生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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下拵え 暗躍する者/漆黒の剣士モモン/カワサキ様奮闘する

下拵え 暗躍する者/漆黒の剣士モモン/カワサキ様奮闘する

 

アインズとカワサキが漆黒の剣とンフィーレアとカルネ村を発ち、エ・ランテルを視界で確認する少し前……

 

「逃げろ!女子供が先だ!」

 

「うわあああ!誰か!誰かアアア!?」

 

「くそ!冒険者はまだか!このままじゃ耐え切れんぞ!」

 

エ・ランテルは阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。街の共有墓地から現れ続けるアンデッドに兵士と冒険者が必死に足止めをしているが、戦っている人数よりも圧倒的にアンデッドの数が多く、あちこちから悲鳴が上がる。それは逃げ遅れた民間人達の悲鳴であり、親と逸れた子供の悲鳴であった

 

「くそ!なんなんだ!なんだよ!これはぁッ!!」

 

アンデッドに捕まりそうになっていた子供を助け、乱暴に避難誘導している兵士の方に突き飛ばしながら叫ぶ男の姿があった

 

「叫んでいる暇があれば剣を振るえ!イグヴァルジ!」

 

やや痩せ型で神経質そうな男……イグヴァルジの声に、ふくよかな男性の怒声が飛び交う、そんな阿鼻叫喚の戦場と化したエ・ランテルを見つめる一人の男の姿があった。その男は事切れたバハルス帝国の鎧を着込んだ男達の死体を裏路地に投げ捨て

 

「世界の救済は私が為す」

 

正気ではない光をその瞳に映し、闇の中へと溶ける様に消えていくのだった……

 

 

 

夕暮れの中、遠くに見えたエ・ランテルの街。出発時と違うのはカワサキさんとクレマンティーヌの姿があることだろう。シャルティア、エントマはナザリックに残して来た。最初いた2人が居ないことに怪訝そうにしていたぺテルさん達には、多少強引だが私の知り合いが来るのでその出迎えとして残ってもらうと説明し、カワサキさんが同行する理由としてはエ・ランテルに店を構える為に、帝国を見てからカルネ村で合流する手筈になっていたと説明した。我ながら無理があるか?と思ったのだが

 

「なるほど!カワサキさんの料理の腕前ならエ・ランテルでもきっと商売が繁盛しますよ」

 

「うむ!我輩もあれほど美味い物は初めて食べたのである!」

 

「後は値段だなー。駆け出しでも食べられるくらいの値段設定だと嬉しいな、銅級だとやっぱり金がやばいからさ」

 

「そうですね。後はメニューも色々あれば、若い人も大人の人も来ると思います。僕は、おばあちゃんが食べられるようなメニューがあると嬉しいんですけど」

 

「もしカワサキ殿が良いなら拙者も食べてみたいでござる!」

 

ぺテルさん達は店が出来たら食べに行きますと笑って言ってくれた。やはりカワサキさんの料理には美味しいのだと改めて確信し、そしてカワサキさんが褒められた事が嬉しかった。ナーベラルは人間如きがと小さく呟いていたが、それでも友人が褒められると嬉しい

 

(エ・ランテルに戻ったら、1度王都に向かっても良いかも知れない)

 

店を構える時に協力してくれると言っていたので、その時の話をすれば良いなと思っていたとき

 

「待って、全員止って」

 

クレマンティーヌが険しい口調で全員に止れと言う、エ・ランテルの城壁が見えて来るその時に止れと言われ、俺含む全員が困惑した

 

「どうしたんですか?クレマンティーヌさん」

 

「血の匂いがする」

 

ぺテルさんの質問に血の匂いがするとクレマンティーヌは断言した

 

「ほんとか?」

 

「間違いないよ、ルクルット。見える?」

 

カワサキさんの問いかけにクレマンティーヌは間違いないよと断言し、ルクルットさんは馬車の上で立ち上がり

 

「やべえ!あちこちから煙が見える!エ・ランテルでなんか起きてるぞ!」

 

クレマンティーヌが止めた理由が武装せずに突っ込むべきではないと言う事だったのかと理解し、ぺテルさん達が武具を整える

 

「カワサキさんとンフィーレアさんを頼むぞ、クレマンティーヌ、それに漆黒の剣の皆さん」

 

城塞の外にカワサキさん達を残すわけにはいかない。危険だがカワサキさん達もエ・ランテルの中に入れたほうが安全だろう、もしも何かの騒動を起こした相手が逃げてきてカワサキさん達に遭遇しないとは言い切れないからだ

 

「OK、任せて」

 

「そこまで心配すんな、ある程度は俺も戦える」

 

人化していれば戦いが可能なのは知っているが、それでも心配するなと言うのは無理な話だ

 

「殿!どうぞ拙者に!」

 

俺の前に伏せるハムスケに何とも言えない気持ちになるが、先行するのなら馬車よりもハムスケの方が早いだろう

 

「ナーベ!」

 

「っはい!」

 

ナーベラルの手を掴んでハムスケの背中に引っ張り上げ、武装を整えていたぺテルさん達に先に行きますと叫んでハムスケを走らせる

 

「ナーベ。計画とは違うが実に好都合だ」

 

それに先行したことでカワサキさんに聞かせる事が出来ない話も出来る。アインズ・ウール・ゴウンとしては王国との繋がりが出来た、だがこれは政治的なやり取りに巻き込まれるリスクがあるとカワサキさんに教えられた。ならば漆黒の剣士モモンと言う冒険者としての名声を得る、それが冒険者モモンを演じると決めた理由だ

 

「襲われている街を救うと言うことでしょうか?」

 

「そうだ。嫌か?」

 

人間が嫌いと言う設定のナーベラルは露骨に嫌そうな顔をしていたが、何かを思いついたのか急に笑みを浮かべる

 

「人間の食事する店を壊せば、カワサキ様が簡単に店を持てますね」

 

「……それは最終手段にしておこうか」

 

既にランポッサ国王に店を構える事に協力してくれるという話になっているので、エ・ランテルの店を壊す必要は無い

 

(NPCの思考が怖い)

 

どこをどう解釈したらそんな考えになるのか?これがナーベラルだけの考え方なのか、それともNPC全員なのか?そこが気になるが、触れないことにする。泥沼になりそうだし

 

「私の名前と強さをエ・ランテルに知らしめ、冒険者としての名声を得る。余りに敵が弱ければ、ナザリックのシモベを出してもいい」

 

余りに弱すぎると名声を得ると言う役割を果たせそうに無いので、そこの所は状況を見て判断しよう

 

「アインズ様のお役に立てるのなら、ナザリックのシモベは喜んで死ぬでしょう」

 

そうは言うが、シモベとして利用するのはモンスターだがな。流石に自分の名声を高めるためにNPCを犠牲にするつもりは無い

 

「殿は名声が欲しいでござるか?」

 

「下等生物がモモンさーーんに質問するなど」

 

ハムスケの質問にナーベラルが声を荒げるが、それを嗜める。

 

「私にも本来の姿と言う物があるのだよハムスケ。この戦いが終われば見せてやろう、2つの姿を使ってやる事があるのさ」

 

賢王と言われるんだ。それくらいは判るだろう?と問いかける。恐らく口にはしてないが、ハムスケ自身も俺が人間と言う事には疑いを持っているだろう

 

「んー拙者はあんまりそういうのは判らないでござる。でも殿のお役に立てるように頑張るでござるよ」

 

案外賢いじゃないか、判っていてもそれを口にしない。行動で示すというのは口で言うよりもよほど信用を得られる。俺はハムスケの頭の上に手をおいて軽く撫でながら期待していると呟く

 

「アンデッドか」

 

門に近づけば敵が見えてきた。スケルトンとゾンビと言ったアンデッドの姿とそれを食い止めようとしている兵士の姿だった

 

「ハムスケ、このまま突っ込め!派手に行くぞ!ナーベは火球【ファイヤーボール】の準備」

 

アンデッドの数が多く、思うように戦えて無い姿を見れば派手に立ち回った方が人の目につく。俺は背中にマウントしていたグレートソードを1本だけ手に取る。流石に轡などがないので片手でハムスケを掴んでないと不安だったからだ

 

「あんたは!?なんだその魔獣は!?」

 

門の所で奮闘していた兵士は運が良いのか悪いのか、俺達が出発する時に送り出してくれた兵士だった。ますます好都合だ、ハムスケを走らせながら

 

「私達が正面を突破する!早く避難させろッ!!行け!ハムスケ!」

 

兵士が門の近くで戦っていたのは、その後に何人かの人の姿があったからだ。恐らくだが避難する場所に向かう途中で囲まれ、それを何とか突破しようとしていると言う所に間に合ったのだろう

 

(最高のタイミングじゃないか)

 

兵士でも脱することが出来ない危機に間に合い、兵士だけじゃなく街人も助ける。ギャラリーが非常に多く、まさにこれ以上無いという最高のシチュエーションだ。ハムスケが地面を蹴り、兵士の頭の上を飛び越える

 

「はっ!」

 

「火球ッ!【ファイヤーボール】」

 

着地と同時に俺が振り回したグレートソードがアンデッドを纏めて薙ぎ払い、ナーベラルの火球がアンデッドの群れを焼き払う

 

「私達が道を作る!貴方達は避難誘導を!」

 

「お、おう!わ、判った!」

 

上擦った返事を返す兵士を見ながらハムスケの背中から飛び降り、2本目のグレートソードを抜き放つ

 

(これは自然発生じゃないな)

 

不死の祝福に反応があるのだが、その反応がどうもおかしい。巨大な反応があり、そこから散発的にアンデッドの反応が増えている。その大きな反応がある場所に首謀者がいるか……首謀者を叩けば早いが、こっちを見ている子供の姿もある

 

「ナーベ、薙ぎ払うぞ」

 

「はい」

 

俺の言葉に言葉短く返事を返すナーベラル。とりあえずカワサキさん達も入ってくるのだから、門付近のアンデッドは全部薙ぎ払う事にする。

ちょうど兵士と民間人も多いのでギャラリーは十分だしな、ある程度薙ぎ払えば後は首謀者がいるであろう場所に向かうとしよう。俺はそんなことを考えながら飛び掛ってきたスケルトンの群れにグレートソードを叩きつけるのだった……

 

 

 

 

モモンガさんから遅れる事数10分。俺達もエ・ランテルに到着したが、俺達を出迎えたのはバラバラになったスケルトンの残骸と炎で焼かれて崩れ落ちているゾンビの数々だった。どう見てもモモンガさんとナーベラルの仕業だなと確信した

 

「お、おばあちゃん……おばあちゃんが」

 

「よーし、落ち着けンフィーレア」

 

祖母がいると言って早く店に向かいたいという様子のンフィーレアに落ち着くように声を掛ける

 

「お前が行っても何も出来ないだろう?ちょっと待て」

 

アイテムボックスから出す訳には行かないので演出として、背負っていた鞄から干し肉を取り出す

 

「ぺテル、ダイン、ニニャ、ルクルット、クレマンティーヌ。食え」

 

それをナイフで切り分けながらぺテル達に投げ渡す。クレマンティーヌは受け取り直ぐに齧りつく

 

「これは?」

 

「料理魔法をかけて作った干し肉だ。筋力上昇・防御力上昇・瞬発力上昇を施してある、食っとけ」

 

正直ゾンビの死体があって、とても食欲が出る状況じゃないのは判っている。俺自身もとても肉を食う気分ではないが、生存率に直結するので無理矢理噛んで飲み込む。今度はドライフルーツにしようと心に決めたのは言うまでも無い

 

「身体が軽い!」

 

「驚きなのである」

 

直ぐに効果が出てきて驚いているぺテル達は武器を構える。これでスケルトンとゾンビの攻撃の直撃を受けても致命傷に繋がることはないだろう

 

「ンフィーレアの家はポーションがある店が並んでいる薬品街だ。多分篭城する拠点に選ばれているはず」

 

回復するアイテムがある店だ。普通に考えて他の店よりも強固でそして護られているはず

 

「冒険者と兵士もいるはずだ。まずはそっちと合流するべきだろう」

 

このままここにいてもモンスターに襲われるリスクしかない。外にいるよりかはましなのは言うまでも無いが、安全な場所で篭城しているであろう冒険者達と合流する方がよっぽど生存する可能性が高い

 

「理に適ってるな。それで行こうぜ、ぺテル、ダイン、ニニャ」

 

ルクルットも俺の意見に賛成してくれたが、クレマンティーヌは険しい顔をして、ある方向を見つめている

 

(どうした?)

 

(いやさ、私脱走するから匿ってくれそうな場所を探してたって言ったでしょ?)

 

ああ、そう言えばそんな事を言っていたな。それがどうしたのか?と尋ねるとクレマンティーヌは

 

(エ・ランテルの墓場でアンデッドの研究をしていたズーラーノーンのカジットって言うやつがいるんだけど、でもおかしいんだ。こんなに大量のアンデッドを使役できる術者じゃない)

 

クレマンティーヌの言葉にハッとなる。可能性の段階だが、スレイン法国にいる八欲王の関係者が動き始めたのかもと言う可能性だ。出来れば可能性のまま終わって欲しいと思うが、その可能性がある以上あまり派手な立ち回りは

 

「……もう手遅れだな」

 

「みたいだね」

 

骨の巨人を吹き飛ばした剣を見て、モモンガさんが相当派手に立ち回っていることを悟る。もうあれだ、なるようになれ、つまり簡単に言えばいつものって奴だな

 

「急ごう。あくまで非常用だ、長時間は持たない」

 

少なくても2時間は持つが、それを過信されても困る。たっちさんやモモンガさんの様に素のステータスが高い相手へのバフは当然高くなるが、元のステータスが低ければあくまでそのステータスがベースになる。過信されても困るから早く行こうと促す

 

「判ってると思うが薬草は諦めろ」

 

「っはい!判ってます」

 

馬もアンデッドに怯えて動く気配がない、死んでしまったら可哀想だがこの場において行くしかない

 

「行きましょう。クレマンティーヌさん、私と一緒に前衛をお願いできますか?」

 

「OK、さっさと移動しよう」

 

ぺテルとクレマンティーヌが前衛、その後にダイン、ダインの後に俺とンフィーレアとニニャ、最後尾にルクルットという陣形でバレアレ薬品店へと向かうのだった……

 

「おばあちゃん!」

 

「ンフィーレア!」

 

老婆と抱き合うンフィーレア、あの老婆が祖母なのだろう。バレアレ薬品店の周辺にはバリケードが設置され、冒険者らしい姿も何人か見られた

 

「漆黒の剣か、合流してくれて助かるよ」

 

ぺテルが痩せ気味の穏やかな風貌の男性と話しているのを見ながら、小声でシャドウデーモンから周辺の報告が入る

 

(これはちょっと不味いか)

 

やはり俺の推測通り、薬品街とやらに民間人が避難する避難場所などはあった。だが生きてる人間の反応でアンデッドが寄ってきているという状況でもあった

 

(このままだと持たないか)

 

モモンガさんが首謀者を叩いてくれれば、それで終わるだろう。だがまだ首謀者を叩くには至っていないようだ。避難している人がいる所を観察していると神官のような服装の人が歩き回って治療も施している。その姿を見てクレマンティーヌが渋い顔をしている。恐らくスレイン法国の関係者を見るのはあまり好きではない様だ

 

「剣を取れるもの!若い男は兵士から武器を借りて手伝ってくれ」

 

冒険者らしい男が叫ぶのを見て、クレマンティーヌが立ち上がる

 

「お前も手伝ってくれ、その体格だ。剣の心得くらいあるだろう?」

 

俺も当然声が掛かる。だが剣の扱いなんて知らない、クックマンのスキルのおたまによる剣術モドキとフライパンを投げるとかそういうのは使えるが……さてどうしたものか

 

「待ってください。彼は南方の独自の職業についている方です。食事に補助魔法の効果を掛けられるのです。私達もそのおかげでここまで無傷でした。カワサキさんを前衛に出すのは明らかに得策ではありません」

 

ぺテルの待ったの声。案外気のいい奴じゃないかと笑いながら立ち上がり

 

「ぺテルの説明の通りだ。俺は自衛程度は出来るが、正直そこまで強いわけじゃない。まぁ協力はするが……」

 

打撃はアンデッドには効果が薄いしな。使うならクックマンのスキルになるだろう。鞄から先ほどぺテル達に与えたのと同じ干し肉を取り出す

 

「筋力強化、防御力強化と瞬発力強化は食べてくれれば掛かる」

 

ナイフで切り分け、見た所この周辺でいる冒険者の中で一番腕が立つであろう男性に差し出す

 

「本当か?」

 

「信じられないなら無理に食えとは言わんさ、だがこの状況で俺に嘘をつくメリットがあるか?」

 

少し悩んだ様子だが、俺の差し出した干し肉を受け取り齧る男性。最初は疑うような顔色だったが、咀嚼している内に効果が出てきたのか顔色が変わる

 

「これは……力が滾る!」

 

ぐっと拳を握る男性に干し肉の残りを差し出し、戦える奴に分けてやってくれと言ってそのまま避難所を出ようとすると

 

「カワサキさん!貴方は中にいたほうが」

 

ぺテルが心配そうに俺に声を掛けてくるが、さすがに状況が状況だ。隠れているというのも性に合わないし前線に出ようじゃないか

 

「心配してくれてありがとよ。でもある程度は俺だって戦えるさ、そこまで心配してくれなくていいさ。行こう」

 

「はいよっ」

 

俺の呼び声でぱっと跳起き駆け寄ってきたクレマンティーヌと共に外に出る。案の定アンデッドが多数押し寄せていて、疲弊している冒険者と兵士の顔色が悪い

 

「んじゃま、先制攻撃行くかなあ」

 

「ほれ、飲んどけ」

 

小さいボトルの果実酒を投げ渡す。クレマンティーヌが何度か飲んでいる思考強化と反射神経強化のワインだ

 

「ありがとね」

 

ぐーっと飲み干し口を拭うクレマンティーヌ。ステイレットを鞘から抜いて構えを取る。いつもの体勢を低くした猫のような構えだ

 

【疾風走破】【不落要塞】【能力向上】【能力超向上】

 

武技を重ねたクレマンティーヌが地面を蹴ると、何かが爆発したような音が響く

 

「「「な!?」」」

 

アンデッドが纏めて吹き飛ぶ姿を見て驚く声が響くが、それでは終わらない。建物を蹴った勢いで跳ね返ってきたクレマンティーヌが地面を削りながら着地する

 

「んーちょいイメージより速いね。修正しないと」

 

あの蹴り出しでこれだけ加速するならーとぶつぶつ呟いている。クレマンティーヌの戦闘スタイルは徹底して一撃離脱、そして一撃必殺だ。圧倒的な加速が伴った体当たりはそれだけで凶器と化す

 

「く、クレマンティーヌさん。す、凄く強かったんですね」

 

「まぁ開けてる場所だからねえ、自分の得意な事が出来るだけだよ」

 

薬品街までは短剣とモーニングスターを使っていた。それは狭い路地と言う事で自分のスタイルで戦えないからだ

 

「カワサキー、も一発突っ込むー?」

 

「ちょい待ちな」

 

スケルトンはバラバラに吹き飛んだが、ゾンビは手足を失いながらも前に進んでくる。的が小さいから突きは当たらないだろうし、俺は落ちていたスケルトンの盾を拾う

 

(これで代用できるか?)

 

クックマンのスキル技に中華なべファイヤーという物がある。それは投げた中華鍋が炎を吹き出しながら地面を滑っていくという謎のスキルだ。ゲームのモーションをなぞり盾を投げる、盾は回転しながら炎を吐き出し地面を滑りながらアンデッドを焼き払っていく

 

「「「……」」」

 

何とも言えない表情で俺を見る冒険者と兵士。そんな目で見るな、俺だって理解出来てないんだ。だがこれは使える

 

「ダイン!ニニャ!盾拾ってくれ!」

 

「は、はい!判りました!」

 

「判ったのである!」

 

スケルトンが落とした盾をひたすら投げると言う訳の分からない戦闘方法でアンデッドを焼き、冒険者とクレマンティーヌが俺の討ちもらしに止めを刺す。ユグドラシルでは死にスキルだった中華なべファイヤーだが、思った以上に強力で、そして使い勝手が良かった

 

「盾もってこい!どんどん投げさせるんだ!」

 

弓兵や魔法詠唱者の弓矢や魔力切れを起こしたら、板を拾いに行けと叫ぶ冒険者

 

「木の盾でも大丈夫ですか!?」

 

「盾が無いからまな板持って来ました!」

 

どんどん俺の後ろに積み上げられる板状の物。もう俺はやけになり、それを次々拾い上げ投げると言う作業を延々と繰り返しながら、周囲を見る。投げた物が全部発火しているこの状況はあまりにシュールすぎて正直嘘だろって思ってしまう。時折地面に着弾する前に燃え尽きているのがあるのはご愛嬌だ

 

「よし!散開!弱っているのを潰せ!弓の残っている弓兵は距離を取って、ゾンビの足を狙え!弓の無いものは盾でもなんでもいい板状の物を集めろ!カワサキだったな!お前はどんどん盾を投げろ!」

 

兵器?俺は兵器扱いなのか?クレマンティーヌが何ともいえない表情でモーニングスターとかを振り回すのを見て、ぺテル達や兵士が剣を振るうのを見ながら、俺は自問自答を繰り返していた

 

(なんだこれ……なんだ……これ)

 

役に立っているのはいいんだが、クックマンのスキルが相変わらず謎過ぎる。もう考えても無駄だと思い、俺は繰り返し機械のように板状の物を投げ続けるのだった……

 

(これ終わったら何作ろう、ちょっと寒いし暖かい物とかどうだろう?)

 

そして現実逃避気味に、この戦いが終わった後のことを考えるようになったのは、言うまでも無い

 

 

 

「これは……どう言う事だ」

 

カワサキがそんなことをしている頃。墓場の中の神殿に足を踏み入れたモモンガは、その異様な光景を見て思わずそう呟いた。神殿の中には大勢の人間の姿があった……だが……

 

「分不相応の力を使おうとした代償を支払ったのでしょうか?ゴミムシが大それた事をしようとしたのがそもそもの間違いです」

 

神殿の中は鮮血に染まり、異様な光を放つ魔法陣に何十人と言うローブ姿が囚われ、顔中から血を噴出して、泡を吹いて痙攣している。間違いなく死んでいる。痙攣しているように見えるのは魔力を吸い取られている事による影響に過ぎない

 

「判らない。だが異様だ」

 

アンデッドの姿はなく、魔法陣だけが活動している。誰が見ても異様過ぎる光景だ

 

「とりあえず魔法陣を破壊する。その後にシャドウデーモン達に遺体を回収させる」

 

この異様な光景の正体を知るためにナザリックで蘇生させる。無理矢理にでも情報を吐き出させよう。八欲王の影が動いているのか、こいつらがその犠牲となり儀式の生贄となったと考えて良いのか、それとも単に自滅したのか、それを知りたい

 

「適当なアンデッドを召喚する。それの死骸を持ち帰るぞ、ナーベ。適当に魔法を周囲に打ち込んでおいてくれ、戦いがあったという痕跡を残すために」

 

首謀者が全員自滅していたでは、俺達の評価に直結しない。適当なアンデッドを召喚し、それを打ち倒すことで証としよう

 

「はっ、墓はある程度吹き飛ばしても良いのでしょうか?」

 

「そこらへんの判断は任せる。だがあまり派手にやりすぎるなよ」

 

畏まりましたと返事を返し出て行くナーベラルを見送り、そのままハムスケに視線を向け、グレートソードを1本渡し

 

「これをもって適当に地面に傷を付けておいてくれ、私が剣を振り回していたように見えるようにな」

 

「判ったでござる!殿!拙者にお任せあれ」

 

剣の柄に尻尾を巻きつけ、嬉々として出て行くハムスケを見送り。俺は適当なアンデッドとしてデスナイト3体と骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を2体召喚することにするのだった……

 

 

 

だがモモンガはここで1つミスを犯したことに気付いていなかった。闇の中からモモンガ達を見つめる球体型モンスター、レベルは1で戦闘力は皆無だが、その代わり気配を消すことに特化し、見た情報を別の場所に飛ばす能力を持った偵察用モンスター、そのモンスターは何度も何度も瞬きを繰り返す。モモンガの、ナーベラルの、ハムスケの姿を事細かく記録する

 

 

「よし、スケリトルドラゴンとデスナイトを召喚した。これを倒して持ち帰るぞ」

 

「はい、判りました。モモンさーーん」

 

「殿!殿!拙者は?拙者は?」

 

「そうだな、お前の攻撃力を見て見たい。全力で攻撃してみてくれるか?」

 

「お任せください!!」

 

モモンガ達は、自分達が監視されているなど夢にも思わない。何故ならばモモンガは自身の攻性防壁に反応が無いことで監視の目はないだろうと判断していたからだ。自身の魔法を過信してしまっていたのだ

 

「では凱旋だ!」

 

「はいっ!」

 

「殿ー!拙者はお役に立てましたかー!」

 

スケリトルドラゴンの頭部とデスナイトを引っ張り、モモンガとナーベラルの後を追いかけて行くハムスケの姿を最後まで見つめていたモンスターは最後の瞬きをすると同時に灰となりその場から消え去っていくのだった……

 

「そうか、そうか……新たなプレイヤーが現れたか、くくっ!ははは!!100年待ちわびたぞ……はははッ!!はーはははははッ!!!!」

 

そして、そのモンスターが記録した物を見た何者かが、闇の中に響く狂ったような笑い声をあげていた事をモモンガは知る由も無いのだった……

 

 

 

メニュー31 あったかおでん

 

 




クレマンティーヌの変わりに何者かが、カジットに協力したという感じです。モモンガさんは原作よりも大活躍している感じで、そしてカワサキさんの新発見、板状の物を攻撃しようと思い投げると火炎ブーメランになるです。料理回じゃない話はシナリオの進め方が難しいです。次回からは暫く料理メインで書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

  • 間違っている
  • 間違っていない

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