うわっ…私の運命、過酷すぎ…?   作:股巾着

5 / 5

前回あとがきに注意書き的な感じで、

『もっと滅茶苦茶にしてやっからな!』(意訳)

って書いたので、てっきりお気に入りとかなくなるくらいの想定だったんですけど。逆にお気に入り数とか色々増えてて拙僧驚きです。

感想も結構いただいてマジで嬉しくなってます。
結構ガチで、感想を貰ったおかげで筆がクロックアップしてます。
千倍です。ありがとうございます。

正直かなりハイペースすぎてバランスの悪さとか描写が足りない個所とかボロボロ出てきたので、その内幼少期編に追加の話がぶちこまれるかもしれませんが、あんまり読む必要ないかなーとか思ってたりしやす。

今回も色々な意味で滅茶苦茶やってますが、
作品ごとの違いから抽出した結果になりますので許してクレメンス。


五話『どうか届きますように』

 

 

 

 

 

 ソルジャー、クラス2nd。

 それが、今の俺の肩書だ。

 

 俺の想定では、そもそもクラウド君がソルジャーになれなかったのは精神的な面が大きいと踏んでいた。肉体的な素養はともかく、人よりも精神的に弱かったからソルジャーになれなかったのだろうと。

 俺の計画ではソルジャーになることは絶対条件。どれだけ鍛えようが、パンピーのままでは闇堕ち銀髪には届かないだろうと予想していたからだ。だからそのための準備として、肉体を鍛え抜き、その上で魔晄に親しむため、ニブル山の山中で魔晄に自らを慣れさせた。

 

 仮にもかつては(出来ない方の)サラリーマン。精神的負荷には割と慣れっこで、グロ耐性もモンスター君達が文字通り犠牲になってくれて身に付けた。だから神羅で言われるまで気付かなかったが、最初から魔晄を浴びた特徴である、瞳の変色が現れていた。毎日見てるせいで誰も気付かなかったのだろう。

 

 格好付けて夜中に飛びだした山中は割とモンスターパニックではあったが、そんなの関係ねぇ!と神羅までダッシュ。割と時間がかかったし、そもそも徒歩で行く距離じゃないということにソルジャーになってから気付いたが、そんなの関係ねぇ!

 着いて早々、神羅に自分を売り込むため、門番のソルジャー先輩(3rd)二人組に喧嘩を売り、これに快勝。凄い勢いでその後囲まれたが、諸手を上げてソルジャーになりに来た宣言。当時、まだ"副社長"じゃなかった男の目にとまり、本来通るべき道筋を全力でかっ飛ばして、ソルジャー、しかもクラス2ndまで上り詰めたということであった…あった…あった…。

 

 まぁ、いつだって上手い方向にばかり話が進むことはない。

 近道の代償は、それなりに高くついていたのだから。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 「クラウド、今日の報告をしたまえ」

 

 神羅本社の一角、幹部階にありながら、室内は比較的質素にまとめられたその部屋は、主の趣向を忠実に示している。几帳面に整頓され、無駄な装飾は一切なく、仕事に関わる物のみが支配している。室内に響き渡る打鍵音もまたしかり。

 忌々しくも魔晄によって明るく照らされた室内に、影は二つ。今もなお仕事をし続けている部屋の主である"ルーファウス・神羅"。かのプレジデント・神羅が一子だ。この男に、俺は拾い上げられた。

 

 

 

 ぶっちゃけた話、俺はやり過ぎたのだ。

 ゲーム的に考えると、一般人枠であるPTメンバーでもソルジャーとは戦えていた。つまり、ソルジャーって言ったって人間鍛えれば超えられるものだと。そのため、今回盛大な狼煙役として役立って貰った二人組を半ば遊び感覚でゴロゴロ転がしたうえで気絶させたのを、どうやら神羅は重く見ていた様子。もう随分と昔な記憶を攫ってみれば、自社の負債はもみ消すのが神羅流。やっちゃったものはしょうがないので逃げだす算段を立てていれば――この男、たったの一言でその場を制してみせた。

 

 『面白い。お前の希望通り、ソルジャーにしてやる』

 

 あとは恐ろしい程にトントン拍子だ。

 そもそも戦闘能力試験には合格していたようなものだったし、相手の二人もカスリ傷程度。むしろ良い拾い物だったとルーファウスが丸め込み、晴れてソルジャーとして、しかも2ndでかつ持ち込み装備を許される最高ランクの好待遇を得ることに成功したという訳だ。それ以外にもあらゆる面で権利を得ることに成功したわけだが、そんなことを、他のソルジャーが良く思うはずもなく、そしてそれが、ルーファウスの目論見の一つでもあった。

 

 

 

 ――自分の子飼いを最強のソルジャーに仕立て上げる。その道程の大幅なカット、それこそがこの好待遇の真の目的だったと、そういう訳だ。

 

 

 

 「へいへい。今日は3rdからは何もなかった。いつものザックス先輩と、知らねぇ2nd三人組をぶちのめしてやったくらい。あの面白1stはやっぱ、こっちの目論見見透かしてるみたいだぜ?」

 

 頭をかきながら、本日の成績を口にする。ここにきて最初の頃は暇していると見ればあらゆるソルジャーに挑まれたものだが、最近はめっきり減ってきている。それも当然かもしれない。奴らの財布を毟り取り過ぎたのだ。

 ルーファウスの計画、それは神羅カンパニーの社長に就任すること。自らの父親を叩き落とすことこそが、こいつの目的だ。現在のこの世界でほぼ最強に位置する会社のトップにこいつが就任するというのは、俺に取って悪い結果ではなく、むしろ良い方向に転がってさえいる。計画の過程で、こいつを多少なりとも矯正できれば、もしかすると最悪の状況は避けられるかもしれないからだ。

 

 だからこそ、俺は煽った。熱帯プレイヤーにはほぼ必須の技術である、煽りとその耐性。どちらも兼ね備えた俺に、自尊心高めの子供達をあったまらせることなど容易。別に楽しかったからではない。本当に。本当だって。信じてない目、してるね?(真顔)

 俺の待遇に不満のある連中をことごとく煽り、そして挑ませたうえで賭け試合。人は金を失えば、冷静さも失う。しばらくの間は大決闘フィーバーだった。その間に、欠けていた対人戦闘技術を盗み取り、ついでに懐もあったかくさせてもらうという一石二鳥。決して、決してお金の魔力に飲まれているわけではない。前世で味わえなかった、毎晩お姉ちゃんのお店飲み歩きなんて、決してやってない。絶対だからな!

 

 俺の言葉に、ルーファウスはその手を止めた。溜息を漏らして、こっちを睨みつける。肉体的な意味ではソルジャーには遠く及ばない癖に、やはり血筋からか凄まじい眼光だ。

 

 「ザックスというソルジャーの報告書は読んでいる。戦闘能力という意味では、今最も1stに近い男だろう。お前と戦う内に急激に伸びているとも聞いている。だが――奴は1stではない。お前の仕事はなんだ、クラウド」

 

 「あのオサレ銀髪越えだろ? 耳タコだよこっちは」

 

 セフィロス。世界の破壊者(予定)かつ、現最強のソルジャー。それは伊達でも何でもなく、ただの事実。あの長刀を振り回してるだけで破壊活動を行える災害を、俺は越えなければならない。それは、俺個人としては実力で。そしてルーファウスからすれば、名声で越える必要があるということだ。

 

 「1stを実力で越えたのならば、もはやお前に何かを言うものはいなくなる。実質的にソルジャーをまとめているアンジールを下せば、お前に文句を言う連中もいなくなるのは間違いない。むしろお前を囲い込もうと必死になることだろう。まぁ、遅いにも程があるのだが」

 

 机の上で手を組み、微かに笑みを浮かべる。この男、普段は社長の息子ということで遊び呆けている外面を作ってはいるが、その実あらゆる英才教育を受け、その本性は支配者の中の支配者。こういった冷たい笑顔も、本性の一つだ。

 優秀なのは間違いないのだが、恐怖で人を支配しよう等という行き過ぎた思想さえなければ満点の男。それが、俺から見たルーファウスという男だった。

 

 「ま、いいだろ。もうあの老け顔パイセンと戦う必要、なくなったんだから」

 

 それは、ソルジャー1stジェネシスがやらかした、ソルジャーの大量失踪事件が原因だ。ソルジャーの多くを攫っていったことにより、俺に任務を受けさせまいとする勢力にも限界が訪れているというわけで。そして、ウータイとの戦争の早期終結を望むトップの思惑もある。…対応なんてできるわけもなかったとはいえ、攫われていったソルジャー達へ罪悪感を感じてはいるのだが。

 

 「ふむ…。まぁ、運が味方したというのはあまり好みではないが、好機ではある。せっかくそれなりに無理をして、お前をウータイでの作戦において"B隊"に押し込んだのだ。……どんなやり方でも構わんが、成果を上げろ。いいな?」

 

 一週間後。現在魔晄の採掘権をめぐって戦争中であるウータイとの戦争において、王手をかけにいく作戦が始まる。それはザックス先輩もA隊として参加し――そして、英雄セフィロスも参加する大規模作戦。その中核となるB隊への参入だ。初任務としてはなかなかの大舞台。花形デビューまったなし。ただし、

 

 「わかってるっつーの。最悪、パツギンに下剤仕込んででも活躍したるって」

 

 「全く…まぁいい。自分のやることを理解しているのならそれで構わん――さて、仕事は終わりだ。行くぞ」

 

 「ヒャッホォォイ! さっすが未来の神羅カンパニー社長、そういうとこほんとすこ!!」

 

 「ふはは! 未来の社長、やはり良い響きだ。低俗な褒め言葉だが気に入った。よし、今日はあっちの店だ」

 

 「マ、マジかよ…。あの美人ちゃん揃いでおさわりアリアリの店にだなんて、やっぱ太っ腹だぜ!!」

 

 「昨日みたいに脱ぎだすんじゃないぞ。さっさとそのダサい制服を着替えてこい、四十秒でだ」

 

 「了解だオラァ!!」

 

 

 

 未来への希望が見えたことで、テンション振り切って、

 毎日毎日が楽しかったからこそ、

 至極簡単なことにも気付いていなかったのだ。

 それが明らかになるまで、あとほんの僅か。

 

 

 

 

 

 「俺がハンサムッ?!」

 

 「誰がそんなこと言った!? 脱ぐなと言っただろうが!!!!」

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 聖地巡礼。

 ここは言ってしまえばどこもかしこもFFプレイヤーにとっては聖地なわけだが、物語上重要な場所ともなればその価値も違ってくる。ここは、そう。クラウドとかもう一人にとって運命の場所である、教会だ。

 目の前にそびえたつ古びた教会は、立てられてからの年月に不釣り合いな頼もしさを感じさせる。昨日は飲み過ぎて身体がボドボドなので、本日は自主休業。サボりとも言う。

 

 ソルジャーになってから今まで、休みの日も誰かしらに突っかかったり、突っかかられたりしていたので、こんな静かな休日は随分と久しぶりだ。所詮はスラムの端で、人っ子一人いなければ景観もあまり宜しくはないが…。まぁ、聖地巡礼よ聖地巡礼。

 下心が無いとはいえない。ティファちゃんもやべー美少女だったけど、悲劇のヒロインも相当な美人さんであることが予想される。接触し過ぎるとどんな影響を与えるのかさっぱりわからない爆発物のため、仲良くなるという選択肢が最初からない。それなら最初から近付かなければ良かったんじゃね?なんてナンセンス。全部暇のせいだ(J○並感)。

 

 古びたドアを木が軋む音を鳴らしながらゆっくりと開ける。そこから鼻につく埃の臭いと、そして、

 

 

 

 ――この世の物とは到底思えない、絶景がそこにあった。

 

 

 

 天井に空いた隙間から差す光が、目の前の開けた空間の中央を照らし、そこに在るものをつまびらかにしている。花々は力強く咲き誇り、村を出てからついぞ嗅いだ記憶のない香りが郷愁を誘う。そうして、そんな花々の前に跪き、祈りを捧げる少女が一人、そこにはいた。

 ティファちゃんも相当な美少女だったが、目の前の彼女も決して負けてはいない。ティファちゃんとはある意味真逆のイメージではあるが、薄幸の美少女とはこういうことを言うのだろうと、少ない語彙でそんなことを考えていた。

 

 どれほど、彼女のことを見ていたのか。気が付けば彼女は立ち上がり、後ろに手を組みこちらを不思議そうに見つめていた。ヤバい不味い叫ばれたら終わるルーファウスに怒られる不味い不味い不味い――と、前世で食らった無実のストーカー容疑により拘束されかかったトラウマが蘇り、滝の様な汗を流し、

 

 「ね。何で私を見てたの?」

 

 そうやって、笑顔で俺に近づいてそんなことを言う。 その顔に嫌悪感は感じられず、大丈夫だこれ、訴えられない奴やでと心の中で大きく溜息を吐く。安堵しきった俺は、頭が回らないまま、正直に思ったことを話す。

 

 「いや、随分と絵になるなって思ってね。古ぼけた教会に花畑。その前で祈る美少女。正直盛りすぎだけど、いざ目の前でやられるとガン見しちゃうさそりゃ」

 

 「うーん、何が盛り過ぎなのかわかんない。けど、悪い気はしないから、きっと褒められてる、んだよね?」

 

 「せやで」

 

 「何それ、変な口調」

 

 くすくすと、控えめに笑う彼女は、気取っていないのに妙に上品だ。その姿は、都会でヨゴれちまった俺をドンドコ浄化していく。しゅごい、古代人ハーフしゅごい。浄化されすぎて色々なことを思いだして罪悪感がマッハだが、冷静になった頭にこれ以上ここにいるのは危険と判断された。

 

 「ま、良いもの見せてもらったお礼といっちゃアレだけど、こいつを進呈しよう」

 

 とりあえずさっさとこの場から離れるために、俺はたまたま(誰かが社内に隠してて)見付けた、瓶に入った液体を進呈することにした。自分で持ってても絶対に使わないとわかっているからだ。その名は――エリクサー。もったいなさすぎて、結局原作ではただの一度も使ったことがなかったし、今後使わないといけないタイミングに仮に陥ってしまったとすれば、それは俺が死ぬ時だろう。

 無理矢理押し付け、別れの挨拶を一つ残してそのまま身体を翻し出口へと向かう。ちょっと変なテンションになってしまったので、今日は自腹でどっか行くかと扉を開ける直前、

 

 「私、エアリス。貴方は?」

 

 お、これ運命感じさせちゃったか。いや、ないか。ないな。たかだか名前を聞かれただけで舞い上がった気持ちを抑え、ここで名前を知られることのリスクを考えた結果、

 

 「ジョー・ギリアン、へぼ会社員さ」

 

 しょうもない思い付きから脳裡を過った偽名を残し、街をつつむMidnight fogへ向かう。扉が閉まるまで、手を振られ、見送られた。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 ああ、糞。

 先程受けた任務の詳細が、いつまでも頭を離れない。よりにもよってな内容で、個人的には泣きっ面に蜂の気分で、スクワットすらする気になれなかった。窓際に寝ころんで天井を眺めながら、少しの間瞳を閉じた。

 

 

 

 あいつ、クラウドが新人として入ってきてしばらく、模擬戦とは名ばかりのいじめがソルジャー内で随分と流行っていた。そのことに気付くのが遅れてしまって、すぐにでも止めなければと行動を起こしたのだが、実際は違っていた。どっちかといえば攻めているのはクラウドで、サンドバックにされているのは挑戦者側。その光景を見た時は思い切り勘違いしていた羞恥心と安心からか大爆笑していたものだが、しばらく対戦風景を見ていれば、これは燃えずにはいられないと、そう思わされる光景があった。

 

 ファイアはロングソードで真っ二つ。

 ブリザドは相手に打ち返す。

 サンダーはその射線に合わせて、地形からはぎ取った何かで相殺。

 銃弾の雨は全て斬り裂かれ、時にはバスターソードを盾に受けられる。

 近接攻撃など巨大質量で一蹴だ。

 

 これが同じソルジャーといえるのか。まるでそう、ソルジャー1stの戦闘風景を見ているような、現実味の薄い光景が目の前に広がっているのだ。それを見てしまえば、挑まずにはいられなかった。ま、当たり前のように負けたけど。

 新人に負けるようでは英雄には程遠いと、それから何度も何度も挑み、財布の中身がすっからかんになって、昼飯をかけて対戦だなんてレベルにまで落として貰いながらも挑み続けた。その全てで、ただの一度も有効打を与えたことがない。だからほんの少しだけ、柄じゃないとわかっていても、テンション下がり気味だった。

 

 そのせいか、念願の実戦任務が来たことにも、あまり喜べないでいる。そもそもその任務にクラウドも参加しているし、揚句こっちとは違ってB隊だ。確かに実力の上ではあちらが上であることは認めるが、まるで一生勝てないと突きつけられたように感じていて、腹の奥にたまった黒いものはそのかさを増した。

 

 

 

 「――ああやめだやめだ!」

 

 いつまでもうだうだ悩んでいるのも自分らしくない。いきなり叫んだ俺を、何が起きたとばかりに同じ部屋にいた同僚が驚いた顔をして見てくるが、それを全部無視し、訓練場へと走る。

 事実として、俺はあいつより弱い。あいつは年下だけど、話を聞く限りソルジャーになる前からモンスターとやり合ってる。それはつまり、俺よりずっと経験があるってこと。だったら、あいつよりもっと努力しなきゃ追いつけっこない。最近は夜になるとあいつを拾い上げたお偉いさんと遊び歩いてるって話だし、いつかきっと乗り越えられるはず。

 

 考えるより先に、まず動く。それは戦闘者としてどうなんだと、よくアンジールに怒られるところだけど、まぁ日常生活には関係ない話だろってエレベーターに駆け込み、訓練場がある階に辿りついてみれば先客がいて――そしてそれは、クラウドで、

 

 

 

 

 

 「――なんだよ、これ」

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 前方狼型五、後方鳥型四。全体違わず攻撃行動、鳥型は二体のみ魔法の準備が見受けられる。それ以外は全て突進行動。距離及び突進速度に違い有り。先行する狼型の鼻先への踏み込みを準備及び攻撃へ、右足からの加重への反発ベクトルを腰部にて回転、背後の鳥型二体を大剣で斬り裂き、その勢いのまま前方の狼を斬り裂きながらすくいあげ、後方から詠唱完了した雷撃へと投げて避雷針とする。左腰の剣を後方へ突き出して狼型を頭部から貫き、西方より来た車両からの砲弾を、横軸に回転しながら引き戻した大剣を盾に逸らし、最終二体へと跳弾させ、モンスター殲滅完了。

 

 ファイラを起動し車輌方向へ身体を射出。追う様に撃ちこまれるマシンガンを大剣で受け止め、空中で回り続ける身体を停止させ、大剣を右手で振り上げ、射撃を剣で斬り、弾き、逸らし、大剣を振り下ろす直前で――車輌より飛びだしたソルジャー1stによる大斧を大剣で受け止め、吹き飛ばされる。

 

 体感数十メートル程吹き飛ばされながら、大地に接触する直前で大剣を地面へ突き刺しベクトルを停止させつつ、持ち手を起点に飛び上がって追撃の砲弾を躱し、その次弾および次々弾を剣にて斬る。空中に飛び上がったまま周囲を確認すれば、周囲約十メートルを囲むソルジャー1stの群れが突如地面より迷彩を解いて起き上がり、一斉に魔法の詠唱―恐らくサンダー系―を開始し、間に合わないと判断しこちらも詠唱開始。魔法の発動は同時に行われ、サンダガが周囲一面より降り注ぎ、それを周囲へ展開したブリザラで軽減。着弾と同時にヘイスト詠唱開始。ブリザラと共に大地へ着地し、ヘイスト起動状態で最高速でブリザラを肩当てにてぶち破り、

 

 「――ふっ…!」

 

 呼気を一つ、跳びだし追撃に袈裟掛けに振り下ろされた剣の根元を斬り裂き、剣を突き刺し突進。そのままの勢いで反応されるより早く大剣を振り抜きソルジャー三人を二つに分け、包囲を脱出しながらトルネドを詠唱開始し、遅れてヘイストを起動し背後からの槍二本を振り向きながら突き刺したソルジャーの身体で受けながら反転し、トルネド起動。必殺技は叫んで打つのが様式美、であるため、

 

 「"偽・画竜点睛"」

 

 突き刺したソルジャーを蹴り飛ばしながら剣を収め、周囲へと起動した竜巻へ大剣を巻き込ませて高速回転。回転速度を上げ、本来のトルネド以上の速度を与えながら続けざまに飛んでくる攻撃への盾とし、空中まで飛び上がりながら回転して最高速に到達したところで、これを放つ。後背部を斬り裂きながらそれを抜ければ、竜巻は少し進んだところでその威力を全て周囲へと拡散させ、周囲数十メートルを全て斬り裂き、車両は爆発し、ソルジャー集団は見るも無残な姿になりはてた。

 

 消費し過ぎたMPを回復するため、一旦落ち着こうと意識を緩めたところで――ボスキャラであるセフィロスが、自分の更に上空から突きの姿勢で突撃。大剣は間に合わないため、左腕を突き出して貫かせ、長刀を握りしめて追撃を止め、大剣を振り上げたところで、左腕から剣を引き抜かれながら腹部へ右足が刺さり、大地へと背中から直撃。

 左腕を突き出した瞬間に開始していたケアルガで傷を塞ぎ、跳ね上がって追撃を躱し、振り向きながら大剣を両手で構える。左腕の握力が弱っていることに構わず、八双にて構え直し飛び上がるように突進。同様の構えで突進したセフィロスの長刀とまるで鏡合わせのように袈裟掛け振り合い、交錯した鋼が火花を散らす。

 

 斬り払って距離をとり、踏み込み切上。再びの袈裟掛けと滑るように交差し、手首を返して唐竹。それを半身ずらして避けたセフィロスの左手は拳を象り、腹部への追撃。振り切る直前に離していた左腕の肘鉄と膝にて拳を潰そうとするも、魔晄にて強化されていた拳は壊せず、同時に強化していたこちらの打撃と弾かれあって金属音を打ち鳴らす。先に復帰したセフィロスによる胴抜きを大剣を臍下にて握り、立てて構えた状態で受け止めつつ小手抜きを振り切り、

 

 

 

 ――訓練終了の音が、耳になり響いた。

 

 

 

 仮想で受けたダメージは直ちに回復し、周囲のVR空間はいつものように元の訓練場に戻っていく。暴れ過ぎたのか、訓練場の至るところに切断痕が残っているが些事だろう。そして訓練結果モニタを見れば案の上、失敗の文字がありありと浮かんでいた。訓練失敗理由は、仮想出血量が基準値を超え死亡したため、とあった。腹部への蹴りとそれによる大地への直撃。及び左手の傷が治り切っていないために継続的に出血し続けたのが原因。序盤のモンスターの大集団撃破の際のダメージが大きかったことも理由に挙げられていた。

 

 結局また届かなかったとその場に寝ころび、

 

 「ぐへぇ…。まーた負けちまった」

 

 と、独り言を漏らし、その場で目を閉じれば――その瞬間に意識は消え去った。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 あまりにも凄まじすぎる訓練内容は、目を疑う代物だった。

 訓練内容は最高難易度――とされていたものを軽く超えた、異常設定値が記されている。ミッション内容は"神羅カンパニーの機密を盗んで逃げたソルジャーとして偽り、偶然出くわしてしまったモンスターの大発生を一人で食い止め更に追手を撃破し逃げ切る"という、全くミッションの趣旨がわからないものだった。ただ難しい訓練を作るためにこじつけた様な理由だと思ってみていれば背後の扉が開き、

 

 「"内部に潜む神羅にとって致命的な裏切者を炙り出すために、一時的にほぼ全ての戦力を神羅カンパニーから正当な理由で遠ざけ、その僅かな時間をもって本命を討つ"というのが、隠された真意だ。読み取れたか? ソルジャー2ndザックス」

 

 そう言って入ってきたのは、ルーファウス・神羅その人だ。そしてその後ろから衛生兵が訓練場へと入り、クラウドを担架へと乗せて訓練場を出ていく。出ていった先に現れたのは、我らがソルジャー統括に、そしてアンジールだ。

 

 「いや、申し訳ありませんねルーファウス様。こちら側の要望を通して貰ってしまって」

 

 そう統括は張りつけた笑みを浮かべながら、ルーファウスへと頭を下げる。それに冷めた目で見るルーファウスは溜息を吐く。

 

 「よく言う。だが、これである程度の支払いは終わったと私は見るが、良いな?」

 

 「なんのことか皆目見当もつきませんが…それで良いかと、存じますよ」

 

 鼻息一つ。再び頭を下げた統括に目もくれず、ルーファウスは足早に訓練室を後にした。今、室内に残っているのは三人だけだ。頭を下げたままの統括は完全に閉まり切った扉を一度強く睨みつけてから、溜息と共に俺を見た。アンジールは腕を組んだまま目を閉じ、そのままの状態で口を開く。

 

 「これで少しは納得できたか、ザックス」

 

 眉間にしわを寄せたままそう言葉にするアンジールが何を言いたいのかわからない。は?と言葉にするまでもなく、統括は俺が理解していないことを理解したらしく、

 

 「ザックス。君がクラウドに対して劣等感を感じているのはわかっている。今度のウータイの任務でも、初の実戦でありながら陽動ではなく本隊であるB隊だ。私が君の立場なら、同じ気持ちを抱いていただろう。それを斟酌してくれたのさ、アンジールはね」

 

 「――あ」

 

 言われてみれば、アレを見るまで感じていたモヤモヤは既になくなっている。それもそうだろう。あのレベルの訓練内容を見せつけられてしまえば誰もが口を閉ざす。

 ソルジャーは実力至上主義だ。強い奴が偉い。だから英雄セフィロスは何をしても大抵のことは許される。弱い奴がいくら吠えたところで何一つ斟酌されないのがこの業界だ。さっきの訓練はいっそ憧れるほどの光景で、才能だけに胡坐をかいてきたわけじゃないというのが、同じ剣を振る者としてありありとわかってしまった。だから今後、クラウドに一切悪い感情を持つなんて出来そうになくて、むしろ――憧れすら、覚えていた。

 

 きっとアンジールはわかっていた。俺がモヤモヤしてる最中、ずっと考えたままでなんていられないことも知ってた。だからきっと、あの訓練場でクラウドが訓練してる風景を俺に見せるために、統括やあのルーファウスにも頭を下げた。

 

 下げて、くれたのだ。

 

 それがわかって、慌ててアンジールの方を見て礼を言おうとすれば、アンジールは片目だけ開けてニヤリと笑う。

 

 「ソルジャーは決して強さだけが全てではない。クラウドを外から見れば、ただ強いだけの横暴な愚か者に見えるだろう。だが、そんな見た目はあいつらが…いや、お前達から見えているだけの側面だ。その裏側に一体どの様な過程があり、そして思惑があるのかは結局、当人以外には与り知らぬことだ」

 

 だから、

 

 「クラウドのことなどお前には関係のないということだ。今回はたまたま少しだけ裏側の事情が見えたが、本来はこんなもの見えないのが世の常。故に、お前自身の心持を他人に委ねるな。お前の行く先は、お前が決めろ。良いな?」

 

 俺の肩に手を置き、優しい両の目が俺を見る。

 

 「俺の道は…俺が、決める?」

 

 「そうだ。なるんだろう? 英雄に。ならその悔しさも踏み越えた先こそが、お前の道だ。他人と自らを比べて、腐っている暇はないだろう?」

 

 「ああ…。ああッ! アンジール、サンキュー!!」

 

 そういって、アンジールを大きく笑って見返した。それを良しとしたのか、俺の頭を乱暴に撫でつけ、アンジールは振り返ってその場を後にした。統括も満足げな顔で頷いてアンジールの後を追う。

 

 この訓練場に、今は俺一人。誰も見届けてくれる人なんていない。

 だけど、胸に着いた火は消えそうにないから、訓練場の扉を勢いよくくぐり、今までに受けたことのある訓練よりも難易度の高い訓練を選び、スタートを叩く。

 

 VR空間は展開され、見たこともない光景が目の前に広がっていく。それを眺めながら、ふとクラウドに言われたことを思いだしていた。

 

 ――ソルジャーのスクワットなんて欠片も意味ないっしょ。そんな暇があったら得物を振り回さなきゃ。

 

 ついこの間まではまるで受け入れる気が起きなかったこの言葉も、今では素直に受け入れられるなと、笑みを浮かべて訓練相手へと吶喊した。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 いつまで、こんな光景を見続けなければならないのだろう。

 いつまで、こんなことを続けなければならないのだろう。

 

 もう誰も彼もが結末を理解しているというのに、誰一人として受け入れようとしない。そのせいでいつまでも続くこの怨嗟の中を、"私"はいつまで彷徨うのだろう。

 

 ああどうか、今だけは祈らせてください神様。

 私を生贄に叶うのならば今すぐにでも。

 

 だから、

 

 この凄惨な地獄を、

 吹き飛ばしてくれる"神風"を、どうかこの地にもたらしてください。

 

 

 

 

 

 





今回も割りと早足でしたが、
ソルジャー編はそれなりに長い予定なのであんまり関係ないかと思う次第。

早足にも(一応)理由はありますが、
それは完全に明らかになった辺りで一つ。

で、次回からですが、
資料をそれなりに探してみても納得出来る量の資料が拾えなかった結果、
かなり自己解釈を突っ込んだウータイ戦争編やります。

なんか前回も書きましたが、
次回もハイパーやりたい放題なのでお気を付けください。

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