勇者であるシリーズの良さはなんでもない日常の尊さが一つだと思うのでこの作品でも日常の尊さとか優しさとか書けたらなって思ってます。 ただの日常にもそれ自体に意味があるみたいなの好きなので。
関係ないけど花結いの章29話はまだですか……(全然日常じゃない)
「………おはよう」
「おはよう…」
目を覚ますと若葉がいた。…今度は前よりはまともに話せるだろうか?
「…よく眠れたか?」
読んでいたであろう本を閉じつつ言葉をかける若葉。俺が寝起きだからだろうか。それとも早朝だからか。なんだか妙に温かさを感じた。
自分でもよくわからない温かさが胸の中にじんわりと広がっていった、そんな気がした。
「……………」
「?」
そんな俺を見て不思議そうに首をかしげる若葉。それが不思議と面白くてクスッと笑ってしまった。
「お、おい。なぜ笑う?」
「いや、いいんだ。–––うん、気にしないでくれ」
「そう……か?」
朝っぱらから不審がられてちゃかなわないしな。
「にしても、若葉って早起きだよな。昨日もこんぐらいの時間に来てくれてたと思うけど」
「んーまぁ慣れてるからな」
「鍛錬のため、とかか?」
「そうだな。毎朝の鍛錬はもちろんのこと立場上色々とすることも多い」
「…だよな」
『だったらなんでわざわざ病室まで来てくれるんだ?』
そんな言葉が口から出かかって引っ込めた。今はまだこうして会いに来てくれているだけで十分有難い。それを感謝することが精一杯だった。
「……………」
俺は二日前に若葉と気まずい雰囲気になってしまった。昨日なんかは挨拶以外は一言も会話をすることはなかった。
でも今はそれなりに普通に話せている。それが今、この瞬間『不思議』なとこに感じた。言ってしまえば人間関係なんてそんなもんである程度時間が経てば水に流れることの方がずっと多いのかもしれない。だからこれもそうなだけ。
誰かがそう言えばもしかしたら俺は納得するだろう。
–––––でも、水に流しているものが決して流してはいけないものかもしれない。そう考えるとどうしようもない不安感が突如として押し寄せてくるようで怖かった。
情緒不安定ってのはこんな状態を言うんだろうなぁとぼんやり考えた。そもそも目覚めてから情緒が安定していた時なんて今のところないのだが。
「おい、……大丈夫か?」
「んぁ……あ、悪い。まだ寝ぼけてるかも」
若葉が心配そうな顔で問いかける。俺は多分笑って答えられていない。
こんなんじゃ伊予島と土居になんて言われるかわかったもんじゃないな……そもそもなんで俺はあいつらに何か言われることを想像しているんだ?友達だから?去り際に変なこと言われたから?
『絶対若葉さんのこと幸せにしてくださいね』
…変なこと言われたからだな。間違いない。
「すまない、流石に二日連続でこんな早い時間に来られては迷惑だったな」
「いやそうじゃなくてだな、うん、来てくれるのは嬉しいんだぞ。本当に」
「だが私が早い時間に来るせいでお前が早く起きなければならないという強迫観念に苛まれている可能性も…」
「いや考えすぎだから!?」
「む、ここは病院だぞ。静かにしなくてはダメじゃないか」
「え?今の俺が悪いの?」
「いや––悪いのは私だ。ふふ、冗談だよ」
「っ………」
「ん?」
冗談だよって言った時の若葉のしてやったりみたいな顔がはっきり言うとめちゃくちゃ可愛くて危なかった。気持ち悪い反応するところだった。とっさに顔を晒して正解だったぜ。
今絶対ニヤついてるもん。
「?」
しかも本人絶対わかってないで無意識にやってるんだろうから余計にタチが悪い。別に若葉には一切非はないがそれでもこれはタチが悪い。
春のことを思い出して二重の意味でクリティカルヒットだ。あいつもよく俺に対しイタズラしてはしてやったりみたいな顔をしていた。基本的にどれも成功してなくて勝手にそんな顔してるだけだったのが逆に面白かったのを覚えている。
「暦?なぜ目をそらす」
「そういう気分なんだろうなぁって感じじゃないかな?」
「自分のことなのに『じゃないかな?』なのか」
「なんだよ」
「ふむ。そういうものか」
納得しやがった。こいつ天然だぞ!絶対!
「そうだ。暦に渡したいものがあるんだった」
「へ、へぇ〜なにぃ?」
「この置き手紙を見る限りおもしろいと思ってくれたようで何よりだ。持ってきて正解だったな」
そう言って若葉はそれなりの量の本を取り出した。
「ちょっとした暇つぶしにでもなればと思ってな。いくつか持ってきたんだが…」
それを手にとって確認してみる。どうやら昨日置いていってくれた恋愛小説の続刊のようだった。これは素直に嬉しい。
「あの小説面白かったから嬉しいよ」
「そうだろう!そうだろう!あれは私がこれまで読んだ中でもかなりオススメのやつでな!」
「む、ここは病院だぞ若葉。静かにしような?」
「ぐぬ…先ほどのお返しというわけか」
どこか悔しそうに目を細めら若葉。
「恋愛小説以外のもあるんだな」
見てみるとアウトドア関連の本が何冊かあった。
「こういうの好きなのか?」
「あぁそれはだな–––元々私の仲間が好きだったんだ。それで色々と話を聞いていくうちに私もおもしろいと思ったりしてな」
…土居のことか。多分だけど。
「まぁわかるよ。俺もキャンプとか結構小さい頃してたからな」
「それを聞いたらきっと喜んで私の仲間も誘っただろうな」
脳裏にチラチラと浮かぶかつての光景。活発な春とそれに何だかんだニコニコしながらついていく桜、釣りをしたり山菜を採ったり料理をしたりして楽しんでいるあいつらを見るのが好きだった。
「懐かしいな」
ダメだな、つい感慨深くなってしまう。
「…恋愛小説も元々興味なんてさらさらなかったんだ」
「…それも仲間か?」
「あぁ、今の私があるのは仲間たちのおかげだ」
そう––はっきりと断言する若葉の横顔はとても凛々しく言ってしまえばカッコよかった。女の子に対してそう思うのはどうかとも思うには思ったが思ってしまったのだから致し方ない。
でも本当にそう思ったのだ。こんな人だからが勇者になるんだな、こんな人だからみんなの尊敬を集めているんだなって。
でもそれと同時にかすかな嫌悪感–––––これは明らかに言い方が悪かった。でもそれと似たようなものではあるのだ。自分にはできないことが、若葉にはやれる。
勇者として人間としての差を見せつけられるようで何だか嫌な気持ちが湧いて出てくるようだった。
そしてそんな自分に対して自己嫌悪が生まれる。
–––––千景が話していたことが痛いほどにわかった気がした。彼女はずっと––ずっとこの気持ちに囚われ続けていたのだろうか–––
「ありがとな。大切に読ませてもらうよ」
かといって若葉の前でそれは絶対に出したくない。いわば意地みたいなものだ。
「そうしてくれ」
それに
わざわざこの笑顔を曇らせるような真似はあまりしたくない。
若葉ちゃんの幸せを願って書き続けてます。マジで若葉ちゃんは幸せになってほしい。
あとのわゆアニメ化してほしい。(絶対苦しいけど)
感想やらなんやら待ってます。