生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

28 / 236
下拵え2 寿司の準備

 

下拵え2 寿司の準備

 

モモンガさんに許可を取り、俺は飛行が使えないので飛行の効果を与えるペンダントを借り、デミウルゴスの案内で海に来たのだが……

 

「どうかしましたか?」

 

「い、いや、なんでもない」

 

スーツ姿では動きにくいと思ったのか、別の服に着替えてきたデミウルゴスなのだが、黒いズボンに黒のシャツ、そして紅のフィッシングジャケットに紅い帽子……思いっきり釣り人というスタイルで違和感しかないと思いきや、褐色の肌なので意外と似合っている

 

(ウルベルトか?ウルベルトのセンスなのか?)

 

どういうセンスでデミウルゴスの服を作ったのだろうか?俺はそんな疑問を抱きながら、デミウルゴスに案内された場所を確認する。岸から離れた沖合いの無人島。岸はちなみに見えない程に離れている……太陽の光を反射して煌く海面を見ているとバシャバシャと跳ねる音がする……多分ナブラと言う奴だろう。となるとやはり小魚を主食とする大型のフィッシュイーターがいるのは間違いない

 

「では今回確保する食材と装備について説明する」

 

「「はっ!」」

 

デミウルゴスとパンドラが揃って返事を返す中。持ってきた装備について説明する

 

「まずバニシングセイルを捕獲する用に使われる釣り竿を2本。これなら大抵の魚は大丈夫だ」

 

バニシングセイルが幻のモンスターなのは、クックマンのレベルだけが原因ではない、遭遇手段が釣り限定と言う事で更に釣りのスキルまで必要だからだ。しかも生息区域は氷の大河なのでそこにいるだけで尋常じゃない程にHPが減少するフィールドエフェクト付きと言うえぐ過ぎる条件がある

 

「これで魚を確保したい。異世界なので魚の種類は不明、なのでとりあえず釣ってから考える方向だ」

 

釣り上げた後俺の鑑定と味見で魚の種類を調べる。なお俺が捕獲したいと考えているのはワラサやカンパチと言った青物であるが、はたしてこの異世界に同じような種類が居るのか?そこが謎のままなので、釣り上げる魚の名前は口にしない

 

「そして海の中に居る貝だ」

 

見本及び昼食用として持ってきた貝。ホタテ、鮑、そして海栗の3種類を見せる

 

「カワサキ様、これらはどのように生息しているのですか?」

 

「……鮑は岩にこんな感じに張り付いている。ホタテと海栗は岩や昆布があるエリアの砂底に生息している……筈」

 

生息形態はそこまで知っているわけではないので、筈と言う言葉がつく。デミウルゴスとパンドラは海を見つめ

 

「判りました!ではこのパンドラズ・アクターが貝の捕獲に挑戦します。私ドッペルゲンガーですから、呼吸しなくても大丈夫ですから!」

 

おっと、ここでまさかのドッペルゲンガーの種族特性が判明した。それならと俺はヘラをパンドラズアクターに渡し

 

「気をつけてな?」

 

「お任せください!カワサキ様とモモンガ様の為にッ!」

 

ヘラを握り締め岩場に駆け出して行ったパンドラは岩場で立ち止まりコートと軍帽、そして軍服の上着を脱いで、頭から海へと飛び込んで行った……ホタテや海栗が生息しているかは不明だが、鮑は多分大丈夫だろう

 

「じゃあ俺とデミウルゴスは釣りだ。まずは餌用の小魚を狙うぞ。仕掛けの作り方はわかるか?」

 

「大丈夫です、ウルベルト様に教わっておりますゆえ」

 

……ウルベルトってもしかして海とか好きだったのか?異世界に来た事で知ったウルベルトへの疑惑に首を傾げながら、バニシングセイル用の巨大竿ではなく、リール付きの3mほどの短い竿を用意し、パンドラズ・アクターが飛び込んだのと逆方向の岩場にデミウルゴスと共に足を向けるのだった……

 

 

 

 

カワサキ様の護衛としての任を任せられ、しかもアインズ様に献上する品を探すのを手伝うと言う名誉に、私は感動で手が震え、仕掛けを作るのに悪戦苦闘していた

 

(なんとしても釣り上げてみせる)

 

リールから糸を引き出し、竿のガイドに糸を通す。そんな簡単な作業に5分も掛かった事に情けないと心の中で苦笑する

 

「仕掛けはサビキ、沖合いの島だからいきなりドン深だ。コマセカゴをつけても大丈夫だろう」

 

「判りました」

 

半透明なピンク色の皮が針の根元に巻かれた物が7本繋がっている仕掛けを手渡され、それをガイドを通した糸と結ぶ

 

「リザードマンの湖で判っているが、この世界の魚とユグドラシルの魚は違う。まずは釣ってみてから考えよう」

 

「畏まりました」

 

コマセカゴに小エビを詰め込み、軽く投げ込む。竿を伝って仕掛けが沈んでいくのが判るが、その感覚でかなり深いのが判り。パンドラは大丈夫だろうか?と思いながら、クーラーボックスにカワサキ様と並んで腰掛ける。私のクーラーボックスは餌関連、カワサキ様のクーラーボックスは私達の昼食と飲み物がそれぞれ納められている。ジーっと言う音を立ててリールから糸が出て行く……判っていた事ですが、仕掛けが沈む時間と、その速度から岩場の先からは一瞬で深くなっているのが判る……

 

「っと来ました」

 

コツンッ!と一気に穂先まで来る当りに竿をしゃくって合わせを入れる。小気味いい引きで上がって来たのは30cmを少し切る位の魚だった……カワサキ様は竿受けに竿を置いて

 

「ふむ……見た目は鯵っぽいな……とりあえず生かしておいて、後で大物釣りに使おう」

 

「では水を汲みましょう」

 

桶に海水を汲んで、そこに釣り上げた魚を放す。桶の中を元気に泳いでいるので、生き餌としても十分に使えるだろう

 

「っとこっちも来てるな」

 

「おめでとうございます。っと!私にもですね」

 

カワサキ様にも当り、それから数秒もせずに私の竿にも当たり、仕掛けを投入すれば魚が釣れる。群れが居るのか、最初に釣り上げたのと全部同じ種類だ。嵐のような入れ食いは10分ほどで終わり、1つの桶で収まりきらず3つの桶に殆ど一杯になるくらいに釣れた

 

「大漁ですね」

 

「魚釣りって言う概念が無いから、魚影が恐ろしいほどに濃いみたいだな」

 

これなら今度モモンガさんも誘えば面白いかもしれないと笑ったカワサキ様は1匹桶から掬い、ナイフで手早く捌く。内臓などは海に放り投げる。するとバシャバシャと魚の跳ねる音がする、やはりこの周辺は恐ろしいほどに魚影が濃いようだ

 

「味も鯵に近いな、脂が乗っていて美味い。5~6匹〆ておくか」

 

どうも魚の味としてはカワサキ様が満足行く物だったらしく、ナイフを鰓に刺し魚をどんどん〆、氷が入れてあるクーラーボックスに入れていく

 

「デミウルゴスも味見するか?」

 

そう言われ断るのは不敬だと思い、いただきますと手を合わせ、刺身を1つ口に入れる。カワサキ様の言うとおり脂が乗っていて、舌の上で身が蕩けるようだ……これならばアインズ様に献上しても全く問題が無いと確信する

 

「じゃあ今度はこの魚を生餌にして大きいのを狙うか」

 

本来の目的はこの小魚ではない、これはあくまで餌なのだ。カワサキ様の言葉に判りましたと返事を返し、砂浜に置いたままのバニシングセイル用の竿を取りに走るのだった……

 

デミウルゴスとカワサキが鯵に似た魚を釣っている頃。海に潜っているパンドラはと言うと

 

(ぬおおおおおおッ!!なんですかこれはぁッ!?)

 

鮑を捜し求めて、岩を覗き込んでいた時、突如岩陰から姿を見せた巨大な蛸に手足を取られ、腰に挿していたナイフで必死に応戦していたりする……息が切れることは無いが、海中と言う相手のフィールドでの戦いにパンドラズ・アクターは苦戦していた……レベル100のNPCでも苦戦する巨大蛸……カワサキ達は知らない、この島が魔の島と呼ばれる無人島であり、凶暴なモンスターの住処と言う事を……

 

 

 

 

釣り上げた鯵っぽい魚の眼の間に針を通す。これで魚が結構元気に泳いでくれるのだ、足元から入れてスプールを開ける。ジ、ジーっと言う音を立ててラインが出て行く。俺は針にガン玉を噛ませただけのシンプルな仕掛け、魚が泳ぐのを邪魔しない仕掛けだ

 

「デミウルゴス。そっちはどうだ?」

 

「こちらもウキが馴染みました」

 

デミウルゴスは遊動仕掛けでウキをつけている。ウキが付いている分魚の動きを阻害するが、ウキの動きで追われているか判断出来る。ある意味確実性があるとも言える

 

(良い天気だ)

 

風が丁度良く、日差しも暑すぎるという訳ではない。本当に今度モモンガさんも連れて来ても良いかもしれない。前に話していたピクニックだが、この島でキャンプと言うのも良いかもしれないと思っていると、ごぼごぼっと言う音を立てて何かが浮上している

 

「カワサキ様。私の後ろへ」

 

何かモンスターが浮上してくるのかもしれないと判断したのか、デミウルゴスが竿を置いて俺の前に来た次の瞬間

 

「ごばあッ!ぜはーぜはーっ!あ、危うく相打ちになるところでした」

 

「「パンドラッ!?」」

 

海面を割って姿を見せたのはパンドラズ・アクターだった。岩場を掴んで這い上がってきたパンドラはロープを身体に巻きつけている

 

「カワサキ様。大物が取れました!ふんっ!」

 

ロープを引っ張るパンドラ、それから数秒後再び泡が上がりパンドラの引っ張るロープの先に姿を見せたのは

 

「なんだその蛸!?」

 

海から引き上げられたのはパンドラと同じくらいの化け物蛸だ……その目の間にはナイフが突き立っていて、死んでいるのが判る

 

「こ、これは大物だね。パンドラ」

 

「ええ、水の中だったので本当に相打ちになるかと焦りましたよ」

 

そりゃこのサイズの蛸に襲われれば、相打ちにもなるかもしれない……この海の下にどんな化け物がいるのか?もしかしたら、生餌にも相当な大物が掛かるかもしれない

 

「と、とりあえずアイテムボックスに格納しよう」

 

アイテムボックスを呼び出し、その中の魚介類関連を収めている場所にパンドラが命懸けで捕らえてきた巨大蛸を3人がかりで収納する

 

「他にも色々取ってまいりました」

 

岩場にごろごろと捕獲した獲物を並べるパンドラ。それを見て俺は凄いなと思わず呟いた

 

「殻だけで40cmくらいあるな……この鮑、海栗もソフトボール並みかよ……」

 

よほど海洋プランクトンが豊富なのか、鮑も海栗も化け物みたいにでかい

 

「いかがでしょうか?まだあったので取ろうと思えばとって来れますが……」

 

パンドラが今もって来てくれたのは鮑が2個、海栗が7個……俺は少し考えてから

 

「鮑をもう3個頼む」

 

乱獲という訳ではない。リアルで海産物はそれこそ金やダイヤに匹敵する食材だ、魚などは養殖で触ったことはあるが、鮑などは本で見ただけ、まず調理をしてみない事には適切な味付けが判らない

 

「判りました。では暫くお待ちください!」

 

ナイフを口に咥え、頭から海の中に飛び込んでいくパンドラ。パンドラは実は野人だったのだろうか?銛とか渡したら魚を突いて来るのでは?と思ったその時、ジーッ!!!っと凄まじい音が響く、デミウルゴスと同時に振り返ると竿が引き摺られ海面に消えようとしていた

 

「デミウルゴス!竿掴め!!神話装備が海の藻屑に消える!!!」

 

竿は竿でもバニシングセイル用の竿は実は神話級装備なのだ。それを海の藻屑にする訳には行かない、デミウルゴスにそう叫ぶ。流石にこれを紛失したらモモンガさんも怒りかねない

 

「っはい!!!」

 

慌てて竿に駆け寄り、大きくあおる。次の瞬間穂先が海面に突き刺さらんばかりに曲がる

 

「ぬっぐう!す、凄まじい引きです」

 

「や、やっぱりこの海域の魚は!恐ろしいほどに巨大化しているのかも!」

 

全力で踏ん張っているのにずるずると海へ引き摺られる。ラインはさっきから出っ放しだ……

 

「慎重に、慎重に行くぞ!」

 

「わ、判っています!!」

 

デミウルゴスは尻尾を岩場に巻きつけて、謎の魚の強烈な引きに耐えている。俺は体重を後ろに掛ける事で、そのありえない引きに必死に耐えるのだった……1時間近い奮闘の末上がって来たのはマグロかよ?と突っ込みたくなるサイズのワラサとヒラマサだった……

 

 

 

 

 

 

魚釣りを終えてナザリックに帰ったのは昼少し過ぎだった。海でご飯を食べるとか考えていたが、俺もデミウルゴスもパンドラも尋常じゃなく疲労していたのでスクロールで手早く戻り。俺はパンドラとデミウルゴスに礼を言ってから自分の厨房に戻っていた

 

「これとかは全部アイテムボックスだな」

 

アイテムボックスの中ならば、鮮度などは完全に維持される。正直冷蔵庫などで保管するよりもよっぽど信用出来る、俺とデミウルゴスで必死に釣り上げたワラサとヒラマサを短冊に切り分け、同じく切り分けた鯵っぽい魚と共にアイテムボックスに収納する。マグロなどはいつでも使える段階にしているので問題ないが、今からする仕込みは時間が掛かる物がメインだ

 

「これは骨だな」

 

化け物みたいにでかい大蛸の頭の部分に切り込みを入れて、腕を突っ込みワタや墨袋を引っこ抜く。次に頭を掴んで目と嘴を取り除き

 

「……ピッキーとシホを呼ぶか」

 

これを塩もみするのだが、このサイズを塩もみするのは骨なので、ピッキーとシホを呼んで手伝ってもらうか……ボイルする時は足を切って、1本ずつボイルすればOKだろう。残ったら、残ったでシモベとかに与えれば良いし……部屋の外で待機していたメイド。41人もいるので名前を覚えてなかったのが非常に申し訳なかったが、彼女にシホとピッキーを呼んでくれるように頼み

 

「色々試してみるか」

 

モモンガさんに寿司を振舞うのは明日だ、だから鮑の下拵えも、煮方もいろいろ試してみようと思い。タワシで洗った物、手で洗った物。下茹でした物、してない物など色々な準備をしながら、ピッキーとシホが手伝いに来てくれるのを待ちながら、明日モモンガさんに寿司を出す時の順番。共に出す酒の種類などを考えているとふと思った

 

(モモンガさん、山葵大丈夫なのか?)

 

それに蛸とか、烏賊とか……リアルで食べられない食材とか大丈夫だろうか?俺は少し考えてから、今なんでも食べてるモモンガさんなら大丈夫だろう……あ、大事な事に気付いた。

 

「全くこんな大事な事を忘れているとか、俺らしくないな」

 

モモンガさんが何を食べられるとか、魚の準備とかより、もっと大事な事があるじゃないか

 

「モモンガさんにアルベドを誘うように言わないと」

 

1人に寿司を作るのでは余りにあれだ。アルベドも喜ぶ、モモンガさんも寿司を食べられて喜ぶ、完璧だな。俺はそんなことを考えながら、下拵えを終えた鮑を煮汁の中に丁寧に沈めていくのだった……

 

 

メニュー22 寿司屋カワサキ

 

 




と言う訳で今回は準備回という事でやや短めの話となりました。あとデミウルゴスは釣り人スタイルが似合うと思います(異論は聞きます)なお次回の寿司の出し方などは私が10代の時にバイトしていた寿司屋のメニューの出し方で行くので少しうろ覚えのところもあると思いますが、広い心で見てくだされば幸いです。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

  • 間違っている
  • 間違っていない

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。