生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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賄い3 ソリュシャンの絶望/デミウルゴスのプラン/カワサキ様拳を握る

 

賄い3 ソリュシャンの絶望/デミウルゴスのプラン/カワサキ様拳を握る

 

人間には高級だとされる黄金の輝き亭での食事も、カワサキ様の食事を口にしてしまった後では以前よりも不味く感じて仕方ない

 

「セバス。もう結構です」

 

皿を引っくり返し、部屋に引き返そうとした時。扉が開く音が聞こえ、反射的に振り返り目を見開いた。白く美しい装飾が施された服……黄金を思わせる金の髪と空を連想させる青い瞳……宿の中で女がほうっと熱っぽい溜息を吐くのが聞こえる。力強さと美を兼ね備えた御姿……思わずセバス様を見ると、沈鬱そうに目を伏せている

 

(か、カワサキ様)

 

人間の御姿をされているが間違いない。カワサキ様だ……後ろに控えている青い髪と目をした男性……更にその隣に控えているシャルティア様の御姿……ただ目は異形種であることを隠すためか、真紅ではなく、翡翠色をしていた。幻術か何かで容姿を誤魔化しているのだろうか……そしてそんなシャルティア様の隣の長身の男性階層守護者の恐らくコキュートス様が人化を施され、カワサキ様の護衛になっているのだと悟った

 

「ソリュシャン。お前何をしている?」

 

その低い声が目の前のお方の怒り具合を示していた。その声に恐怖し、商人の娘、ソリュシャンから、プレアデスのソリュシャン・イプシロンに意識が切り替わろうとした瞬間

 

「旦那様。どうかお怒りの程お静めに」

 

「セバス。お前にはソリュシャンの付き人を任せたな?我侭娘だからしっかりと面倒を見るように命じたな?何故こんな事をさせた」

 

セバス様とカワサキ様の言葉に、カワサキ様がお父様と言う設定で話を通すのだと判った。セバス様が私を背後に隠し、カワサキ様に向かって頭を下げる

 

「申し訳ありません。全ては私の不徳の致す所であります」

 

セバス様が深く、深く頭を下げる。そのやり取りで周りの人間がカワサキ様が私の父親と認識しただろう

 

「お、御父様……」

 

不敬と怒られるかもしれない。それでもセバス様とカワサキ様の話に合わせ、カワサキ様を御父様と御呼びする

 

「ソリュシャン。お前が我侭なのは知っているし、食に拘りがあるのも知っている。だがそれでもだ、やって良い事と悪い事がある」

 

カワサキ様が私の前に御立ちになる。その低い声に身体が震え、ドレスの裾を握り締める。恐ろしくて、顔を上げる事が出来ない

 

「食事が出来る事は当たり前ではない、食事ができることに感謝し、作ってくれた相手に感謝しなければならない」

 

「……はい」

 

カワサキ様のお言葉に返事を返すが、目の前が涙で歪む。恐ろしくて、怖くて仕方ない

 

「確かにまあ……そのなんだ。俺が張り切って料理をしすぎたと言うのもある、俺の料理がお前の味覚の基礎になったというのは判るが……それでもだ。料理を引っくり返すような真似はしてはいけない」

 

カワサキ様の御手が頭に乗せられ、わしゃわしゃと頭を撫でられる。そこで初めて顔を上げると、怒っていると言うよりも、しょうがないなあと言いたげな表情をカワサキ様はお浮かべになられていた

 

「セバス。ソリュシャンを部屋に連れて戻れ、俺も直ぐに向かう」

 

「畏まりました」

 

セバス様に肩を抱かれ、部屋へと足を向ける。背後からはカワサキ様のお声で

 

「お騒がせして、申し訳ありませんでした。俺からの謝罪の品をどうか受け取ってください」

 

カワサキ様が人間に向かって謝罪した。それが私のせいだと判り、どうすればいいのか判らず。そしてシャルティア様とコキュートス様をお連れになっていると言う事に、自分が処罰されるのだと思い震えているとセバス様が小声で

 

「カワサキ様はそれほどお怒りになられておりませんよ。むしろ外に出る良い口実になったとメッセージで仰っておりました」

 

「で、でも……わ、私のせいでカワサキ様が人間なんかに頭をお下げに」

 

「それも演出でしょう。悔いるのならば、カワサキ様から命じられた仕事をこなす事を考えるべきですよ、さ、カワサキ様をお出迎えする準備を致しましょう」

 

「っ……はい」

 

優しく声をかけてくるセバス様に小さく返事を返し、ドレス姿からメイド服へと着替え、カワサキ様達をお出迎えする準備を整える

 

「入るぞ」

 

扉がノックされ、シャルティア様が扉をお開けになり、カワサキ様が姿を見せる

 

「か、カワサキ様。今回は「あーもう良い。言うほど怒っちゃねえんだよ、俺は」

 

謝罪しようとした私の言葉を遮り、カワサキ様は朗らかに笑い。私の頭を再び乱暴に撫で回しながら

 

「ちっと怖がらせすぎたな。怖かっただろう?悪かったな」

 

「そんなカワサキ様がお謝りになる事では!」

 

慌ててそう言うがカワサキ様は違う違うと頭を振り、ベッドに腰掛けて

 

「正直に言うとな、ナザリックの外を見てみたかったんだよ。まぁその口実にな、お前を怒りに来たって事にしただけだから。本当怒ってないんだよ」

 

モモンガさんには内緒だぜ?と笑ったカワサキ様は両膝を手で叩き

 

「馬車があるんだろ?馬車って乗ってみたかったんだよ。俺の都合で悪いが、王都に向かって出発しよう」

 

見た所エ・ランテルにはあんまり食べ物屋が無い見たいだしなと笑うカワサキ様

 

「畏まりました。では出発の準備を致します」

 

「おう。頼むぞセバス」

 

そう笑ったカワサキ様は私とセバス様が泊まっていた部屋の観察を始める。私も再びメイド服からドレスへ着替え、出発する準備を始めたのだが……セバス様に案内され、カワサキ様が先に馬車に乗り込んだ所で

 

「ソリュシャン。次こんな失態したら、カワサキ様とアインズ様が良いと言っても、お前を殺す」

 

「……良く考えて次はこんなミスをするな」

 

「……っはい」

 

突き刺すような殺気を叩きつけてくるコキュートス様とシャルティア様に身体を震わせながら、私も馬車に乗り込むのだった……しかし出発して直ぐ、私は知る事になる。カワサキ様の真の怒りがさきほどとは比べるまでも無く、激しく燃えるような怒りだと言う事を……

 

 

 

 

パンドラズ・アクターや高レベルのシモベ、そして階層守護者達の能力を何度も何度も調べ、入念なシミュレートを重ねた漆黒聖典に対する作戦をアインズ様に提出した

 

「ふむ……なるほど」

 

私の提出した作戦立案書を読み終えたアインズ様は小さく頷き、立案書を横に置く

 

「悪くないプランだ」

 

その言葉に俯いたまま歯を噛み締める。悪くない……それは決して褒め言葉ではない

 

(やはりなのですね……)

 

私の考えた作戦などはアインズ様も考えになった物なのだろう。だから流し読みしただけで閉じられたのだ……デミウルゴスはそう考えていたが、実際は

 

(なにこれ?こんなに細かいグラフとか見せられても判らないんだけど……)

 

モモンガには理解出来ない高度な立案書で理解する事を諦めたと言うのが真実だったりする

 

「モモンガ様!デミウルゴス様の作戦は素晴らしい物だったと思うのですが、如何でしょうか!」

 

私と共に立案書を提出したパンドラズアクターがそう問いかける

 

「そうだな……デミウルゴス。私はお前の口から作戦を聞きたい、私に説明してくれるか?」

 

「っはい!」

 

パンドラズアクターの言葉でアインズ様は何か考えをお変えになられたのか、私に説明を求めてきた。そんな必要も無いだろうに……私は頭を上げ、自分用の立案書を手に自分の考えた作戦を口にするのだった

 

「作戦としては守護者は姿を見せる事無く、漆黒聖典の生け捕り、もしくは殲滅を計画しております」

 

リザードマンの集落を襲っていたあの巨大なトレント。それのおかげで作戦の内容の変化を大きく見直す事になった

 

「虫型や昆虫型のシモベを多く利用します」

 

死ぬ事で周囲に結界や魔力封じを発動させるタイプの昆虫型のシモベと花粉などで相手の意識の外から相手にバッドステータスを発生させるタイプのシモベを大量に投入し、相手の逃走の妨害および相手の反撃を完全に封殺する

 

「ふむ、しかしそれではワールドアイテムを持つカイレとやらを封じる事は出来ないぞ?」

 

「それに付きましてはシャルティアの死せる勇者の魂『エインヘリヤル』で分身を作り出し、それを襲撃させる事で傾城傾国の誘発を狙います」

 

最初はデスナイトに幻術を施すというのも考えたが、相手が脅威と思うレベルで考えればエインヘリヤルの方が適任だと思ったのだ

 

「毒や麻痺などの状態異常対策を相手が取っていた場合は?」

 

「ワールドアイテムを所持したシャルティア、コキュートス、そしてたっち・みー様の御姿を模したパンドラズ・アクターを投入します」

 

仮にプレイヤーの血を引いた人間が居たとしても、この3人の布陣を抜けるとは思えない

 

「……パンドラズ・アクター。たっち・みーさんの姿を真似るのはお前が言い出したのか?」

 

「はい!万全に万全を期す為の一手とし立案しました」

 

パンドラズ・アクターがそう提案した時は正気かと思ったが、確かにそれは有効な一手だと思い。作戦に盛り込んだ……アインズ様は考え込む素振りを見せ

 

「姿を真似ることは許可しよう。だが装備の持ち出しは許可しない」

 

「心得ております。伝説級の装備の準備をしております」

 

それならば良いとアインズ様は頷き、私の方に視線を向けた

 

「約束通り、お前に全権を任せるが、漆黒聖典は有益な情報を持っている可能性がある。そこはどうするつもりだ」

 

「はっ!1度殺し、蘇生する事で力を奪うことを考えております」

 

蘇生によるレベルダウン。そうなれば思うように動く事が出来ず、ニューロニストや、タブラ・スマラグディナ様の姿を真似たパンドラズ・アクターにより情報を抜き出す事も出来る

 

「なるほど、それならば良いだろう……但し1つだけ付け加えておく事がある。クレマンティーヌから齎された情報だが、占星千里と言う占い師が、クレマンティーヌをカワサキさんの所に導いたと言っていた。私達の事を予見している場合もある、捕捉した際はクレマンティーヌも連れて行け。戦闘に入る前に2人を引き合わせる、友人同士らしいからな、殺してしまい予知能力を低下させるのは惜しいし、こっちの作戦を予言しているとは思えないが、万が一と言う場合もある」

 

説得が可能な可能性が高い以上無闇に殺す必要は無いと告げられた、アインズ様は監視を続ける様に言い、私とパンドラズ・アクターを執務室から追い出した

 

「では作戦実行の許可も下りました。準備に取り掛かりましょう、私はクレマンティーヌを呼んできます」

 

ザイトルクワエが動いた事で漆黒聖典の動きは早まると考えている。だがもし占星千里とやらが私達の事を予見しているとなると、少し作戦の変更も必要になるかもしれない

 

「待ってください、私も行きます」

 

「おや?どうしたんです?」

 

「その占星千里とやらの事を知りたいのですよ」

 

話を聞く事でその人物の性格などを知り、作戦を立てる事が出来ますからねと返事を返し、私はパンドラズ・アクターと共にカワサキ様の部屋へと足を向けるのだった……

 

 

 

 

デミウルゴスとパンドラズ・アクターがクレマンティーヌと話をする為、カワサキの部屋を向かってる頃。カワサキはと言うと……

 

「ふんっ!!!!」

 

「ごぼおっ……げほっ!おええええッ!」

 

明らかに盗賊風の男を殴り倒していたりする……時間は少し遡る……

 

「馬車と言うのは案外いい物だな」

 

初めて馬車に乗ると言うカワサキ様は酷く上機嫌で、暗い夜道なのが残念だと仰っていた。王都まで一緒に行けるわけではなく、途中で帰らないといけないと仰っていたが、酷く上機嫌で楽しそうだったのを良く覚えている

 

「ん?あれは……」

 

短い旅だが、カワサキ様と一緒の旅と言うのは中々楽しかったのですが、夜道の中カワサキ様が何かを見つけた……

 

「シャルティア、見えるか?」

 

「盗賊らしい一団が馬車を襲ってるでありんすね」

 

夜目が利く、シャルティア様の言葉にカワサキ様は馬車を止めろと言う

 

「どうなさるつもりなのですか?」

 

「見て見ぬ振りも出来ないだろう?」

 

そう笑って、馬車を出るカワサキ様の後を追って、慌てて馬車を降りた。クックマンは戦闘職ではない、カワサキ様が危ないと思ったのだが……私やコキュートス様が馬車を降り、カワサキ様に追いついた時には、胃の中の物を吐き出しながらのた打ち回る男を冷たい目で見下すカワサキ様の御姿があった。

 

「な、なんだお前は!?「うるせえ!ボケッ!!」

 

前に踏み込みながら繰り出された前蹴りがナイフを手にした男の身体をくの字に折り蹴り飛ばす。

 

「シャルティア、そこの女性の手当てをしてやれ。コキュートス、セバス、手伝え。潰すぞ」

 

木の根元の近くにボロボロの服のまますすり泣いている女性が3人。その手当てをしろとシャルティアに命令したカワサキ様はそのまま地面を蹴り、一番近くにいた男の顔面に膝を叩き込む

 

(強い!?)

 

クックマンは戦闘職ではない。だがカワサキ様自身には戦闘経験があるのか、四方から来るナイフを持った手を弾き、捻り上げ、その拳で相手の鼻を叩き折る。人化したカワサキ様がこれほどお強いとは思っても見なかった

 

「抵抗は無意味です。大人しくしていれば、痛みは少ないですよ」

 

「その通りだ」

 

ソリュシャンとシャルティア様を見て下卑た笑みを浮かべていた男達が血反吐を吐いて、のた打ち回るまでそれほど時間は掛からなかった……

 

「助かったよ。あんた達強いんだな」

 

馬車の持ち主で自身も酷い怪我をしている男がカワサキ様に頭を下げる

 

「セバス、ポーション」

 

カワサキ様の言葉に頷き、男性にポーションを手渡す。これはエ・ランテルで購入した青いポーションだ

 

「助かるよ。まさか護衛の連中の中に死を撒く剣団が居るとは思わなくてな」

 

死を撒く剣団……ここら辺で有名な盗賊集団ですね。カワサキ様はその男性からいくらか話を聞いてから立ち上がり

 

「エ・ランテルには戻れそうか?」

 

「あ、ああ。大丈夫だ。馬は生きてるし、馬車も無事。なんとかエ・ランテルには戻れるよ」

 

明るくなったら移動するという男性に更にポーションをいくつか手渡したカワサキ様は、縛り上げた盗賊の1人の頭を掴み引き摺り出す

 

「あ、あんた何をするつもりだ!?」

 

「あん?決まってるだろうが、その死を撒くなんちゃらを潰すんだよ」

 

無理だ、戻れと叫ぶ男性から背を向けて歩くカワサキ様の後を追って馬車に戻る

 

「本気でありんすか?」

 

「当たり前だ。俺はああいう輩は嫌いなんだよ、不満か?」

 

カワサキ様の問いかけにシャルティア様はカワサキ様がお決めになられたのならと返事を返す。私もそういう輩を見過ごすわけには行かないので、カワサキ様の決めた事ならばと返事を返す

 

「精神支配でアジトの場所を聞いてくれ」

 

シャルティア様の全種族魅了で盗賊の男がアジトの位置を教えるのを聞いているとコキュートス様がカワサキ様に尋ねる

 

「とても強いのですね」

 

「あ、ああ……クックマンの時は全然駄目なんだが……これも人化の効果かもしれないな。覚えてる動きが出来る」

 

人とクックマンでは色々違うのかもしれないと笑ったカワサキ様は、死を撒く剣団のアジトの場所を聞き出すと

 

「その死を撒く剣団とやらは全部捕らえるぞ。可能な限り殺すな」

 

カワサキ様の言葉にシャルティア様とソリュシャンが驚いた表情をする。殺した方が早いと思っているのが一目で判る

 

「殺すのは最終手段だ、極力殺さず、ナザリックへ連れて帰る。色々と情報を得られるかもしれないからな」

 

盗賊団なら集団で居なくなっても大丈夫だろ?と笑い、私達が乗ってきた馬車の従者に料金を支払い、あの人達と一緒にエ・ランテルに戻るように言ったカワサキ様と共にアジトへと向かったのだが……

 

「死にさらせッ!!!」

 

「ぎがあ!?げぼ!!」

 

「う、腕!俺の腕ええ!!!」

 

最初は手加減していたのだが、洞窟の中の部屋の一室に全裸の女性が拘束されてるのを見てから、カワサキ様は一切の手加減無く盗賊達を叩きのめしている。殺しこそしていないが、腕をへし折ったりは平然としているし、風を巻き起こすほどの勢いの回し蹴りや裏拳で剣を殴り砕くなど、無双モードに突入していた

 

「……セバス。わたしも暴れたいでありんす」

 

「我慢するべきかと」

 

カワサキ様の上着を持っているシャルティア様がうずうずした様子で言う。私もコキュートス様も護衛なのだが、口を挟む余裕も割り込むタイミングも無い。それほどまでにカワサキ様は強く、そして怒っていた。下手に割り込めば、その怒りの矛先がこちらに向く可能性もあるのでここは待つべきでしょう

 

「私が怒られたと思っていたのは、全然違ったのですね」

 

「そのようですね」

 

ソリュシャンに怒っていた時とはまるで異なる。これがカワサキ様の本気のお怒りなのですね……万が一の事を考え、カワサキ様の後を追っているが、私達が割り込む余地は無かった

 

「おいおい、兄さんよ。ずいぶんとやってくれるじゃねえか」

 

洞窟を殆ど制圧した所で、青い髪の男がカワサキ様の前に立つ

 

「お前は?」

 

「俺か?俺はこいつらの用心棒さ。強い相手と戦いたくてな」

 

戦闘狂かとカワサキ様は呟き、無用心に男に歩み寄る。いままでのカワサキ様の強さを見ていれば心配することは無いと思い、それでも前に出ようとするが、私達の動きはカワサキ様の手で制され、邪魔をするなと命令されては動けない

 

「おいおい、良いのか?剣士相手に素手で近づいて」

 

「近づかなきゃ、殴れないだろうが」

 

カワサキ様の返答に男は口笛を吹き、腰に挿した刀を構える。

 

「だけど、それは俺を舐めてるよな」

 

「どうだろうな」

 

カワサキ様がある程度近づいた所で男の手が動いた

 

「な!?」

 

「遅せぇッ!!」

 

居合いによる一太刀を跳躍しかわしたカワサキ様は着地と同時に、走り出し男の肩を掴んで

 

「おっらあッ!!!」

 

「がっ!?」

 

その顔面に頭突きを叩き込んだ。男が鼻血を出しながら仰け反る、その鮮血を見てシャルティア様が身を乗り出すが、それをコキュートス様と一緒に押し止める

 

「やろお!!」

 

「遅いって言ってるだろが」

 

男の攻撃を身体を傾ける事でかわし、拳を握り締め男の顔面に叩き込む

 

「ぐっ……」

 

「自分よりも格下と戦って、強いと思ってるガキは嫌いなんだよ」

 

淡々とした口調で男に拳を叩き込むカワサキ様。最初は勢いのあった男もその数発でカワサキ様が圧倒的な格上と判ったのか、その顔に怯えの色が混じってくる

 

「おあああああああッ!!!」

 

「ふんっ!!!」

 

狂乱した男の太刀をかわしたカワサキ様はその胴に全力で拳を叩き込む。その一撃に男は腹を押さえて蹲る

 

「おい、お前、強くなりたいか?」

 

「……ぐっ。ぐぐう……」

 

その男に突然強くなりたいかと問いかけるカワサキ様。男は脂汗を流しながら当たり前だと返事を返すと、カワサキ様はコキュートス様に合図を出す。するとコキュートス様の御姿が人間から異形になり、カワサキ様もクックマンの姿になる

 

「も、モンスターなのか……」

 

「あん、カワサキ様がモンスターだと、てめえ死にてぇのか」

 

男の余りに無礼な言葉にシャルティア様が殺気を放ちながら、男に詰め寄ろうとする。だがそれはカワサキ様にまたも制された

 

「モンスターだろうが、異形だろうが、どうでもいいだろう?俺達はお前よりも強い。それが事実だ」

 

「っぐ……確かにな……」

 

荒い呼吸を整えている男にカワサキ様は男を睨みつけ

 

「自分よりも弱い相手を嬲り殺して、強い強いと思っていた大馬鹿野郎。お前、名前は」

 

「ぶ、ブレイン……「聞こえないな!!!もう1度聞くぞ!お前は誰だ!」

 

その一喝に男が震え始める。声の大きさ、その威厳。そのどれもが完全に相手を威圧していた

 

「名前を名乗れないのか?そんなにお前は弱いんだな」

 

カワサキ様の挑発するような言葉に男の肩が大きく揺れる

 

「なら自分よりも弱い相手と戦って、俺は強いって思ってろよ。いくぞ、こんな奴捕らえるまでも無い」

 

そう言って洞窟の奥に向かおうとした時。男は自分の頬に拳を叩き込み

 

「俺は!ブレイン!ブレイン・アングラウスだ!!!!俺は!俺は!!!最強の剣士になる男だ!!!」

 

洞窟の中に響いた男の叫びにカワサキ様は振り返る

 

「そこまで叩きのめされて吼えるか、良いぜ。お前、気に入ったぞ」

 

カワサキ様はそう笑うとふらついて今にも倒れそうなブレインの前に立ち

 

「俺達は見ての通り人間じゃない、だけど、それだからこそお前を強く出来る。ブレイン、一緒に来るか?」

 

カワサキ様の言葉に目を見開く、また人間をナザリックへ!?

 

「断ったら俺は死ぬんだろう?」

 

「まぁ俺達を忘れるくらい頭をぶん殴ってやる」

 

カワサキ様の言葉にブレインは笑いながら倒れこみ

 

「行く、あんたについていく……俺は強くなりたい……」

 

そう返事を返し、男は意識を失った

 

「セバス、コキュートス、シャルティア、後始末で悪いが、後の連中を捕まえて縛り上げてくれ。気が変わった、こいつだけ連れて帰る」

 

「そんな人間を連れて帰ることに意味があるのですか?」

 

「ある、こういう男は強くなる。俺の経験上、こういう奴は何度もみた。燻ってても、それでも強くなりたいと吼える。化けるぞ、こういう奴は……」

 

それに男で武技を使えそうだから、リザードマン達と同じく武技の研究に使えるだろ?と笑ったカワサキ様。私達はカワサキ様の命令通り、残った盗賊団を捕らえた(殺しはしてないが、腕を折ったり、足を折ったりはした)

 

「そろそろ来るだろうから洞窟を出るぞ」

 

来る?カワサキ様の言葉の意味が判らず、首を傾げるとカワサキ様は

 

「エ・ランテルに送り返した馬車が戻ってくるさ。ソリュシャンや俺達を見てるだろ?明らかに貴族と言う外見。何かあったら困ると思うだろ?」

 

確かにその通りかもしれない。エ・ランテルでの私達の動きを見れば、当然の事だ

 

「シャルティア、こいつを、ゲートで6階層のログハウスに送っておいてくれ」

 

「わかりんした!」

 

カワサキ様のご命令に嬉しそうに返事を返す、シャルティア様。カワサキ様は首を鳴らしながら

 

「人化すれば戦えるか……まあ戦うつもりはないが、良い経験だったよ」

 

「次はこのような真似はなさらないでください」

 

私の言葉にカワサキ様は考えておくよと笑い。私達を伴って、洞窟の外に出る。するとそこにはカワサキ様の言うとおり、馬車が3台凄まじい勢いで向かってくる姿があるのだった……そして私達はその馬車と共にやって来た冒険者達に後始末を頼み、迎えに来た馬車で王都へ向かうのだった……

 

 

メニュー17 クリームシチューへ続く

 

 




人化はオリジナル設定で、リアルでの動きを仕えるというのをプラスしたので。リアルで喧嘩がめっちゃ強かったカワサキ様は人化すれば戦えるという設定で、ブレインを確保しました。次回は非常に申し訳ないですが、漆黒聖典が全滅するまでの流れはメインで書くのが難しそうなのでちょっと端折ることになると思います。それでは次回の更新もどうか宜しくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

  • 間違っている
  • 間違っていない

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