「ん、いい香りだな……」
カップを手に取り、少し匂いを嗅いでから一口飲む。口に入って来た瞬間、ふわりと甘い花のような風味が広がる。自家製だろう。
「美味いな」
「ありがとう」
小さな事件が終わり、あれから幽香に家へ誘われて今に至る。
幽香も紅茶を飲み、それから俺を見つめて話してきた。
「まず最初に、お礼を言うわ。花たちを救ってくれてありがとう」
「いやいや、俺もあれは許せなかっただけだ。気にするな」
「そう言ってくれると助かるわ。私は風見幽香、花妖怪よ」
「俺は天城零、ただの長生きな旅人だ。ちなみに妖怪ではないからな」
「え?ならその翼は何なのよ」
「これか?能力で生やしてみた。いいだろう?」
そう言って片方の翼を少し折り曲げして動かして見せる。
「……変わってるわね。ここへは何しに来たの?」
「風見幽香を討伐に……」
「…………」
言葉を聞いた瞬間に殺気を出して睨み付けてくる。
「という名目で仲良くなりに来た。要は友達になりに来たんだよ」
「は?」
今度はその端正に整った顔を驚いたように崩れさせた。
忙しいな、百面相か?
再び紅茶を飲み、幽香の再起動を待つ。
「………え!?と、ととと友達に?」
「……なぜそんなに動揺する?」
「え?い、いや、だって…ねぇ?……私は今まで一人ぼっちだったし……それは友人には憧れてたけど………初めての……」
なんか顔赤くして俯いてごにょごにょ言い出した。
そうか……今までぼっちだったのか……
「遠慮するな。俺は花は襲わないし幽香のことも(友人として)大切にしたいと思ってるぞ?」
「ふぇっ!?た、大切にっ!?」
さらに急速に赤くなった。なるほど、今まで異性と…他人とこんなに話したこと無かったから緊張しているのか。
『(また増えたのね……)』
『(こんな短時間で二人も……)』
「(花達も嬉しそうにしてたし、声も聞こえるみたいだし……そ、それに私の事を大切にしたいって……!!)…そ、そう!な、ならお願いするわっ!!よ、よよろしくお願いしますっ!!!」
「はいよ、これからよろしくな。気軽に俺のとこにでも来たらいい。都の外れの家に住んでるから」
「え、ええ!ぜひ行かせてもらうわ、れ、れれ、れれれ零ッ!!」
なんでこんなにテンパっているのか……まあ、可愛いから良しとしよう。
それからは落ち着いた幽香が嬉しさのあまり泣き出して、それを慰めたりしていたが、概ね順調に事が進んだ。幽香に日傘も借りたし、少し戦いたいと言ってきたから戦ってあげたし。
勿論、勝ったぞ?
◇◇◇
二日後、ルーミアとアマテラスとのんびりしていたら紫の気配がした。
「では、私は戻りますね」
「ああ」
アマテラスが俺の中に入り、少し経ってから紫が家の中にスキマから出てきた。なんか可哀想だったので家の中はあってもいいことにしたんだよ。
「はぁい、零、ルーミア。お邪魔するわね」
「また来たのか」
「暇人ねぇ、貴女も」
「いいじゃないの」
まあ、別にいいが……っと、今度は幽香の気配がするな。
丁度いい、紫にも紹介しておくか。
「紫、これから俺の友人が来るから紹介するわ」
「…?友人?」
「ああ…お、来たぞ」
ドアを開けて玄関から来たであろう幽香が居間に顔を出した。
「こ、こんにちは?零。早速来たわよ……って、誰よ。そこの女二人は」
おっと、幽香が無表情に。ついでに紫も。
「紹介するよ。こっちが俺の式のルーミアでこっちが友人の紫だ。仲良くしろよ」
一瞬、三人の視線が交差した……気がする。
「「「(こいつ等…零が好きね…ならばライバル、負けるわけにはいかない!!少しキャラが被ってそうだし!!)」」」
あれ?なんだろうか…三人の視線の間にバチバチと火花が……?
そんなことを考えていると、幽香が動き出した。
「そうなの。私は零の友人の風見幽香よ。よろしく?お二人さん?」
そう言って俺の隣まで来て座ると、腕を絡めてきた。
「「あーーーー!!!」」
「ふふ…」
なんなんだ、一体。今度は紫が物凄く顔を真っ赤にしながら反対側にくっついてきたし……恥ずかしいならやるなよ。
「む…いいわよ、私はここにするから!!」
ルーミアが背中から抱きついてきた。なんかもう、甘い匂いやら女性特有の柔らかさやら押し付けられる胸やら……今日は何なんだ?
しかも実行しているのが普通以上の妖艶な美女達なだけにさすがの俺でも少しドギマギするんだが……。
「……はっ!?こ、これは……!?」
突如、ルーミアが背中から驚いたような声を出した。
「どうした?ていうか、離れやがれ。暑苦しい」
とりあえず二人を引き剥がす。
「もう、少しくらいいいじゃないの」
「そうよ」
「黙れ、スキマ娘。そのスキマうざいから埋めるぞ」
「どこのスキマよ!?心のスキマなら、もう零で埋まってるわよ?」
「何を馬鹿なことを……頭…さらに言うと脳ミソに決まってるだろうが」
「あれ!?そのネタまだ生きてたのッ!?」
「若いうちからそれだと、将来困るぞ。主にボケてくる方面で」
「それは嫌ね、というか若い何て初めて言われたわ……」
そりゃ長生きしてるだろうが、俺と比べるとなぁ……。
「んで?どうしたよ、ルーミア」
「……気持ちいい…文達とは根本的に違う手触りの羽だわ」
そう言って、羽に抱き付いて頬擦りしてくる。少しくすぐったいから止めて欲しいんだが。
あ、こら。引っ張るな、痛いだろうが。
「そうだろう」
なにせ、俺が意識してこうした訳ではないのだから。初めて触ったときは俺すら驚いたし。
寝る時に、痛くならない程度に身体の下に敷いたり上に掛けたりしている。
天然羽毛布団。グッジョブ、俺。
「ええ。今日の夜からこれに埋もれながら寝させてもらうわ」
まあ、別に二枚あるから一枚くらい構わないが。
『私も零さんの羽に触ってみたいです…』
幽香たちが帰ったら幾らでも触らせてやるから、それまで我慢してくれ。
「そんなに気持ちいいの?私も触らせてもらうわね」
今度は幽香が反対の羽をさわさわと触ってくる。くすぐったい。
「………本当ね。これは気持ちいいわ」
「そんなにかしら?それなら私も……」
隣に居た紫が羽に手を伸ばした瞬間、絶妙なタイミングで翼を動かして避ける。
紫の手は虚しく宙を切る。
「なんで避けるのよ……」
「別に?何となくだ」
「……………」
再び触ろうとしてくるが、また避ける。
手を伸ばしては避ける、伸ばして避ける…これを反対の羽に抱き付いているルーミアと幽香の隣で繰り広げていた。
翼は中々の大きさなので、二人くらいならなんとか大丈夫。
「………うぅ、なんで私にだけいじわるするのよぉ……」
あらあら、涙目上目使いで見てきやがった。子供みたい。
仕方ないのでバサッと翼を器用に曲げて紫を包み込む。
「ふぇ…?」
「触りたいんだろう?」
「うん……」
今度はふにゃっと顔を崩れさせながら触って来た。
「柔らかい………」
おぅ……なんだ、この可愛い生物は。このままずっと抱えていたくなる。普段大人っぽい奴がこうなると凄いな……ギャップが。
精神的に強くて何時も冷静かと思えば、意外と子供っぽいんだな。
まあ、俺がこいつ等より達観していて大人なだけかもしれないが。
微笑ましいねぇ……おっと、これじゃあ完璧に孫を見る年寄りだ。
まだ若く在りたい。
ギャップっていいですよね~