生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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下拵え その1

下拵え その1

 

荒れ狂う樹木の化け物……俺が鍋を投げたのが原因で……しかも湖にはリザードマンが居るとの事。とんでもない事をしてしまったと顔から血の気が引くのが判る。

 

「モモンガさん。あの樹倒せないか?」

 

「倒す事は出来ますよ?ですが意味ありますか?」

 

リザードマンはユグドラシルに居ない種族なので興味はありますが、労力を使う事もありますか?と問いかけられる。だからなんでこういう時にオーバーロードの精神性が出てくるかな……

 

「レベリングが出来るのか試したいって言っていたじゃないですか、助ければ恩に感じてくれると思いますよ?」

 

本当はそんな事は考えていないが、俺ではあの化け物を倒す事が出来ないので、利用価値があるから助けましょうという方向で説得を試みるが……

 

「ふむ……確かにクレマンティーヌを酷使するわけには行かないが……だがリザードマンである必要が感じられませんね」

 

……ぬう……リザードマンを助けたいという方向性じゃ駄目か……何か何か無いかと考え樹木の化け物を見つめていると食材適正の数値が浮かんだ。

 

「モモンガさん、あのモンスター食材適正、80、60、55って破格の数値を持ってるぞ」

 

「ほう。それは興味深い、あのモンスターの何処に食材適正があると?」

 

距離があるのでそこまでは判らない。だけどこの世界でもっとも食材適正が高い個体だ。

 

「後あの湖。綺麗な淡水だ、魚も生息していると思う。食材を定期的に確保できるのは重要じゃないか?リザードマンは可能なら配下に加えるって感じで」

 

「配下に加える必要性は見えませんが、カワサキさんが料理したいと言うのならあの樹を倒すとしましょうか……ふむ、守護者もナザリックに閉じ込めている訳だ。連れて来て、守護者にやらせてみましょうか」

 

何とかあの怪物を倒す方向性になってきた事に安堵する。俺の軽はずみな行動でリザードマンの集落が潰れるというのを見ているのは心苦しい……

 

「トブの大森林に破滅の竜王とかいうのが居るって言ってたけどあれか?」

 

「どう見ても、トレントかイビルツリーですが……もしそうなら漆黒聖典を引き寄せる餌になりそうですね。よし、あれの原型が残る程度に叩きのめして、漆黒聖典をおびき寄せる餌にしましょう」

 

 

漆黒聖典をおびき寄せる餌を確保するついでだが、とりあえずあの樹の化け物を倒す事で決まった事に安堵する。

 

「では1度ナザリックへ戻りましょう。クレマンティーヌにも話を聞きたいので、アルベドに連絡を入れておきます」

 

「……判った」

 

これがモモンガさんにとっての譲歩だ。後は俺達が戻る前にリザードマン達が全滅しないように祈るしかない。

 

(感情的になったら駄目だな)

 

俺が感情的になって鍋を投げたのが原因だ。今度から絶対にするまいと心に誓い、今度やるならハンマーで叩き潰そうと決めたのだった……

 

「顔を上げ、至高の御方の御威光に触れなさい」

 

……玉座の間に戻ると守護者達が片膝立ちで待機していた。モモンガさんの命令だろうか……メッセージでアルベドに連絡すると言っていたけど……これは予想外の光景だ。モモンガさんがゆっくりと王座に腰掛け、

 

「カワサキさんもどうぞ」

 

何時の間にかその王座の隣に同じような王座が用意されていた。……俺には場違いだと思うんだが、座らない訳にはいかないか……

 

「集まって貰ったのは他でもない。トブの大森林にて実験中、非常に巨大なモンスターが出現した。勿論恐れるに値しない弱いモンスターだが……カワサキさんが拠点の1つとして欲しいと言っている湖に向かっている。このままでは湖が干上がるのは間違いない、その前に駆除を行いたいと考えている」

 

……前から思っていたんだが、俺と話す時と魔王ロールしてる時の口調別人過ぎるだろう?パンドラズ・アクターの役者の面って実はモモンガさんの素の部分じゃないのか?

 

「アインズ様、カワサキ様。クレマンティーヌをお連れしました」

 

「ご苦労」

 

ピッキーがクレマンティーヌを連れて来た。なんで連れて来たんだ?と俺が首を傾げているとモモンガさんは遠見の鏡を取り出す。

 

「トブの大森林で非常に巨大なモンスターが出現した。これが破滅の竜王とやらか?」

 

「……多分ですけど。そうだと思います、予言では非常に巨大なモンスターと言われていたので」

 

ドラゴンじゃないのに破滅の竜王ってなんでなんだ?と俺が首を傾げていると、クレマンティーヌが説明を続ける。

 

「私も伝承に詳しい訳ではないのですが、数百年前に突然空を切り裂いて現れた化物の一体として「破滅の竜王」や「災厄の竜王」と呼ばれるモンスターが何体か存在しているとの事です」

 

また100年ってキーワードが出てきたな……もしかするとユグドラシルのモンスターって可能性も出てきたな。

 

「なるほど、脅威であるからか……くだらん。だがあれには利用価値が生まれた。漆黒聖典をおびき寄せる餌として利用するが、カワサキさんが望んでいる湖を干上がらせる訳には行かない。そこでだ、我がナザリックが誇る守護者達よ。ゲームをしよう」

 

ゲーム?モモンガさんが何を考えているのか判らない。一体何をするつもりなんだ。

 

「まずだが、トブの大森林へ向かい。アウラの鑑定でモンスターのステータスなどを調べた後だが……あのモンスターには食材適正のある部位が3箇所存在するらしい。それらをカワサキさんに献上するのだ。カワサキさんの助言は無し、自らの感性であのイビルツリーの食材適性のある部位を発見してみせよ」

 

「いや、それだとシャルティアとコキュートスが不利過ぎるだろ?」

 

カースドナイトであるシャルティアは特定のアイテム以外は触れる事が出来ないし、コキュートスはその冷気で物に触れるのも厳しい……俺はアイテムボックスに手を突っ込み、2つのアイテムを取り出す。

 

「シャルティア。こっちへ」

 

「は、はいでありんす!」

 

名指しで呼ばれたシャルティアが緊張した面持ちで近づいてくる。その姿に苦笑しながら取り出した手袋を差し出す。

 

「これはクックマンの見習いが装備するアイテムだ。食材適正のあるアイテムが毒や呪を持っていても触れる事が出来る。これをお前に貸し与えよう」

 

本来は採取を持たないプレイヤーの補助アイテムだが、クックマンの装備になると強い呪耐性を持つ。これでシャルティアでも道具に触れることが出来るだろう。

 

「そ、そんなカワサキ様の所有物をお借りするなど、恐れ多いでありんす」

 

……NPCの反応が読めんと苦笑しながら、手袋を無理やりシャルティアに握らせて言葉を続ける。

 

「お前が見つけてくることを期待している。見つけても、触れる事が出来ないでは話にならないだろう?他の守護者も異論は無いな?アイテムを持てないシャルティアに助けを出す事に」

 

異論ありませんと言う返事が返ってくる。元々俺の決定に異論を挟む事はないのだろうが、これで大丈夫だろう。

 

「期待している」

 

「ご、ご期待に必ずやお応えするでありんす!」

 

気合の入った様子のシャルティアが下がっていくのを見送り、今度はコキュートスを呼ぶ。

 

「コキュートスには冷気を抑えるアイテムだ。これである程度は大丈夫だろう」

 

「……心遣イニ感謝イタシマス」

 

こっちもクックマンの装備にある、絶対に溶ける事の無い氷の刃を持つ包丁を装備するときの専用装備だ。これがないと冷気が強すぎ、料理にならないのだ。これならきっとコキュートスの冷気も抑えてくれるだろう。

 

「アインズ様。確かその湖にはリザードマンが生息しているとアウラの調査で聞きましたが、リザードマンはどうするのですか?排除いたしますか?」

 

「いや、リザードマンにはリザードマンの利用価値がある。今頃あのモンスターの攻撃で壊滅寸前になっているだろう……そしてそのモンスターを排除してやれば、恩義を感じ忠誠を誓うだろう。もしそうでない時は排除をするが、忠誠を誓う者を殺すことは無い」

 

デミウルゴスの問いかけに今は殺しはしないと言うモモンガさん。敵対すれば殺すと言っているので、出来れば敵対しないで欲しいが……

 

「ではカワサキさんはナザリックで待機を」

 

「いや、行くよ」

 

駄目ですとモモンガさんが即答する。俺はアイテムボックスから釣竿を取り出して、

 

「何も戦闘に参加する訳じゃない。湖で釣りをしてるからさ、プレアデスで誰か護衛を……あ、あとクレマンティーヌも連れて湖の安全な場所で釣りしてるよ」

 

モモンガさんは少し悩んだ様子だが、良いでしょうと許可を出してくれた。

 

「アルベド。ナーベラル・ガンマを呼べ、カワサキさんの護衛任務を与える」

 

「畏まりました」

 

ナーベラルか……確か弐式炎雷のNPCだったな、ドッペルゲンガーで高位の魔法詠唱者だ。護衛としては最適だろう。

 

「ナーベラルが合流次第出発する。お前達の忠誠を私とカワサキさんに見せてくれ」

 

なんか話がずれてきた気がするが……それでもリザードマンを一応は助けてくれるらしいから、我慢するしかないだろう。

 

「ではカワサキさん。結界や自動で反応するスクロールを用意しておきます、良いですね?勝手に移動しないでください」

 

「判ってる判ってる」

 

俺とナーベラルとクレマンティーヌを湖の畔に残し、大森林の中に入っていくモモンガさんと守護者達を見送る。

 

「カワサキ様。どうぞ、椅子などをご用意致しました。ごゆっくり釣りをお楽しみください」

 

そして湖には似つかわしくない机や椅子を用意したナーベラルに、ありがとなと返事を返す。正直罪悪感で一杯なのだが、そんな事を言える空気じゃなくて、少し胃が痛くなった……

 

「クレマンティーヌは釣りは出来るか?」

 

「少しだけやった事あります」

 

ナーベラルがいるので敬語のクレマンティーヌ。釣りの経験があるというので2本の釣竿を用意しようとし……ナーベラルがこっちを見つめているのに気付く。

 

「ナーベラルもやってみるか?」

 

「いえ、私は護衛ですので」

 

だから大丈夫ですと言うナーベラルだが、正直あの樹の化け物が暴れているので敵対者なんて現れる訳も無いし、モモンガさんが念入りに防衛呪文を発動してくれたので安全性も確保されている。

 

「教えてやるからやってみろ。面白いぞ」

 

クックマンには一律指導のスキルがある、自分の持っているスキルのレベル以下の同じスキルを対象者に与える事が出来る。釣りは魚を確保するのに取得しているので、ナーベラルも釣り出来るぞと笑い。3本分の釣竿を用意するのだった……

 

 

 

 

 

カワサキさんとクレマンティーヌの護衛としてナーベラルを湖の畔に残し、守護者達と共にトブの大森林を荒らし回っている巨大な樹木の討伐へ向かうその最中、

 

「あわわわ!大変ザイトルクワエが復活しちゃった!」

 

慌てた何者かの声が響いてくる。どうしますか?とアルベドが尋ねてくる、この場合のどうしますか?は排除するか、否かと言うことだな。

 

「情報源となりえる可能性がある。まずは声の主を探してみるとしよう、アウラ捕捉は?」

 

「出来てます。あの樹の後ろです」

 

言う前に仕事を完了しているアウラにそうかと返事を返し、アウラが指差した樹の後ろを覗き込むと、そこにいたのは頭に葉っぱを持つ森精霊(ドライアード)の姿だった。

 

「だ、誰!そ、それよりも良い所に来てくれたよ!前にザイトルクワエを倒した7人を連れて来てくれ……」「アン?」「ひっ!」

 

私に無礼を働いたと言わんばかりにアルベドが睨みつける。その殺気に息を呑むドライアード……溜息を吐きながらアルベドだけでは無く、他の守護者達が排除に動こうとしたのを手で制す。

 

「私はアインズ・ウール・ゴウン。お前は?」

 

「わ、私はピニスン・ポール・ペルリア……です」

 

守護者達に睨まれ敬語で名乗るピニスンに背後で暴れているイビルツリー……ザイトルクワエだったか?と尋ねる。

 

「そ、そうなんです!えっと、あいつが暴れると世界が滅びちゃうから、前にあいつをやっつけた7人を連れて来て欲しいんです」

 

前にあいつを倒した……か。アウラにザイトルクワエとやらの強さの調査を命じると、親指と人差し指で輪を作りそれを覗き込む。

 

「レベルは……80から85。ステータスはそれほど高くないですが……体力が測定不可能です!」

 

「測定不能……レイドボスクラスか」

 

あのドライアドの話を信じるなら、前にあれを倒した存在が居るらしい……つまりこの世界にも80レベルのモンスターを倒せる戦士が居ると言う事か……?

 

「ちなみにそれはどれくらい前の話だ?」

 

「い、いっぱい太陽が昇った時です」

 

……ふむ。つまりかなり昔と言うことか?ドライアードの時間の間隔が判らないが、既に死んでいる可能性が高いな。

 

「君はあのザイトルクワエからは自力で逃げられないと見たがどうだね?」

 

「う、そ、そうです……このままだとあいつに食べられちゃいます……」

 

やはりか。ドライアードの特性上、本体から離れる事は難しい……だがここでドライアードに出会えたのは幸運だ。森精霊と言うだけあり、作物などの知識は豊富だろう。

 

「もし君が私に協力するなら助けてやろうじゃないか。もっと日当たりが良い所にも移し替えてやろう、どうだ?」

 

「……このままだと食べられちゃうだけだし……助けてくれるなら」

 

「交渉成立だ」

 

命が掛かっている場面だからこそ、深く考えないで私に協力すると言ったピニスンに背を向け、私達は再び森林の中を歩み始めたのだった……

 

「アインズ様、何故あのような下等な生物を招き入れると?」

 

「カワサキさんへのお土産だ。あいつがいれば作物の育成が楽になるだろう?カワサキさんが喜ぶじゃないか」

 

果物に野菜。森精霊となれば栽培の知識は豊富だろう、ナザリックには無い知識を持ち、しかも戦闘能力が無いなら謀反の心配も無い。これは有益な取引と言えるだろう。……そんな話をしていると干上がった湖とボロボロになった樹木が目立ってくる。ザイトルクワエは近いようだ。

 

「私がやってしまえば早いが……ここはお前達の働きを見るとしよう。パンドラズ・アクター、お前はこの場に残り私の護衛につけ」

 

「は!どうぞ、モモンガ様」

 

パンドラズアクターが運んでいた椅子に腰掛け、肘掛けにもたれ掛かる。……と言うか、こいつ今俺の事モモンガ様って呼んだな。パンドラには改名した事を伝えてなかったか?まぁどうでも良いが。

 

「では行くが良い。もしも無事に食材適正のあるものを回収してきたのならば、そうだな……その食材を使ってカワサキさんに料理を振舞ってくれるように頼んでやろう。無論その食材を回収した者のみが口に出来ると言うのはどうだ?」

 

息を呑む守護者達。その目にやる気がみなぎるのを見て、やはり褒美を出すのは正解だなと確信する。

 

「では行くが良い。ああ、判っていると思うがカワサキさんが湖の畔で釣りをしている。そちらには決して被害を出さぬように、そしてもしリザードマンを見つけても勝手に攻撃はするな。判ったな」

 

「「「「「「はっ!!!」」」」」」

 

私の言葉にその場に跪き、返事を返した守護者達が弾丸のような勢いで駆け出していく。私の護衛として残ったパンドラズ・アクターと共に、ザイトルクワエへと襲い掛かる守護者の戦いに視線を向けるのだった……

 

「モモンガ様。コキュートス様が樹木の間に消えましたが?」

 

「蟲王だけが感じ取れる何かがあるのやもしれん」

 

触手を2本切り落とし、即行で消えて行ったコキュートスにもしや蟲王の個性で何か見つけたのかもしれないと呟くのだった……

 

 

 

 

湖で釣りをすると言った俺だが……1つ判った事があった

 

「あう……」

 

「うんうん。判ってる判ってる、おいで」

 

「すみません」

 

ナーベラルが超級のドジッ子だったという事だ。スカートに釣り針を引っ掛けるに始まり、背後の樹、クレマンティーヌのシャツ、俺の鞄など魚以外を釣り上げまくってくる。失態に失態を重ねたと言わんばかりに涙目のナーベラルのスカートに引っ掛かった釣り針を外してやる。こうなると自分の釣り所ではなく、ナーベラルの指導に熱が入ってくる

 

「振りかぶるから駄目なのかもな。こうやってやってみ」

 

片手に竿、もう片方に針。針を放して、竿を振り上げ、遠心力で仕掛けを湖に投げ入れる方法を教えてやるとやっと仕掛けを湖に投げ入れる事に成功した。物凄く嬉しそうに笑っている……俺は自分の竿を見てそろそろ釣りを始めれるか?と考えていた

 

(ドジッ子が原因か?それともスキルの指導の問題か?)

 

俺の釣りのスキルが10なので、最低でも4はあるはずなんだが……ナーベラルの性格の問題だろうか?

 

「よっと!やりいッ!」

 

「上手いなあ。クレマンティーヌ」

 

順調に魚を釣り上げているのはクレマンティーヌ。1時間ほどで5匹とは恐れいる。……しかしこの魚はなんだろうな?細長い割りにでっぷりと肥えている。俺の知っている魚には該当しない種類だ。

 

「へへ。漆黒聖典で隠密行動が基本だからさ……魚釣りとか、狩猟とかって必須技能なんだ」

 

「スレイン法国はあほなのか?いや、アホだな」

 

疑問系じゃないな、確定でアホだ。隠密行動と言っても食事まで隠密行動にする必要性が何処にあるのか?俺には皆目見当がつかない。

 

「……空振り……」

 

仕掛けを投げ入れる事が出来たナーベラルだが、今度は空振りを連続している。この湖、恐ろしいほどに魚影が濃いなあ……

 

「従属神様。もう少し浮きが沈むのを待ったほうがいいですよ?」

 

「ゴミ……んぐ、クレマン……?」

 

「クレマンティーヌです」

 

あんまり空振りを連続するので、クレマンティーヌがアドバイスをするが、今ゴミ言いかけなかったか?

 

「見ててくださいね。浮きが半分位沈んだところで……よっと」

 

クレマンティーヌが竿を上げると、穂先が小気味良く湖に向かって曲がる

 

「よし。はい、どうぞ。慌てて引き上げないで、ゆっくり魚を弱らせてくださいね」

 

「あ、ありがとう……」

 

そして魚を引っ掛けた竿をナーベラルに握らせ、ナーベラルの竿で釣りを再開する。人間軽視の設定のナーベラルだが、俺の目の前であると言う事と、態々ひっかけてから竿を渡してくれたクレマンティーヌに自然な様子でありがとうと告げている。

 

(NPCもやっぱり変わるんだな)

 

生きてる者は変わる。それは間違いない、NPCもこの調子で変わって行ってくれるといいが……ナーベラルはクレマンティーヌに任せることが出来そうだ。ナーベラルが釣りを教わっている頃、モモンガ達はと言うと……

 

「採ッタ!樹液トッタ!!!!」

 

ザイトルクワエの樹の隙間に身体をもぐりこませたコキュートスが黄金色に輝く樹液(食材適正55)を確保していた……

 

「さーてじゃあそろそろ俺も始めるかな」

 

俺も釣りを始めるか……2人の竿よりもやや長い竿で湖の中の樹木に向かって振り込む。浮きが馴染んで数秒、

 

「来たッ!!!」

 

浮きが凄い勢いで湖の中に消える。竿に伝わってくる手応えから恐ろしいほどの大物である。

 

「っとと」

 

椅子から立ち上がり、右へ左へ動き回る。なんだ、何が掛かった!?本当にこれは淡水の魚なのか!?

 

「うわ!凄い大物が食ってる!」

 

「網!網!!」

 

網を探してうろうろするナーベラルにやっぱりあいつはドジっこだと確信する。だってナーベラルの背後にあるからな、網。

 

「従属神様!後ろ!後ろです!」

 

「あ、あった!」

 

クレマンティーヌに言われてやっと網を手にしたナーベラルが駆け寄って来た頃。謎の魚の顔が水面に出た。

 

(なんだありゃあ!?)

 

細長い頭部をした2M近い巨大魚が水面を割って姿を現した。網を持っているナーベラルの顔が超引き攣る。だが俺でも引き攣るわ……こんなん出てきたら……

 

「網じゃ駄目だ!タオル!タオルを腕に巻いてくれ!!ナーベラル!竿持て!竿ッ!!!」

 

「わ、判った!」

 

「か、畏まりました!」

 

クレマンティーヌに腕にタオルを巻いてもらい、ナーベラルに竿を渡し、タオルを巻いた腕で巨大魚の口に腕を突っ込み、筋力に物を言わせて湖から引きずり出す。

 

「でかあ……こんなの初めて見るよ」

 

「流石カワサキ様。私達とは釣り上げる物が違いますね」

 

こんなの狙ってたわけじゃないけどなと苦笑し、立ち上がろうとした時。ガサリと背後の茂みが音を立てる。ナーベラルが即座に顔色を変えて俺の前に立つ。茂みから俺達を見つめていたのは、戦装束を施したリザードマンの姿だった……。そしてカワサキ達がリザードマンと遭遇した頃、

 

「やった!木の実ゲットー♪」

 

「こ、これは食べられるよね」

 

ザイトルクワエの攻撃用の果実ではない、赤い見るからに食用の果実(食材適正60)をアウラとマーレが入手していたりする……

 

 

 

 

俺達の集落を叩き潰した巨大な樹の化け物を倒す為に、生き残ったリザードマンの戦士を集めた。だが勝てないことは判っている、それでも挑まないわけには行かなかった……死んだ同じ部族の皆の仇をとる。それだけで勇士は集まった。竜牙のゼンベル、朱の瞳のクルシュ、鋭き尻尾のキュクー、そして緑爪から兄シャースーリューと俺ザリュース……どうせ全滅するのならと族長達全員が先陣を切り戦に来たのだが、沼地に見たことがないオレンジの異形と2人の人間の姿があった。

 

「お前達は……蜥蜴人【リザードマン】か」

 

「カワサキ様。何も御身自らが」

 

「いや、構わない」

 

オレンジの異形が俺達にそう声を掛けてくる。黒髪の人間は敵意を見せているが、オレンジの異形はそうではない様子だ。しかもこの3人の中で一番権力があるように思える。

 

「そうだ。緑爪のザリュース・シャシャ!貴方は何者か!」

 

友好的ならば交渉するべきだ。俺がそう判断し名前を名乗り、名前を問いかける。異形が口を開く前に黒髪の人間が恐ろしいほどの殺気を放つ。その殺気に思わず後ずさりしてしまった……

 

「蜥蜴の分際で御身になんと言う無礼……死んで詫び」「やめんか!馬鹿ッ!」

 

オレンジの異形が黒い髪の人間の頭を叩き、前に出る。

 

「すまない。ナーベラルは気が荒くてな。俺はカワサキ、料理人だ」

 

料理人?料理人が何故こんな所に……湖に魚を取りに来た?この状況で?

 

「お前。あの樹の化け物が見えてないのか?」

 

「逆に尋ねる。お前ら死ぬって判ってて、あれに挑むつもりか?悪いことは言わん。止めとけ止めとけ、死ぬだけだ」

 

ゼンベルの言葉に止めとけ止めとけと笑い、釣り竿を手にしたカワサキはそれを再び湖に投げ込むと、

 

「俺の仲間があれを倒しに来てる。大人しく待ってろ、もうじき終わる。見てみろ」

 

カワサキに言われて巨木に視線を向け、目を見開いた。無数の影があの恐るべきモンスターの身体を抉っている姿が見えたからだ……あれが何者か?と尋ねようとした時、クルシュに腕を掴まれた。その手は震えていて、身体は小刻みに震えている。

 

「どうした?」

 

「駄目よ。ザリュース……あのカワサキって名乗った異形は……私達の中の誰よりも強い」

 

その言葉に嘘だろとゼンベルが呟く。あんな丸っこい姿で俺達よりも強いなんて到底信じられない。

 

「忠告は感謝する。だが俺達は誇り高き蜥蜴人【リザードマン】として黙って見ていることなど出来ない」

 

兄者が頭を下げ、カワサキの横を通り抜けようとしたとき。カワサキは竿でその行き先を塞ぎ、声を荒げる。

 

「聞こえなかったのか?黙って!大人しく!待ってろ!!」

 

柔らかいさっきの声とは違う。威圧に満ちたその声に兄者だけではない、俺達全員の動きが止る……カワサキと名乗った異形の隣の2人の人間はその姿を見て自慢げとも言える表情を浮かべている。俺達がその言葉に動きを止めた訳ではない、カワサキの言葉と共に起きた現象に足を止めたのだ……

 

「「「「「これは……まさか!祖霊様!?」」」」」

 

俺達の回りを浮遊する色取り様々な光……まさかカワサキは祖霊様の使いだと言うのか……あの威圧的だったゼンベルですら、動きを止め、祖霊様とカワサキを交互に見つめている。

 

「命は無駄に捨てるなよ。何の為に俺がここにいると思ってるんだ?」

 

「ま、まさか俺達を止める為?」

 

そんな所だと笑うカワサキは湖から魚を釣り上げ、ナイフで刺すと入れ物の中に放り込むと、こちらに近づいてくる存在へと顔を向けた。

 

「ほら来たぞ。俺の朋友が」

 

顔を上げるカワサキに続き、顔を上げる。そこには黒いローブを靡かせたアンデッドがゆっくりと舞い降りてくる姿があった……

 

 

 

 

カワサキさんから緊急事態と言うメッセージが来て、カワサキさんの待つ湖に転移してきたのだが……状況が今一理解出来ない。

 

(カワサキさん。何やってるんですか?)

 

(すまん)

 

謝るんじゃなくて状況を説明してくださいと心の中で呟く。カワサキさんの周辺に敵が現れた時に複数召喚され結界と幻術を発生させる下位のアンデッドを見て、祖霊様祖霊様と蹲るリザードマン……どういう状況だこれは?

 

「あ、貴方様は死の精霊様でしょうか?」

 

白いリザードマンが震えながら問いかけてくる。死の精霊……リザードマンが信仰している何かだろうか?だがこのキーワードと祖霊と言う言葉でシナリオが出来た。

 

「そうだ。お前達の祖先の頼みによって降臨した」

 

やはりと言うリザードマンの言葉と、カワサキさんの大丈夫?と言う視線。だがこれはカワサキさんのフォローなんだから黙っていて欲しい。

 

「目覚めた災厄の獣は私の配下が排除するだろう。命は無駄に捨てるな、生き続けろ」

 

俺何やってるんだろ……?だがこれは労せず、リザードマンを配下に加える機会……それならばそれを有効に利用してやろうじゃないか。あ、後カワサキさんにも責任を追及してやろう。

 

「我が友食事の神カワサキの頼みでもある」

 

(まだその設定を言うのかぁ!)

 

メッセージでの言葉に俺は返事を返さない。このまま本当に食事の神にしてやろうじゃないか。それに湖で魚とかを仕入れたいと言っていたんだから、リザードマンにも神として信奉された方が良いに決まっている。なおモモンガによるカワサキ神化計画が進められている頃、ザイトルクワエでは……

 

「この大口ゴリラぁ!これは私が見つけたんだ!」

 

「私が先でしたぁ!!!」

 

シャルティアとアルベドがザイトルクワエの頭頂部にある、明らかに他の草とは毛色の違う草を奪い合っていた……。なお、その背後には最初に発見し、2人に背後から殴られ昏倒しているデミウルゴスの姿があったりする。

 

「もうじきあの樹木の化け物は倒れる。お前達はこの近くの集落で集まって待っているが良い……今から使う魔法に巻き込む訳には行かないからな」

 

両手に魔法陣を展開し、脅すように言うとリザードマン達は慌てて去っていく。ザイトルクワエを倒したら集落に向かえばいいだろう。

 

「カワサキさん、もう少し流れを考えてくれませんか?」

 

「俺は釣りをしてただけだ。悪くねえ」

 

……もし本当にそうなら、カワサキさんは生粋のトラブルメイカーの可能性が出てきたなと溜息を吐く。

 

「あのザイトルクワエとやらをリザードマンに見えるように派手に倒してきます」

 

気をつけてなぁっと手を振るカワサキさんに手を振り返し、ザイトルクワエの頭頂部に向かうと

 

「採ったぁ!!わらわの勝ちだ!!!」

 

「きいいいいいいッ!!!!」

 

恐らく最後の適正食材の奪い合いをしていたであろうシャルティアとアルベドのボロボロの姿に、先ほどよりも深い溜息を吐くのだった……

 

 

メニュー14 異世界の魚のムニエル、しゃぶしゃぶへ続く

 

 




ザイトルクワエ戦はかなりスキップされました。こういう話があるとしか知らないので、ギャグっぽい食材争奪が行われていたと言うことで。次回は久しぶりに料理フェイズ、頑張って書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

  • 間違っている
  • 間違っていない

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