生きたければ飯を食え   作:混沌の魔法使い

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メニュー66 色んな魚料理

メニュー66 色んな魚料理

 

 

地底湖で釣りをしていると言うナーベラルたちと合流する前に簡単なお弁当を作る。魚釣りは案外動き回るので、カワサキは塩気の効いたおにぎりを作る事に決めた

 

「あちゃちゃああ!!」

 

「大丈夫か?」

 

「熱いです……」

 

炊き立てご飯でのおにぎり作成は初心者であるモモンガにはハードルが高すぎた。カワサキは慣れた手つきでお握りを握っているが、モモンガは長く持ちすぎて、炊き立ての米の熱さに手を焼かれていた

 

「全く……良いか? まず手に塩をつけてご飯を取る。素早く握る、回転させながらするといい。じっと持ってると熱いからな」

 

「カワサキさんでも熱いんですか?」

 

「当たり前だ」

 

モモンガの問いかけに俺を何だと思っているんだ?とカワサキは笑いながらおにぎりを作り、モモンガは真剣な顔でカワサキの作る動きを観察する

 

「あち!あちちち!!!」

 

熱いと連呼し、四苦八苦しながらおにぎり作成を続けるのだった。

 

「よーし、行くかー」

 

「これだけあれば足りるでしょう」

 

2人で200個近く作ったので大丈夫だろうと笑いあい、お弁当箱の中に詰め込む。のりを巻いただけのシンプルなおにぎりだが、そのシンプルさがかえって丁度良かったりするのだろう

 

「ところで地底湖ってなんかやってましたっけ?」

 

「るし★ふぁーとか、ブループラネットさんが地底湖で魚を養殖するとかなんとか言ってた気がする」

 

「……ブループラネットさんはともかく、るし★ふぁーさんは不安ですね、早く様子を見に行きましょうか」

 

もしかしたら地底湖にゴーレムの魚がいるかもしれない。そんな不安を抱きながら、モモンガとカワサキは地底湖へ向かうのだった……

 

 

 

ナザリック第4層。階層守護者であるゴーレム「ガルガンチュア」が眠る地底湖は普段静寂に満ちているのだが、今日は普段と違う様子だった。レジャーシートや折りたたみの椅子や机が並び、ナーベラルやエントマ、シズと言ったプレアデスに、ニグンやリリオット、クレマンティーヌに、フィッシャーマンスタイルのデミウルゴスや、アウラとマーレ、そしてアルベド達の姿もあった

 

「これで良いんですか?」

 

「ええ、大丈夫ですよマーレ。そんなに力まなくても良いので、軽く振り込めば良いです」

 

わ、判りましたと返事を返し、おっかなびっくり竿を振り込むマーレ。デミウルゴスはそんなマーレの様子に笑いながら、タックルボックスを開けて次の仕掛けの準備を始める。ナザリック内での待機を命じられているデミウルゴス達は、アインズに許可を得てから地底湖での魚釣りを楽しんでいた

 

「ん!釣れました……あっ……」

 

「もう駄目ですよぉ、そんなに力一杯引っ張ったら」

 

力任せに引っ張り、糸を切ってしまったナーベラルの隣で、クレマンティーヌが竿先を上げる。すると小刻みに竿先が揺れ、穂先が水面へと向かう

 

「こうやって竿を立てて、弾力を生かして魚を暴れさせて」

 

竿を高く立て、竿の弾力で魚を水面へと引き上げ、魚の動きに合わせて竿を傾け、魚の抵抗が弱くなった所で網を手にして

 

「よいっしょっと、はい、こんな感じですよ」

 

「……なるほど、判りました」

 

ナーベラルはクレマンティーヌの隣で針に餌をつけなおし、振り子の要領で仕掛けを振り込む。赤いウキが湖面に馴染み浮かび上がる

 

「今度こそ釣ります」

 

ウキを親の仇のように見つめるナーベラルの姿に地底湖にいた面々に笑いが満ちる

 

「はい、仕掛けの準備が出来ましたよ。ではアウラもどうぞ」

 

「う、うん、やってみる」

 

おっかなびっくり仕掛けを地底湖に投げ入れるアウラと、ニグンに教わりながら魚を釣ろうと頑張るマーレ。外での活動が禁止されているからこそ、今回許可を得て地底湖でのレクリエーションが決行されていた

 

「多く釣った方が勝ちだからねぇ」

 

「……判った」

 

料理では負けたけど、魚釣りはお互いに初心者だから負けないと争っているエントマとシズの姿もある

 

「シズもエントマも楽しそうね、ユリ。本当ならソリュシャンもいれたら良かったわね」

 

「そうですね、でも、御方に命じられて仕事をしているのは少し羨ましいです」

 

レジャーシートの上でアルベドとユリが穏やかに話をしている中、地底湖にゲートが現れる

 

「おーやってるなあ、俺とモモンガさんも合流させてもらうぞ」

 

「魚釣りは初めてですね、実に楽しみです」

 

そしてモモンガとカワサキの登場により、また一気に騒がしくなる。福利厚生を充実させたいと思っていたモモンガとカワサキにとって、NPCたちが動き、こうして準備を進めていたことに笑みを浮かべながら、魚釣りに参加するのだった

 

 

 

 

 

魚釣り……ブループラネットさんが求めて止まなかったキャンプをするときの醍醐味。それをまさかナザリックで行うことが出来るなんて夢にも思っていなかった

 

「はい、持ってて」

 

「あ、はい」

 

カワサキさんに渡された木の棒を受け取るが、これで本当に釣れるのだろうか?と言う疑問が浮かぶ。カワサキさんは慣れた手つきで仕掛けを作り終え、針に赤い丸をつけて

 

「よし、出来た。じゃあ行こう」

 

「はい」

 

カワサキさんが地底湖の縁に立ち、俺が持っていた釣り竿を受け取り。

 

「こうやってこう」

 

「なるほど」

 

片手に竿を持ち、片手に仕掛けを持って仕掛けを放すと同時に竿を上げる。振り子の要領で湖面に仕掛けが落ちる

 

「あのウキが沈んだら、竿を立てれば良い。まぁ最初は難しいと思うけど、頑張ってみな」

 

カワサキさんに判りましたと返事を返し、湖面に浮かぶウキを見つめる

 

「で、デミウルゴス!早く、私の分も!」

 

「はいはい、判ってますよ。騒げば騒いだ分時間が掛かりますよ」

 

デミウルゴスの言葉にうぐっと呻くアルベドの声に思わず苦笑していると

 

「やっ、やああ……あわわっー!」

 

「だ、大丈夫ですよ。アウラ様、落ち着いて、ゆっくりと竿を動かしてください」

 

どうやらアウラの竿に魚が掛かったらしく、おろおろしている。その姿は年相応に見えて実に微笑ましい

 

「……釣れた。エントマ……下手」

 

「う、うううー!負けてない!まだ負けてない!!!」

 

シズが魚を釣り上げている姿が見えたのだが、その手に握られているのは炎のような赤い魚……ユグドラシルの食用モンスターだ。何度も見ているから間違いない、俺は湖面を見て

 

(そう言えば、地底湖で養殖とか……)

 

うろ覚えだけど、Aランクまでの魚の食用モンスターを確か地底湖に放流したような……完全に忘れてたけど繁殖していたようだ

 

「……スッ」

 

「いや、リリオット、なんか言おうよ?」

 

「?」

 

リリオットは仕掛けを振り込む度に何か釣っているのだが、リアクションが薄い。餌をつける、仕掛けを振り込む、釣り上げるの無限ループ。俺はリリオットにも意外な一面があるんだなと思った。やっぱり人間誰しも意外な面って言う物はあるのだと思った

 

「アインズ様魚が食っていますよ」

 

デミウルゴスに注意され、湖面に視線を戻すとウキが水面に引きずり込まれていた

 

「っと!……ああ」

 

合わせる事が出来なかったのか、空振りで針だけが手元に飛んでくる

 

「失礼します」

 

「ああ。すまないな、デミウルゴス。そうだ、すまないついでだが……魚はどうすれば釣れるのか教えてくれないか?」

 

 俺の言葉に喜んでと返事をして俺の手から針を取り、餌を付けてどうぞと渡してくれるデミウルゴス。ありがとうと口にして、俺は再び仕掛けを地底湖に振り込む

 

「魚の養殖をしているので、必ず釣れますよ。ウキが沈んだら、力任せではなく、軽く穂先を立てるくらいで十分です」

 

「うむ、そうか。釣りなどした事が無い物でな」

 

リアルでは絶対出来ない物だなと思いながら、ウキを真剣に見つめる。視線を横に逸らすとマーレがやっと魚が掛かったのか、右往左往しながら魚を寄せている。だがその顔には笑顔が満ちていた

 

「エントマはあれだな、少し焦りすぎだ。もう少しゆっくりで良い」

 

「は、はい。頑張ります」

 

エントマはカワサキさんの隣で竿を手にしている。シズは若干面白く無さそうな顔をしているが、あれだけ無表情なシズの感情が顔に出ているのは見ていて微笑ましい

 

「アインズ様、お隣失礼します」

 

アルベドがそう笑いながら口にして、仕掛けを地底湖に投げ入れる。少し離れた所にウキが浮かぶ

 

「アルベド、人の近くでやるのはマナー違反ですよ。せめて後もう2歩は離れなさい」

 

「……そういうものなのね。判ったわ」

 

デミウルゴスの注意で左に2歩ずれたアルベド。やはり近くにいると仕掛け同士が絡まる……ッ

 

「っ!来た」

 

竿をあおると穂先が地底湖の中に突き刺さる。思ったよりも強い手応えに思わず声が出る

 

「いけません、大きすぎる!アインズ様。無理をなさらず、魚の動きに合わせて竿を動かしてください。アルベド、竿を上げてください。仕掛けが絡まります」

 

どうもかなり大きいのが食いついてしまったようだ。アルベドが竿を上げるとほぼ同時に魚がそっちに向かって走る、もう少し遅かったら仕掛けが絡まっていただろうなと冷や汗を流す。デミウルゴスの指示に従い、竿を右に左に動かし、足場も移動するのだが、魚の動きが糸をから竿を通して手元に伝わってくる。その振動に胸が高鳴る

 

「寄って来ました。ゆっくり、ゆっくりです」

 

デミウルゴスがしゃがみ込み、糸を掴んで手にした網で魚を掬う

 

「良いサイズです。さすがアインズ様」

 

さすがと言われるが、俺としては初めての釣りなのでそう言われても気恥ずかしい気持ちが大きい。だがこうして目の前に鎮座する巨大な魚を見ると達成感が込み上げてくる

 

(これは面白い)

 

ブループラネットさんが至高の娯楽と言っていたのが理解出来た。これは面白い、それに達成感も充実感もある

 

「今度は私も釣りますね」

 

「ああ、頑張れ。アルベド」

 

釣り上げた魚はカワサキさんが料理してくれる手筈になっている。俺も後2~3匹は釣りたいなと思い仕掛けを地底湖へと振り込む

 

「で、デミウルゴス!わ。私にも仕掛けを作ってください」

 

俺とカワサキさんがいると聞いたからか、息を切らして地底湖に姿を見せたシャルティアに笑みを浮かべるのと同時に、俺とアルベドのウキが地底湖の中へと消える。あちこちから聞こえてくる楽しそうな声に、俺も笑みを浮かべるのだった……

 

 

 

 

思いもよらぬ大所帯での魚釣りとなったので今俺の目の前には大量の魚が鎮座している。一番小さいので20cm、最大で35cmで70匹前後とかなりの量だ。しかもそれが全部ユグドラシル由縁の魚となれば、俺もモモンガさんも大満足だ。

 

(何を作るかなー)

 

これだけ量があると何を作ろうかと楽しみで仕方ない。シズが手伝ってくれると言っていたが、今回はユリが手伝ってくれる事になり、モモンガさんやクレマンティーヌ達は折りたたみの机や椅子に腰掛け、魚釣りの感想などを話し合いながら休憩している。その楽しそうな姿を見ながら、簡易の調理台を組み立てる

 

「じゃあ。ユリ頼んだ」

 

「はい、お任せください」

 

無限の水差しを手渡し、俺の手元に向かって水をずっと流してもらう。まずは鱗を取り除き、エラの部分に刃を入れて頭を取り除く、そして最後に腹を割いて、内臓を取り出す。唐揚げの下拵えを済ませ、続けて今度は頭を落とさずに鱗と内臓だけ取り除く

 

「カワサキ様、質問宜しいでしょうか?」

 

「ん?なんだ?」

 

今度は鱗だけを剥がした魚を尾から包丁を入れて、背骨に沿って刃を入れる。引っくり返して同じように尾の方から包丁を入れて、頭の方に刃を滑らせる

 

「同じ魚なのですが、どうしてこんなにも下拵えが違うのですか?」

 

「そりゃ作る料理が違うからだよ」

 

作る料理に応じて適した魚の捌き方と言うのがある。特に魚を食べ慣れていないモモンガさんの事も考慮してやらないといけないしと言いながら、包丁から調理バサミに持ち替え、頭と尾の部分から中骨を切り、背骨を取り除き水洗いをする

 

「そういう質問をしてくるって事は料理に興味があるのか?」

 

俺の言葉に少し戸惑ったような顔をしたユリにどうした?と再度尋ねる

 

「いえ、ルプスレギナとシズが料理を出来るようなのですが、私はその……料理が出来ない物で、姉としての威厳を保つために料理を覚える必要があるかと……」

 

恥ずかしそうにしているユリだが、俺としてはあの駄犬が料理が出来るって事の方が驚きだ

 

「そうか、じゃあ簡単な料理は教えてやろうか。暫く水は使わないからこっち来い」

 

料理を覚える意欲があるなら教えてやるからおいでおいでとユリに手招きし、近づいて来たユリに人化を施す

 

「人化しないと料理は覚えれないからな。ユリは下拵えとかは出来たよな?」

 

「は、はい。下拵えは問題なく全て出来ます」

 

やまいこさんも下拵えが出来るって言う設定を与えるなら、ついでに料理も教えてやればよかったのにと思いながら内臓と鱗だけを取り除いた魚を2匹取って、竹串を手渡す

 

「まずは魚の塩焼きからな。と言っても今回のはキャンプ用の料理みたいになるから大雑把で悪いけど」

 

「い、いえ。教えていただけるだけで嬉しいです」

 

ユリの言葉に頷き、竹串を手にとってユリに見せるようにゆっくりと串を打つ

 

「串はエラの部分から入れて、背骨の下に向かって刺す。そしてそのまま背骨を串に巻きつけるようにして、螺旋状に差し込んでいくんだ」

 

見本として出来た物をユリの前に置く。魚が泳ぐように身をくねらせている姿のそれを見て、ユリはおっかなびっくり串を打っていく。その姿を見ながら

 

(なんだ、案外出来るじゃないか)

 

物覚えが良いのか、1度見せただけだが殆ど完璧と言っても良い串打ちを見せてくれる。

 

「で、出来ました。どうでしょうか?」

 

「おう、上手上手。良く出来ているよ」

 

初めてでこれだけ出来れば上出来だ。後はやってるうちにスピードも速くなっていくだろう。2人で塩焼き用の20匹の串打ちを終える、覚えさせるためにユリにも10匹やらせてみたが、3匹目からは俺と遜色ないスピードになっていた

 

「次に塩だが、均一になるようにやや高い位置から落とすように振りかける」

 

塩を掴んで魚の上に振りかける。塩焼きで味の薄い部分があるとか最悪だからな、全体に振りかけたら塩をさらに手に取り

 

「鰭の部分にはやや厚めに塩を塗る。こうすれば身で味の薄い部分があっても、鰭を食べれば美味しく食べ続けることが出来る。やってみろ」

 

「は、はい!判りました」

 

塩を手に取るユリだが、その量が多い。それに苦笑しながら

 

「もう少し少なくて良い。味が薄いのは良くないが、濃くても良くないんだ」

 

「は、はい!」

 

緊張しすぎだろうと苦笑しながら、片栗粉と塩胡椒を用意する。外(?)で食べる料理だから気取った物ではなく、シンプルな料理に仕上げるつもりだ

 

「次は唐揚げだ。塩胡椒をして、片栗粉を全面に塗す。これで終わりだ、後は油で揚げる。簡単だろ?」

 

大きめの鍋に油を入れて加熱する、温度は170℃ほどのやや低めの温度で。じっくりと揚げるだけだと言って塩胡椒をして、片栗粉を塗した魚を滑らせるようにして鍋の中に入れる

 

「……」

 

「いや、そんなに身構えなくても大丈夫だから」

 

油の中に入れる時に物凄い身構えているユリに思わず笑ってしまう。真面目だけど、どこかズレてるユリの性格ってやまいこさんに似てるなあと思う。恥ずかしそうに顔を赤く染めながら鍋の中に入れるユリ

 

「後は狐色になるまでほっておけば大丈夫だ。じゃあ、これを適当な大きさにきってくれ」

 

キャベツと玉葱、それとしめじをユリに渡し、俺はアルミホイルを手にする。魚の塩焼きを作るのに焚き火をするんだから、それを生かさない手は無い。ユリが野菜を切っている間にアルミホイルにオリーブオイルを塗り、ユリが切った奴をその上に乱雑に乗せて、野菜の上に魚を丸のまま乗せる。骨を取り除いているのでそのままで大丈夫だ、バターを落としてアルミホイルで包む。念の為に二重にしてこれも10匹ほど用意する。少し残っているが、足りないと言う声が出れば作れるようにある程度は残しておく

 

「出来ました」

 

俺の手順を真似て包み焼きの準備をするユリ。プレアデスの副リーダーと言うだけあって、ユリはもの覚えが良い。これならさほど苦労もなく料理を覚えれるんじゃないか?と思いながら、俺は揚げ終わった魚の唐揚げを鍋から取り出すのだった……

 

 

 

 

 

地底湖での魚釣りは思った以上に楽しい物となりましたね。私は心の中でそう呟いた。マーレに魚釣りを教えると約束していましたが、外に出れないのでどうしようかと思っていたところ、地底湖での魚釣りの許可が下りたので、そこにマーレを連れて行くことにした。たまたまログハウスに来ていたユリとシズとエントマ、それにアウラにアルベドまで参加する事になり、ここまで来たら私1人では面倒を見切れないのでニグンに声を掛けたら、クレマンティーヌとリリオット、そしてナーベラルもついてくると言う結構な大所帯になった。アインズ様とカワサキ様まで訪れてくれたと言うのは余りにも予想外でしたが、楽しい時間を過ごす事が出来たと思う

 

「……私の勝ち」

 

「……うううう……」

 

魚釣りで勝負していたシズとエントマはシズが7匹、エントマが2匹とシズの圧勝でしたが、投げ入れてすぐに回収していては釣れる物も釣れ無いと言うもの、助言はしたのですが焦っているエントマにはその言葉が届かなかったようで残念です

 

「結構つれたね、お姉ちゃん」

 

「う、うん、面白かった」

 

アウラとマーレは仲良く3匹ずつ。意外とアウラも魚釣りが上手で2人で和気藹々と楽しんでいた

 

「もう少し早く来るべきだったわね、シャルティア」

 

「……そうですね。残念です」

 

シャルティアは時間の問題もあり1匹だが、アルベドがシレッとした顔をしていても0匹なのを忘れてはいけない。力任せに引っ張り何度糸を切ったことか……

 

「なに、心配することは無い。後日海に向かう事になっているのでその時に釣れば良いだろう」

 

海……なるほど、今回地底湖での魚釣りを許可してくださったのは、海での釣りの予行練習だったと言う事ですか。この場にいないコキュートスとパンドラズ・アクターの事もあるが、アインズ様とカワサキ様が計画してくれたのだ。今度は2人も参加することでしょう

 

「……少し腕が錆付いてると思う」

 

「いや、30も釣れば上等でしょ?」

 

「どうすればそんなに釣れますか?」

 

「魚の気持ちになる」

 

「……いや、リリオット。それは意味判らないよ」

 

しかし驚きなのはリリオットだ、私が27匹に対して、リリオットは30……微妙な差異だが、リリオットに負けたのは正直予想外でした

 

「でも良かったの?ニグンは釣りをしなくて」

 

「構わない。私は手伝いに徹するだけだ」

 

そしてニグンもボウズだが、それは全員の餌を付けて回り、魚を掬っていたからだ。釣っている時間は無いだろう。だが私の勘ではニグンも魚釣りは上手そうなので、もし海に行くのなら是非腕比べをしたいものですね

 

「はい、お待たせー。今からお昼ご飯の用意をするからなー」

 

カワサキ様がユリと共に来て焚き火の準備をする。手伝おうと私達が腰を上げるが

 

「良いって座ってろよ。料理は俺の仕事だ、俺の仕事を取ってくれるなよ。デミウルゴス」

 

そう言われてしまえば立ち上がる事が出来ないので再び椅子に腰を下ろす

 

「塩焼きとホイル焼きが出来るまでの間。唐揚げをどうぞ」

 

ユリが紙皿に魚を丸々1匹使った唐揚げを乗せてアインズ様から順に配っていく、パリパリに揚げられたそれは見るからに美味しそうだ

 

「よしっとこれで良いだろう」

 

焚き火の回りに串に刺した魚を並べ、銀紙に包まれた魚を焚き火の中に入れたカワサキ様もこちらに合流する

 

「後は出来上がるまでおにぎりとかを食べて待つとしようか」

 

机の上に並べられたおにぎりですが、明らかに形が不恰好なのがいくつか混じっていますね

 

「あー私が作ったものもいくつか混じっている、カワサキさんと比べると不恰好だが許して欲しい」

 

アインズ様が御手ずから!?形が不恰好なんてとんでもない、それは何よりも素晴らしい物であると認識を改める。素早く手を伸ばし1つずつ確保したアルベドとシャルティアに苦笑しながら、私も1つおにぎりを手にする。アインズ様はそんな私達を見て恥ずかしそうにしているが、シモベにここまでしてくれるお2人には感謝しかない。これほどまでに偉大でお優しい方に仕える事が出来る私達は幸せだと心からそう思う

 

「わぁ、美味しい♪」

 

「……う、うん。凄く美味しい」

 

アウラとマーレの嬉しそうな声が響く。自分達で釣った魚ですから、喜びも一入でしょう

 

「うむ、美味い。皮もパリパリで実に美味しい」

 

「本当ですね。とても美味しいです」

 

揚げただけのシンプルな料理のはずなのにとても美味しい。そこがやはりカワサキ様の素晴らしい料理の腕なのだろう

 

「……あむぅ」

 

「丸ごと食べて大丈夫?」

 

「大丈夫ぅ」

 

シズに負けたエントマは半泣きで頭から魚をバリバリと齧っている。その姿に思わず心配になりながら私も唐揚げを手に取り、少し考えた後、頭と尻尾を持って胴体にかじりつく

 

(……素晴らしい)

 

魚にたっぷりと脂が乗っているから味付けは薄め。だがその薄めの味付けがより魚の味を良い物にしている。パリパリに揚げられた皮は香ばしく、その香ばしい香りと魚の脂が口の中で混じりあい素晴らしい味を齎してくれる

 

「んー美味しい。外……?うん外で食べるご飯は美味しいね」

 

「釣り立ての魚と言うのもあると思うけど、本当に美味しい」

 

クレマンティーヌとリリオットが楽しそうに話をする声が聞こえてくる。人間なんてと思うときはあるが、こうしてナザリックの中にいる人間に少なからず友好的な態度を取れるようになってきたと思う。

 

「良い匂いがしてきましたね」

 

「もう良いかな?」

 

カワサキ様が立ち上がり、焚き火の側に座り満足そうに頷く

 

「良し、塩焼きもホイル焼きも完成だ。ユリ手伝ってくれ」

 

「はい、今参ります」

 

ユリに手伝わせ。焚き火から取り出したホイル焼きと塩焼きを運んできてくれる

 

「熱いうちにどうぞとの事です」

 

勿論私もそのつもりだ。焼きたての塩焼きに手を伸ばす。皮にこんがりと焼き目がついていて、焼きあがるまでの香ばしい香りと脂が落ちる音が食欲をそそっていたので、塩焼きに齧り付く

 

「美味しいです、カワサキ様」

 

「おう、それは良かったな」

 

皮目はパリパリに焼かれ、ついている焦げも香ばしく、白雪のような魚の身はしっとりとしているが、脂も乗っていて絶品だ

 

「うーん。良い香りです、野菜の香りですね」

 

「こうして包んで焼くだけと言うのに美味しそうですね」

 

シャルティアとアインズ様は魚のホイル焼きに手を伸ばし、その隣ではアルベドが塩焼きに齧りついている。こういうのはなんですが、美女なのにアルベドがアインズ様に引かれているのはそういう所だと思う

 

「あ、このお魚、骨がない」

 

「……ほ、本当だ。食べやすいね」

 

魚を食べなれていないアウラとマーレが嬉しそうに言う。食べなれていない事を考えて骨を取り除いているのですか。普通に捌くより手間が掛かるのに、なんとお優しいことか

 

「魚にも野菜の味が染みこんでいて美味しいです」

 

「うんうん。凄く美味しい」

 

どうもホイル焼きがかなり美味しいようなので、紙皿の上に塩焼きを置き、ホイル焼きに手を伸ばす

 

「……魚が一匹入ってる」

 

「豪快な料理ですね、でも美味しいと思いますよ。シズ、エントマもちゃんと野菜を食べるのですよ」

 

「……はぁい……」

 

ユリがシズとエントマの世話をしている傍ら、カワサキ様が白ワインを取り出してアインズ様に勧めるが、アインズ様が手をぶんぶんと振る姿が見える。不敬かもしれないが、その光景を見ていると何とも微笑ましいと思ってしまう

 

(良い香りだ)

 

アルミホイルを開けると爽やかな香りが広がる。湯気の下から見える魚の下には野菜が敷き詰められ、香り付けだろうかレモンのスライスの酸味を帯びた香りが実に爽やかだ

 

(……美味いッ!)

 

ホイルで包んで焼いただけだ。それなのにバターの濃厚な旨味と野菜の甘み、そしてレモンの酸味……それらは1つ1つが強烈な味なのだが、喧嘩せず。魚の旨味と脂がそれを包み込み、1ランクも2ランクも素晴らしい味にしている。そして骨を取り除き、丸々1匹包み焼きにされているので満足感もある

 

「美味しいです。ただ包んで焼いただけなのに……」

 

ユリがホイル焼きを口に運び、信じられないと言う様子で呟く。それは私も同感だ。これだけシンプルな料理なのに何故ここまで味わい深いのかそれが不思議で仕方ない

 

「そう難しく考えることは無いんだよ。身体を動かして、自然の中で食べる。それだけで美味しく感じるものだ」

 

白ワインを口にしながら笑みを浮かべるカワサキ様は、美味しいと笑いながら食事をしている私達を見て嬉しそうに微笑んでいる。笑顔に満ちているその光景は確かに見つめていると胸が温かくなってくる

 

(これがカワサキ様の求める物……なのでしょうか)

 

カワサキ様の目指すもの、そして求める物。そのほんの片鱗を私は見たような気持ちになった。

 

「そしてこれは俺とモモンガさんで作ったおにぎりだ、これも食べてくれよ」

 

「少々不恰好だが、ベストは尽くしたつもりだ」

 

シモベの為にアインズ様とカワサキ様がおにぎりまで作ってくれた。お手をわずらせてしまったことに罪悪感を抱き、それと同時にお2人が作ってくれた事に感謝しながら、新しく並べられたおにぎりに手を伸ばすのだった……

 

 

 

メニュー67 病人食その2/カルネ村開拓計画始動

 

 




こんかいもややあっさりとした話になりました。書きたいものはあるけど流れ的に出せないのが辛いところです、もう少しで帝国・王国編は終わりで次の話に入っていこうと思いますのでもう暫くの間はこんな感じでよろしくお願いします。それでは次回の更新もお楽しみに

やはりカワサキさんがオラリオにいるのは……

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