみにしていてください。それでは次回の更新もよろしくお願いします。

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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