とある運命の聖杯探索   作:ラビット晴晞

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すいません。サボってました。
楽しみにしてくれた人が一人でもいるなら、読んでくれると嬉しいです。
しかし、ここで序章に区切りをつけるつもりだったんですけど、文章的に今回じゃないと思い、見送りました。次で冬木を確実に終わらせます。あと、次回から後書き茶番『カルデアこぼれ話』が始まります。かみことssから着想を得ました。
さぁ、どうなる第六話!!


決意の前に……記憶の跡に……

 思わず息が止まった。

 その姿を見違うはずもない。あの光景を─────忘れるはずはない。

 恐らくは一秒すらなかった刹那の記憶

 されどあの景色は、例えなにもかも忘れても鮮明に脳裏に浮かぶであろう記憶。それほどまでに鮮烈に、鋭利に記憶に……心に焼き付いているであろう光景。

 自分より多少低い身長。いや、本来はもっと差がついているはずだが17歳程度の身体で召喚されたせいであのときから殆ど変わっていない。

 

「それは俺か?それとも凛か?」

 

 少女は不意を突かれたようにこちらを振り向く。

 彼女も俺の姿に、息を呑んだようだ。それから数秒絶句していたので俺から話を切り出すことになった。

 

「懐かしい魔力を感じてきてみれば……お前だったのか、セイバー。久し振りだな」

 

 言った言葉に少女は目を見開く。なにかおかしなところでもあったかな、と頭を掻きながら苦笑いを浮かべると少女は涙ぐみながら声も返した。

 

「はい、本当に……お久し振りですね。シロウ」

 

「あのさ……アルトリア。感動の再開のとこ悪いが、なにも泣くことはないんじゃいか。なにも理解してない俺が言うのもなんなんだろうけど」

 

 口には出さないが、俺も同意見だ。俺と彼女はそれほど深い関係ではなかった気がする。確かに最後に彼女と話すことができなかったのは後悔ではあるが、泣かれるほどのものではなかったはずだ。彼女は涙を拭きながら答えた。

 

「すみません。つい感極まってしまって……」

 

 セイバーは俺に近づきながら続けて言った。

 

「貴方は、本当にシロウなのですか。あのときとまるで変わっていませんが……」

 

 そこまで言って彼女は、なにか申し訳なさそうな哀れみを含んだ眼で俺を見てきた。

 いや、この魔力から大体察しをつけくれるものだと踏んだが、さすがにセイバーの直感を以てしてもここまでの察しはつかないようだ。

 

「実はな、俺もサーヴァントなんだ。それでこの姿で現界してさ……だから、そんな哀れみの視線を向けないでくれ。さすがに傷付く」

 

「すみません。そうですか……貴方も英霊に……」

 

 いや、正確には守護者だけどな。と言いかけたが、それはセイバーも知っていることなので止めた。なにを言いかけたことに疑問の表情を浮かべるが、なにかを察したのかなにも言わなくなった。

 

「じゃあ、俺はもう行くよ。頼まれてることがたくさんあるから」

 

「はい、あの……」

 

「ん、なんだ」

 

「また、剣を……」

 

 俺は頷いく。

 

「あ、そうだ。セイバー、その格好じゃなにかと不便だろ。服を投影したから適当に着てくれ」

 

 そこから数分歩いて頼まれていたクーラー等の修理に加え、適当に茶菓子などを作って配っていくことを続けた。

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 俺がアルトリアにカルデアを一通り案内して、既に数分が経った。

 理由を説明すると、一通り案内してからアルトリアの着替えの場所を用意しようと俺の部屋に案内することになった。

 

「ふ、不幸だ……」

 

 カルデアに来てアルトリアを案内するまで、なにもないところで転ぶこと五回、転がる缶を見事に踏んで一回転して転ぶこと七回、という感じである。

 

「例えマスターとはいえ、自らの不幸を嘆くとは感心しませんね」

 

「いや、そうゆう訳じゃなくてさ。今日も不幸だ~、俺だ~、っていう確認……みたいな」

 

「どういうことですか?」

 

「俺、不幸体質ってやつ?なんか日常的にこういうことがあるんだよ。大きさはまちまちだけど、これが俺のアイデンティティっていうか……」

 

 アルトリアはそれでも分からないと、いわんばかりの顔でこちらを訝しげに見ている。

 俺も説明するつもりが、着地すべき結論に行けなくなり逃げるように言った。

 

「まぁ、わかってくれなくていいよ」

 

「……善処します」

 

 してくれなくていいけど……

 いや、むしろ同情や哀れみをを向けられるほうが困る。さっきも言った通り、別に気にしてないし『不幸だ』というのも自分が自分であることの確認なわけで……というか、もう完全に口癖と化してるよな。

 

「そういや……」

 

「なんですか?」

 

「士郎さんとはどのようなご関係で?」

 

 瞬間、空気が凍りついた。さ、寒いよー。

 しかし、凍りついた空気をアルトリアは気にすることなく言い放った。

 

「先程の会話で悟っていると思っていましたが、彼が私の昔のマスターなのです」

 

「どうリアクションすればいいかな。無言でいい」

 

「構いません。それより、着替える場所はどこでしょうか?」

 

 ─────────へ?

 

 今度こそリアクションに困る。来てから数時間程度しか経ってないし、ってかそもそも更衣室なんてあるのか。見た感じ部屋で着替えてるっぽいけど……

 

「じゃあ、取り敢えず俺の部屋に行くか。当たり前だけど、そこでは着替えるなよ」

 

「何故でしょう?」

 

 あのな、健全な男子高校生にそれ聞くやつがあるか、バカタレ!!

 

「あのな、健全な男子高校生にそれ聞くやつがあるか、バカタレ!!」

 

 声に出てた。

 

「って、ハッ。つい勢いで……悪い」

 

 アルトリアは一瞬、驚愕に満ちた表情を浮かべた。

 それは、すぐに微笑みへと変わった。

 

「こちらそこ申し訳ありません。思慮の浅い発言でした」

 

「いいよ、もう。気にしてないし……こんなグダグダな会話をいつまでもするつもりもないし……」

 

 言い終わる直後で、部屋についてしまった。

 取り敢えずドアを開けた。すると、誰かいた。そこには、俺に与えられた部屋のベッドで幸せそうに眠る御坂の姿があった。

 

「はぁ、なんで俺のベッドで寝てんだよ。悪い、今起こす。ついでに御坂の部屋で着替えてくれ」

 

「分かりました」

 

 セイバーは一言で答え、俺から一歩下がった。

 こりゃ、なんかめんどくさい日々になりそうだ。 俺はベッドの上で寝ている御坂に近付き、肩を揺さぶった。

 

「おい、起きろ御坂。お前なんで俺のベッドで寝てんだよ」

 

「ん……黒子。あと、5分」

 

「白井じゃないし、俺の部屋なんだからさっさと起きろ。頼みがあるんだよ」

 

「え……、えっと、え」

 

 起きたばかりの半目で目を擦りながら、周りを見渡している。そして数秒後、自分の置かれた状況をようやく理解した御坂はみるみる頬を赤くしていき……

 

「ふにゃー」

 

「漏電すんじゃねぇぇぇぇぇえええええええええええ!!もう、不幸だぁぁぁぁぁああああ!!」

 

 部屋の一部が焦げるほどの漏電をした御坂は五秒間気を失い、目を覚ますと無言で俺をポコポコ殴ってきた。擬音から察してほしいが、あまり痛くない。不覚にもドキッとしてしまった。

 

「おい、御坂。まず人の話を聞けって……」

 

「うるさいうるさいうるさい」

 

 全く関係ないが、後で聞いたが士郎さんが管制質でこの光景を見てなんとなく生前を思い出したそうだ。

 

「後ろに要る奴の着替えを手伝ってやってほしいだけなんだって」

 

「え、えっと、だ、誰」

 

「そっか、アルトリア。自己紹介してくれるか」

 

「はい、わたしはアルトリア・ペンドラゴン。トウマのサーヴァントです」

 

「えっと、ご丁寧にどうも。御坂美琴です」

 

 呆気にとられて反射的に自己紹介を返してしまった御坂が、何を思ったのか、俺を不機嫌そうに睨み出した。

 

「えっと……御坂さん。どうしたんでせうか?」

 

「別に……なんでもないわよ」

 

「じゃあ、アルトリアの着替えに部屋貸してやってくれ」

 

 御坂はそれを苦虫を噛み潰すように頷き、二人で部屋から出ていった。

 ……どうしたんだろうか。ベッドに座りながら考えてみる。

 

「どうしよう。暇だ」

 

 考えても分かるわけがない、なんてふざけた結論に達した俺が次に達した疑問は『暇』ということだった。

 

「ゲームなんて持ってきてるわけないし……携帯は圏外だし……」

 

 暇を潰す手段がない。

 そういや、ロビーになんかトランプとかオセロとかあったな。とってくるか。

 

「一人じゃできねぇ。いや、できるけどそれじゃ俺悲しいやつじゃねぇか。人がいたとしても俺負けてばっかで気まずくなるだけだし……結局なんも出来ないじゃん」

 

 一人ベッドの上でもがき転げ回っていると、ふと、思い出した。俺、ベッドで寝たことなんてあったけ。自分のいる高校の寮はあの禁欲なんて辞書から削除済みであろう暴飲暴食シスターが使っていたし、寝れたとしても病院のベッドだった。

 いや、それにしても……ベッドというものがこんなに気持ちいいものだったとはな……御坂が昼寝してしまうのも理解できる

 

「いや、それにしても……ベッドというものがこんなに気持ちいいものだったとはな……御坂が昼寝してしまうのも理解できる」

 

 声に出てた。

 もうそんなことはどうでもいい。このまま惰眠を貪ってやる。

 

「着替えが出来ました」

 

 ノックとともに聞こえた声で一瞬で我に帰る。立ち上がり答える。

 

「あぁ、いいぞ」

 

「「失礼します」」

 

「なんでハモるんだ」

 

 セイバーはいつも通り凛とした声で、御坂はさっきよりもっと不機嫌そうに入ってきた。

 

「どうでしょうか、トウマ」

 

「え、えっと、まぁ、似合ってます」

 

 似合ってはいる。白いYシャツに青いスカート、それだけなら単に地味な服装だ。しかし、アルトリアが着ると、その端正な顔立ちもあって、決して派手過ぎず、見事に調和している。

 なにスキル地味に羨ましい。

 

「いや、これ以上ない組み合わせだと思う。なんかご令嬢みたいだな」

 

「ありがとうございます」

 

 なんでそこで微笑む。

 そしてなんだ、その破壊力。普通の男子高校生なら理性崩壊が免れないような威力だぞ。

 次の一瞬、御坂から電撃の槍が飛んできた。右手で打ち消す。

 

「おい、御坂。なにしやがる」

 

「アンタがその子に鼻の下伸ばすのがいけないんでしょ」

 

「馬鹿野郎、あれにドキッとしない男がいてたまるか。むしろドキッとですんだほうがまだマシだよ。大体なんでそれで御坂が電撃を飛ばす必要があるんだよ」

 

「え、それは……その」

 

 御坂は頬を赤く染めながら、急に口ごもり、その数秒後……

 

「なんでもないって言ってんでしょ。このバカ!!」

 

 と言って平手打ちを噛ましてきた。多少帯電していたのかビリッとした。

 御坂はそのまま俺の部屋から出ていってしまった。

 

「古来より馬鹿と言った奴が本当の馬鹿と相場が決まっているのだ。で、言っていい」

 

「構いません。これには、さすがに……なにも言えません」

 

「それじゃ、遠慮なく……不幸だ」

 

 突然だが、管制室で偶然この様子を見ていた士郎はこう言っていたに違いない。

 

『二人って……案外似た者同士なんだな』

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 目が覚めると、見知った天井がある。

 だが、見慣れた天井ではない。ここは、カルデアでの自分の部屋だろうか。纏まらない思考と混乱した記憶をはっきりさせるために辺りを見渡す。

 

「よーし、キミは随分いい子でちゅねー。なにか食べる?木の実?それとも魚?」

 

 視界の端に入った女性がフォウと戯れている。

 なんか羨ましい。わたしもフォウと遊びたいモフモフしたい。

 

「んー、ネコなのかリスなのかイマイチ不明だね。でもいっか、可愛いから!」

 

 そうそう可愛いは正義だよね。

 可愛いの前にあらゆる常識など意味を為さないといっても過言じゃないよね。

 

「フォーウ……ンキュ、キュウぅ……」

 

 いまだにハッキリしない思考をふざけた考えで無理矢理起こそうとするとフォウが鳴きながら飛び付いてきた。うん、やっぱり可愛いは正義。モフモフしながら割と本気で考えていると、女性の方も近付いてきた。

 

「ん?おっと、本命の目が覚めたね。よしよし、それでこそ主人公というヤツだ。おはよう、こんにちは、立香。意識はしっかりしてるかい?」

 

「えっと、貴方は……?」

 

「ん~、まだ思考回路は戻ってないみたいだね。こうして直接話をするのは初めてだね」

 

 まぁ、直接会話するのは初めてだ。

 だって知らない人だし、と、今しがた女性に言われたようにぼやけた思考で思った。

 

「なに?目を覚ましたら絶世の美女がいた?わかるわかる。でも慣れて」

 

 微笑みながら、実にとんでもないことを言っている。

 しかし、絶世の美女という部分は否定しきれないし、それに言葉にも妙な説得力があり、顔をしかめているのを気にせず、女性は自己紹介を始めた。

 

「わたしはダ・ヴィンチちゃん。カルデアの協力者だ。というか、召喚英霊第三号、みたいな?とにかく話は後。キミを待っている人がいるんだから、管制室にいきなさい」

 

「待ってる人……?Drロマンですか」

 

「ロマン?ロマンも待ってるけど、あんなのどうでもいいでしょ」

 

 まぁ、そうですけど……

 流石に酷くないですかね?

 

「まったく。他にも要るだろうに、大事に後輩が。まだまだ主人公ってヤツがなってないなぁ」

 

「フォウ、フォウ!」

 

「ほら、この子だってそう言ってる。いい加減立ち上がる時だよ立香君」

 

 自分の言葉に相槌を打ったフォウを撫でながらダ・ヴィンチちゃんが言う。

 しかし、そんなことはどうでもいい。寝ぼけていた思考が呼び起こされた。そうだ、マシュが……大事な後輩は大丈夫なのだろうか。

 急に深刻になっていく私を見てダ・ヴィンチちゃんが続けて言った。

 

「ここからは君が中心の物語です。キミの判断が我々を救うだろう。人類を救いながら歴史に残らなかった、数多無数の勇者たちと同じように……英雄ではなく、ただの人間として星の行く末を定める戦いが、キミに与えられた役割だ」

 

 それを聞き終えると、そのまま走っていた。

 傷の痛みなんて気にならないほどにアドレナリンが出まくっていた。

 管制室まで5分もかからなかったと思う。

 

「……マシュ?」

 

「おはようございます先輩。無事で何よりです」

 

 マシュはわたしに微笑み、暖かい言葉で答えてくれた。

 ……よかった、本当によかった。

 

「おはよう、立香。無事で何よりだよ」

 

 そう言いながら、自分と同じ赤銅色の髪の少年が近付いてきた。

 

「おはよう二人とも。無事でよかったよ」

 

「コホン。再開を喜ぶのは結構だけど、今はこっちにも注目してくれないかな」

 

 わざとらしく咳払いをしながら、ロマンが近付いてきた。そのとなりには、黒いツンツンした髪の少年と、自分達が戦った黒い鎧のセイバーによく似た少女がいた

 

「紹介するよ。彼は本来存在し得なかった48人目のマスター上条当麻くんだ、そして彼女はよく知っているだろうが、本来のアーサー・ペンドラゴン。当麻のサーヴァントだ。彼らも一緒に戦ってくれる」

 

「上条当麻だ。俺も普通の高校生だから、よろしく頼むよ」

 

「う、うん、よろしく」

 

「自我を失っていたとはいえ、貴方たちに刃を向けてしまったことを謝罪します。申し訳ありません」

 

「いいよ。わたしは気にしてないし、むしろ心強いよ」

 

 気にしてないというところははっきり言って嘘になってしまうが、ここまで深々と謝罪をされてしまってはいささか思うところがある。それに、あれほどの強敵だ。味方であればこれ以上に頼もしい者はいない。

 

「取り敢えず、まずは生還おめでとう立香ちゃん。そして、ミッション達成お疲れさま。なし崩し的にすべてを押し付けてしまったけど、君は勇敢にも事態に挑み、乗り越えてくれた。その事に心からの尊敬と感謝を送るよ。キミのおかげでマシュとカルデアは救われた。所長残念だったけど……今は弔うだけの余裕はない。悼むことぐらいしかできない」

 

「…………」

 

 それは、わたし自身に向けられた言葉だった。

 しかし、所長の話で一気に重くなる。そんな中、語気を強くしたロマンが続けて言う。

 

「いいかい。ボクらは彼に変わって人類を守る。それが彼女への手向けになる」

 

 ロマンはそのまま語った。

 今からわたしたちが挑むミッション、そして……この物語の名を…………


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