生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー49 川崎の本気(その2)

メニュー49 川崎の本気(その2)

 

 

モンスターの捜索を終え、ゴウンさんとナーベさんと1度別れ、宿で汗を流してから2人の案内でカワサキさんのお店に来た

 

「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」

 

私達を出迎えたカワサキさんの雰囲気は王城でも、最初にこの店を訪れた時とも異なっていた

 

「ではこちらへ」

 

厨房へ通じる扉を開け、そしてその横の扉を開けて階段を登っていくカワサキさんの後を追って、ゴウンさんとナーベさんも階段を登っていく

 

「どうする?」

 

「どうするもなにも着いて行くしか無いでしょ?」

 

特別な料理を振舞ってくれるといっていて、既に準備もしてくれているのに今更断るなんて失礼な真似が出来るわけが無い。私は小さく深呼吸してから階段を登る

 

「本日はこちらで食事をして頂きます。皆様、お好きな席へどうぞ」

 

1階の質素な雰囲気の食堂とはまるで違う光景が、私達の前に広げられていた。床と壁全面に敷き詰められた赤い絨毯に、美しい装飾の施された家具の数々。そして机の上に並べられている食器とグラス……ただの食器ではなく、見るだけで圧倒するだけの存在感を持つ食器の数々だ

 

(ちょっとこれは予想外だな)

 

(そうね)

 

ガガーランが気まずそうに言う。汗を流してから、再び装備を着て訪れたが、これほどまでの場所に招待されるのならば、もっとちゃんとした服装で来るべきだった……お好きな席へと言われたが、流石にゴウンさん達の側に座るのもと思い、皆で集まって席に着く

 

(柔らかい)

 

椅子もただの椅子ではなく、座ると全身を受け止めてくれるような柔らかな感触に包まれる

 

「本日はお越し頂き大変感謝しております。今日は私川崎の渾身の料理を心行くまで楽しんで頂こうと思います、ではまずは食前酒から」

 

ゴウンさんとナーベさんのグラスにワインを注ぎ、そして私達の方に回って来て、私とイビルアイにワインを注ぎ、ガガーランには別のワインのボトルを取り出す

 

「なんでワインを交換するんだ?」

 

ガガーランのやや険のある言葉にカワサキさんは穏やかに笑いながら

 

「こちらはインテリジェンスアップルで作られた白ワインで魔法詠唱者に適したワインとなっております。こちらをご所望されるならこちらを提供させていただきますが、こちらはストレンジマスカットで作られた戦士に適したワインとなっておりますが、どう致しますか」

 

インテリジェンスアップル?ストレンジマスカット?聞いた事の無い食材だ。それに魔法詠唱者に適したワインとは何?

 

「説明が不足しておりましたね。私の固有技能に食べた方の能力を向上させる料理や、能力が向上しやすくする状態にする為の料理を作ることが出来るのです。こちらのワインは魔法詠唱者に必要な知性や、魔法力。こちらは筋力などに作用する品となっております」

 

……とりあえず私達の理解を超えているって言うのは分かったわ

 

「悪いな。へんな勘繰りをして、じゃあ、その戦士に良いって言うワインを貰うぜ」

 

「畏まりました」

 

優雅な素振りでお辞儀をし、ガガーランのグラスにワインを注ぐカワサキさん

 

「私達のワインは?」

 

「どんな効果?」

 

「はい、こちらは瞬発力や空間把握能力の向上と言ったレンジャーやシーフに適したワインとなっております」

 

ティナとティアのグラスにワインを注いだカワサキさんに頭を下げ、ワインを口にする。

 

「「「「美味しい……」」」」

 

私達の驚きの声が重なった。今まで様々なワインを口にしたが、これは全く違う。身体に染み渡り、そして身体に力が漲ってくるような感覚がする。これが私達に適したワインと言う事なのだろうか

 

「カワサキさん。美味しいです」

 

「私等に給仕などをしてくださらなくても」

 

ゴウンさんとナーベさんの言葉にカワサキさんは柔らかく微笑み

 

「喜んでいただけたのなら幸いです。では最初の料理、黄金海老とマッシュルームのアヒージョとバゲットとなります」

 

カワサキさんが指を鳴らすと机の上に小さな鍋とスプーン、そして小さな籠の中に入れられたパンが2つ姿を見せる

 

「これは転送魔法なのか?」

 

「似た様な物ですね。私がレストランと認識した場所は私の領域、料理は全て合図1つで呼び出す事が出来ます」

 

イビルアイの質問に澱みなく答えるカワサキさん。給仕に徹底してくれているのは判るけど、相手がプレイヤーで、ここまで畏まられるとこちらが息苦しくなってしまう

 

「カワサキさん。敬語は止めて欲しいのですが、ラキュースさんもそう思うでしょう?」

 

ゴウンさんの話の振りに助かったと思いながら頷き

 

「ええ。私も普通に話してくれた方が食事を楽しめると思います」

 

私とゴウンさんの言葉にカワサキさんは少し悩む素振りを見せた後。後で戻せと言っても戻さないからなと言う

 

「じゃあこのアヒージョと言うのはどうやって食べればいいのか教えてくれよ」

 

ガガーランが鍋を覗き込みながらカワサキさんに尋ねる。淡い黄色を帯び赤と白のコントラストの美しい海老と、スライスされた茸が、油の中に浸っている。どうやって食べれば良いのか見当もつかない、中の具材を食べるにしても、油が非常に多い

 

「これはオリーブオイルに海老とマッシュルーム、それと香辛料の香りを付けたもので、この油も飲む事が出来る料理だ」

 

油を飲む……!?その予想外の言葉に私達の顔色が変わる。飲める油なんて存在するのかしらと思う

 

「オリーブオイルはそのまま飲むことが出来る油だから心配ない、それに直接飲むのではなく、一緒に添えているバゲットを千切ってオイルにつけながら食べて貰えば良い。ある程度オイルが減ったら中の具材を食べると言うのがアヒージョの食べ方になる」

 

パンにつけて食べる料理なのね。カワサキさんに教わったとおり、パンを千切ってオイルにつける。パンにオイルが染みこんだ所で持ち上げ頬張る

 

(お、美味しい……)

 

油にパンをつけるという発想は普通ならありえないと思う。だがこれはそうするのが自然と思える。海老の芳醇な香りとにんにくの強い香りがパンを齧った瞬間に鼻を突き抜ける

 

「美味しいです。海老の香りが凄くいいですね」

 

ゴウンさんが美味しいと言って、嬉しそうに笑いワインを口にする。

 

「いやあ、うめえなあ……油にこんな風な使い方があるなんて」

 

「驚きの味」

 

「……パンのお代わりはもらえる?」

 

味わった事の無い味に美味しいという声と驚いたという声が重なる。イビルアイは無言でパンをつけて、口に運んでいる。私もパンを千切り、再びオイルにつけて頬張る

 

(あんまりしつこくないのね)

 

油と聞いていたが、しつこくなくさっぱりしている。油と言うかスープに近いとさえ思う、パンは2個じゃ物足りないと思っていたのだが、カワサキさんは計算してくれていたのか、パン2個食べ終わると、油が僅かに残り具材が残る。そのタイミングでフォークを手にして海老を刺して頬張る

 

「……これもとても美味しいです」

 

海老は昔食べたことがあるそれとは全然違う。プリッとした食感とその味に驚かされる、オイルの味に全く負けておらず、今まではオイルが主役と思っていたのだが、海老を口にした瞬間。海老が主役に代わった

 

「美味しいので、これのお代わりが欲しい」

 

「私も」

 

ティナとティアがお代わりをカワサキさんに求める。確かにこの味ならもう少し食べたいと思ってしまう

 

「この後に金のトマトとロックポークの生ハムを使ったカプレーゼサラダ、オーロラアサリとウィングポークベーコンのトマトピラフ、アテナのオリーブのぺペロンチーノ、バニシングクックのチキングラタン、レイジングブルの頬肉のビーフシチュー、季節のフルーツゼリーと続くが、それでもお代わりするかな?」

 

さらさらと告げられた料理の数々。聞いたことがあるのはシチューとグラタンくらいだが、きっとそれも私の食べた事のある物とは全く違う料理だろう

 

「それでもお代わりするか?」

 

まだ美味しい料理があるかもしれないと思うと、今のアヒージョのお代わりを貰おうと言う気は無くなり。次の料理をお願いしますと言うのがやっとだった……

 

 

 

 

カワサキさんが口にした料理の数々。その殆どは判らないが、材料を聞いて、俺は思わず叫びそうになった。そのどれもがユグドラシルの食材。しかもどれも希少価値の高いものばかり

 

(マジで使っちゃったの?)

 

しかもアテナのオリーブオイルを使ったと聞いた時は本当に叫びたくなった。希少価値で言えば神話級に匹敵するオリーブオイル、それこそ1500人の襲撃戦でのみ使ったそれを使ったとか、マジで!?と叫びたくなった

 

「では2品目。金のトマトとロックポークの生ハムのカプレーゼサラダになります」

 

カワサキさんが指を鳴らすと、アヒージョの皿が消え、円形に盛り付けられたサラダが姿を見せるのだが、それを見て、更に俺は遠い目をした

 

(これ……レイジングブルのチーズッ!!!)

 

淡い桜色を帯びたチーズ。オスしかエンカウントしないレイジングブル、ごく稀にレイジングブルのメスが草を食べに来る時にごく少量のみ収穫できるレイジングブルのミルク。これは周囲のモンスターが80以上とか言う魔境でしかも、一切の武器・防具を装備できないという極限の縛りの中でロストする事を覚悟し、決死の覚悟で入手した食材だ。それをこんなに使うとか……もうナザリックに備蓄が無いんじゃないかと心配になる……のだが

 

(美味しそう……っじゃなくて!?)

 

目の前に並べられた料理が美味しそうと思うのと同じくらい、大丈夫?と言う言葉が頭の中を駆け回る

 

「アインズ様?どうかなさいましたか?」

 

「い、いや、なんでもない。大丈夫だ」

 

俺がナイフもフォークも手にしないのを見て、ナーベラルもナイフもフォークも手にしていない。俺が食べなければ、ナーベラルも食べることは無いだろう……それは余りに可哀想なので俺もナイフとフォークを手に取り、再び皿に視線を向ける

 

(金のトマトにロックポークの生ハムにレイジングブルのチーズ)

 

淡い金色を帯びたトマトと、外が灰色で中がピンク色のハムに、桜色のチーズ。うん、やっぱり何度見ても最高の食材ばかりだ

 

「うお!うめえ!サラダなんてって思ったけどこれは美味いなあ」

 

「トマトも凄く美味しい」

 

「……これは本当にハム?」

 

「ぷるぷるぷるぷるぷるぷる」

 

「とても素晴らしい料理だと思います」

 

蒼の薔薇の面子が美味い、美味しいと喜び、カワサキさんを褒め称えている姿を見るのは実に嬉しい。約一名、ありえないくらい震えているのがいるが、あれが彼女の喜び方なのだろうと判断するが、どうしても素直に喜びきれない部分もある。

 

(そりゃ美味しいだろうよぉ!!)

 

思わずそう叫びたくなった。俺達が渋いドロップ率に絶望しつつ、そして時々ロストし、アイテムを失いながら集めた食材だ。これで不味いとか言ったら、俺は即座に超位魔法を発動しているとさえ思う。とは言え、美味しいのは間違いないので、ナイフとフォークを使い、トマト、ハム、チーズを切り分け、3つをフォークで刺して頬張る。

 

(うっまあ……いやいや、マジで美味い!)

 

俺が食べるのを見て、やっとナーベラルもサラダを口に運び。華の咲くような笑みを浮かべる、今まで見たことの無いような笑みだ

 

(美味い……これは美味すぎるだろ)

 

1口口にしてしまえば、もう止らない。再び切り分けて口に運ぶ

 

(トマトの甘みだ)

 

まず口に広がるのはトマトの甘み。驚くべき事に、酸味はほとんど無く甘みばかりが口に広がる。金のトマトなのでその独特の食感を噛み締めていると次に顔を見せるのはロックポークの強い歯応えだ。岩石の皮を持つ豚、防御力は桁違いで、あのたっちさんの一撃さえも弾き飛ばしたと言う規格外の豚。クックマンであるカワサキさんがいなければ、捕獲などせずに見ているだけのそのモンスターだった

 

(食材モンスターは殆ど戦ったなぁ)

 

特殊な装備が必要だったり、スキルが必要だったり、武器とか装備出来ないとかの縛り。何時PKギルドに襲われるとか、モンスターからの返り討ちにあうかもしれないと言う恐怖。他のプレイヤーが戦わない食材モンスターの数々との激闘が脳裏を過ぎる

 

(柔らかいのに噛み応えがある)

 

岩の皮を持つロックポーク。中は柔らかいのだが、それでも普通の豚と比べると噛み応えがある。弾力があるとかそういうのではなく、純粋に硬いのだが、それは決して不快な硬さでは無い

 

(おおお……美味い)

 

そして最後に姿を見せるのはチーズのトマトとロックポークの味わいを包み込む、芳醇な味わい。今まで自己主張していたトマト、ハムの味が消え、チーズが全てを飲み込む

 

「ふう……」

 

もう良いや、全部食べ終わってからカワサキさんと話し合えば良い。うん、もう食材がどうとか、考えるのは止めよう。美味しい食事が不味くなる……俺はサラダを食べ終わる頃には諦めの境地に達しているのだった……

 

 

 

 

 

いや、美味すぎるだろう。アヒージョ、サラダを食べ終え俺は大きく息を吐いた。美味いとか、美味しいとかそういう次元じゃない、今まで美味いと思っていた物がなんなのかと思うレベルだ。全体的に量は少なめだが、それはまだまだ続く料理の為に業と少なめにしているのだろう。元々冒険者と言うのは体力勝負なので健啖家が多い、細身のラキュースやティナ、ティアも良く食べる。恐らくまだ満腹には程遠いだろう……約1名を除いて……

 

「……ふう」

 

イビルアイが腕輪を外し、そしてまた腕輪を装着する。満腹になったら腕輪を外して、異形種に戻り、再び腕輪をして人化する。最近イビルアイが良くしているあれだ、ティナとティアやラキュースがずるいというアレ、俺はそれほどずるいとは思わない。食べて身体を作り、鍛えてきた俺だ。食事の大切さは知っている、イビルアイが食事の良さを知ってくれた。その方が嬉しいと俺は思う

 

「では次の品。オーロラアサリとウィングポークベーコンのトマトピラフになります」

 

やはりこれも小ぶりな皿で現れたのだが……俺もラキュースもティナとティア、それにイビルアイも驚いた

 

「「「「綺麗……ッ」」」」

 

俺らしくないと思ったが、声は勝手に口から出ていた。鮮やかな赤い米に並べられた貝、口を大きく開いているのだが、そこから淡い光が漏れ、光の幕を作り出している。それは揺らめきながら輝きを変え虹色のように見える

 

「正式名称は忘れた。昔俺とアインズさんの国で取れた貝だ、その美しさと味で人気のある食材だ」

 

確かにこの美しさには女なら誰しも目を引かれるだろう。とは言え食べ物なのでいつまでも見ほれているわけにもいかないのでスプーンを手にする

 

「ふー、ふー」

 

「うむ、美味い。口一杯に広がる海の風味が良い」

 

アインズとナーベは既に口に運んでいるしな。俺も食べるとしよう

 

「この布巾で手を拭えば良いと言うことですね?」

 

「アサリの殻を手で持って食べた後に拭く用だから、それで構わない」

 

手で持って食べるか、殻を外さないのは多分輝きを見せるための演出なのだと思い。殻を手に取りその殻一杯に詰まっている貝を頬張る

 

(う、美味い……)

 

口一杯に広がる濃厚な貝の味。それがトマトと濃厚なバターの味と共に口の中一杯に広がっていく

 

「ぷりぷりしていますね。とても新鮮な貝なのですね」

 

「ついさっきまで生きていたからな、鮮度はバッチリだ」

 

前に食べた貝は少し古いと言う事でスープにしてあったが、柔らかく、旨味にかけていたと思ったがこれは違う

 

「貝なんてって思ったけど、これは最高に美味い」

 

見た目はいいが、味はさほど期待していなかった。俺の知っている貝が悪かっただけで、これが本来の貝の味と思うと俺も要らない先入観があったようだ。布巾で指先を拭い、スプーンを手にする。貝は皿の中に5つ入っているが、先に食べすぎては後の楽しみが無くなる。それにこのピラフと言うのは良い香りなので、こっちも気になる

 

(さっきもトマト、これもトマト)

 

カワサキの腕のいい事は知っているが、前の料理はトマトのサラダ。そしてこれはトマトソースで煮た物……トマトトマトで繋げて来ると言うのは珍しいなと思いながら、スプーンで米を掬おうとして

 

「ん!美味しい、それに不思議。トマトの味があんまりしない」

 

「うん、不思議。全然トマトって感じがしない」

 

毒耐性があるのでぱくぱくと頬張っていたティナとティアが驚いたように言う。トマトの味がしない?これだけトマトの色をしているのに?俺は不思議に思いながら米を頬張り。2人の言っていることを理解した

 

(これはあの貝の……)

 

先ほど食べた貝の旨味。それが米にもしっかり染み付いている。トマトはほんの僅かに風味がするだけで、トマトの味は殆どしない

 

「味が物凄く濃いですね。でもそんなにしつこくない」

 

「バターで炒めているからな。それにトマトの酸味が後味をさっぱりとさせてくれる、アサリからの出汁がスープ全体に染み渡りながら炊いているから、どうしてもアサリの風味が強くなる」

 

カワサキの説明は何を言っているのか余り理解出来ないが、美味いから良いかと納得する。アサリ以外の具材はベーコンと玉葱と人参とシンプルなものだが、ベーコンは噛み応えがよく、脂もよく乗っている。それに玉葱と人参も丁寧に炒められているのか甘みが強い

 

(プレイヤーって聞いていたけど、なんともあれだな)

 

俺の想像ではプレイヤーと言うのは偉そうで貴族みたいな印象だったが、カワサキは貴族なんていうのとは全く違う。親しみやすいと俺が最初に思った通りの男だ

 

(この米って言うのが良い)

 

麦などと違って噛んでいると甘みが出てくるし、アサリと言う貝のスープがしみこんでいて味も素晴らしく良い。貝も美味くて、米も良い。これはある意味完璧な食事だと思う。米を食べ終え、アサリの最後の1つを摘まみにワインを呷る、大分食べていると思うのだが、量が少なくまだ胃袋には余裕がある。次に何が出てくるのか、そろそろレイジングブルとか言う奴のシチューが出てくるか?と思っていると次の料理が姿を見せた

 

「バニシングクックのチキングラタンだ」

 

それは俺達が王国で食べているグラタンとはまるで違う料理だった……

 

 

 

 

香ばしい香りを放つ焦げと小さめの丸い皿に目が吸い寄せられる。宿で良く食べていたグラタンのはず……なんだけど

 

(これは……何?)

 

思わず隣に座っているティナと思わず顔を見合わせて

 

「「グラタン?」」

 

「グラタンだけど?」

 

グラタンと尋ねるとグラタンだけど?とやや困惑した感じでカワサキが返事を返してくる

 

「もしかしてカワサキさん。私達の知るグラタンと、彼女らが知るグラタンは違うのでは?」

 

「え?あーそうなのか?」

 

そう尋ねられ、私は小さく頷き、自分の知っているグラタンの内容をカワサキに伝えることにした

 

「スープの中に鶏肉と焼いたパンが入ってるのが私の知るグラタン」

 

牛乳を使ったスープに鶏肉と、薄くスライスしたパンが入っていると言うと、カワサキは首を傾げて

 

「それって美味いか?」

 

「……美味しいと思ってる」

 

好きで良く注文していたけど、これは実際どうなのだろうか?溶けたチーズと香ばしい香り。見た目は全然私達の知るグラタンと違う

 

「と、とりあえず食べてみましょう?」

 

不思議そうなカワサキと見つめ合っていても何も変わらない。リーダーが食べようと言うので、スプーンを手にして皿の中に入れる

 

(うわぁ……)

 

表面の焦げている部分が割れて、溶けているチーズが中の白いソースの中に入っていく。カワサキが中身は鶏肉と茄子と言うのでスプーンを動かして鶏肉を掬う。するとスプーンから零れたチーズが糸を引く……それを見て思わず唾を飲み込む。チーズが良く溶けているのが判るし、温かい湯気が出ていて、それだけで美味しそうだ

 

「ふーふー」

 

良く息を吹きかけて頬張った瞬間。ティナと一緒に美味しいと叫んでしまった

 

「喜んでくれたみたいで何よりだ」

 

カワサキはそう笑う。だけど私とティナはそれ所ではなかった

 

(な、何これ?ぜ、全然違う)

 

軽くパニックになっていたと後になって思う。自分の知っている料理と全然違うのに、自分の知っている料理よりも遥かに美味しい

 

「これは牛乳ですか?」

 

「牛乳は使ってるけど、牛乳だけじゃない。小麦粉を炒めて、牛乳と混ぜて作るホワイトソースって奴だ」

 

シチューのベースにも使うとか言うカワサキの声が聞こえるが、私とティナは夢中でスプーンを動かしていた

 

「全然臭くない」

 

「普通だと思ってたけど、違うんだ」

 

私達の知るグラタンは野菜を煮て、そこに牛乳を加えてスープを作ると言う物だが、それは牛乳臭い物だった。だけどこれは全然臭くなくて、それ所かとても良い匂いがしている

 

(おいひい!)

 

鶏肉も柔らかくてジューシーでホワイトソースとチーズが良く絡んでいて、驚くほどに美味しい

 

「美味しいです!」

 

「天才!」

 

私達の賞賛にカワサキはいや、俺が考えたわけじゃないんだけどなあと言って苦笑する。カワサキの考えた料理じゃないとしても、これだけ美味しい料理を、しかもこれだけ多彩に作ることが出来るカワサキは天才としか言いようが無い

 

「これでシチューも作れるのか?」

 

「濃さを調整して、チキンブイヨンって言う鳥で作ったスープを入れると美味しいシチューになる」

 

シチューはあんまり得意じゃないけれど、それってもしかして私達の作り方が間違っているだけでは無いのか?と言う気がしてきた

 

「これ、これ何?美味しい」

 

鶏肉ともう1つ入っている具材。なんか柔らかくて、皮も独特の食感があって美味しいこれは何?と尋ねる

 

「何って茄子?」

 

茄子も知らない?と言ってカワサキが物凄く不思議そうな顔をしていた

 

「「茄子?」」

 

知らない野菜の名前がまた出てきた。なんか独特の味がするけど、これが凄く美味しい。上手く説明出来ないのだけど、食べていると凄く落ち着く味だ

 

「……ん、ん?美味しいか?」

 

「食べれないことは無いけど、ちょっと苦手ね」

 

「癖があるな」

 

イビルアイやリーダー、ガガーランには不人気のようだが、これは美味しい野菜だ。ホワイトソースとも良く合う

 

「もう王国のグラタンは食べれない」

 

「うん。もう無理」

 

美味しいと思っていた料理が実は不味くて、新しく知った味があまりに美味しすぎて、もう王国の宿でグラタンを頼む事は2度とない、それは私とティナの中で決まったことだった……

 

 

 

シズちゃんのお料理挑戦記 炒飯その2

 

ユリ姉さんに料理を作るから食べてほしいとお願いすると、驚いた顔をしたが、良いわよと言ってくれたので私は今食堂の厨房にいる

 

「……急な話なのにありがとう」

 

「いえ、構いませんよ。どうぞシズ様」

 

急なお願いだったのに厨房を使って良いと言ってくれたシホにありがとうと言って、冷蔵庫を開ける

 

「卵、豚肉、ネギ」

 

使う食材を取り出して、まな板を置いて包丁を手に取る

 

「……猫の手にゃー」

 

「あのシズ様それは?」

 

「……カワサキ様が教えてくれたけど?」

 

野菜を切るときは猫の手。にゃーって言うのは、うん。なんか口から出る感じ、猫の手にして豚肉を食べやすい大きさに切って、ネギも同じように切り分ける

 

「……ご飯、ご飯」

 

ボウルを抱えて炊きたてのご飯をボウルの中に移し変えたら、使う調味料もすぐ使えるよう近くに持ってくる

 

「……まだ」

 

「あの煙出てますけど?」

 

「……大丈夫」

 

シホが心配そうに尋ねてくるけど、大丈夫と返事を返す。フライパンに油を敷いて、煙が出るまでしっかりと加熱したら切った豚肉を入れて、塩胡椒で炒めて、色と味が付いたら

 

「……よいしょ」

 

豚肉をフライパンから取り出して、お皿の上に乗せる。豚肉の油が残っているフライパンにごま油を入れて加熱したら解き解した卵を入れてしゃもじで少しかき混ぜる

 

「……えい!」

 

卵が固まってきたらフライパンの中にご飯を入れて、しゃもじで切るようにして炒める。フライパンを奥と手前と揺すりながら炒め、ご飯に卵が絡んできたら、最初に炒めておいた豚肉とネギを入れて全体を混ぜ合わせる

 

「……塩、醤油」

 

塩で味を調えて、醤油を回し入れて香り付けをしたら最後の仕上げで全体を混ぜ合わせたら火を止める

 

「……あむ」

 

心配なので味見したけど、ご飯がぱらぱらで味もちゃんと付いてる。ちゃんと上手に出来た

 

「……これ」

 

小さい御椀に炒飯を入れて、炒飯の皿に引っくり返すと綺麗な丸になる

 

「……むふー♪」

 

これはきっと物凄く上手に出来たと思う。エントマとルプーもいたから食べるというと思うので3人分作って、トレーに乗せる

 

「……お邪魔しました」

 

「いえいえ、またいつでもどうぞ」

 

シホに忙しい中ごめんなさいと頭を下げ、炒飯を持って私は席で待っているユリ姉さんとエントマとルプーの元へ向かうのだった

 

 

 

メニュー50 川崎の本気(その3)へ続く

 

 




はい!3部構成となりました!次回はぺペロンチーノ、シチュー、ゼリーと書こうと思います。ちょっと頑張って料理を書きすぎたなとか反省中であります。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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  • 間違っていない

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