生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー52 鶏南蛮

メニュー52 鶏南蛮

 

前にマルムヴィストと共にカワサキの店に来てから大分間隔を開けて、俺は再びエ・ランテルに足を踏み入れた。その理由は蒼の薔薇の連中がエ・ランテルに駐在しており、思うように訪ねる事が出来なかったというのが大きい、だが畑が焼かれたと言う報告を受けて、俺はぺシュリアンと共にカワサキの店に向かっていた

 

「畑は良いのか?」

 

いつもの全身鎧ではないぺシュリアンが小声で尋ねてくる。動きやすい軽鎧に帽子姿、厳ついと取れる顔つきに白髪。それほど老けている訳では無いのに年寄りの様な印象を受ける

 

「エド達が見回りに行ってるから問題ない。カワサキをスカウトするのも大事な仕事だ」

 

まだスカウトのスの字も出していないが、カワサキを殺すよりも引き込むほうが俺は利益に繋がると思っているのだから

 

「いらっしゃいませー……あー」

 

「なんだよ、そんな顔をするなよ」

 

給仕をしている軽戦士のクレマンティーヌが微妙な顔をするので思わず声が出る

 

「いや、別にぃ?カワサキが良いって言ってるからさ、お客さんだけど、私としては思うところがあるわけよ」

 

その言葉にぺシュリアンが身構えるが、それを肩を掴んで制止する。カワサキは俺達が裏の人間と判りながらも迎え入れている、そのさっぱりとした気概も俺がこの店を気に入っている理由だ

 

「まぁいいや、いつもの席で良い?」

 

「ああ、それで構わない」

 

じゃあこっちへどうぞーと言ってカウンター席に案内される。俺はメニューを開かず、いつものように気配もなく隣に立ったメイドが差し出してくれた水を口にする。ぺシュリアンはぎょっとしていたが、これもこの店の出迎えと思えば驚くことも無い

 

「いらっしゃい、何にする?まぁ大体判ってるけど」

 

厨房から顔を出したカワサキにニッと笑いながら、銀貨を5枚机の上に置く

 

「リブロース600gとガーリックライス大盛り、こいつはちょっと待ってくれ」

 

ぺシュリアンはメニューを見て唸っているので、もう少し待ってやってくれと言う

 

「じゃあ先にステーキの方を準備しても良いか?」

 

「ああ、それで頼む」

 

了解と言って厨房に引っ込むカワサキ。すぐに聞こえてきた肉の焼ける音に笑みが零れる、この店で肉を食べてから色々と真似をしてみたのだが、どうしても同じ味にならない。肉なのに何が違うのだろうかとずいぶんと悩んだ物だ

 

「ずいぶん悩んでいるな、どうした?」

 

「……卵は食べたいが、それだけでは味気ない。肉も一緒に食べたいのだが……」

 

肉と卵ね……俺はカウンター席のまま厨房に向かって

 

「カワサキよー、肉と卵を一緒に食べれる料理ってあるかー?」

 

「あるぞー、でも今から作るとちょっと時間掛かるぞ?」

 

顔を出して時間が掛かると言われる、ぺシュリアンは小さく頷き

 

「それで構わない、それを頼む」

 

「銅貨7枚だからな」

 

何を頼んでも判らないのでカワサキに任せると言う結論を出したようだ。まぁカワサキの料理は美味いので、何が来ても美味いのは間違いない。値段も伝えてくれる辺り本当に親切だ

 

「はい、お待ちどうさま。リブロースステーキとガーリックライス大盛り」

 

鉄皿の上で香ばしい音を立てる肉の塊と、にんにくがたっぷり使われたガーリックライス。それに笑みを浮かべながら、俺はナイフとフォークに手を伸ばすのだった……

 

 

 

また八本指の男が訪ねて来た。前に訪ねてきた男とは別の男を連れてだ、雰囲気とかはリアルでも何百回と見たヤクザに似ているので恐れることは無い。訪ねて来ている理由は俺をスカウトしようとしているのか、それとも傘下に入れようとしているのか……

 

(でも逆に引き入れることも出来そうだ)

 

八本指全体で考えると難しいかもしれないが、あのスキンヘッドの男。あの男の目を見れば判る、今は曇っているが、強さを追及する男の目だ。ああいう気概の男は俺も嫌いじゃない、なんで犯罪組織なんかにいるのかは判らないが、かなり大きい組織なので引き抜ければ裏世界の事情が判るかもな、とは思う

 

「さてとやるか」

 

もう1人の男の注文。肉と卵を使った料理と言えば、やっぱり鶏南蛮が1番だろう。冷蔵庫から鳥胸肉を取り出し、やや厚めに削ぎ切りにする。女性相手ならもう少し小さめに切り分けるが、相手は男、しかもかなりガタイのいい男なので厚めにする。切り分けたら、塩・胡椒・酒を振り、軽く揉み込み少し寝かしておく、その間に片手鍋で水をいれ、卵を2個沈めてゆで卵の準備と、鍋に油を入れて肉を揚げる準備を同時にする

 

「よっと」

 

それが終われば肉の調理を再開する。薄力粉を鳥胸肉に塗し、卵を割って溶き卵を作り、薄力粉を塗した鳥胸肉を潜らせて、温めておいた油で揚げる。肉が揚げられる高温に思わず笑みが零れる

 

「カワサキー、机の掃除終わったよー」

 

「お疲れさん、まかないはもう少し待ってくれ」

 

八本指の2人が来たのは昼の営業が終わる時間ぎりぎりだったから、2人が帰ればすぐに準備をするからと声を掛け、卵が茹で上がったので殻を剥きボウルに入れておく

 

「それ何作ってるの?」

 

「鶏南蛮」

 

見たことの無い料理にへーっと興味深そうにしているクレマンティーヌを見て、苦笑しながら狐色に揚がった鳥胸肉をバットにからげ油をきっておく

 

「賄いにするか?」

 

「んーそれより昨日調整してたスープが気になるかなー」

 

シズとクレマンティーヌが外食してきてくれたので、それに合わせて味付けを変えているが、まだあれは食べれるレベルじゃないんだよなぁ

 

「あれはまだ食べるには早いぞ?」

 

「そうなの?んーじゃあどうしよっかなあ、シズ様。また外に食べに行って見ます?」

 

クレマンティーヌの言葉にシズは少し考える素振りを見せて

 

「……私、お料理作りたいです」

 

シズが料理を作りたいと言う、普段俺が作っているがシズが作ってくれると言うのも面白いかもしれない。それに自分の意思を出すのなら、それを考慮してやりたいし

 

「良し、じゃあ今日の賄いはシズに任せよう」

 

頑張りますと笑う、シズを横目に玉葱を微塵切りにして水に晒しておく、こうしないと辛味が出てしまうからだ。しかしシズが料理を作ると言い出したか……なにか感慨深い物があるな

 

「キャベツの千切りだけで良いか」

 

キャベツの千切りと味噌汁と漬物と大盛りの飯。これで決まりだなと呟き、フライパンに酢30ml、醤油20ml、砂糖20gの3・2・2の割合でいれ加熱して、甘酢を作る。ただこのままだと粗熱があるので、冷ましている間にゆで卵をフォークで荒く潰し、水に晒しておいた玉葱とマヨネーズを和えてタルタルソースを作り

 

「これで完成っと」

 

甘酢に揚げた鶏肉を絡め、千切りキャベツを盛り付けてある皿に載せ、タルタルソースをたっぷりと掛ける

 

「はい。お待ちどうさま、鶏南蛮定食になります」

 

スキンヘッドの男の隣に座っていた、ガタイの良い白髪の男の前に完成した鶏南蛮定食を置くのだった……

 

 

 

隣で美味そうに肉を食うゼロの姿を見ながら待つ。肉の焼ける音とにんにくの香ばしい香りがして、何度も何度も腹が鳴る。俺の料理は一体何が来るのかと期待していると

 

「はい。お待ちどうさま、鶏南蛮定食になります」

 

目の前に置かれたのは飴色のタレと黄色のソースが掛けられた揚げられた肉と山盛りの飯とスープと野菜だった。ごゆっくりどうぞと言って厨房に引っ込むカワサキを見送り、フォークを手にする

 

「なんだ、ずいぶん美味そうだな。少し交換しないか?」

 

「……少し待て」

 

ゼロの食べている肉の塊も興味はあるが、今は自分の料理だ。フォークを刺して揚げられている肉を持ち上げて頬張る。酸味と甘みのあるソースの味が口の中に広がり、次に卵の濃厚な旨味と鶏肉の脂が口一杯に広がる

 

「……美味い」

 

山盛りの飯が盛られた皿に手を伸ばし、フォークで飯を掻き込む。鶏肉を1口で半分ほどの飯を掻き込んでしまった……

 

「飯はお代わりできるぞ?無料で」

 

俺が落胆しているのを見て、ゼロがそう教えてくれる。それならば良いと残りの鶏肉を噛み締める

 

(柔らかい)

 

普段食べる肉とはまるで違う。柔らかく、脂が乗っている。食べる為に育てている肉を提供する店と聞いていたが、そこまでとは思って無かった。だがこうして口にすると全然違うと驚かされる

 

「……やっぱちょっとくれよ」

 

「良いだろう。交換だ」

 

肉の真ん中の厚い所をお互いに交換する。ゼロがくれたリブロースと言うのは中がほんのりと赤く、表面がしっかりと焼かれているのが判る

 

「美味い!この甘酸っぱいソースが良いな」

 

今度来たら俺も頼んでみるかと笑うゼロを見ながら、交換したリブロースに齧りつく

 

(凄い肉汁だ……それに柔らかい)

 

その大きさから硬いと思っていたのだが、唇で触れるだけで簡単に噛み切れる。だが噛み締めると歯を跳ね返す弾力があり、噛めば噛むほど旨味があふれ出してくる。米を食べる手が止らない、肉と米と言うのはこんなにもあうのかと驚かされる

 

「店主。お代わりを頼む」

 

空になった皿を店主に差出し、待っている間に一緒に出されていたスープを口にする。

 

(美味い……これは何のスープだろうか)

 

茶色と言う見た事の無いスープに最初こそ警戒したが、1口飲めばその警戒心は簡単に消えた。やや塩辛く、独特な風味のあるスープ。それは口の中をさっぱりとさせてくれて食欲を増させてくれる

 

「お待たせしました。飯のお代わりになります」

 

「ありがとう」

 

先ほどよりも多く盛られた米。ずっしりと重いそれを受け取り、食べるのを我慢していた鶏南蛮にフォークを伸ばす。この飴色のソース、甘みと酸味があるこの独特のソースも美味い。卵のソースが掛かって無い部分を取り飯の上に乗せる

 

(おお……)

 

思わず心の中で歓声を上げてしまった。ややトロミのあるソースが飯に染み込んで行く。これは肉を食べなくても食べれそうだなと思わず思ってしまうが、それでもやはり肉を我慢する事は出来ず肉を頬張る。だが今度の味は最初の味とはまるで違っていた

 

(卵のソースがなくてもこれは美味い!)

 

最初は卵のソースありきの料理と思っていたのだが違う。この甘みと酸味のあるソースだけでもこの肉は恐ろしいほどに美味くなる

 

(肉の旨味を甘みが引き立て、酸味が口の中をさっぱりとさせる)

 

肉自身の旨味が強いのだが、それだけでは口の中がもっさりとする。だが酸味が肉の味に満ちた口をさっぱりとさせてくれ、飯を食べたくする。噛み締めていると甘みが出てくる米はこの味の濃い鶏肉と恐ろしいほどに合う

 

「カワサキ、悪いんだがガーリックライスお代わり」

 

ゼロが俺が勢い良く食べている姿を見て、ガーリックライスとやらのお代わりを頼むのを横目に、今度は卵のソースだけをフォークに載せて口に運んでみる

 

(美味い)

 

卵を潰して作ったであろうこのソースはとんでもなく旨味が強い。だがこれはそれだけでは無い、鶏肉に絡められている酸味と甘みのあるソース、それとは少し違う酸味がこのソースにはある

 

(マヨネーズ……違うか)

 

王国にもある卵を使うソースの味に似ている気がするが、あれはこんなにも味は良くないな。そんなことを考えながら口を動かしているとシャキッとした食感を感じた。やや辛いそれは俺も馴染みのある野菜……玉葱だ

 

(なるほど……な)

 

卵の濃厚な旨味と一緒に和えられている何かのソース。それに味の変化をつける為の刻んだ玉葱、豊かな風味を持つこの卵のソースと甘酸っぱいソース、この2種類のソースが鶏肉の旨味を良い物にしている

 

(ゼロとエドが引き入れたいという理由が良く判った)

 

首都で店を構えていたとしても、この店は繁盛しただろう。カワサキの腕の良さは王国の料理人よりも頭1つも2つも飛びぬけている。それに見たことも無い料理で人の心を掴む。卵のソースをたっぷり鶏肉に絡めて頬張る

 

(ああ……美味い)

 

柔らかい肉、甘酸っぱいソースに卵の濃厚な旨味を持つソース。その全てがあり、この鶏南蛮と言うのは完璧だ。これ以上美味い物は俺の記憶の中で食べた事が無い、肉を食い、米を頬張る。その手が止る事はただの1度も無いのだった

 

「ありがとうございましたー」

 

やや食いすぎたと思いながらカワサキの店を出る

 

「納得しただろ?」

 

「納得だ」

 

カワサキを引き入れる事が出来れば、確実に八本指は発展するだろう……だが俺は逆の事も考えていた

 

「逆に六腕全員でカワサキの所に入るのはどうだ?」

 

「……きつい冗談だな」

 

冗談とゼロは笑うが、その目の色が変わったのに俺は気付いていた。元より六腕はゼロに従っていた集団だ、今でこそ八本指の1組織として認められているが、それがゼロにとって良い物かと言うのは全員が察している。八本指で権力を得る事はゼロにとって望んでいる物では無い、ゼロは強くなりたいと言う事を全員が知っている

 

(もしもだがな)

 

もしもカワサキの後ろに八本指よりも大きな組織があるとしよう。もしそうならば、それこそ八本指を裏切ってしまっても良い。ゼロは恐らくそれを考えている

 

「決断するなら相談くらいはしてくれ、サキュロントはどうだか、少なくともマルムヴィスト、デイバーノック、エド、そして俺はお前に従うぞ」

 

サキュロントは一番の小物で、能力も劣る。それに今の権力を気に入っている節もあるが、少なくとも付き合いの長い面子は八本指かゼロかと問われれば、ゼロを選ぶだろう。元々ゼロの人徳で集まった面子だ、確かに今の贅沢が出来る暮らしもそう悪くは無いが、それとゼロの願いを秤にかければ、俺はゼロを選ぶ。それだけのカリスマ性がゼロにはある

 

「このまま畑の見回りに行くぞ」

 

「了解」

 

その足取りも何もかも普段通りだが、その声と覇気には迷いがある。何か切っ掛けがあれば一瞬で変わりそうだなと思いながら、俺はゼロと共にエ・ランテルを後にするのだった……

 

 

 

 

その日の夜。エ・ランテルにふらふらと入ってくる女性の姿があった。褐色の肌をし、村人と言う感じの変装をしたその女性の名はエドストレーム、昼間に訪れていたゼロ達同様、六腕の1人だった……彼女は重い足取りでエ・ランテルに足を踏み入れた。その理由はカワサキの店で食事をしたい、それだけだった

 

(もう散々よ)

 

ライラの畑は燃やされ、更に言えば何もかも吸い込むモンスターまでがうろうろしている中での畑の見回りは精神的にも肉体的にも追い詰める。一緒に見回りをしていたマルムヴィストとサキュロントはそのまま王都へと直行した、私はそのまま王都に戻るよりも、エ・ランテルでカワサキの所で食事をする事にしたのだ

 

(良かった)

 

まだ営業中の看板が出ているのを見て、安堵しながら店の扉を開ける

 

「……いらっしゃいませ」

 

気配もなく出迎えてくれたメイドに一瞬ドキリとしながら店の中を進み、カウンター席に腰掛ける

 

「……どうぞ、お水です」

 

「ありがとう」

 

物静かなメイドの少女の気配が妙に落ち着く。共に出された布巾で手と顔を拭き、冷たい水を口にしてやっと一息つけた

 

「あの店主いるかしら?」

 

カウンター席から声を掛けるとカワサキが顔を出す。私を少し観察してから

 

「おでんのときにハゲと一緒にいた踊り子さんかい?」

 

どうも何度もお代わりしてしまっていたせいで、カワサキに顔を覚えられていたようだ。これでは変装の意味が無いのだが、それよりも先に込み上げる笑いを堪えることが出来なかった

 

「……ぷふっ!」

 

ゼロをハゲという奴を初めて見て、思わず噴出してしまった

 

「あはは!そうよ、覚えてたんだ」

 

「何回もお代わりに来てたからな、そりゃ覚える。昼間にも来てたぞ、あのハゲと白髪の男」

 

……人が命懸けで見回りをしている時に何をしてるんだと怒りを覚えたが、小さく深呼吸をして

 

「私はエドって言うの、よろしくね」

 

「俺はカワサキだ。よろしく、それで俺を呼んだのは何だ?」

 

メニューはあるだろう?と言うカワサキ。勿論それは知っていたが、あそこには無いものが食べたかったのだ

 

「マートフって知らないかしら?」

 

「マートフ?いや、生憎知らないが、どんな料理だ?」

 

マートフは私の母が良く作ってくれた料理だ。有名だと思っていたのだが、王都でも、帝国でも食べる事が出来ず。どこかの民族特有の料理だと私は思っていた。母が亡くなってから食べれなくなってしまったのだ

 

「赤いトロリとしたスープに入っていて、白いこれくらいの塊と、挽肉と野菜が入ってて、食べると口がピリピリするけど美味しくて」

 

昔の事を思い出しながらどんな料理だったかを思い出す。赤いスープに入っていて、白い正方形の柔らかい何かと挽肉が入っていて……食べると汗が吹き出てくるんだけど、それがとても美味しかった

 

「ああ、そう。タイサーンとか言う店の料理って言ってたっけ」

 

私の言葉にカワサキの眉が大きく動いた。白い何かは母さんだけが作り方を知っていて、全然見ることの無い食品だった

 

「失礼だが、お前さんのお袋さんは?」

 

「……死んじゃった。流行り病だったみたい」

 

母が死んでから、あまり仲の良くなかった父に売られ、裏家業を始め、そして今では八本指の警備部門六腕に拾われた。今思うと母が生きていた時が1番幸せだったと思う

 

「……死ぬまでに何か言ってなかったか?辛いことだと思うのだが、思い出してはくれないか?マートフは多分俺も作れる、だから教えて欲しい」

 

なんでそんなに母の事を気にするのだろうと思いながらも、マートフを食べれるならと、幼い時の事を思い返す。すぐに思い出したのは

 

「そうだ、おじいちゃんとおばあちゃん、お母さんのお父さんとお母さんだと思うけど、2人にもこの緑を見せたかったってよく言ってた」

 

自然に満ちた農村の生まれだった私。母さんはそんな緑を見て、良くそう言っていた

 

「生まれた場所は緑がなくて、何時死ぬかも判らない場所って言ってた」

 

村一番の戦士でもあった母は私の誇りだった。何時だって村を守ってくれたのは母だったから……

 

「そっか、ありがとう。今から準備するから少し時間をもらえるか?」

 

「全然大丈夫。お願いするわ」

 

マートフを食べれる、それだけで良い。もしかしたら名前が似てるだけで全然違う料理と言う可能性もあったけど……ここなら絶対食べることが出来る。私はそう確信するのだった……

 

 

なおその頃ナザリックでは

 

「そう言えばシズが言ってたわね、カワサキ様は短髪が好みだそうよ?」

 

「え?そうなのですか?……と言っても髪を切るのは少し」

 

「……あ、あたしは嫌かなあ……カワサキ様に好かれるようにするのも大事だと思うけど……ぶくぶく茶釜様が決めてくれた姿を変えるのは少し……」

 

性格が戻る気配が微塵も無いアルベド達はアルベドの私室でお茶会を開いていた

 

「それよりも、アルベド。王国での計画はどうなったのですか?」

 

「ええ、それは大分形になったわよ。アインズ様の御意向で王族貴族にさほど被害を出さない方向になりそうだけどね」

 

「で、でも、もし相手がアインズ様や、か、カワサキ様に危害を加えようとしてもですか?」

 

アウラの問いかけにまさかとアルベドは笑い

 

「もしカワサキ様に危害を加えたら好きにしていいって言われてるわ」

 

「当然ですね、偉大なる御方に危害を加えるなど、人間に許される訳がありません」

 

……訂正しよう。口調はそのままだが、その思考などは徐々に元の姿に戻りつつあった

 

「が、頑張れば、カワサキ様はご褒美をくれるかな?」

 

「勿論よ、もしかすればアインズ様も何か褒賞をくれるかもしれないわ」

 

「私達も王国で動く時に動くことが出来れば良いですね」

 

まだナザリックで待機しているように言われているが、動くと決まれば褒めていただけるように頑張りたいと思うのは当然の事だ

 

「あ、そう言えば、コキュートスが最近炎を扱えるようになったとか……」

 

「……カワサキ様のお料理に何か効果があったのかしら?」

 

シャルティアの言葉を切っ掛けに剣呑な雰囲気は消えたが、徐々に、徐々にだが……本来の性格がその姿を見せ始めているのだった

 

「ぬ、ヌウウウ……」

 

「コキュートス余り無理をしないように」

 

「判ッテイルゾ。デミウルゴス」

 

そしてコキュートスはと言うと、デミウルゴスの指導の下。扱えるようになった炎を使いこなす修練を始め

 

「ふー。やれやれですなあ」

 

やっと人型に戻る事が出来たパンドラズアクターは軍服に袖を通し、帽子を被る。ニヤっと笑いながら

 

「お疲れ様でした。とても助かりました」

 

「い、いえ!お役に立てて光栄です!」

 

自分を運んでくれていたドッペルゲンガーに笑みを浮かべながら感謝の言葉を口にしていた

 

「楽しみだなー」

 

マーレはニグンが竿を削っている姿を興味深そうに見つめ、ニグンは額に汗を浮かべながら、竿を削っていた……まだ完全とは言えないが

ナザリックは元へと戻りつつあるのだった

 

 

 

 

シズちゃんのお料理披露記 その2 サンドイッチ

 

 

カワサキ様とクレマンティーヌ、そして私の分の賄いを作りたいとお願いした。最初は駄目と言われるかもしれないと思っていたんだけど、カワサキ様に任せると言われたので頑張ってお料理をしたいと思う。前にナザリックに帰った時に大図書館で見つけた本の料理。あれに挑戦してみたいと思う

 

(まずは……)

 

蒸し器に水を入れて、沸騰させておく。その間にパンを用意してパンを丁度良い大きさに切り分けておく

 

「えっと……ハムとレタスと……後チーズとトマトソース」

 

思いつく具材をどんどん冷蔵庫から取り出して、調理台の上に並べる。普段カワサキ様が御作りになるサンドイッチは焼いたパンの物が多いけど、サンドイッチは蒸したパンでも美味しいとあったので、それを試してみようと思う

 

「マヨネーズにからし」

 

ボウルの中にマヨネーズを入れて、からしと混ぜ合わせる。からしの辛味とマヨネーズの酸味はサンドイッチに良く合うから

 

「ハムは大きく……」

 

やや厚めにハムを切り出す。薄いより厚い方が美味しいはず、でもあんまり厚いと食べれないので多分丁度良いと思う大きさにする

 

「……これくらい」

 

まず最初にパンを6枚蒸し器の中に入れて蓋をして、きっかり1分で蓋を開けてパンを取り出す

 

「……上手く行った」

 

 

パンを蒸すとトロリとした柔らかい食感になると本には書いてあった。蒸したパンの上にハムを乗っけてトマトソースを塗る、そしてその上にチーズを乗せて温めて置いたトースターの中に入れる

 

「……」

 

蒸して焼くと香ばしさともっちりとした食感になるらしい。ただあんまり焼きすぎると風味が台無しになるそうなので、チーズに焦げ目がついたらトースターから取り出してサンドイッチにして斜めに切る

 

「……うん」

 

切った場所からチーズが溶け出している。間違いなく完璧な仕上がりだと思う

 

「……よいしょ」

 

次のパンも蒸し器の中に入れてあるので、それを取り出してからしマヨネーズを塗って、レタスとハムと一緒に挟んで同じように斜めに来る。2個ずつお皿の上に乗せて、牛乳と一緒にトレーの上に乗せてカワサキ様の元へと運ぶ

 

「……出来ました」

 

余りに質素すぎるかな?と不安に思っていたけど、カワサキ様は私の作ったサンドイッチを見て穏やかに笑いながら

 

「上手に出来てるな、これは蒸したサンドイッチか」

 

「……はい。チーズの方は蒸してから焼いてみました」

 

カワサキ様はピザサンドを手に取り齧る。目を閉じて咀嚼してる姿を見て大丈夫かな?と不安に思っていると

 

「うん、良く出来てる。蒸し時間も焼き時間も丁度良い……ただ」

 

「……ただなんでしょうか?」

 

どこかミスをしていたかなと不安に思っているとカワサキ様は小さく笑いながら

 

「トマトソースは俺が用意してた奴だな。今度はトマトソースから作ってみるか」

 

「よろしくお願いします」

 

料理は全然判らないので、教えていただけるのならそれを覚えて自分の物にしたいと思う。だからよろしくお願いしますと頭を下げる

 

「んー美味しい。パンが物凄く柔らかくて美味しい、ハムも分厚いし」

 

「柔らかいパンとやや厚めハムと言う組み合わせが良い、これは自分で考えたのかな?シズ」

 

「い、いいえ!本を見て覚えました」

 

子供でも出来る料理100選と言うので見たんですと言うとカワサキ様はそうかと小さく呟き、何かを考える素振りを見せられる。何かやってはいけない事をしてしまったのだろうかと不安に思っていると

 

「自分で考えて行動したんだな。偉い偉い、これからも頑張って勉強すると良い」

 

頭を撫でてもらいながら偉いと褒められ、私は舞い上がりそうになった。御方に褒められる、それは何よりも素晴らしいことだ

 

「さ、シズも食べると良い」

 

「は、はい!」

 

賄いを食べて、お掃除をして、夜の営業の準備をする。これからまだまだ忙しくなるので早くご飯を食べようと思うのだが、カワサキ様に褒められたのが嬉しくて嬉しくて、どうしても食事を口に運ぶペースが遅くなってしまうのだった……

 

メニュー53 マートフへ続く

 

 




今回はやや短めでゼロとぺシュリアンに続き、エドさんと六腕続きです。次回はマートフ……まぁ判っていると思いますが、突っ込み無しでお願いします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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