生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

31 / 237
特別短編 デミウルゴス世界を釣る

アインズ様がこの世界に来た事で、シモベ達に様々な試験を導入した。その中の1つに休みという物がある……それはナザリックのシモベにとっては耐えがたい苦痛である。御方が望んでいる事とは言え、至高の御方の為に働けないと言う事は耐え難い苦行であった……しかし私はある光明を見出したのだ。日が昇る前に私は目を覚まし、着替えを済ませていた……

 

「よし……こんな物で良いですね」

 

黒のズボンとシャツ、それに赤いジャケットに帽子。そしてクーラーボックスと、釣竿を納めたロッドケースが1つ。そして仕掛けやルアーを納めたタックルボックス。準備は万全だ……アインズ様の説明によれば休みと言うのは自分の趣味や読書をし、身体を休め万全な状態で仕事をするための準備の日と言う事だが、シモベからすれば休みなど必要ないのでアインズ様やカワサキ様に仕えたいというのが嘘偽り無い気持ちだろう。私も与えられた休みの日を前に、常に憂鬱な気持ちになっていたが……寿司と言う料理を作る為にカワサキ様とパンドラと海に出た時。私とカワサキ様が釣り上げた魚をアインズ様は大変お喜びになられたと聞きました

 

(ならば休みとは、至高の御方に献上する物を探す日とするのが最善ッ!)

 

カワサキ様も珍しい魚なら欲しいと仰っていた

 

「では行くとしましょう」

 

アルベドやシャルティア、パンドラやセバス、シモベ全員が悩む。休みに何をすれば良いのか?私はそれに答えを得た。珍しい魚をカワサキ様とアインズ様に献上する事こそが、私の休みに相応しい事であると……

 

特別短編「デミウルゴス 世界を釣る」

 

 

「最初ですし、まずはやはりここでしょう」

 

日が昇り始め、湖面がキラキラと輝くのを見ながら、両肩に背負っていたクーラーとタックルボックスを地面に下ろす。最初に私が釣りをするフィールドとして選んだのはコキュートスが統治するリザードマンの湖……ただし集落のあるほうではなく、アゼルリシア山脈からの雪解け水が流れ込む美しく澄んだエリアを選んだ。海と言うのも考えたのだが、先日集落で面白い話を聞く事が出来たのだ

 

『珍しい魚ですか?それでしたらボウルンですね』

 

スーキュ・ジュジュと言うほかのリザードマンとは体色の違う奴が教えてくれた。コキュートスの統治は非常に上手く行っており、アインズ様とカワサキ様の像を建てるなど既に完全にリザードマンはナザリックの配下に加わっていた

 

『ボウルンとは?』

 

『へえ、アゼルリシア山脈の雪解け水が流れ込んでいる僅かな場所にしか生息せず、夏場とかは黒っぽい色をした魚で、胴体に輪の模様がある魚なんですが、雪の降る時期になると眩いばかりの黄金色になる魚なんですよ』

 

黄金色の魚と言う言葉に興味を持ち、そして味も悪くないと言う事なので冬場の本番が来る前に1度試しに釣る事にして見たのだ。クーラーボックスに腰掛け、ロッドにリールを取り付け、ガイドに糸を通しながら湖面を観察する

 

(枯れ木のあるポイントと、周囲の木がせり出し陰になっているポイント……気になるのは深さか)

 

雪解け水が流れ込んでくるポイントなのだが、そこだけかなり深く。リザードマンも滅多に足を踏み入れないと言う、更に言えば肉食性の巨大魚も複数生息しており、冬場の餌の少ない時期に備え、若いリザードマンが保存食を集める為に踏み込み、そのまま命を落とすことも珍しくないポイントだと言う。現に私の目をもってしても湖の底は見えず、雪解け水が流れ込んでいるからか周囲の気温も少し低いように感じる。

 

(まずは試しですね)

 

肉食性の魚が多いのならとタックルボックスから1つのルアーを取り出す。くの字のフレームを持ち、くの字の上と下に引っ張ることで水の抵抗を受けて回転する金属板がセットされており、針はラバー製のスカートに隠されている。比較的大型ながら、ラバースカートのおかげで根掛りにも強いスピナーベイト。まず反応を見るのにこれが最適だろうと思い、ラインにスナップサルカンをつけアイと接続する。準備が出来たので立ち上がり、サングラスを掛ける。さっと水面を見るが魚影は無し……まだ水温が低いからとあたりをつけ、軽くキャストする。シュルルーっと言う音を立ててスプールが回転し、ポチャンっと音を立ててスピナーベイトが着水する

 

(1……2……3……4……)

 

底につくまでカウントしてみるが、かなり深い……10を過ぎてもまだスピナーが沈んでいく……

 

(これではクランクなどは無理でしょうね)

 

底周辺に効果を発揮するクランクベイトなどでは、とてもではないが釣りにならない。仮に当たったとしても根や湖面に沈んでいる枝でラインを切られて終わりだろう……必然的にトップ系のルアーか、ワームなどの根掛りしにくい虫型ルアー、後は餌釣りに絞られるだろう

 

「34……35……37……やっとですか」

 

やっと底に着いた感触がしたのでハンドルを回し、スピナーベイトを巻き始める。かなり水温が低いのか、ライン越しに奇妙な手応えを感じる。湖の中は少し凍っている場所もあるのかもしれない、底から、中層へ、そして上層へとスピナーが浮上してくる。ブレードが回転し、湖にパシャパシャと言う音を立てる。その音だけが湖に響き渡る……そしてスピナーが枯れ木の間に差し掛かった時ゴポンッ!と言う音を立ててスピナーが湖の中に消える

 

「フィッシュッ!」

 

リールを巻きながらロッドを立てるとグンっと穂先が湖に向かって大きくお辞儀する。ロッドの弾力を生かし、底へと潜っていこうとする魚の動きに耐える、海の魚と比べればその突っ込みの勢いは弱いが、枯れ木の間に向かおうとするのを足場と竿を動かす事で防ぐ。ジーッジーッーッ!!と音を立ててリールからラインが引き出されていく、ドラッグが強すぎると少しドラッグを緩めると、急に手応えが軽くなる

 

「バレましたか?」

 

フッキングが少し甘かったか?と思いながら、ラインを巻いていると急に手応えが戻ってくる。この感じは魚が浮上してきているッ!湖面を割って魚が姿を現す、それは1Mほどのずんぐりとした丸みを帯びた白い魚……スーキュ・ジュジュから聞いたボウルンの特徴には合わない。どうやら外道のようですが……

 

「くっ、まずまずですね」

 

湖に着水し、ジャンプし暴れまわる。その強烈な手応えに思わず笑みが零れるが

 

「いけませんっ!?」

 

着水と同時に再び跳躍、空中で何度も身体を振るう。ふっと手応えがなくなり、魚は湖面へと消えて行った

 

「やれやれ……フックがこの様ですか」

 

魚のパワーに耐え切れずフックが伸びてしまっている。どうやらフックを変えないことには釣り上げるのは無理そうですね……私はクーラーボックスに座り込み、スピナーベイトのフックの交換をし、再度湖に向かってスピナーをキャストする。最初の1投で当りがあったので、このポイントの魚の活性は高いと判断し、それは間違いではなかった。再びゴポンと湖面が割れ、スピナーベイトが湖面に消える。今度は逃がさないと大きくロッドをあおりガッチリとフックを魚の口に引っ掛ける

 

「くっ……これはまずまず」

 

ラインを通じて暴れまわる魚の手応えが伝わってくるのだが、横に走るのではなく、垂直に底に向かって恐ろしい勢いで潜って行く。そのパワーから先ほどの魚よりも大きいと判断する、ロッドを立て、潜って行く魚の動きを妨害し、常に魚と逆方向に竿を倒し、思うように魚を走らせない。ハンドルを回しラインを巻き取るが1巻きすれば、2回りラインが出る。そんな一進一退のやり取りを20分近く繰り返し、やっと魚が湖面に顔を出した。

 

「よし、これで安心ですね」

 

ロッドを立て魚の頭を完全に湖面から出す、これで魚は弱るので後はラインを巻いて、魚を回収する。足元までよってきた魚の口に手を入れて、湖から引き上げる。口のカンヌキの部分にガッチリ針が掛かっている、これではラインをきらない限りはどうやっても逃げることは出来ないだろう

 

「大きさは1m15cm……っと言った所ですか」

 

鮮やかな銀色の魚、細長く蛇のような身体、自由自在に動き回る膜のような鰭に鋭い牙を剥き出しにした見るからに獰猛そうな魚。エラにナイフを刺して絞めクーラーボックスに放り込む。まずは1匹目……狙っているボウルンではないので、再びスピナーベイトを湖に向かってキャストするのだった……

 

「ふーむ……全然来ませんね」

 

あの蛇のような魚の後は同じような魚が2匹と釣り上げた時は縦縞なのですが、暫くすると横稿になる丸々と太った魚が入れ食いになり、80cmを筆頭に4匹。釣果自体はそう悪くないですのが……外道ばかり。ゴポンッと言う音と共に反射的にロッドを立てるが、即座に横走りする感覚からまたあの太った魚か……

 

「引き味は悪くないんですがね」

 

強烈なパワーで暴れまわるのは釣っていて面白いのですが、本命ではないのが残念です。凄まじい力で暴れる魚の突進をいなしながら、相手の動きが止った隙にラインを巻き上げる。足元まで寄って来た魚の口に手を突っ込み引き上げる

 

「またですか……」

 

やはりさっきから入れ食いになっている模様が替わる巨大魚。非常に簡単に釣れ、パワーもあるので面白いのですがボウルンとやらではないので溜息を吐きながらエラにナイフを刺し魚を絞める

 

「ルアーが悪いのか、ポイントが悪いのか……」

 

ここまで同じ魚が続くと言う事はやはりポイントかルアーが間違っているのでしょう。1度クーラーボックスに座り込み、湖面を観察しながら、スーキュ・ジュジュの言っていたボウルンの特徴を思い出す

 

(雑食性で虫も小魚も食べる、それと大型魚が多いので逃げるスピードが速い)

 

あの蛇のような魚と模様の替わる魚から逃げる為に、ボウルンは危険を感じると一気にトップスピードまで加速すると言う習性があるらしい……虫も魚も食べると言う事なのでスピナーベイトで様子見をしていましたが、それでは釣れないのかも知れない

 

「……ふーむ」

 

湖面は澄んでいて、ぱしゃぱしゃと魚の跳ねる音がする。恐らく私が釣っている魚に追われている小魚の反応……

 

(いや、待てよ。私は間違えていた)

 

クーラーボックスから立ち上がる。そうだ、私の釣っている魚から逃げ回っているのなら、ライズしている場所に投げ込むのは間違いだ。ライズしている場所に投げるのは確かに大型魚を釣る基本だが、それではいけないのだ

 

(こんな簡単なことを忘れているとは)

 

タックルボックスを開き、スピナーベイトから浮く素材で出来たペンシルベイトに交換する。虫も捕食するとなるとルアーのサイズは小型、そして大きくせり出した木の陰がボウルンのポイントと見ました。タラシを3cmほど出し、木がせり出しているポイントを見つめる。

 

(やはり)

 

枯れ木の間、湖の中心に現れているライズとは全く異なるライズが見える。あれこそがボウルンのライズだと確信し、サイドキャストで木の影を狙い打つ、軽い音を立てて着水したペンシルベイトを見つめながらゆっくりとリーリングする。勿論時折、リーリングを止めて、竿先を小さく振ることも忘れない。ペンシルベイトとは弱った小魚を演出する物、元気に泳いでいては意味が無い……

 

(……来たッ!)

 

木の影からペンシルが出た瞬間。追いかけるように魚影が影から飛び出してくる、ゴポンっと言う音に合わせロッドを立てようとしたが……

 

「は、速い!?」

 

一気にトップスピードに入ると言う習性の通り、合わせると同時に凄まじい勢いで走り出し竿を立てる暇が無かった

 

「くっ!完全に先手を取られた……!?」

 

縦横無尽に走り回るその突っ込みの凄まじさは私の想像を完全に超えていた。竿を立てようにもこのスピードでは無理に竿を立てれば、無理な力が入り、その瞬間にラインを切られてしまいそうだ。ドラグを完全にフリーにすると、ジーッ!と音を立てて凄まじい勢いでラインが湖面へと消えていく

 

(くっ……これは予想外です)

 

スーキュ・ジュジュが大袈裟に言っていたと思っていたが、これは確かに並みの魚ではない。突込みが終わるのを待つまで、私に出来る事はなにも無い。

 

「おお……っ!」

 

湖面から魚が飛び出す、70cmほどの黒っぽい魚体が宙を舞う。輪のような模様のある勇ましい顔をした魚が2度、3度を水面から飛び出し跳ねる

 

(バラしたら次は無い)

 

これだけ暴れ回ったらポイントが荒れてしまっている。これをバラすにしろ、キャッチするにもこの場所での釣りはこれが最後だ。魚の動きに合わせ無理をせずロッドを動かす、何度目かのジャンプでやっと魚の突っ込みが止った。ボウルンの動きが弱まった、これが最初で最後のチャンスだと悟り、大きく竿をあおってポンピングしながらラインを回収する。パワーはあるが、スタミナはそれ程でもない……

 

「くっ!?」

 

完全に弱っていると思いきや、水面に飛び出すと尾鰭でまるで湖面に立っているかのように暴れだす。その予想外の動きに思わず困惑する、だがその暴れるパワーは本物。無理に引けば切られると思い相手の動きが止るのを待つ、暫く尾鰭で泳いでいたが、疲れたのか再び着水する。これ以上好き勝手にさせてはいけないと判断し、私は竿を高く立て一気にラインを巻き上げるのだった……

 

「これがボウルン……」

 

精悍な顔つきをした巨大魚。この湖で釣り上げたどの魚よりもパワフルだった……胴体に輪の模様とうっすらと赤い帯が身体に入っている

 

「おや……」

 

良く見ると胴体の下の方がうっすらと金色になっている。なるほど、こういう風に体色が変化するのかと観察していると背後の茂みが音を立てる

 

「デミウルゴス様。どうも」

 

「スーキュ・ジュジュですか」

 

そこにいたのはスーキュ・ジュジュで私の手元のボウルンを見て

 

「凄いですね。良く釣れましたね」

 

「ええ、中々苦戦しましたよ」

 

あれだけ好き勝手暴れてくれる魚だ。捕獲するのは並大抵の事ではないでしょう、ナイフで血抜きをしているとスーキュ・ジュジュが笑いながら

 

「デミウルゴス様の腕前なら、伝説の7大魚も釣れるかも知れないですね」

 

「7大魚?なんですか、それは」

 

スーキュ・ジュジュは伝説の魚ですと前置きして語り始めた。この世界に7種類存在すると言う非常に巨大で特別な力を秘めた魚であると、7匹全て手にすれば凄まじい力を手にすると言い伝えられている

 

「アゼルリシア山脈のどこかにある氷の地底湖に炎のアトランティカって言うのがいるって曾じいちゃんに聞いたことがあります」

 

「なるほど、大変興味深い話ですね」

 

伝説の7大魚……アインズ様の力には足元にも及ばないと思いますが、大変興味深い。私が釣りをしていた場所に網を仕掛けているスーキュ・ジュジュに背を向けて、私はその場を後にした。次の休暇にはアゼルリシア山脈にあると言う氷の地底湖を見つけ、炎のアトランティカを手にすると決め、ナザリックへと帰還するのだった

 

「おいおい、太刀魚と鰹にそっくりじゃねえか……なんで異世界で海水魚が淡水化してるんだよ、異世界ハンパネエな……もしかして、昔ここら辺は海だったのか?」

 

デミウルゴスが釣り上げてきた魚を受け取ったカワサキは、海水魚が淡水化してる異世界に驚愕するのだった……

 

続き?続きは炎のアトランティカが飲み込んでいきました

 

 

 




ノリで書いて見ました、結論。釣りは難しいと言う事が判りました!大発見です。当たり前とか言わないでくださいね?続きは本当に考えてないのであしからず、それでは特別短編でした


やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

  • 間違っている
  • 間違っていない

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。