生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー129 日替わりうどん(エ・ランテル編)

メニュー129 日替わりうどん(エ・ランテル編)

 

朝方からずっと粉を捏ねているカワサキを見ながら私はずっと羽ペンを走らせていた。内容はそんなに難しいものではなくて、簡単に書く事が出来るけど流石に手首が痛くなって来たので羽ペンを机の上において、背もたれに背中を預けて大きく伸びをする。

 

「本当にできるのかなあ」

 

カワサキのやってる鰹節作りって本当に上手く行くのかな? と思いながら少し前の事を思い返す。

 

「お疲れ様、最近忙しいねぇ」

 

「だな、鰹節がな、中々上手く行かないんだよなあ」

 

ガウス達が加わってカワサキが居てもなお、鰹節を作る作業は難解を極めているらしく、鍋で煮ているスープを味見しているカワサキは何度も首を傾げている。

 

「そこのところどう思う?」

 

「……んんーちょっと味が薄いよね?」

 

味見してみてくれると言って差し出されたスープを飲むけど、カワサキの持ってる鰹節と比べるとかなり旨みが薄いように思える。

 

「だよなあ」

 

風味も味もいまいちで完成度が全体的に低いのが問題だ。勿論寒村ってことを考えればこれでも十分だが、カワサキはこれで納得する事はないだろう。

 

「鰹節ってもうないの?」

 

「いや、俺が使う分はあるぞ? だけどうどんを広げるには全然足りない」

 

うどんを広げる事が出来ればある程度は食事問題も改善できるかもしれないから鰹節を作る事を諦める事は出来ないのだろう、となれば私はそれを止める事は出来ないので少しだけ手伝いをする事にする。

 

「そっか、リリオットに調べてもらうように頼んどくよ」

 

ナザリックにいるリリオットに頼んで鰹節の作り方を図書館で調べてもらって、私もナザリックに帰った時は図書館で本を調べてみようと思う。

 

「悪いけど頼むわ、ちょっとだけ休んでくるから、チラシを頼むな」

 

「オッケー」

 

疲れた様子のカワサキを見送り、羽ペンを握って少しすると店の扉が開いた。

 

「手伝いに来ました」

 

「助かるよー、こっちこっち、時間がないから急いで急いで」

 

話もそこそこにロフーレの店の従業員にも羽ペンを渡して、やっとの思いでチラシの準備を終える事が出来たのは昼の鐘が鳴る少し前の事だった……。

 

(ロフーレの従業員が手伝ってくれてるけど流石に疲れた……)

 

私が書いていたのはチラシでその内容はこんな感じだ。

 

飯処カワサキ昼食時の特別メニューのお知らせ。

 

昼の鐘から夕暮れの鐘までの間の時間のみ日替わりうどんを注文すれば、牛丼(小)・親子丼(小)の2種類から1品無料。

 

うどんは銅貨5枚、大盛りで銅貨7枚。

 

1日目 たまごうどん

2日目 天ぷらうどん

3日目 肉うどん

4日目 冷やしうどん

5日目 きのこうどん

6日目 カレーうどん

 

詳しくは店頭の立て札でご確認ください。

 

※日替わり以外のトッピングの注文の場合は銅貨7枚、大盛りで銅貨8枚となります。

 

「これそんなに売れると思う?」

 

「正直判らん」

 

うどんはカワサキが偶に作ってくれるけど、私の知っている麺よりもかなり太くて、歯応えがあって喉越しが良い。そんな麺料理だ、後は馴染みの無い澄んだスープは味が深くて癖になるけど……正直あんまり馴染みが無い料理と言っても良いだろう。

 

「売れたの?」

 

「まぁ俺の知る限りではな。1品1品注文を受けて作るのも良いが、ある程度簡単に作れる料理があると楽なんだよ」

 

「シズ様達もいないしねえ」

 

私は下拵えは出来ても料理は出来ない。かと言ってシホ様やピッキーを連れ出すわけにも行かず、アルベド様達は言わずもがなである。だから今回の簡単な料理は教えてもらったけど、いつもの人数を見ると回転させれるのかと不安に思う。

 

「別にこういう料理が無くても回るんだが、この世界に料理を広げていきたくてな」

 

「まぁ簡単に作れそうだしね。茹でて御椀に入れてスープを入れてトッピングだよね?」

 

「そうそう、なにそんなに難しく思うことはないだろう」

 

「なんで?」

 

「人は安い方が良いし、麺料理と丼がつくならそれを選ぶだろ?」

 

「まぁ……そうは思うよ」

 

麺料理と丼セットで銅貨が5枚はかなり安い、駆け出しの冒険者にはかなりありがたいんじゃないだろうか? と思いながらそろそろ昼間の鐘が鳴るので机の上を片付け、完成したチラシを冒険者組合に持って行こうと店の外に出る。

 

「もう開店ですか!?」

 

若い、本当に駆け出しという感じのカッパーのプレートをつけた少年と言っても良い子供達が並んでいた。

 

「昼間の鐘が鳴るまで待ってね、まだ準備中だよ」

 

しょんぼりとした様子でわかりましたと返事を返す子供を見て、これ絶対忙しくなると悟り、私は早足で冒険者組合に向かうのだった……。

 

 

 

 

冒険者と言ってもそれだけで生計を立てる事が出来る者は少ない、ゴールドやプラチナになれば重宝されるがカッパーやアイアンでは薬草の収拾や、行商人の護衛という単価の低い仕事が主になり、どうしても副業をする事になる。

 

「お腹空いたね……」

 

「もうちょっとだよ、我慢しよう」

 

そして若い冒険者は食い扶持を減らすために送り出された次男や三男、そして見目があまり良くない少女もいる。カワサキの店の前に並んでいる冒険者はそういう子供達が大半だった。

 

「はーい、今から開店だよ。押し合ったりしないで順番に入って来てね」

 

愛想の良い女性に声を掛けられ、僕達はゆっくりと店の中に入った。

 

(こんな感じなんだ)

 

カワサキさんの店は噂では聞いていたけど、安いといっても駆け出しの僕達では中々入れない店だ。

 

「この日替わりうどんをください、後僕は牛丼を」

 

「わ、私も日替わりうどんを、ご飯は親子丼を」

 

「俺も日替わりうどんでご飯は牛丼を頼む」

 

「はーい、すぐ出来るから待っててねー」

 

厨房に向かっていく女性を見送り、机の上に置かれている冷たい水を飲んで一息ついた。

 

「少しくらいなら別の料理も大丈夫じゃないか?」

 

「駄目だよ、キル。今日の宿代がなくなっちゃう、ね。ユーリ」

 

「うん、気持ち的には食べたいけど我慢しよう」

 

ちっと舌打ちするキルと困ったように笑うレイを見ていると、僕達と同期の若い冒険者達が次々入店してくる。

 

「はい、お待たせ、卵うどんと牛丼、親子丼ね」

 

「すいませーん、注文良いですかー?」

 

「はいはーい、今行くからねー」

 

パタパタと駆け回る女性が机の上においてくれた料理に視線を向ける。

 

「「「ぐぐうう……」」」

 

食器から漂ってくる良い香りと甘い香りに僕達のお腹の鳴る音が重なった。

 

「あ、あははは、早く食べようか?」

 

「賛成」

 

「い、いただきます」

 

苦笑いしながら自分達が頼んだうどんと丼を自分のそばに引き寄せ、机の上のフォークを手に取る。

 

(良い香りだ……でもなんだろうこれ?)

 

馴染みの無い香りなのだが、どこかホッとする。そんな香りだ、それにスープも澄んでいて丼の底が見える。

 

「お、美味い! こんなに色が薄いのにすげえ美味いッ!」

 

スプーンでスープを飲んでいたキルにシーシーッと2人であわてて言うと厨房から大きな声が響いて来た。

 

「鰹と昆布って言う食材で作ってるスープだ、色は薄いが味は良いぞ! ほい! 出来たぜ」

 

「はいはーい」

 

怒られると思ったが、そうではなくて安堵し、僕もスプーンを手にしてスープを掬って口に運んだ。塩とは違う、でも塩に良く似た塩辛さだけどもっと深みがあって、それに塩辛いだけじゃなくて上手く説明出来ないけど……凄く沢山の味がする。

 

「「「……美味しい……」」」

 

僕だけではなく店の中の若い冒険者が溜め息を吐きながら美味しいと呟く声が木霊する。

 

「本当に美味しい。なんだろ、これ……」

 

「判らない、判らないけど……美味しい」

 

鰹節と昆布と言っていたけど、凄く良い味がする。干し肉とかの仲間だろうか? と思いながらスープの中に沈んでいる麺をフォークで絡めとろうとする。

 

「あれ?」

 

「ん?」

 

「上手く巻き取れねえ」

 

麺が太くてフォークで巻き取れないのでどうしようと思っているとカワサキさんが厨房から顔を出した。

 

「麺を掬い上げてそのまま食うんだよ。啜るって判るか?」

 

「「「啜る?」」」

 

どうやって食べるのか判らないでいるとカワサキさんが小さな御椀に麺を入れて、スープを注いだ。

 

「こうやって食うんだよ」

 

フォークで掬い上げて吸い込むようにズルルっと言う音を立ててうどんを食べるカワサキさん。

 

「え、音を立てて食べて良いの?」

 

「これはそういうもんだよ。ほれほれ、食った食った。冷めちまうぞ」

 

冷めると言われて、良いのかなと思いながらフォークで麺を掬いスープと一緒に音を立てて啜る。つるりとして滑らかな麺の食感とスープが口の中一杯に広がる。

 

「美味い!」

 

「美味しい~♪」

 

あちこちから聞こえて来る美味い、美味しいと喜ぶ声。麺はかむだけでプツリと噛み切れる、しかしつるりとした食感は損なわれず、スープと共に口の奥へと消えていく……。

 

「本当に美味しいや」

 

「うめえッ! いや本当に美味いぜ、噂通りだな」

 

凄腕南方の料理人で、貴族も御用達だが安くて庶民的と聞いていたけど、本当にその通りだ。馴染みの無い味なのに、凄く落ち着く味だ。

 

「ご飯もおいひい」

 

うっとりとした顔をしているレイを見て、うどんだけではなくご飯も食べようと丼に手を伸ばす。

 

(これも美味しそうだなあ)

 

甘辛い香りと卵の白と黄色の色合い、そして薄切りにされた肉を見てこれも美味しそうだと思いフォークでご飯とお肉、卵を持ち上げて口に運ぶ。

 

「んんーッ! 美味しいッ!」

 

「薄切りなのにめちゃくちゃ美味いよな!」

 

薄いお肉なのに、凄く美味しい。歯応えがあって適度な脂があって、玉葱と甘辛い味がいくらでも食べれるように思わせてくれる。ご飯にお肉の脂と玉葱の甘さ、タレの味が全部染みこんでいて……うどんと一緒に食べると最高に美味しい。最初は味の感想を口にする余裕があったが、半分ほど食べた所で完全に食べる事に夢中になり、先輩冒険者達がなんともいえない顔をしていたけど……僕達は無言でカワサキさんのご飯を食べ続けているのだった……。

 

 

 

 

足を引き摺るようにして俺達はカワサキの店に向かっていた。

 

「あちい……」

 

「流石に湿地帯の依頼はもう勘弁だな……」

 

それほど難しくない割りに報酬がいい沼地・湿地地帯の捜索依頼……。確かに簡単な物で、報酬もバッチリだったが余りにも蒸し暑くて飯を食う元気も無く、しかし酒では腹が膨れる訳も無く、カワサキの店のチラシにひやしうどんというメニューが書かれていたので、それを食いに行くかと言う事になったのだ。食欲は無いが飯を食わないと元気が出ないしな……。

 

「服も買いなおさないとな」

 

「靴は急ぎだな」

 

かびたり穴が空いた靴は早いうちに買いなおさないと次の依頼に間に合いそうも無い。報酬から出資を算段しながらカワサキの店へ向かう。

 

「あれ、イグヴァルジじゃん。時間ギリギリだね」

 

「……まだ食えるか?」

 

「良いよー、ギリギリって事でね」

 

クレマンティーヌがひらひらと手を振りながらおいでおいでと手招きするので店の中に入る。

 

「よう、なんだなんだ。随分と疲れてるじゃないか?」

 

「湿地地帯の依頼で蒸し暑くて、飯を食う元気もなくてな……この冷やしうどんって奴をくれ」

 

冷たいものなら食欲も出るだろうと思いながら冷やしうどんを頼む。

 

「了解、丼は?」

 

「……食欲が出たら頼む」

 

今は肉とかを食う元気が無いので、うどんだけを頼み冷たい水を飲みながら料理が来るのを待つ。

 

「はい、お待たせ、冷やしうどんね」

 

机の上にドンと置かれたのは氷の浮かんだ水の中を泳ぐ太い麺――これはホルモンうどんの時の麺だな。

 

「これをこのまま食べるのかい?」

 

「ううん、違うよ、このタレにつけて食べるんだよ。これ薬味ね、この緑のは使いすぎると後悔するよ、じゃ、ごゆっくり~」

 

厨房の中に引っ込んでいくクレマンティーヌを見送りフォークを手に取る。

 

「「「「いただきます」」」」

 

あんまり食欲は無いが、これなら食べれそうだと思いフォークで氷水の中から麺を掬い、タレの中に浸して啜る。

 

「美味いな」

 

「身体の中がひんやりする感じだね」

 

「これなら食べれそうだ」

 

冷たい汁と冷たい麺、口に入れるとひんやりと冷たく、それを啜ると冷たさが身体の中に染み渡ってくるようだ。

 

「このタレが美味い」

 

「カワサキの作るカツ丼とかのタレだろ?」

 

「へーあれってこんな風にも使えるのか」

 

カワサキが作る丼物のベースの味と同じなのだが、それよりもかなり濃い。だが辛いわけではなく、冷たい水の中を泳いでいるうどんと共に食べると口の中で丁度良い。

 

「野菜野菜っと」

 

「俺は少しこの緑のを使ってみるかな」

 

「少しにしとけよ」

 

緑のペーストをタレの中にいれ、その上から小さく切られた野菜を入れてよくタレを混ぜ合わせうどんを浸して啜る。

 

「っ!」

 

「つうっ! けど、美味いなッ!」

 

鼻に抜ける鋭い刺激と舌に残る辛味、そしてネギの食感の爽やかな香り……その全てが口の中を駆け抜けていく……麺を啜っては持ち上げタレを浸して麺を啜るを何度も繰り返す。食べている間に身体の中のほてりが消えて行き、どんどん食欲が沸いてくるのを感じる。

 

「美味い、本当に美味い」

 

「これなら食欲が出てくるな」

 

冷たい汁と喉越しのいい食感のうどんにどんどん食欲が沸いてくる。

 

「カワサキ、やっぱり丼くれ! この牛丼って奴!」

 

「俺は親子丼を」

 

「私は牛丼をいただけますか」

 

「俺も牛丼をくれ」

 

食欲が無かったのが嘘のように丼もくれと俺達は厨房にいるカワサキに向かって声をかけるのだった……。

 

 

 

 

うどんという1つの料理でも毎日毎日違う具材を乗せ、味を微妙に変えながら毎日提供されるうどんは私のひそかな楽しみになっていた。

 

「やぁ、お邪魔しても良いかな?」

 

「いらっしゃい。ロフーレさん、どうぞどうぞ」

 

人が少なくなった時間――夕方の鐘がなる少し前にカワサキ殿の店へ向かい、カウンター席に腰掛ける。

 

「今日はどんなうどんを食べさせてくれるのかな?」

 

卵うどんから始まり、天ぷら、肉うどん、冷やしうどんと基本は同じだが、味を変えて楽しませてくれたが、今日はきのこうどんか……。

 

(まぁ心配はないだろう)

 

きのこと言えば毒の心配があるが、カワサキ殿ならそんな失敗をするわけが無い。カウンター席に腰掛け、ここ数日のメニューの事を考える。

 

(しかしこれは上手く行くかもしれん)

 

寒村に料理を広げると言うのは並大抵の苦労ではないと思っていたのだが、カワサキ殿の料理を見ているととにかく回転が速い、次に汁を作り、麺を作るだけなのでそこまで難しいものではない。しっかりと調理のノウハウを広げれば寒村で餓える事はなくなると思う。

 

「はい、お待ち遠様」

 

目の前に置かれた丼で思考の海から引き上げられる。とろみのある餡に包まれたスライスされたきのこや小さなきのこが所狭しとうどんの上に乗せられている。

 

「ではいただくとしようかな」

 

味の想像がぜんぜん付かないが……さてさてどんな味なのかな? フォークを手に取りうどんを持ち上げる。

 

「む、これは……」

 

「実は全然売れなかったです」

 

スープがドロリと濁っており、麺にもなんとも言えない粘りがある、言ったら悪いが見た目がかなり悪い……。

 

(いやいや、まずは食べてみるとしよう)

 

食わず嫌いをするのは良くない、食べてみてから感想を口にすれば良い、息を良く吹きかけて冷ましたうどんを啜りこんだ。見た目通り、ぬるりとした何とも言えない食感に最初は顔を歪めたのだが、その味をしっかりと味わうと私はその顔色を変えた。

 

「美味い」

 

「でしょう、でもやっぱりトロミが強すぎましたかねえ?」

 

「いや、これはこの方が良いと私は思うよ」

 

この強いトロミは濃い味付けのスープをしっかりと口の中で味わわせてくれる。それにうどんの中に小さなきのこが混ざっていてうどんの食感に変化を齎してくれる。

 

「この味は面白い。これは受けると思う」

 

「誰か注文してくれれば?」

 

「その通りだ」

 

見た目で損をする料理だが、これはかなり旨みが強い。それに今までの日替わりうどんの中で1番美味いと私は感じていた……卵うどんはまろやかな卵の味わいと白身と黄身の食感が異なる味が少し薄めのスープに良く合っていた。天ぷらうどんは少し濃い目の味付けでフライをスープの上に乗せるという信じられない調理法だがスープに油が溶け出し、スープの味をぐっと深く、そして味わい深くしてくれていた。勿論具材の天ぷらの多種多様な豊富な味わいも勿論癖になる。肉うどんは薄切りにし、甘く煮られたそれはスープとは全く違う味だが、その濃い味付けはうどんを次々と食べたくさせてくれた。そして最後に冷やしうどんは冷たく食べる麺料理という全く未知の観点で私達の舌を楽しませてくれた。そして今日のきのこうどんは粘り気とでも言えばいいのだろうか、口の中に残るという未知の味わい方を差し示してくれた……紛れも無くうどんという料理は料理人の数だけその姿を変える……魔法のような料理だ。

 

(これも美味い)

 

肉厚のきのこを薄くスライスしたこれは噛み締めれば、きのこの味わいと中に染みている甘辛い味が口の中一杯に広がる。その濃い味はうどんを啜りたくさせ、トロミの付いたスープまで飲みたくさせてくれる。

 

「ふうーご馳走様」

 

かなり独特な料理ではあるが、熱くても、冷たくても美味く、その味のバリエーションも非常に豊富だ。食べてるうちに滴り落ちてきて来た汗をハンカチで拭った。

 

「このうどんのレシピを買おう、勿論独占するつもりはない。寒村や貧しい村での飢えをなくしたいと言うカワサキ殿、君の力になりたいんだ」

 

私自身元々は貧しい村の出身だ。何よりも飢えが辛いという事は知っている、だがそういう村にまともな料理を出来るものは少なく、パンやスープでも中途半端なもの、そして料理としては未完成の物が多かった。それでも物を食べれると言うだけで嬉しく、皆で分け合って食べる……それだけで途方も無いご馳走に思えたのを良く覚えている。だからこそ貧困を少しでも減らしたいというカワサキ殿に協力したい。

 

「気持ちは嬉しいんですが、今はまだ無理なんですよ」

 

「それはどういうことかな?」

 

「うどんの材料に鰹節って言う食材が必要なんですけど、それの作り方を知らないんです。手持ちはあるんですけどね、流通させるとなると作れるようにならないと」

 

うどんを流通させるには鰹節という食材が必要で、しかしカワサキ殿はそれの作り方を知らないのは確かに問題だ。

 

「解決方法は?」

 

「今の所はガウスさん、オーギュストさん、チャールズさんの3人と協力して色々と試してる段階ですね、ただ完成させれるかは正直不安です」

 

料理人としては最高峰の4人が集まっても完成させれるか不安というカワサキ殿。だが協力したいと言う気持ちは嘘ではない、周りで聞いている者がいないのを確認してから身を乗り出す。

 

「私に協力出来る事ならなんでもする。何か力になれることはないか?」

 

貧困で子供を売る親がいる、無理に食料を取りに行きモンスターに殺される親がいる……そんな当たり前の悲劇を少しでも減らしたい。うどんはその力になってくれる筈だから協力を惜しむつもりはない。

 

「それでしたらツオが欲しいですね、大量に」

 

「ツオをかね?」

 

「ええ、ツオです。流通させるなら使われない食材を材料にしたほうが良い」

 

確かに一理ある。それにツオは安い食材なので集めやすいという利点もある、手帳を取り出してツオとメモをする。

 

「とりあえず何匹くらい必要だね?」

 

「色々と試したいので20匹くらい、保存を掛けて出来るだけ新鮮な状態で欲しいです」

 

「分かった任されよう、相場で考えると銀貨2枚だが良いかね?」

 

「仕入れとかは全部任せます。ロフーレさんなら信用出来る」

 

「ありがとう。早速契約を纏めよう。すぐに準備をする」

 

商売人だからこそ自分の利益だって欲しいと思う。だがそれをすればカワサキ殿の信用を失い、そして今後の取引を失うだろう。カワサキ殿の性格、食に対する理念――それらに共感出来るからこそ私はカワサキ殿と商売を共にする事が出来る。

 

「黄金の輝き亭のガウスさん、それにガウスさんの友人だって言うオーギュストさんとチャールズさんにも協力して貰ったんですよ」

 

「それは大層なビッグネームだな、判った。4人の連盟と言う事にしよう。大丈夫だ、私に任せて欲しい」

 

騙すつもりなど微塵もないが、これだけの面子が関わっているとなればロフーレ商会にとっても大仕事になることを悟り、鞄から取り出した羊皮紙を机の上に広げ、簡易的だが契約を交わし、うどんを流通させる為の最初の一歩……鰹節づくりに私も参加する事となるのだった……。

 

 

メニュー130 日替わりうどん(魔法学園編)へ続く

 

 




次回はシズちゃん達で今回登場しなかった「肉うどん」「天ぷらうどん」「カレーうどん」の3つを書いて行こうと思います。後はデイバーノックとかも久しぶりに出そうかなというところです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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