生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー41 レバニラ炒め定食

メニュー41 レバニラ炒め定食

 

カワサキ殿とゴウン殿、そしてナーベ殿がエ・ランテルへと戻って来た。カワサキ殿は予定通り冒険者組合のある通りに店を構え、ゴウン殿とナーベ殿は私と一緒にエ・ランテル周辺の捜索に出ていた

 

「ゴウン殿。今の所モンスターの痕跡は?」

 

「……この周辺には無いが、もう少し先だと判らないな」

 

何でも吸い込むと言うそのモンスターの特殊能力。もし痕跡があるとすれば、森林の中がごっそりと無くなっている筈と言われる。手にしている地図に×印を打つ、これで4箇所目……か

 

「アインズ様。そろそろ引き返すべきかと」

 

「む、そうか。戦士長殿、そろそろ引き返そうと思うのですがどうでしょうか?」

 

ナーベ殿の進言でゴウン殿が引き返しましょうと声を掛けてくる。日が落ちてきていて、何時奇襲があるかも判らない状況になりつつある

 

「そうですな。1度戻りましょう」

 

モンスターの痕跡が無いのは良いことだ。だがいつまでも警戒を続けるのは辛い、ここら辺で何か手掛かりがあると良いのだが……いや、それは高望みか。ゴウン殿達の国を滅ぼしたモンスターだ、ゴウン殿が追い続けると言う事は並大抵のモンスターでは無いはずだ

 

「では転移門(ゲート)」

 

ゴウン殿が杖を振るうと、そこに黒い渦が現れ、ゴウン殿の姿が鎧姿のモモンと言う冒険者の姿に変わる

 

「しかし、最初は馬で移動しないと聞いて驚きましたよ」

 

「馬の方がリスクがあると判断しただけですよ」

 

エ・ランテルの近くに転移して来た所でゴウン殿にそう笑いかける。最初は早馬を3頭用意していたのだが、ゴウン殿はエ・ランテルを離れると、結界の中に馬と水、そして飼葉を用意し、全体飛行で空を飛んで移動することを選んだのだ

 

「モモンとして出発しましたが、鎧姿では魔法に制限が掛かりますから」

 

冒険者として、剣士として活動するのも考えているが、捜索の時は魔法を使えた方が都合がいいと言われて納得した。そしてアインズ・ウール・ゴウンとしての魔法詠唱者としての姿を隠したい理由も判っている

 

「ナーベ殿は、そのモンスターを見た事はあるのですか?」

 

「……私は見ておりません、幼い時の話ですので」

 

親代わりと聞いているが、ゴウン殿の国が滅ぼされたのは大分前なのだろうか……?国が滅んだ時は弱く、そして力を付けたと考えるべきなのだろうか?推測するしかないが、余り人の事情を詮索するのは良く無いだろう。協力態勢を取っているのだ、下手な勘ぐりでその協力関係を無碍にする方が恐ろしい

 

「戦士長殿。カワサキさんの店で食事にしませんか?」

 

「良いんですか?」

 

カワサキ殿の料理が美味いのは知っている。しかしこれから食べに行くと言う事は、ゴウン殿とカワサキ殿。そしてナーベ殿の身内だけの食事では?と思うと、流石に一緒に行って良いのかと思う

 

「かまいませんよ。カワサキさんも喜ぶと思いますよ」

 

ナーベ殿は少し嫌そうな顔をしているが、ここまで言われて断るのもゴウン殿に悪いと思い

 

「ではご一緒させていただきます」

 

「ええ、そうしましょう」

 

兜越しなので良く判らないが、笑っていると思うゴウン殿と共に、カワサキ殿の店に足を向ける

 

「いらっしゃい、アインズさんとガゼフさんか」

 

店の中に客の姿は見えず、ユリ殿と似たデザインのメイド服の少女がいた。

 

「シズ。頑張っているみたいですね」

 

「……うん。でもあんまりお客さん来ない」

 

ナーベ殿が優しい笑みを浮かべているので、姉妹なのだろうか?ナーベ殿はどうも身内に相当甘い傾向にあるようだ

 

「……メニューをどうぞ」

 

シズと呼ばれた少女が冊子を差し出してくる。それを開くと料理の精密な絵と説明が書かれていた

 

(しかし色々な料理があるな)

 

カワサキ殿の料理のレパートリーがあるのは知っていたが、料理の数があるのを見ると流石に驚かされる。メニューを見ていて、1つ。どうしても気になる料理があった

 

「カワサキ殿、このレバニラ炒め定食と言うのを1つ」

 

豚の内臓を野菜と炒めた料理と言う解説がある。前の呑み会の時に内臓料理と言うのを食べたが、かなり気に入ってしまった。だが適切な処置をしていないと食べられないと言う事で我慢していたが、カワサキ殿の店なら問題なく食べられるだろう。飯にスープに野菜とついて値段も銅貨7枚と非常に安い

 

「レバニラ炒めって内臓料理だけど大丈夫か?」

 

「ええ、是非。前の焼き鳥の時に食べてからずいぶんと気に入ってしまいましてね」

 

あの癖のある味がどうしても忘れられないと言うと、カワサキ殿は了解と笑う

 

「アインズさんは?」

 

「俺も同じ物で良いですよ。興味がありますから」

 

「……では私も同じで」

 

ゴウン殿とナーベ殿も、私が頼んだレバニラ炒めを頼む。カワサキ殿は少し待っててくれと言って厨房に入っていく

 

「……お絞りと、お水をどうぞ」

 

「ああ。ありがとう。シズ」

 

「ありがとう」

 

差し出された温かいタオルと冷たい水。ゴウン殿とナーベ殿が柔らかい笑みでシズという少女に礼を言う

 

「……どうぞ」

 

「ありがとう」

 

私もその少女にありがとうと声を掛け、差し出された温かいタオルで手を拭い、乾いた喉に染み渡る冷たい水を口にするのだった……

 

 

 

 

レバニラ炒め。この世界では頼まれることが無いだろうと思っていた料理の1つだ。そもそもこの世界には内臓を食べると言う文化が無い。あのクレマンティーヌでさえも流石に内臓は……と言って渋い顔をしていたが、食べては見ると言っていたので、賄いで出してしまえば大丈夫だろう

 

(まぁ当然と言えば当然か)

 

内臓は足が速い。更に適切な処置をしなければ食べれた物じゃない。これはリザードマンの所のヌルと似た様な物だろう。

 

「いや、それは少し違うか」

 

保存の魔法があるのだ。だから鮮度は落ちずに持ってくることも可能だ。つまりこの世界で内臓料理が無いのは、血抜きの技術と、調理をする術が無いからだろうか

 

「レバ刺しは……流石に止めておくかな」

 

鮮度は落ちていないが、レバ刺しはメニューとして出すのは止めておこう。もし真似されて、何か問題があったら俺の責任問題になりかねない。今後内臓系の料理は煮込みなどの火を通すものをメニューとして追加しても面白いなと思いながらレバニラの材料を用意する

 

「もやし、ニラ、長ネギ、しょうが」

 

ニラは根元に近い硬い部分を3cm幅で切り、柔らかい先端はやや長めの5cm幅で切り分ける。もやしはひげ根を取り、長ネギは1cm幅の斜め切り、しょうがは薄くスライスする

 

「豚レバーっと」

 

レバーを牛乳につけて臭みを取るとか良く言うが、レバーの料理と言うのはレバーの臭みも楽しむものだ。だからレバーを牛乳につけるような真似はしない。やや厚切りの削ぎ切りにして、氷水で10分ほど〆て血抜きをしてから塩、胡椒を揉み込み片栗粉を塗す。そして日本酒、醤油、砂糖、オイスターソース、片栗粉を予めボウルの中に入れて混ぜ合わせておく。無論バラバラに入れるのもありなのだが、味を全体に染みこませる為にも先に混ぜ合わせおいて、合わせ調味料を作っておくと万遍無く味が行き渡りやすくなる

 

「さーて、ちゃっちゃと仕上げるか」

 

レバニラは実は俺の得意料理だ。こうして注文が入った事が嬉しいと思う、鉄鍋にサラダ油を大さじ1入れて、馴染ませたら弱火で鉄鍋を温める。ある程度温まったらレバーを広げて並べる。強火だと火の通りが良すぎて焼きすぎになるので中火、そしてレバーには余り触らないで軽く焼き色がついたら引っくり返し、両面に軽く焼き色がついたらフライパンから取り出す。レバーがぱさぱさしてしまう理由は火の通しすぎ、野菜を炒め終わり、味付けをする段階でまた火を通すので、最初は軽く焼き色がつく程度で大丈夫なのだ

 

「長ネギとニラ」

 

レバーを炒めた鉄鍋にそのまま刻んだネギとニラ、しょうがの香味野菜を加え、レバーの香りの付いた油と絡めながら中火で炒める。香りが出てきたらもやしを加え、日本酒を回し入れて蓋をして1分ほど蒸したら、最後の仕上げだ

 

「レバーと合わせ調味料を入れて強火で一気に炒める」

 

あんまり炒め過ぎるとレバーがぱさぱさになるので手早く炒め、しっとりとした焼き上がりに仕上げる。爪楊枝で刺して中から赤い汁が出なければ焼き上がりも完璧だ

 

「これで決まりっと!」

 

合わせ調味料の底に沈んでいる片栗粉がダマにならない様に調味料と混ぜ合わせたら、皿に3つに取り分ける

 

「後はっと」

 

レバニラ炒めとご飯だけでは余りにあれだ。ナザリックで作って運び込んだ鶏がらスープに醤油を加え、刻んだネギを入れて即席中華スープ。きゅうりの塩もみを小鉢に入れてっと

 

「レバニラ定食の出来上がりっと」

 

本当は餃子やラーメンなどをセットにしても良いが、今はこれくらいで丁度良いだろう

 

「はい、レバニラ定食お待ちどうさま」

 

モモンガさん、ナーベラル、ガゼフさんにレバニラ定食を出し、レバニラ炒めを炒めた鍋を見つめる

 

「野菜炒めの水気が出たら駄目だと怒られたなあ」

 

野菜炒めを作る時にスープが出てしまうのは野菜炒めを作る上では失敗だ。若い時に賄いで作った時、料理長にめちゃくちゃに怒られた。強い火力で一気に炒めるのだが、炒めると言うよりかは水気を飛ばすイメージで手早く火を通す。蓋をして鉄鍋の熱と野菜の水気で蒸すことで水気を飛ばす。旨味がスープとして外に出ないようにする

 

「良い腕になったかな……」

 

若い時に何度も何度も作った。この世界に来て初めて……ほんの少しだけ……センチな気分になってしまった

 

「は、こんなことを考えてたら余計怒られるな」

 

料理人は料理だけ考えてろって絶対に言われるな。自分らしくない、そう思った理由は判っている。この世界に来てから日数を数えていた、それは殆ど習慣と言ってもいい。四季が殆ど死に絶えたリアル、でも季節によって入手しやすい食べ物と言うのは変わってくる。だから日数を数え、安く、そして手に入りやすい食材を考えるのは俺の日課だった。それは食材が豊富に手に入るこの世界でも変わらない。もう完全に習慣となっているからだ。そして数えた日数と俺がこの世界に来た日付を合わせると、今日は俺が1番最初に店を構えた日。

 

「なんとも言えんなあ」

 

1日ずれているが、それでも俺が初めて店を構えたのと同じ季節、そして殆ど同じ日。それがどうしても俺をセンチな気分にさせてしまうのだった……

 

 

 

 

レバニラ炒め定食と言って差し出された料理の数々。山盛りの白米にネギが浮かんだ中華スープ、そして野菜たっぷりの炒め物ときゅうりの塩もみ

 

(本当にカワサキさんは凄い)

 

多分10分も掛からないで仕上げている。カワサキさんの料理の腕には驚かされてばっかりだ

 

「では」

 

「「「いただきます」」」

 

戦士長殿もいただきますと口にする。もうカワサキさんと何度も食事をしていると、このいただきますが習性になってしまった

 

(レバー……内臓か)

 

呑み会のときに食べたのは甘辛いタレで焼いてあったが、これはどうなのだろうか……流れで同じ物を頼んだが

 

(どうしよう少し怖い)

 

内臓ってあんまり食べたこと無いから怖いんだよな……カワサキさんが作ってくれたから不味いことは無いと思うけど、なんか怖いのでまず野菜に箸を伸ばす

 

(うん、美味い)

 

しゃきしゃきとしているもやしの食感と、緑色の……ネギじゃない、多分ニラって奴。これも柔らかい部分と固い部分が入っていて、食感に変化をもたらしている。後はあんまり食べた事の無い味付けだ。醤油の味なのだが、それよりもやや味が濃くて、コクがあると言うのだろうか?味に深みがある

 

「美味い。この独特の臭みが本当に美味い」

 

戦士長殿はレバーを食べたいと言っていたのでご飯の上に乗せて、野菜と共にモリモリ食べている

 

「うん、美味しいです」

 

ナーベラルもレバーの味に満足しているようで嬉しそうに笑いながらレバーを口にしている。俺は中華スープを口にしてからレバーに箸を伸ばした

 

(見た感じは普通の肉)

 

裏表しっかり焦げ目がついていて非常に美味しそうな肉だ。俺は小さく息を吐いてからレバーを口に運んだ

 

「美味しい」

 

「本当ですな。この独特な味が堪りません」

 

俺が美味しいと言うと戦士長殿も美味いと唸る。独特の臭みがあるのだが、それが返って美味いと思わせてくれる。それにレバーがしっとりとしていて、この独特な食感が堪らない。野菜と一緒に口に運ぶと野菜のしゃきしゃきした食感と香りが余計に食欲を誘う

 

(食わず嫌いだったかなあ)

 

まさかこんなにもレバーが美味しいなんて思ってなかった。しかし、肉と言うのは焼くと硬くなる物だと思っていたんだけど

 

「気に入ってくれたか?」

 

カワサキさんが厨房から顔を出して、お代わりは?と尋ねながらそう言う。戦士長殿はお代わりをと言ってから丼を手渡す

 

「アインズさんは?」

 

「俺は良いですよ」

 

正直俺は今回は魔法メインだったのでそれほど身体を動かしていない。だからご飯のお代わりはいらないが

 

「この中華スープのほうはお代わりをぜひ」

 

寒かったので温かいスープが美味しくて堪らない。だからスープのお代わりをお願いしますとカワサキさんに頼む

 

「あのその私は……ご飯とスープの方を……」

 

ナーベラルは少し恥ずかしそうにして、ご飯とスープのお代わりを頼む

 

「肉と言うのは焼くと硬くなるものですが、これは柔らかいと言いますか、その……」

 

「しっとりしているかな?」

 

ああ、そうです。しっとりとしているんですと戦士長殿が言う。確かにこの独特な食感はなんとも表現しがたいものがある

 

「レバーは火を通しすぎるとぱさぱさになってな、あんまり美味くなくなる。このしっとりとした感じに仕上げるのが、料理人の腕の見せ所なんだ。もっと詳しく言うとだな、85度以上で炒めると駄目だ。火が通り過ぎてぱさぱさとした食感になる」

 

なるほどなぁ。普通に焼いていてはレバーは美味しくなくなるのか……と言うか案外細かい温度なんだなと思う

 

「後は、牛乳とかで臭み消しをするってのも若い料理人のありがちなことなんだが、それは実は間違いだったりする」

 

これを食べてみてくれと言われて差し出された小鉢には、レバーが3つ乗っていた

 

「牛乳で漬け込んで臭みを消した奴だ。食べてみれば違いが判ると思うぜ」

 

そんなに変わらないだろうと思いながら、その牛乳で漬け込んだレバーとやらを頬張ってみる

 

「む」

 

「これは」

 

「全然違う」

 

戦士長殿もナーベラルも違うと呟く、レバニラ炒めのこってりとした旨味が牛乳の奴には感じられない。なんと言うか臭みが無いと言うか、ちょっと味気ないとさえ感じる

 

「臭みが消えすぎて、逆に俺は美味いって思えないんだよな。無論、俺の調理が絶対に正しいって訳じゃないが……俺的にはどうしても嫌なんだよ」

 

臭みの少ないレバーとしては若い時に使うとか、色々あるんだが、それだと食べやすいが、逆に旨味が足りなくなる

 

「なるほど、内臓料理が難しいのはその調理法にあるのですね?」

 

「調理と下拵えかな。ただ、炒める、煮るだけでも色々とやらないといけないしな」

 

にっと笑うカワサキさんを見ながらレバニラ炒めを頬張る。レバーの臭みと旨味が食欲を誘う、見た目は簡単な炒め物。だけどそれはかなり計算された料理なのだと思い知ったのだった……

 

 

 

夕食を終え、また明日と言って代金である銅貨7枚を机の上に置いて食堂を後にするガゼフさんを見送り

 

「シズはどうする?」

 

「……レバニラ炒めを食べてみます」

 

了解と返事を返し、今日の賄いはレバニラ炒めにする事に決める

 

「カワサキさん。お客さんはどうですか?」

 

「ん?昨日ぺテル達が来たくらいだな」

 

今日は0人だなと返事を返す。まあ昨日開店って事でまだ観察されている段階だろう

 

「ゴミ虫め……カワサキ様の料理にどれだけの価値があるか判っていない」

 

「……お店として大丈夫ですか?」

 

どす黒い瘴気を出すナーベラルと心配そうなモモンガさん。そしてもくもくと営業終了の片づけをするシズ、凄く混沌としている光景に苦笑しながら

 

「全然大丈夫だし、心配もして無いよ」

 

開店したばかりだからむしろこんな物だ。と言うか、モモンガさんが来たならそれはそれで都合が良いと言うものだ

 

「もし冒険者組合のえーっと、誰だったか?クルトン?」

 

「プルトン・アインザックです」

 

ああ。それだ、1回は名前を聞いたんだが、どうも覚え切れて無いなと苦笑する。いや、もしかするとこれも俺が異形種と化した弊害かもしれないな

 

「もし食事に誘われたら逆にこっちに連れて来てみてくれると嬉しいな」

 

ガゼフさんも、エ・ランテルにいる間は部下を連れて尋ねてきますと言ってくれている。まずは客が入っている所を見れば、そこから見ているだけの人も入ってくるようになるだろう

 

「……掃除終わりました」

 

「お疲れ様。すぐに賄いの準備をするな」

 

掃除をしてくれたシズの頭をぐりぐりと撫で回すと表情が出る。完全に表情が無いわけじゃないんだけど……ちょっと硬いかな

 

「判りました。こっちもそれとなく紹介してみます」

 

「よろしくなー、ま、こっちはあんまり気にして無いけど」

 

味が良いって広がれば、客は自然とやってくる。だから暫くは気長にやるさと言って、黄金の輝き亭に引き返そうとするモモンガさん達に

 

「ああ、明日出発の前に尋ねて来てくれよ。弁当を作って待ってる」

 

どうせ客が来るようになるまではまだ時間が掛かるだろうから、暇だから弁当を作るよと声を掛ける

 

「判りました。楽しみにしていますね」

 

「ではカワサキ様。失礼します」

 

笑顔で手を振るモモンガさんと深く頭を下げるナーベラルを見送り。

 

「じゃあ、今から賄いを作るからな」

 

「……はい」

 

ちょこんと座り嬉しそうにしているシズと布巾などを干し終えたクレマンティーヌが2階から降りてきて

 

「内臓って美味しい?」

 

「美味いよ。絶対美味しいって言わせて見せるよ」

 

内臓料理と聞くとあれだけど、女性には案外嬉しい栄養素が多いんだよな。俺はそんなことを考えながら、冷蔵庫からレバーと野菜を取り出すのだった……

 

一方、黄金の輝き亭に戻ったモモンガとナーベラルはと言うと

 

「計画を前倒しにしよう。1度モンスター役のパンドラズ・アクターを出す」

 

「ではあのゴミ虫達を生贄にするのはどうでしょうか?」

 

「ああ、クラルグラか……丁度良いな、そうするか。アインザックが勝手に出るなと言っているのに、明朝森に出るらしいしな」

 

殺すつもりは無いが、モンスターと遭遇して貰い、私と戦士長殿に助けられると言う事にするか

 

と言う物凄く物騒な話をしていたりする。だがガゼフにも1度モンスターと遭遇させるという計画の一部前倒しであり、クラルグラも生贄に近い形にはなるが殺すつもりは無い。だがこの一幕が、クラルグラにも、モモンガにも、ガゼフにも、そしてカワサキにとっても転機となる事になるとは誰も予想だにしないのだった……

 

 

~おまけ~ シズちゃんの美味しい捜索記その2 レバニラ炒め

 

賄いと言うのは基本的にクレマンティーヌと共に食べることが多い。カワサキ様はお客さんが来るかもしれないと言う事で厨房で、立ったままで済ませてしまうことが多い。料理人がゆっくり座って食事をする事は殆ど無いなと笑って居られていた姿がやけに印象的だった

(シホとかピッキーも同じなのかな?)

 

カワサキ様のシモベのシホとピッキーも料理人だ。だからゆっくり座ってご飯を食べる事はあんまり無いのだろうか?と思いながら、賄いとして用意された皿に視線を向ける。カワサキ様の料理となると、彩りも完璧と思っていた。だけどレバニラ炒めと言うのは、些か地味な色合いだった

 

「内臓料理かー、どんな感じなんだろ。いただきまーす」

 

クレマンティーヌが手を合わせて、いただきますと言って箸に手を伸ばす。私も手を合わせて、頂きますと言ってフォークを手にする。

 

(もやしとニラにネギ)

 

見た感じの食材の量はそう多くない、その代わり内臓が多めだ。フォークで内臓を刺して頬張る。少し柔らかい、独特な食感と、少し癖のある味がする

 

「うわー、美味しい!内臓ってこんな味がするんだ」

 

美味しいとクレマンティーヌは嬉しそうだ。だけどやっぱり美味しいって言うのは良く判らなくて……でもフォークを伸ばす手は止らない

 

「レバニラは美味しいですか?」

 

「……どうだろう?」

 

カワサキ様が作ってくれたのだから美味しいに決まっているはずなのに、美味しいがわからないので何とも言えない

 

「でも手が止ってないから美味しいんじゃないですか?」

 

「……そう……かな?」

 

クレマンティーヌの言葉に首を傾げながら返事を返し、シャキシャキと食感のいいもやし、香りの良いニラとネギの味。そして若干のトロミのあるソース。見た目は地味でも栄養バランスは完璧で……

 

「……これが美味しいなのかな?」

 

「人それぞれですからねー私は美味しいと思いますけど……」

 

味覚は皆違うというクレマンティーヌ。美味しいって本当に難しい……私はそんなことを考えながら、レバニラ炒めを口に運ぶのだった……

 

メニュー42 あんかけ焼きそばへ続く

 

 




食堂編は料理7、ストーリーの複線っぽいの3の割合で書いて行こうと思います、次回はクラルグラ(イグヴァルジ)が出てくる感じになりますが、少なくてもエルヤーよりかは良いかもしれないので、もしかすると生存ルート入るかもしれません。では次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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