生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー45 パエリア

 

メニュー45 パエリア

 

カワサキという男の店は冒険者組合の近くと聞いていたので、エ・ランテルの内周部の貴賓館に馬車を停める

 

「レエブン候。急にお訪ねになられてどうかなさいましたか?」

 

私が来ていると聞いて飛んできたのだろう。お世辞にも見目がいいとは言えないパナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイアだ。普段と違い目付きが鋭く、口調も間延びしていない。これがこの男の本質であり、本来の姿だ

 

「何、陛下が1度カワサキ殿の店に行けと言うので寄っただけだ」

 

私の言葉に驚いた表情をするパナソレイ。その反応は良く判る。私も逆の立場ならそうしたし、領に帰る前に寄ると言ったら付き添っていた元オリハルコン級のボリス・アクセルソンとロックマイアーも同じような顔をしていた

 

「カワサキ君の店ですか、最近繁盛してきていると聞いております。値段が非常に安く、冒険者向けの店と聞いておりますが?」

 

遠まわしに貴族の行くような店では無いですよ?と言うパナソレイ。だが私もそれくらいは把握してから訪れている

 

「ああ、それも承知しているよ」

 

だが彼は陛下の体質を見抜き、そしてその上で体調改善に一役買った人物だ。料理の腕は信用出来る。パナソレイに食事が終わるまで馬車を止めさせてもらうと言って、ボリス、ロックマイアーと共にカワサキ殿の店に足を向ける

 

「ずいぶんと国王陛下が気に入っているようですが、そんなにも腕の良い料理人なのですか?」

 

「南方の料理を振舞ってくれるのもあるが、何よりも知識と技術が凄い。私も1度口にしたが、あれは絶品だった」

 

薄く切られた肉と野菜を炒め、ソースを絡めたもの。シンプルであるが、それ故に非常に美味だった。

 

「南方の料理ですか……食べたことは無いですね。物珍しいと言うだけではないのですか?」

 

「それはこれから判る」

 

だからこうして訪ねて来たのだとロックマイアーに言い、店の前に行くと金髪の女性が店の前を掃き掃除していた

 

(レエブン候。あの女……只者じゃないです)

 

ボリスが険しい顔で告げる。見た目も良く、給仕と言う感じだが……

 

(1対1なら多分負けます。ガゼフ殿と同じくらいの力量かそれ以上かと)

 

戦士長よりも強いとの言葉に、やや緊張しながら女性に近づく

 

「いらっしゃいませーって言いたいんですけど、今休憩中なんですよね」

 

休憩中……貴族相手に面と向かって言ってくれる。だがそれくらいで気分を害しはしない

 

「陛下より、この店で1度食事をすると良いと言われてきた。レエブンと言う、1度店主に話を聞いてみてくれるかね?」

 

駄目ならば、営業時間にまた来ると言って、聞いてみてくれないか?と尋ねると、女性は箒を手にして

 

「……駄目でも怒らないでくださいよ?仕込みに時間の掛かる料理もあるんですから」

 

店の中に消えていく女性。やはり1度連絡を入れてからの方が良かったかも知れぬ。だが貴族相手でも媚び諂わないという態度が陛下が気に入った可能性もあるか

 

「大丈夫だそうです。えーっと貸切とかは無理ですけど」

 

食堂だから貸切は無理と言われるが、それは覚悟していたので問題ないと返事を返し、店の中に足を踏み入れる。余り馴染みの無い店の作りだ、南方特有の物だろうか

 

「こちらの席へどうぞ、メニューはこちらになります」

 

案内された席に腰掛け、メニューとやらを開く

 

「ほう」

 

「これはまた珍しい」

 

「見たこと無いな」

 

料理の絵と説明書きをパラパラと見ていると、気になる料理があった

 

「このパエリアと言う物を1つ、これは3人前に出来るかね?」

 

海鮮をたっぷり使った米料理とあった。正直1人で食べきれる量では無いと思うが、ボリスとロックマイアーもいるので良いだろう

 

「ちょっと時間の掛かるメニューなんですけど、大丈夫ですか?」

 

「構わない。パエリアを1つだ」

 

畏まりましたと頭を下げ厨房に向かう女性を見送り、私はメニューを閉じて

 

「1人で食べるのは些か怖い。悪いが道づれだ」

 

私の言葉にボリスとロックマイアーが苦笑したのは言うまでも無い。だが見たことの無い料理に対する恐怖があるのもまた事実なのだから仕方ないのだ……

 

「……お水をどうぞ」

 

いつの間にか机の横にいたメイドにドキリとしながら、机の上に置かれた水を口にする。良く冷えたそれを飲みながら、一体どんな味がするのかと緊張しながら待つのだった……

 

 

 

 

厨房から見ていたがあの貴族。見たことあるな、何回か王城に行った時に見たことがある、蛇みたいな男だと思った。まぁ客は客だから別に何もしないがな。海老、烏賊、蛸の足、アサリと玉葱、それと昨日ぺテル達にも振舞ったタラ。セロリ、にんにく、にんじんと、

 

「サフランは……どうするかなあ」

 

パエリアはサフランライスが肝となるが、その香りが苦手と言う者も少なくは無い。一番大事な食材を机の上に並べ、少し考えてから異世界だから大丈夫じゃね?と思い1摘まみを取り出し、冷蔵庫からピザとかミートソースを作る時の為に作ってあるトマトソースを取り出す。トマトソースをベースに海鮮の出汁を染みこませ、サフランはやや少なめの物にすることに変更する

 

「さてと、始めるか」

 

烏賊は輪切りにし、蛸の足はぶつ切り、やや大きめに切り分け食感を楽しんで貰う。タラは食べやすいように1口大に切り、骨抜きで骨も抜いておき、セロリ、玉葱、にんじん、玉葱は微塵切りにし、パエリア鍋にオリーブオイルを回しいれ、烏賊と蛸を入れて中火で炒める。この時に片面に焦げ目が付いたら、刻んだ野菜を入れて火を少し弱めて野菜までは焦げ付かせないように気をつける

 

「何か?」

 

「いや、どんな調理をしているのかとな」

 

視線を感じ顔を上げるとくすんだ金髪の初老の男性と目が合う。カウンター席からは厨房が見えるようにはなっているが、こうして覗きに来た相手は初めてかもしれないな。貴族相手なので俺が何かしないか警戒しているという所か……

 

「それは虫か?」

 

「いや、海老って言う甲殻類。蟹とかの仲間になる、決して虫とかではない」

 

海鮮に馴染みがないと海老は虫に見えるのか、蟹も一緒だなと思いながら

 

「じゃあこれは?」

 

「そ。それは食べ物なのか!?モンスターとかではないだろうな!?」

 

蛸の足と烏賊の胴体を見せるとものすっごいうろたえるので思わず笑いながら

 

「これは烏賊と蛸と言う、見た目はあれだけど味はいい」

 

そ、そうなのかとショックを受けた様子ではあるが、俺の調理を見つめている。動揺はしていても、仕事にはそれを見せない、プロフェッショナルか、鋭い目付きで観察されているが、別にその程度でうろたえるほどの安い経験はしていない

 

(まぁ別に気にならんがね)

 

富裕層に料理を出す時は毎回こんな感じだったので、気にするまでもない。玉葱が透明になってきたらトマトソースを加え、火を再び強くする。このままでは水気が多いので、煮詰めて水気を飛ばすまでは火は強めだ。その間にアサリを流水で殻同士を擦り合わせるように強い力で洗っておく

 

「よし、良い具合だな」

 

トマトソースの水気が飛んできた所で、海老、アサリ、白身魚のタラ、水と塩とそしてサフランを入れて強火にし、ひと煮立ちさせる。煮立ったことで海老の色が変わり、アサリの口が開いたらトングで1度魚介を取り出し、バットの上に並べる

 

(仕上げはこれだ)

 

シーフードパエリアの味の決め手はやはり濃厚な海鮮の旨味にある。海老を取り出すときに頭をトングで押し潰し、海老味噌をスープの中に入れ、生米をスープの中に入れて強火にする

 

「一応聞いておきますけど、海鮮を食べた経験は?」

 

本来なら海老は殻付きのまま入れるが、食べた経験がなければ皮を剥く事は出来ないだろう。貴族だから食べている可能性もあるが、どうだろうか?と尋ねる

 

「……」

 

「あの?聞いてます?」

 

「はっ!い、いや!無いな」

 

こいつ完全に匂いとかに魅了されていたな。まぁ良いけどな、食べた事が無いと聞いたので、海老の殻だけでも剥いておくことにする。食べられないと文句を言われても困るしな。アサリは身が見えているから問題なく食べれるはずだ

 

(頃合か)

 

最初は見えなかった米が強火で煮詰めたことで見えてきた頃合で弱火にする。これで大体10分くらい煮詰めるのだが、最後の仕上げをするためにパエリア鍋の前に立ち鍋の具合を見つめる。鍋の縁の方の米がはがれてきたタイミングで強火で焼いてそこのほうにおこげを作り、仕上げに最初に煮たシーフードを鍋に戻し、レモンとパセリを盛り付ければ完成だ。パエリア鍋を手にし、

 

「シズ。皿とスプーンを頼む」

 

「……はい、判りました」

 

俺はシズを伴い厨房を出るのだった、実際に作るのは初めてだが、良い仕上がりだ。今日の賄いはパエリアにしようと思いながら、そわそわとした様子で待つ3人の元へと向かった

 

 

 

 

厨房から漂ってくる濃厚な香り。それが近づいてくる、その余りに強い香りに貴族らしくないが、口の中に唾が溜まっていくのが良く判る。調理の様子を見に行ったロックマイアーが尋常じゃなく美味そうですと言った事もあり、ややそわそわしながら料理が置かれるのを待つ

 

「大変お待たせしました。シーフードパエリアになります」

 

底の広い見慣れない形状の鍋が机の真ん中に置かれ、メイドが皿を持って来て、私達の前に丁寧に並べ、ナプキンも丁寧に置いてくれた

 

(これが……海の食材か)

 

硬い殻に入っている奇妙な食材と赤と白の丸まった何か、そして輪の様な物とこれでもかと食材が敷き詰められている

 

「こちら取り分けさせていただいても宜しいでしょうか」

 

「ああ。是非頼むよ」

 

カワサキ殿が私達の皿に丁寧に料理を取り分けてくれる。鮮やかな色に染められた小さな粒みたいな物……あれが米なのだろう。それが皿に入れられ、そしてその上に海の食材が均等に並べられる

 

「こちらを注文なされた場合。飲み物に白ワインをサービスしておりますが、いかが致しますか?」

 

白ワインをサービスで提供するというカワサキ殿の言葉に驚きながらも、断る理由も無いので貰う事にする

 

「ではごゆっくりお楽しみください」

 

頭を下げて厨房に引き上げていくカワサキ殿。その仕草もやはり慣れ親しんだ物に見える、南方ではさぞ名のある店の料理人だったのだろう……

 

「レエブン候。先に毒見をさせていただきます」

 

毒があるかもしれないのでとロックマイアーが先にパエリアを口にし、目を見開いて硬直する

 

「どうした?大丈夫か?」

 

余りに反応が無いのでボリスが心配そうに尋ねる。するとロックマイアーはすまないと頭を振り、スプーンでもう1口口に運びながら

 

「……う、美味すぎる!なんだこれは……!?」

 

ロックマイアーは信じられないと言って、スプーンを何度も口に運ぶ。それを見てボリスも料理を口に運ぶ

 

「……美味い、これで銀貨5枚。ありえん」

 

確かシーフードパエリアは銀貨5枚だった。値段とすれば安い冒険者用の宿でも食べれるような値段だ。正直海鮮の値段としては原価以下の値段だった……ボリスも大きく目を見開き、少し停止していたと思ったら、勢い良く食べ始める。よほどの美味なのだろう

 

(どれ、では私も)

 

2人が夢中で食べているので、毒は無いと判断し。ナプキンを膝の上に置いてパエリアと言う料理に改めて視線を向ける

 

(見たことの無い食材ばかりだ)

 

当然だが見たことの無い食材ばかりだ。それもその筈、海のモンスターは陸のモンスターよりも遥かに強く、そして巨大だ。どれほど粗末な食材だとしても、金貨で売買される物だ。このパエリアに入っているものはどれも大きく、非常に良質なのが一目で判る。だがまずは海鮮は後にして、米だ。米というのが量が多いので、これが不味ければ食事はしにくい。スプーンで米だけを取り頬張る

 

(美味い……)

 

まず口に広がったのは何とも言えない、香辛料の香り。やや癖があるが南方特有の物と判断する。次にトマト、トマトの甘みだ。酸味は僅かに残っているが、殆ど甘みと言える。そして噛み締めていると口に広がるのは味わった事も無い複雑な旨味。これが海鮮の味か……もう1口頬張る、このやや癖のある香り。これがなんとも癖になりそうだ、こってりとした非常に濃い味わい。これも文句など言い様が無いほどに美味い

 

「お待たせ致しました。白ワインになります」

 

私達の前にグラスが置かれ、良く冷えた白ワインが注がれる。グラスを手に取り、匂いを嗅ぐ、爽やかな香り……これも勿論非常に良質でサービスで出すような物では無いだろう。白ワインを口に含む、非常に甘くそしてほのかなアルコールの味わいが口一杯に広がる

 

(さてと……そろそろメインを頂くとしよう)

 

海の幸。これだ、米が十分に美味かったので必然的に期待は強くなる。まずは魚らしいものをスプーンで解す

 

「これは美味い。素晴らしい味だ」

 

ホロリと口の中で解けるのだが、その身の脂が実に良い。良く口にする川の魚とはレベルが違う

 

「この白い輪みたいのもとても美味いです」

 

元の食材がなんなのかまるで想像がつかないが……ボリスに勧められた通り輪みたいなものを口に運ぶ。簡単に噛み切れるのだが、噛み締めていると歯応えが強く、そしてやはりこれも旨味が強い。米が食べたくなり、スプーンで掬い頬張っていると、米の中に何か混じっていたようで強い歯応えを感じる。非常に弾力が強く、何度噛んでも中々噛み切れないので、余り行儀が良いとは言えないが飲み込む事にする。これだけの味は本当に銀貨で良いのかと思ってしまう、南方の生まれだから利益よりもまず馴染むことを考え安く料理を提供しているのだろうか?とても採算が取れるとは思えないが……私はカワサキ殿の事を心配しながら、ワインを口にするのだった……

 

 

 

 

国王陛下が懇意にしている料理人の店と聞いていて、貴族貴族とした雰囲気だと思っていたのだが、それは冒険者に馴染みやすい空気に満ちた店だった。私達が冒険者だった時に足を運んだ宿の雰囲気と良く似ている

 

(美味い)

 

違う点とすれば、それは料理のレベルだろう。あの宿はもう潰れてしまったが、酒が美味く、料理が不味い。そんな店だった、だけど店長が気前の良い男で懇意にしていた

 

「ロック、これはなんだ?」

 

調理の過程を見ていたロックに尋ねる。するとロックは顔を顰めながら

 

「……見ていたが、虫のような食材だった」

 

赤と白の丸みを帯びた何か……ロックに虫のようだったと言われ、若干引きはしたが、冒険をしている間に食料が尽き。虫を食べたこともある。意を決して頬張った、独特な食感でプリッとした歯応えと強い甘み

 

「……めちゃくちゃ美味い」

 

ロックとレエブン候が私の言葉を聞いて、それを頬張る。その姿を見ながら白ワインを口に含む、甘みの強い味わいがシーフードと良く合っている。

 

「美味い……この独特な食感が良いな」

 

「本当だ。とても美味だ」

 

こうしてレエブン候と同じ机で食事をするなんて事は本来ありえないのだが、この店の雰囲気だとそれが当然のように思えてくるから不思議だ。米という小さい粒を頬張る。これにも味がしっかりと付いていて見た目からは想像も出来ないほど味が強い、全員がだんだん無口になってくる。喋るよりも料理を食べたいと言う気持ちが強くなってきている

 

(これが美味いな……一体なんなのだろうか?)

 

硬い殻に包まれた小さな身。これも歯応えが強いのだが、海老と異なりはっきりとした旨味がある。なんとも酒に合いそうな味だ、これだけ色々入っているのを見ると銀貨5枚で良いのかと本当に思ってしまう。1回目はカワサキが取り分けてくれたが、2回目は自分達で取り分けたのだが、レエブン候がかなり多く取り分けたのは言うまでも無いが、残った量は2人前と見ると明らかに少なく、しかし1人前と考えると多いくらいだが、それは米の話で海鮮に関しては絶望的で殆ど残っていなかった……

 

「なんだ?」

 

思わずレエブン候の皿を見てしまい。なんだ?と言われなんでもないですと返事を返し

 

「ロック。これを私にくれ」

 

あの硬い殻を持つ、小さい奴。あれを気に入ったのでくれと言うと、ロックは鍋の中にスプーンを入れる

 

「では俺はこの輪だ」

 

米を均等に分け、残った海鮮は話し合いで分けることになったのだが、赤と白の食材……海老と言うらしいが、それは1匹しか残っておらず、苦汁の決断で半分に切り分けたのだが、そこでどっちが胴体かと言うことで口論になりかけた。後に振り返るといい歳をした男2人がそんなことで喧嘩をしたと言うのが妙に気恥ずかしくなってしまうのだった……

 

「大変な美味だった。また来させて貰うよ」

 

非常に上機嫌なレエブン候。美味い物を食べれば誰しも、上機嫌になるが、カワサキの料理は明らかに別格だった

 

「またのお越しをお待ちしております」

 

最後まで丁寧に送り出してくれたカワサキ。休憩時間なのに嫌な顔をせずに対応してくれたのがカワサキの人の良さを示していた。ただ金銭感覚に関してはやや心配になるレベルだったが……

 

「陛下が店を構えるのを援助した理由が良く判る」

 

確かにあれほどの腕を持つ料理人だ。それこそ引く手数多だろう、その前に王国領に店を構えさせる事でこの地に留めたのは正解だと思う

 

「まさか手土産まで持たせてくれるとは」

 

私達の手に収まっている小さな包み。これから領地に戻ると言うとカワサキは手土産としてサンドイッチと、菓子を持たせてくれた

 

「ランポッサ国王陛下にはお世話になっているので、どうぞお持ち帰りください」

 

店を構えることに助力してくれたので金は要らないとの事。そして

 

「こちらの包みは冷たい氷菓子となっておりますので、保存の魔法をかけておりますが、害意は無いのでご安心ください」

 

まさかの冷たい氷菓子を土産に持たされるとは思っておらず、レエブン候は

 

「リーたんへのお土産に最適では無いか」

 

自分の愛息子への土産に今まで見たことが無いほどに上機嫌だった。私とロックは土産として渡されたサンドイッチをヨーランとルンドクヴィスト、そしてフランセーンに渡すべきか、途中で食べてしまうべきか少し悩んだ

 

「揚げた豚肉を挟んだ物か」

 

「……今は満腹だが、正直悩む」

 

領地に戻るまでは大分時間が掛かる。それにレエブン候も食べてしまえばいいだろう?と言っているが、3人にもと思うが、食べてしまいたいと言う気持ちが無い訳でもなく、弁当と言う形ではなく1度連れて来てしまえばいいだろうか?とも思う

 

(休日の時に来るべきか……)

 

馬を飛ばせばこれないことも無いが……どうしたものかと悩んでいると、曲がり角を曲がってきた3人組と出くわした。しかも知人と言えるガゼフ戦士長達だった

 

「これはレエブン候。このような場所でお会いするとは」

 

ガゼフ戦士長とその後の漆黒の全身甲冑の戦士と黒髪の軽装の少女が私達に気付いて頭を下げる。

 

「モモン、このお方がエリアス・ブラント・デイル・レエブン候。そしてボリス・アクセルソン殿とロックマイアー殿。元オリハルコン級の冒険者だ」

 

ガゼフ戦士長が私達の事を紹介する。モモンと呼ばれた戦士は頭を小さく下げ

 

「初めまして、モモンと言います。こちらはパートナーのナーベ、お見知りおきを」

 

丁寧な口調だが、その威圧感は凄まじい。レエブン候から聞いていたが、アインズ・ウール・ゴウンと言う魔法詠唱者とカワサキの友人であり凄腕の戦士と聞いていたが、こうして近くで見ると恐ろしい実力の持ち主と言う事が良く判る。キラリと光るミスリルプレートだが、それよりも彼の力が上なのがひしひしと伝わってくる

 

「モモン殿か、話には聞いている。王国の防衛に協力してくれていることを感謝する」

 

「いえ、私達の国を滅ぼしたモンスターですので、敵討ちと言う私怨でもありますので」

 

それから暫く言葉を交わし、貴賓館に停めてある馬車へと戻る

 

「さて、モモンと言う戦士を見てどう思った?」

 

「……真っ向から戦うのは危険かと」

 

全身鎧を装備し、グレートソードの2刀流。その時点で並大抵の膂力の持ち主ではないと言うのは良く判る、それこそガードしても、その上から叩き潰されるのが目に見えている。仮に遠距離から戦うにしても、パートナーのナーベと言う女性は恐らく魔法詠唱者。対応できない攻撃に対する防御を任されていると思われる。そうなれば前衛のモモンを抜く必要があるが、あの相手に短期決戦は恐らく不可能。たった2人だが、私の予想では現役の私達でも辛いかもしれないと判断した

 

「現役だったとしても厳しいか?」

 

既に引退して長いが、それでも身体は鍛えているし、並みのモンスターには楽に勝てるという自負もあるが、それを差し引いても勝てないと悟っていた

 

「……正直に言いますが、対峙はしたくありませんね」

 

仮に5人揃っていたとしても戦いたいとは思わない。カワサキの友人と言う事はあの店にいた給仕2人も加わるが、片方は剣士としても非常に優秀だろう。筋肉の付き方で判る、それにあのメイドに関してはロックマイアーがよく理解している

 

「俺の気配感知をすり抜けて来た。間違いなく凄腕のアサシンかと」

 

恐らく私達が危惧したカワサキの金銭感覚。どうもあの2人は金銭感覚とカワサキの護衛を兼ねているのだと思う。気前が良く、愛想の良い男だ。やや金銭感覚と戦闘能力に不安があるから護衛がしっかり付いているのだろう

 

「馬鹿な貴族や八本指がちょっかいを掛けなければ良いが」

 

稀少な食材と卓越した調理の腕を持つカワサキ殿に迷惑を掛けなければ良いが……私は一抹の不安を抱きながらエ・ランテルを後にするのだった……

 

 

シズちゃんの美味しい捜索記その6 パエリア

 

貴族とその護衛2人が食べていたパエリアと言う料理、それが今日の賄だった

 

「いい匂いだねー」

 

客が来てしまったので賄いが遅れているので、クレマンティーヌが目を輝かせながら椅子に座る

 

「……カワサキ様。取り分けしますね」

 

「良い良い。遅れたからお腹空いてるだろ?座ってて良いよ」

 

私が取り分けようとするとカワサキ様に手で制されてしまった。シモベとして御方の料理を食べれるだけでも幸せと言うのに、それなのに取り分けまでさせてしまう……もしユリ姉様に知られたら怒られてしまうかもしれないと思いながらも、もうカワサキ様が取り分けてしまっているので、私は浮かしかけた腰を椅子の上に戻すことしか出来なかった

 

「「「いただきます」」」

 

3人で手を合わせていただきますと言ってからスプーンに手を伸ばす

 

「ちょっと変わった香りがするね」

 

「サフランの香りだ。パエリアには必要なものなんだ」

 

サフラン……ちょっと変わった香りがするけど、その香りは決して嫌な香りでは無い。ご飯は噛み応えがあり、海鮮の味とトマトソースのやや酸味のある味がお米に染みこんでいる

 

(これは好き)

 

美味しいは判らないが、この味が好きか嫌いで考えると私にも判りやすい

 

「こんなに海の食材が入ってるなんて凄い豪華だよね。パエリアってシーフードで作るの?」

 

海老に蛸に烏賊、それにアサリに、タラ……物凄い数のシーフードが入っている。この世界では海の食材が入手しにくいらしいので、これは本当に豪華な料理なのかもしれない

 

「これはシーフードで作ったけど、肉で作っても美味しいな。鶏肉とかで作ると良い」

 

海の幸だけではなく、お肉で作っても美味しいらしい

 

「……あむ」

 

さっきは烏賊を食べてみた、歯応えが独特で面白かった。同じ感じの蛸は烏賊よりも歯応えがあった。今度は海老を食べてみた

 

「……カワサキ様。私、海老好きかも知れないです」

 

ぷりぷりとしている独特の食感と濃厚な味、この味はパエリアにも染みこんでいる味だけど、これは好きな味だと思う

 

「シズ様は海老が好きなんですか?」

 

「……多分」

 

美味しいが判らないから少し不安だけど、好きだと思う。魚は……ホロリとして脂が乗っていて、トマトソースの味がしみこんでいるのだけど……正直、普通……好きでも嫌いでもないという感じだ

 

「海老が好きか、じゃあ今度機会を見て海老で料理をしてみるか」

 

「海老で料理ってあるの?」

 

エビフライとか、海老天とかかなあ?と指を折りながら料理のことを考えているカワサキ様

 

「……あむ」

 

もむもむ……色んな香りがして、海の味がする。トマトの味と香りもだ……

 

(……美味しいのかな?)

 

胸がぽかぽかして楽しくて、嬉しいと思う。これが美味しいなのかな?好きな食べ物と嫌いな食べ物……これは何となく判るようになってきた。もう少しすれば美味しいが判るかもしれない、私はパエリアを食べながらふとそう思ったのだった……

 

 

 

 

メニュー46 ステーキへ続く

 

 




レエブンにも遭遇、ちなみに元オリハルコン級も何とか生存予定で頑張ります。出番は少ないと思いますけどね、次回は日ステーキその2となります。誰が食べに来るのか、楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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