生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー50 川崎の本気(その3)

 

メニュー50 川崎の本気(その3)

 

カワサキ様の料理を食べる事が出来る。それだけでシモベには過ぎた贅沢だが、今回は更に御方達が苦労して手にした食材まで使われて振舞われている。それをシモベが口にして良い物かと悩んだのだが、カワサキ様とアインズ様からメッセージで告げられた食べて良いという言葉に甘え口にしたが、その余りに素晴らしい味わいに私だけがこれほどまでに幸せな想いをして良いのかと真剣に悩んだが、ひとたび料理を口にしてしまえば、そんな気持ちはどこかへと消えてしまい、幸福感に満たされていた

 

「次はアテナのオリーブオイルを使った特製ぺペロンチーノだ」

 

(ペロロンチーノ様!?)

 

次はペロロンチーノ様の名前を冠した料理!?と思っているとカワサキ様からのメッセージで

 

『名前は似てるけど違うから』

 

……どうも私の勘違いのようで気恥ずかしい気持ちになりながらも、ペロロンチーノ様の名前に似ている料理だから、さぞ豪勢な料理と思っていたのですが……私達の前に現れたのは具材など殆ど見えないシンプルなパスタだった。なおナザリックの食堂にはぺペロンチーノはメニューとしてないのだ。御方に似た名前と言う、御方至上主義のNPCゆえの料理の選別である

 

「ぺペロンチーノは料理人の腕を見るための料理とされ、具材はにんにくと唐辛子しか使わず、味付けも塩だけと具材の豪華さや、味付けに逃げることが出来ない料理だ。是非賞味して欲しい」

 

そう笑うカワサキ様。カワサキ様の料理の腕が素晴らしいのはナザリックのシモベなら全員が知っている。至高の御方のためだけに料理を振るう偉大なお方。それがカワサキ様なのだから、つまりこれは蒼の薔薇と言う冒険者に自分の腕を見せ付ける物と判断した

 

「カワサキさんの腕の素晴らしさは知ってますよ?」

 

アインズ様がそう笑いながらフォークを手にし、パスタを口に運ぶ。それを確認してから私もフォークにパスタを巻き付け口に運び

 

「……」

 

完全に硬直してしまった。美味しいと言う言葉すら出てこない、青の薔薇と言う5人組も同じ反応で、パスタを口に運んでいるのはこの味に慣れているアインズ様だけだった。口の中の物を飲み込み、再びフォークにパスタを巻き付け口に運ぶ

 

(これは……何?)

 

食堂で何度もパスタは食べた。だけどそれとは根本的に違う、具材はにんにくと唐辛子だけ、それなのにどこまで食べても飽きない、そして美味しい。パスタはやや固めで食感が良い、ソースは完全にパスタに絡んでいて味が薄い部分なんて何処にも存在しない

 

「これは驚きました。まさかにんにくと唐辛子だけでこれだけの味になるなんて」

 

「……美味いとか、美味しいとか言う言葉じゃ全然足りない」

 

蒼の薔薇の2人が呆然とした様子で呟き、2人の忍者は無言でパスタを口に運ぶのを繰り返し、ローブを目深に被っているのはずっと震えている

 

(美味しいだけじゃなくてこれは……)

 

自分と言う存在を揺さぶるような、そんな刺激的な味わいだ。ナザリックの戦闘メイド「プレアデス」である、「ナーベラル・ガンマ」と言う存在が何か大きな力に揺さぶられているような……そんな言葉に出来ない味……

 

(この辛味……これが食欲をそそる)

 

にんにくの強い香り……それがもっと食べたいと私に思わせ、唐辛子のピリっとした辛味が食欲を更に掻き立てる。フォークは1度たりとも止らない……

 

(これは……塩よね)

 

カワサキ様も味付けは塩のみと仰っていた。だが口の中に広がる味は塩だけとは思えない、唐辛子とにんにくだけでも無い。炒めるのに使ったオリーブオイル……いやあれには味は無いから。風味だけのはず……

 

(オリーブオイルなのかしら?)

 

口の中一杯に広がる何とも言えない風味と味わい。それはパスタを炒めるのに使ったオリーブオイルなのだろうか?いや、でも仮にそうだとしても、味付けは……美味しい、美味しいと言うのは判っている。だけどその味を、その美味しさを口にすることが出来ない。味の感想すらまともに出てこない

 

カチャン……

 

それは殆ど同時のタイミングだった。私も、アインズ様も、蒼の薔薇の5人もその音でハッとなった様子だ。笑っているのは1人だけ……この料理を作り上げたカワサキ様だけだ。その笑い声に全員我に返り、頬を赤く染める

 

「美味しいって言葉も出ないほどに夢中になってしまいました」

 

「食事にこれだけ没頭したのは本当に初めてだよ」

 

「これ本当に塩だけなの?」

 

「隠し味とか使っているんじゃ?」

 

「……とても美味しかった」

 

蒼の薔薇が口々にカワサキ様を褒め称える。カワサキ様ほど素晴らしい料理人は存在しないからそれは当然の事だ。だがカワサキ様が本気でお料理をされると、まさか食べ終わっている事にすら気付かないとは思っても見なかった

 

(なんて言えば……いえ、言葉じゃ足りない)

 

あの味は、あの感動は言葉ではとても形に出来ない。たとえ誰だってあの感動を言葉にする事なんて出来る訳が無い。当然と言う感じでワインを口にしているアインズ様が凄いと思う、言葉にしたいのに、言葉に出来ない。このもどかしい感じをなんと言えば良いのか……なんと表現すれば良いのかまるで判らないのだ

 

「喜んで貰えてとても嬉しい。だけど次の料理こそが俺の最も得意な料理であり、最も作りなれた物となる。煮込み時間が足りないと言うのはあるが、俺は確信している。今作った物が、俺の作って来た中で最も完璧と言える仕上がりだと」

 

カワサキ様の得意料理で、しかも最も自信のある品!もしかしたら私は今とんでもない場面に立ち会っているのでは無いだろうか

 

「前置きが長くなったな。自分でも余りの渾身の出来に少し気分が高揚している。俺の渾身の自信作、レイジングブルの頬肉のシチューを心行くまで味わって欲しい」

 

そう言って頭を下げるカワサキ様。そして次の瞬間現れた料理に、私は思わず時間が止ったと思うのだった……

 

 

 

 

 

 

アヒージョ、サラダ、ピラフ、グラタン、ぺペロンチーノと来て、最後に出た料理。今まで食べたどの料理も素晴らしかったが、最後のシチューは今まで出た料理とは比べられない輝きに満ちていた

 

(……これは本当にシチューなのか?)

 

私の知っているシチューは白色で牛乳臭い物だが、カワサキの出したシチューは茶色で、嗅いだ事も無い良い香りを放っている。それに皿の真ん中には大きな肉の塊と、その脇に申し訳程度にじゃがいもと人参が添えられている。何度も腕輪を外し、人化を解除し、空腹になると言う事を繰り返し、ここまで食べて来た。だが今回の料理は満腹に近い今の状態でも、食べたくなる不思議な引力を持っていた。スプーンを手にして、シチューを少し掬い口に運ぼうとするその間にも漂ってくる香りにクラクラしてくる

 

(なんだ、これは……)

 

魔法や麻薬でもない……食べろと身体が叫んでいる。そんな気がする、口に運ぶ前に少し深呼吸し、そしてスプーンを口に運んだ……

 

「「「「「「「ッ!!!」」」」」」」

 

食べていた全員が大きく目を見開き、そして硬直した。口の中でありとあらゆる旨味が爆発したような……今まで食べてきた物がなんだったのかと思う

 

「……驚きました、まさかこれほどまでに美味しいなんて思っても見ませんでした」

 

アインズが驚いたように、そして信じられないと言う感じで呟く。ラキュースが口を開こうとして、それを止め再びスプーンでシチューを掬う。言葉にするよりも料理を口にしたいと思ったのだ

 

「……」

 

「……」

 

騒がしいティナとティアも言葉が出てこないのか、無言でシチューを口に運ぶ姿が見える。私は知らずに震えていた手に今この時気付いた……皿には肉の塊が1つ、頬肉と言うのだろう。それが1つと、申し訳程度のじゃがいもと人参。目に見えるのはこれだけなのに、味は目に見えるものよりも遥かに豊富でそして味わい深い物だった

 

「料理の道を極める事を考えて、やって来た。このシチューは今の俺が持てる技術の全てを注ぎ込んだと言える。間違いなく、今作れる中でこれが最高の1品だ」

 

物静かなカワサキの呟き。美味しいと言う言葉さえ出ず、沈黙に満ちている部屋にその呟きだけが吸い込まれるようにして響き渡る

 

(言葉も無い)

 

美味しい物を食べると笑顔になり、そして笑いたくなる。それが人化の腕輪をし、ラキュース達と食事をするようになった私の結論だった。だが本当に美味しい物を食べた時……人は無口になってしまうのだと今知った

 

(スープでこれならば……肉を食べた時はどうなる)

 

無言でシチューを口に運ぶ、一種の異様な雰囲気の中。私は皿の中央の肉を見て、そう思った。無意識だったのか、既にじゃがいもと人参の姿は無く、残るのは……その時。静寂に満ちる部屋の中にコトリと何かを置く音が響き、思わず顔を上げる。それは私だけではなく、この部屋にいた全員がだ

 

「そのビーフシチューに合うパンが今、焼きあがった。これも一緒に食べて欲しい」

 

小さな篭に納められた2つのパン。艶やかな照りがあり、見るだけでも判る。非常に柔らかいと……肉を食べる前に丁度いいかもしれないと思い、パンに手を伸ばしたのは私だけでは無いだろう。だがそのパンを手にして、また動きが止った。指先で触れただけなのに、指先がパンの中に吸い込まれるように感じた。それを潰さないように気をつけて、引き寄せ小さく千切る

 

(中にバターが!?)

 

中を見て驚いた。中にはバターが練りこまれていて、千切るとそれがパンの中に染みているのが良く判った。それをシチューにつけると、中のバターが溶け出し、シチューへと混じっていく……それをぼんやりと見つめながらシチューが染みこんだパンを頬張る

 

(ち、違う……)

 

先ほどのシチューとは味わいがまるで変わっていた。シチューに合うパンとカワサキは言っていたが違う、これはシチューを更に引き立てるための物だと1口で判った。柔らかく甘みの強いパンに練りこまれたバター、それがシチューの味わいを全く別の物へと変えていた。シチューだけの味に満ちた口がパンの甘みで1度リセットされた……そしてその上でカワサキは言っているのだ。

 

「カワサキさん。フォークをもらえますか?」

 

これだけの肉の塊を食べるのにフォークが無い。アインズがカワサキにそう頼むと、カワサキは首を横に振り

 

「フォークは必要ない。スプーンで触ってみれば判る」

 

フォークが必要ない?これだけの塊なのに?……何を馬鹿なと思いながらスプーンで皿の中央の肉に触れた瞬間。力も入れていないのに、肉はホロリと崩れた

 

「「「!?」」」

 

そのありえない現象に思わず目を見開く、スプーンは掬うための物で、決して肉を崩せるものでは無い。だが目の前でスプーンで触れただけで肉が崩れたのだ。

 

「中は赤いが火はしっかり通っているから心配ない」

 

中が赤いので生では?と言う不安が頭を過ぎったが、すぐにカワサキに火が通っているから大丈夫だと言われる。私はシチューと共に肉をスプーンで掬い頬張った……スプーンで崩れるほどに肉は柔らかいのに、噛み応えがある。しかし硬い訳ではなく、本当に丁度いい硬さなのだ

 

(これは本当に牛肉なのか……)

 

肉は硬い。それは私も知っているし、ラキュースも知っている。肉と言えば、森の獣が中心で、牛肉・鶏肉は乳も出さない乳牛や、卵を産めなくなった鶏を潰して、保存食などになって市場に出回る程度だ。だから牛肉なんてと思っていたがこれは違う

 

(肉汁が口の中に満ちる)

 

噛み締めるとその都度に肉汁が溢れ出し、シチューと混じりその味わいを変える。濃厚なシチューの味わいが更に良く、そして素晴らしい物になる。肉とシチューを食べる度にこくこくと頷いていた。それは私だけではなく、ラキュース達も同じで目を閉じ、何度か頷く……言葉で表現出来ない、美味しいをなんと表現すれば良いのかと思っていたのだが、本当に美味しい物を食べると人は無口になり、そして1人でに頷いてしまうのだと私は今日初めて知るのだった……

 

「あ……」

 

それは誰が呟いたのか判らなかった。もしかしたら私だったのかもしれないし、ラキュースだったのかもしれない、それともアインズだったかもしれないし、ナーベだったかもしれない、いや、もしかすると全員だったのかもしれない。始まりがあれば終わりがある、あれほど並々と注がれていたシチューと肉の塊はもう後1口分しかなくて、とても物悲しい気持ちになった。最後に残った肉の塊をスプーンで掬い、それをゆっくりと噛み締める。これほど満足し、心まで満たされた食事は何時振りだろうか……口の中の肉を飲み込み、小さく溜息を吐く。それは私だけではなく、ラキュース達も、アインズも同じ反応をしていた

 

「では最後に季節のフルーツゼリーになります」

 

小さな金の皿に盛り付けられているのは半透明なゼリー……だが、その中に閉じ込められている金のフルーツの鮮やかな輝きが、透明なゼリーから漏れ、それが金の皿に当たって反射する。その幻想的な輝きに思わず溜息を吐くのだった……

 

 

 

 

 

 

シホに聞いたのだが、ついにエルフ達とピニスンが金の果物の収穫に成功したそうだ。とは言え、収穫量に対しての1割ほどでその数は少ないのだが、成功は成功だ。それを用いたゼリーは少量だが、その味わいは紛れも無く別格だろう。

 

(人は美味しい物を食べると声もなくなるんだよな)

 

美味しい物を食べると口が利けなくなる、無言で満足そうに頷く。この反応を見たのは本当に久しぶりだ、ゼリーを食べ終え、満足そうに頷くモモンガさん達。作るのにほぼ1日掛けて、食事時間は1時間ほど、なんと儚い事かと思うのと同時に、素晴らしい充実感がある

 

(やっぱり俺はまだ「俺」だ。カワサキじゃない)

 

今回の料理は俺が俺であると言う確信を得る事が出来たと言える。貧民層に落ち、料理を振舞ってきたが、まだ俺の中には料理を極めたいという熱が確かに生きている。この気持ちだけはクックマンの設定に引きずられての物では無いと胸を張って言える

 

「ご馳走様でした。とても美味しかったです」

 

「いや、本当に良い腕してるなあ、こんなに美味い物を食べたのは初めてだぜ」

 

「美味しかった」

 

「また来る」

 

「……美味しかった」

 

蒼の薔薇の面子にも喜ばれて、今回のは大成功だったと言える。若干モモンガさんの目が吊りあがっているのは無視しよう……と思っていたのだが、そしたら今度はメッセージを送って来た

 

(カワサキさん。まだ残ってますよね?食材)

 

(問題ない)

 

今回使った量は微々たる物だ。全体の貯蓄量を考えれば1割にも満たない、と言うか当然だ。使った食材の大半がモンスター扱いの物だ、しかもその大きさは普通の牛の10倍とかありえない大きさだ。今回の料理に使った量を毎回使っていたとしても、それこそ10年近く経ったとしても、使いきれる量では無いだろう

 

「これ、ラナーからの手紙です」

 

……ラキュースさんから差し出された手紙に、今まで高揚していた気分が一気に沈みこんだ。なんであのお姫様から手紙が来るんだよ

 

「拝見しても?」

 

どうぞと言われモモンガさんが手紙の封を切り、中身を確認する

 

「なるほど、帝国四騎士のバジウッドとレイナースという人物がエ・ランテルへ訪れると」

 

……どうしようかな、ちょっと頭痛がしてきた気がするぜ

 

「はい、流石に服装などは普通の物となっているそうですが、王国と帝国の協力に対する話し合いの為に入国しているそうです」

 

あーそんな話になってたなあ。うん、俺が暴れたせいですね、判ります。後悔先にたたずの意味を今初めて知った気がする

 

「詳しくは私も聞いていませんが、それだけは伝えておくべきだと思いまして。ではご馳走様でした。また、来ます」

 

そう笑って階段を下りていくラキュースさん達を見送り、俺は椅子に座って

 

「どうしようか?」

 

「どうしようって言われましてもね。私は面識も無いですし、カワサキさんに任せますよ」

 

いや、俺に全部投げられても困るんだが……バジウッドだけならまだ良いよ?でもレイナースは絶対あれだ

 

「レイナースって言う女騎士が呪われてて、それを解除したいって言ってるんだよ。で、俺もいいかなって言ってて、ナザリックの食材を少し使いたいんだが……」

 

その言葉にモモンガさんが、深く、深く溜息を吐く

 

「カワサキさん。俺も困っている人は助けるべきだと思いますよ?でも限度って物があるでしょう?今回の料理だって、少し羽目を外し過ぎでは無いですか」

 

美味しかったが、何もS級のアイテムを使うまでも無かったと思う。使ったとしてもAくらいで十分だったはずとモモンガさんに怒られる。確かにそれはそうだが、作っている内にテンションがあがりすぎたと言うのは認めざるを得ない

 

「返す言葉も無い」

 

とは言え、助けることに関してメリットが無いわけでは無いと思うから良いと返事を返した訳なんだが

 

「でも帝国の重鎮らしいし、色々情報がもらえると思うんだよ。特に帝国の図書館、なんか伝承とか、神話の本が多いらしいし、それを見るための理由にならないか?」

 

法国の影にいるのが八欲王なのか、それを確認する為の情報になるかもしれないと言うと

 

「無駄では無いですね。判りました、ナザリックの食材を使う事は了承します、ですがA~S級を今後使用する場合は、必ず事前に話し合う事。これを約束してください、良いですね?」

 

もう入手が出来ないものもあるんですからねともう1度念を押される。料理人としては食材は使うものだが、確かにS級のアイテムは戦況すらも左右する。今回の件は全面的に俺が悪いと認めざるを得ない

 

「判った。約束するよ、今回はすまなかった」

 

「判ってくれれば良いんです、では私達もこれで行くぞ。ナーベラル」

 

「はい、カワサキ様失礼します」

 

ぺこりと頭を下げ出て行くナーベラルとモモンガさんを見送り、俺は食器の後片付けをしながら、明日来るかもしれないバジウッドとレイナースの事を考えるのだった……

 

 

 

 

 

シズが料理を作るから食べてほしいというのでエントマとルプーと待っていると、シズがトレーを持ってとととっと歩いてくる

 

「……豚炒飯」

 

ゆっくりと置かれる炒飯。底の広い皿に球体に丸められた黄色の炒飯がある

 

「……頑張った」

 

シズがふんすと胸を張る。カワサキ様に教わって料理まで出来るようになったなんて、姉として妹の成長が嬉しくて仕方ない

 

「わぁ、ちゃんと出来てるっすね!私は焦げてたりするとか思って「ルプーッ!」いたあ!ご、ごめんっす。シズちゃん」

 

シズが頑張って作ったと言っているのにどうしてそんな酷いことを言うのかと拳骨を落とすと、すぐにごめんと謝るルプー。どうして何時も余計な事を言うのかと思わず溜息を吐く

 

「「「いただきます」」」

 

「……はい、どうぞ」

 

嬉しそうにしているシズを見ながらスプーンを手に取り、炒飯を掬う。パラパラとしていて、食堂で頼む炒飯と遜色が無いように見える

 

「おおーっ!美味いっすよ!ちょっと薄味だけど、全然美味しいっす」

 

「……あむう。あむあむ……」

 

美味しいと食べるルプーと食べるごとに元気の無くなるエントマを見ながら僕も炒飯を口に運ぶ

 

(ん、凄いわ)

 

ルプーの言うとおりほんの少し薄味だけど、それは微々たる物だ。お米にはちゃんと卵が絡んでいるし、べちゃべちゃしてる部分もない。

 

「美味しいわ、シズ」

 

「……」

 

シズはトレーで顔を隠して恥ずかしそうにしているが、本当に上手に出来ている。恥ずかしい話、プレアデスは戦闘メイドなのでやはり戦闘力が重視される。料理や掃除が苦手と言う訳では無いが、それでも得意かと言われるとそうでは無い。そういう僕も下拵えは出来ても料理は出来ない、だけどシズの成長を感じられて本当に嬉しい

 

(豚肉がしっかりしてる)

 

しっかりと焼かれているので香ばしく、多分最初に炒めてから卵とお米を炒めたので、卵とお米にもしっかりと豚の油がついている

 

「ルプーも料理覚えるの?」

 

「え?あたし料理出来るッすよ?」

 

さらりと告げられた言葉に僕とエントマの顔色が変わる。ルプーはにししっと笑いながら

 

「簡単なスープとか肉を揚げるとかそんなのっすけど、ちゃーんと料理出来るっすよ~あ、後食べれる茸とか野草の仕分けもバッチリ!」

 

「ルプーの裏切り者オオオオオ!!!」

 

エントマは炒飯を食べ終えると、半泣きで食堂を飛び出そうとして、出口の所で振り返り

 

「わ、私はまだ負けてない!」

 

「……エントマが妹」

 

「う、ううううーッ!!!違うんだからー!」

 

ふんすと胸を張るシズに背を向けて逃げ出すエントマを見ていると

 

「ご馳走様っす、美味しかったっすよ~」

 

シズに手を振り歩いていくルプーを見送り、私も炒飯を食べ終え

 

「ご馳走様シズ。美味しかったわ」

 

「……良かった。今度はサンドイッチ作る」

 

頑張ると力強く言うシズに頑張ってねと声を掛け、食堂を後にしながら

 

(僕も料理を覚えないといけないかも)

 

1番料理が出来そうにないルプーですら料理が出来る。姉の尊厳を護るためにシホに料理を教わる必要があるかもしれないと思いながら、昼からの仕事に向かうのだった

 

「……皆美味しいって言ってくれた」

 

むふーっと嬉しそうに笑みを浮かべるシズは3人分の食器の片づけを始めるのだった……

 

 

 

賄い7 吸血姫の驚愕/騎士の考え/ナザリックは平和(?)へ続く

 

 

 




大分いい感じに話が増えてきましたね。そろそろイベントを起こしていくか、悩む所です。そろそろ頃合なのか、いつツアレを出すか実に悩む所です。後ゲヘナ問題もありますしね……料理を続けていると、どこでイベントを勧めるか悩み始めるようになりました。そろそろ動かすべきなのかなぁと悩みます。次回は賄い、料理なしで行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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  • 間違っていない

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