生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。これで一応考えている「生きたければ飯を食え」の話は全てになります。飯テロを起こす為に深夜に投稿しましたが、美味く飯テロ出来ていればいいのですが……そこだけが不安です

続きは当然書きたいと思っているのですが、ちょっと私1人では攻略できない問題なので、後日活動報告にて皆様の意見を聞かせていただければ幸いです。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


メニュー4 具沢山の豚汁 その2

メニュー4 具沢山の豚汁 その2

 

バハルス帝国の襲撃のあったカルネ村。親しい人、両親を失い、村全体から活気は失われていた……だが今は違う。村の広場からはざわざわと騒ぐ声が聞こえる。その中心に居たのはオレンジ色の体をした丸っこい異形と大きな鍋から漂う香りに、カルネ村の住人はまだかまだかと異形……カワサキが鍋の蓋を開けるのを待つ

 

「さー!出来上がりだッ!カワサキ特製具沢山の豚汁だッ!」

 

カワサキが笑顔を浮かべながら鍋の蓋を開ける。蓋をされていても村全体に満ちていた食欲を刺激する香りが、蓋が開けられた事で完全に開放される。すると今までモンスターが料理をしていると怪訝そうにしていた村人の表情に笑顔が浮かぶ

 

「豚汁はたっぷりある!足りなければお代わりも作る!まずは子供、女からだ!押すな、押すな!ゆっくり並んでくれ」

 

発泡スチロールの御椀にたっぷりの具材と汁を注ぎ、カワサキは子供の目線に合わせて

 

「あついから気をつけてな?ゆっくり食べるんだぞ?」

 

「うん!ありがとー、モンスターさん」

 

子供のモンスター発言になんとも言えない表情をしたカワサキだが、子供だから仕方ないかと苦笑し、発泡スチロールの御椀にスプーンを刺してどんどん豚汁を配る。最初は見たことも無い、茶色の汁に困惑していた村人達だが

 

「うめえ!!こんな美味いの食べた事無いぞ!」

 

「本当だ!なんだこれ!?野菜にもたっぷり汁が染みてて……う、うめぇ~!!」

 

「野菜も美味いが、肉もだ!一口噛んだら、脂がじゅわ~って染み出して……こんな美味い肉初めてだ!」

 

口々に美味い、美味いという声が飛び出す。カワサキはその光景を見て満足そうに笑いながら

 

「クレマンティーヌ。お疲れ様、お前も豚汁食べて休憩しな」

 

美味い美味いという声を聞いて、そわそわしていたクレマンティーヌにカワサキがそう笑いかける

 

「ありがとう!めちゃくちゃ美味しそうで食べたかったんだー♪」

 

配膳と調理を手伝ってくれていたクレマンティーヌにも豚汁の入った御椀を差し出し、お代わりと集まってくる村人達の為に、大鍋の前に立つのだった……

 

 

カワサキが取り出した奇妙な材質の入れ物に入った、茶色い液体を見つめ、手にしたスプーンで野菜を掬う

 

(これ私が作ったんだよね……)

 

カワサキの指示通りに野菜を切っただけ。料理をしたなんてとても言えない。でも、なんか……楽しかったかも……

 

「あふっ……あつつッ!」

 

妙に気恥ずかしくなりスープを口に運んだのだが、野菜にたっぷり汁が染み込んでいて思っていたよりもかなり熱い。でもこれは……

 

「……美味しい」

 

味噌と言うペースト状の調味料で味付けされたスープ。味わった事の無い味なのだが、なんと言うかとてもホッとする。よく煮られた豚肉は少しぱさぱさしてるけど、それはスープにその脂が溶け出していると言う事だ。野菜も柔らかく煮られているのに、それでも食感がしっかりしてる

 

(これなんだろ……)

 

黒い板みたいな具材。カワサキが手で千切ってるのを見たけど、柔らかいのかな?見たことの無い食材に好奇心を刺激されながら、その食材を頬張る

 

(何これ!?)

 

柔らかいと言うか、ぷるぷるとした独特の食感が面白い。柔らかいのに、歯を適度に跳ね返す食感を楽しんでいると横から声を掛けられた

 

「お姉ちゃん」

 

「え?あ?私?」

 

茶髪の少女が私を見つめていた。普段の私なら鬱陶しいと蹴り飛ばす所なんだけど、そのキラキラとした目に、そんな気は無くなった

 

「とっても美味しかったよ!お姉ちゃん。ありがとう!」

 

「っ!」

 

笑顔で告げられた言葉に胸が詰まった。そんな事言われた事無かったから

 

「ネム」

 

「お姉ちゃん!」

 

その少女の姉だろうか、くすんだ金髪を三つ編みにした少女が私にお礼を言った少女を呼び、抱き抱えながら

 

「ありがとうございます。本当に美味しかったです」

 

「え、あ……うん。どういたしまして?」

 

今まで告げられた事の無い感謝の言葉に、恥ずかしいような、嬉しいような。そんな複雑な気分になる

 

「さー!お代わりはどんどんあるよー!足りない人はおいでー!」

 

カワサキが愛想の良い笑顔を振りまき、お代わりの欲しい人はおいでーっと声を掛ける。真っ先に子供が駆け寄り、お代わり、お代わりとせがみ、その後から若い村人が続く。このままでは自分のお代わりが無くなってしまうと思ったのだが……これは村人の為に作ったわけで……

 

「カワサキ、めっちゃ美味しい!お代わりしていい!?」

 

カワサキは仕方ないなと笑いながら、私の御椀にお代わりを入れてくれた。切り株に腰掛けて豚汁を食べていると、カワサキの近くに黒い渦が生まれる

 

「カワサキ!」

 

反射的に私はスティレットを手に飛び出そうとしたのだが、黒い渦から現れた人物を見て、完全に足が止まった。豪華な黒いローブに、怒っているのか、笑っているのか判らない奇妙なマスクをした大柄な人物の気配に完全に当てられた……いや、それだけじゃない。その人物の後から現れたガントレットを身に着けたメイドの冷めた視線に死を感じ、完全に動きが止ってしまった

 

「モモンガさん、なんで嫉妬マスクなんだ……」

 

カワサキはその人物を見て、くすくす笑う。も、もしかして……あの人が、カワサキが探していたモモンガって言う……

 

「は、ははっ!!カワサキさん!!!」

 

その人物は笑いながらカワサキに駆け寄る。カワサキも同じように駆け寄り

 

「良かった!モモンガさんも居たんだな!」

 

その手を差し出し、ローブの人物と握手を交わす。その姿にあの人がカワサキの探していた人なんだ、思ったよりも早く合流出来て良かったと思い、手にしていたスティレットを腰の鞘に戻し、カワサキに駆け寄るのだった……

 

 

 

モモンガさんと合流する事を目的にして、情報収集だとカルネ村に来たのにそこでいきなりモモンガさんと合流出来るとは……なんてついているんだ

 

「あーっと、ユリ・アルファだよな?プレアデスの」

 

モモンガさんの後に控えている眼鏡姿のメイド。覚えているのだが、一応念の為に尋ねてみる

 

「その通りでございます。カワサキ様、至高の御方であるカワサキ様がご無事で何よりです」

 

至高の御方?なにそれ?モモンガさんに視線を向けるが、マスクごしに頬を掻いている。なんかあるみたいだな。それもここでは話しにくそうな話題のようだ

 

「所でカワサキ様?先ほどそこのお方が名前を呼び捨てにしていたようですが……?」

 

「ひっ!?」

 

クレマンティーヌが息を呑むのが判る。つうか、俺もびびったわ。なんと言う眼力……と言うか、このままだとクレマンティーヌがやべえ!!!モモンガさんに目配せをすると、俺の意図を読んでくれたのかモモンガさんは村長に向かって

 

「こちらの亜人は私の古き友である。少しばかり話をしたい、どこか家を貸してくれないか?」

 

ナイス!!!ナザリックの事とか、至高の御方とか、モモンガさんが何でアインズと名乗っているのか?それも聞きたかったのだが、広場で俺とモモンガさんを交互に見ている村人の前では話も出来ない。村長は笑顔を浮かべ、少し離れた所にある家を指差し

 

「あの家をお使いください。カワサキ様、アインズ様のお知り合いとは知らず、御無礼を働き申し訳ありませんでした」

 

「あ、いや。気にしないでいいから!豚汁、食べててくれよ!」

 

なんでモモンガさんが、こんなに尊敬されているんだと思いながら、俺はクレマンティーヌを庇いながら空き家に足を向けるのだった

 

「よーしよし、大丈夫だからな」

 

ユリの殺気に完全に怯えているクレマンティーヌの頭を撫でながら、大丈夫大丈夫と声を掛けるのだが

 

「……」

 

何故か、俺がクレマンティーヌの頭を撫でると、ユリの目線が鋭くなり、クレマンティーヌが怯える。だから安心させる為に頭を撫でる、ユリが睨む、クレマンティーヌが怯えるの無限ループ。どういう……事だ……何が起きているのか、さっぱり判らない

 

「カワサキさん、どういう事なんですか?」

 

モモンガさんがユリを手で制し、事情を尋ねてくる。どうも、モモンガさんも俺と同意見のようだ。

 

「いや、クレマンティーヌがいなければ、俺は無事にカルネ村まで来る事は疎か、モモンガさんと合流さえ出来なかったと思う」

 

俺はカルネ村に来るまでクレマンティーヌが俺の護衛を務めてくれ、そしてここまで案内してくれた事を伝えた。するとユリはその殺気を収め

 

「大変失礼しました。至高の御方である、カワサキ様を護っていただきありがとうございました」

 

ユリが優雅な素振りで頭を下げるが、クレマンティーヌは俺の後ろで怯えたままだ。さっきまでの殺意に満ちた視線から考えれば、この反応は当然だろう。俺がクレマンティーヌのフォローをするよりも早く、モモンガさんが口を開いた

 

「私からも礼を言おう。クレマンティーヌだったな、カワサキさんを護ってくれた事に感謝する」

 

モモンガさん、その喋り方だと威圧しているように思う。だけどモモンガさんのクレマンティーヌを見る視線が柔らかくなったのを見て、これだったら保護をお願いできるかもしれないと思い、少し早いが本題を切り出すことにした

 

「彼女は自分の国で知ってはいけない事を知ってしまって逃げているんだ。出来れば彼女を保護してやりたい。難しいのは判っているが……なんとかならないだろうか?」

 

アインズ・ウール・ゴウンは悪のロールプレイをしていた。設定上人間を軽視しているNPCが多いのも判っている。だがモモンガさんと合流出来たからクレマンティーヌと別れるという選択は俺には無かった

 

「なるほど……良いでしょう、他ならぬカワサキさんの頼みだ。それにカワサキさんを護ってくれたと言う功績もある。ナザリック地下大墳墓の主人として、お前を庇護下に迎える事を約束しよう」

 

モモンガさんのその言葉に安堵の溜息を吐くが、まだ怯えた様子のクレマンティーヌの手を握り立ち上がらせ

 

「俺は少しモモンガさんと話がある。隣の部屋で休んでいてくれるか?」

 

「う、うん……判った」

 

青い顔をしているクレマンティーヌを隣の部屋のベッドに横にすると、やはり疲労がたまっていたのか、物の数分で眠ってしまう。それだけ負担を掛けていたんだと思うと、申し訳ないという気持ちで一杯になりながら、ありがとうと呟き、扉を閉めてモモンガさんとユリの待つ部屋に戻る

 

「申し訳ありませんでした、カワサキ様。まさか貴方様の恩人だったとは夢にも思わず……いかような罰でもお受けします」

 

……なぁにこれえ?……今にも自殺しそうな顔してるんだけど……?と言うか、なんでNPCが動いているんだ?

 

「あー罰か……じゃあ、悪いんだけど、俺とモモンガさんが話をしている間、村人に豚汁を配ってくれるか?」

 

「は……いえ、その……そんな事で宜しいのでしょうか?」

 

それで頼むよとユリを半分追い出すようにして、家から押し出し

 

「なにあれ?」

 

「いや、サービス終了時間になったらNPC動き出すし、異世界にいるし、なんかギルメンを至高の御方って言って、NPCの皆。私達を崇拝してるみたいなんです」

 

……マジ?え?異世界?ここユグドラシルの別の世界とかじゃなかったの?しかもNPC動いているの?至高の御方ってなんなのさ……しかも崇拝って……他のNPCも?と尋ねると、モモンガさんはゆっくりと頷きながら、嫉妬マスクを外す。そこにはある意味見慣れた骸骨の顔があった。なんか普通は安心しない筈なのに、めっちゃ安心するわ……知り合いがいる安心感って凄いな。

 

「少し怒鳴るだけで死んで詫びますって始まります」

 

「……お疲れ様」

 

俺だったらそんな状況で過ごすのごめんだわ……早く合流出来て良かった。モモンガさんの胃に……あれ?アンデッドだから胃無いかな?と思いながら、気になっていた事をたずねる

 

「アインズ様って何?」

 

俺がそう尋ねると目に見えてうろたえるモモンガさんに落ち着いてくれと声を掛ける。モモンガさんは溜息を吐きながら

 

「アインズ・ウール・ゴウンって名乗れば、もしギルメンがいれば、見つけてくれるかなって」

 

「それ、めっちゃ良いアイデアだわ」

 

アインズ・ウール・ゴウンって名乗れば、俺と同じくギルメンがいれば……ってあ……

 

「あ、それ駄目かも?」

 

「え!?」

 

クレマンティーヌから貰った情報をそのままモモンガさんに伝える事にした。話を聞けば、俺と同じ時間に転移しているのだから、情報レベルは同じはず

 

「なんかスレイン法国?とか言う国があるんだけどさ、彼女はそこから逃げてきたんだが……なんでもその国はプレイヤーが作った国らしい。詳しくは聞いてないけど、なんかきな臭い国みたいだ」

 

「本当ですか!?」

 

「ああ、しかもなんか八欲王とか言う、異形種狩りギルドもあったらしくてな。年代的には500年前らしいが……そいつらの集めていた異形種特攻の武器とかが残っている可能性もあるし、スレイン法国とか言う国に回収されてる可能性もあると思う」

 

時間軸がおかしいのかもしれない。アインズ・ウール・ゴウンを名乗れば、ギルメンは見つけてくれるかもしれないが、敵に発見されるリスクも上がる。とは言え、もう名乗ってしまっているのでどうした物か……

 

「……彼女にもう少し詳しく話を聞きたいですね」

 

クレマンティーヌは今俺達が必要としている情報全てを持っている。確かに話を聞きたいと言うモモンガさんの気持ちは判るが……

 

「ここまで俺を護ってきてくれて疲れてる。起きるまでは待ってやってほしい」

 

勿論ですよ。情報提供者としても、カワサキさんの恩人としても全力で保護しますとモモンガさんは笑う

 

「あ、でもさ……シャルティアとか、デミウルゴスとか大丈夫?カルマ全力で悪だけど」

 

「…………大丈夫です」

 

「今の間はなんだぁ!?本当に大丈夫なのか!?」

 

善よりのユリでさえあれだったんだ。ナザリックにいく事に若干の不安が生まれた……

 

「とりあえず……クレマンティーヌを紹介してどうなるかを見て考えようか」

 

問題の先送りだが、行き成り殺しに来る様なNPCは居ないと……信じたい

 

「カワサキさんの恩人となれば大丈夫だとは思いますよ?」

 

「そこで断言してくれないから不安になるんだよ……」

 

悪のNPCが不安すぎる。たっちさんのセバスとかなら大丈夫かもしれないけど……基本的に悪の集団だからな。ナザリックって……

 

「あ、そうだ。モモンガさんも飯食うか?」

 

「は?いえ、私はアンデッドだから……」

 

食べたい事は食べたいんですが……と言うモモンガさんに指を振り、ちっちっと言いながら

 

「モモンガさん……あ、アインズさんのほうが?」「モモンガでお願いします。カワサキさんにもアインズって言われたら泣きそうです」

 

泣けないですけどねと自虐ネタをシュートしてくるモモンガさんに相当追い詰められてると確信し、本当早く合流で来て良かったと安堵しながら

 

「クックマンのスキルを忘れてないか?」

 

「あ」

 

俺の言葉に今思い出したと言う反応をするモモンガさん。クックマンは基本拠点防衛だが、食材集めで稀に外に出る。モンスターは勿論、プレイヤーにも襲われる可能性があるのだが、そこはクックマンの料理にマイナス効果を付与するスキルを使い、モンスターは足止め出来る。だが稀にモンスターでもアンデッドやゴーレムと食事をしない種族も存在する。それらのモンスターを強制的に食事できる状況に持ち込ませる方法があるのだ

 

「「クックマンは人化の術を攻撃スキルに出来る!」」

 

異形種を選んだユーザーが、人間種限定の街に入る為の救済手段として用意されている人化の術と、人化の指輪。これは装着者および、詠唱者に対応したスキルなのだが、クックマンは数多の種族の中で唯一、人化の術を攻撃スキルとして転用出来るのだ。

 

「か、カワサキさん!お願いします!実はこの身体になって食事も出来ないし、眠れないし……自分がどんどん変わってくのを自覚してて……ここで食事をして、人間らしい事をしたいです!」

 

お願いしますと頭を下げるモモンガさんに人化の術を発動させる。眩い光に包まれ、モモンガさんの姿が変わる。やや痩せ型で長身の男性……オフ会でも会った、鈴木悟としての姿へと変わっていた

 

「カワサキさん!豚汁ください!!匂いは判るんで、さっきから食べたくて食べたくて!!」

 

めちゃくちゃ興奮しているモモンガさん。やっぱり生きる事は食べる事だなと改めて確信する

 

「よっしゃ行こう!!!」

 

ローブ姿の日本人と言う違和感があるが、今はまずは飯を食べさせよう。食事も睡眠も出来るクックマンと違って、食事も出来ない、睡眠も出来ない、人間らしい営みが一切出来ないモモンガさん。早く合流出来て良かったのは俺だけじゃない、モモンガさんもだ。NPCからの尊敬の眼差しに、眠る事も、食事する事もできない、そんな状態では本当にオーバーロードのモモンガになってしまう。モモンガさんの心が壊れる前に、合流できて良かった

 

「飯を食う事は生きる事!だから生きたければ飯を食えッ!!だ!」

 

「はいっ!カワサキさんの料理食べてみたかったんですよ」

 

眼を輝かせるモモンガさんと共に広場に戻るとユリが豚汁を配っていたのだが

 

「美味いっす!」

 

ルプスレギナが普通に豚汁食ってた……俺はモモンガさんを見て

 

「なんでいるの?」

 

彼女もプレアデスでナザリックの9階層の防衛を勤めているはずなのにと思いながら、どうしてここにいるのか?と尋ねる

 

「あ……ルプスレギナにこの村の監視を命じてたって伝えるの忘れてました」

 

……うっかりは美少女に許される個性ですよ!って言うペロロンチーノの声が聞こえた気がした

 

「ユリ、変わろう。モモンガさんも食事を求めている」

 

「は……ですがアインズ様は……」

 

アインズ様は……と言い掛けたユリだが、俺のスキルを思い出したのか、それとも人化しているモモンガさんを見たからか、手にしていた御玉を俺に返してくれる

 

「ルプー!いつまで食べてるの!仕事に戻りますよ!」

 

「そ、そんなぁ!もう一杯だけええええ……」

 

ユリにずるずると引き摺られていくルプスレギナに苦笑する。なんか姉妹のやり取りは見ていて微笑ましいと思う

 

「アインズ様……それがお素顔なのですか?黒目に黒髪……もしや南方の?」

 

「ええ、南方の生まれなのです。これで色々と言われて困っていたのでマスクをしていたんですよ」

 

モモンガさんってアドリブ、上手いよなあ。一瞬でマスクをしていてもおかしくないバックストーリーを準備するんだもん。やっぱり頭いいよなと感心する

 

「ではカワサキ様とはどういうお知り合いなのですか?アインズ様のお知り合いと言う事はモンスターではないのでしょう?」

 

村長が俺について尋ねる。モモンガさん!頼むぜ!俺にバッチリの設定を付けてくれ!と思っていると、モモンガさんは少し考える素振りを見せてから口を開いた

 

「……私の国の食事の神様です。その料理は万病を癒し、食べた者に祝福を与えると言われています」

 

っておい!!!俺の設定!!モモンガさん!!俺の設定おかしいですよーッ!!!

 

「確かに良く見ると、なんと神々しいんだ」

 

「ありがたや、神が降臨なされるとは……」

 

「見てくれ!麻痺していた腕が動く、腕が……動くんだッ!!!」

 

「身体が軽い!こんなにジャンプできるぞ!?」

 

……やべえ!いつもの癖で料理に追加効果をエンチャントしていた!!なんか村の中で奇跡だ、奇跡だと言う声が聞こえる。

 

(やっべえ。村人からの尊敬の眼差しが凄い……)

 

「カワサキ様の料理を口にすれば、病気も治ります。身体に活力も満ちるでしょう。神のお恵みに感謝を」

 

「止めろッ!!」

 

なんかルプスレギナがシスター……あ、こいつシスターだったわ。と言うか、俺を神に仕立て上げるなッ!!信じてる!素朴な農村の住人が俺が神様だって信じてるからッ!!!

 

「モンスターじゃなくて神様だったのー?」

 

「……うん。そんな物かな?俺料理作るだけだけどね?」

 

子供のキラキラした眼にもう修正できねえと悟り、なんで俺神様に……俺、ただのクックマンだぜ?あ、でも神の調理師の職業取ってるわ……いや、神様じゃねえよ……とは言え、こうなっては仕方ない。村人と異なり、漆黒の漆塗りの御椀に豚肉と野菜をたっぷり盛り付け、さらに味噌汁もたっぷりと注ぐ

 

「はいよ、アインズさん。カワサキ特製豚汁だ」

 

「ありがとう」

 

周りに人もいるのでモモンガではなく、アインズと呼び豚汁の入った御椀と割り箸を手渡す。悪戯っぽく笑うモモンガさんに業とだと悟り、この人は案外悪戯好きだったと思い出すのだった……

 

 

 

 

 

カワサキさんから差し出された黒い御椀を両手で持つ。骨の身体では感じなかった、じんわりとした優しい暖かさが手から全身に伝わってくる

 

(これがカワサキさんの料理……思えば初めて食べるかもしれない)

 

アーコロジー内で料理屋を営んでいると言っていたカワサキさん。安いから、アーコロジーの外の人間でも食べれるから是非きてくれと言われていたが、結局一度も現実の店に行く事は出来なかった。まさか、異世界で食べる事になるなんて夢にも思ってなかった……

 

(なんて良い匂いなんだ……)

 

現実での味気ない液体食料とは違う、これが本物の料理……思わず生唾を飲み込む

 

「いただきます」

 

平然と口にしたつもりだが、声は震えていないだろうか?鈴木悟では決して食べる事が出来ない、生の食材を前に声が震えていないだろうか?と心配になる。だが御椀の中を覗き込んだ瞬間、そんな心配は頭のどこかへと消えて行った……色んな形に切られた数々の野菜に、これは……こんにゃくだろうか?話に聞いただけの食材がこれでもかと並々と注がれた味噌汁の中を泳いでいる……手が震えるのが判る。アインズには相応しくない動きだが、一般人の鈴木悟からすればこの反応は当然だ。どれだけ給料をつぎ込んでも食べる事の出来ない、逸品が今自分の腕の中にある……腹が鳴る。考えてないで早く食わせろと身体が訴えている。震えながら人参に箸を伸ばし口に運ぶ

 

(!!!美味い……ッ!!!)

 

思わず眼を見開いたのが判る。柔らかく煮られているのだが、それでもしっかりと噛み応えがある。しかも噛み締めれば、人参がたっぷりと吸い込んだ味噌汁が口の中に広がる。

 

(ああ……これはたまらない……ッ!!!)

 

オーバーロードだから、アインズだから食べる事は出来ないと諦めていた。村中に立ち込める豚汁の香りに、ああ、なんで自分はアンデッドなんだと思った。だけどこうして食べる事が出来た、その感動は今まで生きた人生の中で一番大きな感動だった

 

(これは……大根か?これも美味い!)

 

人参よりも柔らかく、そしてたっぷりと出汁を吸い込んでいる大根は軽く力を入れるだけで容易く両断できる。口に運べば、その柔らかさに目を見開く。そして噛んだ瞬間あふれ出した味噌汁の熱さに思わず声が出てしまう

 

「あふっ……あっつ……ッ!!!」

 

噛んだ瞬間大根からあふれ出した汁の熱さに驚く。だがその美味さに喉を焼かれながら飲み込む

 

(美味い!美味すぎるッ!!!)

 

思わず叫びだしそうになるのを必死に堪える。もしここに俺しか居なければ、美味いっと叫んでいた。そんな確信が俺にはあった。だがこれでもまだメインは食べていないのだ。豚汁、その名前の通り、この御椀の主役は豚肉なのだ……貧民層では決して食べる事の出来ない高級食材……思わずごくりと喉が鳴る。いやそれだけじゃない、手が震えているのが判る。

 

(いざ……ッ!!)

 

自分でも何を言っているんだろう?と呆れながら豚肉をつまみ、口へ運ぶ……一番最初に感じたのはその肉汁の凄まじさだ。噛む事に豚の脂が口の中に溢れ出す。しかも脂だけではない、味噌汁をたっぷり吸い込み、口の中に今までよりも遥かに凄まじい旨みが広がる

 

(……もう死んでも良い……)

 

これほど美味い食事を食べる事が出来た。それだけで死んでも良いと思えるだけの感動だった……いや、死にたくは無いが、そう思うほどの旨味だったのだ

 

「ん?良い匂いだ……」

 

食事に夢中になり気づいてなかったが、近くから香ばしい匂いが漂ってくる。よく見ると、カワサキさんがしゃがみ込んで何かをしている

 

「カワサキさん?何をしているのですか?」

 

「んー?豚汁だけじゃ足りそうにないから焼きおにぎり作ってる。うっし……出来た」

 

カワサキさんが立ち上がり、俺に皿を差し出してくる。それを見て、またごくりと唾を飲み込んだ

 

「これが……おにぎり」

 

「正しくは焼きおにぎりな?」

 

100年前は子供のお弁当の定番だったが、近年は絶滅したと言う……おにぎり。しかも初めて見るのに焼きおにぎりとはなんだ?

 

「甘辛いタレと飯を混ぜて、三角に握って焼いてある。本当はノリを巻くんだが……手持ちに無い。そのままで我慢してくれ」

 

「我慢してくれなんてとんでもない」

 

そんな事言えるわけが無い。どれほどカワサキさんが俺の為に骨を折ってくれているか判っている。そんな我侭を言えるわけが無い

 

「村のみんなにはまた今度な?悪いけど、飯の手持ちがねえ」

 

「い、いえいえ!とんでもありません!カワサキ様!」

 

恐れ多いですとカワサキさんにぺこぺこ頭を下げている村長。神と紹介したのは間違いだったろうか?だけど、モンスターや亜人呼ばわりは嫌だったのでこれでいいはずだ。それよりも今はこの焼きおにぎりだ

 

(甘いのに香ばしい、いい香りだ……)

 

今まで嗅いだ事が無い匂いだ。焼いた事でタレがこげて香ばしい香りがする。俺は焼きおにぎりに手を伸ばす。タレのせいかすこしぺとぺとしているが、そんなのは全然気にならない。今俺が気になるのは、この焼きおにぎりの味だけだ。大きく口をあけて頬張り

 

「美味いッ!」

 

今度は我慢できなかった。思わず美味いと叫んでしまった。甘辛いタレが焼かれた事で素晴らしい香ばしさを持っている。いや、それだけじゃない。おにぎりももっちりとした食感が凄い

 

(中にまでしっかりタレが染みてる!)

 

どこを齧っても美味い!美味すぎる。手にした御椀を殆ど反射的に口に運ぶ。おにぎりと豚汁。これが合わない訳が無い!

 

(ああ……美味い……)

 

オーバーロードの姿になって、眠る事も、食事をする事も出来なかった。それでいいと思った、それで仕方ないと思っていた。だがこの味を知ってしまえば、オーバーロードの姿に戻る事が嫌になる。カワサキさんが居ればいつでも人化出来る。そうすればこの美食をいつでも食べる事が出来る。その魅力は何よりも素晴らしい物に思えた

 

「アインズ様、お水をどうぞ」

 

「あ……ああ。ありがとう、ユリ」

 

ユリに声を掛けられ、興奮していたのが急に恥ずかしく思えてきて、急に冷静になる。冷たい水を飲み干し、落ち着いて手元を見る

 

(あ……もう無い……)

 

豚汁も焼きおにぎりもその姿を消していた。まだ食べたい、もっと食べたい。そんな欲求がふつふつと湧いてくる。そしてこれが食欲なんだと初めて理解した。栄養を流し込むだけの食事ではない。本当に美味しくて、空腹だけじゃなく、心まで満たされる。これが本当の食事なんだ……

 

「はいよ。お代わり」

 

「え?」

 

豚汁と焼きおにぎりをまた差し出される。食べたいと思っていたのだが、何故……?首を傾げているとカワサキさんは笑いながら

 

「もっと食べたいって顔に書いてあるぜ?」

 

「え!?俺そんな顔をしてました!?」

 

そんなに未練がましい顔をしていたのかと思うと、恥ずかしくて顔が赤くなる。オーバーロードの姿ではなく、人間の姿だから恥ずかしくて仕方ない。救いなのはルプスレギナがカワサキさんの素晴らしさを説いていて、村人の視線が無かったことだ

 

「いらない?それなら俺が食べるけど?」

 

「……食べます」

 

カワサキさんが俺が食べると言っていたが、俺も食べたい。だから素直に食べますと言って、再び豚汁に箸を伸ばすのだった……

 

 

 

食器を片付けながら満面の笑みで豚汁と焼きおにぎりを頬張るモモンガさんに視線を向ける。多分、気付いてないんだろうなあ……

 

(さっきまで私だったぜ)

 

モモンガさんの素は「俺」だがアインズ・ウール・ゴウンは「私」だ。ギルメンも居ない、リアルの自分を知る者が居ない。NPCに落胆されたくない、だから彼は優しいギルド長のモモンガから、冷酷な死の魔法使い「アインズ・ウール・ゴウン」になってしまっていた。店で人を相手にしていた俺だから言える。さっきまでのモモンガさんはモモンガさんでは無かったと

 

(これは運命かもな)

 

ぺロロンチーノやウルベルトでは駄目だ。アインズが望むだろう、悪のロールプレイを楽しんでいたから……だがそれではモモンガさんは死んでしまう、鈴木悟が消えてしまう……悪の魔法使いとなってしまうだろう。だから俺が引き戻してやる。死の魔法使いのアインズなんかにはしてやらない。美味い飯を食わせて、生きていて良かったと、生きていたいと思わせてやる。アインズにはさせない。俺が何度だってモモンガに戻してやる。それが俺がこの世界に来た理由だろう

 

「モモンガさん。美味いだろ?」

 

「はい!めちゃくちゃ美味しいです!」

 

豚汁を啜りながら笑顔で返事を返すモモンガさん。料理人をやっていて嬉しいと思うのは、食べている相手が美味しいと笑ってくれる顔だ。さっきまでの私と言っていた顔より数段いい顔をしてるぜ、モモンガさん

 

「腹が空けば気が滅入る。ひもじければ眠れない。些細な事で腹が立つ」

 

空腹と言うのは、人間にとっての一番の敵だ。本当は優しい穏やかな人でも気が荒くなるから……そしてアインズでは飯も食えない、寝る事もできない。モモンガさんのその心は死んでしまっていただろう……

 

「飯を食わねば人は死ぬ。だから生きたければ飯を食えッ!だ!!!」

 

 

 

生きたければ飯を食え 完

 

 

 




これで「生きたければ飯を食え」は一時完結となります。飯テロチャレンジは続けたいのですが、ちょっとどうしても攻略できない壁がありまして、それを攻略出来れば続きを書けると思います。その壁に付いては読者の皆様に助けてもらいたいと思っているので、近い内に活動報告でその壁に付いて書くので、もし助けていただけるのならよろしくお願いします。それでは混沌の魔法使いが送る、飯テロチャレンジ。最後までお付き合いしてくださり、どうもありがとうございました

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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  • 間違っていない

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