メニュー131 ラーメンセット
厨房からくつくつという音が断続的に響く音を聞きながら、私は本を開いて時間潰しをしていた。
「暇だなあ……」
とは言えあんまり本が好きって訳じゃないし、リリオットのお勧めだから見てるけど正直なぁって感じ。
「面白くない?」
「いや、面白いよ。私でも見てて面白いって思うけど……性じゃないかなって感じ」
たまにはナザリックの外と言ってもカワサキの店かカルネ村の二択しかないけど、リリオットも久しぶりに外に出て来てる。
「それよりいいの?外に行かなくて」
「んーあんまり良い感じがしないから止めとく」
「予知?」
「勘かな?」
予知とは別にリリオットは勘が鋭いし、それで嫌な感じがするって言うのならカワサキの店の中にいる方が安全だ。そんなことを考えているとタイマーが鳴る音がする。
「リリオット手伝って」
「はいはーい」
2人で息を合わせ巨大な鍋を持ち上げて、漉すザルを新しい鍋の上に乗せて中身を引っくり返す。肉が溶けるまで煮られた鍋からゴロゴロと骨が転がり落ちる。
「行くよ、せーの」
「よいしょっ!」
2人でまた力を合わせて鍋を持ち上げて再び火に掛ける。
「今度は何だっけ?」
「鶏肉と野菜だったよ、冷蔵庫に入ってるはず」
リリオットに言われて冷蔵庫を開けると2番と紙が張られている材料を見つけて、それをゆっくりと鍋の中に入れて灰汁が浮かんで来たら掬うを繰り返し、灰汁が浮かんでこなくなったら椅子に座ってまたタイマーをセットする。
「カワサキ何を作ろうとしているんだろうね?」
「クレマンティーヌが判らないなら私に判る訳が無いよ」
骨と野菜を煮て何が作りたいんだろう?と思いながら再び本を開いて、ゆっくりと目を通すのだった。
「クレマンティーヌ、リリオット、悪かったな。随分と時間が掛かってさ」
4番の骨を煮終えた辺りでカワサキがやっと店に帰ってきた。本を閉じて椅子から立ち上がり大きく背伸びをするとメキメキと骨が鳴る音が響く、完全に身体が固まってる気がする。
「遅すぎるよ、何してたの?」
「ガウスさんの所で麺を作ってた、これでバッチリだ」
にっと自信満々に笑うのでかなりの自信作であることは判るけど、いくらなんでもほとんど1日は時間が掛かりすぎだと思う。
「飯は食ってくれたか?」
「はい、用意してくれたのは食べましたよ」
「甘口カレーだったから美味しかったよ。そろそろまた温めようかなと思ってた所」
温めてご飯に掛けるだけ、これなら私とリリオットでも問題なく作れる。野菜も多かったし、牛肉の塊も入っていたので美味しかった。
辛いのを作ろうとしないで、こういう甘いのを作ればカレーはもっと人気が出るのにとリリオットと思わず笑いあってしまった。
「それなら丁度良い、今からこれで夕飯を作るから待っててくれ、即席になるけどな」
すぐ作れるからというカワサキに厨房から追い出され、客席のほうへと足を向ける。
「麺料理かな。何を作るんだろ?」
「判んないよ、それにあれだけスープを煮るって味が濃すぎるんじゃないかなあ」
「だよねえ」
スープにするにも濃すぎると思うけど、本当にカワサキが何を作ろうとしているんだろ?とリリオットと話をしているとカワサキが暖かい湯気を放つ丼を2つおぼんに乗せて姿を見せた。
「最近俺の店で販売してる、保存食のラーメンの完全版だ」
「あれの完全版ってあれ未完成なの?」
ランポッサ三世とかの無茶振りで作らされた保存食の数々、それらはギルドや生産系の店などで製造され、カワサキの設定した値段で販売されている。どれも人気で、レシピと設備さえあれば手間は掛かるが製造できるし、保存食の製造に協力する事を宣言し、査察や、作れるかどうかの試験を受ければ設備の融資も受けれる手筈になっている。その中でも人気なのが、お湯で戻して食べる即席ラーメンという奴だ。煮るだけで作れて、スープと麺も食べれる。銅貨2枚と手を出しやすい値段設定だが、それ故に製造が間に合っていない物でもある。
「あれは簡単に作れて持ち運びできるって言うのに重点を置いてるからな、味とかは俺からは満足してる訳じゃない」
「そこは満足しておこうよ、また無茶振りされるよ」
料理ならカワサキと思い込まれているのは正直かなり危険だと思う。と言うか無理な頼みも押し付けすぎじゃない?って正直思ってる。
「今度は断ろうと思う。んでこれが完成版のラーメンだ。とは言ってもチャーシューとか出来てないけどな、まぁそこは勘弁してくれ」
そう言いながら机の上に置かれた丼の中身をリリオットと覗き込む、薄い茶色……醤油のスープの中に黄色を帯びた麺が泳ぎ、その上に薄切りにされた豚肉を焼いた物とゆで卵、そしてネギがたっぷりと散らされている。
「ほわあ……美味しそうです」
「確かに全然違うね」
即席麺は私も食べたけど全然見た目の印象が違う。これを知ってるなら即席麺に満足していないって言うカワサキの言葉にも納得だ。
「伸びないうちに食べてくれ、良い味をしてるはずだ。おかわりの準備も出来てるから足りなかったら声を掛けてくれ」
判ったと返事を返し、机の上の割り箸を手にとってリリオットと手を合わせる。
「「いただきます」」
いただきますと口にして、割り箸で麺を持ち上げる。黄色の麺は所どころ縮れていて、うどんともパスタとも違うって感じがする。
「ふーふー」
良く息を吹きかけて冷ましてから麺を啜る。リリオットは上手く啜れないのでフォークでパスタのように絡めて口に運んだ。
「「美味しい」」
麺の縮れている部分にスープが良く絡んで、麺を口にすると口の中にスープの旨みがさっと広がる。あれだけの骨を煮ただけあって、凄く味が濃い、だけど不思議とさっぱりしていて食べやすい。それに麺はつるりと言うのか何というのか判らないけど凄く滑らかな食感がする。
「カワサキ、この麺なんなの?」
「それか? 中華麺ってやつだ。ちょっと作るのが面倒なんだが、イケるだろ」
「うん、美味しいよ。これ癖になるね」
カワサキが作ってくれる麺は色々と種類があるけど、これは今まで食べたことが無い味で凄く気に入ったや。
「むぐむぐ」
「リリオット、一言も言わないね」
「……んぐ、おいひい」
「そか、良かったよ」
麺を啜り、美味しいと満足そうに笑っているリリオット。まぁちょっと普段と違うけど、満足してくれてるならいいやと思い。スープの中に浮かんでいる豚肉を齧る。
「これでも美味しいけど、カワサキ的には駄目なの?」
「まだまだだなあ。とりあえず焼き豚と煮卵の仕込みはするつもりだ」
これでも十分に美味しいんだけど、本当にカワサキは食べる物に関しては妥協しないなあ……。
「あんまり無茶したらアインズ様に言うからね」
「……うい」
美味しい物を食べれるってことに不満はないけど、それでカワサキが無茶をするのは良くないのでしっかりと釘を刺す事にする。
「あ、カワサキおかわり」
「はいよー」
「注意しておいて、おかわりするの?」
「するよ。それとこれとは話が別だしね」
カワサキが無茶をするのは止めるけど、お腹が空いてるのとそれは別問題と笑い、私は空になった丼をカワサキに差し出すのだった……。
カワサキ殿が提案し、4ヵ国同盟に採用された保存食の数々の販売の許可を1番最初に得る事が出来たのは私のロフーレ商会だった。
販売許可を得る為に設備や作業員を集めるのにそれなりの資金などを使う事になった。しかし販売許可を得れれば冒険者やワーカー相手に継続的な利益を得れると考えれば十分におつりが出る。
(しかし欲の無い御仁だ)
あれだけの物だ、自分で特許をとれば莫大な利益を手に出来るだろうに……しかしこの誠実な人柄が人を引き寄せる事になるのかもしれない。そんなことを考えながらカワサキ殿の店の扉を開いた。
「いらっしゃいませー」
「い、いらっしゃいませ」
クレマンティーヌのほかにもう1人従業員がいた。彼女と違って少し気弱そうだが完成した料理を運び、あちこちと急がしそうに動き回っている。
「おや? 新しい従業員を雇ったのですか? それなら私から紹介出来ましたよ?」
「いや、クレマンティーヌの友人でね。別に新しい従業員として雇った訳じゃなくて手伝ってくれてるんですよ。ロフーレさん」
友人……なるほど、彼女の友人となれば手を出す馬鹿はいないだろうし、何よりも出禁になるのが嫌なのでちょっかいも掛けられないと……。
「今日はなんにします? 日替わりですか?」
「いや、今日はラーメンセットを貰うよ」
即席麺の完全版の販売開始と言うのは私もかなり気になっていた。ラーメン単品で銅貨7枚、セットなら餃子5個とミニ炒飯なる米料理と漬物がついて銀貨1枚と銅貨2枚。それならば昼飯時と言う事もあり、セットを頼んだほうが断然お得だ。注文を終えて店内を見るとやはり完成版のラーメンを頼んでいる者が多く目に付く、即席麺は麺をゆでればスープも作れ、その上煮るだけなので冒険者にもありがたい品だ。
「うまッ! 即席麺も美味かったけど、これも良いな」
「喉越しとかはこっちの方がかなりいいな」
「いやいや、即席麺は簡単に作れるからいいんだろ?」
本格的に作られた料理と簡易版、その味を比べるのは流石にカワサキ殿に失礼だろう。あれは簡単に作れることが売りで味はカワサキ殿的には二の次で作られているはずだ。
「はい、ラーメンセット。お待ちどうさま」
「あ、ああ。ありがとう、いただくよ」
考え事をしている間に料理が完成したようだ。カワサキ殿にいただくよと声を掛けて並べられた料理に視線を向ける。
(なるほど、これか)
即席麺のスープに良く似た色をしたスープの中に黄色を帯びた麺が泳ぎ、その上には分厚く輪切りにされた豚肉だ。カワサキ殿が良く使う醤油によって煮られた独特な香りが食欲を誘う。そして肉を包んだ餃子と、豆ととうもろこしと人参が具材にされた米が丸く皿の上に盛り付けられている。
(凄い仕上がりだな)
これで銀貨1枚と銅貨2枚と考えると本当に安い。これで味もいいのだからエ・ランテルの料理人には恐怖だろうにと思いながらも、貴族の後ろ盾で暴利を貪っていた連中が大半で、安く買い叩こうとするものが多かったので内心ざまあみろと思いながら机に備え付けられた入れ物からフォークとスプーンを取り出す。
「いただきます」
手を合わせてそう口にしてからスプーンを丼の中に沈め、スープを掬い上げる。
(良い香りだ)
即席麺の香りと似ているが、それよりも深みがある。息を吹きかけて冷ましながらスープを口にし私は目を見開いた。
「……これは凄いな」
濃厚な旨みを持ちながらもさっぱりとした後味……思わず2杯目を掬って口に運んでしまうほどに美味い。即席麺も美味かったがこれはそれよりも遥かに美味い。
「ふっふ、ズズウ」
スープの中を泳いでいる麺も啜り込むと良く判る。縮れている変わった麺だなと思っていたが、その縮れている部分にスープが絡んでいて麺を啜るだけでもスープが口の中一杯に広がる。
(……この麺、この麺も絶品だな)
パスタでもカワサキ殿の店で良く出されるうどんとも違う。モチモチとし、しかしそれでいて絹のようにつるりとした独特の食感の麺は癖になる。おっと、ラーメンばかりを食べていて他の料理が冷めてしまっては勿体無いな。1度ラーメンを食べる手を休め餃子にフォークを向ける。
「あむ……うんうん」
餃子はたっぷりの肉と香味野菜を使っているので1口齧れば肉汁が口の中一杯に広がる。簡単に作れる上に味付けさえ間違えなければ大量に作れる餃子と言うのは本当に良い料理だ。祭り等で酒を飲みながら食べれればなお酒が進み、餃子も欲しくなる。これは間違いなく酒飲みには堪えられない料理だろう。
「……うん、ううん?」
次は米料理を口に運んだのだが、口の中に入れるとさっとほどけてしまった。その上卵のコーティングがされているのかどこを食べても味がする。
「口に合いませんかね?」
「いや、そんなことはないよ。初めての味だったものでね」
味付けはシンプルに塩胡椒のみ、米の甘さと卵の旨み、そして豆ととうもろこし、角切りにされた人参と具材も地味だが……。
(これは癖になるな)
シンプルだからこそ味の濃いラーメンや餃子が食べたくなる。ラーメンの中に浮いている豚肉、それを齧ると更なる衝撃が私を襲った。
(なんだこれは……ッ!?)
口の中に入れた瞬間に肉が溶けて消えた。いや、口の中には肉の味があるし、食感もある。だが噛む必要が無いほどに柔らかく煮られていたそれは旨みの塊だった。
「ずずううッ!」
その濃厚な旨みが口の中にある間にラーメンを啜る。すると口の中でスープの旨みが更に強くなり、そして肉の旨みまで加わってくる。
「美味いッ! いや、カワサキ殿、これは本当に美味いよ」
「喜んでもらえたみたいで何よりですよ」
即席麺は即席麺で旨みがあるが、これはこれでまた別の味わいがあって実にいい。少し薄味の炒飯も、肉汁を楽しませてくれる餃子もそしてラーメンもどれもが完璧だ。飽きる事無く、最後まで食べ進めることが出来た。
「ご馳走様、いや、美味しかったよ」
少し食べすぎた感じもあるが、この満足感は堪えられない物がある。大きく息を吐き身体の中の熱を吐き出し、良く冷えた水を飲み干してカワサキ殿の店を後にする。
「しかしどれだけの引き出しがあるんだろうな」
どの料理も1級品、そして王都で出されるような高級な料理から、庶民が食べるような安っぽい料理まで、カワサキ殿の料理の引き出しはどれほどの深さがあるんだろうか? と考えながらポケットから取り出したタバコを咥え私は自分の店へと引き返していくのだった……。
「エ・ランテルについたよ。お客さん」
「……ん、ありがとうございます。これ、御代です」
ここまで運んで来てくれた馬車の御者に代金の金貨を1枚手渡し、エ・ランテルの街に降り立つ。
「ん、んーッ!」
帝国からここまでかなりの悪路だったから身体がバキバキだ。それに腹が空いた……。
「まずは腹ごなしだな」
4ヵ国同盟への武器や防具、それにポーションなどの販売で商人を集めていると聞いて俺もエ・ランテルに来たが、流石に丸々2日も馬車に揺られていると辟易する。
「……ああ、駄目だな。腹ペコだ」
干し肉や固いパンなどは食べていたが、やはりあれでは食も進まない。商人の募集はまだまだ始まったばかりだし、焦る事はない。
「さてと黄金の輝き亭に行くかな」
エ・ランテルと言えば黄金の輝き亭だ。あそこの鹿肉を使った料理は絶品なんだよなと思いながら歩き出す。
「いやあ、ラーメンセット美味かったなあ!」
「飯に麺に餃子で銀貨1枚と銅貨2枚だしな! 本当カワサキ様々だ」
「俺達冒険者の味方だよなあ」
カワサキ? そういえば確かエ・ランテルや王国で流行っている保存食を作った料理人だと聞いている。
「行って見るか」
噂を良く聞くので1度よって見るか、確か店は冒険者組合の前だったかな? 取引の最中に聞いただけなのでうろ覚えだが、近くに行けば判るだろと思い俺はゆっくりと歩き出した。
「……これか」
飯処カワサキと書かれた看板と、あれはなんだ? 布? 布にもカワサキと書いてあるがあれは何だ? 南方の習慣か?
「まぁいい、まずは腹ごしらえだ」
引き戸を開けて店の中に足を踏み入れる。狭くはないが広くも無い、個人で経営するにはこれくらいの広さが最適なのだろう。しかし従業員も店主もいないとはまさか休憩中か?
「あのー」
「はーい、ちょっと待ってくださいねー」
声を掛けるとすぐに男の声が返って来て厨房から屈強な男が顔を見せた。
「まだ営業してますか?」
「まぁ休憩中ですけど良いですよ。どうぞ、座ってください」
静まり返っていたのは休憩中だったか……店主に悪い事をしてしまったな。
「気にせずにどうぞ。メニューは其方になりますので決まりましたら声を掛けてください」
メニューを見てくれと勧められたが、俺は椅子に座った後に店主に声を掛けた。
「ラーメンセットって食べれますか?」
もし食べれるのならばそれがいいと思い尋ねると大丈夫ですよという返事が返ってくる。
「少し待ってくださいね、すぐに用意しますから」
人の良い顔で笑う店主に頭を下げ、メニューと共に出された氷水を口にする。
「ふう……美味い」
馬車に揺られて火照った身体に冷たい水が心地良い、しかし水までおかわり自由とは中々に豪胆だな……。
(凄いな……これだけ全部作れるのか)
パラパラとメニューを見ると絵付きの説明文があり、どれがどんな料理かというのが判りやすい。煮込みから焼き、揚げ物から帝国と王国の有名な料理まで全部書かれている。これは相当な凄腕だな、休憩時間でなければかなり待つことになったかもしれないな。
「はい、ラーメンセットおまちどうさま」
「はい、どうも」
ごゆっくりどうぞという店主を見て、本当に気のいい男だなと思ったが、腹が音を立てるのでまずは食事をすることにする。
カワサキ特製ラーメン
醤油味のスープに中細の縮れ麺。厚切りのチャーシューが4枚と煮卵、そしてネギとシンプルだがキラリと光る何かがある。
餃子
豚肉と香味野菜がたっぷり使われた1口サイズの餃子。5個という少なくも、多くも無い数が実に丁度良い。
ミニ炒飯
米を炒めた料理だろうか、見たところ卵と豆、それにとうもろこしと角切りにされた人参と具材はシンプル。平皿に丸く盛り付けられていて見た目も美しい。
漬物
突出する事はない一般的な葉野菜の漬物。
「あ、これお値段は……」
「銀貨1枚と銅貨2枚ですよ。お客さん」
これで銀貨1枚と銅貨2枚だって!? どう見ても銀貨5枚はするだろう……そう言えば冒険者向きと言っていたが、その値段設定にあるのか……。
「じゃあいただこうかな」
机の上のフォークとスプーンを手にし、まずはラーメンとやらを食してみる事にする。パスタとも違う細いようで、しかし太いという変わった麺だ。フォークを使い麺を巻き取り、スプーンの上に乗せる。
「ふーふー」
軽く息を吹きかけて冷ましてから頬張り、俺は目を見開いた。
「美味い。なんだこれは……」
麺の1本1本にスープが良く絡んでいる。それに滑らかで独特なモチモチとした食感はパスタにはない食感だ。
(凄い、なんなんだ。これは)
スープも馴染みの無い味だが、深く味が濃い。しかしそれでいてさっぱりとしている、味が濃いのに後味がさっぱりという奇妙な味付けに驚きながらスープに浮かんでいる豚肉を頬張る。
(……溶けて消えた)
塊の豚肉の筈だが頬張った瞬間に口の中で溶けて消えた、かなり濃い目のスープに良く似た味と豚肉の脂、そして口の中で解けた肉の繊維の食感……。
「……ええい、食べにくいな」
これだけの美味さなのに麺をフォークに絡めていると食べにくいと思わず苛立つ。
「お客さん、啜って食べてください。これはそうやって食べるんですよ」
「……良いのかな?」
マナーとして啜って食べれば音が出るし、スープが飛ぶ。それは許されるものではないと思うのだが、店主はどうぞと言って笑い厨房に引っ込んだ。少し躊躇いはあったがフォークで麺を持ち上げて啜りこむ。
「ずずう」
……美味い、なんだスプーンに乗せて食べた時よりもずっと美味いぞ!? 鼻に抜けるスープの香り、口の中に広がる味、そして滑らかな麺の食感!!
(なるほど、納得だ)
これは上品に食べるよりも少し下品に食べる方がずっと美味しいのだ。勿論マナーに気を使って食べても美味いのだが、啜ったほうがずっと美味い。
「おっと、こればっかり食べるのは良くないな」
折角他の料理も付いているのだからそれも味わうとしよう。餃子と炒飯と言っていたな……しかし米料理の方は判るが、この餃子はなんだ?
「包み物か?」
見た所具材を皮で包んだ料理のようだ。しかし味が全然想像出来ないな……タレもないし、このまま食べるのかフォークを刺して無造作に一口で頬張った。
「……ッ」
ざくりと言う皮を噛み切る音が響き、口のなかに肉汁が溢れてくる。しかもそれだけではない、肉汁の中にさわやかな香辛料の香りも隠れている。
「……これも美味い」
食感とたっぷりの肉汁……これだけでも十分に良い値段をつけても全然販売できる美味さだ。
「となれば……」
米料理も美味い筈だと思いスプーンで掬ってみて驚いた。固まっているように見えたのだが、持ち上げるとパラパラと米がバラバラになっていく、こんな風にどうすれば作れるんだ? と首を傾げながらも好奇心を抑えきれず米を頬張る。口の中でバラバラに解けていく米には卵に包まれているのか米自体にも旨みがある。それに豆などの野菜の食感が加わり、シンプルな塩味なのにもっと美味く感じる。
「美味い」
どれもこれも抜群に美味い、これだけ美味いのに3品で銀貨と銅貨2枚で食べれるなんて……冒険者の味方と言っていたが、これは金のある者も足繫く通う店だ。
「またどうぞー今度は営業時間に来てくださいね」
あっという間に食べ終え、今度は営業時間に来てくださいねという声に見送られ、重くなった腹を撫でながらゆっくりと俺は歩き出し、ふと立ちどまった。
「飯処カワサキか……良い店だったな」
銀貨1枚と銅貨2枚とは思えない値段で味も大満足だった。俺はタバコを咥え、商業ギルドへと歩き出すのだった。
メニュー132 海鮮丼へ続く
私にゴローさんは書けなかったよ、それっぽい感じにしたかったんですけど、ちょっとなんか違うなあって感じになってしまい無念です。
次回はガンバスター様のリクエストで海鮮丼を色々と出して行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない