メニュー57 食べ歩きグルメ その1
祭りを控えながらも、食堂の営業はしなければならない。それは至極当然の事だ、他の店だってそうしてるだろう。ただ他の店と俺の店が違うのは基本的に料理人が俺1人と言う事だろう
「ご馳走様でした。カワサキさん、お祭りは大丈夫そうですか?」
夕食を食べにきていたぺテルが尋ねてくる。俺は出来上がった焼き蕎麦をイグヴァルジに差し出しながら
「大丈夫って何が?」
「準備は出来てるかって言う心配だ」
俺とぺテルの話を聞いていたイグヴァルジも心配そうにしているが、俺は笑いながら
「なんの心配もない。祭りが始まったら来てくれれば判るさ」
モモンガさんとガゼフさんにも言っているが、俺は正直祭りの出し物で負けるなんて微塵も思っていないわけだ。だからこうして普通に営業してる
「カワサキさんがそういうのなら大丈夫だと思いますけど、判りました。始まったら来ますね」
「おう、ニニャ達も誘って来てくれ」
判りましたというぺテルを見送り、俺は次の料理の準備を始めるのだった……
「疲れてるところ悪いと思うが、どんどん串に刺してくれ」
営業終了後クレマンティーヌとシズに頼んで祭りに出す料理の準備を始める。豚ロースのブロックを食べやすい1口サイズに切り、塩・胡椒を振りかけ、手でよく揉んで味を馴染ませたらパレットに乗せてカウンター席の2人に渡す
「いや疲れてるとかは全然ないけど、これで大丈夫?」
「何が?」
今度は牛肉を食べやすいサイズに切り分けながら、クレマンティーヌの質問を逆に尋ね返す
「いや、こんな簡単な料理で大丈夫なのかと……」
「……クレマンティーヌ。不敬」
シズの言葉にすみませんと謝るクレマンティーヌに笑いながら、切り分けた牛肉に塩、胡椒、ガーリックパウダーを振りかけ手で揉み込む
「こういう出し物がある祭りっていうので一箇所に留めるような料理は駄目だ。更に言えばボリュームがある料理も余り適さない」
あくまで祭りに来る人間は出し物を楽しむのが目的であり、ここで座って食べるような料理は適さない。歩きながら食べる事が出来る物が適している
「余り凝った味付けではなく、シンプルな味付け。それが食べ歩きに適している」
串カツ、牛ステーキ串に唐揚げ串などの1口サイズで程よく腹が膨れる程度の物が丁度良いと俺は考える。
「串カツならばソース、牛ステーキ串なら塩、胡椒などのスパイスを効かせた物、鶏肉は醤油とにんにくとかな」
そして食べ歩きは回転率が命となる。だから下拵えは十分にしておき、祭り開始と同時に販売できる物。そしてそれを見せながら、店頭で揚げて見せる物を用意する
「後はポップコーンや、カキ氷とかも良いかもな」
ずっと前に文献で見た祭りの定番と言うので串カツとかも見たし、その中で見たポップコーンなんかはとうもろこしを加熱するだけで良いとか、本当に簡単で良いと思う。多分、シズとかクレマンティーヌでも余裕だろう
(綿菓子作る機械あったかな……)
なんかのイベントで装飾品ガチャであった綿飴製造機。多分俺の部屋か、アイテム保管庫にあるかもしれない、今日は1度ナザリックに戻る予定なので、ナザリックに戻ったら1度捜してみるのも良いかもしれないなと思う
「ソース、ケチャップ、オイスターソース、醤油、砂糖、んで水」
大鍋に材料をじゃんじゃん注いで、焦げ付かせないようにかき混ぜながら加熱し、1度煮立ったら火を止めて冷ませば串カツ用のソースも完成だ
「よしっと、後は……カキ氷のシロップだな」
肉の味付けは済ませて切り分けも済んだので今度はかき氷のシロップ作りだ。鍋に苺を入れて、レモン汁と砂糖を加えて加熱。このとき砂糖が多いとジャムになってしまうので気持ち少なめにしておく
「……良し」
苺から水分が出てきたら火を止めて、粗熱を取る。苺を煮た時と同じくメロンも皮を剥いてカットしたら砂糖と共に鍋に入れて加熱する
「ちょっと勿体無い気もするけどなあ」
ゴムベラでメロンを潰し、焦げ付かせないように気をつけて加熱する。リアルに居た時は古い苺とかで作っていたけど、今はそのまま食べても十分に美味しい食材を使っているので少し勿体無い気もしてくる
「良し、こんなものか」
メロンが良い感じにつぶれ、ピューレ状になったら火から外して、粗熱を取っておく。先に作っておいた苺のシロップの粗熱が取れたら、ミキサーに入れて苺の原型が無くなるまで攪拌したら完成だ。
「後は冷蔵庫で冷やしておけばOKだな。良し!じゃあこれからは俺も手伝うぞ」
山のようになっている食材を見ながら、俺も串に刺すのを手伝うぞと言って俺は厨房を出るのだった。多分ナザリックに帰るのは、深夜を越えてそうだなあと内心苦笑しながら
「やったあ……手伝ってくれるのメッチャ嬉しい」
「……お願いします」
串に刺すだけだが疲弊しきっている2人に苦笑しながら、俺もカウンター席に腰掛け肉を竹串に刺し始めるのだった……
「あ、そうそう、ケバブって甘酸っぱいヨーグルトソースと激辛のチリ「「辛いのは駄目ッ!」」……はい」
手伝い始めたが、直ぐにクレマンティーヌとシズに叱られ、俺は肩を落とし掛け
「人の好みもあるから2……「「絶対駄目ッ!」」……はい……」
選択方式にすれば良いと思ったのに声を揃えて叱られ、そこまでこの世界に辛い料理を楽しむ文化は無いのかと深く肩を落とすのだった……
その日、6階層の円形闘技場は異様な熱気に満ちていた。それはもうじきエ・ランテルで行われる祭りへのシモベの参加の許可。しかし、人数が人数なので、それぞれ1日ずつ、3日間でのメンバーの抽選が行われようとしていた。そして厳選なる抽選係となったのはギルドマスターアインズ・ウール・ゴウンなのだが
(どうしよう、帰りたい……)
帰る所はナザリックかカワサキさんの店なのだが、俺は心の底から帰りたいと思っていた。シモベ全員がクジを握り締め、祈っている姿は一種の宗教のように見えた……だがそれがあながち間違いでもないのが、俺の精神をガリガリというか、ゴリゴリと削っていた
「んん!ではエ・ランテルの祭りへの参加についての条件を発表する、まず第1に外見が人間に見えないシモベは全員人化を施すが、それを決して解除しないこと、これは仮に私やカワサキさんが罵倒されたとしてもだ。これを破る者は参加を決して認めない」
俺の言葉に円形闘技場が静まり返るが、これは絶対に守って貰わなければならない。シモベの1体でも怒りを持って暴れれば、エ・ランテルは壊滅するので、それを許すことは出来ない
「次に他の店を馬鹿にしない事と営業妨害はしないこと」
御方至上主義のシモベが多いので、それも徹底させる。下手なことをすればカワサキさんの立場が危うくなるのでそれを徹底させる
「そして最後に過剰な防衛をしないこと」
祭りともなれば軟派などをしてくる相手もいるだろう。プレアデスやアルベド達は皆美人なので、軟派等を受ける事があるだろうが、決して過剰な防衛をしないこと
「これらを1つでも守れないと思うものは退出を許可する」
暫く待つが誰も動かないことを確認し、少し不安はあるが多分大丈夫だろうと判断する
「では最後の発表である、エ・ランテルに滞在している間。私はモモンと名乗っているのでアインズと呼ぶことを禁止し、更に、様付けをすることを禁止する」
その言葉に円形闘技場が一気に騒がしくなるが、アルベドが手を叩き
「アインズ様の発言中よ、全員静まりなさい!」
その良く通る声が円形闘技場に広がり、その一喝でざわめきは一気に収まる
「アインズ様、ではその場合どのように御呼びすれば宜しいでしょうか?」
「そうだな、さん付けで良いだろう。良いか、決して様付けはしないように」
あくまでモモンとカワサキは冒険者とそしてその友人と言う立ち位置だ。それを崩さないように気をつけてくれと念を押す
「3日間の間、カワサキさんも私も時間を見て、お前達と祭りを見て回るつもりだから問題を起こさぬように。では抽選を始める」
箱の中に手を入れ数字の書かれているボールを取り出そうとして、それを止めて腕を箱の中から抜く
「そうだ言い忘れていた。今回はログハウスにいるリリオット達も対象となっているが、決してそのクジを奪おうとせぬように。そして本当に最後だが、道化師系のシモベは全員退出せよ。お前達には人化を施し、大道芸人としてカワサキさんの店を盛り上げると言う命を与える」
立ち上がった道化師系のシモベは骸骨だったり、ゾンビだったりするが、人化すれば問題ないだろう。シモベ達の羨ましいと言う視線を浴びながら退出していく道化師系のシモベ達を見送り
「では改めて初日の抽選を行う……」
再び膝をついて、クジを両手で握り締め祈り始めるシモベ達を見ながら、俺は箱の中から最初のボールを取り出すのだった……
「……と言う事があったんですよ」
「そりゃ大変だ。お疲れさん」
深夜に戻って来たカワサキさんの自室で抽選の時の話をしているのだが、ごそごそやっていてちゃんと聞いている様に思えない
「聞いてくれてます?」
「悪い、聞いてない。探し物してるから」
悪いなと言うカワサキさんに溜息を吐きながら立ち上がり
「何探してるんです?手伝いますよ」
「それは助かる、ずいぶん前のイベントでリアルの祭りのやっただろ?」
「あー古き良き祭り再来ですね。覚えてます」
ずっと前に開催されたイベントで、リアルの祭りをメインにし、各ギルドで催し物をやると言う物だった。なお悪名高いアインズ・ウール・ゴウンに来た来客者はゼロだったので、ギルメン同士で楽しんだものだ
「そうそれ。それの装飾品ガチャで綿菓子メーカーとかき氷器があったと思うんだけど、それを探して……ん?指輪?なんだこれ?」
「装飾品ですか?俺が見て……」
カワサキさんが取り出したのは流星のマークが刻まれた指輪。俺が鑑定してあげましょうか?と言いかけたが、それを見て絶句した
「いらね」
「待てーい!」
暫く観察した結果投げ捨てられた指輪をダイビングキャッチで受け止める
「流れ星の指輪(シューティングスター)ですよ!?判ってますか!?俺のボーナスが全部消し飛んだ品ですよ!?超位魔法の星に願いをがノーコストで使えるレアアイテムですよ!?」
料理以外興味ないのは知ってたけど、そんなアイテムを捨てないで欲しいと思いながら言うとカワサキさんは頭をかきながら
「……それ多分まだもう1個ある、そこのガラクタの山の中に投げ捨てたような?」
その言葉を聞いて慌ててガラクタの山を引っくり返すと
「あったああ!?」
流れ星の指輪が2個。俺が持ってるのをあわせると3個……なんでこんな超稀少なと言いかけて
(そうだった、カワサキさん、幸運カンストしてた)
ゲームのステータスでは無い、リアルラックがやまいこさん同様カンストしてた、料理以外興味ないのでレアアイテムとかをギルメンに提供してくれてたけど、どうもギルメンがいない時にガチャしたアイテムだったので乱雑に保管してたようだ
「いるなら持ってって良いよ。俺使わないし」
……カワサキさんは絶対使わないと思い、流れ星の指輪2個をローブの中にしまい、俺もカワサキさんの保管庫を調べ始める。その中に稀少なアイテムがほこりをかぶった状態で保管されていて
「カワサキさん、これください」
「いるなら持って行って良いぞ?」
超位魔法の詠唱時間をゼロにする砂時計に、HP0になっても僅かな経験値ロストと、レア度の低いアイテムロストで即座に復活できる指輪などを俺はカワサキさんの許可を得て、自分のアイテムボックスへと収納するのだった
「あったあ!いやー無いかと思って焦った焦った」
レア度の低い配置系のアイテムである、綿飴マシーンとかき氷器を見て満足げに笑うカワサキさんを見ていると
「それで何の話だった?」
「いえ、もう良いです」
円形闘技場での疲れよりも、レアアイテムを料理と関係ないと悟った瞬間に投げ捨てるカワサキさんを見ている方が精神的に疲れたので、俺はアイテムの山にもたれかかりながらそういうのだった……
エ・ランテルの豊穣祭。それは料理を提供する店の格付けと言う側面も持っている。黄金の輝き亭がエ・ランテル1と言われるのも、豊穣祭で連覇を続けているからと言うのが大きい。だからどの店も大道芸人で自分の店をアピールし、そして自慢の料理を提供する。お抱えの芸人や楽団のいる店ほど有利になるこの祭り。例年ならば黄金の輝き亭の優勝が決まり切っていると言う祭りだが、今回は絶対王者である黄金の輝き亭を上回る店が出来ている。飯処カワサキ、冒険者達に絶大な支持を得るが、芸人達に繋がりのないカワサキの店は不利になるであろうと言う前予想をカワサキは簡単に覆していた
「飯処カワサキ、食べ歩きグルメを多数取り揃えております。皆様方ぜひ、飯処カワサキへ!」
「坊ちゃん、お嬢ちゃん、美女に青年、どなたも満足出来る品を多数ご用意しておりますよ~♪」
エ・ランテルの芸人では無い。白い化粧に赤い鼻の飾り、そして縞々の派手な服に身を包んだ芸人達がチラシを撒き、何十個と言うボールをジャグリングしながら、芸人達の中を練り歩く、その話術、そしてその芸術とも言える芸は住人達の興味を引き。広場で芸をする長身とずんぐりとしたピエロの2人組みは観客の注目を一身に集めていた
「さてさてチラシについている、このチケット!このチケットがあればなんと!串カツ一本サービス!」
「おいおいおい!大事なことを忘れてるぜ!ブラザー!串カツだけじゃなくて、珍しい氷菓子!氷菓子もサービスしちゃうんだろう?」
「そうだった!そうだった!忘れてたぜブラザー!」
軽い調子で話す2人のピエロだが、2人がお互いに投げ渡しながらジャグリングしているのは鋭い切っ先を持つナイフ。それを互いに交換しながらの会話を見ていてひやひやするが、それゆえに人を惹き付けていた
「あいだああああ!?」
「ブラザーーーー!!!!」
そんな会話をしていたからか、長身のピエロの腕にナイフが突き刺さり、見ていた観客が乾いた悲鳴を上げるが
「なーんちゃって♪ほい!」
ナイフが刺さっていたはずの手首がはずれ、袖の中から傷1つ無い手が現れる
「はいはいはい!驚かせちゃいましたね、坊ちゃん、お嬢ちゃん方!だけどピエロとはそういうものでござい!」
「失敗することも芸なのですよ~でもブラザー!心臓に悪いぜ!!皆様に謝りな!」
「すいませんねえ!でも面白かったでしょう?そーれ!」
ナイフが刺さった手首を投げると、それが弾けチケット付きのチラシが天から降り注ぐ
「さーさー!チラシは子供優先だ!大人はちょっと待ってておくれよ!」
「いやいや待てなんていうなんてそれは酷ってモンだろ!ブラザー!だからー!」
ピエロはチラシを手の中で丸めると、それは鳥や華の形になり
「さーさー!お嬢様にジェントルマン、どうぞどうぞ!」
「ただし、こっちには顔を覚えるタレント持ちがいるから、何回も並ぶの反則だぜッ!」
沿道にいる大人達に手渡しで渡し始めるピエロ……元は異形の道化であるマーダーブラザーズは
(ブラザー、ぶっ殺してえ)
(我慢しろ、ブラザー。カワサキ様とアインズ様に迷惑を掛けるつもりか?)
設定上殺人を旨とするクラウンなので、人間が大勢いる中での演目は、手にしているナイフを投げつけたい、ジャグリングしてる独楽で殴りかかりたいと言う欲求との戦いであった
(これは試練だ。アインズ様とカワサキ様のご命令を無事完遂できるか、俺達を試してるんだブラザー)
(ぐっ……判ったぜ、ブラザー)
笑顔の下で自らの殺人衝動を隠し、必死に与えられた命令を遂行していた
「すまないが、私にも1つ貰えるかな?」
「は、は……い」
振り返ったマーダーブラザーズの視線の先には人化を施されているデミウルゴスとコキュートスの2人組み。階層守護者のペアに絶句し
「どうかしたのかね?」
「……い、いえ。どうぞ」
「ああ、ありがとう。さあ、行こうか。コキュートス」
チラシを受け取り歩き出す2人にマーダーブラザーズは背筋に冷や汗を流しながら見送り。立ち去る前に振り返ったデミウルゴスの絶対零度の眼差しに、2人が自分達の仕事を見に来て、釘を刺しに来たのだと判断し
(俺、殺されるかと思った)
(お前のせいで俺まで睨まれたじゃねえか!馬鹿!!)
2人はまだ監視されているかもしれないと思い、より一層緊迫感を持ちつつも
「さーさー!お嬢様方、これより見せるのは兄弟芸。私が投げるボールを、弟が目隠ししてナイフで打ち落として見せますよー」
笑みを浮かべ、芸を必死で繰り出し始めるのだった……
カワサキ君が道化を雇えるかと心配していたが、それはいらない心配だった。エ・ランテルにいる芸人よりも、旅の芸人よりも素晴らしい芸を持つ芸人を連れて来た。しかもチラシを配っているのだが、それを持ってくるだけで料理か氷菓子が1つ無料とは大胆な策を打って来たと思う。
「……あんまり急いで食べると頭が痛くなるから気をつけて」
「うん!ありがとー!」
「はい、銅貨7枚になりまーす!」
「おじさん!あの雲!雲欲しい!!」
「あいよー、今作るからなー」
シズ君、クレマンティーヌ君、そしてカワサキ君の3人で商売に当たっているが、既に人だかりが出来ている
「カワサキさん、あの奥のお肉はまだなんですか?」
「悪いな、ぺテル。今焼いてる段階だからお昼にまた来てくれ、はい。串カツと牛串を8つずつで銅貨16枚な」
漆黒の剣のぺテルがカワサキ君の背後を指差して、そう尋ねている姿が見える。巨大な肉の塊を回転させながら丁寧に焼いているのだが、その香りが並んでいるここにまで広がってくる。これだけ良い香りがしているのに、焼き上がりがお昼。お昼の食事時に販売するつもりだが、それまでは焼いている見た目のインパクトと香りでまた来ようと思わせる。そしてチラシについている無料チケットで呼び寄せた人にも、同様にそう思わせる。実に強かな経営だ
「お父さん。お昼に食べに来よう!僕あれ食べてみたい!」
「そうだなあ、私も食べてみたいから、少し早めに来てみようか」
串に刺した肉を手に歩いていく親子が笑いながら話をしている姿を見るとカワサキ君の経営戦略は当たっていたと思う
「アインザック組合長殿もカワサキさんの所に来たのですか?」
背後から聞こえてきたモモン君の声に振り返る。彼の代名詞とも言える漆黒の全身甲冑姿ではなく、動きやすいズボンとシャツ姿だが、決してだらしない訳ではなくどことなく気品さえあると思える。兜の下の柔らかい素顔も晒しているので好青年と言う印象がある。だが私が目を引かれたのはそこでは無い、彼の後ろを歩いている3人の息を呑むような美女、美少女の姿にだ。1人はナーベ君だが、冒険者としての活動に適した野暮ったい服装ではなく、スカートとブラウス姿と言うだけで全く印象が変わってくる。モモン君は私の視線に気付いたのか
「私の亡き友人の娘達になります。今回は祭りと言う事で連れて来たのです」
モモン君とカワサキ君は生まれ故郷をモンスターに滅ぼされ、生き残りを纏めてこっちに来たと聞いていたが、やはり国の生き残りを纏めてきたと言う事はその人数は相当な数だったようだ
「シャルティア、ユリ、私が世話になっているアインザック組合長殿だ、ご挨拶を」
「シャルティアと申します。どうぞよろしく」
「ユリと言います、よろしくおねがいします」
シャルティアと言う少女はスカートの裾を上げて、優雅な素振りで頭を下げ。ユリという女性は穏やかな笑みを浮かべて頭を軽く下げる
「プルトン・アインザックだ。世話をしているというよりも、モモン君とカワサキ君には助けられているよ」
モモン君は危険なモンスターの討伐を頑張ってくれているし、カワサキ君は美味い食事で私達を助けてくれている
「2人だけなのかな?」
「いえ、人数が人数なので3日間の間。交代交代で連れて来るつもりですよ」
ふむ、連れて来ると言うのに交代交代と言う事は魔法詠唱者による転移の可能性が高いな。そう思ってもあえてそれは口にしないが
「モモンさん。私はかき氷という物がいいですね」
「そうか、ではシャルティアはかき氷をチケットで貰うと良い、ユリは?」
「私はシズが頑張っている姿を見たいと思います」
柔らかい口調だ。ナーベ君がシズ君の姉と思っていたが、もしかするともっと大勢の姉妹がいるのかもしれない
(……娼婦の所に連れて行くのは止めた方が良さそうだ)
モモン君自身は亡くなった友の娘の親代わりとしているつもりだろうが、彼女達もそう思っているとは限らない。親ではなく、異性として想いを寄せている可能性もあるわけだ。それを思えば止めた方がいいかもしれないな、逆にエ・ランテルに義娘達と暮らせる屋敷などを用意すれば、その方がモモン君もエ・ランテルに残ってくれるかもしれない。私はそんなことを考えながら、動いた列に合わせゆっくりと歩き出すのだった……
先ほどの店で食べた料理の特徴を手帳に手早くメモする。正直料理とも言えないレベルの品でしたが、食べ物を粗末にするとカワサキ様に怒られるので、無理に食べた
「どう思いますか?コキュートス」
「……レベルが低い」
人化したコキュートスが低い声で告げる。それは私も感じた、下拵えの杜撰さ、味付けの未熟さなど、上げれば切がないほどの欠点があるし、進んで口にしたいとも思えないが
「カワサキさんの経営の手伝いになるであろう情報収集ですよ」
様付け禁止と言うのは非常に心苦しいが、それでもそういうご命令では従うしかない。
「では次の店に行こう」
「ええ。行きましょう」
この街で評判と言う店の味と料理は口にしようと思う。それらを分析すれば、この街の住人に好まれる料理の傾向も判る
(全く。この街の住人は自分達がどれほど恵まれているのかまるで理解していない)
カワサキ様の料理を口に出来ると言う幸運を理解していないこの街の住人達の知性の低さに落胆しながら、私とコキュートスは次の店へと足を向けるのだった……
「デミウルゴス。後でかき氷を食べたいのだが」
「私は牛串が食べたいですよ」
マーダーブラザーズのチラシ。本当なら今直ぐに行きたいですが、安いと言う事で人間が群がっているため今行くのは得策では無い
「もう少し後で行きましょう」
「……判った」
次の店に向かうまでの間2人はそんな話をしているのだった……
メニュー58 食べ歩きグルメ その2へ続く
次回は色んな人の視点で食べ歩きをしている所を書いてみようと思います。食べ歩きグルメはその4まで続ける予定なので、どうなるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします
やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……
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間違っている
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間違っていない