生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー63 会食その2

メニュー63 会食その2

 

つみれ汁を飲み終えた頃合で再び扉が開く。さて今度はどんな料理が、と期待に胸が膨らむ。木か何かで作られた皿に盛り付けられたそれを見て、私だけではなく爺やランポッサ、そしてガゼフも困惑した声を上げた

 

「「「「草?」」」」

 

どこからどう見ても草を揚げた料理に思わずカワサキを見る。カワサキは小さく笑いながら料理の説明を始めた

 

「私達の国には春の皿には、苦味を盛れと言う言葉があります」

 

苦味を盛れ?それは何とも変わった風習だと思わず笑ってしまった

 

「冬は寒く人の身体と言うのは脂肪を蓄えるように出来ておりますが、それは冬の間の話。春となれば話は変わります、活動的な春には身体もまた春に向けて整えなければなりません」

 

む……確かに寒い時期は太る事が多いが……草を食べるというのは些か抵抗がある。野菜とは違う、形も奇妙な物だから嫌でも警戒心が生まれる

 

「山菜と言う春に姿を見せるこの野菜は、植物性アルカロイドという栄養素を大量に含み、冬の間に体に蓄積した老廃物や脂肪を減らす手伝いだけではなく、身体の中身、主に腎臓の機能改善や、解毒作用、そして新陳代謝を高める効果があります」

 

 

何を言っているのかまるで理解出来ないが、大まかには判った。これはくすりに近い料理なのだと

 

「つまりこれは身体を健康にする料理と言う事でよろしいのかな?」

 

「ええ、その通りです。薬と思ってもらっても結構ですよ」

 

にこにこと笑うカワサキに私もランポッサも苦笑いを浮かべる、薬として草を食べるか……考えた事が無いな

 

「この棒のような物がタラの芽、そしてその隣の先端が丸くなっているものがこごみ、最後にその丸い物がふきのとうになります。こちらの天つゆにつけてお召し上がりください」

 

では失礼しますと頭を下げて部屋を出て行くカワサキを見送るが、誰も天ぷらに手をつけない。草を食べると言う事にやはり抵抗がある……いやな沈黙が満ちる中、ランポッサがたらの芽とやらに箸を伸ばし、天つゆにつけずに齧る

 

「……」

 

無言で固まる姿に全員の視線が集中する。不味いのか、美味いのか?と言う私達の視線に気付いたのかランポッサは頷き

 

「独特の弾力があり、ほくほくとしたまるで芋のような柔らかい食感だ。少しばかり苦いが、いや、この苦味が美味い」

 

苦いが美味い?苦いは不味いものだと思うのだが……困惑している私の隣で爺が丸いものを口に運び

 

「むむう……苦い、いや……だがこの苦味が美味い」

 

「……確かに苦くはありますが、いやいや、これは美味」

 

爺とガゼフも美味いと言う。この中で食べていないのは私だけなので、意を決してタラの芽とやらを口に運ぶ。歯に当たるのは柔らかいんだか、硬いんだが判らない独特の食感。噛み締めると芋のようなホクホクとした食感がして、鼻に抜けるのは草の香り……そして口の中に広がるのは苦味ではあるが、それは決して嫌なものではなく

 

「……美味い」

 

苦いが美味いと言う言葉の意味が判った。確かに苦くはある、だがそれは決して不快ではない。これが身体に良い味なのかと思いながら爺が苦いと言っていた丸いものを口に運び

 

「むぐう!にっが!!!」

 

予想を遥かに超える苦味に思わずそう叫んでしまうのだった、くすくすと言う笑い声に気恥ずかしい物を感じ、慌てて私は酒に手を伸ばすのだった……

 

「ではそろそろメインの料理の準備をさせていただきます」

 

カワサキが2人の給仕ではなく、紫色の髪と真紅の瞳をした美女と、銀……いや。白髪か?変わった色合いの髪をした男と共に上がってきた

 

「突き出し、つみれ、天ぷらと焼き物を用意してくれたのはこの2人です。私の弟子のシホ、そしてピッキーです」

 

「……つみれ汁と天ぷらをご用意させて頂きました。シホと申します」

 

「突き出しと焼き物を作らせて頂きました。ピッキーです」

 

カワサキの弟子の料理だったのか……だがそれに関して怒りは無い。弟子と言っても帝国の料理人よりも凄腕だったので、文句を言う理由も無い。2人の弟子は挨拶をし、机の上に鍋を置くと頭を下げて出て行ってしまった

 

「どうも気難しい御仁のようだな?」

 

「いえいえ、あの2人は厨房から出ることなど滅多にないので、それに普段は私達の仲間と行動しているので余り他人との面識が無い物で」

 

決して愛想が悪い訳では無いですよ?とカワサキは2人のフォローに入り、帝国にもある魔法石で火を出す小さな調理台を用意し、その上に鍋を置いて蓋を開ける。その中身は汁だけだった

 

「今より作ります料理はこの場にて仕上げさせていただきます。調理の過程もどうぞお楽しみください」

 

目の前で料理をしてくれる。それは帝国で作ってくれたクレープと言うものを思い出させ、どんな料理になるのかと期待しながら待つ事にする。……ただ、出来れば今度は苦い料理でなければ良いのだがと思ったのは言うまでも無い

 

 

 

 

カワサキ殿が私達の前に置かれた4つの鍋の中に白い塊を入れていく。鍋だから魚か肉料理と思ったので正直落胆したが、あの白い塊はなんなのだろうか?

 

「カワサキよ。この白い物は何なのじゃ?」

 

フールーダの問いかけにカワサキ殿は少し待ってくださいと返事を返し、四角い何かを鍋の中に入れ蓋をする。くつくつと煮える音が料理を待つ間の暇潰しになっていると思う

 

「これは豆腐といいまして、豆を加工して作る物になります。畑の肉と言われるほど栄養価が高く、身体にも非常に良い食品ですよ」

 

豆!?豆があんな白い塊になるのかと驚かされる

 

「豆を加工して作るのか、なるほどな。カワサキの国には面白い物が多いな」

 

「正直自分で言うのもなんですが、食に関する拘りは凄まじい国だったと思いますよ」

 

どう見ても食べれない物でさえも食べれるようにするほどにねと笑う。

 

「カワサキ殿の国はそんなにも飢えておったのか?」

 

「そういう訳ではなく、そうですね。料理人の性とでも言いましょうか?良い物を提供する為に皆研究熱心だったのですよ」

 

自らの腕を磨く事に余念が無かったと……だからカワサキ殿の料理の腕も素晴らしいのかと納得する。

 

「よし、頃合だな」

 

カワサキ殿が鍋の蓋を開け、穴の開いた御玉で豆腐と言う白い物を持ち上げ、私達の前の皿に入れる。湯気を放つそれは暖かそうとは思うが、言ったら悪いがとても美味しそうには思えなかった。身体に良い料理と言う事で過度な味付けはしないのかと思っていると、カワサキ殿が指を鳴らすとカワサキ殿の手の中には鍋が握られていた

 

「これで仕上げになります」

 

皿の中に置かれていた豆腐の上に鍋の中の具材を掛けるカワサキ殿。そして皿の中を見た私達の歓声が重なった

 

「「「「おお!」」」」

 

甘い香りを放つトロリとした茶色いソースが豆腐の上にたっぷりと掛けられる

 

「湯豆腐の茸の餡かけになります」

 

白い湯気と甘い香り。さっきまでの余り美味そうでは無いと言う思いは消えていた

 

「こちらはスプーンでお召し上がりください。それでは失礼します」

 

カワサキ殿がそう笑い下へと降りていく、スプーンと言っていたが、これも木を削って作られた見目も素晴らしい物だ

 

「餡かけ湯豆腐か、どれどんな味かな」

 

王がスプーンで豆腐を掬い、息を吹きかけてよく冷ましてから口に運ぶ。本当は毒見である私が先なのだが、カワサキ殿が毒を盛る訳がないと言う事で、止める間もなく口に運んでしまう

 

「……素晴らしい。実に美味い、甘くトロミのあるソースが豆腐に良く絡んでいる」

 

美味いと笑みを浮かべる王に続き、ジルクニフも餡かけ湯豆腐を口に運ぶ

 

「うん、確かに美味い。豆腐自体の滑らかな食感にこのソースがよく合っている。それにこの肉厚の茸、これも美味い」

 

ジルクニフの言うとおりだ。甘くトロミのあるソースが肉厚の茸に絡んでいて、豆腐も美味いのだが、茸も抜群に美味い

 

「この豆腐と言うのは単体では味が無いが、逆にそれが良いのかも知れぬ」

 

「うむ、それは私も思っていた。味がないからこそ、何にでも合うのだろう。この口当たりも実に良い」

 

フールーダと王が豆腐について語り合い、小さく笑みを浮かべている。この光景を見るととても敵対国同士の語り合いの場とは思えない

 

(しかし本当に私でよかったのだろうか)

 

私の様な平民の生まれであり、そして政に詳しくない男がこの場にいて良いものなのかと思う。美味い食事を出来る事に関しては何の文句も無いが、そこだけが如何しても不安になる

 

「ガゼフ、ずいぶんと浮かない顔をしているが、美味い物を食う時は笑顔であるべきだとは思わぬか?」

 

ジルクニフの言葉に顔を上げる。ジルクニフは木のスプーンに豆腐を乗せ、それに息を吹きかけて冷ましてから口に運び、笑みを浮かべる

 

「どんな人間であろうが、飯を食わねば人は死ぬ。相手が王であれ、貴族であれ、それは何も変わらぬことである」

 

む、この細い茸の滑らかな食感は面白いなと料理を口に運び、笑みを浮かべる

 

「苦手な物を食って渋い顔をするならまだしも、苦手な物ではないのなら笑うべきだ」

 

作ってくれた人間にも失礼だぞと言われる。確かにその通りだろう……美味いのに渋い顔をしていてはカワサキ殿も気掛かりに思うだろう。

 

「その通りだな。失礼した」

 

「全くだ。美味い物を食べている時に渋い顔をされると気掛かりで仕方ない」

 

ジルクニフの言葉に王やカワサキ殿にも失礼な事をしていたのかと思うと、申し訳ない気持ちで一杯になる

 

(余りに顔に出るのも考え物か)

 

どうも私は考えている事を隠すのが苦手だな。これは改善するべきだと思いながら湯豆腐をスプーンで掬い口に運ぶのだった……

 

「さて本日のメインを持ってまいりました」

 

最後の料理として私達の前に置かれた物。それは1口サイズの米の上に野菜が乗せられた料理だった、見た目は華やかだが、肉でも魚でもない。質素な料理であった

 

「これが最後の品か、見目は素晴らしいが些か……その」

 

「地味でしょうか?ですが、これは私にとってとても思い入れのある料理なのです。母が作り、私が料理を志す理由となった品ですから」

 

カワサキ殿の母の料理であり、そしてカワサキ殿が料理の道に進む理由なった品……それは確かにカワサキ殿にとって特別な料理であろう

 

「そうであったか、失礼した。心して賞味させていただく」

 

「ああ、カワサキの母君の料理にして、カワサキの原点……か。楽しみにさせていただこう」

 

この鮮やかな色合いと、様々な形に細工された料理。それは確かに見た目こそ質素だが、恐ろしいほどに手間が掛かっているのは見て取れた

 

(まだまだ精進が足りないか)

 

料理に込められているカワサキ殿の気持ちを感じ取れないとは……まだまだ私も修行が足りないと思った

 

「米料理、京漬物寿司になります。こちら大変壊れやすいので素手でお召し上がりください」

 

穏やかに笑うカワサキ殿。その笑みは自信に満ち溢れていて、この料理がカワサキ殿にとって特別な意味を持つことが判り、それを振舞ってくれる事に心から感謝するのだった……

 

 

 

 

カワサキ殿が料理を志した理由である料理……見た目は華やかで様々な色合いや形がある

 

「ふむ。野菜の保存食を利用した料理のようですな」

 

フールーダが料理を手に取りにそう呟く。ピクルスなどの漬物をつかった料理と言う事か

 

(いや、しかし素晴らしい)

 

赤い漬物が細かく切られ、米の周りに巻かれている海苔で零れないようにされていたり、米に巻きつくようになっている白い何かに、ピンク色の鮮やかな物、それに最初に出た煮物に使われていたであろう黒い野菜。彩りも形も実に多彩だ

 

(どれっと……)

 

最初に目に付いた黄色の物がまるで蝶の様に乗せられている米に手を伸ばす。素手で食べる料理と言うのは初めてかも知れんな

 

「むう、これはまた面白い」

 

米は甘酸っぱい。だがそれは不快な甘さや酸味ではなく、口の中で丁度良い甘さと酸味となる

 

(中に何か混ぜ込まれているのか、良い香りだ)

 

香ばしい香りが米の中に混ぜられているのだが、その香ばしい香りが鼻の中を抜けていく、その独特な香りもまた実に良い。そして乗せられていた黄色い漬物に歯が当たると小気味いい音と共にその漬物が砕ける。それは塩辛く、独特な香りがするが、その独特な香りがまた良い

 

「ほう……瑞々しい味わいだ。噛み締めると汁が出てくるのだな」

 

「……私にはとても丁度良いですな」

 

私やフールーダのような高齢にはこのさっぱりとした味わいが実に良い。身体に良い料理と言うのは嘘でも何でも……

 

「どうかしたのか?ガゼフ」

 

急にガゼフが立ち上がろうとして、机に足を打ち膝を押さえている光景を見て、どうかしたのか?と尋ねる

 

「……い、いえ……凄まじく……酸っぱく……」

 

酸っぱくて驚いて立ち上がろうとしたのか、その言葉に思わず笑ってしまいながら

 

「どれだ?」

 

これほどの反応をするのがどれほど酸っぱいのかと興味を持ち、どれだ?と尋ねるとガゼフはまだ膝を押さえたまま、海苔を巻かれた赤いものを指差す。なるほどあれか……

 

「どれどれ、私も食べてみるかな」

 

「興味がありますな」

 

私だけではなく、ジルクニフとフールーダもそれを手に取る。鮮やかな赤色、米も赤く染まっているのだが、毒々しいわけではなく、その鮮やかな彩りは確かに目を引く。口をあけてそれを頬張り

 

「すっ……あいだ!?」

 

ジルクニフも酸っぱいと言って立ち上がろうとして、膝を打ち悶えている

 

「美味いな」

 

「……うむ、昔を思い出す味だ」

 

私が幼い時の野菜の非常食と言うのは非常に酸味の強い物だった。それを美味いと言って食べていた年代にはこの程度の酸味は全く気にならない。むしろ懐かしささえ思い出させてくれる

 

(しかし、似ているのは酸味だけだな)

 

強い酸味こそ似ていると思うが、そのシャキシャキとした食感と味わいはまるで別物だな。それに後味も実にさっぱりしている

 

「……私はこれは好きでは無い」

 

「それはまだ子供じゃからな」

 

ふふふっとフールーダに笑われ、むっとしているジルクニフを見ていると王と家臣ではなく、孫と祖父のように見えなくもない

 

(……決断か)

 

今までは目を瞑っていた部分もあった。だがそれでは駄目なのかもしれない。我が子ながらどうしてバルブロはあんな風になってしまったのか……貴族に利用されているのか、それとも八本指に利用されているのか……それとも己の意思なのか。

 

「どうかなさいましたか?」

 

心配そうに私を見つめるガゼフになんでもないと返しながらも、心の中で苦笑する。表情を隠すのは慣れていたつもりなのだが……いや、判っていた事だが、自分の息子が私を排除しようとする一団に属している事がショックだったのかもしれない

 

(ままならぬものだ)

 

私は動き出すのがあまりに遅かったのかもしれない。子が出来、自分でも判るほどに丸く……いや、違うか、膝の怪我で思うように動けなくなってから保守的になりすぎていたのかもしれない

 

「うむ、最初は野菜なんてと思ったが、いや、これは実に美味い」

 

「ほほう、これは甘いですな」

 

フールーダとジルクニフの関係は私から見れば羨ましい物だ。気心が知れ、自分の考えを理解してくれる重鎮……レエブンは良くやってくれているが、あやつは様々な陣営を行ったり来たりしているので、そうそう接触が取れぬし、何よりも遅く出来た自分の子供を溺愛しているので、こちらに引き込むのは可哀想だという気持ちもある

 

(うむ、美味い)

 

ピンク色の漬物が乗っている寿司とやらは柔らかく、そして甘い。その甘さが私の気持ちを宥めてくれる

 

(頼れる家臣……か)

 

ガゼフは間違いなく頼れるが、平民であるが故に他の貴族の妨害に遭う。私とジルクニフの違い、それはやはり頼れる家臣がいるかどうかなのだろうな……

 

(せめてこの膝が治れば……あるいは)

 

動かない膝を撫でる。私が膝を壊し、離れて行った者達の事を思い、無茶な願いと判っているが、カワサキ殿ならば何とか出来るのでは無いかと思ってしまうのだった

 

「では最後にデザート。餡蜜になります」

 

最後に運ばれてきたデザートを口にしながら、私は今まで動かなかったことを改めて後悔するのだった……

 

 

 

 

会食でかなり時間を食ったが、俺はやっとカワサキさんの店で夕食を口にしていた

 

「はー凄く落ち着きます」

 

「それなら良いけどさ、素うどんで本当に良いの?」

 

具も何も無いスープと麺だけのうどんをずるずると啜りながら

 

「ええ、きつねうどんとかも好きですけどね」

 

スープと麺だけって言う素うどんが俺にとっては馴染み深いので、なんと言うか安心感がある

 

「とても美味しいです。カワサキ様」

 

ナーベラルも上機嫌でうどんを食べている。カワサキさんは何か納得して無い様子だが、まぁ良いけどなと笑い椅子に腰掛ける

 

「さてと帝国と王国が同盟を組むそうだが……それには俺が演じたモンスターの存在が大きい」

 

「まぁそうでしょうねえ」

 

何でも吸い込むモンスターと言うことで警戒させているのだ、同盟を結ぶのもそれが大きな理由になるだろう

 

「俺としてはなんですけどね、ここでこのモンスターを消滅させることに旨味が無いと思うんですよ」

 

「……と言うと?」

 

マッチポンプになる可能性は極めて高いが、この世界の人間がこれだけ脅威と思い、同盟を結ぶというのなら、それは十分に利用できる

 

「影にいる存在がまだ判らない。俺や守護者で対応出来れば良いが、そうでない場合に備えて味方は多い方が良いって事ですよ」

 

ナザリックでやっているレベリングも大分形になってきている。ザリュースやニグン達のレベルはそろそろ50と中々良い伸びをしている。このレベルとなるとこの世界ではかなりの強者になる筈だ

 

「相手の戦力の規模が判らない以上、味方を作れる機会は逃さないべきだ。そしてそれにあのモンスターは十分利用できる」

 

「……あーはいはいっと、そう言うのはモモンガさんに任せるよ。俺は料理を作るだけだから」

 

「少しは相談に乗ってくれません?」

 

カワサキさんはそういうのが苦手だと判っているが、少しは俺の計画を一緒に考えて欲しい。カワサキさんは隣を指差す

 

「つまりアインズ様は人間を纏め上げて、利用するのですね!」

 

弾ける笑顔のナーベラルがいました。なんか不味い方向に行きかけている気がする……が、もう賽は投げられたのでこのまま行くしかあるまい

 

「利用では無い、友好的な関係を築くのだ」

 

武力とカワサキ様の料理で逆らうという気持ちを奪うのですねと笑うナーベラル。ここからの修正は相当厳しそうだと深く、深く溜息を吐くが、そう間違ってもないため修正しにくく、このまま行こうと思った

 

「それでネム達はどうするんだ?」

 

「……それなんですけど、漆黒の剣に頼んでカルネ村に戻って貰おうと思うんです」

 

俺の言葉にカワサキさんが眉を上げる。その言葉だけでも理解してくれたのだろう、祭りと言うカワサキさんのやりたいと言うイベントが終わった。ならば王国に留まっている理由も無い

 

「根回しは?」

 

「これからです」

 

騒動を起こす前に準備はしますと言うと、カワサキさんはそうかと呟き、頭をがりがりと掻きながら

 

「わり、俺1回王都に来てくれって言われてるんだわ」

 

「……なにやったんですか?」

 

「……ごめん」

 

謝るくらいなら最初から勝手な行動をしないで欲しい。俺は心からそう思いながら

 

「それで何で王都に?」

 

「……いや、ランポッサ国王の知り合いが病気らしくて見て欲しいって話なんだ」

 

……まぁランポッサ三世に恩を売れると思えば、そう悪くはないか

 

「判りました。では俺はその間に準備をしておきますので」

 

「頼むわ。とりあえず明日1日営業したら王都に行くから、あ、セバスとソリュシャンにも声を掛けておいて貰えるか?」

 

カワサキさんに言われるまでも無く護衛として2人と合流させることは考えていたので大丈夫ですよと返し

 

「所でお祭りで1位は取れますよね?」

 

カワサキさんの料理は美味しいので間違いなく優勝だろうと思う。だがカワサキさんは笑いながら

 

「いやあ?良いとこ5位、悪くて10位だなあ」

 

「「は?」」

 

俺とナーベラルの困惑した声にカワサキさんは笑いながら、俺達が食べ終わった食器を手にして

 

「子供の小遣いで買える値段で設定したし、ばらまいたチラシに無料券を付けたからただで食いに来てた奴もいる。それと余所者だからと言うのもある」

 

それでは差別ではないか、思わず怒りを覚えるがカワサキさんは計算の内と笑い

 

「今回のでかなり顔を売れた。それで十分って事だ。あとリアルで出来なかった大きな祭りに参加できて満足だ」

 

「……もしかして祭りに参加したがったのってそれですか?」

 

そうだけど?と笑うカワサキさん。カワサキさんが何を考えているのかは判らないが、どうやらこれで計算通りの様だ。ならば俺から言う事は無い、強いて言うのなら

 

「王都で問題を起こさないでくださいね?」

 

「……気をつけるぜ。少なくとも帝国でやったような事はしないと約束する」

 

……その大分間の空いた返答に俺は嫌な予感を抱いたが、カワサキさんも色々と気をつけてくれている。それに帝国でやったような事はしないと約束してくれた。だから今回ばかりは大丈夫だろうと信じたのだが、それがあっさりと裏切られることになる事を今の俺は知る由も無いのだった……

 

 

 

 




メニュー64 オムレツとカルボナーラへ続く


次回への意味ありな伏線を残しつつ、今回は終了でした。帝国、王国共闘ルートで進めて行きますのでよろしくお願いします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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