生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー3 具沢山の豚汁 その1

メニュー3 具沢山の豚汁 その1

 

 

朝食を終え、直ぐに出発したのだが、クレマンティーヌがいて本当に良かったと思った。

 

「マジ助かったわ。お前強かったんだな」

 

ただの腹ペコじゃなかったんだなっと言う言葉は飲み込み、クレマンティーヌを賞賛する。

 

「へっへー。これでも私は英雄級に足を突っ込んでるからね!ここら辺のモンスターには負けないよ」

 

ファンタジーのド定番のゴブリンに始まり、凶暴化したオオカミに人食い鬼のオーガと洒落にならないくらいモンスターにエンカウントした。しかしその殆どをクレマンティーヌが撃退してくれたのだ。クレマンティーヌ本人が言うには、彼女の戦闘スタイルは武技と言うユグドラシルには無かった技術で自身のスピードを強化し、圧倒的な速度から繰り出す突きによる、一撃必殺のヒット&アウェイだ。木を蹴り、岩を蹴り、縦横無尽に駆け回るクレマンティーヌは実に強かった。

 

「でもさぁ……あれは駄目だよ。正直死ぬって思ったし、恥ずかしかった」

 

「それは正直すまんかった」

 

今のクレマンティーヌの服装は、出会った時のローブに水着みたいな鎧姿ではなく、皮で出来た軽装の鎧姿だ。彼女がこの姿になったのには理由がある。ゴブリンとオーガに囲まれ、クレマンティーヌが加速する余裕が無く。危ないと思い、俺がスキルを発動したのだ。クックマンの最終奥義と言えるスキル、

 

『皆食材になれ』

 

大鍋を召喚し、そこに自身の戦闘レベル以下。つまり、レベル100の俺だと、クックマンのデメリットで戦闘レベルは50相当になるため、その50レベル以下のモンスターを全て食材に変化させる。ゲームで言えば、問答無用の一撃必殺なのだが……そこはクックマン。これもネタスキルの範囲から抜け出る事は出来ておらず、鍋に吸引する、調理する、仕上げると3つの工程を踏むのだが、どれか1つでも不発になるか、俺自身がダメージを受ければキャンセルされる。1日1回しか使えないスキルにしては不安定かつ、使用するに当たり信用度がまるで無いスキルだ。ゴブリンやオーガが鍋に吸い込まれるにつれ、鎧が分解され、一瞬で食材になっていくのを見ている中……

 

「助けてええええッ!!!」

 

「クレマンティーヌウゥゥゥゥゥッ!?!?」

 

吸い込まれたオーガとゴブリンにぶつかり、鍋に吸い込まれていくクレマンティーヌを見て、心の底から絶叫した。しかもただでさえ身体を覆っている面積が少ない鎧が分解されているのを見て、慌ててクレマンティーヌを回収したのだ。だが手遅れ一歩寸前で、胸と下半身を僅かに覆うだけになっていて、慌ててアイテムボックスから鎧を取り出したのだ。あと少し遅ければ、全裸になっていたかもしれない、いやもっと言えば食材になっていたかもしれないと思うと、悪い事をしてしまったと心底後悔した。

 

「この鎧も悪くないんだけど、私とは相性悪いよ」

 

「モモンガさんと合流できたら、アイテム残ってないか聞いてみるわ」

 

俺が提供した鎧は体を覆ってしまう一般的な鎧だ、加速を生かすクレマンティーヌとは相性が悪い。だがクックマンはコックスーツなど専用装備なので、クレマンティーヌが装備できるような防具はそれしかなかったのだ。

 

「とりあえず、あれは金輪際使用禁止だ、食材にもならない」

 

「だねー、予想外すぎるよ」

 

皆食材になれというスキルなのに、効果終了した後には何故か、瓶に入ったポーションや、筋力強化剤などの薬品に変化していた。効果の高いポーションならまだしも、マイナーヒーリングポーションなどのマイナーシリーズの道具に正直かなりがっかりしながら、アイテムを回収した。しかし料理スキルだと言うのに……何故アイテムになるんだ……解せぬ。とりあえず味方を巻き込みかねないし、周囲の人間を片っ端から全裸にする可能性があるので、2度と使うまいと心に決めた。

 

「で?あれがカルネ村か?」

 

遠くに村を確認する。それほど大きな村って感じじゃないな。俺は隣のクレマンティーヌにあれがカルネ村か?と尋ねる。

 

「うん、そうだよ。でもなんか、妙に静まり返ってるね……どうしたんだろ?野盗にでも襲われたのかな?」

 

「野盗?そんなのも居るのか?」

 

ファンタジーの世界と言う言葉で納得できない単語に思わずそう尋ねる。戦闘疲れと歩き疲れに、仕方ないという事で料理で歩行スピードアップのサンドイッチを作ったおかげで何とか夕暮れ前にはカルネ村が見える所に来たが、それが無ければ完全に夜だったな。

 

(クックマンのデメリット重いなあ……)

 

HP比重型で筋力などは高くても、攻撃力・防御力に直結しない。もし野盗に襲われる危険性があるなら、出来ればアイテムで多少は攻撃力を補えるようにしたい。クレマンティーヌは、ここら辺は森の賢王って言うモンスターの縄張りだから比較的安全なんだけどねと笑いながらも、真剣な眼差しを俺に向ける。

 

「だいじょーぶだよ!カワサキ。私が護ってあげるからさ」

 

「……それはそれで情けないが、頼むぞ?飯はとびっきりのもんを用意するからよ」

 

OK~っと笑うクレマンティーヌ。彼女と出会えたのは幸運だったな。後衛職どころか、拠点で料理するジョブの俺だ。前衛職の戦士に出会えたのは本当に幸運だった。まずはカルネ村に向かって全てはそこからだ。俺はクレマンティーヌと共にカルネ村に足を向けるのだった……

 

「「「モンスターだ!?」」」

 

「モンスターじゃねえッ!!!」

 

村人が俺を見てモンスターと叫ぶので、モンスターじゃねえっと叫ぶ。いや、異形種だよ?異形種だけど、出会いばなにモンスター呼ばわりはへこむ。

 

「カワサキはモンスターじゃないよ?亜人だよ。亜人の料理人、だから大丈夫。ほら、人間の私がモンスターと一緒に旅をすると思う?」

 

クレマンティーヌのフォローに、そ、それもそうかと何人かの村人が呟くが、人間を食ったりしないよな?と言う声も聞こえる。

 

「食うか馬鹿やろう!!美味いって言ってくれる人間を食ってどうするんだ!?」

 

俺の声にびくんっと肩を竦める村人の後から、がっしりとした体格の男性が姿を見せる。

 

「村の者がすいません。この村の村長をやっているものです、それでこの村に何の御用でしょうか?」

 

村長か……若干怯えの色は見せているが、その対応は完璧と言える物だ。私の家でお話をお伺いしますという村長に先導され、村の中を歩くのだが……

 

(人が少ない、それに家も破壊されている)

 

家の数に対して、人間の数が少ない。もしかするとクレマンティーヌの言っていた野盗に襲われたのかもしれない。だから村人の顔色も暗く、村に活気が無いのかもしれない。

 

「仲間を探して旅をしているんだが、この短い足だ。馬車か馬を貸してくれないか?対価は払う」

 

移動する度に飯を食って居たんでは食材がそこをつく。ナザリックには大量の食糧を備蓄しているが、持ち運んでいる食材には限りがあるからだ。

 

「そうですか……出来る事ならば、馬と馬車をお貸ししたいのですが……つい先日村にバハルス帝国の兵士が襲ってきましてな……馬は殺されてしまったのです」

 

その言葉に殺されたのは馬だけではなく、人間もだと判った。

 

「すまねえな。悪い事を聞いた」

 

「いえいえ、旅人なのだから知らなくても仕方ありません」

 

お気になさらずと笑う村長だが、それでは俺の気がすまない。

 

「村長。村の広場を貸してくれないか?」

 

「広場をですか?」

 

俺の言葉に怪訝そうに尋ねてくる村長に、そうだ、広場だと返事を返す。

 

「カワサキ、料理作るの?」

 

「おうともさ、俺は料理人だ。飯を村人に作らせてくれ」

 

「し、しかし我が村にはその料理に対する代金を払う余裕が」

 

料理を作ると聞いて慌てる村長に、金は要らないと笑う。

 

「人間生きていれば腹が減る、腹が減れば気が滅入る。気が滅入れば嫌なことを思い出す」

 

空腹って言うのは口にするほど簡単なものじゃない。腹が減れば怒りっぽくなる。腹が減れば悲しい事を思い出す。

 

「生きたければ飯を食え、飯を食えば生きていける。村に生き残った人に俺の料理を振舞いたいんだ」

 

コレは俺の我侭だ。リアルでは他人に飯を与えるなんてことは出来なかった。自分でさえも苦しいからだ。だが今なら食材を持っている。皆に振舞えるだけの食料を持っている。だから料理をさせて欲しいと頼む。

 

「ただって訳じゃないよ?私とカワサキが一晩を過ごす家を貸して欲しい、それと判る範囲でいいから、この周辺の事を教えて欲しい。それを対価でどう?」

 

クレマンティーヌが、無償の施しなんて怖がるよと小声で教えてくれ、はっとなった。そこまでは考えてなかった。

 

「そういうことでしたら、比較的無事な家をお貸しいたします。それに地図も簡易ですが、ご用意致します。それでお願いできますか?」

 

対価を要求した事で表情が柔らかくなった村長に、引き受けましたと笑い、俺は村長の家を出るのだった……

 

「カワサキ~そんな大きい鍋で何を作るの~?」

 

アイテムボックスから調理器具と食材を用意していると、何を作るの?とクレマンティーヌが尋ねてくる。

 

「こういう時に作るもんは決まってる」

 

ウィングポークの薄切り肩ロース肉2kg、玉葱7個、じゃがいも20個、ごぼう8本、こんにゃく10個、人参8本、大根5本、里芋20個。そして味噌……は、俺が好きな白味噌だ。個人的にはコレが一番豚汁にあう。

 

「大人数で食えて、野菜もたっぷり食える。豚汁以外ありえねえ」

 

白飯が大量にあればカレーライスってのもありなんだが、如何に少ないとは言え、40人近い村人に振舞う量はない。そうなれば汁物、しかもただの汁物では駄目だ。具もたっぷり入った温かい味噌汁、これが正解だ。

 

「大人数の料理だ。クレマンティーヌも手伝ってくれ、野菜を切り分けるだけでいい」

 

「げえ!?マジ?わ、私料理なんかした事無いよぉ」

 

情けない顔をするクレマンティーヌに、俺が教えてやるよと笑う。怪訝そうにこっちを見つめている村人を見ながら、俺はアイテムボックスから包丁とエプロンを取り出し、クレマンティーヌに手渡す。

 

「味付けはこっちで全部やる。食材の切り分けだけ手伝ってくれ、まず肩ロース肉からだ」

 

ウィングポーク。A級の食材モンスター、ウィングの名の通り飛行能力を持ち、臆病な性格でとにかく逃げまくる。ペロロンチーノが居なければ捕獲するのが難しい食材だ。効能としては筋力強化と生命力UP、そして自己回復の強化と戦士職に必要な要素が全て揃っている。

 

「これをまずは食べやすい大きさ、そうだな。3cmくらいに切ってくれ」

 

「3cmってどれくらい?」

 

……そっか、そうだよな。ファンタジーの世界だもんな、3cmっても判らないな。俺は3cm幅で切った豚肉を見せて、これくらいだと言う。切る量は40人前と計算して……本来なら1.2kgだが……ここはたっぷりと2kgで行こう。

 

「さーちゃっちゃっと行くぞ!」

 

「おーっ」

 

やる気ねえ返事だなあ……まぁいいけどな。手伝ってくれるだけでもありがたい。2kgの豚肉を2人でどんどん切り刻む。山のような肉を見て、村人達が肉だ、肉だと騒ぐ声が聞こえる。やっぱり料理は目の前で作る、それが一番だ。

 

「野菜の皮は剥いてやる、お前はどんどん切ってくれ、一個見本を切るからな。それを真似してくれれば良い」

 

包丁で野菜の皮を剥くのはコツが居るので、皮むきは俺がやると声を掛ける。

 

「猫の手って判るか?」

 

「なにそれ?」

 

……そこからか。いやでもまぁファンタジーの世界だし、戦士だから知らないかも?と思い、手本を見せようとするが……

 

「こんな……風に」

 

「ごめんわかんない」

 

……クックマンの手だから、猫の手が出来ねえ!!俺は溜息を吐きながら、人参・大根をいちょう切りに切ってからクレマンティーヌの背後に回る。

 

「野菜をこうやって押さえて切れば、失敗しても手を切らない。切ったら、少しずつ、手を後に移動させていくんだ。判ったか?」

 

「わ、判った。やってみる」

 

自信なさそうだが、慣れれば大丈夫だろう。俺はそう判断し、クレマンティーヌでは難しいであろう玉葱とごぼうを担当する。玉葱は薄切り、ごぼうはささがきにしこんにゃくは手で食べやすい大きさに千切る。

 

「切っても切っても終わらないぃぃぃ」

 

「慣れれば早くなる、手を切らないように焦らないで切れば良い。うっし、次々っと」

 

ええ!?もう終わったの?っと驚くクレマンティーヌ。だが料理はスピード、とろとろやってる時間は無い。巨大フライパンを片手で掴み、先ほど切った肩ロースを全てフライパンの中に入れる。

 

「ほっ!よっ!!!」

 

2kgも肉を炒めるのは本来重労働だが、そこはクックマン、楽勝だ。何時間だってフライパンを振れる。肉を焦がさない様に素早く炒める。

 

「か、カワサキ~終わったよぉ……」

 

「良いタイミングだ」

 

肉の色が変った頃合でクレマンティーヌが終わったというので、その野菜も全部フライパンの中に入れる。豚肉を炒めて、出た脂を野菜全体に絡めるように炒めたら、今度は摩り下ろしたしょうがを加えて素早く絡める。

 

(1人前約200として……それ掛ける40人前で、煮詰めてる間に蒸発する分として少し水の量を増やして……約9リットル)

 

無限の水差しを手に取り、クックマンのスキルで的確に分量を割り出し、40人前の豚汁が入る大鍋……9リットルの大鍋を取り出し、炒めた野菜を全て大鍋に入れ、水を注ぎ込む。周りから出る、あの水差しからどれだけ水が出るんだ!?っと言う声は無視、便利だから細かい事は気にしない。水で満ちた鍋に和風出汁の素10g、醤油40ccを加えて煮詰める。

 

「ふわあ……良い匂い」

 

「まだまだ。これからだ」

 

味噌も何も入れてない、これで良い匂いって言われても困るんだよなあ。とは言え、これで完成だと思っていたのか、村人もそわそわしてる。

 

(異世界は料理が進んでないのか?)

 

俺はそんな事を考えながら、浮かんできた灰汁を掬い、味噌を加えるタイミングを計り始めるのだった……

 

 

 

カワサキの料理が進んでいる頃、カルネ村に向かう人影があった。大きなスリットの入った改造された黒いメイド服に健康的な褐色の肌、そして美しい赤い髪を2房の三つ編みにしたその女性は、途中で足を止め、鼻を動かした。

 

「ん?良い匂いっす」

 

カルネ村に向かっていた美女が、村から漂ってきた匂いに首を傾げる。本来なら匂いを感じ取れる距離ではないのだが、彼女……ナザリックの戦闘メイド、人狼「ルプスレギナ・ベータ」にとっては感知出来る距離だった。

 

「おかしいっすねえ」

 

今のカルネ村にはこれだけの匂いを発生させる料理を作るだけの余裕は無いはず。ルプスレギナは首を傾げながら、カルネ村に向かい……絶句した。村の広場で楽しそうに鍋をかき回すオレンジの異形を見て。

 

「か、かかかかかか、カワサキ様ぁ!?ななな、なんで!?どーしているっすか!?」

 

ナザリック地下大墳墓の主人……至高の41人の1人を見つけ、ルプスレギナは混乱し、自分ではどうすればいいか判らず指示を仰げる人物に連絡する事にした。

 

「ゆ、ゆゆゆ!ユリ姉ぇッ!!!」

 

メッセージのスクロールを取り出し、自らの姉にしてプレアデスの副リーダーに判断を仰ぐため、動揺しながらメッセージを発動させるのだった……

 

 

 

豪華な赤い絨毯が敷き詰められた通路を歩く美しい女性の姿があった。黒いメイド服を纏い、髪を夜会巻きし、眼鏡をかけた如何にも出来るメイドと言う感じの女性……だが彼女もナザリックに仕える存在として、人間ではなく首無し騎士「デュラハン」である、名を「ユリ・アルファ」と言った。

 

(ルプー……は大丈夫かしら……)

 

偉大なるナザリック地下大墳墓の主人。「アインズ・ウール・ゴウン」に命じられ、カルネ村に向かった妹、ルプスレギナの心配をしていた。ナザリックの中では比較的まともに人間と接触できるという事でカルネ村の監視を命じられたルプー……だが彼女はサディストであり、どうしても不安が残る。そんな中頭の中に何かが繋がるような感覚がした、伝言〈メッセージ〉だ。

 

「はい、ユリ・アルファ」

 

『ゆ、ゆゆゆ!ユリ姉!た、たたたたっ!!大変っす!!!』

 

動揺しきったルプーの声に、何かトラブルかと顔を引き締める。

 

「落ち着きなさい、ルプー。何があったの?貴女では対処出来ない問題?」

 

これだけ動揺するという事は、何か大きな問題があったはずだ。落ち着いて、何があったのか教えなさいというが、彼女の動揺は収まらない。

 

『か、かかかかかか!!!!』

 

「ルプー!落ち着きなさい!それでも栄えあるナザリックのメイドですか!」

 

まともに報告も出来ないのですか!と一喝すると、ルプーはやっと落ち着いたのかいつもの口調に戻る。

 

『すまねえっす、ユリ姉。もう大丈夫っす』

 

「そう、それは良かったわ。それで何があったの?状況次第では、アインズ様に指示を仰ぐわ」

 

守護者統括のアルベド様に先に報告するが、アルベド様に報告した段階でアインズ様にも同じ報告が行くだろうと思いながら、どうしたのか?と改めて尋ねる。

 

『至高の御方「カワサキ」様をカルネ村にて発見しました』

 

「は?」

 

予想を遥かに超える報告に思わず間抜けな声が出た。ルプーはもう1度同じ言葉を繰り返した。

 

『至高の御方「カワサキ」様をカルネ村にて発見しました』

 

「ほ、本当なの!?」

 

アインズ様を残し、ナザリックを去った至高の御方達。しかしカワサキ様は他の至高の御方達と異なり、短い時間ながら姿を現し、料理を振舞ってくれていたカワサキ様。そのお方がカルネ村にいる、その信じられない報告に思わず声を荒げながら尋ね返す。

 

『間違いないです。人間と一緒に料理をしてるっす……う、羨ましい……っす、めっちゃ美味そうっす……』

 

至高の御方達に料理を振舞うカワサキ様の料理。それを口に出来る……確かにそれは羨ましい。

 

(ナーベやエントマじゃなくて良かった)

 

人間が食べるには相応しくないと怒り狂うであろう妹達。彼女らがカルネ村の監視じゃなくて良かったと心底安堵した。

 

『どうすればいいっすか?カワサキ様に合流するべきっすか?』

 

「待ちなさい、それは早計よ。今料理をなさっているんですね?」

 

そうっすと言うルプーの言葉に少し考える。カワサキ様は料理人である、己に高い誇りを持っている。それを邪魔をすれば、怒りを買うのは火を見るよりも明らか。

 

八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)と合流して、遠くから護衛を。私はアインズ様に指示を仰ぎます」

 

『わ、判ったっす!出来るだけ早くお願いするっす!』

 

いないはずの至高の御方を見つけたルプーの混乱は当然。私も混乱しているのだから、当然だ。私はアインズ様の指示を仰ぐため、その場を後にするのだった……

 

 

 

豪華な装飾が施された部屋で書類を纏める異形の姿があった。豪華な黒いローブを身に纏った骸骨……いや、現実では「鈴木悟」と名乗り、ユグドラシルではモモンガと名乗っていたオーバーロード。「アインズ・ウール・ゴウン」は、部下からの報告書を見て深い溜息を吐いていた。

 

(つ、疲れる)

 

カワサキと同じく現実ではただの人間であるアインズ。だがナザリックでは至高の御方とし、かつての仲間が作ったNPCに偉大なお方、慈悲深いお方と言われ。更には、カルネ村の事件の事もあり、彼の気は滅入っていた。

 

「カワサキさんを見つけないと……」

 

昨日時間ギリギリでログインしてきたカワサキさんを見つけなければ。昨日は富裕層の料理人と勝負する、終わったらユグドラシルで最後まで一緒に過ごそうと約束してくれていたカワサキさん。俺と同じようにこの世界に転移している可能性はあるのだが、ナザリックにその姿は無かった。

 

「どこにいるんだ……」

 

俺がここにこうして存在している。同じ時間にログインしていたカワサキさんが居ないはずが無いのだ。出来る事ならばカワサキさんの捜索をナザリック全軍で行いたい、だが今は情報が何も無い。何故ナザリックに居ないのか?何故メッセージが通じないのか?同じ世界に居ても、全然違う場所にいるのでは?だからメッセージが届かないのでは?

 

(まさかもう殺されて……い、いやいや、そんな事は無い)

 

クックマンはユグドラシルの異形種の中でもっとも人気の無い種族だった。HPは高く、それ以外のステータスも十分優秀と言えるスペックなのだが、種族デメリットでそれらのステータスは戦闘に作用しないと言う強烈過ぎるデメリットがある。戦闘技は運営の悪ふざけと言われる、百裂おたまや、まな板ブーメランと言うネタ技ばかり。クックマンの真価は料理、バフ・デバフに始まり、回復や移動速度向上に筋力向上などの魔法職に匹敵する数多のサポート能力を持つ。だが戦闘ではなく、拠点に留まるタイプの特殊な職業だ。レベル100なのだが、その特異な性質から50レベル相当のステータスしか持たない、それがクックマンだ。この世界の人間は弱いが、囲まれ、集中砲火されれば……そこまで考えて、思考を中断する。

 

「いやいや、大丈夫だ。どこかに、どこかに居るはずだ」

 

せめてメッセージが通じてくれればと深く溜息を吐きながら、書類に目を通す。氷結牢獄の真実の間に捕らえている、陽光聖典と言うやつらから情報を集める。次に情報収集の為に冒険者として活動する事も考えなければ……

 

(やることだらけだな)

 

大きく溜息を吐きながら、背もたれに背中を預ける。自分が設定を変えてしまったアルベドが今は側にいないから、支配者ではない素の自分を出していたが、八肢刀の暗殺蟲が護衛に戻ってきた気配を感じ、休憩時間も終わりかと思うと、気が滅入る一方だ。そんなことを考えていると、扉をノックする音が響く。

 

『プレアデス。ユリ・アルファです、ルプスレギナより至急の報告がありました。入室してもよろしいでしょうか?』

 

アルベドじゃなくて良かったと安堵し、小さく咳払いしてから

 

「入れ」

 

鈴木悟から、オーバーロード、アインズへと切り替えてから入室許可を出す。

 

「失礼致します。本来ならアルベド様に伝えるべきなのですが、緊急ゆえアインズ様に報告をと思いました」

 

「うむ、いいだろう。それで何があったのだ」

 

ユリのまとう気配から只事ではないと判断し、何があったのか?と尋ねる。

 

「カルネ村にて、至高の御方カワサキ様を発見したとルプスレギナから報告がありました」

 

一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。

 

「……すまない、もう1度報告してくれないか?」

 

「は、カルネ村にて、至高の御方カワサキ様を発見したと。現在カルネ村にて料理を行っているとの事です」

 

ユリからの報告に俺は狂喜した。探さなければ、そう思っていた仲間が発見された、それもカルネ村に、この世界での最初の拠点にすると決めたその場所にいる……!

 

「本当か!?本当なのか!?嘘ではないのか!?」

 

精神鎮圧が間に合わない喜びの波を感じる。椅子を蹴り倒すように立ち上がり、ユリに詰め寄る。

 

「はい。間違いないとの事です」

 

仲間がいる……その喜びが胸を埋め尽くす。そして早く会いたいと言うことしか考えられなかった。殆ど反射的に異界門〈ゲート〉を発動させる。

 

「アインズ様!?どちらへ!?」

 

「カルネ村へ向かう!」

 

仲間がいるのに留まっている事など出来る訳がなかった。ユリが血相を変えて叫ぶ。

 

「しかし!供も無く!?アルベド様をお待ちした方がよろしいのでは!?」

 

アルベドを待てというが、その僅かな時間さえも今の私には惜しかった。少しでも早くカワサキさんに会いたい。ユリに供に来いと命令し、異界門に入ろうとし……

 

「アインズ様、そのままでは騒ぎになります」

 

「ちっ!そうか」

 

慌てて嫉妬マスクとガントレットを身に着け、改めてユリと供に異界門に足を踏み入れようとする。その時、

 

「アインズ様!?どちらへ向かわれるのですか!」

 

白いドレスに腰元に黒い翼を持つ美女……「アルベド」が、異界門に入ろうとした私とユリを見て叫ぶ。なんと間の悪い!

 

「カルネ村で緊急事態だ、私でなければ解決出来ない!直ぐに戻る!戻るまでの指揮はお前に任せる」

 

「お、お待ちください!私も!私もお供します!!」

 

お待ちくださいというアルベドの言葉は私には届かず、私は転移門でカルネ村へと向かうのだった……

 

「ゆ、ユリ……アルファアアアアアアア!!!アインズ様と逢引なんて……きいいいいいッ!!!!」

 

残されてしまったアルベドがハンカチを噛み締めながら、大口ゴリラァになっていたりするのだが……アインズもユリも当然、その事は知る由も無かったのだった……

 

 

 

 

あちこちから聞こえる、美味しいや美味いという言葉に安堵する。味噌が受け入れられるか不安だったが、この様子だと大丈夫そうだ。最悪バターを落とせば洋食っぽくなるので、それで何とかなるか?と思っていただけに安心した。

 

「カワサキ、めっちゃ美味しい!お代わりしていい!?」

 

村人に作ったんだけどなあ……いや、クレマンティーヌも頑張ってくれた。御玉を手にして、お代わりを入れてやっていると目の前に黒い渦が生まれる。

 

「こいつはぁ……ゲートか!?」

 

ユグドラシルの転移魔法。とっさに身構えるが、クックマンでは襲撃者には勝てない。それが判っているから、いやでも緊張感が高まる。

 

「カワサキッ!」

 

豚汁を切り株の上に乗せ、こっちに駆け寄ってくるクレマンティーヌ。彼女が俺の前に立つよりも早く、ゲートから何者かが姿を現した……黒いローブに怒っているんだか、泣いているんだかよく判らない茶色のマスクを被ったモモンガさんの姿だった……

 

「モモンガさん、なんで嫉妬マスクなんだ……」

 

もっと格好良いマスクあったでしょう?と思わず苦笑する。モモンガさんを見た村人からは、アインズ様だ、アインズ様が参られたぞと言う声が響く。アインズ?モモンガさんじゃないのか?……だけどゲートから姿を現したメイド……ユリ・アルファの姿を見て、もう1度モモンガさん?と問いかける。

 

「は、ははっ!!カワサキさん!!!良かった!会いたかったッ!」

 

俺の名前を呼んで駆け寄ってくるモモンガさん。そのマスクの下が骸骨と言う事を知っているので、犬っぽい仕草は似合わないなあと思いながら、俺も呼びかける。

 

「良かった!モモンガさんも居たんだな!」

 

探さないとと思っていたモモンガさんから俺に会いに来てくれた。俺はその事に笑みを零しながら、嬉しそうに手を差し出してきたモモンガさんの手を握り返すのだった……

 

メニュー4 具沢山の豚汁 その2へ続く

 

 




かなり早いですが、モモンガさんと合流しました。なお今回の豚汁の分量は通常の4人前を、10倍した数値なので多少量が多いか、少ないかしているので、この分量がそのまま40人前と言うわけではないので、そこだけご了承ください。次回はクレマンティーヌさんの豚汁の感想とか、カルネ村での事を書いていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

  • 間違っている
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