生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー23 ピザ

 

メニュー23 ピザ

 

カルネ村でスレイン法国の部隊と応戦したと言う報告に対して、聞きたいことがあると言う事で城に呼び出された……だがそれは方便と言う事は分かりきっていた。そして案の定始まったのは私のつるし上げとそんな事実は無かっただろうと言う、私が虚偽の報告をしていると言わせようとし、王の権威を下げようとする不愉快極まりない会議だった

 

(貴族共が)

 

心の中でそう吐き捨てる。確かに法国の特殊部隊に遭遇したが、俺はアインズ・ウール・ゴウン殿に助けられた。証拠品として持ち帰った鎧も帝国の物だから、帝国の仕業として断固として認めない反王派貴族にはうんざりだ。ゴウン殿も逃げられたと言っていたが、何か証拠か何か……いや、そもそもゴウン等と言う魔法詠唱者など居なかったとまで言われれば、流石の俺も声を荒げてしまった。王に窘められたが、王自身も調子の悪さを隠しきれておらず、今日の所は一時解散となったのだが、明日もこの調子ではと小さく呻く

 

(お痩せになられた)

 

最近食事の後に体調が悪いと言って伏せられている、だが毒見が居るから病気なのだろう……このままお亡くなりになるようなことは無いだろうか?と言う不安が頭を過ぎる

 

(きっと心労のせいだ)

 

私の話を信じてくれた王とそれを信じない貴族。政戦を繰り返すのがきっと王の体に負担を掛けているのだろう……ゴウン殿が訪ねてくれればと思っていると屋敷に見覚えの無い馬車が停まっているのを見た

 

(貴族か?)

 

白く美しい馬車とそれを引く馬はなんとスレイプニルだ……その馬を見て、まさかと思い駆け寄る

 

「ガゼフ・ストロノーフ様でしょうか?」

 

馬車の陰から姿を見せた美しいメイドに息を呑んだ。王国戦士長として貴族の夜会に出た事もあるが、そこにいた誰よりも美しい。髪を夜会巻きにし、眼鏡を掛けた知的なメイドの姿に完全に見惚れてしまった

 

「あ、ああ、そうだ。失礼だが、貴女は?」

 

もう1度名前を呼ばれ、我に返りその問いかけに答えると同時に、何者か?と尋ねる

 

「申し遅れました。私はユリ、アインズ様のメイドです」

 

優雅な素振りで礼をするユリ殿にやはりと呟く。その仕草も口調も素晴らしい物だ……それにあれだけの馬車と馬を持っている貴族など居ない。ゴウン殿か?と思ったが、やはりその通りだった

 

「アインズ様、カワサキ様。ストロノーフ様がお戻りになられました」

 

ユリ殿がそう声を掛け、馬車の扉を開くとカルネ村であった時と同じローブを身に纏い、仮面を被ったゴウン殿が姿を見せる

 

「ゴウン殿。訪ねて来てくれたのか」

 

社交辞令のつもりではないが、訪ねて来てくれと言って実際に訪ねて来てくれるとやはり嬉しい。しかしゴウン殿ともう1人の名前を口にした……一体何者だろうか?と首を傾げていると馬車の中から低い声が聞こえた

 

「アインズさんよ。俺も紹介してくれないか?」

 

「ああ、すまない。戦士長殿、彼が私の友人のカワサキさんだ」

 

ゴウン殿が馬車の前から移動し、その後から姿を見せた人物に目を見開いた。そこにいたのは黒髪、黒目の屈強な男性だったからだ

 

「もしやゴウン殿が仮面をしておられるのは?」

 

「ご察しのとおりです」

 

やはり……私自身南方の血を引いているから苦労してきた。だから顔を隠す理由も判った

 

「そういう事でしたら中へ、余り見られたくは無いでしょうから」

 

ただでさえ立派な馬車だ。こっちを見ている人間も多いので屋敷の中へと促すとカワサキ殿は

 

「おい、早く出て来い。ブレイン」

 

ブレイン?その名前に驚き馬車に視線を向けるとブレイン・アングラウスがゆっくりと馬車から降りてきた

 

「ブレイン、久しぶりだな」

 

「ああ。お前も元気そうだな、ガゼフ」

 

御前試合振りだなと声を掛けると、ブレインはそうだなと笑う。彼の動向に関しては噂すら聞かなかったので今まで何をしていたのかを聞きたいと思ったが、まずはゴウン殿とカワサキ殿を屋敷の中に入れるほうが先だと判断し

 

「ささ、どうぞ。狭い屋敷ですが、どうぞごゆるりと」

 

私はそう声を掛け、屋敷の扉を開くのだった……だがこの時の私は知らなかった。ゴウン殿とカワサキ殿が訪ねて来てくれた事が、王に牙を向く貴族を一掃するための鍵となることを……

 

 

 

 

 

ガゼフ・ストロノーフを訪ねる上で俺とモモンガさんだけで動くというのに当然守護者は全員で反対した。アルベドの反対はその中でも最も激しい物だったが、いかに人化が出来ると言っても守護者を連れて行くわけにも行かず。ユリを供とし、シャドウデーモンとエイトエッジアサシンによる厳重な警護の中。俺達はここまでやって来た。ブレインを連れて来たのはガゼフと知り合いと言う事を考慮したのだ

 

「さ、外は暑かったでしょう。どうぞお飲みください」

 

そして出会ったガゼフと言う人物だが、健康的に日焼けした黒髪、黒目の人物で気さくな人物だった

 

「御呼ばれするよ、ありがとう。アインズさんも」

 

「あ、ああ。そうですね」

 

モモンガさんが仮面に手を伸ばし、素顔を晒す。当然幻術などではなく、人化を俺が施している

 

「なるほど、あれほど強力な魔法詠唱者が顔を隠しておられたのは、その髪と目を隠すためでしたか」

 

「ええ、肌の色や目の色が違うと良くやっかみを受けるのでね」

 

しかし本当にモモンガさんはアドリブとか上手いよな。ガゼフさんの家に雇われているという老夫婦が差し出してくれた水を口にする。井戸から汲んで来たのか木の香りが少しする

 

「あの時誘われた時にお断りして申し訳ない。カワサキさんとはぐれ、彼を探していたのですよ。彼は8年来の友人でして」

 

「なるほど友が近くにいるかもしれなければ、離れるわけには行きませんね」

 

なるほどなるほどと頷くガゼフさん。モモンガさんが気に入るわけだ、このさっぱりとした性格はたっちさんに通じる物がある

 

「カワサキ殿も魔法詠唱者なのかな?」

 

「俺か?俺は料理人だよ、一応簡単な魔法は使えるけどな」

 

ほう、料理人ですかと興味深そうに呟くガゼフはユリと同じく立って控えているブレインに視線を向ける

 

「それにしてもブレイン。久しぶりだな、今まで何をしていたんだ?」

 

「傭兵としてあちこちの戦場を渡り歩いていた。そんなある日カワサキ様に会ってな、徹底的に叩きのめされ、強くしてやると言われた。それからはカワサキ様とアインズ様の世話になっている」

 

あらかじめ二人で話し合って決めておいた設定をよどみなく言うブレイン。相当練習させたからな、デミウルゴスが……

 

「ほう、ブレインに……」

 

「俺もこの髪と目だ。いらんやっかみを退けるために体は鍛えてある」

 

だから自己防衛くらいは出来ると言うと納得した様子だ。そんなこんなで話を聞く限りではどうも王国と言うのは人種差別が大きいようだ

 

「そこでなのですが、ガゼフ殿。1つ頼みがあるのですよ」

 

「私に出来ることならば力になりましょう」

 

話を聞く前に返事をする。それがガゼフの人となりを如実に表していた

 

「ブレインと1度手合わせをして頂きたい。前よりも強くなったという実感がないそうでね。私は魔法詠唱者ですし、カワサキさんはまだまだ彼よりも強いですから、1度負けた貴方と手合わせしたほうが実感が湧くでしょう」

 

ナザリックのシモベを見ていると自分が強くなっているのか確信が持てないと言うブレイン。それならばかつて敗れた相手にリベンジしてみては?と言う話になったのだ、ガゼフは2つ返事で引き受け、屋敷の中の庭で勝負をしようという話になった

 

「じゃあガゼフさん。俺にはこの屋敷の厨房を貸してくれないか?」

 

「それはどういうことでしょうか?」

 

怪訝そうな顔をしているガゼフに俺は持って来た荷物を見せながら

 

「お近づきの印に料理を振舞いたいのさ」

 

「戦士長殿。カワサキさんの料理は絶品ですよ。1度味わうべきだ」

 

モモンガさんにも言われたガゼフさんは、それは楽しみですなと返事を返し。どうぞお好きに使ってくださいと言うので老夫婦に案内され、俺はユリと共に厨房に、モモンガさんはブレインとガゼフさんの組み手を見る為に屋敷の中の庭に足を向けた

 

「どうぞこちらを使ってください」

 

案内された厨房は本格的な石窯があり、綺麗に掃除されていた。それを見て思わず口笛を吹いた、外の町並みを見て期待して無かったが、ここまでの厨房なら話は変わってくる

 

「ありがとう爺さん。爺さんも美味い物を食わせてやるから楽しみにしててくれ」

 

ここまで案内してくれた爺さんに礼をいい、荷物を取り出す振りをして、アイテムボックスから食材を取り出す、小麦粉、強力粉、砂糖、サラダ油、ドライイースト、塩

 

「ユリ、お湯を沸かしておいてくれ」

 

「判りました」

 

ガゼフさんは既にモモンガさんの魔法の力を知っている。だが俺とは今日が初対面だ。俺の目的はガゼフさんが知らないであろう料理を見せることで俺の料理の力を示すこと。そしてその話を国王にして貰う事にある。よって今日作るのはパンではない。俺はユリがお湯を沸かしてくれている間にコックスーツに着替え、厨房に備え付けられた石窯の確認をするのだった……

 

 

 

 

カワサキ様とアインズ様の付き人を任され、今はこうしてカワサキ様の料理の手伝いまでも……その幸福に感謝しながらも、カワサキ様に任された手伝いをこなす

 

「カワサキ様。お湯が沸きました」

 

「ありがとう。そのまま悪いがゆっくりお湯を入れてくれ」

 

取り出した材料を全てボウルに入れ混ぜ合わせているカワサキ様に頷き、少しずつお湯を注ぐ。丁寧に粉を混ぜ合わせそれを固めていく……凝った料理は作らないと聞いていましたが、一体何を作られるのでしょうか?

 

「良し、これで少しおいておくぞ。その間に次だ、ユリ。お前包丁は?」

 

大きな球体になった所でカワサキ様がそう尋ねてくる。料理自体は駄目だが、包丁くらいなら大丈夫ですと返事を返すと、ピーマンと玉葱とウィンナーを渡され、これを1口大に切り分けてくれと指示を受ける。カワサキ様は竃の前に移動し、鍋を取り出しそれを暖め始める

 

「カワサキ様、それはなんでしょうか?」

 

既に中身が入っていると言う事はナザリックで作ってきた物だろう。何を作ってきたのですか?と尋ねる

 

「トマトソースだ。今日はピザを作ろうと思ってな、簡単で大勢で食べられて丁度いい」

 

ピザ……?食堂にあるメニューなら知っているがピザは無かった。一体どんな料理なのだろうか?私はそんなことを考えながら、カワサキ様に渡された食材を切り分けていく

 

「大雑把で良いぞ?そこまで丁寧に切り分ける物じゃないからな」

 

「判りました」

 

大雑把……ざく切りって事でいいのかしら?私はカワサキ様の指示に頷きながらも、どうやって切ればいいのだろう?と悩みながら、色んな形で食材を切り分けてみる事にした。どれが良いのか判らないのなら、色々試してみれば良いと思ったからだ

 

「よし、生地の発酵も終わった」

 

カワサキ様はそう言うとボウルに入った生地を取り出し、机の上に打ち粉をしてから手の平で押して生地を伸ばしていく……

 

「よっと、ほっと」

 

そして生地を回転させるのだが、それは見る見る間に伸びて巨大な円になっていく……その余りの早さと大きさに思わず絶句する

 

「よしこんな物だな、ユリ。生地の外側にウィンナーを並べるのを手伝ってくれ」

 

「は、はい!」

 

カワサキ様の真似をして、生地の外側にウィンナーを並べていく……生地の外側全てにウィンナーを並べ終わると今度は生地でウィンナーを包み込んでいく

 

「これは少し難しいが出来るか?」

 

「やってみます」

 

手伝いを任された以上。少し不安でもやらなければならない、カワサキ様の作業を真似して、同じように生地を伸ばしてウィンナーを包むのだが、カワサキ様と比べるとやはりやや不恰好になってしまう

 

「初めてなら上等上等、それにこれはパーティメニューだ。そこまで気にする事は無いさ」

 

そうやって励ましてくれるカワサキ様。しかしカワサキ様の料理を不恰好にしてしまった事に、申し訳なさをどうしても感じる。カワサキ様は慣れた手つきでピザ生地にトマトソースを塗る、その姿を見ているとカワサキ様は私が切り分けた食材のボウルを差し出しながら

 

「じゃあ、トッピングを頼む。何、そう難しく考えることは無い。生地全体に広がるようにやってくれればいい」

 

俺はその間に石窯の確認をするからと言って、石窯に向かうカワサキ様。私は手渡された食材と目の前の生地を見て

 

(し、失敗は許されない)

 

ここまで来て失敗するなんて許されない。私は凄まじい緊張感とプレッシャーを感じながら、食材を生地の上に並べていくのだった……

 

(すっごい真剣な顔をしてるな)

 

石窯の調整をする中、カワサキは恐ろしいほどに緊張しきった表情でトッピングをするユリを見て。真面目なユリにあんな一面があるんだなと小さく微笑むのだった……それはカワサキがギャップ萌えに目覚めるかもしれない瞬間だったのだが、薪の割れる音で石窯に視線を戻したので結局目覚める事は無いのだった……

 

 

 

 

中庭に座り込み、息を整える……木の剣による組み手はいつの間にか私もブレインも熱が入り、本気の戦いになっていた。最後は私の上段からの一撃がブレインの頭を捉え決着となったが、ブレインの剣は首筋に伸びていて、これが真剣だったら相打ちだった……

 

「ふー腕を上げたな。ブレイン」

 

「いや、お前こそ」

 

ブレインは本来の得物である剣、太刀と言われるそれを使っていない。私も本来の重さやリーチの違う木剣での戦いで、間合いや振りが満足に出来ない所があった。お互いに手の内を隠しながらの試合だったが、間違いなく御前試合の時よりもブレインは強くなっている

 

「強くなっているって言う実感は持てたか?」

 

「アインズ様、はい。俺の我侭を聞いてくれてありがとうございます」

 

ブレインが姿勢をただし、深く頭を下げる。その姿は私とランポッサ国王の関係に似ていた……

 

(そうか、ブレインも仕えるべき相手を見つけたのだな)

 

私はそんなことを考えながら、呼吸を整え立ち上がろうとした時。屋敷から漂ってくる良い香りに息を呑んだ

 

「そろそろカワサキさんの料理が出来たみたいですね」

 

ゴウン殿が立ち上がり、小さく笑みを浮かべる。それほど話した訳ではないが、ゴウン殿とカワサキ殿は対等な友人関係なのだろう。私やブレインと話す時と口調や雰囲気が違うのはきっとそれが理由なのだろうと判断し、身体に力を入れて立ち上がる

 

「大丈夫か?結構本気で打ち込んだからな」

 

「大丈夫だ、カワサキ様に殴られた時の事を考えればな……」

 

カワサキ殿の拳の方が痛かったと言うブレイン。料理人と言っていたが、やはりゴウン殿と同等の強さを持っていると思って間違いないようだ……

 

(よほど苦労したのだろう)

 

私も国王に拾い上げて貰わなければ傭兵として生きていただろう。私と違い、そういう出会いの無かったゴウン殿とカワサキ殿の苦労を考えれば、それは実戦によって鍛え上げられた力なのだろう……私はそんなことを考えながらブレインと共に屋敷の中に戻り

 

「おお……これは凄いな」

 

芳しい香りを放っていたのは円形の料理だった。野菜と腸詰が並べられ、その上に黄色の何か……1度晩餐会で口にしたチーズと呼ばれる食品だろう。それがたっぷりと散りばめられた一品

 

「丁度いい所に来てくれた、今焼きあがった所なんだ」

 

白く清潔感に溢れた服装のカワサキ殿がそう笑う。この短時間でこれだけの料理を作り上げるとは……城の料理長よりも良い腕をしているかもしれない

 

「熱い内に食べてくれ」

 

そう笑ったカワサキ殿はもう1枚焼いているからと部屋を後にする。残されたユリ殿は水差しを手にしており

 

「アインズ様。どうぞ」

 

「ああ、ありがとう。ユリ」

 

「ストロノーフ様もどうぞ」

 

「これはかたじけない」

 

ゴウン殿のメイドなのに私にまで、両手でそのコップを受け取るのだが、中身が黒いし、パチパチと音を立てている。これは一体……

 

「ユリ殿。これは……?」

 

「カワサキ様の作られたドリンクだそうです。ピザに良く合うと仰っておりました」

 

飲み物まで……しかし皿などが無いのだが……これはどうやって食べるのだろうか

 

「既に切り分けてあるので、素手で手に取りお召し上がりください」

 

ユリ殿の説明を聞いて、切り分けてあると言うピザに手を伸ばす。持ち上げるとトロリと溶けたチーズがピザが乗っている大皿に垂れる

 

(これは……美味そうだ)

 

見たことの無い料理だが、これは美味そうだ。思わずごくりと喉が鳴る

 

「ではゴウン殿。貴方のご友人の料理。心して味わわせて貰う」

 

「どうぞ。カワサキさんの料理は本当に美味しいんですよ」

 

にこやかに笑うゴウン殿。その姿は友人を自慢しているようで、優しくもあるが恐ろしい魔法詠唱者という評価は改めるべきだなと思いながらピザに齧りつく。ザクリっと言う小気味良い音と生地の上にたっぷりと塗られた酸味のあるソース……そしてその上の野菜の味わい……チーズの上に並べられた薄切りにされた肉もまた塩味が効いていて実に美味い

 

「これは美味い……これほどの美味。このガゼフ味わった事がありません」

 

サクリとした独特の食感の生地、その生地に染みこんだ酸味のあるソース、たっぷりの野菜にスライスされた腸詰……そして溶けたチーズの濃厚な旨味……それが口一杯に広がる。見た目こそシンプルだが、食べれば食べるほどに理解する。これはかなり計算された料理なのだと

 

「っつう……ふーふー……この熱さもまた良いですね」

 

ゴウン殿もピザを口にして柔らかい笑みを浮かべている。どちらかと言うと、今の表情と喋り方が素のように思える

 

「アインズ様。俺もいただきます」

 

「ああ、食べるがいい。ブレイン」

 

がらっと口調が変わる。配下に対する態度と、友人に対する態度……いやカワサキ殿とユリ殿に対する態度とブレインの違い

 

(信用の差か)

 

まだブレインは信用されていないから口調がきついのだろう。その態度はきっと迫害されてきた事による当然の自己防衛本能……か。そんなことを考えながらカワサキ殿が用意してくれたという飲み物を口に含み驚いた

 

「んん!?なんだこれは……」

 

口に入れた瞬間感じたのは強烈な刺激。舌を刺すような強烈な炭酸、エールよりも数段上の刺激に驚き、そして次に口の中に広がった甘みに驚く

 

「コーラと言う私達の生まれた国の飲料です。面白い味でしょう?ああ、心配ありませんよ。これは酒ではないので」

 

ぐっぐっとコーラの入ったコップを呷るゴウン殿。確かにゴウン殿の言うとおり酒精は感じない……しかし何よりもコーラとやらを口にするとピザが食べたくなる。手にしたピザを頬張り、コーラを飲む

 

「これは止まらない」

 

「美味い、こんな高級品を食べて良いのかと思ってしまうな」

 

ブレインの言うとおりだ。これだけのチーズを使った料理……王でさえも食べた事は無いだろう。これほどの美味さならば、是非とも王にも献上したい物……

 

「うっ……」

 

コーラを飲んでいると、ゲップが込み上げてきた。とっさに手で口を押さえてゲップをする、ゴウン殿も同じようにしてゲップをする

 

「コーラを飲むとどうしてもこうなるんですよ。この泡のせいで」

 

だがその刺激があるからこそのコーラなのだろう。この深い甘みと独特な刺激……それらが噛み合う事でこの絶妙な旨味となっている

 

「おお。生地の縁にも腸詰が……」

 

生地を手にしていた部分がやけに膨らんでいるなと思っていたのだが、そこは1本丸まる腸詰が包まれていた。噛み締めるとパキっと言う小気味良い音とたっぷりの肉汁が口一杯に広がる……最後まで美味い料理とは……本当に良くこのピザと言う料理は計算されている

 

「さーて次だ。シーフードピザ。たっぷり海鮮を乗せてきた……これは美味いぞぉ」

 

そう笑って部屋に入ってきたカワサキ殿。机の上に置かれた次のピザはカワサキ殿の言うとおり、たっぷりの海鮮が乗せられていた。海鮮は運ぶのが難しく、そして痛みやすい。それがたっぷりと使われているピザに正直驚いたがゴウン殿もカワサキ殿も気にせず、ピザを手にする

 

「これは蛸ですね?」

 

「おう、まだ残ってるしな。後海老と烏賊、それにホタテ。海鮮スペシャルだ」

 

カワサキ殿とゴウン殿にとって海鮮は普通の食材なのかもしれない。いやゴウン殿ほどの魔法詠唱者だからこそ、海鮮の質を落とさずに保存する方法を見つけたのかもしれない。

 

「ああ、厨房を貸してくれた夫妻にもピザを振舞わせてもらったよ。海鮮は恐れ多いって言うから、ベーコンと野菜のシンプルなピザになったが」

 

「心遣い感謝します」

 

私の屋敷に住み込みで働いてくれている老夫婦の事まで考えてくれていた、カワサキ殿に頭を下げる。料理の腕もそうだが、何よりも気質がいい、ゴウン殿の友人と言う事だろう。私はそんなことを考えながら海鮮ピザを頬張る

 

(おおおお……)

 

声も出ないとはこの事だ、口一杯に広がる海の風味。そして様々な食感を持つたっぷりの海鮮……これは王都で食べようと思えば、金貨5枚は確実にする。ブレインにいたっては手にして良いか悩む素振りを見せ、気にせず食えとカワサキ殿に頭を叩かれてから頬張り

 

「うっめえ……こんなの食べた事無い」

 

その味に感動しているブレイン。ぷりぷりとした歯応えの海老にほろほろと口の中で解けるホタテと言う貝……先ほども美味いと感じた酸味のある赤いソースが先ほどよりも美味く感じる

 

「ん……くう……これは本当に美味しいですよ、カワサキ殿」

 

コーラを飲む手も、ピザを口にする手も止まらない……海老を食べている時にふと思い出した事があり食べていた手が止まる

 

「おい、ガゼフどうかしたか?」

 

ブレインに肩を掴まれ、身体を揺すられはっと我に帰る。カワサキ殿とゴウン殿がこっちを見つめている。自分では少しの間だと思ったのだが、思ったよりも大分思考に浸っていたのかもしれない。思考の海から引き上げてくれたブレインに感謝しながら、部外者である彼ら……いや、ゴウン殿は当事者だったなと思い話す事にする

 

「大きな声で言うよう話ではないのですが……貴族どもの保身等や例の村襲撃の一件など色々とあってお疲れのようであり、我が王は最近はどんどんお痩せになられている」

 

「心労でしょうか?」

 

ゴウン殿の言葉にそうかもしれないですねと呟く、八本指に反王派貴族。王の心労は私なんかよりも遥かに重く、そして大きい物だろう

 

「それほど急激に痩せたのなら、毒や呪いという線は無いのですか?」

 

魔法詠唱者らしい考えを口にするゴウン殿。だがそれは私も考えた、そして現に調べたが……

 

「それが毒も魔法の痕跡も何も無いのです。食事をして体調を崩される事があるようなので、毒と言うのを真っ先に考えたのですが」

 

毒見役が買収されているか、毒見役が毒を入れているという可能性も考え、念入りに調べたが毒見役は白だった。私は手にしていたピザを見つめ……そう言えば王が体調を崩されるのは海鮮を食べた時が多かったような気がする……

 

「そう言えば、ランポッサ国王は海鮮を食べると調子を悪く……「ガゼフさん。その話、詳しく教えてくれ」

 

思い出したように呟いた私の言葉にカワサキ殿は鬼気迫ると言う表情で詰め寄ってくる

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「良いから詳しく教えてくれ、国王は海鮮を食べてどんな症状が出ていた?」

 

私がその症状を見たのは1度だけだが……私は手にしていたピザとコーラを机の上に戻し

 

「顔が赤くなって膨れ上がり、かゆいと仰られていた、それに咳や息苦しさを感じられていた。配下からの献上品なので口にしないわけにもいかず、口になされていたが……それがどうしたのでしょうか?」

 

私の言葉にカワサキ殿が眉を吊り上げる。なんだ?どうしたと言うんだ?さっきまで笑っていたのに……

 

「カワサキさんどうしたんですか?なにをそんなに慌てているんです?」

 

「モモ……んん!アインズさん。食べ物って言うのはある人には無害でも、ある人には有毒になる物ってのがあるんだ。アレルギーって言ってな?」

 

ピザを手にしてカワサキ殿は真剣な表情で、生地を私達に見せつけながら

 

「ピザに使っている小麦粉……つまり小麦と呼ばれる穀物を粉にした物などもアレルギーと言う体質の人間は体が過剰に反応して、食べられない。細かく説明するとだいぶ長くなるから、例え話でわかりやすく言うとだな……体の中の、病気とかと戦ってくれる戦士が居るとする。普段は問題ないが、本人に合わないものを体内に入れられるとそのせいで彼らは狂戦士となり暴走する……そうなると病気の元ではない体を守る者たちにも攻撃してしまう……それが、アレルギーだ。アレルギーが起こり続けると……その過剰な防衛本能で体内が傷つき、最悪……死にいたる。最初は軽い反応でも徐々に反応が強くなり、そして最終的には死ぬんだ」

 

私はさほど学が無いのでカワサキ殿の言葉は半分も理解出来なかったが、最後の死……その言葉に思わずひゅっと息を呑んだ。まさか、まさか!!思い当たる節が多すぎる!ブレインやユリ殿もカワサキ殿の言いたいことを理解したのか、顔が険しくなる

 

「誰かが国王のアレルギー体質を使って、暗殺しようとしてると?」

 

私が暗殺と言う言葉を脳裏に思い浮かべた時、ゴウン殿も同じ事を思いついたのか、カワサキ殿にそう尋ねる。だがカワサキ殿は腕を組んでうーんっと唸りながら

 

「そう断定するには早すぎると思うが……アレルギー体質を知って、繰り返し献上しているとなると悪意を感じるな。ガゼフさん、海鮮って言うのはどれくらいの頻度だったんだ?」

 

カワサキ殿に問いかけられるが、私は戦士長という立場。そこまで詳しく知っているわけではない

 

「流石にそこまでは存じませんが……反王派から寝返ってきた一団が海鮮を献上したと言う話は聞きました」

 

実際に何人もの魔法詠唱者を引き連れて運び込まれた馬車を見たこともある

 

「アレルギーか、寄生虫か……まずは見て見ないと判らないが……そういうのを知って献上していたとなると、流石に怪しいと思うな……暗殺狙いか、それとも知らないで献上したか、それはどうでもいい、まずは俺に国王の容態を見せてくれないか?アレルギーだったら本当に不味い。手遅れになる前に適切な処置をしたい」

 

昼食も召し上がらず、今日もずっと床に伏せている。私は椅子から弾かれるように立ち上がり

 

「カワサキ殿はそのアレルギーとやらの処置の方法は」

 

「知ってる、寄生虫の場合の薬も所持している。まずは俺とアインズさんを国王に会わせてくれ、アレルギーなのか、それとも食あたりなのか?それを知らない事には適切な処置も出来ないからな」

 

謁見の許可も持たずに王城に客人を入れるわけには行かない。だが、もしアレルギーと言う体質でそれが齎すものが死だというのなら、ランポッサ国王はかなり危険な状態にある。今お亡くなりになられたら王国は瓦解する!俺は馬車を用意させますとゴウン殿とカワサキ殿に叫び客間を飛び出した。国王を死なせる訳にはいかないという使命感に突き動かされるように走り出すのだった……

 

 

メニュー24 薬膳スープへ続く

 

 




ランポッサ国王にアレルギーを付与、こうでもしないとカワサキさんと国王の接点なんて作れないかなって思いまして。と言う訳で次回はカワサキ様とランポッサ国王を対面させてみようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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