生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー66 病人食 その1

メニュー66 病人食 その1

 

リリオットの予知でカワサキさんが大暴れしていると聞いて、それが出来ればまだ先の未来だと良いなと俺は淡い期待を抱いていたのだが……結果は国王にかなり強引な条件を飲ませ、更に八本指の店を2箇所潰し、その店に囚われていた少女20人の身元引受人になるとか、帝国とは別ベクトルで凄い騒動を起こしてくれていた。人化したままだったのが救いだが、それでもこれは俺にとっても予想外すぎる

 

「カワサキさん。本当、お願いですからもう少し後先考えてくれませんか?」

 

「……返す言葉もございません」

 

土下座しているカワサキさんに呆れれば良いのか、怒れば良いのか俺はそれすらも判らなくなってしまっていた

 

「八本指は潰すつもりでしたけど、こんな突発的にやったら一網打尽にも出来ないでしょう?」

 

犯罪集団で麻薬をばら撒いていると言う事で捕らえるつもりだったが、こんな形になってしまえば相手は隠れることに全力を向けるだろうからシャドウデーモンに捜索させたとしても難しいだろう

 

「それで何でそんなに怒ったんですか?」

 

暴れていたと言う事は知っているが、カワサキさんが暴れた理由はなんですか?と尋ねる。正直カワサキさんが暴れまわったのは不味いと思っているが、一応話を聞かないことには前には進まない

 

「……人をごみのように扱ってるのと、死体を投げ捨てる姿を見たら無理だった」

 

「……すいません、カワサキさん。土下座は結構です、立ち上がってください」

 

確かに暴れ回ったのは許されないことだが、そういう事情があったのならば仕方ないだろう。俺ならば無視をしていたかもしれないが、人間としての感性があるカワサキさんには黙って見過ごすことは出来なかったのだろう。リリオットの予知は聞いていたが、カワサキさんが怒った理由までは判らなかった、だけどその話を聞けば納得してしまった。

 

「本当に済まない、だけど黙っては見てられなかったんだ」

 

「いえ、良いんです。事情を聞くべきでした」

 

とりあえず王城に向かい、保護されていると言う少女達をセカンドナザリックへと連れて行って治療か

 

(まぁ、メリットもあるから良いとしよう)

 

王国はカワサキさんに対して大きな借りを作ったし、カルネ村は米や果物の栽培で人手がいる。行くところが無い奴隷として売られた少女でもあの村の住人なら暖かく迎え入れてくれるだろう

 

「ゴウン殿」

 

「ガゼフ戦士長。カワサキさんから話は聞いてます」

 

沈鬱そうな表情のガゼフ戦士長。その気質はたっちさんに似ているから、今回の事件で心を痛めているのだろう

 

「こんな事をお願い出来る立場では無いのは判っていますが、どうか彼女達をよろしくお願いします」

 

深く頭を下げるガゼフ戦士長にお任せくださいと返事を返し、少女達が収容されている部屋に足を踏み入れる

 

(ああ。これは切れるわ)

 

無視するというのは撤回しよう。全身が青痣だらけで、顔は腫れあがり、鉄か何かで炙られて火傷させられた痕。こんなのを見ればぶち切れるのは当然だろう

 

「ガゼフ戦士長。転移でこの場を後にしますので、ではまた後日」

 

これは予想よりも酷い、早くペストーニャに見せないと手遅れになる。俺はガゼフ戦士長にそう声を掛け、転移でセカンドナザリックへと向かう

 

「シャドウデーモン。彼女達をセカンドナザリック内部へと運べ、ペストーニャ。治療を頼む」

 

「はい、お任せくださいませ……ワン」

 

ペストーニャに少女達を預け、再び転移で今度はナザリックへと向かう

 

「アインズ様、カワサキ様。お待ちしておりました」

 

入り口の所で待っていたアルベドからリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを受け取り、それを身に付けながら

 

「デミウルゴスとパンドラズアクターを会議室へと呼べ、作戦変更だ。八本指には死んだ方がましと言う苦痛を味わって貰おう」

 

カワサキさんを怒らせ、その心を悲しませた。そしてあの少女達を見たら気が変わった、同じ人間なのにあそこまでの非道が出来るようなクズなど生かしておく価値は無い、だが殺してしまえばそこまで、向こうが殺してくれと懇願するような目に遭わせてくれる

 

「カワサキさん。食材に関してはお任せしますので彼女達を助けてあげてください」

 

「……ああ、すまないな。俺の我侭で」

 

カワサキさんの怒りの理由も納得出来た。そして俺があの現場にいても同じことをしていたと確信した以上。今回の件はカワサキさんの責任ではなく、八本指が原因だ。どうせ排除する予定だったんだ、少しくらい予定を早めても問題は無いだろう

 

(しかし、気分転換も考えた方が良いかもしれないな)

 

前にカワサキさんに提案された海でのレクリエーションをやっても良いかもしれないと思いながら、俺はアルベドと共に会議室へと足を向けるのだった……

 

 

 

 

モモンガさんは俺の怒りの理由を見て納得してくれたが、自分でもあそこまで切れるとは思ってなかった。だが切れた理由もある、あのような光景はリアルでも見た。特に富裕層の肥えた男が少女を物のように扱っているのを思い出して胸糞悪かったのだ

 

「とりあえず食事で体力を回復させてやらないと」

 

思い出して腹が立つような事は忘れて、あの子達のための料理の為に意識を切り替える。

 

(しかしどうするか……)

 

ちらりと見ただけだが、肋骨が浮き出るまで痩せていた。恐らく胃が極端に弱っているから固形物とかは厳しいだろう、かと言って御粥では栄養価が心配だ。回復してきたらうどんとかおじやを食べさせると良いと思うけど……まずは手っ取り早く栄養を取らせないと衰弱してしまうだろう

 

「……スープしかないか」

 

まずはスープで栄養と身体を回復させるとしよう。そうと決まればスープの食材だな……

 

「やっぱり肉関連は難しいだろうなあ」

 

胃腸が弱っているのは目に見えているので野菜をメインにしたスープがベターか、貯蔵庫から野菜を適当に取り出しながらどんなスープを作るか考える

 

「栄養価が高くて、肉を使わない……かぁ」

 

結構縛りがあるが、魔法で体の傷を治したとしても弱りきっている内部組織までは回復しない。これはカイレで判っている事だ……モモンガさんが食材は自由に使ってもいいと許可を出してくれたが、弱りきっている身体に効能の強い食材は危険すぎる。だからナザリックでピニスン達が栽培してくれている野菜を使うことにする

 

「これで栄養価を補うかな」

 

弱りきっている胃では肉は受け入れられない可能性が極めて高い。なのでスープにチーズを溶かしいれて栄養価を補うことにする

 

「さて……と」

 

まずはキャベツだ。たっぷりの流水で洗い、水気を切る。そしたら2~3Cmほどのざく切りにする。これくらいの厚さが食べ応えもあり、食べやすい大きさだ

 

「本当はここにベーコンを入れたいところなんだけどなあ」

 

チーズを1cmほどの角切りにしながら呟く、ベーコンの油と塩味を足すことでスープとしての安定度が増すんだけど……俺は少し考えてから

 

「良し、一般メイドに回そう」

 

ベーコンを塊のまま鍋の中に入れて煮込む。王国で救助した少女達にはスープのみをよそい、一般メイドの賄いにはベーコン入りのスープを出せば良いだろう。まぁ煮てから取り出して刻むので少々調理するのは厳しいか……いや、一般メイドは大食漢だから思いっきり厚切りベーコンを入れてやると喜びそうだな

 

「でっかい厚切りで良いか」

 

ステーキみたいな感じで切り出してしまえば良いか、ベーコンの塊を分厚く切り出しておく。これで食材の準備はOKだ

 

「鶏がら出汁っと」

 

ナザリックの食堂の為に作っている鶏がらスープの大鍋。食堂にはたっぷりと用意されているが、今回使うのは俺がシャルティアとモモンガさんに出したコンソメスープをベースに使う

 

(もう少し減ってると思ったんだけどなあ)

 

大鍋で作っておいて食堂のメニューに追加していいと言っておいたのだが、思った以上に減ってなかった。シホとピッキーが水を加えたり、野菜を足したことで全体的に味が薄くなっているし、作ってから時間が経っているので流石にそろそろ使い切らないと不安なのでこれをベースにスープを作ろうと思う。保存が使われていたとしても不安になると言うのがやはり料理人の心情だろう

 

「うん、良い感じ良い感じ」

 

コンソメスープを半分取り分け、水を少し加えてかさまししたら、香りつけの醤油を入れて沸騰させる。具材を入れる前にそれを味見するがやはり丸鳥とたっぷりの野菜で出汁を取ったコンソメスープなので味は抜群に良い

 

「キャベツとベーコンっと」

 

ざく切りにしたキャベツとベーコンを大鍋の中に入れて蓋をしたら中火で煮る。キャベツのスープを煮ている間に次のスープの準備を始めえる

 

「トマトとセロリ、それと玉葱とじゃがいも」

 

病状は全員異なっているので、体の消耗具合に応じてスープを変える。3種類くらい準備すれば十分だろう

 

「よっと」

 

野菜は1度水洗いをし、食材に応じて切り分ける。トマトは皮を剥いてから4つのくし切り、セロリは筋を取って薄切りに、玉葱は繊維に沿って薄切りにする。小粒のじゃがいもは皮を剥いて半分に切る、これで食材の下拵えは完了だ

 

「凄い量だな……」

 

一般メイドに振舞う事を考えているのでかなりの量の下拵えをしている。一区切りがついた所で山の様な下拵えを見て苦笑する

 

「ん、良い感じ」

 

最初に作っていたキャベツのスープを味見する。ベーコンの脂と塩気がスープに染み出ている、味は間違いなく最高だ。仕上げに角切りにしておいたチーズを鍋の中に入れたら蓋をして火を止める。後は余熱でチーズが溶けてスープにとろみが出て味もまろやかになる

 

「よーし、じゃんじゃんいくか」

 

底が浅い大鍋にトマトとセロリ、そして玉葱を入れたら白ワインをボトルで3本加えて弱火でじっくりと煮詰める。ゆっくりと加熱することでアルコールを飛ばし、白ワインの香りと甘い味わいとトマトと玉葱の甘みを際立たせる

 

「頃合だな」

 

鍋の周りがふつふつとしてきたらヘラでトマトを潰しながら混ぜ合わせる。野菜と白ワインだけでは旨味が足りないので、コンソメスープを加えて味に深みを与える。トマトとコンソメスープを混ぜ合わせたらここで半分に切っておいたじゃがいも加え、蓋をして弱火でじっくりと煮詰める

 

「良ーし、これでOKっと、後は仕上げに塩胡椒で十分だろう」

 

後は塩、胡椒で味を調えればトマトスープも完成だ。これでも十分だと思うが、後もう1種類くらい作っておけば足りなくなると言う心配も無いだろう

 

「カワサキ様。少し宜しいでしょうか?」

 

扉がノックされ1度料理が中断される。開けて良いぞーと声を掛けると俺の厨房に入ってきたのはユリだった

 

「どうかしたか?」

 

「はい、ペストーニャ様が治療した人間なのですが、人間不信と恐怖を訴えております」

 

まぁそれは当然と言えば当然だ。人間扱いされて無かったのだ、人間に対する不信感はあって当然だ

 

「ペストーニャ様の姿を見て、ここが人間以外の種族の集まる場所として認識しているようなのです」

 

「あー、OK。判った、人化解除して行けば良いって事だな」

 

そうなりますと頭を下げるユリ。これは確実に人間軽視のNPCから不満が出るだろうが、人間以外に救われたと言う事である意味裏切りを防止する事に繋がるか?

 

「あ、そう言えばクレマンティーヌは?」

 

休暇になってるクレマンティーヌは何してる?と尋ねるとユリは眼鏡を上げる素振りを見せてから

 

「地底湖で魚釣りをしているそうです。ナーベラルやマーレ様も一緒に」

 

え?あそこ魚いたの?初めて知った事実に少し驚いた。もし魚が生息しているのならばどんな魚がいるのか知りたいところだ

 

「料理が出来たら呼ぶから運び出すのを手伝ってくれるか?」

 

「判りました。では外で待機しております」

 

優雅に一礼して出て行くユリ。外で待機するのか……じゃああんまり時間の掛かるスープは待たせると申し訳ないな

 

「そうとなれば決まりだな」

 

うどんや、ラーメンを作るために厨房に用意されている鶏がら出汁の鍋にごま油を加え、塩、胡椒で味を調える

 

「手早く作るときはこれに限る」

 

水溶き片栗粉を作り、それを回しながらいれたら火を中火にして煮る。その間に卵をボウルの中に割りいれ、菜箸で軽く混ぜ合わせる。スープにトロミがついたら卵を丁寧に回し入れ軽く混ぜ合わせる

 

「良し、OK」

 

卵が良い具合に固まったら火を止める。これで卵スープも完成だ。後は大鍋から寸胴鍋に適量移し変えカートの上に乗せる

 

「ユリを呼ぶ前にっと」

 

俺の厨房と食堂の厨房は電話で繋がっている……と言っても使うのは初めてだが

 

『カワサキ様。どうかなさいましたか?』

 

「俺の厨房にキャベツスープとトマトスープ、それと卵スープが置いてある。今日の食堂のメニューに加えてくれ、それと俺は今からモモンガさんとセカンドナザリックに行く。厨房の鍵は開けてあるから勝手に入って運び出してくれ、頼んだぞ」

 

ピッキーに早口で指示を出し、俺は厨房の外で待っているユリを呼び。ユリに手伝って貰いながら作ったスープを運び出すのだった……

 

 

 

 

動物の頭にメイド服姿のペストーニャ様に私達がどうなったのかを優しく説明して貰った。私達を助けてくれたのはカワサキと呼ばれる御方で、ペストーニャ様の姿と同じく人間では無い御方だと、そして私達の1人……ツアレが助けを求め、そしてそれに答えてくれたのだと

 

「至高の御方がもうじき参られます。決して失礼なきように……わん」

 

私達に緊張が走ったのは言うまでも無い。助けてはくれたが、無礼な態度で怒りを買えば殺されてしまうかもしれない……碌に動かない身体を必死に動かし、姿勢を正す

 

「至高の御方アインズ・ウール・ゴウン様とカワサキ様のご入室です」

 

ペストーニャ様が膝をつき頭を下げる。身体が動かないので頭だけを下げる

 

「ペストーニャ。ご苦労であった、それで助けた者達はどうだ?」

 

「は、酷く衰弱しておりますが、命に別状はありません。数日休養を取り、栄養を取れば回復すると思われます……わん」

 

「そうか、ではカワサキさん。お願い出来ますか?」

 

「はいよっと」

 

何かの蓋が開く音と共にとても良い香りが部屋の中に満ちる。思わず顔を上げそうになるが、それでも俯いたまま声を掛けられるのを待つ

 

「顔を上げ、至高の御方の威光に触れなさい」

 

顔を上げても良いと言う声が掛かり、やっと顔を上げる事が出来た。至高の御方と呼ばれていたのは目が真紅に輝くアンデッドと、黄色の丸い異形だった。でも私達にとっては救いの神に変わりは無かった。痛めつけられ、薬を打たれ、弱れば廃棄される。人間とも扱って貰えなかったのだ、こうして暖かいベッドに横にしてもらえ、そして治療もしてくださった御方には感謝しかない。カートを押しながら黒髪のメイドと共にカワサキ様がベッドに近づいてくる

 

「スープを作ってきた。キャベツのスープとトマトのスープ、それと卵スープ。どれが良い?」

 

「え、選んでも良いのですか?」

 

「おう。好きなので良いぞ?どれにする?」

 

カワサキ様と共に来た黒髪のメイドさんがベッドの柵と柵の間に取り外し出来る机をセットしてくれる。にこにこと笑っているカワサキ様にどれが良い?ともう1度尋ねられ

 

「そ、そのキャベツのスープがい、良いです」

 

「了解っと」

 

カートのしたからお皿を取り出し、大きな鍋の中からスープがお皿に注がれる

 

「熱いから気をつけてな。もし足りなかったら声を掛けてくれればいい」

 

スプーンまで挿してくれて、カワサキ様は次のベッドに向かう。私は自分の前に置かれたスープの皿を見つめた、具材は千切りにされた葉野菜と黄色の溶けた何か……殆ど何も食べてない私にはこのシンプルなスープが何よりもご馳走に思えた

 

「……美味しい」

 

スプーンで掬ったスープを口に運ぶと同時に自然と美味しいという言葉が口から零れた。葉野菜と溶けた何かしか具材が見えないのに、お肉や色んな野菜の旨味がスープの中に溶け出していた

 

「美味しい……」

 

弱った身体にスープの温かい熱が染み渡っていくのが判る。肉の姿は見えないのに、肉の味と脂はこれでもかと口の中に残る。人買いに売られてからこんなに温かい食事をしたのは初めてだ

 

「……おい……しい……」

 

スープがたっぷり染みこんだ葉野菜を口に運ぶ。たっぷりの旨味が溶け出したスープは葉野菜の中にも染みこんでいる、噛み締めると野菜の甘みとスープの味が口の中に広がる……溶けた何かの塩味とまろやかな味が口の中でスープの味をどんどん変えていく

 

「……うう……」

 

美味しい、美味しい、そんな言葉すら口にする事が出来ない。この優しい味のスープが助かったと言う実感となり、私はスプーンを握り締めたまま涙を流すのだった……

 

 

 

 

隣のベッドから嗚咽が聞こえる、美味しいという呟きと泣き声がどうしても耳に響く

 

「君はどうする?」

 

「……卵のスープが欲しいです」

 

キャベツとトマトと卵のスープがあると聞いて、卵のスープが欲しいとお願いすると、すぐにスープが机の上に置かれた

 

(……良い匂い)

 

黄色い卵がスープの中に浮いているのが見える、それに嗅いだことも無い良い香りがする

 

「これは凄く熱いから気をつけて」

 

「……ありがとうございます」

 

カワサキ様の優しい言葉に感謝の言葉を告げて、スプーンを手にし、スープの皿を覗き込む。スープの中には油が浮いていて、解き解された卵の白と黄色が鮮やかな彩りになっている。

 

「……ふー、ふー」

 

何度も息を吹きかけるが、スープが冷める気配は無い。これはこういう熱いスープのようだ

 

「……ん」

 

これ以上冷ますのも無理そうなので、少し怖いと思いながらスープを口に運ぶ。私の生まれた村では味わった事の無い独特の味と香りが口一杯に広がる。

 味わったことの無いスープには間違いがない、だけどどこか懐かしいと思う味だ

 

(……鳥のスープに似てる)

 

お父さんが森の中で捕って来た鳥のスープ。それに何処となく似ていると思った

 

「……温かい」

 

熱いと思っていたのだが、飲んでみると思ったよりも熱くない。むしろ丁度良い熱さだと思う

 

(……これは熱いから美味しいスープなのね)

 

この熱さで無ければ美味しく食べる事の出来ないスープ。ちょっと珍しいと思うが、そういうスープなのだとわかった。昔飲んだ鳥のスープも冷めてしまうと油っぽくなって、出来立てとは全然違う味になっていたのを思い出したから

 

(……次は卵)

 

スープを心行くまで味わったら次は卵だ。ふわりと広がる卵に思わず唾を飲み込む……卵と言うのは貴重品だ。それがこんなに贅沢にスープになっているなんてまるで夢のようだ

 

「……美味しい」

 

スープの上に雲のように広がっている卵を口にする。雲のようだと思ったそれは噛もうと思うよりも先に口の中で溶けるように消えた……

 

「……ふー」

 

思わず溜息が出てしまうほどに美味しい。口にすればするほどにお腹が減る、スープを掬う手は1度も止ることは無い

 

「……うう」

 

お腹が満たされてくると、涙が零れてる事に気付いた。空腹でひもじくて、死にたくないとばかり考えていて……そして今やっと安全な場所に来た。そしてもう殴られることも無い、首を絞められることも無い、焼いた鉄を素肌に押し付けられることも無い。それを今やっと理解し、私は涙を流しながらスープを口に運ぶ、生きていて良かった……何度死にたいと思い、自殺しようとしても死ななくて良かったと心から思うのだった……

 

 

 

 

トマトのスープ。それは私の生まれた村では一般的な料理だった、収穫したトマトをそのまま鍋の中に入れて、潰しながら煮る。それはシンプルだけど何よりも美味しいご馳走だと思った

 

「……美味しい」

 

でも今口に運んでいるスープは全然違う。村で飲んだトマトのスープはトマトの皮が口の中に残る物だったが、これは不思議とトマトの皮が口の中に残ることは無かった

 

(……甘い)

 

記憶にあるスープは酸っぱい味だったと思うのだが、このスープは甘かった……それにトマトだけでは無い、色んな旨味がスープの中に溶け出していた

 

(……良い香り)

 

香味野菜の香りが口の中に広がる。その爽やかな香りとトマトと玉葱の甘みが体の中に染み渡っていくのが判る

 

(これから私達はどうなるんだろう)

 

美味しくて幸せだ。こうして助けられたことは幸運だったのだろう……だけど私達はこれからどうなるのだろうかと言う不安が如何しても頭を過ぎる

 

(美味しいのに……)

 

美味しいのに恐怖がどうしても拭えない。今まで何度かこういう事があったから余計にそう思う……食べさせるだけ食べさせた後、私達はどうなるのかと言う不安でどうしてもスープを口に運ぶ手が止ってしまう

 

「さてと食べながら聞いてくれれば良い。私達は君達を助けた……だが、君達を自由にする事が出来ないのもまた事実。それを全員胸に留めておいて欲しい」

 

アインズ様のお言葉に、思わず恐怖で顔が引き攣るのが判る。それは私だけでは無い、全員がそうだったと思う

 

「だがそんなに怯えないで欲しい、君達が必ず守らなけばならない事は2つ。私とカワサキさんが異形種だと言わないこと、そしてここで見た事を他人に口にしないこと。その2つさえ守ってくれれば良い」

 

その恐ろしい外見からは想像できない優しい声で告げるアインズ様。アインズ様は私達の表情が和らぐと頷き

 

「まず当面はここで身体を回復してもらう、ペストーニャが君達の主治医となる。回復した後はカルネ村もしくはここ、セカンドナザリックにて野菜や果物の栽培をしてもらう。自由にさせるわけにはいかないが、勿論給金なども出す」

 

「そ、それは仕事と住む場所を与えてくれると言う事でしょうか?」

 

思わずそう声に出して質問する。アインズ様とカワサキ様は揃って頷きになられ

 

「勿論そうなる、カルネ村と言う村を今開拓しているので、そこに君達の住居を用意する。セカンドナザリックに残るのは植物などの栽培に詳しい者となる。難しく考えずに今は身体を休めることを考えてくれれば良い。ユリ、ペストーニャ、後は任せる。行きましょう、カワサキさん」

 

「了解っと、じゃあなー」

 

アインズ様と違い、柔らかい雰囲気のカワサキ様のお2人が部屋を出て行く

 

「貴方達はとても運が良いです。ですが、アインズ様がお告げになられた2つの条件、それを守れない場合、貴女達は処分されると言う事を肝に銘じておいてください」

 

「では今から、貴女達が守らなければならない規則などをお教えします。それさえ守れば貴女達の安全は保障しますのでかならず覚えてください……わん」

 

色々と守らなければならない事はあるが、私達は救われたのだ。今私は実感するのだった……

 

「なあ、モモンガさんよ。弁当作って地底湖行かない?」

 

「地底湖?なにをするんですか?」

 

「いやさ、クレマンティーヌ達が釣りしてるらしいんだよ」

 

「え?地底湖に魚居たんですか?」

 

「しらね。でもちょっと気分転換したい気分なんだよ」

 

「あー判ります、あの子達ずいぶん追い詰められていたみたいですしね」

 

そしてモモンガとカワサキの2人は予想よりも追い詰められていた少女達の悲壮な表情を見て、気分転換を兼ねて地底湖で釣りをすると言う話となった

 

「じゃあお弁当を作りにいこうか」

 

「え?俺も作るんですか?」

 

「当たり前じゃん?大丈夫大丈夫、簡単だから」

 

モモンガが突如、カワサキに料理を作ろうぜと言われ、不安そうに顔を歪め、カワサキはそんなモモンガを見て笑いながら、セカンドナザリック内の厨房へと足を向けるのだった……

 

 

 

メニュー67 色んな魚料理

 

 




はい、と言う訳で今回は助けられた少女達の話でした。シナリオと料理の両立の難易度に軽く絶望です、次回は塩焼きなどを作り、病人食その2と続けて行こうと思います。そろそろちゃんとした料理フェイズを書いて行きたいですね、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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