生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー37 中華粥

 

メニュー37 中華粥

 

カイレとカジットに振舞う食事と言うことで最初は好きな料理でも作ってやろうと思っていたのだが、それはペストーニャの検診の結果を聞いて考え直す必要があると思い知った

 

「カイレは内臓関連がボロボロです、更に言えば、相当酷使されていたので暫くは動ける状態ではありません……ワン!」

 

思い出したようにワンを付け加えるペストーニャに小さく苦笑する。そう言えば、2人だけで顔を見合わせたのはこれが初めてかもしれない、ペストーニャ・S・ワンコ。餡ころもっちもちさんが作成したNPCで、ナザリックの中では非常に珍しい、人間にも優しいNPCだ。縫い付けられた犬の頭にメイド服とインパクト溢れる姿をしているが、穏やかな性格だ

 

(もし店を構えたとしたら、ペストーニャは最適かもしれないな)

 

護衛を付けろと絶対言うのでクレマンティーヌともう1人くらいは必要だと思っている。可能ならプレアデスから、もし無理なら高レベルのシモベに人化をかけて連れて行けば良いと思っていたが、性格的な問題もあるのでやはり元々が穏やかな性格のペストーニャとか理想的かもしれないなと思いながら、もう1人治療中となっている男の事も尋ねる

 

「それでカジットのほうは?」

 

「カジットのほうは魔力が極限まで消耗しているのと、身体の中の血液の濃度、量が常人の半分以下。カイレ同様、暫く動かすことが出来ない状態です……ワン」

 

なるほど、話は聞けるが動けないと言う事か。となると軽い物が良いが、ある程度はお腹に溜まるものがいいだろうな、やはり体を回復させるには食事だ。まずは消耗してる体力を回復させてからだな。後は……っと

 

「階層守護者の皆は?」

 

「……」

 

黙り込むペストーニャを見れば状態は良く判る。つまり状況は決して良くないのだろう

 

「もう暫く回復するまで時間が掛かると思いますワン。なのでもう出来たらで良いのですが、余り辛い料理は……作らないで欲しいです……ワン」

 

「判ってる判ってる、もうあそこまでは辛いのは作らないよ。面倒をかけてすまなかった」

 

面倒なんてとんでもありません、またいつでもおよび下さいと頭を下げ、厨房を出て行くペストーニャ。自分の毛が落ちないように考慮しているのか、袋に包まれている尻尾に思わずくすりとしてしまいながら、何を作るかなーと考え始める

 

「スープってのもなんだし、だけど揚げ物とかは無理だしな」

 

本当ならガツンとパンチの聞いた肉料理とかで、回復させてやろうとか思ったりするのだが、内臓関連がボロボロとなるとやっぱり作れる物は限られてくる

 

「治癒促進と生命力向上は必須で……後は……毒の治療とかか?」

 

とりあえず少しでも回復するのが早まるように、食べやすい物に回復系のスキルを全部盛り込むのは確実として……

 

「あーあれを試してみるか」

 

ラーメンの麺を作るのに色々と中華料理の本を調べて見たが、確か中華粥ってのがあったな。日本のおかゆは米と水だけのとてもシンプルな物だが、中華粥は鳥の出汁や、ホタテの貝柱と言った出汁として非常に良い物を使うし、米をトロトロになるまで煮込むという。正直作ったことは無いが、今後のことを考えると覚えておいて損は無いと思う。この世界の情勢を完全に把握しているわけでは無いが、やっぱりその内この世界特有の風土病とかに遭遇する可能性がある。食べやすく、そして栄養価の高い料理と言うのは習得しておいて損は無い

 

「さてと、ちゃっちゃとやるか」

 

レシピは大体見て覚えてきた。少し違うところもあるかもしれないが、それは自分のオリジナルと言う事で良いだろう

 

「鶏1匹を使うのが美味いらしいんだけどな」

 

モモンガさんにも出すなら鶏を丸ごと使うのも良いと思うが、今回はカイレとカジット……あ

 

「守護者にも食べさせるか」

 

俺の激辛料理で瀕死らしいので、回復させると言う面もある。そうなればあれだな、鶏を丸ごと使ってもまるで問題は無い……

 

「ついでにラーメンのスープも増やせるな」

 

坦々麺は正直売れるとは思っていない、なぜかと言うと、この世界にはあまり辛い料理というのが流通していないからだ。エ・ランテルや帝国のレストランや宿屋を覗いて見たが、香辛料は使っているが本当に香り付けという感じで辛さを楽しむ料理と言うのは殆ど無かった。そうなるとカレーも販売するのは少しばかり不安が残るが、カレーは甘口とかにすれば十分売れると俺は踏んでいる。そもそもカレーが売れないなんて考えたくも無いしな。食料庫から丸鳥を2匹持ってきて、血などを流水で洗い流し、日本酒を振りかけて鶏に揉みこむ、これで大分臭みが取れるし、スープの味にも大きく作用する。そして玉葱、セロリ、人参、ローリエなどの臭みを取る食材を鍋に入るサイズに切り分け、水をたっぷりと入れた寸胴鍋に入れる。

 

「まーこんなもんか」

 

気持ち大目の塩を入れて強火で一気に加熱する。1度沸騰させてから丁寧に灰汁取りをして、煮込む。そうしなければ良いスープにはならない

 

「こりゃ夜飯だな」

 

起きる気配がないくらい深く眠っているらしいし、まぁ夜までに間に合えば良いかと呟き、鍋に蓋をしたら寸胴鍋の近くに椅子を持ってきて、時折鍋の中を覗き込みながら店を構える時のメニューを考えるのだった

 

「良し、まぁこんなものか」

 

強火で煮て沸騰したら灰汁を丁寧に取って、そこからは中火にして3時間ほど煮た。黄色を帯びたスープが寸胴鍋の中に並々と溢れている

 

「うっわあ……やっぱこうなったか」

 

出汁を取った後の鶏を掬いだそうとしたが、そりゃ4時間も煮ていればボロボロになる。出来るだけ丁寧に取り出したつもりだったが、脚がボロボロと落ちていく、折角作ったスープの中に肉が入っていると肉がスープを吸い込んでしまうので、御玉や長い箸を使って沈んでいるであろう肉を全部掬い取り、別の鍋に布巾を被せてクックマンの腕力に物を言わせて寸胴を持ち上げる

 

「アチチチ……」

 

布巾でスープを漉す。布巾に鳥の脂が付着し、新しい寸胴に濾されたスープだけが溜まる。4割ほど減ったが、まぁ沸騰させたりしているしこんな物だろう

 

「しかしここまで来ると、あれだな。最高の食材を使ってコンソメスープとか作りたいよな」

 

普通の食材じゃなくて、ユグドラシルの最高レベルの食材を使ってコンソメスープ……一体どれほどの味わいになるのか想像もつかないが、それが逆に良い。

 

「シャルティアの褒美の時に作ってみるかなあ」

 

シャルティアは和食って言う感じじゃないし、あれで結構テーブルマナーとかも詳しいらしいし、簡単なコースを作ってモモンガさんのテーブルマナーのテストとかにしても良いかもしれないな。今もてる技術を注ぎ込んだらどんなスープになるのか、自分で自分を試すわけじゃないがやって見たいと思った。それで行くとシャルティアが良い結果を出したのは良い口実になったかもしれないなと、思わず笑ってしまった

 

「と、こっちも良い具合だな」

 

中火で2時間ほど煮たあと貝柱を水の中につけて戻し、飯も水で洗ってからげておいた。スープさえ出来れば後は中華粥に取り掛かれるので同時進行だ、漉したスープを再び火に掛け、貝柱のエキスがたっぷり出た出汁を鍋の中に入れて弱火で煮る。これでスープは完成なので出汁を取ったあとの鶏と貝柱を解す事にする、はっきり言うと出汁を取ってしまっているのでもうかなりぱさぱさだが、捨てるなんて勿体無いことは出来ない。鶏は骨を外して肉を丁寧に取る、貝柱はスプーンで潰し、水気が飛んだ米に油を振り掛ける。

 

「米に油ってのが正直なぁ?」

 

米に油を振り掛ける、中華料理は勿論把握しているが中華粥みたいなのは初めてで、自分でも手探りの部分がある。それでも米に油と言うのは少し気になるな。日本のおかゆとは違いすぎるし、そんなことを考えながら大きい中華鍋を用意し、鶏と貝柱のスープを半分ほど中華鍋の中に入れて火に掛ける。元々加熱していたのですぐに沸騰する、そのタイミングで油を塗した米を鍋の中に入れる

 

「後はまた沸騰するまでは待ちだな」

 

米を入れたことでスープが冷える。それが再び沸騰したら弱火で長時間煮る。それで完成だ、沸騰するまでの間にネギを刻んだり、盛り付ける皿を選んだり、店のメニューを考えたり、おかゆが焦げないように時々かき混ぜたりしながら、後4日でナザリックでやるべき事が全部終わるかなあっと不安に思うのだった……

 

 

 

 

 

神の居城の一室。今までいた冷たい牢獄ではなく、美しい装飾に彩られた一室に私はいた。休むようにと従属神様に言われていたが、最初は恐れ多いと口にし座ろうとしたのだが、犬の顔をした従属神様に強い口調で言われたのだ

 

「アインズ様もカワサキ様も大変心優しいお方です。もし謁見の時に貴女の体調が回復してなければ、私が叱られてしまいます……わん」

 

私のせいで従属神様が叱られるなど許されることでは無い、だがここで休んで良いのかと悩み、それでも迷惑を掛けるわけにはいかないと私は横になるようにと言われたベッドで体を休めていた

 

(私は……カイレじゃない)

 

ずっと頭に掛かっていた靄が晴れたような、そんな晴れ晴れとした気分ではあるが、それとは別に心に重く伸し掛かる重圧を感じる。傾城傾国という神の遺品を使い何度も繰り返した洗脳とそれを用いた異形種を村に嗾けるという悪行。そしてそれを法国の部隊が制圧し、布施を得る。そんなことを何十年繰り返していたのだろうか、それが正しいことと信じていたが、正気に戻った今。今直ぐにもでも死にたいという罪悪感に駆られる。だが今はまだ死ねない、自分の名も生まれも、父と母の顔も思い出せぬが、それでも知っている事はある。それが終わるまでは死ねない

 

「失礼します」

 

扉が叩かれた音に思考の海から引き上げられ、従属神様がお見えになれると思い姿勢を正したが、姿を見せたのは従属神様ではなかった

 

「お前は確か……ラルとミルファだったか?」

 

少し癖のある金髪とそばかすが印象的な中肉中背の青年と水色の髪をした糸目の女……確か、そう陽光聖典の2人だったか?

 

「はい、お久しぶりです。カイレ……あ、えっとお……」

 

「カイレで構わんよ、名前も思い出せぬしな」

 

こうして神の居城に居ると言うことは、私と同じかそれに近い状況に遭ったと見て良いだろう

 

「カワサキ様より、お食事を届けよというご指示なので、持って参りました」

 

きょどきょどしているラルに肘打ちを入れてからミルファが机の上に料理を置いてくれる

 

「これは?」

 

白くドロリとしたスープ……?鶏肉らしい物が浮かんでいるがこれは一体なんだろうか

 

「ちゅ、中華粥というそうです……消化が良く、栄養価も高いと仰られてました」

 

ミルファの肘打ちを受けたわき腹を押さえ、ラルが脂汗を流しながら説明してくれる。消化が良くて、栄養価が高いと言う言葉の意味は判らないが、私を心配して作ってくれた料理と言う事はよく判った

 

「ラル、ミルファ、1つ聞きたいのだが、神の居城にはスレイン法国の者は何人もいるのだろうか?」

 

もし私と同じ状況になっているものが大勢いるのならと思い問いかけるとミルファは少し考える素振りを見せてから

 

「陽光聖典のニグンさんと元漆黒聖典クレマンティーヌとリリオットとここにはいないですが、ジークで合計6人ほどですがいます」

 

陽光聖典は20人ほどの部隊だった筈、その内の4人か……思ったよりも大勢いる事に驚いたが、漆黒聖典から2人いるとは……元々スルシャーナ様を崇拝する者ももっと大勢いても良いはずだが、とそこまで考えた所で神の王座の前で発狂していた者達の事を思い出した

 

(これで陽光と漆黒が消えた。どうなる事やら)

 

神の教えを説きながら神に反逆する都スレイン法国。正気に戻った今既にスレイン法国には何の興味も無いが、もし私と同じ境遇の者がいるならば救ってやって欲しいと思うのは分不相応と言う物だろうか

 

「では食事をしておやすみしてください、ラル、行くわよ。まだ今日の修行が終わってないんだから、ペストーニャ様の教えをいい加減に少しでも理解出来る様にならないとね」

 

「首!襟を引っ張らないで!首!首ぃぃぃ……」

 

ミルファに襟を引っ張られ去っていくラル、どうも洗脳が解除された事で素の性格が出ているようだ。法国の時はもっと大人しい性格をしていたから間違いない。しかしとりあえず今はもう1人の神であろうカワサキ様に与えられた食事で体力を回復させ、謁見に備えるべきだろう。罪深い我が身が裁かれるのはその後だ。

 

「良い香りだ」

 

白いスープだと思ったのだが匙で持ち上げると、白い小さな粒がスープと共に煮られていた。どうもスープで煮詰めることで食べやすくしてあるのだろう、神から与えられた食事……祈りを捧げてから口にしようと思ったのだが、スレインの祈りはとても捧げる気にならず、頭を下げてから料理を口に運ぶことにした

 

「ふー……ふー」

 

持ち上げると湯気と共に良い香りが部屋中に広がる。良く息を吹きかけて冷ましてから頬張る、温かい、そして美味しい……スレインではとても考えられないほどに複雑な旨味それが口一杯に広がり、心地よい熱が全身に広がっていくのが判る

 

「……美味しい」

 

咎人である私がこれほどの美味を口にして良いのかと言う気持ちがあるのだが、それでもこの味に、空腹を感じていた我が身を抑えることが出来ない。

 

「……なんと優しい味か……」

 

温かい食事と言うのはそれだけで癒される。だがそれとは別にもっと優しい何かを感じる、身体だけでは無い、心までも癒すような……そんなとても優しく暖かい味

 

「ここまで手間を掛けてくださったのか……」

 

丁寧に骨から外され、食べやすいようにと裂かれ、一口サイズに切られた鶏肉。色々な部位が入っているのを見れば丸ごと1匹使われたのは明らかで、罪人には勿体無いとそう思う

 

「ん、これは……」

 

白い粒の中に入っていた細い何か、鶏肉とも野菜とも違う。その独特な食感と小さいのに恐ろしいほどに味が強い何か……それだけを匙で探して頬張る

 

「……知ってる、私はこの味を知ってる」

 

良く味わうと鳥の旨味だけではなく、その食材の味も良く判ってくる。だからこそ判る、これは私の知ってる食材だと、カイレになる前に……ずっと、ずっと前母が作ってくれたスープの具材だと思う

 

「この食材が何か判れば……私が何処でうまれたのか判る……いや、それこそおこがましいか」

 

一瞬自分の生まれが判る。もう死んでいるであろう両親の墓参りも出来るかもしれない、そう思ったが何十年に渡り破壊を齎してきた私がそんなことを希望しても許される訳が無い。もう1度謁見した時に私には裁きが下るだろう……これが最後の晩餐であると言う事は判っている。裁きが待っているのは判る、自分の望みが叶わない事も判っている。それでも、それでもほんの少しだけ、自分の生まれと両親の墓参り、そして自分の本当の名前が知りたい。そう思う事は……きっと許されないことであり、生きたいと思う事。未練を理解すること、今のこの気持ちでさえ私への裁きなのだと思うのだった……

 

 

 

 

一晩眠ったおかげか体調はかなり回復している。だがやはり立って歩く事は出来ず、身体が自由になればこの部屋の清掃をしようと心に深く誓った。羽のように軽く、それなのに厚く温かい布団に身体を包み込むようなベッド。話を聞きたいからの待遇だと思うが、それに甘えてしまうようでは駄目だと思う

 

「やっほー、カジッちゃん」

 

「……お前か」

 

もしかしたら無礼を働いてしまった神かと思った。もうそれこそ顔を地面にこすり付けて謝っても足りない

 

「お前って何?酷くない?ご飯持ってきてあげたのになあ……しかもカワサキの手作り」

 

「神が料理をなさるのか!?」

 

クレマンティーヌの言葉に思わず声を荒げてしまった。ワシの想像の中では神とは偉大で、そして何もかも代わりにやる従属神様に囲まれているのだと思っていたのだが

 

「あーカワサキは料理の神様らしいから、料理するのが仕事だし、趣味らしいよ?」

 

「……お前呼び捨てで大丈夫なのか?」

 

「大丈夫じゃないけど大丈夫」

 

その表情と声の感じで何か事情があるのだと判断し、詳しく聞く事は無かった。聞いたらドロ沼の様な気がしたからだ

 

「はい、中華粥だって。神の国にある沢山の国のひとつの料理だってさ」

 

白くとろりとしたスープのような物が机の上に置かれた。

 

「これはスープなのか?」

 

「スープなのかな?それは良くわかんないや。でも美味しかったよ?」

 

身体に優しくて食べやすい料理だからと言われた。早く回復して謁見に備えろって事だと思い、手にしたスプーンを皿の中に入れようとすると、腕を捕まれた

 

「いただきますを忘れたら駄目だよ。食事の前の挨拶だって、んで食べ終わりはご馳走様でした」

 

「む?そうなのか、では、いただきます」

 

その言葉の意味は判らないが、言われたとおりいただきますと口にしてから、改めて皿の中にスプーンを入れる

 

(これは麦?いや、色が全然違う)

 

最初は麦かと思ったが、色と香りが全然違う。神の国の麦なのだろうか?スープの中の白い粒が少しばかり気になったが、良い香りに自分が空腹だったと言う事に気付き、中華粥とやらを頬張った

 

「あ、あちちち……ッ!!」

 

思った以上に熱く、舌と喉が痛い。それを見て笑っているクレマンティーヌに態と言わなかったな?と思わず睨みつける

 

「私は持ってくるだけだから。後はしーらないっと、じゃーねー」

 

手を振りくすくす笑いながら出て行くクレマンティーヌ。少しはしおらしくなったと思ったらこれだ、だがそれでこそクレマンティーヌらしいと言えるのかも知れない

 

「ふー……ふー」

 

今度は良く冷ましてから中華粥とやらを口にする。見た目は白く、不透明なスープ。だが具材は解された鶏肉と何かとシンプルな事極まりないのだが、味はそのシンプルな外見からは想像も出来ないほどに深く、そして味わった事の無い美味だった

 

「美味い、これが神の国の食べ物なのか……」

 

味わい深く、そして鶏の味が恐ろしいほどに出ている。しかもそれだけではない、味わった事の無い強烈な旨味まで溶け込んでいる。これほどの美食、今まで味わった事が無い。いや、帝国や王国貴族だったとしてもこれだけの味を食べれる訳が無い。

 

「……これは一体何なのだろうか」

 

白いバラバラにされた適度な歯応えのある何か、多分これがスープに深い旨味を与えているというのは容易に想像できるのだが、この食材が何なのかがまるで判らない

 

(元は大きいのだろうか、それとも小さいのだろうか)

 

神の国にしかない生き物なのだろうか?味が恐ろしいほどに良いので、この食材の正体が気になって仕方ない

 

「何とも懐かしい味だ……」

 

あの細い食材は生憎なじみの無い食材だが、鳥でスープを作り煮た料理と言うのは馴染みがありとても懐かしく思える味だった。量はさほどなく、食べている時は少ないと思ったのだが、食べ終わると丁度良い量だったと思った

 

「ご馳走様でした。しかし美味かった……まるで母の……は……はの?」

 

思わず母の味に似ていると呟いた時。ふと気付いた、いや、気付けるようになったと言うべきなのか……

 

「思い……だせない?」

 

ワシが子供の時に死んだ母を蘇らせる為にワシはズーラーノーンに入り、アンデッドになる事を目指した……筈だ

 

「待て待て待て……何故思い出せない」

 

遊びに行って帰ってきて、倒れている母がいて……父が来て、法国の巡視が来て……だけど記憶の中の母はうつ伏せで倒れていて、父が背中を向けていて、両親の顔がどうしても思い出せない

 

「何故だ……何故思い出せない」

 

誰よりも愛していた、誰よりも求めていたはずなのに、その顔を思い出せない……その事に強い絶望を感じるのと同時に、どうしても思い出さなくては、それだけを考え、必死に記憶を辿っていたのだが、どうしても母の顔も父の顔も思い出す事が出来ないまま夜が明けてしまうのだった……

 

 

 

カイレが自分の罪を認識し、カジットが両親の顔を思い出せない絶望感に打ちひしがれている頃。カワサキとモモンガはと言うと……

 

「カジットとカイレの話を明日聞こうと思うんですがどうですかね?」

 

「時間的にはそれしかないよなぁ」

 

王国に戻るまで後4日。色々考え、もう少し休ませる事も考えたのだが、シャルティアに褒美、カワサキさんの店のこと、ナザリックでレベリングをしているブレイン達の事に、王国を襲撃させる予定のカワサキさん役のモンスターの選別に、蒼の薔薇との事に、冒険者モモンとしての事に、カルネ村の様子も見に行きたいし

 

「身体がもう1つあればと思ってしまいますね」

 

「だなあ。何でこんなことになったんだろうな」

 

8割方カワサキさんのせいだが、それは言わないほうが良いだろう。本人も気にしているようだし

 

「とりあえずカジットとカイレの話を聞いて、今後の方針を決めると言う事で、最悪ナザリック関連は後回しにしましょうか」

 

「仕方ないよな」

 

出来れば全てやり終えて、万全の状態で王国へ向かいたいが、流石にそこまでの時間があるかも怪しいし

 

「どうもスレイン法国の裏で暗躍している相手もそろそろ動き出したみたいですしね」

 

「そりゃあれだけやってりゃ動くだろ」

 

俺とモモンガさんがあれだけ動き回れば、向こうも計画通りに成らなくなって焦りを覚えるようになるだろうとカワサキさんが言う

 

「とりあえず安全第一で、最悪王国を襲わせるモンスターを早めに出して、王国から一時的に手を引くのも視野にいれるべきかと」

 

まさか王国に足止めになるなんて思って無かったので、色々と計画を前倒しにしたり、別の計画を考える必要性が出て来た。それは紛れもなくイレギュラーなのだが、それが割りといい方向に転がっているのでリリオットの予言に合わせて計画を組みなおせば良い

 

「アインズ様、カワサキ様。ペストーニャ様が謁見を希望していますが如何致しましょうか?」

 

「構わない、入室するように伝えてくれ」

 

ペストーニャが来たと言う事はきっとアルベド達の回復の目処が立ったのだろう。流石に守護者が全員瀕死では、とてもナザリックを後にする事など出来ない。それにギルメンの大事な忘れ形見だ、やはり元気でいてくれる方が嬉しい。

 

「良かった。俺の作った中華粥が効果が出たんだな」

 

「ああ、回復を全盛りするとか言ってましたね」

 

クックマンの回復スキル全盛りはそれこそ最上位の回復魔法に匹敵する。カワサキさんが悪いにしろ、きっちりと治療してくれたので文句は言えない

 

「アインズ様、カワサキ様、守護者の皆様が意識を取り戻したのですが……少々、いえ、かなり問題があります……わん」

 

「「うえ?」」

 

ペストーニャの言葉に俺とカワサキさんの間抜けな声が重なり、そしてアルベド達を見て、更に間抜けな声を出すことになるのだった……

 

賄い 守護者の悲劇的ビフォーアフター/カジットとカイレ/クレマンティーヌ、気付かされる

 

 




次回は賄いですが、カイレとカジット以外はギャグテイストで書いていけたらなあと思います。その次でまた料理をやる予定です
ナザリックにいる間はあと2品ほど料理の話を書く予定で、最後の賄いでスレイン法国の話を書いて、王国編の予定です
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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