生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー175 打ち上げパーティ その4

メニュー175 打ち上げパーティ その4

 

美味しいお酒に美味しい料理、そのどれもが王国、帝国いずれでも食べれない美食であることは間違いない。間違いないのだが……。

 

「何か違う」

 

「うん、何か違う」

 

トンカツ、唐揚げ、ステーキと肉料理は全部食べたが、私達が求めているのはこれではなかった。カワサキ達の拠点と言うのだからもっとこう、物語の中でしか出ないような見たことのないご馳走を期待していたのだ。美味しい、美味しいことは美味しいのだが……どこかその美味さも心から味わえていないような気がする。

 

「何か違うということはこの料理にはご満足いただけていない……という事でよろしいですか?」

 

背後から声を掛けられ驚いて振り返るとコックスーツ姿の切れ長の目をした女性が私達を見つめていた。

 

「あ、いえ、美味しいですよ?」

 

「うん。美味しい」

 

イビルアイからここの給仕もメイドも私達よりも強いと聞いていたので敬語で返事を返すが、私達に声を掛けてきた女性の目付きは鋭いままだった。

 

「こちらへ、普通のお方にはお出ししない料理を出しましょう」

 

「え? えっとその良いんですか?」

 

「構いませんよ。舌の肥えた方や、グルメな方への特別メニューです。ただまぁ、癖は強いですがね」

 

にやりと笑うその女性……シホというカワサキの一番弟子に連れられて人影のまだらな区画へとティアと共に足を踏み入れる。

 

「そちらの席に座ってお待ちください、準備はすぐに出来ます」

 

鉄板……というか、石を切り出したように見える板が置かれている机とそこに準備されている4脚の内2脚に腰を下ろす。

 

「えっと何を食べさせてくれるの?」

 

「お肉でしょう? 貴女達の話は聞いておりますよ。肉に拘りのある双子の忍者とね」

 

分かっていて声を掛けられたのだと驚いているとシホは私達の前に2枚の皿を差し出してきた。

 

「わっ!?」

 

「これは凄い……ッ」

 

見ただけで美味いと分かる極上の肉がそこにはあったが、それが何の肉か皆目見当も付かなかった。

 

「これは非常に特別な肉でして、食べた後に何の肉か説明しますよ」

 

肉が何かは教えてくれなかった。だけど食べ終われば教えてくれるというのでそれを素直に待つ事にする。

 

「調理を始める前にこの料理は美味しく食べれる時間が非常に短いのが特徴ですので、先にタレについて説明しますね。まずは卵、次にポン酢、山葵醤油です。お好みで好きなタレへつけて召し上がってください」

 

溶き卵にポン酢に山葵醤油、これはカワサキの店でも置かれているお肉のお供のソースだ。

 

「さっぱりめ?」

 

「肉の脂が凄いですからね。さっぱりとしたほうが良いのですよ。では始めますよ、準備は良いですね」

 

美味しく食べれる時間が短い料理とは一体どんな料理だろうかと見つめているとシホはトングでお肉を摘んで石の皿の上へ乗せる。すると今度は金属製の筒のようなものを取り出し、それを少し弄ると曲がっている部分から炎が噴出した。

 

「どうぞ」

 

そんな炎で焼けるのかと心配に思っているとシホは片面を軽く炙っただけでどうぞと差し出してきた。

 

「え、赤……いや、いただきます!」

 

「いただきます!」

 

軽く炎で炙っただけの殆ど赤の肉……少し怖さは合ったが箸でそれを摘んで卵に絡めて頬張った。言葉が無かった、美味しい、とにかく美味しいのだがこれは全てが未知の味だった。

 

「……お肉が消えた……」

 

「口の中が肉汁で一杯……ッ」

 

噛むまもなく、口の中に入れた瞬間に肉が消え、口の中のに残ったのはたっぷりの肉汁と濃厚な卵の旨みだけしか口の中に無かった。

 

「美味しいでしょう?」

 

「美味しい! 凄く美味しい!」

 

「もう1枚! もう1枚!!」

 

味わう間もなく消えてしまったので2枚目を焼いてくれと頼むとすぐにシホは2枚目の準備をしてくれ、それを再び頬張る。

 

「溶ける。お肉が溶ける……」

 

「こんなの始めて……」

 

口の中の熱で肉が溶けて消える。噛み締める間もなく消えるのだが、その旨みは口の中にこれでもかと残っている。

 

「これなんの肉なの? こんなの食べたことない」

 

「初めての味」

 

肉が溶けるのも始めてだが、濃厚な肉の旨みとさっぱりとしつつも肉の旨みをギュッと凝縮した脂の旨み……少なくとも今まで食べた肉で該当するもののない味だ。

 

「これはドラゴンです」

 

「「はい?」」

 

「ドラゴンの肉ですよ。食べる為に育てられた特別なドラゴンの肉です」

 

ドラゴン……ドラゴンの肉……伝説に語られる生物を今私達は食べたわけで……。

 

「お肉はお肉! もっと食べる!」

 

「私も!」

 

ドラゴンの肉だろうが、牛肉だろうが、鶏肉だろうが、美味いものは美味い、それが節理だ。ドラゴンの肉と聞かされても私達は怯える事無く、おかわりをシホに頼む。

 

「焼きしゃぶしゃぶだけで良いのですか? 少し分厚く切ってステーキや、衣をつけてフライなんかも出来ますよ」

 

ステーキ……フライ……確かにそれも魅力的ではある。

 

「今は焼きしゃぶしゃぶが良い」

 

「ステーキは後でもらう」

 

今はこの焼きしゃぶしゃぶを存分に楽しみたいというとシホは苦笑しながら酒瓶を取り出して私達の間においた。

 

「それにはこの日本酒が合いますよ。後は野菜を巻いても絶品です」

 

「むむ、それは少し試してみたい」

 

「美味しいなら全部食べて見ようと思う」

 

その後私達は日本酒に野菜を巻いた焼きしゃぶしゃぶ、そしてドラゴンのステーキと心行くまでドラゴン料理を楽しむのだった……。

 

 

 

吸血鬼だからこそ分かる濃厚な、凝縮した旨みの香りにつられて私は回りに誰もいない区画にまで足を運んでいた。

 

「これか……」

 

そこにあったのは肉の塊。だがその肉の周りには黴のようなものが生えていた。

 

「あ!? お前こんな所で何をしてるなんし! ここはスタッフオンリーでありんすよ!」

 

「……すまない、良い匂いがした……お前吸血鬼か?」

 

スタッフオンリーというドレス姿の少女に怒鳴られ、謝罪をするがその言葉を途中で区切り、吸血鬼かと思わず問いかけていた。

 

「……あ?」

 

「あ、すまない。同族というか似た種族を見たのは初めてだ。別に怒らせるつもりは無かった」

 

吸血鬼は数多く見て来たが、私とここまで似ている相手を見たのは初めてだった。だからそれを聞いただけで怒らせるつもりは無かったというと目の前の吸血鬼の少女は深い深い溜息を吐いた。

 

「ここまで来たならしょうがないなんし、特別にこのシャルティア様が料理を振舞ってやるから感謝するありんすよ」

 

「それは嬉しいな、楽しみだ」

 

若干の嫌味だったが、純粋な好意で返事をするイビルアイにシャルティアは複雑な表情をしつつ、吊るして作成していた熟成肉を手に取りイビルアイを連れて食材保管庫を出て行き、イビルアイはそのシャルティアの後を早足で追い掛けて行った。その姿は姉についていく妹に見えたと偶然食材の準備に来ていたエントマがプレアデスの全員に話したことでシャルティア実はお姉ちゃん属性がナザリックの噂となった。

 

「期待させて悪いなんしが、料理は余り得意じゃないでありんすから肉を焼くだけしかできないから」

 

「十分。その肉の香りだけで美味いって分かる」

 

人間には分からないかもしれないが、私には分かる。この牛肉は紛れも無く最高レベルの美味さを持つ肉だと……

 

「すぐに出来るなんし」

 

そういうとシャルティアは温めたフライパンに何かを塗りつけ、そこに牛肉をおいた。

 

「おお……ッ」

 

焼かれた瞬間に広がる強烈な肉の香りに思わず座っていた椅子から腰を上げる。

 

「座ってろ」

 

「……すまない」

 

即座に座ってろと睨まれ私は腰を椅子に再び腰を下ろした。

 

(カワサキとは随分と違うな)

 

カワサキは殆ど1発勝負で余り肉を触ったりしないが、シャルティアは何度も肉を持ち上げてはフライパンの上に押し付けるを繰り返す。

一部分だけに火が入り、肉の外面に香ばしい焼き色がついた所でシャルティアは肉を皿に乗せて私に差し出してきた。

 

「これを食べたら出て行くでありんすよ」

 

「分かってる。いただきます!」

 

関係者しか入ってはいけない場所に侵入した私を怒りながらも料理を作ってくれたシャルティアに感謝しながら皿と共に出されたソースを肉の上に掛けてからナイフとフォークで肉を食べやすい大きさに切り分けると肉は外側だけがこんがりと焼かれ、中はピンク色とカワサキが良く作ってくれるレアステーキと殆ど同じ物が私の目の前にあった。ソースをたっぷり肉に絡めて頬張ると口の中に広がるのはなんとも言えない旨みの塊だった。

 

「美味い、凄いな。これはとても美味い」

 

肉が良いのもあるが何よりも焼き加減がとても良い。外はこんがりと焼かれて肉らしい食感があるが、肉の中心はしっとりとしていて、焼いた肉と生肉に近い味わいを一口で楽しめる。そして何よりもでかいのが良い、確かに肉自体は小さいのだが高さがあるので満足度が段違いだ。

 

「このソースが美味しいな」

 

「む、そうでありんす?」

 

「美味い、カワサキが作ってくれるにんにくの味と香りがするソースや山葵醤油も美味しいが私はこの味が好きだ」

 

少し甘めで野菜と赤ワインの味がするこのソースは肉とも良く合う。カワサキのソースが肉の旨みを引き出すソースだとしたらシャルティアのソースは肉に旨みを付け加えるソースだと思う。

 

「そんなに美味いでありんすか?」

 

「ああ。美味い、食べ進めるのが惜しいくらいだ」

 

美味いから食べたい、美味しいから手が止まらない、だけど皿から消えていく肉を見ると寂しくなる。

 

(あああ……懐かしいな)

 

これは人化の指輪を貰ってから食事をするようになってから感じたものだ。生きているという実感を得れる同時に言葉に出来ない寂しさ。

人化の指輪を外せば魔力として蓄えられ、再び人化の指輪をすれば空腹を覚える。確かにいくらでも食べれて太らないというのはそう悪い気はしない、だが食べた物が魔力になる時の、そして人化の指輪をして空腹を覚えるその虚無感はどうにもなれない。

 

「もう1枚食べるでありんす?」

 

「良いのか?」

 

「そんなに名残惜しそうに食べているのを見て追い出すのはどうも心に良くない物を残すなんし」

 

不機嫌そうではあるが、その言葉には私を気遣う気配が感じられた。

 

「私はイビルアイ……いやキーノ・ファスリス・インベルンだ」

 

「……随分と長い名前でありんすね」

 

「私もそう思う。出来ればそう、シャルティアにはイビルアイではなく、本名で呼んで欲しいとそう思った」

 

同族、背格好も私が少し背が高いくらいで似通っている。ラキュース達とは違うシンパシーと仲間意識を感じてそう言うとシャルティアは深く溜め息を吐いてから立ち上がった。

 

(怒らせただろうか?)

 

その仕草を見てなれなれしかっただろうかと思っているとシャルティアは再び牛肉を切り出してフライパンで焼き始めた。

 

「キーノ。いま焼いているのを食べ終わったら案内してやるでありんす」

 

「あ、ああ! よろしく頼む!」

 

しょうがないと言いつつも柔らかい笑みを浮かべているシャルティアに口調と雰囲気ほど悪い奴ではないと感じたのは間違いではなかったと思いながらシャルティアの焼いてくれたステーキにナイフとフォークを向けた。

 

「あと、1枚。あと1枚だけ……」

 

「お前本当に良く食うでありんすねぇ……」

 

案内してくれるとシャルティアは言ってくれたのだが、結局私がシャルティアの部屋を出たのは5枚ものステーキを腹に収めた後なのだった……。

 

 

メニュー176 打ち上げパーティ その5 へ続く

 

 




焼きシャブは私も食べて衝撃を受けたので肉大好きの双子忍者(本当は三つ子)へ、そしてイビルアイとシャルティアは個人的に仲良くして欲しい組み合わせなのでやってみました。次回はラキュースとガガーランをメインに書いてみようと思いますので、次回の更新もどうか宜しくお願いします。

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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